日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
ロキがいる収容区画へ向かって、僕は走っている。
赤い非常灯が点滅し、ヘリキャリアのあちこちから警報音が響いている。映画と流れが同じなら、コールソンさんはロキに刺される。
「間に合え……!」
床を蹴る。クウガの脚力なら、人間のまま走るより遥かに速い。
途中、武装したS.H.I.E.L.D.の隊員とすれ違う。僕を見て一瞬銃を向けそうになったけれど、すぐに止めてくれた。
『第4号――いや、クウガだ!』
誰かが叫ぶ。ちゃんとクウガって呼んでくれているのはちょっと嬉しい…………今はそれどころじゃない!
「ロキはどこですか!?」
『収容区画だ! ソーも向かっている!』
「ありがとうございます!」
そのまま駆け抜け収容区画へ。映画ではロキがソーを檻の中へ閉じ込めて、ヘリキャリアから落とし、その後でコールソンさんが現れる。
そして――。
「っ!」
曲がり角の先。そして話し声が聞こえてきた。
「君には信念がない。」
コールソンさんの声。
「だから負ける。」
僕は更に加速し、開いた隔壁の向こう。巨大な銃を構えるコールソンさんと、その正面にロキ。
映画と同じなら後ろから、
「コールソンさん!!」
僕の声にコールソンさんが反応するも、正面のロキから目を逸らさない。だから、背後に現れたロキに反応できない。
考えるより早く、僕は床を蹴った。
「うおおおおおっ!!」
ロキの後頭部目掛けて両足を揃えて、全力のドロップキック。
直撃!した、………はずだった。
ロキの身体を僕の両足が突き抜ける。
「え?」
手応えはなく、ロキの身体が煙みたいに消えた。
「しまっ――」
背中に冷たい感触を感じた次の瞬間。
ドスッ。
何かが突き刺さった。
「――っ!!」
「黒雄君!」
コールソンさんの声とは別に、背後からロキの声がする。
「面白い。」
刃が抜かれる。
「ぐっ、痛いなこの野郎……!」
クウガになっても痛いものは痛い。
「お前もミッドガルドの兵士か?」
「……日本の、高校生ですよ。」
「高校生?ああ、未成人の訓練生的なヤツか。」
ロキが笑う。
「この星は随分と人材不足らしい。」
仕方がない。僕は所詮パチモンだから。
「だが。」
セプターの先端に青い光が灯り、
「使えそうだ。」
ロキがセプターを僕の胸へ押し当ててくる。冷たい何かが身体の中へ入り込んでくる。
――精神操作。
これがクリントを操ったやつか!
「黒雄君!」
コールソンさんが銃を向けるが僕が邪魔で撃てない。
「安心しろ。」
ロキが耳元で囁く。
「すぐに楽になる。」
青い光が強くなり、頭の奥に何かが侵入して……………きてはいるけど、なんていうか、弱い?
いや弱くはないけど、正直究極の闇の破壊衝動に耐えた身からすると何とかなりそう。
ドクン。
そうこうしている内に、アマダムが脈打った。
「……ん?」
ロキの顔から笑みが消え、もう一度セプターを向けてくるけれど、体内の霊石が熱を持ち青い光を弾き返した。
「何?」
ロキが僅かに目を見開く。
うん、効かない。いや、正しくはもう効かない。
一瞬、何かが入り込んできた感じはあった。でも、パワーが足りなかったのか僕を洗脳するには至れず、その間にアマダムが適応してしまった。
「……残念。」
僕は拳を握る。
「僕には、ちょっと薄かったみたいです。」
「何を――」
そのままロキの顔面へ。
「ふんっ!!」
右ストレート。
ゴッ!!
完璧に入った。
「ぐっ!?」
ロキの身体が吹き飛び、隔壁を抜け、廊下の壁へ叩きつけられた。
「……痛っ。」
殴った僕も背中を押さえる。痛みはある、ただ、傷口から流れていた血はもう止まっている。
「黒雄君!」
コールソンさんが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「多分。」
「多分じゃ困ります!」
怒られた、助けたのに。
「ロキは?」
僕が顔を上げ、廊下の先を確認する。壁を砕いて吹き飛んだはずのロキは既に立ち上がりコチラを睨んでいた。
「……化け物め。」
「……神様め。」
張り合ってみた。
ロキは口元の血を拭うと、目には明確な怒りが浮べていた。
「貴様……。」
「殴られるのは嫌いですか?」
もう少しで回復するから、こちらに向かってきたらカウンターで――。
ドォンッ!!
横から光弾が飛んできて、ロキのすぐ横の壁が吹き飛んだ。
「次は当てます。」
コールソンさんがあの巨大な銃を構えている。
「…………」
ロキが僕たちを更に睨んでくるが、複数の足音も近づいてきている。ロキは舌打ちするように笑い、
「また会おう、少年。」
そう言い残して消えた。ペガサスなら追えるけど、
「黒雄君、大丈夫ですか!」
「大丈夫です、もう治りかけなんで。」
「何を言ってるんですか!あんなにガッツリ刺されたんですよ!早く救護班を。」
肩を貸してくるコールソンさんの、その横顔を見る。ちゃんと生きてる。
「……よかった。」
「何がです?」
「いや。」
思わず笑う。
「間に合ったなって。」
「?」
コールソンさんは当然意味が分からない顔をしていた。でもいいんだ、
一つ、伝説/原作を塗り替えたんだから。
ーーーーー
その後、ヘリキャリア内の混乱は、映画で見た通りに進んだ。ロキは逃げ、ソーもヘリキャリアから落とされ、ハルクも落下。スタークさんとスティーブさんは損傷したエンジンを復旧。ナターシャさんはクリントの洗脳を解除した。
ただし、コールソンさんは生きている。
そして、僕はというと、医務室で背中の刺し傷(ほぼ治りかけ)の治療中。
「本当に無茶をしますね。」
「すみません。でも、コールソンさんに言われたくないですよ。」
「私ですか?」
「一人でロキに立ち向かってたじゃないですか。」
「職務ですから。」
「僕もそんな感じです。」
「あなたは高校生です。」
「クウガでもあります。」
「…………。」
コールソンさんがため息をつく。
「一条刑事が心配する理由が分かりました。」
一条さん、この騒ぎ知ったら絶対怒るだろうな。帰国したら説教確定だ。それでも、人を助けるために頑張った、と伝えれば、あの人は褒めてくれる。そういう人だ。
「黒雄君。」
「はい?」
「ありがとうございました。あなたが来なければ、私は死んでいたかもしれません。」
「……いえ。」
そうですね、とは、さすがに言えない。
「間に合って良かったです。」
ーーーーー
それからしばらくして、ヘリキャリア内は妙な空気になっていた。
映画ではコールソンさんの死がバラバラだった皆を一つにするけれど、コールソンさんは生きている。つまり、同じ流れにはならなかった。
「テッセラクトの位置は割り出せる。」
ブリッジにてスタークさんが言う。
「ロキが必要とするのは巨大なエネルギー源だ。候補は絞れる。」
「ならすぐに探すべきだ。」
スティーブさんが食い気味に発言する。
「探している。」
フューリーが冷静に返すが余計に反感を買っている。
「ただし部隊を再編する必要がある。」
「再編してる間にロキが何をする?」
「勝手に動くよりはマシだ。」
「君はさっきからそればかりだな。」
また始まった。
スタークさんとフューリー、スティーブさんも苛立っている。バナー博士やソーには至ってはヘリキャリアから落下して行方不明。
騒ぎのせいで疲れているのが分かる。
クリントもまだ完全じゃないし、ナターシャさんはそんなクリントを気にしている。
簡単にいうと全くまとまってない。
「ロキはテッセラクトを使う。問題はどこで使うかだ。」
「見つけ次第叩けばいい。」
「だから場所を――」
また言い合いなってる。僕は少し離れたところでその様子を見ていた。
映画で見た、いや、映画より酷い不協和音になっているかもしれない。本来ならコールソンさんの死で皆が「やるしかない」って感じになっていたけれど、それがない。そのせいか誰も団結するための一歩を踏み出していない感じがする。
「…………。」
僕も段々イライラしてきた。いや、分かるよ?大人には色々あるだろうし、S.H.I.E.L.D.にも手順がある。
スタークさんも、スティーブさんも、皆が世界を守りたいとは思ってる。だけどさぁ、
「……あの。」
声を上げるが、誰も反応しない。
「フューリー、今は責任の所在を話してる場合じゃない。」
「だからこそ――」
「すみません!」
今度は大きめの声を出すと全員が僕を見る。
「何だ?」
フューリー。
「一つ聞いてもいいですか?」
「言え。」
「今の話。」
一度、皆を見る。
アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ブラック・ウィドウ、ホークアイ、そしてニック・フューリーとS.H.I.E.L.D.の職員たち。
ハルクとソーはいないけれど、世界最強のチームとして集められたメンバーたち。
それが不毛な会話を続けている。
「いつ終わります?」
「何?」
「いや。」
思わず声に出してしまった。
「ロキをどう止めるかって話をしてるんですよね?」
「ああ。」
「なのに。」
スタークさんを見る。スティーブさんを見る。フューリーを見る。
「ずっと誰が悪いとか、どう動くべきだった、とか。」
言葉が止まらない。
「それ、今やることですか?」
静かになった。
「黒雄君。」
コールソンさんが僕を見てくる。多分止めようとしてる。でも、もういい。
「ロキは逃げました。テッセラクトも向こうにある。このままなら、たくさん人が危険なんですよね?」
前世の記憶があるから知っている。ニューヨークの戦い。チタウリの軍勢。街が戦場になり逃げ惑う人々。
「なら。僕は行きます。」
「どこへ?」
スタークさんが聞く。
「ニューヨーク。」
今度こそ、全員の表情が変わった。
「なぜニューヨークだ?」
フューリーが理由を聞いてくる。そこ説明しないと駄目か。
「……勘です。」
「勘?」
「クウガの?」
ナターシャさんが聞いてくる。
「はい。クウガの勘です。」
原作知識です、とは言えない。ただ、グロンギと戦っていた時もたまに使っていた言い訳だったりする。
一条さん含め、「霊石アマダムが見せる未来視か何かか?」って警察の皆さんは勝手に納得してくれたけれど、
「それは信用できないな。」
ですよね、スタークさん。
「だが、」
スタークさんが少し考える。
「ニューヨーク。」
そして、何かに気づいたように表情が変わる。
「……スターク・タワーか。」
「え?」
僕が聞き返すが、スタークさんはもうこちらを見ていなかった。
「ロキには観客が必要だ。」
一人で思考を進めている。
「派手好き。自己顕示欲。勝利を見せつけたがる。」
そして。
「巨大なエネルギー源。」
顔を上げる。
「タワーのアーク・リアクターだ。」
あ、映画通りになった。
「ジャーヴィス!」
スタークさんが走り出す。
「タワーのシステムを確認しろ!」
空気が一気に変わった。
「待て、スターク!」
フューリーが呼び止める。
「時間がない。」
スタークさんは止まらない。
「ロキはもう動いてる。」
それを見てスティーブさんも動く。
「装備を。」
ナターシャさんも、クリントを見る。
「行ける?」
「行く。」
良かった、これならーーーいや、少し遅いか。
「コールソンさん。」
「はい?」
「お願いがあります。」
「何でしょう。」
「僕を先にニューヨークまで送れませんか?」
コールソンさんが目を瞬く。
「先に?」
「はい。」
「待て。」
フューリーが即座に口を挟んだ。
「勝手に動くな。部隊として動け。」
「今まで部隊になってなかったじゃないですか。」
しまった、ちょっと強く言いすぎたかな?………フューリーは怒らなかった。ただ、僕を睨むだけ。
「さっきロキに刺されたばかりだ。」
コールソンさんの心配もありがたいけれど、
「治りました。」
今は不要だ。
「だからといって無茶をしていいわけではないよ。」
「分かってます。」
分かってる。一条さんにも散々言われた。それでも。
「それでも行きます。」
僕は全員を見る。
「だって。」
少しだけ息を吸う。
「人を助けるために集まったんですよね?」
誰も答えない。
「世界を守るために。」
それなら。
「話し合いが必要なら、すればいいと思います。」
でも。
「人を助けるための話し合いをしないなら、僕は一人でも行きます。」
十五歳の頃。一条さんに会うまでは一人で戦っていた。家もなくて。金もなくて。それでもグロンギが人を殺すと知っていたから追いかけた。
あの頃に比べれば、今はずっと恵まれてる。
「だって、僕はクウガです。人を助けられるなら、行きます。」
スタークさんがじっと僕を見てくる。スティーブさんも。
そして。
「……コールソン。」
フューリーがコールソンさんを呼ぶ。
「はい。」
「クインジェットを一機、」
「!」
「最速でニューヨークへ飛ばせ。」
思わずフューリーを見る。
「いいんですか?」
「勝手に飛び出されるよりマシだ。」
……それだけ?
「ただし。」
指を向けられる。
「単独行動は許可しない。」
「え?」
「コールソン。」
「はい。」
「同行しろ。」
今度はコールソンさんが少し驚いた。
「私が?」
「奴を連れてきた責任を持て。」
「了解しました。」
即答。え?マジで?
「コールソンさん。」
「なんでしょう。」
「また危ないですよ?」
「あなたに言われたくありません。」
ごもっとも。
「黒雄。」
スティーブさんが僕を呼ぶ。
「はい。」
「先に行くのは構わない。」
真面目な顔。
「ただし。」
盾を手に取る。
「一人で全部やろうとするな。」
「……はい。」
「僕らもすぐに行く。」
「はい。」
「せっかく先に行くなら、精々派手に暴れておいてくれ。」
「スターク。」
スティーブさんが睨む。
「何だい?」
「煽るな。」
笑いそうになった。
「クロオ。いや、クウガ。」
スタークさんに呼ばれ、振り返る。
「はい?」
「僕の街だ。」
いつもの軽い口調だけれど、目は笑ってない。
「壊しすぎるなよ。」
「努力します。」
「努力?」
「保証はできません。」
グロンギと戦ってる時、結構壊しちゃったし。
「……気に入ったよ。」
スタークさんが少し笑う。
「先に行ってろ。」
「はい!」
僕は頷き、コールソンさんと一緒に格納庫のクインジェットに乗り込む。アベンジャーズは映画よりも早く動き始めていた。
コールソンさんも生きている。
僕もいる。
ニューヨーク。
ロキと、チタウリとの戦いの地。
「黒雄君。」
コックピットのコールソンさんが僕に話しかけてくる。
「はい?」
「先ほどの言葉。」
「何です?」
「一人でも戦う、と。」
あ。怒られる?
「もう言わないでください。」
「……はい。」
やっぱり怒られた。
「あなたは一人ではありません。」
でも、続いた言葉は優しかった。
「日本にも。」
コールソンさんは前を向いたまま言う。
「ここにも、あなたを助けようとする人間がいます。」
「…………。」
一条さん。
警察のみんな。
そして、アベンジャーズと呼べるほどまとまってないけれど、ここにいる皆さん。
「……そうですね。」
僕は笑う。
「すみませんでした。」
「分かってくれればいいです。」
クインジェットが動き出し、エンジンが唸る。
ニューヨーク。初めてヒーローたちがアベンジャーズになる戦場。
そこに僕も行く。
「……よし。」
拳を握る。
「行きましょう、コールソンさん。」
「ええ。」
クインジェットがヘリキャリアを離れる。
目指すはニューヨーク、スターク・タワー。
――アベンジャーズの戦いが、今度こそ始まる。
ーーーーー
「あ、このハンドル握っても大丈夫ですか?」
「ん?ああ大丈夫だよ。でも、握ってもメインはコッチだーー」
「えい。」
気合注入。
クインジェットにクウガのエンブレムが浮かび上がる。
「ちょ、スピードが上がってーー」
ーーーーー