日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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胎動

 

 

光が消えた。

 

「……おお。」

 

思わず、そんな声が漏れた。目の前に広がっているのは、僕が映画で見た景色。黄金に輝く巨大な建造物。遥か遠くまで広がる海。そして、その中心にそびえ立つ巨大な王宮。神々の国――アスガルド。

 

「本当に来ちゃった……。」

 

隣で真魚が呆然と呟く。

 

「僕も同じ感想。」

 

ニューヨークでソーと一緒に戦ったし、宇宙人にも会った。神様みたいな存在とも何度か話した。それでも、実際に地球の外へ来るのは、やっぱり別物だった。

 

「ようこそ、アスガルドへ。」

 

低い声が響く。振り向けば、黄金の鎧を身につけた大男が立っていた。ヘイムダルだ。

 

「久しぶりだな、クロオ。」

 

「えっと?お久しぶりです。」

 

僕は頭を下げる。初対面だよな?あ、もしかして、

 

「前に庭から呼んだ時、無視されました?」

 

「必要がなかったからな。」

 

「聞こえてたんだ!?」

 

隣で真魚が吹き出す。

 

「ふふっ。」

 

「笑わないで。」

 

「だって。」

 

「クロオ。」

 

ソーに呼ばれ、僕は顔を上げる。

 

「話は後だ。まずはジェーンを診てもらう。」

 

「あ、はい。」

 

そうだった。

 

観光に来たわけじゃない。僕たちはビフレストを後にし、そのまま王宮へ向かった。

 

―――――

 

アスガルドの治療室。ジェーンは台の上に横たわり、その周囲を何人もの治療師が囲んでいた。身体の上には、細かな光の粒子が集まり、人の形を作っている。

 

「量子場生成装置?」

 

ジェーンが呟き、治療師の女性が首を傾げた。

 

「ソウル・フォージです。」

 

「ソウル・フォージ……。」

 

ジェーンが少し考えて、

 

「量子場生成装置ね。」

 

「多分違うと思います。」

 

僕は苦笑する。科学者って本当にどこへ行っても科学者なんだな。

 

「クロオ。」

 

「ん?」

 

真魚が小声で話しかけてくる。

 

「あれ、何してるの?」

 

「僕に聞かれても分からない。」

 

「未来知ってるんじゃないの?」

 

「全部覚えてるわけじゃないから。」

 

というか、この辺りの専門用語なんて覚えてるわけがない。やがて治療師たちの表情が変わった。

 

「何かが彼女の身体の中にあります。」

 

ソーが眉を寄せる。

 

「取り除けるか?」

 

「分かりません。これまで見たことがないものです。」

 

その時。

 

「それは物ではない。」

 

低い声が響き、全員が振り向く。

 

「父上。」

 

ソーがそう呼ぶのは一人だけ。僕も思わず背筋を伸ばす。片目を眼帯で覆い、手には杖。そこに立っているだけで周囲の空気が変わる存在。

 

アスガルドの王、オーディン。

 

「それをどこで見つけた。」

 

オーディンはジェーンではなく、ジェーンの中にあるものを見ている。

 

「父上、ジェーンは――」

 

「ミッドガルドの女だろう。」

 

ソーの言葉を遮る。

 

「ここへ連れてくるべきではなかった。」

 

「父上。」

 

ソーの声が低くなる。

 

「彼女の身体に異変が起きています。」

 

「ならばミッドガルドで治療を受けさせればよい。」

 

「できないから連れてきたのです。彼女を助けたい。」

 

二人の間に重い空気が流れる。その時、

 

「……感じ悪い。」

 

「真魚!?」

 

僕は思わず隣を見ると、真魚がオーディンを睨んでいた。

 

いやいやいやいや。待って、相手、王様。しかも神様の。

 

「何だと?」

 

当然、オーディンにも聞こえていた。

 

「真魚。」

 

僕は小声で呼ぶ。

 

「少し黙ろうか。」

 

「だって。」

 

「お願いだから。」

 

しかし真魚は止まらない。

 

「ジェーンさん、具合悪いんですよね?なのに、何でそんな言い方するんですか?」

 

「真魚!」

 

「クロオは黙ってて。」

 

「はい。」

 

黙らされた。真魚はオーディンを真っ直ぐ見る。

 

「地球人だから何ですか?」

 

「ここはアスガルドだ。」

 

「だから?」

 

「ここはミッドガルド人が来る場所ではない。」

 

「でも、ソーが連れてきたんですよ?だったら、まず助ける方法を考えるべきじゃないですか?それに、具合悪い人に、来るべきじゃなかったとか言う必要ないと思います。」

 

治療室が静まり返る。ソーも黙っている。ジェーンまで目を丸くしている。僕は頭を抱えたくなった。この子、神々の王に説教してるよ。

 

「……クロオ。」

 

ソーが小声で呼ぶ。

 

「何です?」

 

「勇敢な娘だな。」

 

「僕も今初めて知りました。」

 

オーディンはしばらく真魚を見つめていた。怒るかと思った。でも、

 

「……なるほど。」

 

それだけ言って、視線をジェーンへ戻す。

 

「だが、その女に宿っているものは、病などではない。」

 

オーディンが杖を床へ突く。空中に光が広がり、古い書物のような映像が現れる。

 

「それはエーテル。」

 

「エーテル……。」

 

ジェーンが繰り返し、僕は黙って映像を見る。

 

「世界が始まる以前、闇があった。」

 

オーディンの声が響く。

 

「そして、その闇より生まれた種族がいる。ダークエルフだ。」

 

映像の中に、白い仮面を被った者たちが現れる。

 

「彼らは光を憎み、宇宙をかつての闇へ戻そうとした。その王、マレキスはエーテルの力を用い、九つの世界すべてを闇へ沈めようとした。」

 

「それを止めたのがアスガルド?」

 

ジェーンが尋ねる。

 

「我が父、ボーだ。」

 

オーディンが答える。

 

「ダークエルフは滅ぼされ、エーテルは誰にも見つからぬ場所へ封じられた。」

 

「でも。」

 

真魚がジェーンを見る。

 

「それがジェーンさんの中に入っちゃった。」

 

「そういうことだ。」

 

オーディンの表情が険しくなる。

 

「エーテルは単なる物質ではない。無限の力を秘めた古代の存在だ。」

 

僕はその言葉を聞きながら、無意識に腹へ手を当てる。アークルの中心にあるアマダムへ。ジェーンの中にあるエーテルにずっと反応している。

 

「……あの。」

 

僕は手を上げると、オーディンがこちらを見る。

 

「何だ。」

 

「一つ聞いていいですか?」

 

「申せ。」

 

「僕の力が、エーテルに反応してるんです。」

 

ソーが僕を見る。

 

「お前の力が?」

 

「はい。」

 

僕は腹部へ手を当てる。

 

「地球にいた時からずっとです。近くに来てからは、もっと強くなりました。」

 

「それは何だ。」

 

オーディンの視線が鋭くなる。

 

「アマダムって呼んでます。」

 

「アマダム……。」

 

「僕自身も詳しいことは分かってません。」

 

オーディンが僕を見つめる。

 

「こちらへ来い。」

 

「はい。」

 

僕はオーディンの前まで歩く。

 

「力を抜け。」

 

「分かりました。」

 

オーディンが片手を僕へ向けると、空気が変わった。

 

「……っ。」

 

身体の奥に、何かが触れてくる。アマダム。そこに宿る力を、外側から覗かれている。少し気持ち悪い、でも敵意は感じない。だから僕は抵抗しなかった。

 

「…………。」

 

オーディンの表情が変わる。最初は探るような顔だった。それが、

 

「……何だ、これは。」

 

「父上?」

 

ソーが反応するが、オーディンは答えない。僕を見たまま、さらに力を強める。アマダムの奥、さらに奥。僕自身ですら意識したことのない場所へ。そして、

 

「……見えぬ。」

 

「え?」

 

オーディンが手を下ろした。

 

「父上。」

 

「測れぬ。」

 

その声には、明らかな驚きが混じっていた。

 

「この私でも、底が見えぬ。」

 

「……そんなに?」

 

僕自身が一番驚く。オーディンはジェーンへ視線を向ける。正確には、その身体に宿るエーテルへ。そして再び僕を見る。

 

「エーテルは、宇宙創生より存在する力の一つだ。」

 

「はい。」

 

「だが。」

 

オーディンが僕の腹部を見る。

 

「お前の内にあるものは、それを上回っている。」

 

「…………はい?」

 

聞き間違いかと思った。

 

「本当ですか父上。」

 

ソーも驚いている。

 

「クロオの力の源はエーテル以上だと?」

 

「ああ。」

 

オーディンの目が細くなる。

 

「少なくとも、内包されている力の規模だけで見ればな。」

 

「いやいやいやいや。」

 

僕は慌てて首を振る。

 

「そんなわけないですよ。」

 

エーテルだよ?インフィニティ・ストーンだよ?

 

「僕、そんな宇宙壊せそうな力持ってませんよ!?」

 

「今のお前が扱える力の話ではない。」

 

オーディンが言う。

 

「器の奥に眠るものだ。」

 

「眠る……。」

 

「幾重にも閉ざされている。封印されている、と表現した方が近いかもしれぬ。」

 

僕はアマダムへ触れる。闇の力も言っていた。アマダムは宇宙由来の力だと。でも、インフィニティ・ストーンより上?

 

「……何なんだよ、これ。」

 

答えは返ってこない。アマダムは、ただ静かに脈打っていた。

 

―――――

 

それから少しして。ジェーンの容態が安定したため、僕たちは一旦治療室を出ることになった。ソーはオーディンと話があるらしい。僕も残ろうかと思ったけれど。

 

「クロオ。」

 

「何?」

 

「女子だけで話したい。」

 

「……はい。」

 

真魚に追い出された。というわけで、

 

「何で僕だけ廊下なんだろう。」

 

アスガルドまで来て廊下待機。豪華な廊下だけど。その頃、部屋の中では、

 

「あなたがジェーンね。」

 

柔らかな声と共に、一人の女性が入ってきた。美しい金色の髪。優しげな表情。けれど、その立ち姿には王族らしい気品がある。

 

「母上。」

 

ソーがいればそう呼んだだろう、アスガルド王妃。フリッガ。

 

「初めまして。」

 

ジェーンが少し緊張しながら立ち上がる。

 

「ジェーン・フォスターです。」

 

「知っています。」

 

フリッガが微笑む。

 

「ソーから聞いていますから。」

 

「……どんな風に?」

 

「それは秘密です。」

 

ジェーンの顔が少し引きつる。

 

真魚が笑う。

 

「絶対いっぱい話してる。」

 

「ちょっと。」

 

「だってソー、ジェーンさんのこと大好きそうだったし。」

 

「真魚!」

 

ジェーンが慌てるが、フリッガは楽しそうに笑った。

 

「あなたが真魚ね。」

 

「はい。風谷真魚です。」

 

「あなたのことも、先ほど聞きました。」

 

「誰からですか?」

 

「オーディンから。」

 

真魚の顔が固まる。

 

「……怒ってました?」

 

「いいえ。」

 

フリッガが微笑む。

 

「随分とはっきり物を言う娘だ、と。」

 

「……すみません。」

 

「謝る必要はありません。」

 

フリッガは真魚の隣へ腰掛ける。

 

「夫には、あれくらい言う者がいた方がよいのです。」

 

「王様ですよね?」

 

「だからこそです。」

 

「……大変なんですね。」

 

「ええ、とても。」

 

「王妃様も苦労してるんだ……。」

 

「真魚。」

 

ジェーンが小声で止める。

 

「何?」

 

「もうちょっと遠慮しない?」

 

「フリッガさんがいいって言ってるし。」

 

「まだ言ってないわよ。」

 

「ふふっ。」

 

フリッガが笑う。

 

「構いません。」

 

ジェーンも諦めたように息を吐く。

 

「……なんだか、地球にいる時と変わらない。場所は神々の国なのに。」

 

ジェーンは少しだけ表情を曇らせる。

 

「でも……私の中に、宇宙を滅ぼしかねないものが入ってる。」

 

真魚がジェーンを見る。

 

「怖い?」

 

「……少しね。」

 

「大丈夫。」

 

真魚が即答する。

 

「クロオがいるから。」

 

「クロオ?」

 

「うん。」

 

真魚は当然のように頷く。

 

「何とかしてくれるよ。」

 

「随分信用しているのね。」

 

フリッガが言う。

 

「はい。」

 

真魚は迷わなかった。

 

「クロオ、無茶ばっかりするし、すぐ危ないことするし、自分のこと後回しにする。でもね、誰かを助けるって決めたら、絶対に諦めないから。」

 

ジェーンが少し微笑む。

 

「ソーと似てる。」

 

「あー。」

 

真魚が納得したように頷く。

 

「確かに。」

 

「でしょう?」

 

「でもクロオの方が常識あるよ。」

 

「それは否定できないかも。」

 

「聞こえてるからね!?」

 

三人が扉を見る。

 

「聞いてたの?」

 

真魚が言う。

 

「聞こえるんだよ!」

 

「盗み聞き?」

 

「不可抗力!」

 

ジェーンが吹き出す。

 

「ふふっ。」

 

フリッガも笑う。

 

「仲が良いのね。」

 

「普通です。」

 

真魚が答え、ジェーンが笑う。さっきまでの不安そうな表情が、ほんの少しだけ消えていた。フリッガはそんな二人を見つめ、穏やかに微笑む。けれど、その瞳が一瞬だけ、窓の外へ向いた。

 

ーーーーー

 

闇の中で、長い眠りから目覚めた者たちがいる。そして、ジェーンの中に宿ったエーテルが、その存在を呼び寄せている。ダークエルフの王――マレキス。彼らはすでに、アスガルドへ向けて、動き始めていた。

 

ーーーーー

 

僕は治療室の外、やたら豪華な廊下の壁にもたれながら、腕を組んでいた。女子だけで話したい。そう言われて追い出されたわけだけど。今はむしろ、一人になれたのは都合がいい。

 

僕がアスガルドまで来た理由。ダークエルフを倒し、エーテルをどうにかする。もちろん、それらも大事だけど。一番は、

 

「フリッガさんを死なせないことだよな。……どうやって死んでしまうんだっけ?」

 

細かい流れが曖昧だ。マレキスとかいうダークエルフの親玉がアスガルドを襲撃してジェーンを狙う。フリッガはジェーンを守ろうとして殺される。でも、何か足りないような。

 

「どういう流れで、そこまで行った?」

 

いきなりマレキスが王宮に現れるわけじゃない。確か、

 

「……潜入。」

 

そうだ、最初に誰かが潜り込んでた。ダークエルフの一人が確か、捕虜として、

 

「捕虜……牢屋……。」

 

そこから牢獄で何かが起きる。ロキが牢獄にいたシーンもあった気がする。それから脱獄と暴動がおきて、それに合わせるように、ダークエルフの艦隊がアスガルドを襲撃する。混乱に乗じて王宮に侵入されて、

 

「フリッガさん、確か強いんだよな。でも、」

 

マレキスの側近にもう一人強い奴がいた………よな?

 

名前は全然出てこない。ただ、そいつが来たせいでフリッガさんが殺されてしまうはずだ。………今なら、まだ間に合う。

 

僕は治療室の扉を開けた。

 

「失礼します!」

 

「クロオ?」

 

真魚が振り返り、ジェーンとフリッガもこちらを見てくる。

 

「どうしたの?」

 

「フリッガさん。」

 

僕は真っ直ぐフリッガを見る。

 

「一つ確認したいことがあります。」

 

「何でしょう?」

 

「今日、アスガルドに捕虜が来てたりしません?」

 

フリッガは少しだけ考えた後、

 

「ええ。ヴァナヘイムでの戦いで捕らえられた者たちが、先ほど移送されてきたはずです。」

 

「やっぱり!」

 

思わず声が大きくなる。

 

真魚が目を瞬いた。

 

「それがどうしたの?」

 

「その中にダークエルフがいるはずなんだ。」

 

僕の発言を聞き、フリッガの表情から先ほどまでの柔らかさが消える。

 

「確かなのですか?」

 

「多分。」

 

「多分?」

 

「僕の勘、未来の知識だとそのはずです。」

 

「相変わらず微妙に頼りないよね。」

 

フリッガは真剣な表情のまま、

 

「未来の知識、ですか?」

 

どう説明しよう。

 

「僕はこれから起こることを、ある程度知っています。」

 

結局、ざっくりした説明になってしまった。

 

「未来を見る力を?」

 

「見るというより……知ってる、ですね。全部じゃありません。曖昧ですし、細かいところはかなり忘れてます。でも、大きな出来事は覚えてます。」

 

フリッガは少しだけ僕を見つめてくる。その視線は優しく、でも、ただ優しいだけじゃない。相手の言葉の奥まで見ようとしているような目だ。

 

エンドゲームで未来から来たソー、心も身体もボロボロになった息子を見て、何も知らないはずのフリッガはすぐに気づいていた。息子が苦しんでいることに。そして、厳しくも優しく道を示していた。……そうだった。この人は、こういう人だ。なら、

 

「全部話します。今日、アスガルドはダークエルフによって襲撃されます。」

 

ジェーンが息を呑んだ。

 

「目的は?」

 

フリッガが静かに尋ねてくる。

 

「ジェーンさんの中にあるエーテルです。」

 

ジェーンが自分の身体へ視線を落とす。

 

「私の中にある……。」

 

そして、ここからが一番重要だ。本人にその人の未来を伝えるのは緊張するな。

 

「その襲撃の中で、あなたは亡くなります。ジェーンさんを守るために。」

 

ジェーンの顔が強張る。

 

「私を……?」

 

「敵の親玉がここまで来て、フリッガさんはジェーンさんを隠して戦います。多分、マレキスには勝てます。でも、もう一人、」

 

「もう一人?」

 

「ごめんなさい、具体的には思い出せなくて。でも、ダークエルフの中に、とんでもなく強い奴がいるんです。そいつにーー」

 

殺される。そこまで言わなくても伝わったようで、フリッガは目を閉じる。

 

「なるほど。」

 

「……信じてくれますか?」

 

「あなたが嘘をつく理由がありません。それに、あなたはその未来を変えるためにここへ来てくれたのでしょう?」

 

僕は頷く。

 

「……はい。そのために来ました。」

 

フリッガが微笑んだ。

 

「ならば、信じましょう。」

 

そう言って立ち上がる。

 

「捕虜は王宮地下、西側の牢へ移送されています。」

 

「西側。」

 

「ここを出て右へ。二つ目の階段を下り、回廊を抜けなさい。その先に衛兵の詰所があります。地下牢へ続く道を尋ねれば分かります。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ですが、王宮内で足止めされるのは面倒でしょう。」

 

フリッガが腰へ手を伸ばし、一振りの短剣を手渡してくる。

 

「これを。」

 

「……え?」

 

差し出された短剣を見て、僕は固まった。

 

「いやいやいや。王妃様の武器ですよね、それ?」

 

「ええ。」

 

「貰えませんよ!?」

 

「貸すだけです。」

 

「あ、貸すだけ。」

 

それなら――いやいや、それでも畏れ多い。

 

「この短剣には、王妃である私の権限が刻まれています。」

 

「権限?」

 

「城内の大概の扉は、これを示せば開きます。」

 

「……便利。」

 

「そして、これを持つ者は、城内において私の名代として扱われます。」

 

僕は短剣を見て、もう一度フリッガを見る。

 

「重くないですか、それ。」

 

「軽いですよ?」

 

「そういう意味じゃなくて。」

 

王妃の名代が地球人の高校生。………でも、必要になるかもしれない。今から地下牢へ向かって、途中で兵士に説明している時間なんてない。

 

「分かりました。」

 

僕は両手で短剣を受け取る。

 

「お借りします。そして、絶対にお返しします。」

 

「期待しています。」

 

短剣を腰へ差す。………ちょっと格好良い。

 

「まずは牢へ行って、侵入したダークエルフを撃退してきます。」

 

侵入してきた奴を倒せば、少なくとも展開は変わる。その後は………その後だ。

 

「真魚。フリッガさんと一緒にいて。」

 

「分かった。」

 

「自分の身を最優先で守ること。」

 

「……分かってる。」

 

「本当に?」

 

「分かってるって。」

 

「何かあったらすぐテレパシーで呼んで。僕に直接飛ばしてくれれば、何があっても戻るから。」

 

「うん。」

 

僕は扉へ向かう。

 

「行ってきます。」

 

「クロオ。」

 

フリッガに呼ばれ、振り返る。

 

「無茶はしないように。」

 

真魚を見ると、真魚も僕を見ていた。

 

「無理じゃない?」

 

「そんなことはーー」

 

「だってクロオだよ?」

 

「僕への信頼どうなってるの?」

 

フリッガが小さく笑った。

 

「では、生きて戻りなさい。」

 

「はい。」

 

それならできる。僕は部屋を飛び出した。

 

―――――

 

「王妃フリッガ様よりお預かりしています!」

 

短剣を見せる。

 

「通れ!」

 

「ありがとうございます!」

 

すごい!本当に全部通れる。王妃様の権力すごい。

 

「こっちか!」

 

階段を駆け下りる、まだ大きな音は聞こえてこない、間に合ったか?地下牢へ続く最後の扉が見えたので短剣をかざす。扉が開く、

 

――ドォン!!

 

爆発音が響いた。

 

「嘘でしょ。」

 

間に合ってないんかい!

 

「変身!」

 

装甲を見に纏う。色はいきなり青。ドラゴンフォームになって床を蹴る。地下牢へ飛び込むと、

 

「うっわ。」

 

既に滅茶苦茶だった。牢が破壊され、囚人たちが逃げ出し、兵士と戦っている。その中央を巨大な男が歩いていた。黒く変質した身体に異様に膨れ上がった筋肉。

 

「いた!」

 

名前なんだっけ!?アル……、アル……。

 

「……駄目だ出てこない!………止まれ!」

 

名前が思い出せないので、とりあえず相手に向かって叫ぶ。しかし、男は僕を見ないで、そのまま歩いていく。そして、一つの牢の前で立ち止まった。

 

「……ロキ。」

 

牢屋の中に、椅子に座ったロキがいた。

 

「これはこれは。」

 

ロキが僕にも気づいた。

 

「久しぶりだな、クロオ。いや、今の姿ならクウガか?」

 

「久しぶりです! じゃなくて!」

 

巨大な男がロキを見ている。何かを察したのかロキは、

 

「出口を探しているのか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、思い出した。

 

「待ったぁぁぁぁ!!」

 

僕は全力で叫び、ロキが目を丸くする。

 

「何だ?」

 

「そいつに道を教えないで!」

 

「……なぜ?」

 

「いいから!」

 

男が振り向いた。その視線は僕を睨みつけている。そう思った次の瞬間、床は砕け、奴は一瞬で目の前に来ていた。

 

「速――」

 

ドラゴンロッドを盾に、………まだ作ってなかった!?

 

――ガァン!!

 

「ぐっ!?」

 

身体が吹き飛び、壁に激突する。痛いなコンチクショウ!

 

「クロオ。」

 

ロキが牢の中から声をかけてくる。

 

「知り合いか?」

 

「違います!」

 

「ではなぜ襲われている?」

 

「色々あるんです!

 

男が再び迫る。

 

「とにかく!」

 

僕は超変身の構えを取る。

 

「お前はここで止める!」

 

―――――

 

その頃。アスガルド上空で静寂に包まれていた空間が、歪んだ。何もない、そう見えていた場所から巨大な黒い船体が姿を現す。

 

一隻、二隻、三隻。そして――無数にその数は増え、警戒の鐘が鳴り響いた。

 

「敵襲!!」

 

「空から来るぞ!」

 

アスガルド軍も一斉に動き出し、黄金の都に火の手が上がった。

 

―――――

 

窓の外を見た真魚が固まる。遠くで爆発が起き、空を飛び交う黒い船。鳴り響く警報。

 

「……クロオ。」

 

「真魚?」

 

ジェーンが声をかける。真魚の額には青筋が浮かんでいた。

 

「襲撃の規模は正しく教えておいてよ。」

 

『今日アスガルドが襲撃されます。』

 

とは言っていた。言っていたけれど、

 

「これ、戦争じゃん!」

 

想像していたのと全然違う!

 

「帰ってきたら説教。」

 

真魚が呟くとその隣で、

 

「そうしなさい。」

 

フリッガは微笑みながら、

 

「これからもしっかり尻に敷いておやりなさい。」

 

「当然ですね。」

 

「当然なの!?」

 

ジェーンだけが突っ込んだ。

 

―――――

 

そしてビフレスト。

 

ヘイムダルが虹の橋の先に立っているそのすぐ横。甲虫のような存在が、ちょこんと鎮座していた。ゴウラムとヘイムダルは、しばらく無言で向き合い、

 

「お前も来ていたのか。」

 

『ーーー。』

 

ゴウラムが小さく羽を動かす。

 

「気づかなかった。」

 

『ーーーー。』

 

どこか誇らしげだった。どうやらビフレストに入る直前、ちゃっかりクロオについてきたらしい。ヘイムダルは再び宇宙を見つめ、ゴウラムも同様に宇宙を見る。

 

『…………。』

 

実に静かだった。クロオたちが王宮へ向かってから、こちらには特に何も起きていない。

 

「お前の主人は。」

 

ヘイムダルが口を開く。

 

「随分と慌ただしい男だな。」

 

『ーーー。』

 

ゴウラムが低く鳴いた。どことなく、

 

――全くだ。

 

と言っているように聞こえた。

 

次の瞬間、ヘイムダルの目が鋭くなる。

 

「……来たか。」

 

何もない空間。だが、彼には見えている。こちらへ向かってくる姿を隠した巨大な船が。ヘイムダルが剣へ手を伸ばす。

 

「ゴウラム。」

 

『――!』

 

「どうやら。」

 

黄金の瞳が、迫り来る敵を捉える。

 

「主人の慌ただしさが、こちらにも伝染したようだ。」

 

ダークエルフの艦隊が姿を現し、アスガルドへの襲撃が、始まった。

 

 

 

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