日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
感想、評価をお待ちしています
アスガルドの大地に、ようやく静寂が戻りつつあった。もっとも、それは戦いが終わったからというだけで、周囲の惨状が改善されたわけではない。
地平線の彼方まで続く亀裂。原形を留めていない山々。大地の至るところに穿たれた巨大なクレーター。そして、戦闘の余波によって吹き飛ばされた瓦礫の数々。つい先ほどまで繰り広げられていた戦闘が、いかに常識外れのものだったのか。その光景が何よりも雄弁に物語っていた。
そんな荒れ果てた大地の一角に、奇妙な集団が形成されつつあった。アベンジャーズやピーターたち、そして闇の力とその眷属たちを含めた地球勢。ある意味、中立的な立場のガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。その向かい側には、サノスとヴィスティナ、そして自称エボルトがいた。
もっとも、サノスは黒雄との最終決戦で二つのパワー・ストーンの力を限界まで引き出し、最後にはクウガとダグバ、二つの究極の力を融合させた一撃を受けたのだ。
既にパワーエボルへの変身は解除され、紫色の巨体には無数の傷が刻まれている。現在はヴィスティナが能力で作り出した椅子に腰掛けているが、呼吸は荒く、まともに身体を動かすことすら難しい状態だった。
その様子を、少し離れた場所から黒雄が見つめている。こちらも既に変身は解除されており、全身には戦闘による傷が残っていた。特に最後のキックで酷使した右脚は、まだ満足に動かせない。そんな状態でもサノスの様子を警戒している辺り、先ほどまでの戦いがどれほど激しかったのかが窺える。
確かに、黒雄はサノスを倒した。だが、だからといってサノスの思想が変わったわけではない。サノスもまた、黒雄に敗北した事実を理解しているものの、自らの理想を捨てたわけではなかった。
つまり、戦闘そのものは終わったが、問題は何一つ解決していないのである。そんな中、黒雄のもとには、真魚、サラ、ジーン、ピーターの四人が集まっていた。
「黒雄、大丈夫? どこか痛いところはない!?」
「……いや、まあ、全身痛いけど……大丈夫だよ。」
「全然大丈夫じゃないでしょ!」
真魚はそう言いながら、黒雄の身体を心配そうに見つめる。既に変身は解除されているが、全身には無数の傷が残り、立っているのも辛そうだった。
「黒雄さん、とりあえず座ってください。今は無理しない方が良いです」
「そうそう! 特に最後の攻撃なんかは凄かったですけど、あれ絶対に身体に悪いですよ!」
サラの言葉に、ピーターも勢いよく頷いた。
「……ピーター、それは言わなくても分かると思うよ。」
ジーンが苦笑しながら指摘すると、ピーターは気まずそうに頭を掻いた。そんな四人の様子を見て、黒雄も小さく笑みを浮かべる。
「……ありがとう、みんな。心配かけてごめんね。」
「本当よ。……無茶ばっかりするんだから。」
真魚は呆れたように溜息を吐きながらも、黒雄の身体をそっと支えた。ひとまず戦いが終わったことに安堵する一同だったが、当然ながら、全ての問題が解決したわけではなかった。むしろ、ここからが本当の意味での後始末だった。
ーーーーー
「……ヴィスティナ。母艦に……追加の兵を降ろさせろ。」
サノスが口を開いた。
「残存部隊を再編成し……必要ならば、追加の戦力も……」
「却下です。」
即答だった。あまりにも自然な返答だったため、周囲の何人かが思わずヴィスティナへ視線を向けた。サノスが再び命令を出そうとするが、
「……ヴィスティナ。」
「却下です。今ここで追加の兵力を降下させれば、再び戦闘が始まる可能性があります」
「だが、」
ヴィスティナはサノスの前に立つと、腰に手を当てた。
「サノス様。ご自分の状態を理解していらっしゃいますか? まともに立ち上がることすらできない状態で、何をなさるおつもりですか?」
「……軍の指揮を、」
「ですから、それを私が引き継ぐと言っているんです」
サノスが何かを言いかけるが、ヴィスティナはそれを許さなかった。
「そもそも、先ほど量産兵を全滅させられたばかりでしょう? あれだけの数を一瞬で焼き払える相手に、今さら追加の兵力を投入してどうするんですか? それに、あちらにはまだ戦える方々が大勢います。こちらが軍を動かせば、当然向こうも警戒するでしょう。無用な衝突を避けるためにも、今は動くべきではありません。」
正論だった。あまりにも正論だったため、サノスも反論できない。しばらくヴィスティナを見上げていたサノスだったが、やがて深く息を吐いた。
「……好きにしろ。」
「はい。そうさせていただきます。」
ヴィスティナは頷くと、通信装置を操作した。
「こちらヴィスティナ。サンクチュアリⅡ、応答しなさい。」
通信の向こうから聞こえてきたのは、エボニー・マウの声だった。
『……ヴィスティナ様。現在、サノス様のご命令に従い、追加部隊の降下準備を進めておりますが――』
「その命令は撤回よ。」
『……承知いたしました。』
「全艦、現在位置で待機。こちらから指示があるまで、いかなる部隊も地上へ降下させないように。武装についても、命令がない限り使用を禁止。いいわね?」
『かしこまりました。全艦に通達いたします。』
「それと、負傷者の受け入れ準備と惑星復興支援プロトコルの起動準備もしておいて。必要になれば、こちらから連絡するわ。」
『承知いたしました。以後、ヴィスティナ様のご指示をお待ちしております。』
「よろしく。」
あまりにもあっさりとしたやり取りだった。サノス本人が出した命令を、その場で撤回したにもかかわらず、エボニー・マウは一切の異議を唱えなかった。
様子を見ていた真魚やエンシェント・ワン、トニーは、ヴィスティナが戦闘時や会話の際に見せていた、どこか隙のある印象とは異なる雰囲気に驚いていた。ガモーラたちも、怪訝そうに眉を寄せ、
「……ちょっと待ちなさい。なんでみんな、そんな簡単にアンタの命令に従うのよ?」
隣にいたネビュラも頷く。
「確かに妙だな。父さんの命令を撤回したというのに、エボニー・マウが何も言わないとは。」
ヴィスティナは何でもないことのように答えた。
「私がサノス軍のナンバー2よ。サノス様が動けない時は、全軍が私の指揮下に入ることになってるのよ。」
「「……は?」」
ガモーラとネビュラの声が重なった。
「……ちょっと待って。ナンバー2? アンタ、母さんの跡を継いで科学者になったんじゃないの!?」
「もちろん科学者でもあるわよ。別に兼任してはいけないという決まりはないでしょう?」
「いや、そうだけれど!」
思わず声を荒らげるガモーラ。一方、ネビュラはサノスへ視線を向けた。
「……父さん。本当なの?」
サノスは疲労の滲む声で答えた。
「……私が指揮を執れぬ場合、全軍の指揮権はヴィスティナに移る。」
「……初耳なんだけど。」
「別に隠していたわけじゃないわよ。アンタたちが好き勝手に軍を離れたりしたから知らなかっただけでしょう?」
ガモーラは何とも言えない表情を浮かべた。そして、そんな姉妹のやり取りを見ていたクイルが、小さく呟く。
「……あの家族、やっぱり色々とおかしくないか?」
「今さらだろ。」
ロケットが即答し、クイルも反論できなかった。そんな中、トニー・スタークが一歩前へ出ると、周囲の視線が集まった。
「さて、と。とりあえず、追加の軍隊が降りてくる心配はなくなったわけだ。なら、そろそろ本題に入ろうじゃないか。」
トニーはサノスを見据えた。
「どう決着をつける? 一応、ニックからは判断を僕とエンシェント・ワン、それと神様……あー、闇の力に任せる、とは言われているんだが。」
そこでトニーは、闇の力とエンシェント・ワンに視線を向ける。
「……君が話を進めてくれて構わない。」
「お任せしますよ、トニー・スターク。」
「そりゃどうも。……代わってくれても良かったのに。」
トニーは肩を竦めると、改めてサノスへ向き直った。
「とりあえず、僕らが勝った、で良いのか?」
「……異論はない。」
サノスの返答は短かった。その言葉に、周囲の何人かが意外そうな表情を浮かべる。
「……負けを認めるのか?」
スティーブの問いに、サノスはゆっくりと顔を上げ、視線を黒雄へ向ける。
「私は敗れた。それは事実だ。今さら否定するつもりはない。……あの戦士は、全力の私を上回った。それだけのことだ。」
黒雄は何も答えず、ただ、サノスの言葉を静かに聞いている。
「だが……」
サノスは言葉を続けようとしたが、ヴィスティナが横から口を挟んだ。
「サノス様。今はそれ以上、無理にお話しにならないでください。」
「……まだ何も言っておらんぞ。」
「どうせ、敗北は認めるが理想を捨てたわけではない、とか、そういうことでしょう?」
サノスが沈黙し、その様子を見ていた黒雄が、思わず小さく笑ってしまう。どうやら、ヴィスティナの予想は的中していたらしい。しかし、そんな空気を遮るように、ガモーラが口を開いた。
「ちょっと待ちなさい。」
「……今度は何だ?」
トニーが顔を向ける。
「勝った負けたの話だけで終わらせるつもり? 先制攻撃の件を有耶無耶にしないでよ。」
その言葉に、何人かが気まずそうな表情を浮かべてしまう。確かに、今回の戦いに至るまでには様々な事情があった。
サノス軍がアスガルドへ侵攻したことは事実だが、その一方で、アベンジャーズ側、というよりアスガルド側も決して全ての行動について潔白というわけではない。その点を無視して、一方的に勝利を宣言するのは問題があるだろう、と声を上げたガモーラだったが、そこでクイルが口を開いた。
「……いや、ガモーラ。それを蒸し返すと、戦艦を並べた件も追及しなきゃいけなくなるぞ?」
ガモーラが視線をクイルに向ける。
「ほら、あんな大艦隊をアスガルドの上空に展開しておいて、何もするつもりはありませんでした、って言い訳は流石に無理があるだろ?」
「……それは、」
「しかも、実際に軍隊まで降ろしてる。」
ガモーラが口を閉じる。確かに、その点を追及されると、サノス側の立場も相当に悪くなる。そもそも、双方の行動を一つ一つ検証し始めれば、話し合いがいつ終わるのか分からない。
「ガハハハハハ!」
そんな微妙な空気の中、豪快な笑い声が響く。声の主はヨンドゥだった。
「いやぁ、見世物としては最高だったぞ! あの規模の戦いなら、宇宙で生放送でもすれば、絶対に儲かった!」
「……えぇ?」
黒雄が思わず顔を向ける。しかし、ヨンドゥは気にした様子もなく言葉を続けた。
「何せ、宇宙の覇者サノスと、どこの馬の骨とも知れねぇ地球人の一騎打ちだ! しかも、最後にはあのサノスがぶっ倒されるときた! 賭けでもやってりゃ、もっと面白かっただろうな!」
ヨンドゥのあまりの発言に、クイルが額を押さえる。
「……おいおい。今それを言うか?」
「何だよ、事実だろうが! 俺だったら絶対にサノスに賭けてた! まさか、あんな若造が勝つとは思わねぇだろ!」
黒雄が何とも言えない表情を浮かべてしまう。自分が命懸けで戦っていた場面を、まさか賭けの対象にされかけるとは思ってもいなかったのだろう。
「……気持ちは分かるが、今はやめとけって。」
そんなヨンドゥを、ロケットが制した。
「何だよ、お前だって儲かると思うだろ?」
「そりゃ思うさ。だが、ここでその話を続けるのは馬鹿のやることだ。」
「……何でだよ?」
ロケットが顎で周囲を示す。そこには、険しい表情を浮かべるトニーやスティーブ、呆れた様子のガモーラ、そして何とも言えない顔でヨンドゥを見つめる黒雄の姿があった。さらに、その向こうでは、サノスが椅子に腰掛けたまま無言でこちらを見ている。
周囲を見て、ヨンドゥが頷いた。
「なるほどな。本人の前で賭けの話をするのは、確かにまずかった!」
「……そういう問題じゃねぇんだよ。」
ロケットが深々と溜息を吐いた。そんなやり取りを見ていたトニーも、額を押さえる。
「……頼むから、話をややこしくしないでくれ。」
「全くだ。」
スティーブが同意する。しかし、別の問題が残っていることに気付いていた人物がいた。
「……えっと、皆さん。何というか、凄い戦いが終わった感を出してますけど、ソーさんたち、まだガッツリ戦って――」
「ないわよ」
「なかった!?」
突然背後から聞こえてきた声に、ピーターが飛び上がり、慌てて振り返る。そこに立っていたのは、死の女神ヘラだった。
圧倒的強者の急な登場に、ピーターが固まる。ヘラは何事もなかったかのように歩いてきた。もっとも、その姿は決して無傷ではない。
左肩から胸元へ向けて、斜めに大きな傷が刻まれていた。黒い装甲は深く切り裂かれ、傷口の周囲には血が滲んでいる。それでも、その表情には余裕があった。そして、そんなヘラの後ろには、さらに三人の姿があった。
「……ぐぅ……。」
全身傷だらけのソー。その身体を支えるように肩を貸しているロキ。そして、頬を大きく腫らし、グングニルを杖代わりにして歩いてくるオーディンである。
黒雄が目を瞬かせてしまう。トニーも、スティーブも、ヴィスティナも、揃って何とも言えない表情を浮かべている。何しろ、先ほどまでアスガルドの命運を懸けて戦っていたはずの王家が、揃って酷い有様で戻ってきたのだから。
なぜかピーターが、恐る恐る口を開く。
「……えっと。戦いは、終わったんですか?」
すると、ヘラが頷く。
「ええ。見ての通りよ。」
ピーターはソーへ視線を向ける。ソーはロキに肩を貸してもらいながら、どうにか立っている。その身体には無数の傷があり、鎧もほとんど原形を留めていない。さらに、その隣ではオーディンが、腫れ上がった頬を気にするように顔を顰めていた。
「……何があったんですか?」
「……色々とな。」
ソーが疲れ切ってはいるが、同時に達成感を感じさせる声で返事をする。
「……色々、ですか?」
「ああ。……色々だ。」
ピーターはそれ以上、何も聞かなかった。というより、聞いてはいけないような気がした。そんな中、ロキが小さく息を吐いた。
「ふう。……皆、生きているか?」
トニーが答える。
「なんとかな。」
「それは何よりだ。」
ロキは頷くと、周囲を見渡した。
「ところで、アスガルド軍がいると話がややこしくなりそうだったので、ひとまず退がらせたのだが……良かったか?」
「……ああ、それは助かる。正直、これ以上人数が増えたら収拾がつかなくなるところだった。」
トニーの物言いに、ロキは苦笑する。
「こちらも、父上や姉上が戻ってきた途端に軍が騒ぎ出しては困るのでな。とりあえず、負傷者の救護と周辺の警戒に専念するよう命じておいた。」
「……賢明な判断だ。」
スティーブが頷いた。その一方で、黒雄はヘラへ視線を向けていた。先ほどまでソーと戦っていたはずの死の女神。その身体には大きな傷が残っているものの、少なくとも今すぐ戦闘を再開するつもりはなさそうだった。
そして、そんなヘラもまた、黒雄の姿を見つめていた。
「……ふぅん。アンタが、アレを倒したのね。」
ヘラがサノスへと視線を向けながら口を開き、黒雄が頷く。
「……ええ、まあ。何とか。」
椅子に腰掛け、満身創痍となった宇宙の覇者。その姿をしばらく見つめた後、ヘラは小さく笑った。サノスは何も答えず、ただ、ヘラを静かに見据えている。
「……あー、ちょっと良いか?」
そんな中、火のエルが口を開いた。既にアギト・トリニティフォームへの変身は解除されており、水のエルと地のエルとの融合も解かれている。先ほどまでの激戦の影響か、その表情には疲労が滲んでいた。
火のエルは周囲の面々を見渡す。アベンジャーズ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、サノス軍の最高指導者と、そのナンバー2、アスガルドの王族、地球の魔術師、そして、闇の力やエルロードたち。
「……このメンツで、このまま話し合い進めんのか?」
あまりにも異様な顔ぶれだった。宇宙全体を見渡しても、これほどの面々が一堂に会する機会など、そうそうあるものではないだろう。そこで、闇の力が口を開いた。
「とりあえず、大まかな方針だけでも決めなければ、治療に専念もできんだろう。」
その言葉に、周囲の視線が集まる。
「幸い、命に関わりそうな重傷者はいないようだからな。」
「……まあ、それはそうなんだけどさ。」
火のエルが肩を竦める。
「だからって、この面子でまともな話し合いになると思うか?」
「……ならなければ困る。」
闇の力は淡々と答えた。
「何しろ、今回の戦いによって生じた問題は、アスガルドだけのものではない。インフィニティ・ストーンの扱い、サノス軍の処遇、そして今後の各勢力の関係。少なくとも、それらについては方針を決めておく必要がある。」
トニーが頷いた。
「確かにな。その辺りを決めないまま解散するわけにはいかないか。」
「そういうことだ。」
闇の力は腕を組むと、集まった面々を見渡した。
「まずは、これ以上の戦闘を行わないこと。そして、双方の負傷者を救護すること。その二つについて、異論のある者はいるか?」
誰も反論せず、アベンジャーズ側も、サノス軍側も、アスガルドの王族たちも、少なくとも、今この場で再び戦闘を始めようとする者はいないらしい。
「……よろしい。ならば、話し合いを始めるとしよう。」
ーーーーー
「あの……それなら、まずサノスの奥さんの助け方を検討しませんか?」
話し合いが始まろうとしたところで、黒雄が口を開いた。突然の提案に、周囲の視線が集まる。特に反応を示したのは、サノスとヴィスティナ、そしてガモーラとネビュラだった。
「……何?」
「いや。そもそも、色々な問題が起きたのは、サノスが奥さんを助けようとしていたことが原因なら、先にその問題を解決する方法を考えた方が良いんじゃないかなって。それが叶えば、皆さんも協力的になってくれますよね?」
黒雄はそう言うと、周囲の面々を見渡した。
「……なるほどな。」
トニーが腕を組む。
「確かに、救う方法が見つかれば、少なくともストーンを集める理由の一つはなくなるわけだ。」
「……ちょっと待って。」
そこで、ガモーラが口を開いた。
「今の話、本当に母さんを助ける方法を探してくれるってこと?」
「……ええ。方法があるなら、ですけど。」
黒雄が頷くと、ガモーラは言葉を失う。その隣では、ネビュラも驚いたように黒雄を見つめている。
「……本気なの?」
「もちろん。」
ガモーラは小さく息を吐いた。
「だったら、私も協力するわ。母さんを助けられる可能性があるなら、何だってする。」
ネビュラも頷いた。
「私も、母さんを元に戻せるのなら、協力を惜しむつもりはない。」
そんな二人の反応に、ヴィスティナも嬉しそうな笑みを浮かべる。
「……ガモーラ、ネビュラ。」
「何よ。アンタだけが母さんを助けたいと思ってるわけじゃないんだから。」
そのやり取りを、サノスは椅子に腰掛けたまま見つめていた。
「……十文字黒雄。貴様は……私の妻を救うために、力を貸すというのか?」
「方法があるなら、ですけどね。」
黒雄は肩を竦める。
「アンタの考え方に納得したわけじゃありません。でも、奥さんを何が何でも助けたいって気持ちは本当なんでしょう?」
サノスは答えず、ただ、その左手に輝くパワー・ストーンへと、静かに視線を落とした。その様子を見ていたヴィスティナも、どこか複雑そうな表情を浮かべていた。
一方、少し離れた場所では、ヘラが腕を組んだまま成り行きを眺めていた。先ほどまでアスガルドの命運を懸けて戦っていた死の女神だったが、今は特に口を挟むつもりもないらしい。
そんな中、自称エボルトが何かを思いついたように口を開いた。
「……なあ、そいつなら助けられる可能性があるんじゃないか?」
そう言って指差した先にいたのは、闇の力だった。
「……私か?」
「ああ。アスガルドの神々とはまた違う、本当の意味での神であるアンタなら何とかできるんじゃないか?」
「……ふむ。」
闇の力は顎に手を当てると、サノスへ視線を向けた。正確には、その左手に輝くパワー・ストーンへと。しばらく無言で観察していた闇の力だったが、やがて小さく頷いた。
「……なるほど。私一人では無理だが、この場にいる面々の協力があれば、不可能ではないかもしれんな。」
「……本当!?」
真っ先に反応したのはヴィスティナだった。それまで冷静に交渉を進めていた彼女が、思わず身を乗り出す。その反応に、闇の力は頷いた。
「確約はできん。だが、理論上は可能だろう。何よりも、黒雄が助けようとしているのだ、嘘はつかん。」
「……方法は?」
サノスが尋ねると、闇の力はその問いに答えるように、ゆっくりと説明を始めた。
「まず、ヴィスティナ。お前のリアリティ・ストーンの力で、彼女の肉体を創造する。」
「……ええ。それなら可能よ。母の身体については、細胞構造から遺伝情報まで全て記録しているはずだから、私の力で、肉体のコピーを作ることならできる。」
「ならば問題ない。次に必要なのは、精神と魂だ。」
闇の力は自らの胸元に手を当てた。
「私の持つ力で魂を取り出し、マインド・ストーンの力で精神を肉体へと移す。双方を正しく定着させることができれば、恐らく元の状態へ戻すことは可能だろう。」
「……つまり、三つのストーンを使えば、可能性がある、ってこと?」
黒雄の確認に、闇の力は頷く。
「そういうこーー」
「ちょっと待った。魂関係ならソウル・ストーンの力を持っている十文字黒雄にも協力してもらった方がーー」
自称エボルトが待ったをかけようとするが、
「私がソウル・ストーンを宿す存在だ。話がややこしくなるから、これ以上は後にしろ。」
「……アンタ黙ってなさい!とりあえず、複数のインフィニティ・ストーンの力なら助けられるってことね!?」
ガモーラが思わず声を上げるが、闇の力は片手を上げて制した。
「ただし、問題が一つある。マインド・ストーンだ。」
その言葉に、周囲の視線が集まる。
「精神を肉体へ移すには、マインド・ストーンの力が必要不可欠だ。だが、現在のマインド・ストーンは、ゾラと自称ウルトロンが同化した状態にある。」
黒雄が何とも言えない表情を浮かべる。確かに、ゾラと同化していた自称ウルトロンは、現在マインド・ストーンそのものへと変化している。しかも、ゾラの精神も残されているのだ。
「……まずはアイツらを元に戻さないといけないわけか。」
トニーが呟くと、闇の力は頷いた。
「まず、ヴィスティナに自称ウルトロンの肉体を創造してもらう。そして、マインド・ストーンをその肉体に装着する。その後、ゾラの精神を封印するか、切り離すことができれば、自称ウルトロンだけを元の状態へ戻せるはずだ。」
話を聞いていたエンシェント・ワンが頷いた。
「それなら、精神の切り離しは私が担当しましょう。サラ、サポートをお願いします。」
「はい、分かりました。」
サラも即座に頷く。しかし、そこでスティーブが口を開いた。
「……待ってくれ。」
「どうした、キャップ?」
トニーが顔を向ける。
「切り離したゾラの精神はどうするつもりだ?」
その問いに、一同が沈黙した。確かに、ゾラの精神を切り離すこと自体は可能かもしれない。しかし、それをそのまま放置するわけにはいかない。
何しろ、ゾラはかつてヒドラの科学者として活動し、死後も電子的な存在として生き延びていた人物だ。現在はマインド・ストーンの力を利用し、他者の精神を支配する能力まで手にしている。後に禍根を残すべきではない。スティーブは続ける。
「……それに、もう一つ。肉体を与える瞬間に、ゾラが洗脳を仕掛けてきたらどうする?」
「その点については任せろ。」
トニーが自信ありげにスーツを操作していく。
「ウルトロン事件の時に使った対洗脳波装置、覚えてるだろ? あれを改良したものを、このスーツに搭載してある。」
そう言いながら、トニーは自身のアーマーを軽く叩いた。
「ゾラが精神干渉を仕掛けてきても、こいつから対抗波を放てば無効化できる。少なくとも、あいつが以前使っていた洗脳能力については対策済みだ。」
「……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。既に分析も終わってる。今のスーツなら問題なく対処できるさ。」
自信満々に答えるトニーの様子を見て、黒雄も頷いた。
「……じゃあ、念のため僕も――」
そう言って立ち上がろうとした瞬間だった。
「駄目!」
「駄目です!」
「絶対に駄目!」
三方向から声が飛んできた。真魚、ジーン、ピーターである。
「……えぇ?」
黒雄が目を瞬かせる。
「黒雄! さっきまであんな戦いをしてたんだから、少しは大人しくしてなさい!」
「そうですよ! 右脚だってまともに動かないんでしょう!?」
「黒雄さん! 今回は僕らに任せてください! というか、もう十分すぎるくらい働いてますから!」
三人から一斉に注意され、黒雄は思わず口を閉じた。
「……いや、でもぉ、」
「でもじゃない!」
真魚がぴしゃりと言い切る。その隣では、ジーンが呆れたように溜息を吐き、ピーターも何度も頷いていた。
「……分かったよ。」
結局、黒雄は大人しく座り直すことになった。その様子を見ていたトニーが、愉快そうに笑う。
「ははっ。どうやら、今回ばかりは君の出番じゃなさそうだな。」
「……そうみたいですね。」
黒雄は苦笑してしまう。そんなやり取りの後、ヴィスティナが一歩前へ出る。
「……じゃあ、私が肉体を用意するわね。」
若干先走った彼女が右手を翳すと、その指先に赤い光が集まり始めた。リアリティ・ストーンは現実そのものを改変する力を持つ、宇宙の根源的な存在の一つ。その力が発動すると、何もなかった空間に無数の赤い粒子が現れ、次第に一つの人型を形成していく。
最初に骨格が作られ、続いて筋肉や神経、皮膚が形成されていく。さらに、その内部には無数の機械的な構造が組み込まれ、人間とも機械とも異なる、特殊な肉体が完成していった。
「……へえ。」
トニーが感心したように声を漏らす。
「随分と精巧な身体だな。」
「当然でしょう? 精神を定着させるための器なんだから、適当に作るわけにはいかないわ。」
ヴィスティナはそう答えると、最後に肉体の額へ小さな窪みを作った。
「……これで完成ね。」
その外見は、自称ウルトロンが求めた、理想の肉体とほぼ同じであった。
「……さて、次はマインド・ストーンだな。」
闇の力が口を開く。黒雄が封印エネルギーを叩き込んだマインド・ストーン。その内部には、自称ウルトロンとゾラ、二つの精神が存在している。
「……では、装着するぞ。」
闇の力がマインド・ストーンを機械生命体の額へと近づける。すると、宝石はまるで吸い込まれるように窪みへ収まり、黄金色の光を放ち始めた。しかし、肉体が動き出すことはなかった。
「……まだ駄目か。」
トニーが呟く。
「封印が残っているからな。」
闇の力が答える。
「黒雄。すまんが、封印を解除してもらえるか?」
「……分かりました。」
黒雄は真魚に支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと封印を解くだけだから。」
「……本当に、ちょっとだけだからね?」
真魚が念を押す。黒雄は苦笑しながら頷くと、右手を翳した。その掌から、微かな黄金の光が放たれる。
「……解除するよ。」
黒雄が静かに告げた次の瞬間、マインド・ストーンを覆っていた封印エネルギーが、ゆっくりと消失していった。そして、
「……ッ!?」
先ほどまで身じろぎ一つしなかった身体が大きく震える。額のマインド・ストーンが激しく輝き、全身に黄金色の光が走る。
「……来るぞ!」
トニーが叫ぶと、マインド・ストーンが強く輝き、目に見えない精神干渉の波が放たれた。ゾラによる洗脳攻撃だった。しかし、
「残念だったな!」
トニーが右腕を突き出すと、アーマーの各部から青白い光が放たれ、周囲へと広がった。対洗脳波装置。かつてのウルトロン事件を経て開発され、さらに改良を重ねられた精神干渉対策システムが、ゾラの放った洗脳波を正面から打ち消していく。
「……よし、問題なし!」
トニーが満足そうに頷く。
「エンシェント・ワン! 今だ!」
「ええ。」
エンシェント・ワンが両手を構えた。その隣では、サラも同じように術式を展開している。二人の足元に魔法陣が現れ、無数の幾何学模様が空中へと広がっていった。
「……サラ。精神の境界を探ってください。」
「はい!」
サラが両手を翳す。その瞳には、マインド・ストーンの内部に存在する二つの精神が映し出されていた。一つは、自称ウルトロン。もう一つは、アーニム・ゾラ。互いに絡み合い、複雑に融合している二つの精神。
「……見つけました!」
「では、切り離します。」
エンシェント・ワンが術式を発動させると、魔法陣から無数の光の糸が伸び、マインド・ストーンの内部へと入り込んでいく。その光は二つの精神の境界を正確に捉え、ゆっくりと引き離し始め、
「……ハッ!」
エンシェント・ワンが一瞬で間合いを詰めたかと思えば、マインド・ストーン目掛け掌底を叩き込んだ。すると、マインド・ストーンから黒い霧のようなものが勢いよく溢れた。
「……何だ、あのキショいの?」
クイルが顔を顰めながら質問すると、闇の力が答えた。
「ゾラの精神体だ。肉体から切り離され、外へと押し出された。」
黒い霧は人型を形成し始めたが、その姿は人間のものとは程遠かった。不規則に揺らめく輪郭。顔の位置には巨大な赤い光が浮かび、その内部では無数の数字や文字が流れ続けている。
『……貴様ら……! この私を……アーニム・ゾラを……このような形で……!』
「……随分と元気そうじゃないか、ゾラ博士。」
トニーが皮肉を込めて呟く。しかし、ゾラはそれに答えることなく、周囲へと黒い霧を広げようとした。
「……逃がしません。」
エンシェント・ワンが両手を動かす。黄金色の魔法陣が幾重にも重なり、ゾラの精神体を取り囲んだ。
「サラ、拘束を。」
「はい!」
サラが術式を強化する。ゾラの精神体は魔法陣の中央へと押し込められ、身動きが取れなくなっていった。
『……馬鹿な……! 私が……この私が……!』
その様子を見ていたピーターが、恐る恐る口を開いた。
「……えっと、それで……切り離した精神はどうするんでしたっけ?」
「あっ。」
確かに、ゾラの精神を切り離すことには成功した。しかし、その処遇については、まだ決まっていない段階でヴィスティナが動いてしまったのだ。そんな中、スティーブが不意に顔を上げた。
「……ソー。」
「……何だ?」
ロキに肩を貸してもらいながら立っていたソーが、疲れた様子で顔を向ける。
「ムジョルニアの雷なら、精神体も砕けるか?」
「……さあ、分からん。そもそも、精神体を相手にムジョルニアを振るったことなどないからな。」
ソーが首を傾げていると、
「……可能だ。」
頬を大きく腫らし、グングニルを杖代わりにしていたアスガルドの王、オーディンが口を開く。
「ムジョルニアは単なる武器ではない。あれに宿る神の雷は、肉体を持たぬ存在にも干渉できる。精神体であろうと、砕くことは可能なはずだ。」
「……そうですか。教えてくれたこと、感謝します。」
スティーブが頷くと、何を思ったのか、ソーたちが先ほどまで戦っていた方角へと右手を翳した。その行動に、ロキが怪訝そうに眉を寄せる。
「何をしている?」
スティーブは答えなかった。答えの代わりに、遠方の瓦礫の中から、銀色の槌、ムジョルニアが猛烈な勢いで飛び出してきた。
「……は?」
ソーが目を見開き、ロキもまた、信じられないものを見るような表情を浮かべる。何しろ、ムジョルニアは、先ほどロキがソーを運ぶ際に邪魔だという理由で、戦場に置いてきたものだったからだ。
そのムジョルニアが、一直線にスティーブのもとへと飛来し、当然のように、その右手へ収まった。ソーが驚愕の表情を浮かべ、スティーブの手に収まったムジョルニアを見つめている。
「……お前……。」
「……すまない。少し借りるぞ。」
スティーブがそう言うと、ソーはしばらく呆然としていたが、やがて大きく笑った。
「……ハハッ! そうか! そういうことか!」
その表情には、驚きと同時に、どこか嬉しそうな感情が浮かんでいた。一方、ロキは額を押さえていた。
「……まったく。もう何が起きても驚かんぞ、私は。」
「……十分驚いてるじゃないか。」
トニーが呆れたように指摘する。そんな中、スティーブはムジョルニアを握り直すと、黒雄へ視線を向けた。
「……黒雄。」
「……はい?」
「ゾラは、君がここまで追い詰めた相手だ。本来なら、君が決着をつけるべきなのかもしれない。」
スティーブは静かに言葉を続ける。
「だが、今の君にこれ以上無理をさせるわけにはいかない。」
その視線が、魔法陣の中に拘束されたゾラへと向けられる。
「……だから、ゾラは僕が始末をつけようと思う。良いかい、黒雄?」
黒雄は一瞬、ゾラの精神体へと視線を向けた。
かつてヒドラの科学者として暗躍し、死後も電子的な存在として生き延び、さらには自称ウルトロンと同化してインフィニティ・ストーンの力を手に入れた男。
その執念深さは、黒雄自身も嫌というほど理解している。そして、そんなゾラと最も長い因縁を持つ人物の一人が、目の前に立つスティーブ・ロジャースだった。
「……分かりました。」
黒雄は静かに頷いた。
「お願いします、スティーブさん。」
「……ありがとう。」
スティーブも頷き返し、ムジョルニアを握り締めた。
「エンシェント・ワン。ゾラをこのまま拘束しておいてくれ。」
「承知しました。」
術式が強化され、魔法陣がさらに収縮し、ゾラの精神体は完全に拘束される。ゾラが声を上げる。
『待て、スティーブ・ロジャース! 貴様、何をするつもりだ……!?』
スティーブは答えない。一度、少し離れた所から成り行き見守っていたバーンズに視線を向ける。バーンズはただ、スティーブに視線を送り返した。
ゆっくりとムジョルニアが持ち上げる。槌の表面には、青白い雷が走り始めた。最初は微かな光だったが、次第にその輝きは強まり、周囲の空気が震え始める。
ムジョルニアに宿る雷神の力。それが今、スティーブの意思に応えるように集束していく。
『……馬鹿な……! 貴様……その力は……!』
ゾラの声に、初めて明確な恐怖が滲んだ。
『やめろ……! 私はまだ……! まだ終わってなどいない……!』
「……いや。」
スティーブが静かに口を開いた。
「もう終わりだ、ゾラ。」
その表情には、怒りも憎しみもなかった。ただ、長きにわたる因縁に決着をつけようとする、確固たる意志だけがあった。
「君は何度も死を逃れ、その度に新しい犠牲を生み出してきた。」
『……私は……人類の進化を……!』
「違う。」
スティーブはその言葉を遮った。
「君が求めていたのは、人類の未来じゃない。自分自身が生き延びることだけだ。」
『黙れ……! 貴様ごときに……この私の偉業が理解できるものか!』
「……そうかもしれない。」
スティーブは短く答えた。そして、ムジョルニアを頭上へと掲げる。青白い雷が槌へと集まり、周囲を眩い光で照らした。
「だが、君がこれ以上、誰かを傷つけることはない。」
『……待てッ! ロジャース!!』
ゾラが絶叫する。
『やめろォォォォォッ!!』
しかし、その声が届くことはなく、スティーブが踏み込み、全身の力を込めてムジョルニアを振り下ろした。
神の雷を纏った槌が、魔法陣の中央に拘束されたゾラの精神体へと叩き込まれる。青白い雷光が精神体の内部へと流れ込み、ゾラを構成していた精神エネルギーを根底から破壊していった。
『……ア……アア……ッ!?』
歪んだ悲鳴が響く。黒い霧のような身体に無数の亀裂が走り、その隙間から青白い光が溢れ出した。
『……こ……こんな……ことが……!』
ゾラは必死に形を保とうとしたが、既に遅かった。ムジョルニアの雷は精神体そのものを捉え、その存在を維持している構造を次々と砕いていく。
『……私は……不滅……の……!』
最後まで言い終えることはできなかった。次の瞬間、ゾラの精神体は無数の光の粒子となって砕け散り、青白い雷の中へと消滅した。
長きにわたり死を拒み、幾度となく姿を変えて生き延びてきたアーニム・ゾラ。その存在は今、スティーブ・ロジャースの手によって、完全に終わりを迎えたのだった。