日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
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「ハァァァァァッ!!」
咆哮を上げながら雷を纏った戦斧を振り下ろすと、姉上は右手に握った黒い剣でその一撃を受け止め、間髪入れずに左手へ新たな剣を生み出して私の首筋へと振り抜いてきた。
「ぬぅッ!?」
咄嗟にムジョルニアを割り込ませて受け止めると、甲高い金属音と共に火花が散り、互いの武器が激しくぶつかり合う。
「……なかなかしぶといじゃない!」
「ハハハハハッ!!姉上こそ、流石だ!これほど打ち合っているというのに、まるで疲れた様子がない!」
「当然でしょう?私はアンタが生まれるよりもずっと前から、戦場で剣を振るっていたのよ?」
「それは実に頼もしい!是非とも、今度は私にも戦い方を教えてもらいたいものだ!」
「……はぁ?」
私の言葉がよほど意外だったのか、姉上は呆れたように眉を寄せた。
「アンタ、本当に馬鹿なの?今、私に殺されかけているのよ?」
「ハハハハハッ!!それがどうした!?己よりも強い者から学ぶ。当然のことだろう!」
「……本当に、誰に似たのかしら。」
心底呆れたように呟いた姉上は、何かを思い出したように鼻を鳴らす。
「まあ、少なくとも、あの男、オーディンではないのは間違いないわね。」
その言葉に、私は思わず首を傾げた。
「む?何故だ、姉上。」
「だって、あの男なら自分より強い相手に教えを請うなんて、絶対にしないもの。何が何でも自分が正しいと言い張るでしょうからね。」
姉上の言葉を聞いて父上の普段の振る舞いを思い返してみると、確かに否定できないところがあり、私は納得してしまった。
「確かに、父上はそういうところがあるな!」
「でしょう?」
「私も戦い方については随分と厳しく教えられたものだ!それこそ、戦士たるもの、敵を恐れるな!勇敢に戦え!などとな!」
「……あら。そうなの?」
「ああ!それなのに、いざ私がヨトゥンヘイムへ攻め込めば、戦いが全てではない!王たる者は平和を守らねばならん!などと言い出したのだ!」
その話を聞いた途端、姉上の動きがぴたりと止まった。
「……ちょっと待ちなさい。」
振り下ろされたストームブレイカーを弾き返すと、姉上は改めて黒い剣を構え直し、信じられないものを見るような顔を向けてきた。
「あのオーディンが、そんなことを言ったの?」
「うむ!それどころか、私から力を奪い、ミッドガルドへ追放したぞ!」
しばらく無言で私を見つめていた姉上だったが、やがて馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに鼻で笑った。
「……ハッ!何それ。自分で戦争のやり方を叩き込んでおいて、いざ実践したら怒るわけ?馬鹿じゃないの、あの男。」
「ハハハハハッ!!私も当時は納得できなかった!」
笑いながらムジョルニアを振るうと、姉上は黒い剣で受け止め、その勢いを利用するように踏み込んできた。
「そもそもね、アイツは昔からそうなのよ!」
怒りを込めた黒い剣が凄まじい勢いで振るわれ、私は二つの神器を巧みに使い分けながら、その連撃を受け止めていく。
「敵を殺せ!国を征服しろ!アスガルドの栄光を示せ!そう言って私を育てたくせに!ある日突然、征服は終わりだ!これからは平和を守る!ですって!」
「……なんと!?」
「それまで散々、私を戦場に送り込んでおいてよ!?いきなり方針転換するんじゃないわよ!!」
「むぅ……それは確かに、納得できんな!」
「でしょう!?」
同意した途端、姉上の剣が私の頬を掠め、僅かに遅れて鋭い痛みが走った。
「ぐぬッ!?」
「しかも、理由を聞いてもまともに答えないのよ!王としての責務だの、九つの世界の未来だの、偉そうなことばかり言って!」
「……ああ、それは分かるぞ!」
その言葉には大いに思い当たる節があり、私は戦いの最中だというのに、つい大きく頷いてしまった。
「父上は、真意を隠すことが多すぎる!」
「そうなのよ!」
「何か深い考えがあるのだろうとは思う!だが説明が、説明が本当にないのだ!!」
「それよ!!」
それまで皮肉や怒りを交えて話していた姉上が、初めて心の底から同意するように叫び、その剣を振るう勢いまで一段と増した。
「何千年も生きているくせに、他人に説明するということを覚えないのよ、あの男!!」
「ハハハハハッ!!全くだ!!」
全身から放出した雷が青白い奔流となって押し寄せるが、姉上は交差させた黒い剣で正面から受け止め、そのまま雷撃を切り裂くように踏み込んできた。
「そもそも、アンタは何で追放されたのよ!?」
「ヨトゥンヘイムへ攻め込んだからだ!巨人たちがアスガルドの宝物庫へ侵入してきたのでな!」
「……は?」
「戴冠式の最中だったのだ!父上は問題ないと言っていたが、アスガルドの威信に関わる問題だろう!?」
事情を説明すると、姉上は怒っているのか呆れているのか、何とも判断し難い表情を浮かべた。
「……それ、昔のオーディンなら、間違いなく軍勢を率いて攻め込んでいたわね。宝物庫への侵入なんて、宣戦布告と受け取ってもおかしくないもの。」
「おお!やはりそうか!」
「……まあ、だからといって、何も考えずに敵地へ乗り込むのは馬鹿のやることだけど。」
「ぐぬッ!?」
「そこはアンタも悪いわ。」
「……うむ。それについては、今なら反省している。」
「でもね、」
姉上は一度剣を引くと、大きく振り上げながら、それまで以上の怒声を響かせた。
「自分でそういう価値観を教えておいて、何の説明もなく真逆のことを求めるのは、教育としてどうなのよ!!」
「全くだァァァァァッ!!」
私も負けじと叫び返し、轟く雷鳴と共に二つの神器を振り抜くと、青白い雷と漆黒の刃が正面から激突し、凄まじい衝撃波が周囲へと広がっていった。
ーーーーー
「…………。」
父上は先ほどから無言を貫いているが、その隣に立つ私、ロキは、兄と姉が激しく戦いながら父親への不満を言い合うという、何とも奇妙な光景を眺めていた。
「……父上。私も、一つよろしいでしょうか?」
「……何だ、ロキ。」
せっかく兄上と姉上がこれほど盛り上がっているのだから、私も日頃から思っていたことを、この機会に言っておくとしよう。
「……兄上!姉上!父上は、肝心なことほど説明しませんよ!!」
戦場へ向かって大きな声を張り上げると、隣にいた父上が驚いたようにこちらを振り返った。
「……ロキ!?」
しかし、ここまで来たのだから、今更遠慮する必要もあるまい。
「……おお!そうだったな、ロキ!」
「……あら、そうなの?」
「ええ!私が何度尋ねても、時が来れば分かるだの、いずれ話すだの、そんなことばかりです!」
「……ああ。昔から変わらないのね、あの男。」
姉上が深く頷いてくれたことで、私の中に長年積み重なっていた不満が、次から次へと口をついて出てきた。
「しかも!!私がヨトゥンヘイムの王の息子だったことすら、千年以上も隠していたのですよ!!」
その言葉が聞こえた瞬間、姉上は再び動きを止め、今度こそ信じられないという顔でこちらを見つめてきた。
「……ちょっと待ちなさい。アンタ、霜の巨人なの?」
「ええ!生まれはヨトゥンヘイムです!」
「……それを、オーディンが育てたの?」
「そうです!ですが、その事実を教えてはくれませんでした!!」
私の話を聞き終えた姉上は、ゆっくりと父上へ視線を移し、その表情を一層険しいものにした。
「……アンタ、何やってんの?いや、敵国の王子を引き取って育てるのは良いわよ。昔のアンタなら絶対にやらなかったでしょうけど。まあ、平和とかいうヤツのためなんでしょう。でも、何で本人に教えてあげないのよ!?」
「……それは。」
「まさか、ずっと隠し通すつもりだったわけ!?」
「……いずれ、話すつもりであった。」
「……出たわね、『いずれ』。」
姉上は心底嫌そうに顔を歪め、まるで何千年も前から聞き飽きている言い訳を、再び耳にしたかのような反応を示した。
「……父上の得意技だな!」
「兄上!私もそう思います!」
「……ソー、ロキ。」
父上の声が僅かに低くなり、長年聞き慣れてきた、あの説教が始まる時の雰囲気が漂い始めた。
「父親を相手に、そのような物言いは感心せぬぞ。」
「……あ。」
少々調子に乗りすぎたかと思い、慌てて口元を押さえたものの、既に発してしまった言葉を取り消すことなどできるはずもなく、
「……つい。」
「……ハァ。」
私の返答を聞いた父上は、何かを諦めたかのように深く息を吐いた。
ーーーーー
「ハハハハハッ!!ロキも苦労したのだな!」
「……笑い事ではありませんよ、兄上!私は自分の正体を知った時、本気で自分が怪物なのだと、アスガルドの敵なのだと、そう思ったのですから!」
遠くから聞こえてくる弟の返答に、私は笑みを収めた。確かに、あの時のロキは随分と追い詰められており、私自身も弟の抱えていた苦悩を十分に理解できていたとは言い難い。
「……それについては、私も悪かったな、ロキ。」
「……いえ、兄上は……まあ、兄上ですから。」
「……どういう意味だ!?」
「そのままの意味です!」
何とも釈然としない返答だったが、詳しく問い詰める暇もなく、呆れたようにこちらを眺めていた姉上が再び黒い剣を振るってきたため、私はストームブレイカーでその一撃を受け止めた。
「それにしても……アンタたち、随分と甘やかされて育ったのね。私なんて、方針が変わったことに異議を唱えたら、封印されたのよ?しかも、何千年も。」
その言葉に、私は返す言葉を失ってしまった。何千年もの間、たった一人で封印されていた姉上の心情など、私には想像することすら難しい。
「……姉上。それは、父上がやり過ぎだと、私も思う。」
私がそう答えると、姉上は皮肉げな笑みを浮かべ、積年の恨みを吐き出すかのように言葉を続けた。
「……でしょう?自分の言う通りに戦っていた娘が、今度は言うことを聞かなくなった。だから封印する。……実に分かりやすい教育方針よね。しかも、その後は私の存在そのものを隠したのよ?肖像画も歴史も、綺麗さっぱり消し去って。アンタたち、最近まで、私が存在していたことすら知らなかったんでしょう?」
「うむ!その通りだ!」
「……胸を張って言うことじゃないわよ。」
姉上は私の返答に呆れたようなため息を漏らし、どこか自嘲するような笑みを浮かべた。
「……まったく。自分に都合の悪い過去は全部隠して、綺麗な歴史だけを子供たちに教える。何が賢王オーディンよ。」
その言葉を否定することはできず、私は姉上の顔を真っ直ぐに見つめながら、静かに頷き返した。
「父上は、確かに多くのものを隠してきた。姉上のことも、ロキのことも、かつてのアスガルドのことも。」
「……そうよ。」
「だが、姉上。」
私はストームブレイカーを握り直し、改めて目の前に立つ姉へと向き直った。
「一つだけ、言わせてくれ。父上は、間違いなく多くの過ちを犯したのだろう。だが、それでも、私たちを愛してくれていたことも事実だ!」
その言葉を聞いた姉上の目が、僅かに細められた。
「……愛、ね。」
「ああ!少なくとも、私はそう信じている!」
「……ふぅん。」
姉上はしばらく無言で私を見つめていたが、やがて先ほどまでとは明らかに異なる、どこか冷たさを含んだ声で口を開いた。
「……まあ、アンタたちにはそうだったんでしょうね。」
その言葉に込められた感情を察し、私は口を閉じて続きを待った。
「……でもね、ソー。愛しているからって、何をしても許されるわけじゃないのよ。」
「……うむ。それは、そうだな。」
私が素直に頷いたことが意外だったのか、姉上は少しばかり目を見開いた。
「あら?反論しないの?」
「何故だ?姉上の言うことは正しいだろう!父上が私たちを愛していたことと、姉上を傷つけたことは、別の話だ!」
「……アンタ、本当に変な奴ね。」
少々困惑したように眉を寄せた姉上だったが、それ以上は何も言わず、改めて黒い剣を構え直した。
「ハハハハハッ!!よく言われる!」
「……でも、だからといって、私は簡単に許すつもりはないわよ?」
「無論だ!だからこそ、まずは父上に謝ってもらわねばならんな!」
「……は?」
私の返答が予想外だったのか、姉上は目を瞬かせ、先ほどまでの険しい表情を崩してしまった。
「うむ!姉上の話を聞く限り、父上には随分と謝らねばならぬことがあるようだ!」
「……いや、アンタ。」
「私も、昔のことを思い出せば、色々と言いたいことがある!ロキも、そうだろう!?」
そう言って弟のいる方角へ声を張り上げると、間髪入れずに力強い返答が聞こえてきた。
「……ええ!山ほどありますとも!!」
「……ロキ。」
再び父上の低い声が響き渡り、遠くにいるはずの弟が、何故かこちらからでも分かるほど気まずそうな顔をしていた。
「……つい。」
「……二度目だぞ。」
「申し訳ありません、父上。」
「ハハハハハッ!!決まりだな!」
「……何がよ?」
「この戦いが終わったら、家族で話し合おうではないか!」
私の提案を聞いた姉上は、怒るでも笑うでもなく、何とも形容し難い表情を浮かべていた。
「……アンタ、本気で言ってるの?……私が、あの男と?」
「当然だ!」
「……アンタたちとも?」
「無論だ!」
「……はぁぁぁぁ。馬鹿馬鹿しい。何千年も封印されて、ようやく自由になったと思ったら、今度は弟から家族会議に誘われるなんてね。」
「ハハハハハッ!!姉上も、まさかこのようなことになるとは思わなかっただろう!」
「……思うわけないでしょうが。」
姉上は深いため息を吐きながら黒い剣を肩に担ぎ、遠くでこちらを見守っている父上へと視線を送った。
「……それに、あの男が素直に謝ると思う?」
「……むぅ。」
私は少しばかり考えてみた。あの父上が、己の過ちを認めて素直に頭を下げる姿を想像しようとしたのだが、どうにも上手くいかない。
「……どうしたのよ?」
「姉上。……正直、想像できんな!」
「でしょうね!!」
姉上は勢いよく叫び返してきたものの、私の返答がよほど可笑しかったのか、とうとう堪えきれなくなったように笑い始めた。
「ハッ、ハハッ!……本当に!本当に、アンタは馬鹿ね!」
「ハハハハハッ!!姉上も大概だと思うぞ!」
「……はぁ!?何で私が馬鹿なのよ!?」
「父上の悪いところをこれほど知っているのに、今まで誰にも愚痴を言えなかったのだろう!?」
「……ッ!?」
思いがけないことを言われたとでもいうように姉上が目を見開いたので、私は構わず言葉を続けた。
「ならば、これからは私が聞こう!ロキもいる!母上も……いや、母上には少々刺激が強いかもしれんな!」
姉上はしばらく私を見つめていたが、やがて何かを諦めたように額を押さえた。
「ああ、もう。……本当に、何なのよ。」
小さく呟いた後、姉上は再び黒い剣を構え、先ほどまでとは少しばかり違う笑みを浮かべた。
「……良いわ。まずはアンタを叩きのめして、それから考えてあげる。」
「ハハハハハッ!!望むところだ!」
私もストームブレイカーとムジョルニアを構え直し、全身を駆け巡る雷の出力を一段と高めていく。
「だが、姉上!もう一つ、私の愚痴を聞いてくれ!」
「……まだ何かあるの?」
「うむ!父上は、私が王に相応しいかどうかを試すと言いながら、その試験内容を一切教えてくれなかったのだ!何をすれば良いのかも分からぬまま、勝手に失格にされたのだぞ!?」
その話を聞いた姉上は、今度こそ呆れ果てたとでも言いたげに、ゆっくりと父上へ視線を向けた。
「……アンタ、本当に『説明』する気がないのね。」
「……ヘラよ。その件については、ソー自身が答えを見つけたのだ。」
「……だから!!そういうことを最初に説明しろって言ってるのよッ!」
怒声と共に黒い剣が振り下ろされ、その刃は、話題の中心である父上ではなく私へと向かってきた。
「ハハハハハハッ!!全くだァァァァァッ!!」
私は全身全霊を込めてストームブレイカーを振り上げ、姉上の一撃を正面から迎え撃つと、もはや何度目かも分からない青白い雷と漆黒の刃の激突が、アスガルドの大地を再び震わせた。
ーーーーー
「…………。」
オーディンは相変わらず無言を貫いていたが、その隣に立つロキは、兄と姉による容赦のない父親批判がよほど可笑しいのか、必死に笑いを堪えていた。
「……ロキ。何が可笑しい?」
「……いえ、何も。ただ、」
問い詰められたロキは口元を押さえながら、笑いを噛み殺すように答えた。
「……父上が、これほど一方的に責められているところを見たのは、母上に叱られている時以来だな、と。」
その言葉を聞いたオーディンは、何かを思い出したのか、あるいはこれ以上何も聞きたくなくなったのか、静かに目を閉じた。
「ロキ。……もう黙っておれ。」
「……承知しました。」
ロキは素直に頷き、それ以上は何も言わずに口を閉じたものの、
「……ふっ。」
どうしても堪えきれなかったらしく、僅かな笑い声が漏れてしまった。
「……ロキ。」
「……つい。」
オーディンは深く、深くため息を吐いた。かつて九つの世界を征服し、数多の敵を打ち倒してきた神々の王だったが、その威厳は今、敵の軍勢でも強大な怪物でもなく、三人の子供たちによって容赦なく削られていた。
ーーーーー
アスガルドの一角では、エボルトを名乗る青年の情けない声が響き渡っていた。彼の目の前にはガモーラさん、ネビュラさん、そしてヴィスティナさんの三人が立っているのだが、その表情はいずれも険しく、どう見ても穏やかな話し合いが行われているようには思えない。
「……いやいやいや、ちょっと待ってよ!僕だって好きで身体を乗っ取られたわけじゃないんだから、そんな顔で詰め寄らないでよ!?」
「だからってアンタね。無茶をしていい理由にも、無様を晒していい理由にもならないでしょう!」
「いや、まあ、それはヴィスティナの言う通りなんだけどさ……。」
「アンタは昔から自分の能力を過信して、一人で解決しようとして失敗してきたのを忘れたの?」
「ガモーラ、……なんでいるの?」
「それ今、関係ある!?」
「割とあると思うんだけど……。」
もっともな疑問を口にしたつもりなのだろうが、ガモーラさんの剣幕に押されたエボルトさんは、それ以上反論することもできずに押し黙ってしまい、気がつけば背後にはネビュラさんまで回り込んでいた。
「ちゃんと反省しているの?」
「いや、だからさ。僕も被害者なんだけど……。」
「その被害を受けてしまった原因はアナタ自身でしょう?」
「……いやぁ、そこを突かれると困るんだけどね?」
困ったように肩を竦めるエボルトさんだったが、その態度が気に入らなかったらしく、ネビュラさんは深いため息を吐いた。
「ふざけない。」
「はい、すみません。」
正面に立つヴィスティナさんも腕を組んだまま厳しい視線を向けており、どうやらエボルトさんに逃げ道など残されていないらしい。
「マインド・ストーンに潜んでいた意識に肉体を乗っ取られてたのよ?下手をすれば、アナタ自身の意識が完全に消滅していた可能性だってあるの!」
「……まあ、そうだね。」
「そうだね、じゃないでしょう!」
「でも、インフィニティ・トリガーにマインド・ストーンのエネルギーを詰めたのはヴィスティナじゃ……」
「なんか言った?」
「……何も言ってません。」
とうとう天を仰いでしまったエボルトさんだが、三方向から容赦なく責め立てられるその姿には、先ほどまでインフィニティ・ストーンの力を振るっていた強大な戦士の面影など、欠片も残っていなかった。
「……ねえ、ピーター。あの人、さっきまで私たちが戦っていた人だよね?」
隣に立っていたジーンが、何とも言えない表情でエボルトさんを見つめながら尋ねてきたので、僕は小さく頷いた。
「……うん。」
「随分と印象が違うんだけど。……なんというかピーターっぽい。」
「……否定できない。」
僕も同感だった。つい先ほどまで僕たちを相手に凄まじい戦いを繰り広げていた青い戦士は、実際にはゾラに肉体を操られていたわけだけど、それでも、あれほどの力を持つ人物が三人の女性に囲まれて縮こまっている姿を見ると、何とも複雑な気分になってしまう。
「ピーター?」
ジーンが不思議そうにこちらを見つめてくるが、僕としては別に、あそこまで怒られた経験があるわけではないと主張しておきたい。
いや、別に僕があそこまで怒られた経験があるわけじゃない。ただ、僕の周りにも怒らせると怖い女性は何人かいて、サラやジーン、それにメイおばさんなんかがそうだ。特にメイおばさんは、僕が無茶をしたことがバレた時には本当に怖かった。
心配してくれているのは分かっているんだけど……。
「……ピーター?」
「……何でもない。」
ーーーーー
三人がエボルトという青年を心配していたことは、十分に理解できた。まあ、家族や仲間というのはそういうもので、僕だってクロオやピーターが危険な目に遭ったと聞けば説教の一つや二つはするだろうし、反対にペッパーからこっぴどく叱られることだってある。
だからこそ彼女たちの気持ちは分かるのだが、いつまでもこの状況を眺めているわけにもいかない。
「……あー。そろそろ良いかな?」
いい加減、本題に戻らせてもらいたいと思って声を掛けると、それまでエボルトを問い詰めていたガモーラが、少々不機嫌そうにこちらを振り返った。
「何よ?」
「いや、家族会議に口を挟むつもりはないんだ。しかし、家族の問題を解決するのは、もう少し場所と時間を考えてくれないか?」
何しろ、宇宙最悪の大量殺人を実行する可能性があるヤツがこの戦場にいるというのに、その本人が実際のところどんな状況なのか、未だに把握できていないのだ。そんな状態でいつまでも家族会議を続けられては、こちらとしても困ってしまう。
「……それは、そうね。失礼したわ。」
ガモーラは少し気まずそうに視線を逸らし、ネビュラも同意するように頷いたことで、ようやく説教が終わりを迎えたらしい。
「……そうね。まずは状況を整理しましょう。」
ヴィスティナもようやく腕を解き、こちらへ向き直ってくれたので、これで何とか本題に戻ることができそうだ。
「さて。問題はサノスだ。奴が一体どんな状況なのか、まずはそれを確認する必要が――」
「……あ。」
ようやく話を進められると思った矢先、不意に小さな声が聞こえてきたため、そちらへ目を向けると、ジーンが何かに気づいたように顔を上げていた。
「……どうした?」
「……あっちはどうする?」
ジーンが指差した方向へ全員で目を向けた、その瞬間だった。
「…………は?」
あまりにも予想外の光景に、思わず間抜けな声が漏れてしまった。アスガルドの空は青白い雷によって埋め尽くされ、凄まじい放電現象が発生する中、ビルにも匹敵する巨大な黒い刃が天を貫くように伸びていた。
「……おい、嘘だろ?」
次の瞬間、天高くそびえていた黒い剣が勢いよく振り下ろされると、それに呼応するかのように空を埋め尽くしていた青白い雷が一点へと収束し、両者が激突したことで凄まじい衝撃波が周囲へと広がった。
……おいおいおい。
「ジャービス、今のエネルギー反応は?」
『測定中です、トニー様。ですが、双方とも極めて高いエネルギー出力を記録しています。』
「そりゃ見れば分かる。もう少し具体的に頼む。」
『申し訳ありません。観測地点周辺のエネルギー干渉が激しく、正確な測定は困難です。』
「……そうかい。」
どうやら最新型アーマーに搭載している観測機器をもってしても正確な測定は難しいらしく、僕が何とも言えない気分になっていると、ジーンが隣に立っていた闇の力へと顔を向けた。
「……ねえ。あれ、大丈夫なの?」
実に良い質問だ。僕としても是非とも聞いておきたいところだが、当の闇の力は少し考えるように顎へ手を当てただけで、特に慌てた様子もなく答えた。
「ふむ。……問題ないな。」
「……問題ないの?」
思わず聞き返そうとした僕よりも先にジーンが確認してくれたものの、闇の力は相変わらず平然と頷いている。
……いやいや。問題しかないだろう。現に、先ほど巨大な黒い剣が出現した場所には新たな刃が次々と生み出されており、しかも今度は一本や二本では済みそうにない。
「……おい、ちょっと待て。」
二本、三本、十本と増え続けた巨大な黒い刃は、とうとう数十本にも達し、それらが一斉に振り下ろされると、対する青白い雷もまるで意思を持っているかのように無数に枝分かれし、それぞれの刃へと襲いかかった。
空そのものが割れるのではないかと思うほどの衝撃が走り、足元の大地まで大きく揺さぶられる中、僕は改めて闇の力へと問いかけた。
「あれが問題ないのか?」
「ああ。単なる姉弟喧嘩だ。」
そう言われて再び戦場へ目を向けると、空を埋め尽くす雷と巨大な黒い剣が何度も激突しており、その度に発生する衝撃波がアスガルドの大地を容赦なく震わせていた。
「……あれが、姉弟喧嘩?」
「その通りだ。今のソーとヘラの戦いだからな。一撃一撃が災害級の威力だな。」
……いや、ソーの奴、家族関係の騒動が大規模過ぎないか?そもそも、アスガルドの王族というのは、家族間の問題を武力で解決しなければならない決まりでもあるのだろうか。
「姉弟で本気で殺し合いをしているのか?」
「本気だな。だが、殺意は感じられん。」
……ん?
「……本気なのに殺意はないの?」
ジーンも不思議に思ったらしく、小さく首を傾げながら尋ねると、闇の力は当然のことを説明するかのように答えた。
「本気で戦うことと、相手を殺そうとすることは別だからな。」
……いや、言いたいことは分かる。分かるんだが、それにしたって限度というものがあるだろう。
「……なるほど。」
ジーンが納得したように頷いているが、ちょっと待ってくれ、お嬢ちゃん。そこで納得してしまって、本当に良いのか?
「それに、オーディンとロキも近くで見守っているようだからな。あちらはあちらに任せて良いだろう。」
……まったく。サノスとの戦争にインフィニティ・ストーン、肉体を乗っ取られた青年に神様の姉弟喧嘩と、次から次へと問題が発生しており、もはや山積みどころの騒ぎではなくなっている。
「……よし。」
これ以上考えていても仕方がないと判断し、僕は気を取り直して全員へと向き直った。
「とりあえず、あの姉弟は放っておこう。父親が止めないなら、僕たちが口を出す必要もない。」
……というか、正直なところ、あんな規模の姉弟喧嘩に首を突っ込みたくない。
「今度こそ話を進めるぞ。向こうは放っておこう。本人たちが納得するまでやらせておけばいい。それより、サノスだ。問題はあいつをどうするかで――」
その瞬間、今日一番と言っても過言ではない凄まじい衝撃がアスガルド全土を襲い、同時に押し寄せてきた圧倒的な威圧感によって、この場にいる面々ですら思わず身体を屈めてしまった。
「……今度は何だ!?」
慌てて周囲を確認すると、かつてアスガルドの王城が存在していた場所から、天を貫く巨大な二色の光柱が噴き上がっていた。
一つは見覚えのある黄金の光で、間違いなくクロオの力だ。そして、それと激しくぶつかり合っているのは、パワー・ストーンを思わせる紫色の光であり、互いに絡み合った二色のエネルギーは、相手を押し潰そうとするかのように激突を続けている。
「……クロオ。」
真魚が心配そうに遠くの光柱を見つめる中、黄金の輝きが一段と強まると、それに応えるかのように紫色の光も大きく膨れ上がり、再び凄まじい衝撃が周囲へと広がった。
「……………とりあえず、様子を伺おう。」
幸いにも、この判断に反対する者は一人もいなかった。