日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
アイアンマン3後編です。主人公が関わって本編が崩壊しないのここぐらいだったのですが、作品内で主人公は主人公なりに急ぎました。
アメリカに到着して、最初に思ったこと。
「…………誰もいない。」
空港の到着ロビー。僕はスマートフォンを片手に、周囲を見回す。フューリーから聞いていた話では、ここでローディさん――ジェームズ・ローズ大佐と合流する予定だった。
現在はウォーマシンではなく、星条旗カラーに塗り替えられたアイアン・パトリオットを着て活動しているらしい。
『現地ではローズと動け。』
そう言われた。一条さんとも、
『単独行動はするな。現地ではS.H.I.E.L.D.と行動しろ。』
『はい。』
と約束した。だから僕は、ちゃんと待っていた。
三十分経過、来ない。
一時間経過、来ない。
三時間経過、来ない。
いや、何かあったのかもしれない。ローディさんだって軍人だ。マンダリン絡みで動いているなら、急に予定が変わることくらいある。なので電話をかける。
まずフューリー。
プルルルル。プルルルル。プルルルル。
『おかけになった電話は――』
出ない。まあ、忙しいんだろう。
次はコールソンさん。
プルルルル。プルルルル。プルルルル。
『おかけになった電話は――』
出ない。もう一回フューリー。
出ない。コールソンさん。出ない。僕は静かにスマートフォンを下ろした。日本からわざわざ来た。学校も休んだ。一条さんにお願いもした。フューリーからはローディさんと合流しろと言われた。そのローディさんはいない。フューリーも出ない。コールソンさんも出ない。
ヨシ。
「もう知らん。」
僕は一条さんへ電話をかける。数回の呼び出し音の後、すぐに繋がった。
『着いたか。連絡が遅かったが何かあったか?ローズ大佐とは合流したのか?』
「してません。」
『……何?』
「誰も来ません。」
『フューリーは。』
「出ません。」
『コールソンは。』
「出ません、なので。」
嫌な予感がしたのだろう。
『待て、黒雄。』
「一人で動きます。」
『待てと言っている。』
「だって誰も来ないんですよ!」
空港の隅で声を抑えながら抗議する。
「僕だってちゃんと約束守ろうとしました! 三時間以上待ちました! フューリーにもコールソンさんにも何回も電話しました! それで誰も出ないんです!」
『だからといって単独行動を――』
「スタークさんは今も行方不明なんです。待ってるだけは嫌です。」
一条さんが黙り、僕も黙った。やがて、深い溜息が聞こえた。
『……無茶はするな。』
「しません。」
『戦闘になった場合、最優先は自分の安全だ。何か分かったら必ず連絡しろ。』
「はい。」
『それから――』
「分かってます。………ちゃんと帰ります。」
少しだけ間が空いて。
『……ああ。』
通話が切れた。僕はスマートフォンをポケットへ入れる。
さて、スタークさんは生きている。そこは覚えている。問題は、どこにいるか。正直ほぼ覚えていない。なら、
「探すしかないか。」
僕は空港を出て、人気のない場所まで移動して、空を見上げた。
「ゴウラム!」
呼びかけると数秒後、遠くから独特の羽音が聞こえた。
「来た。」
ゴウラムが空を切り裂き、僕の頭上へ降下してくる。その姿を見上げ、僕は拳を握った。
「探してやるぜ、コンチクショウ!」
こうして、あまりにも範囲が広すぎる人探しが始まった。
―――――
「…………いない。」
僕はゴウラムの上で項垂れていた。
アメリカは広い。知ってた。知ってたけど、広すぎる。しかも、
「アイアン・パトリオットまで行方不明って何ですか……。」
ローディさんまで消えた。どうなってるんだ。いや、映画を思い出せ。確かローディさんはマンダリンを追って――。
「…………あ。」
そうだ、捕まるんだった。
「全然大丈夫じゃないじゃん!」
思い出すのが遅い!その後は、大統領が出てきたような。エクスト……なんとか。キ、キ……キなんとかいう敵。そして最後は――。
「港。」
僕は顔を上げた。そうだ、港湾施設。巨大なクレーンがあって、吊るされた大統領。そこに大量の燃える兵隊。それが、
「映画の最後の戦いの場所……!」
場所は?どこだ?必死に記憶を掘り返す。細かい住所なんて知らない。ああもう!
「ゴウラム。」
ゴウラムが鳴く。
「日本に戻るぞ。」
『………ーーーーーッ!?』
―――――
美杉家。
「真魚さん!」
「うわっ!?」
庭先に降りた僕を見て、真魚が目を丸くする。
「ク、クウガ!?」
美杉教授も太一君も固まっていた。僕がクウガだということは、もう全員知っているけど、実際にクウガの姿で庭へ降ってきたら驚きますよね、すみません!僕はすぐに変身を解除し、
「すみません、急いでて!」
「クロオ君、アメリカに行ったんじゃなかったの!?」
「行きました!」
「じゃあ何で日本にいるの!?」
「分からない人を探すために帰ってきました!」
「意味分かんない!」
ですよね、僕もそう思います!
「真魚さん、お願いがあります。」
「嫌な予感するんだけど。」
「超能力でスタークさんが今どこにいるか見てもらえません?」
真魚が僕をじっと見る。
「それ、私を人間GPSか何かだと思ってない?」
「そんなことは。」
「思ってるでしょ。」
「ちょっとだけ。」
「もう。」
真魚は溜息を吐いた。
「仕方ないわね。貸し一つよ。」
「ありがとうございます!」
真魚が集中しようとして――止まった。
「……クロオ君、何かないの?」
「何か?」
「スタークさんが触った物とか。」
そうだった。サイコメトリーは何もないところから相手の現在地を検索する能力じゃない。
「必要です?」
「必要に決まってるでしょ!」
「取ってきます!」
「どこから!?」
「長野!」
「今から!?」
―――――
しばらくして、
「持ってきました!」
「早っ!?」
僕はスタークさんのサインをテーブルに置いた。ニューヨーク決戦の後にもらったやつを長野の家に大事に飾っていたのである。
「……本当に長野まで行ってきたの?」
「ゴウラムで。」
「クロオ君の移動距離、今日だけで凄いことになってない?」
気にしないでください。真魚にサインに手渡し、
「じゃあ、見るよ。」
「お願いします。」
真魚が目を閉じた。数秒。その表情が変わる。
「……海。港みたいな場所。大きなクレーンがある。コンテナがたくさん……炎も。」
「場所は?」
「ちょっと待って。」
さらに集中する。
「アメリカ……フロリダ。マイアミの近く。細かい場所は、ここかな。」
スマホの地図に場所を示してもらう。
「分かりました!」
急いで立ち上がり、出発の準備をする。
「ありがとう、真魚さん!」
「貸し一つだからね!」
「覚えときます!」
外に出ようとしたところで、
「あ、クロオ兄ちゃん!」
太一君に呼び止められた。
「アメリカ行くんでしょ?お土産!」
「今!?」
「忘れないでね!」
こんな状況でお土産を頼まれるとは思わなかった。
「……何がいい?」
「アメリカっぽいやつ!」
一番困るやつだ。
「分かった!」
「絶対だよ!」
僕はそのまま外へ飛び出す。
「ゴウラム!」
再び黒い甲虫が舞い降りる。その背へ飛び乗り、進路を西、目的地はマイアミ。
「スタークさん、待っててくださいよ!」
ゴウラムが咆哮し、一気に加速する。日本まで戻って、長野まで飛んで、また東京へ戻って、そして再びアメリカへ。もう移動距離については考えない。とにかく――港湾決戦に間に合わせる。
「ゴウラム、さっきのアレ、もう一度やるぞ!」
『ーーーッ!』
雷のエルの力を解放し、金の力を纏う。その力をゴウラムにも流す。ライジングゴウラムを超えた、アメイジングゴウラムだ!
雷光を纏ってアメリカまでかっ飛ばす!
ーーーーー
港湾施設では、既に戦いが始まった。巨大なクレーンに積み上げられたコンテナ。炎に銃声。そして、エクストリミスによって身体を強化された兵士たち。その中央を、トニー・スタークとジェームズ・ローズが走っていた。
「随分と歓迎されてるな!」
「お前が人気者だからな!」
「サインなら後にしてくれ!」
銃弾を避けながら二人は進む。だが敵の数が多い。エクストリミス兵は普通の人間とは違い、銃で撃たれても簡単には倒れず、傷口を赤く発光させながら再生する。
トニーが腕を上げる。
「さて。」
「何だ?」
「パーティーの時間だ。」
直後。夜空に無数の光が現れた。
「…………。」
ローディが空を見ると一つ、二つ、十。いや、それ以上の数が次々と飛来する鋼鉄の人影。形状も、大きさも、用途も違う。トニー・スタークがこれまで開発してきたアイアンマン・アーマー。そのすべてが、港湾施設へ殺到してくる。
「何だ、あれは……。」
エクストリミス兵の一人が空を見上げる。
「全部スタークのアーマーか?」
「嘘だろ……。」
次の瞬間、アーマー軍団が一斉に降下し、一気に戦場がひっくり返る。
「ハウス・パーティー・プロトコル。」
トニーが満足そうに言った。
「いい名前だろ?」
「後で聞く。」
ローディは呆れながら銃を構えた。一人のエクストリミス兵が、ふと夜空を見上げた。
「おい。」
「何だ!」
「あれもスタークのか?」
「は?」
全員の視線が上を向く。アーマーたちとは違う。もっと巨大な影。羽を広げた、黒い何か。その輪郭は、昆虫――いや、甲虫を思わせる。エクストリミス兵が目を細めた。そして、
「クワガタのアーマーなんか作ったのか?」
「何?クワガタ?」
何の話だ。そんなものを作った覚えはない。そもそも、
「僕はカブトムシ派だ。」
「そこじゃないだろ!」
ローディが怒鳴ると、黒い影が急降下した。
「うおっ!?」
ゴォォォォォッ!!
凄まじい風圧に、エクストリミス兵たちが腕で顔を覆い、トニーも目を細めた。黒い甲虫に見覚えがあった。ニューヨークで、チタウリの飛行兵器を追い回していた――。
「まさか。」
その背には赤い戦士が立っていた。
ーーーーー
僕は港湾施設を見下ろす。大量のアーマーにエクストリミス兵。そして、
「いた!」
スタークさん!生きてる!本当に生きてる!そのスタークさんと目が合った。
「クロオ?」
「やっと見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら、僕はゴウラムから飛び降りた。
「超変身!」
空中でアークルが輝き、赤から青へ、ドラゴンフォームへと姿を変える。着地寸前、近くに転がっていた鉄パイプを掴む。青の装甲に包まれた手の中で、それがドラゴンロッドへ変わった。着地してから直ぐに一人のエクストリミス兵へ突っ込む。
「はぁっ!」
「ぐあっ!?」
ドラゴンロッドを腹部へ叩き込む。そして、封印エネルギーを流し込む。
「な――」
男の身体を走っていた赤い光が、一瞬だけ激しく輝き、消えた。
「…………え?」
男が自分の腕を見る。赤くない。発熱もしない。傷も再生しない。
「何だ……?」
僕はドラゴンロッドを構え直す。
「成功。」
エクストリミスも、結局は人体を変質させる力だ。グロンギとは仕組みが違うけど、僕の封印エネルギーは、大概の相手の力そのものに干渉できる。だから、
「元に戻せると思った!」
「何だこいつ!」
人間に戻した兵士のアゴを突いて気絶させる。別の兵士が腕を赤熱させて突っ込んでくる。熱そうだから、避ける!
「せいっ!」
再度ドラゴンロッドを叩き込んで、封印エネルギー!赤い光を消して、一発!
「次!」
三人、四人、五人。片っ端から封印していく。エクストリミスだけ封印して、人間に戻す。
「おいおい……。」
遠くでトニーが僕を見ていた。
「何だ、あれ。」
「知り合いじゃないのか?」
「知り合いだよ。だから聞いてるんだ。」
ニューヨークでは見せていない。というより、チタウリ相手には使い方が違っていた封印エネルギー。
「スターク!」
「分かってる!」
ローディさんとスタークさんが走り出す。そうだ、僕に構っている場合じゃない。彼らには彼らの戦いがある。そして、僕の役割は前と同じ、つゆ払いだ!
「邪魔するな!」
エクストリミス兵が両腕を赤熱させる。僕はドラゴンロッドを構えた。
「そっちがね!」
僕が暴れている、その向こうで、アイアンマン・アーマーたちが飛び交っている。ローディさんが大統領救出へ向かう。スタークさんはキリアンを追う。ペッパーさんもいる。
あっちは本編組に任せる。僕が下手に首を突っ込んで流れを変えるより、やるべきことは別にある。周囲を見ると、まだ充分にいるな。
僕はドラゴンロッドを握り直した。
「多いなぁ………助かる。」
付き合ってもらうよ。僕の、
「八つ当たりに!」
次々と襲いかかってくるエクストリミス兵に、僕は真正面から突っ込んだ。
―――――
それから先は、ほとんど映画で見た通りだった。ローディさんは大統領を救出に成功。スタークさんは次々とアーマーを乗り換えながらキリアンと戦う。あ、マーク42だ。
散々やられたのに立ち上がるキリアン。
「私がマンダリンだ!」
「そう。」
ペッパーさんが、キリアンを吹き飛ばした。
「…………強っ。」
僕は思わず呟いた。実は炎に落ちてから直ぐ救助してました。少し火傷はしてたけど、エクストリミスに適合してたみたいだから直ぐに治ってた。
周囲を見渡すと、地面には大量の男たちが転がっている。うん、死んではいない。エクストリミスを封印され、ただの人間に戻った連中だ。大丈夫そうなので、僕は変身を解除した。
「ふぅ……。」
流石にこの数を連続で封印するのは少し疲れたな。
「クロオ。」
振り返るとボロボロになったスタークさんがいた。服も汚れているし、顔には傷。でも、
「スタークさん。…………生きてますね。」
トニーが少し眉を上げた。
「勝手に殺すな。」
「電話出ない! 家は爆破される! 行方不明になる! 探しに来たのにフューリーは電話出ない! コールソンさんも出ない! ローディさんは空港に来ない!」
「待て。」
「僕、アメリカ中飛び回って、日本に一度戻って、真魚さんに貸し一つ作って、もう一度アメリカまで飛んできたんですからね!」
「クロオ。」
「何ですか!」
「とりあえず。来てくれてありがとな。」
………ずるい。それ言われたら怒れないじゃん。
「……無事ならいいです。」
「僕は大体いつも無事だ。」
「家ごと海に落ちた人が言わないでください。」
「見てたのか。」
「世界中でニュースになってましたよ。」
そこへローディさんが戻ってきた。僕を見ると、
「……君がクロオか。」
そういえば、ちゃんと会うのは初めてだった。
「十文字黒雄です。」
「ジェームズ・ローズだ。」
握手する。
「それで。」
僕は笑顔のまま聞いた。
「空港に来なかった理由、聞いていいですか?」
ローディさんが黙る。
「僕、三時間以上待ったんですけど。」
「色々あった。」
「そうですか。」
「色々あったんだ。」
「そうですか。」
「……悪かった。」
謝ってくれたので許そう。僕は周囲を見回す。燃える港湾施設に壊れたコンテナ、倒れたアーマー、気絶した大量の元エクストリミス兵。
そして、スタークさん、ローディさん、ペッパーさん。うん、ちゃんと生きている。
スターク邸には間に合わなかったし、スタークさんを見つけることも出来なかった。それでも最後には、ちゃんと間に合った。
「そうだ。クロオ。」
「はい?」
「あれ。」
「カブトムシなのか?」
「クワガタですよ。」
「そうか、残念だ。」
とりあえず事件は解決。一条さんに電話しよう。無茶はしてない。してないはず。……してないってことにしよう。僕はスマートフォンを取り出した。
ーーーーー
それから、数日後。
「…………。」
僕は机に向かっていた。目の前にあるのは、真っ白な原稿用紙。いや、正確にはもう真っ白ではない。すでに一枚目の半分くらいまで文字で埋まっている。タイトルは――
『今回の単独行動について』
我ながら、見覚えのある光景だった。
「クロオ君、手止まってるよ。」
「分かってますよ……。」
ベッドに腰掛けた真魚さんが、楽しそうに笑っている。
「あと何枚?」
「四枚です。」
「全部で?」
「四枚です。」
「じゃあ全然進んでないじゃん。」
「言わないでください!」
そもそも、どうしてこんなことになったのか。僕はアメリカから帰国した後、一条さんへきちんと報告した。
スタークさんは無事、ローディさんも無事、ペッパーさんも無事、大統領も救出、エクストリミス兵も可能な限り能力だけ封印して、死者は出していない。完璧である。だから僕は胸を張って報告した。
『無茶はしてません。』
嘘ではない。少なくとも僕の中では、無茶をしたつもりはなかった。ところが。後日、一条さんと真魚さんがたまたま会った際、真魚さんが何気なく、
『でもクロオ君も大変でしたよね。アメリカから一回東京まで戻ってきて、長野まで行って、また東京に戻って、それからアメリカまで飛んでいったんですから。』
全部バラした。その日の夜。
『黒雄。』
『はい。』
『話がある。』
声だけで分かった。終わった、と。そして現在に至る。
「だって私、知らなかったんだもん。」
「責めてないですよ……。」
真魚さんに悪気がなかったのは分かっている。そもそも、一条さんに隠していた僕が悪い。
「でも、何で反省文?」
「一条さん曰く、『口で言っても無茶をするなら、一度自分の行動を文章にして客観的に振り返れ』だそうです。」
「正論じゃない?」
「正論だから反論できないんですよ。」
しかも四枚。何故四枚なのか聞いたら、
『アメリカ、東京、長野、東京、アメリカ。四回余計に移動しているだろう。』
と言われた。最初のアメリカ行きは許可された移動なので除外らしい。妙なところで計算が細かい。僕は溜息を吐きながら続きを書く。
『今後は、単独での長距離移動を行う際には――』
ピリリリリ。
「ん?」
机の上のスマートフォンが鳴った。画面を見ると、
「……スタークさん?」
「アイアンマン?」
「はい。」
電話に出る。
「もしもし?」
『クロオか。今いいか?』
「今ちょうど反省文書いてるところです。」
『反省文?』
「この前のアメリカの件で。」
一瞬、沈黙。それから、
『前もなかったか?』
「…………。」
僕も少し考える。
「あー……ありましたね。」
あった。確かにあった。
「僕、結構反省文書いてますね。」
『それは反省してない奴の台詞だぞ。』
「反省はしてますよ!………それで、どうしたんですか?」
『手術が終わった。』
その一言で、僕の手が止まった。
「……手術?」
『胸の破片を取った。ついでにアークリアクターも外した。』
思わず椅子から立ち上がり、叫んでしまう。
「大丈夫なんですか!?」
『だから電話してる。成功だよ。もう胸に電磁石を埋め込んで生活する必要もない。』
映画を見ていたから、この先どうなるかは知っていた。それでも、実際に本人の口から聞くと全然違う。
「……良かった。」
自然と、その言葉が出た。
『心配したか?』
「しましたよ。めちゃくちゃ。」
『そうか。』
電話の向こうで、少しだけ笑った気配がした。
『なら、日本とアメリカを往復した甲斐もあったな。』
「そのせいで反省文書いてるんですけどね!」
『ハハッ!』
「笑わないでください!」
すると、それまでベッドに座っていた真魚さんが近づいてきた。
「スタークさん?」
「そうです。手術成功したって連絡みたいです。」
真魚さんがスマートフォンへ顔を寄せる。
「スタークさん、聞こえますか?」
『ん?誰だい?』
「風谷真魚です。この前、クロオ君がスタークさんを探すのに協力しました。」
『ああ、人間GPSの子か。』
「クロオ君!」
「説明のためです!」
『なるほど。』
電話の向こうでスタークさんが何やら納得した。そして、
『ガールフレンドか?』
「違いますよ。」
「違います。」
僕と真魚さんの声が綺麗に重なった。スタークさんが呆れたように、
『ジョークが通じないカップルか。』
「だから違いますって!」
「違います!」
また重なった。
『はいはい。』
「「はいは一回!」」
『面倒臭いな君たち。』
何でそっちがゲンナリしてるんですか。
『まあいい。クロオ。反省文頑張れよ。今度アメリカに来る時は普通の飛行機で来い。』
「そちらも、事件起こしたり、テロリストを挑発したりしないでくださいね。」
『それは保証できない。』
「してくださいよ!」
『じゃあな。そっちの彼女にもよろしく。』
「彼女じゃ――」
切れた。僕と真魚さんはスマートフォンを見る。
「……切られましたね。」
「切られたね。」
「スタークさん、こういうところありますから。」
「クロオ君。」
「はい?」
「手、止まってるよ。」
僕はゆっくり原稿用紙へ視線を戻した。まだ一枚目。残り、三枚と半分。
「……スタークさん。」
「何?」
「電話するなら、せめて反省文が終わってからにしてほしかった……。」
真魚さんが吹き出す。
「自業自得でしょ。」
「分かってますよ!」
僕は再びペンを握った。とりあえず、スタークさんは無事。胸の破片もなくなって、アークリアクターなしでも生きていけるようになった。アイアンマン3の事件は、これで本当に終わり。
あとは――
「反省文書くか……。」
目の前に残された、僕の戦いを終わらせるだけだった。