日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
光が消えた。
「……おお。」
思わず、そんな声が漏れた。目の前に広がっているのは、僕が映画で見た景色。黄金に輝く巨大な建造物。遥か遠くまで広がる海。そして、その中心にそびえ立つ巨大な王宮。神々の国――アスガルド。
「本当に来ちゃった……。」
隣で真魚が呆然と呟く。
「僕も同じ感想。」
ニューヨークでソーと一緒に戦ったし、宇宙人にも会った。神様みたいな存在とも何度か話した。それでも、実際に地球の外へ来るのは、やっぱり別物だった。
「ようこそ、アスガルドへ。」
低い声が響く。振り向けば、黄金の鎧を身につけた大男が立っていた。ヘイムダルだ。
「久しぶりだな、クロオ。」
「えっと?お久しぶりです。」
僕は頭を下げる。初対面だよな?あ、もしかして、
「前に庭から呼んだ時、無視されました?」
「必要がなかったからな。」
「聞こえてたんだ!?」
隣で真魚が吹き出す。
「ふふっ。」
「笑わないで。」
「だって。」
「クロオ。」
ソーに呼ばれ、僕は顔を上げる。
「話は後だ。まずはジェーンを診てもらう。」
「あ、はい。」
そうだった。
観光に来たわけじゃない。僕たちはビフレストを後にし、そのまま王宮へ向かった。
―――――
アスガルドの治療室。ジェーンは台の上に横たわり、その周囲を何人もの治療師が囲んでいた。身体の上には、細かな光の粒子が集まり、人の形を作っている。
「量子場生成装置?」
ジェーンが呟き、治療師の女性が首を傾げた。
「ソウル・フォージです。」
「ソウル・フォージ……。」
ジェーンが少し考えて、
「量子場生成装置ね。」
「多分違うと思います。」
僕は苦笑する。科学者って本当にどこへ行っても科学者なんだな。
「クロオ。」
「ん?」
真魚が小声で話しかけてくる。
「あれ、何してるの?」
「僕に聞かれても分からない。」
「未来知ってるんじゃないの?」
「全部覚えてるわけじゃないから。」
というか、この辺りの専門用語なんて覚えてるわけがない。やがて治療師たちの表情が変わった。
「何かが彼女の身体の中にあります。」
ソーが眉を寄せる。
「取り除けるか?」
「分かりません。これまで見たことがないものです。」
その時。
「それは物ではない。」
低い声が響き、全員が振り向く。
「父上。」
ソーがそう呼ぶのは一人だけ。僕も思わず背筋を伸ばす。片目を眼帯で覆い、手には杖。そこに立っているだけで周囲の空気が変わる存在。
アスガルドの王、オーディン。
「それをどこで見つけた。」
オーディンはジェーンではなく、ジェーンの中にあるものを見ている。
「父上、ジェーンは――」
「ミッドガルドの女だろう。」
ソーの言葉を遮る。
「ここへ連れてくるべきではなかった。」
「父上。」
ソーの声が低くなる。
「彼女の身体に異変が起きています。」
「ならばミッドガルドで治療を受けさせればよい。」
「できないから連れてきたのです。彼女を助けたい。」
二人の間に重い空気が流れる。その時、
「……感じ悪い。」
「真魚!?」
僕は思わず隣を見ると、真魚がオーディンを睨んでいた。
いやいやいやいや。待って、相手、王様。しかも神様の。
「何だと?」
当然、オーディンにも聞こえていた。
「真魚。」
僕は小声で呼ぶ。
「少し黙ろうか。」
「だって。」
「お願いだから。」
しかし真魚は止まらない。
「ジェーンさん、具合悪いんですよね?なのに、何でそんな言い方するんですか?」
「真魚!」
「クロオは黙ってて。」
「はい。」
黙らされた。真魚はオーディンを真っ直ぐ見る。
「地球人だから何ですか?」
「ここはアスガルドだ。」
「だから?」
「ここはミッドガルド人が来る場所ではない。」
「でも、ソーが連れてきたんですよ?だったら、まず助ける方法を考えるべきじゃないですか?それに、具合悪い人に、来るべきじゃなかったとか言う必要ないと思います。」
治療室が静まり返る。ソーも黙っている。ジェーンまで目を丸くしている。僕は頭を抱えたくなった。この子、神々の王に説教してるよ。
「……クロオ。」
ソーが小声で呼ぶ。
「何です?」
「勇敢な娘だな。」
「僕も今初めて知りました。」
オーディンはしばらく真魚を見つめていた。怒るかと思った。でも、
「……なるほど。」
それだけ言って、視線をジェーンへ戻す。
「だが、その女に宿っているものは、病などではない。」
オーディンが杖を床へ突く。空中に光が広がり、古い書物のような映像が現れる。
「それはエーテル。」
「エーテル……。」
ジェーンが繰り返し、僕は黙って映像を見る。
「世界が始まる以前、闇があった。」
オーディンの声が響く。
「そして、その闇より生まれた種族がいる。ダークエルフだ。」
映像の中に、白い仮面を被った者たちが現れる。
「彼らは光を憎み、宇宙をかつての闇へ戻そうとした。その王、マレキスはエーテルの力を用い、九つの世界すべてを闇へ沈めようとした。」
「それを止めたのがアスガルド?」
ジェーンが尋ねる。
「我が父、ボーだ。」
オーディンが答える。
「ダークエルフは滅ぼされ、エーテルは誰にも見つからぬ場所へ封じられた。」
「でも。」
真魚がジェーンを見る。
「それがジェーンさんの中に入っちゃった。」
「そういうことだ。」
オーディンの表情が険しくなる。
「エーテルは単なる物質ではない。無限の力を秘めた古代の存在だ。」
僕はその言葉を聞きながら、無意識に腹へ手を当てる。アークルの中心にあるアマダムへ。ジェーンの中にあるエーテルにずっと反応している。
「……あの。」
僕は手を上げると、オーディンがこちらを見る。
「何だ。」
「一つ聞いていいですか?」
「申せ。」
「僕の力が、エーテルに反応してるんです。」
ソーが僕を見る。
「お前の力が?」
「はい。」
僕は腹部へ手を当てる。
「地球にいた時からずっとです。近くに来てからは、もっと強くなりました。」
「それは何だ。」
オーディンの視線が鋭くなる。
「アマダムって呼んでます。」
「アマダム……。」
「僕自身も詳しいことは分かってません。」
オーディンが僕を見つめる。
「こちらへ来い。」
「はい。」
僕はオーディンの前まで歩く。
「力を抜け。」
「分かりました。」
オーディンが片手を僕へ向けると、空気が変わった。
「……っ。」
身体の奥に、何かが触れてくる。アマダム。そこに宿る力を、外側から覗かれている。少し気持ち悪い、でも敵意は感じない。だから僕は抵抗しなかった。
「…………。」
オーディンの表情が変わる。最初は探るような顔だった。それが、
「……何だ、これは。」
「父上?」
ソーが反応するが、オーディンは答えない。僕を見たまま、さらに力を強める。アマダムの奥、さらに奥。僕自身ですら意識したことのない場所へ。そして、
「……見えぬ。」
「え?」
オーディンが手を下ろした。
「父上。」
「測れぬ。」
その声には、明らかな驚きが混じっていた。
「この私でも、底が見えぬ。」
「……そんなに?」
僕自身が一番驚く。オーディンはジェーンへ視線を向ける。正確には、その身体に宿るエーテルへ。そして再び僕を見る。
「エーテルは、宇宙創生より存在する力の一つだ。」
「はい。」
「だが。」
オーディンが僕の腹部を見る。
「お前の内にあるものは、それを上回っている。」
「…………はい?」
聞き間違いかと思った。
「本当ですか父上。」
ソーも驚いている。
「クロオの力の源はエーテル以上だと?」
「ああ。」
オーディンの目が細くなる。
「少なくとも、内包されている力の規模だけで見ればな。」
「いやいやいやいや。」
僕は慌てて首を振る。
「そんなわけないですよ。」
エーテルだよ?インフィニティ・ストーンだよ?
「僕、そんな宇宙壊せそうな力持ってませんよ!?」
「今のお前が扱える力の話ではない。」
オーディンが言う。
「器の奥に眠るものだ。」
「眠る……。」
「幾重にも閉ざされている。封印されている、と表現した方が近いかもしれぬ。」
僕はアマダムへ触れる。闇の力も言っていた。アマダムは宇宙由来の力だと。でも、インフィニティ・ストーンより上?
「……何なんだよ、これ。」
答えは返ってこない。アマダムは、ただ静かに脈打っていた。
―――――
それから少しして。ジェーンの容態が安定したため、僕たちは一旦治療室を出ることになった。ソーはオーディンと話があるらしい。僕も残ろうかと思ったけれど。
「クロオ。」
「何?」
「女子だけで話したい。」
「……はい。」
真魚に追い出された。というわけで、
「何で僕だけ廊下なんだろう。」
アスガルドまで来て廊下待機。豪華な廊下だけど。その頃、部屋の中では、
「あなたがジェーンね。」
柔らかな声と共に、一人の女性が入ってきた。美しい金色の髪。優しげな表情。けれど、その立ち姿には王族らしい気品がある。
「母上。」
ソーがいればそう呼んだだろう、アスガルド王妃。フリッガ。
「初めまして。」
ジェーンが少し緊張しながら立ち上がる。
「ジェーン・フォスターです。」
「知っています。」
フリッガが微笑む。
「ソーから聞いていますから。」
「……どんな風に?」
「それは秘密です。」
ジェーンの顔が少し引きつる。
真魚が笑う。
「絶対いっぱい話してる。」
「ちょっと。」
「だってソー、ジェーンさんのこと大好きそうだったし。」
「真魚!」
ジェーンが慌てるが、フリッガは楽しそうに笑った。
「あなたが真魚ね。」
「はい。風谷真魚です。」
「あなたのことも、先ほど聞きました。」
「誰からですか?」
「オーディンから。」
真魚の顔が固まる。
「……怒ってました?」
「いいえ。」
フリッガが微笑む。
「随分とはっきり物を言う娘だ、と。」
「……すみません。」
「謝る必要はありません。」
フリッガは真魚の隣へ腰掛ける。
「夫には、あれくらい言う者がいた方がよいのです。」
「王様ですよね?」
「だからこそです。」
「……大変なんですね。」
「ええ、とても。」
「王妃様も苦労してるんだ……。」
「真魚。」
ジェーンが小声で止める。
「何?」
「もうちょっと遠慮しない?」
「フリッガさんがいいって言ってるし。」
「まだ言ってないわよ。」
「ふふっ。」
フリッガが笑う。
「構いません。」
ジェーンも諦めたように息を吐く。
「……なんだか、地球にいる時と変わらない。場所は神々の国なのに。」
ジェーンは少しだけ表情を曇らせる。
「でも……私の中に、宇宙を滅ぼしかねないものが入ってる。」
真魚がジェーンを見る。
「怖い?」
「……少しね。」
「大丈夫。」
真魚が即答する。
「クロオがいるから。」
「クロオ?」
「うん。」
真魚は当然のように頷く。
「何とかしてくれるよ。」
「随分信用しているのね。」
フリッガが言う。
「はい。」
真魚は迷わなかった。
「クロオ、無茶ばっかりするし、すぐ危ないことするし、自分のこと後回しにする。でもね、誰かを助けるって決めたら、絶対に諦めないから。」
ジェーンが少し微笑む。
「ソーと似てる。」
「あー。」
真魚が納得したように頷く。
「確かに。」
「でしょう?」
「でもクロオの方が常識あるよ。」
「それは否定できないかも。」
「聞こえてるからね!?」
三人が扉を見る。
「聞いてたの?」
真魚が言う。
「聞こえるんだよ!」
「盗み聞き?」
「不可抗力!」
ジェーンが吹き出す。
「ふふっ。」
フリッガも笑う。
「仲が良いのね。」
「普通です。」
真魚が答え、ジェーンが笑う。さっきまでの不安そうな表情が、ほんの少しだけ消えていた。フリッガはそんな二人を見つめ、穏やかに微笑む。けれど、その瞳が一瞬だけ、窓の外へ向いた。
ーーーーー
闇の中で、長い眠りから目覚めた者たちがいる。そして、ジェーンの中に宿ったエーテルが、その存在を呼び寄せている。ダークエルフの王――マレキス。彼らはすでに、アスガルドへ向けて、動き始めていた。
ーーーーー
僕は治療室の外、やたら豪華な廊下の壁にもたれながら、腕を組んでいた。女子だけで話したい。そう言われて追い出されたわけだけど。今はむしろ、一人になれたのは都合がいい。
僕がアスガルドまで来た理由。ダークエルフを倒し、エーテルをどうにかする。もちろん、それらも大事だけど。一番は、
「フリッガさんを死なせないことだよな。……どうやって死んでしまうんだっけ?」
細かい流れが曖昧だ。マレキスとかいうダークエルフの親玉がアスガルドを襲撃してジェーンを狙う。フリッガはジェーンを守ろうとして殺される。でも、何か足りないような。
「どういう流れで、そこまで行った?」
いきなりマレキスが王宮に現れるわけじゃない。確か、
「……潜入。」
そうだ、最初に誰かが潜り込んでた。ダークエルフの一人が確か、捕虜として、
「捕虜……牢屋……。」
そこから牢獄で何かが起きる。ロキが牢獄にいたシーンもあった気がする。それから脱獄と暴動がおきて、それに合わせるように、ダークエルフの艦隊がアスガルドを襲撃する。混乱に乗じて王宮に侵入されて、
「フリッガさん、確か強いんだよな。でも、」
マレキスの側近にもう一人強い奴がいた………よな?
名前は全然出てこない。ただ、そいつが来たせいでフリッガさんが殺されてしまうはずだ。………今なら、まだ間に合う。
僕は治療室の扉を開けた。
「失礼します!」
「クロオ?」
真魚が振り返り、ジェーンとフリッガもこちらを見てくる。
「どうしたの?」
「フリッガさん。」
僕は真っ直ぐフリッガを見る。
「一つ確認したいことがあります。」
「何でしょう?」
「今日、アスガルドに捕虜が来てたりしません?」
フリッガは少しだけ考えた後、
「ええ。ヴァナヘイムでの戦いで捕らえられた者たちが、先ほど移送されてきたはずです。」
「やっぱり!」
思わず声が大きくなる。
真魚が目を瞬いた。
「それがどうしたの?」
「その中にダークエルフがいるはずなんだ。」
僕の発言を聞き、フリッガの表情から先ほどまでの柔らかさが消える。
「確かなのですか?」
「多分。」
「多分?」
「僕の勘、未来の知識だとそのはずです。」
「相変わらず微妙に頼りないよね。」
フリッガは真剣な表情のまま、
「未来の知識、ですか?」
どう説明しよう。
「僕はこれから起こることを、ある程度知っています。」
結局、ざっくりした説明になってしまった。
「未来を見る力を?」
「見るというより……知ってる、ですね。全部じゃありません。曖昧ですし、細かいところはかなり忘れてます。でも、大きな出来事は覚えてます。」
フリッガは少しだけ僕を見つめてくる。その視線は優しく、でも、ただ優しいだけじゃない。相手の言葉の奥まで見ようとしているような目だ。
エンドゲームで未来から来たソー、心も身体もボロボロになった息子を見て、何も知らないはずのフリッガはすぐに気づいていた。息子が苦しんでいることに。そして、厳しくも優しく道を示していた。……そうだった。この人は、こういう人だ。なら、
「全部話します。今日、アスガルドはダークエルフによって襲撃されます。」
ジェーンが息を呑んだ。
「目的は?」
フリッガが静かに尋ねてくる。
「ジェーンさんの中にあるエーテルです。」
ジェーンが自分の身体へ視線を落とす。
「私の中にある……。」
そして、ここからが一番重要だ。本人にその人の未来を伝えるのは緊張するな。
「その襲撃の中で、あなたは亡くなります。ジェーンさんを守るために。」
ジェーンの顔が強張る。
「私を……?」
「敵の親玉がここまで来て、フリッガさんはジェーンさんを隠して戦います。多分、マレキスには勝てます。でも、もう一人、」
「もう一人?」
「ごめんなさい、具体的には思い出せなくて。でも、ダークエルフの中に、とんでもなく強い奴がいるんです。そいつにーー」
殺される。そこまで言わなくても伝わったようで、フリッガは目を閉じる。
「なるほど。」
「……信じてくれますか?」
「あなたが嘘をつく理由がありません。それに、あなたはその未来を変えるためにここへ来てくれたのでしょう?」
僕は頷く。
「……はい。そのために来ました。」
フリッガが微笑んだ。
「ならば、信じましょう。」
そう言って立ち上がる。
「捕虜は王宮地下、西側の牢へ移送されています。」
「西側。」
「ここを出て右へ。二つ目の階段を下り、回廊を抜けなさい。その先に衛兵の詰所があります。地下牢へ続く道を尋ねれば分かります。」
「ありがとうございます。」
「ですが、王宮内で足止めされるのは面倒でしょう。」
フリッガが腰へ手を伸ばし、一振りの短剣を手渡してくる。
「これを。」
「……え?」
差し出された短剣を見て、僕は固まった。
「いやいやいや。王妃様の武器ですよね、それ?」
「ええ。」
「貰えませんよ!?」
「貸すだけです。」
「あ、貸すだけ。」
それなら――いやいや、それでも畏れ多い。
「この短剣には、王妃である私の権限が刻まれています。」
「権限?」
「城内の大概の扉は、これを示せば開きます。」
「……便利。」
「そして、これを持つ者は、城内において私の名代として扱われます。」
僕は短剣を見て、もう一度フリッガを見る。
「重くないですか、それ。」
「軽いですよ?」
「そういう意味じゃなくて。」
王妃の名代が地球人の高校生。………でも、必要になるかもしれない。今から地下牢へ向かって、途中で兵士に説明している時間なんてない。
「分かりました。」
僕は両手で短剣を受け取る。
「お借りします。そして、絶対にお返しします。」
「期待しています。」
短剣を腰へ差す。………ちょっと格好良い。
「まずは牢へ行って、侵入したダークエルフを撃退してきます。」
侵入してきた奴を倒せば、少なくとも展開は変わる。その後は………その後だ。
「真魚。フリッガさんと一緒にいて。」
「分かった。」
「自分の身を最優先で守ること。」
「……分かってる。」
「本当に?」
「分かってるって。」
「何かあったらすぐテレパシーで呼んで。僕に直接飛ばしてくれれば、何があっても戻るから。」
「うん。」
僕は扉へ向かう。
「行ってきます。」
「クロオ。」
フリッガに呼ばれ、振り返る。
「無茶はしないように。」
真魚を見ると、真魚も僕を見ていた。
「無理じゃない?」
「そんなことはーー」
「だってクロオだよ?」
「僕への信頼どうなってるの?」
フリッガが小さく笑った。
「では、生きて戻りなさい。」
「はい。」
それならできる。僕は部屋を飛び出した。
―――――
「王妃フリッガ様よりお預かりしています!」
短剣を見せる。
「通れ!」
「ありがとうございます!」
すごい!本当に全部通れる。王妃様の権力すごい。
「こっちか!」
階段を駆け下りる、まだ大きな音は聞こえてこない、間に合ったか?地下牢へ続く最後の扉が見えたので短剣をかざす。扉が開く、
――ドォン!!
爆発音が響いた。
「嘘でしょ。」
間に合ってないんかい!
「変身!」
装甲を見に纏う。色はいきなり青。ドラゴンフォームになって床を蹴る。地下牢へ飛び込むと、
「うっわ。」
既に滅茶苦茶だった。牢が破壊され、囚人たちが逃げ出し、兵士と戦っている。その中央を巨大な男が歩いていた。黒く変質した身体に異様に膨れ上がった筋肉。
「いた!」
名前なんだっけ!?アル……、アル……。
「……駄目だ出てこない!………止まれ!」
名前が思い出せないので、とりあえず相手に向かって叫ぶ。しかし、男は僕を見ないで、そのまま歩いていく。そして、一つの牢の前で立ち止まった。
「……ロキ。」
牢屋の中に、椅子に座ったロキがいた。
「これはこれは。」
ロキが僕にも気づいた。
「久しぶりだな、クロオ。いや、今の姿ならクウガか?」
「久しぶりです! じゃなくて!」
巨大な男がロキを見ている。何かを察したのかロキは、
「出口を探しているのか?」
その言葉を聞いた瞬間、思い出した。
「待ったぁぁぁぁ!!」
僕は全力で叫び、ロキが目を丸くする。
「何だ?」
「そいつに道を教えないで!」
「……なぜ?」
「いいから!」
男が振り向いた。その視線は僕を睨みつけている。そう思った次の瞬間、床は砕け、奴は一瞬で目の前に来ていた。
「速――」
ドラゴンロッドを盾に、………まだ作ってなかった!?
――ガァン!!
「ぐっ!?」
身体が吹き飛び、壁に激突する。痛いなコンチクショウ!
「クロオ。」
ロキが牢の中から声をかけてくる。
「知り合いか?」
「違います!」
「ではなぜ襲われている?」
「色々あるんです!
男が再び迫る。
「とにかく!」
僕は超変身の構えを取る。
「お前はここで止める!」
―――――
その頃。アスガルド上空で静寂に包まれていた空間が、歪んだ。何もない、そう見えていた場所から巨大な黒い船体が姿を現す。
一隻、二隻、三隻。そして――無数にその数は増え、警戒の鐘が鳴り響いた。
「敵襲!!」
「空から来るぞ!」
アスガルド軍も一斉に動き出し、黄金の都に火の手が上がった。
―――――
窓の外を見た真魚が固まる。遠くで爆発が起き、空を飛び交う黒い船。鳴り響く警報。
「……クロオ。」
「真魚?」
ジェーンが声をかける。真魚の額には青筋が浮かんでいた。
「襲撃の規模は正しく教えておいてよ。」
『今日アスガルドが襲撃されます。』
とは言っていた。言っていたけれど、
「これ、戦争じゃん!」
想像していたのと全然違う!
「帰ってきたら説教。」
真魚が呟くとその隣で、
「そうしなさい。」
フリッガは微笑みながら、
「これからもしっかり尻に敷いておやりなさい。」
「当然ですね。」
「当然なの!?」
ジェーンだけが突っ込んだ。
―――――
そしてビフレスト。
ヘイムダルが虹の橋の先に立っているそのすぐ横。甲虫のような存在が、ちょこんと鎮座していた。ゴウラムとヘイムダルは、しばらく無言で向き合い、
「お前も来ていたのか。」
『ーーー。』
ゴウラムが小さく羽を動かす。
「気づかなかった。」
『ーーーー。』
どこか誇らしげだった。どうやらビフレストに入る直前、ちゃっかりクロオについてきたらしい。ヘイムダルは再び宇宙を見つめ、ゴウラムも同様に宇宙を見る。
『…………。』
実に静かだった。クロオたちが王宮へ向かってから、こちらには特に何も起きていない。
「お前の主人は。」
ヘイムダルが口を開く。
「随分と慌ただしい男だな。」
『ーーー。』
ゴウラムが低く鳴いた。どことなく、
――全くだ。
と言っているように聞こえた。
次の瞬間、ヘイムダルの目が鋭くなる。
「……来たか。」
何もない空間。だが、彼には見えている。こちらへ向かってくる姿を隠した巨大な船が。ヘイムダルが剣へ手を伸ばす。
「ゴウラム。」
『――!』
「どうやら。」
黄金の瞳が、迫り来る敵を捉える。
「主人の慌ただしさが、こちらにも伝染したようだ。」
ダークエルフの艦隊が姿を現し、アスガルドへの襲撃が、始まった。