日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
話数を増やすより、一話を増やしました。
警鐘が、黄金の都に鳴り響く。アスガルド全土へ危機を告げる鐘が、けたたましく鳴り続けている。
「敵襲!」
「防衛線を張れ!」
「王宮へ近づけるな!」
黄金の鎧を纏った兵士たちが一斉に走り出すと、その頭上を、黒い影が横切った。ダークエルフの戦闘艇だ。それまで何もなかった空間から突然姿を現したそれらは、アスガルドの上空を埋め尽くすように展開すると、容赦なく砲撃を開始した。
――ドォン!!
黄金の塔の一つが爆発する。
「撃て!反撃しろ!」
アスガルド軍も即座に応戦、地上から放たれた光弾が空を貫き、ダークエルフの戦闘艇へ直撃する。一機が炎を上げながら墜落が、その横を二機、三機と抜けていく。
「防衛線を突破されます!」
「慌てるな!」
兵士たちの後方から、グングニルを手にしたオーディンが迫り来る敵を睨みつけていた。先ほどまで治療室で見せていた老人の姿はない。そこにいるのは、幾千年もの間、九つの世界を統べてきたアスガルドの王。
「敵はダークエルフだ!」
オーディンの声が響き渡る。
「奴らを王宮へ入れるな! アスガルドを守れ!」
「はっ!」
兵士たちが応じると、その頭上を一筋の雷光が駆け抜けた。
「はぁぁぁぁっ!!」
ソーがムジョルニアを振り抜き、戦闘艇へ叩きつける。
――ドゴォン!!
一撃で戦闘艇の装甲が砕け、炎に包まれながら墜落していった。そのままムジョルニアを投げ、高速で飛翔したハンマーが別の戦闘艇を撃ち抜き、弧を描いてソーの手へ戻る。
「父上!」
「ソー!」
オーディンが息子を見る。
「王宮へ向かう敵を止めろ!」
「お任せを!」
ソーがムジョルニアを掲げ、雷鳴が轟く。
「来い!」
雷が空を走り、ダークエルフの戦闘艇が次々と爆発する。だが、
「……多いな。それに、」
無数の戦闘艇に紛れるように、一際巨大な船が進んでいた。ダークエルフの母艦。その船首は、一直線に王宮を向いている。
「ソー!」
「分かっています!」
ソーが母艦に向かおうとするが、その前へ戦闘艇が殺到した。
「邪魔だ!」
雷が迸り、戦闘艇は撃墜されるが、母艦は止まらない。黄金の都へ、王宮へ、エーテルのある場所へ、まっすぐ進んでいる。
―――――
同じ頃、ビフレストでは、
「……ふっ!」
ヘイムダルの剣が一閃した。飛び込んできたダークエルフの兵士が、勢いのまま吹き飛ばされる。
黄金の瞳が敵を捉える。二人、三人、まだまだ現れ、空からは戦闘艇までやってくる。
「随分と来たものだ。」
『――!』
隣から声が響いた。
「分かっている。」
『――――!』
「お前に言われずとも見えている。」
『――!』
「競争ではない。」
ゴウラムが勢いよく飛び出した。
「……聞いていないな。」
ヘイムダルが呟きを無視し、ゴウラムが高速で飛翔し、ダークエルフの兵士へ突っ込む。
――ガァン!!
「ぐぁっ!?」
一人を弾き飛ばし、そのまま旋回して二人目。甲虫のような身体が、次々と敵を吹き飛ばしていく。ヘイムダルがそれを見て、
「やるな。」
『――!』
明らかに得意げな声が返ってきた。
「だが。」
ヘイムダルが剣を構える。
「こちらも負けるわけにはいかん。」
『――――!』
「だから競争ではないと言っている。」
そう言いながら、ヘイムダルも敵の中へ飛び込んだ。
剣が閃き一人、返す刃で二人。背後から迫った敵を振り向きもせず蹴り飛ばす。
『――!』
そして、追加でもう一人を切り倒す。
「四。」
『――――!?』
「どうした。」
『――!』
「お前は三だ。」
『――――!!』
「数えていたのか、だと?」
ヘイムダルが僅かに口元を緩める。
「当然だ。」
『――――!』
ゴウラムが勢いよく羽を広げ、そして次の敵へ突っ込んだ。
「だから競争ではない。」
言っている本人も、先ほどより少し速く走り出していた。
―――――
そして地下牢。
――ガァン!!
「ぐっ……!強っ!」
目の前には黒く変質した巨大なダークエルフが、ゆっくりこちらへ歩いてくる。ドラゴンフォームからマイティフォームに超変身したけど、苦戦してしまう。
名前はまだ出てこない。でも、こいつがヤバい奴だってことだけは思い出した。僕がここで止めないと、王宮まで行ってしまう。
「絶対に通さない!」
男が床を蹴った。巨体から想像できない速度で、一瞬で間合いを詰めてくる。急いで回避すると、奴の拳が床に直撃し、
――ドォン!!
激しく砕けちった
「威力ヤバいね!?」
今のまま正面から受けるのは無理そうだ。だったら、
「超変身!」
雷を纏い、マイティフォームからライジングマイティに姿を変える。
「これなら――!」
迫る拳に、こちらの拳を叩き込む。
ーーバヂィッゴォォォォォン!!!
「マジか!?」
雷光を纏ったライジングマイティの拳が押し負けた!?
「クロオ。」
牢の中からロキが声をかけてくる。
「随分苦戦しているな。」
「見てないで応援してくださいよ!」
「頑張れ。」
「軽い!」
「では、もっと心を込めよう。」
「いらない!」
男の腕を弾き、そのまま腹へ拳を叩き込むと、男が数歩後退した。
「……効いたか。」
僅かにだけど。
「よし。ここから先には行かせない!」
これでいい。こいつを僕が止めている限り、映画と同じにはならない。少なくとも、フリッガさんが殺されない………はずだ。
ただし、別の場所ではほとんど映画と同じように事態が進んでいた。一人の少女が参戦した以外は。
―――――
王宮が揺れた。
「きゃっ!」
ジェーンが壁へ手をつく。
「ジェーンさん!」
真魚がその身体を支える。
「大丈夫?」
「ええ……。」
再び爆発音と共に揺れが起きる。先ほどより近い。窓の外では、黒い戦闘艇とアスガルドの兵士たちが激しく戦っている。
「突破されたようですね。」
フリッガが立ち上がる。その表情からは、あの優しい笑みが消えていた。
「真魚。ジェーンを連れて、こちらへ。」
フリッガが部屋の奥へ進む。
「ここに隠れていなさい。」
「でも――」
「大丈夫です。」
フリッガがジェーンを見る。
「あなたは私が守ります。」
その言葉にジェーンの表情が変わり、真魚も気づく。クロオから聞いた未来。
『敵の親玉がここまで来て、フリッガさんはジェーンさんを隠して戦います。』
まさに、その通りになっている。真魚は黙って周囲を見る。クロオは地下牢、ソーもいない、オーディンもいない。そして、
――ドォン!!
扉の向こうで爆発音が響いた。続いて、金属のぶつかる音。悲鳴、そして静寂。
「……来ましたね。」
フリッガが呟いき、扉が開いた。白い仮面に黒い鎧。何人ものダークエルフが部屋へ入ってくる。その中央には一人だけ、明らかに雰囲気の違う男がいた。
マレキス。ダークエルフの王。
その視線が部屋を見渡し。
「エーテル。」
ジェーンの身体が僅かに震える。
「下がっていなさい。」
フリッガが前へ出ると、真魚も動いていた。
「真魚?」
ジェーンから離れ、フリッガの横を通り、さらに前へ。マレキスと向かい合う。
「真魚、どきなさい。」
「嫌です。」
「これはあなたが戦うべき相手ではありません。」
真魚がちらりとフリッガを見る。
「でも。武器、クロオに渡しちゃいましたよね?」
フリッガが黙って衣服の下から、別の短剣を取り出した。
「予備はあります。」
「あるんだ。」
「王妃ですから。」
「王妃って短剣何本持ってるんですか?」
「必要なだけ。」
「格好いい。」
「真魚。」
ジェーンが後ろから声をかける。
「今そういう話してる場合じゃないと思う。」
「そうだった。」
真魚を睨みつけるマレキス。その表情には苛立ちが浮かんでいた。
「退け、娘。」
フリッガも声を少し強くなる。
「下がりなさい、真魚。」
「大丈夫です。」
真魚は振り返らない。
「あなたは客人です。守られるべき立場です。」
「それが嫌なんです。」
真魚が拳を握る。
「私は守られるだけなのも、危険が迫ってるのに何もできないのは嫌なんです。」
その言葉に、フリッガが僅かに目を細める。
「……クロオから聞いたんです。この先、地球だけじゃなくて、宇宙そのものが危なくなるって。」
サノス、インフィニティ・ストーン、そして星そのものを生み出すような存在――セレスティアルズ。
あの喫茶店で、光のエルや闇の力から話を聞いた時。真魚は平気そうにしていた。クロオがいつものように軽口を叩いていたから、自分も同じようにしていた。でも本当は、
「……怖かったんです。」
小さく、真魚が呟く。
「地球がなくなるかもしれないとか。宇宙のすごく強い奴が攻めてくるとか。そんなの聞かされても、私には出来ることなんてない。」
拳を握る力が強くなる。
「朝起きて、学校に行って、友達と話して、ご飯食べて。そういう普通の毎日が、知らないうちに全部なくなるかもしれない。………そんなの嫌です。」
知らないところで何かが起きて、知らないうちに世界が壊れて、何も知らないまま消えてしまう。それが怖い。でも、それ以上に、
「そういうことが起きたら、クロオは絶対に行くから。」
迷うことなく、きっと笑いながら。
『じゃあ、行ってきます。』
「………一人で無茶して、一人で傷ついて、それでも大丈夫とか言うんです。」
「……随分と信用されているのですね。」
フリッガの言葉に、
「信用してます。」
真魚は即答した。
「多分私は、クロオに無茶をさせない人にはなれないと思います。どうせ言っても聞かないし。」
ジェーンが小さく笑った。
「ソーと同じね。」
「多分、もっと酷いです。」
「否定できないかも。」
ほんの一瞬だけ笑ってから、真魚は再びマレキスに視線をぶつける。
「だから。せめて、一人で無茶はさせない。」
身体の奥で光が脈打った。
「クロオが無茶をするなら。」
腰の前へ手を添える。
「私も一緒に無茶をする。守られてるだけなんて嫌だ。」
全身から光が溢れる。
「私だって戦える。」
黙って話を聞いていたマレキスが踏み出してくる。
「くだらぬ。」
真魚は退かない。
「私には大事なことなんです。」
光がさらに強くなり、
「――変身!」
眩い光が弾けた。真魚の身体を赤と銀の装甲が覆う。大きく展開する角、全身から溢れ出す、太陽のような光。
アギト、その力が極限まで高められた姿。
――シャイニングフォーム。
光が収まる。そこにはもう、ただ守られるだけの少女はいなかった。真魚は一歩前へ出て、光の中から杖を取り出す。
驚愕するフリッガとジェーンを背にして。ダークエルフの王、マレキスの前に立ちはだかった。
「ここから先は、私が相手です。」
ーーーーー
真魚が杖を構える。赤と銀の装甲。その全身から溢れる眩い光を前に、マレキスが僅かに目を細めた。
「……魔法か。」
警戒するように、マレキスが一歩下がる。ダークエルフにとって、魔法は決して未知のものではない。だが、目の前の少女から感じる力は、それとは明らかに違う。
そして何より、先ほどまでただの少女だった者が、一瞬で異形の戦士へ姿を変えたのだ。警戒するのは当然だった。
「囲め。」
マレキスの命令と同時に、部下たちが一斉に動く。
真魚を中心に半円を描くように展開し、それぞれが武器を構えた。
「真魚!」
フリッガが声を上げるが、真魚は動じない。両手で杖を握り、
「……ふっ!」
思い切り振り抜いた。
――ゴォン!!
「ぐぁっ!?」
先頭にいたダークエルフの顔面へ、杖が直撃した。そのまま横へ吹き飛び、隣にいた兵士を巻き込む。
「…………。」
マレキスが固まった。魔法ではなく、普通に殴った。
「えいっ!」
続いて、背後から迫っていた敵へ杖を振り下ろす。
――ドゴン!!
凄まじい速度で振るわれた杖で頭部を殴られた兵士が床へ叩きつけられ、その衝撃で床に亀裂が走った。
「やぁっ!」
返す勢いで杖を振り上げる。
――ガァン!!
顎を打ち抜かれた兵士が宙へ浮き、そのまま天井に突き刺さる。さらに真魚は身体を一回転させる。
「はぁっ!」
杖をフルスイング。
――ドッゴォォン!!
「ぐぁぁぁぁっ!?」
直撃したダークエルフが凄まじい勢いで吹き飛んだ。そのまま、
――ドガァン!!
壁を突き破る。
「…………。」
「…………。」
フリッガとジェーンが無言で穴を見つめる。その向こうにはアスガルドの空。そして、今しがた殴り飛ばされたダークエルフが、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
どんどん小さくなっていった。
「……落ちた。」
ジェーンが呟く。
「落ちましたね。」
フリッガも答える。
「よし。」
真魚だけが満足そうに頷いた。
「何がよしなの?」
マレキスは、倒れた部下たちを見る。ほんの数秒で、連れてきた兵士たちが全員倒された。しかも、杖から何か、特殊な術を使ったわけでもない。ただ殴っただった。
「貴様……!」
マレキスが武器を構える。
「何者だ。」
「風谷真魚です。」
「そういう意味ではない!」
マレキスが踏み込む。振るわれた武器を、真魚は杖で受け止めた。
――ギィン!!
衝撃が部屋を揺らすが、真魚は一歩も下がらない。逆に杖を捻り、マレキスの武器を外へ弾く。
「はっ!」
杖の先端がマレキスの腹へ突き刺さった。
「ぐっ……!」
身体が浮き、そこへ真魚がさらに踏み込んだ。
「やぁっ!」
横薙ぎの一撃。マレキスは腕で防ぐが、その身体が大きく横へ弾かれる。
「この……!」
マレキスも反撃するが、真魚は頭を下げて避ける。そのまま踏み込み、杖が脇腹を打つ。
一発。
「はっ!」
二発。
「やぁっ!」
三発。
杖による連撃を受け、マレキスが後退していく。気づけば、その背後には先ほどダークエルフが吹き飛ばされて出来た大穴があった。
真魚が止まり、ちらりと周囲を確認する。部屋の中、フリッガ、ジェーン、家具、それから目の前のマレキス、そして、その背後。壁はもうなく、あるのは外だけ。
「……その位置なら。」
真魚が杖を両手で握り直す。
「迷惑かけないよね。」
杖の先端をマレキスへ向けた。
「……!」
マレキスの表情が変わる。先ほどまでとは比較にならないほどの光が、杖の先端へ集まり始めた。空気が震え、床が軋む。眩い光が部屋を満たしていく。
「真魚?」
ジェーンが一歩下がる。
「これは……。」
フリッガも目を見開いた。
マレキスは理解し。理屈ではなく、戦士としての本能が警鐘を鳴らしている。
――あれを受けてはならない。
「待――」
「えいっ!」
――ズドォォォォォォォォン!!!
光の奔流が放たれた。かつてクロオが、アメイジングマイティの両足から放った必殺の蹴り。それと同等の破壊力を有する光が、一本の光線となってマレキスへ迫る。
「っ!!」
マレキスは咄嗟に後ろへ飛んだ。壊れた壁の向こうへ、自ら身を投げ出す。直後、光線がマレキスのいた場所を通過した。
――ドォォォォォォン!!
遥か先で巨大な爆発が起きる。
「…………。」
ジェーンが口を開けたまま固まっていた。フリッガも、珍しく言葉を失っている。
「……あっ。」
真魚が急いで大穴へ駆け寄り、身を乗り出して下を見る。
「…………いない。」
見回すが、マレキスの姿はもう見えない。
「逃がしちゃった……。」
しょんぼりと肩を落とす。
「ちょっと手加減すればよかったかな……。」
「今のを相手に手加減するつもりだったの?」
ジェーンが聞く。
「はい。」
フリッガとジェーンが顔を見合わせてしまう。その時、
「母上!!」
雷鳴の直後、開いた壁からソーが飛び込んできた。
「ご無事です――」
そこで止まる。倒れているダークエルフたち、その中央に立っているは、見覚えのない赤と銀の戦士。そして、その戦士の後ろには母とジェーン。ソーの判断は早かった。
「貴様!!」
「え?」
ムジョルニアが振るわれる。
「真魚!!」
フリッガが叫ぶ。
「えぇっ!?」
真魚は反射的に杖を構えた。
――ギィィン!!
ムジョルニアと杖が激突する。凄まじい衝撃波が部屋を駆け抜け、家具が揺れた。
「なっ!?」
ソーが目を見開く。ムジョルニアを受け止められた。それどころか、
「何するんですか!?」
杖が振るわれる。
――ガァン!!
ムジョルニアが弾かれ、無防備になったソー。
「なに!?」
真魚はそのまま杖を両手で握り、
「いきなり危ないじゃないですか!!」
全力でフルスイングした。
――ドッゴォォォォォン!!
「ぐぉぉぉぉっ!?」
ソーが吹き飛び、壁へ激突。そのまま壁を突き破り、廊下まで吹き飛んで転がった。
「ぐぁっ!」
廊下で仰向けになったソーが目を瞬く。
「ぐっ、今の声……。」
聞き覚えがある声だった。
「……真魚か?」
「そうですよ!」
部屋の中から返事が来た。
「何するんですか!?」
「いや、私はてっきり敵かと……。」
ソーが起き上がる。
「ソー。」
フリッガの声が響いた。
「はい。」
一瞬で背筋が伸びた。
「あなたは、味方と敵の区別もつかないのですか?」
「いえ、しかし、あの姿は初めて見ましたので――」
「だからといって、確認もせずにムジョルニアを振るうのですか?」
「…………。」
「ソー。」
「……申し訳ありません。」
雷神が小さくなり、ジェーンが思わず口元を押さえた。
「ここはもう大丈夫です。」
フリッガが告げる。
「外をどうにかしてきなさい。」
「ですが、母上。」
「ソー。」
「……はい。」
ソーがムジョルニアを呼び戻す。そして真魚を見ると、
「真魚。すまなかった。」
「あ、はい。」
「後で改めて謝罪する。」
「いえ、そんな。」
「では!」
ソーがムジョルニアを掲げる。
――ドォン!!
雷光と共に飛び去っていった。どう見ても逃げたようにしか見えなかった。
「……ごめんなさいね、真魚。」
ジェーンが苦笑する。
「息子が失礼をしました。」
フリッガも頭を下げる。
「いえ!」
真魚は慌てて両手を振った。
「こっちこそすみません!」
「……何が?」
「ソーさん倒しちゃって。」
ジェーンが固まり、フリッガも一瞬だけ黙り、
「ふふっ。」
笑った。
「え?」
「いえ。」
フリッガが口元を押さえ、ジェーンも耐えきれなくなったようだ。
「ふふ……あははは!」
「え? 私、何か変なこと言いました?」
「いいえ。」
「じゃあ、なんで笑うんですか?」
「気にしないで。」
「気になります!」
先ほどまで死の危険が迫っていた部屋に、笑い声が響いた。
―――――
一方。地下牢では、まったく笑える状況ではなかった。
――ドォン!!
「ぐっ!」
ライジングマイティの拳と、黒く変質したダークエルフの拳が激突する。
雷光が弾ける。
「やっぱり硬い!」
僕はすぐに距離を取る。向こうも僅かに腕を振りながら、こちらを睨んでいる。こっちの攻撃は効いているけど、決定打に繋げられない。向こうの攻撃も危険だけど、ライジングマイティなら相殺できる。
結果。さっきからずっと殴り合ってます。
「しぶといですね!」
『…………。』
「喋らないし!」
「クロオ。」
牢の中からロキが声をかけてくる。
「何ですか!」
「苦戦しているな。」
「さっきも聞きましたよ!」
「暇なのでな。」
「こっちは忙しいんです!」
男が突進してくる。
「っと!」
拳を避け、脇腹へ蹴りを叩き込む。
――ドン!!
「ぐっ……!」
ヨシ!男が僅かによろめいた!もう一発、そう思った瞬間、
「――!」
「――――!」
地下牢の奥から声が響いた。
「え?」
振り向くと、聞こえてきたのは大量の足音。そして、
「嘘でしょ!?」
通路の奥から、何人ものダークエルフが現れた。
「増援!?」
十人どころじゃない。次から次へと地下牢へ入り込んでくる。
「ちょっ!」
僕が一瞬そちらへ意識を向けた隙に、黒い男が動き、ダークエルフたちが僕の前へ立ちはだかる。
「邪魔だ!」
一人を殴り飛ばす。けれど、その間に黒い男は地下牢の出口に向かってしまう。あいつを王宮へ行かせちゃ駄目だ!しかし、追いかけようにも、敵が次々と押し寄せてくる。
「くそっ!」
黒い男の姿が通路の向こうへ消えた。まずい、映画だとあいつが、
『クロオ。』
「……え?」
頭の中に真魚の声が響いた。
『聞こえる?』
『真魚?』
拳を振るいながら返す。
『そっちは大丈夫!?敵が来たりしてはーー』
『逃げちゃった。』
『え!?』
『後、フリッガさんもジェーンさんも無事だよ。』
思わず動きが止まりかけた。
『本当に!?』
『うん。二人とも大丈夫。』
よかった。最悪の未来は、ひとまず変わった。フリッガさんは生きているし、ジェーンさんも無事。だったら、
「……一回終わらせるか。」
目の前の大量のダークエルフ。そして、逃げていったあの黒い奴。追いたいけど、まずはこいつらだ。
「一気に片付けようかな。」
「――!」
一人のダークエルフが猛烈な寒気を感じ飛び込んでくる。
僕はその拳を避け、
「ふっ!」
腹へ拳を叩き込むのと同時に、封印エネルギーを流し込む。するとダークエルフの身体から光が漏れ出す。周囲を見ると敵が密集している。
「このくらいかな?」
一気に封印エネルギーを過剰注入する。
「――――!?」
ダークエルフの全身が発光し、僕は即座に後ろへ跳ぶ。
「伏せて!」
「誰に言っている。」
牢の中からロキの冷静なツッコミを入れる。
――ドッゴォォォォォォン!!!
ダークエルフが爆発した。
「「「――――!?」」」
周囲にいた兵士たちがまとめて爆炎に呑み込まれ、衝撃波が地下牢を駆け抜け、十数人のダークエルフが一斉に吹き飛んだ。
「よし!」
辺りには倒れたダークエルフたち。
「一掃!」
ロキが牢の中からこちらを見てくる。
「何です?」
「いや。」
僅かに顔を引きつらせる。
「相変わらずえげつないな、その技。」
「失礼な。」
「敵の身体を爆弾に変えている奴が言う台詞か?」
「結果的にそうなっただけです。」
「意図的に過剰な力を流し込んでいたように見えたが。」
「気のせいです。」
「そうか。」
「そうです。」
ロキが倒れているダークエルフたちを見て、それから僕を見る。
「やはりえげつない。」
「二回言わなくていいです!」
ーーーーー
アスガルドから遠く離れた場所。黒い大地の上へ、ダークエルフの母艦が静かに降下していく。船体には無数の傷が刻まれ、一部からは煙が上がっていた。アスガルドへの奇襲そのものは成功した。防衛線を突破し、王宮内部にまで侵入することもできた。
――だが、本来の目的は何一つ果たせていない。
母艦内部にはマレキスは無言のまま玉座に座っている。その周囲では、生き残ったダークエルフたちが重苦しい空気の中で立っている。そして、その中でも一際大きな影が、マレキスの前に跪いていた。
黒く変質した巨大な身体。地下牢でクロオと戦っていた男だ。
「役立たずめ。」
マレキスが低く吐き捨てる。
「…………。」
男は何も言わない。
「貴様には王宮へ向かえと命じたはずだ。」
「はい。」
「それが何故、何の成果もなく戻ってきた。」
「……敵に阻まれました。」
「敵は一人だったと聞いている。」
「はい。」
マレキスの表情が険しくなる。
「たった一人の戦士に阻まれ、王宮へ辿り着くことすらできなかったと?」
「申し訳ありません。」
「…………。」
マレキス自身も、たった一人の少女に杖で殴り飛ばされ、最後には危うく光線で消し飛ばされかけて逃げ帰っている。だが、少なくともマレキスの中では、それとこれとは別である。
「次は失敗するな。」
「はっ。」
男は深く頭を下げる。
「次こそ必ず、お役に立ってみせます。」
その声は真剣で、言い訳もない。怒りを露わにすることもない。自分の失敗を認め、次こそ役目を果たすと誓っている。だが、その頭の中に浮かんでいたのは、主人の命令ではなかった。
赤と金の戦士。雷を纏い、自分の拳を正面から受け止めた相手。何度殴っても立ち上がり、自分へ向かってきた戦士。
男の拳が、僅かに握られる。次こそ、あの戦士と、本気で。
マレキスがその様子を一瞥する。
「何を考えている。」
「いえ。」
男は即座に答えた。
「次こそ、必ず。」
その言葉に嘘はない。ただし、何を「必ず」するつもりなのかは、少しだけ意味が違っていた。
「……ならばよい。」
マレキスは立ち上がる。アスガルドにあるエーテルに意識を向ける。長い眠りから目覚めた、世界を闇へ戻すための力は、人間の女の身体に宿っている。ならば、
「こちらに連れてきてもらおう。」
マレキスの手の中に、赤い光が集まり始めた。
―――――
「うっ……!」
ジェーンの身体が大きく震えた。
「ジェーン!」
ソーがその身体を支える。先ほどまで比較的安定していたジェーンの状態が、突然悪化していた。
「苦しい……。」
額には大量の汗を流し、呼吸も浅い。その身体の奥では、赤い光が脈打つように明滅している。
「どういうことだ!」
ソーが治療を担当していた者へ声を荒らげる。
「分かりません! 突然エーテルが活性化を!」
「抑えられないのか!」
「試しています! ですが――」
「ソー。」
フリッガが息子の肩へ手を置く。
「落ち着きなさい。」
「ですが母上!」
「あなたが取り乱せば、ジェーンも不安になります。」
ソーが歯を食いしばる。当然、ジェーンの身体が反り返り、胸元から赤いエネルギーが噴き出した。
「なっ!?」
ソーが身構える。赤い粒子は空中へ集まり、やがて人の顔のような形を作り出した。
『アスガルドの者よ。』
低い声が部屋へ響く。
『娘を助けたければ――』
赤い光が揺れる。
『我らの元まで連れてこい。』
そして、光は消えた。ソーの拳が震える。
「……マレキス。」
―――――
アスガルドは、戦いの傷跡に覆われていた。崩れた塔に破壊された橋。炎を上げる建物。兵士たちは負傷者を運び、民は瓦礫を退かし、王宮でも各所で修復作業が進められている。その中央である王の間では、
「ならん。」
オーディンの言葉が響いた。
「父上!話をお聞きください!」
「聞いた上で言っている。」
グングニルを握ったオーディンが、玉座から息子を睨む。
「マレキスの要求に従い、ジェーンを連れ出すことなど許さん。」
「従うわけではありません!」
「同じことだ。」
「違います!」
ソーは食い下がる。
「奴の狙いはエーテルです。ならばジェーンを連れて奴らの元へ向かい、エーテルを取り出させる。」
「そして?」
「エーテルがジェーンから離れた瞬間、マレキスを倒します。」
オーディンが目を細める。
「失敗すればどうする。」
「失敗させません。」
「それは答えではない。奴がエーテルを手にした瞬間、逃げれば?」
「追います。」
「貴様が敗れれば?」
「敗れません。」
「ソー!」
王の声が響く。
「これは一人の女の命だけの話ではない!」
静まり返る王の間で、オーディンは息子を真っ直ぐ見据える。
「エーテルがマレキスの手に渡れば、九つの世界すべてが危機に晒される。ジェーン・フォスターただ一人の人間を救うために、その危険を冒すことはできん。」
「……ただ一人の人間?」
ソーの声が低くなる。
「父上にとっては、一人なのですか。」
「王であればそう考えねばならん。」
オーディンは言い切る。
「王になるのであれば、大局を見ろ。」
ソーは俯き、ゆっくりと顔を上げた。
「愛する者一人救えずして、何が王か!」
「ソー。」
「私はジェーンを救います。」
父と息子が睨み合い、そしてソーは何も言わず、踵を返した。
「ソー!」
オーディンの声を背に、王の間を出ていった。
―――――
「というわけだ。」
「なるほど。」
僕は腕を組んだ。
「やりましょう。」
「即答だな。」
「ジェーンさん死にそうなんですよね?じゃあ行きます。」
僕の横で真魚も頷く。
「私も行く。今さら置いていくとか言わないよね?」
「……言おうと思ったんですけど。」
「言ったら怒るよ。」
「ですよね。」
うん。置いて行くのは無理だ。
「助かる。」
僕は周囲を確認し、
「ロキも連れていくんですよね?」
「ああ。………何故分かる?」
「勘です。信用できますか?」
「信用はしない。」
即答だった。
「だが、奴はダークエルフの抜け道を知っている可能性がある。それに幻術も使える。何より、」
ソーの表情が険しくなる。
「母上の身にも危機が迫ったこと、奴が何も思っていないはずがない。」
「それは確かに。」
真魚も頷いた。
「じゃあ、ロキさんのところ行きましょうか。」
「そうだな。」
僕たちは地下牢へ向かった。
―――――
「断る。」
牢の中でロキは椅子に座ったまま、即答した。
「まだ全部話してないぞ。」
ソーが言う。
「大体分かる。」
「なら話が早い。」
「嫌だ。」
「ロキ。母上が――」
「分かっている!」
ロキが立ち上がり、一瞬だけその顔からいつもの余裕が消えた。
「……分かっている。」
「なら。」
ロキが牢の透明な壁へ近づく。
「一つ問題がある。」
「何だ。」
「ここを出る必要がある。」
「当然だ。」
ロキが僅かに笑った。
「では、ここを開けられるのか?」
ソーが黙る。
「ほらな。どうした、兄上?父上の許可なく、この牢を開ける方法でも?」
僕は借りている物を思い出し、腰へ手を伸ばす。
「そういえば、これ返してなかった。」
フリッガさんから借りた取り出す。
「母上の短剣?何故お前が持っている。」
「色々あってお借りしました。」
牢の短剣を翳すと、ロキの笑顔が消えた。
――カチッ。
透明な壁が消え、ロキが固まり、ソーも固まる。
「開いた。」
真魚が言う。
「開きましたね。」
「お前たち……。」
ロキがゆっくり牢の外へ出る。
「牢獄というものを何だと思っている。」
「閉じ込める場所?」
「そういう意味ではない。」
僕は短剣をしまうと、ふと思った。
「……あ。」
「どうした。」
ソーとロキを見比べてみる。
「ぶっちゃけ。ソーさんより、ロキの方が王様向いてません?」
「「は?」」
綺麗に重なる。やっぱり兄弟だよな。
「今回、ロキに協力してもらうわけですよね?なら交換条件にすればいいじゃないですか。」
「何を。」
「アスガルドの王位。」
「…………。」
「…………。」
ソーとロキが黙ってしまうが、真魚も同意の声を上げる。
「それ良いね。」
「良いのか!?」
ソーが慌てて振り返ると、真魚がロキを見ながら
「だって、ロキさんの方が頭良さそうだし。」
「そういう問題か?」
「ソーさんは戦う方が得意でしょ?他の世界で争いがあったら、飛んでいって止めたりする方が向いてると思う。」
「それは……。」
「王様になったら、ずっとアスガルドにいないといけないんじゃないの?」
ソーの視線が泳がせるが、真魚は構わず続ける。
「それに、ロキさんが王様やった方が、ソーさんもジェーンさんと仲良くできるし。」
「なっ。」
「違う?」
否定しない。ロキが僕たちを交互に見てくる。
「待て。何故私が王になる前提で話が進んでいる。」
「嫌なんですか?」
「そうは言っていない。」
「じゃあいいじゃないですか。」
「軽い!王位だぞ!」
「でも元々ロキは、その王位が欲しかったんですよね?」
ロキが黙る。
「ニューヨークまで攻めてきたくらいだし。」
「それはミッドガルドの王位だ。」
「似たようなものでしょ。」
「全く違う。」
「でも王様にはなりたかった。」
また黙ってしまった。隣ではソーが頭を抱える。
「しかし、ロキがまた暴走したらどうする。」
その言葉に、僕と真魚はロキを見る。ロキも僕たちを見てくる。正直、ロキの印象を考えると、
「フリッガさんがいらっしゃれば暴走しないんじゃないですか?」
ロキの表情が僅かに変わった。
「それに。」
僕は何もない空間へ手を伸ばし、掴む。
「ここかな。」
「なっ!?」
何もなかった場所が歪む。同時に、僕は手の中に僅かな封印エネルギーを流す。
――バヂッ。
「っ!?」
幻術が弾け、まだ牢屋から出ていなかったはずのロキが消え、僕の目の前に本物のロキが現れる。その腕を、僕が掴んでいた。
「何をしている!?」
「いや、また幻術使って逃げようとしてたので。」
「確認しただけだ!」
「何を?」
「逃げ道をだ!」
「逃げる気満々じゃないですか。」
僕は掴んだ腕に、追加の封印エネルギーを流す。
「もし暴れたら言ってください。」
「待て。待て待て待て。」
「爆発させるんで。」
「待て!!」
ロキが本気で腕を振り払った。
「それを私に流すな!」
「ちょっとだけですよ。」
「量の問題ではない!」
珍しく、本気で慌てている。すると、真魚が首を傾げ、
「クロオ。」
「はい?」
「変身してなくても、それ使えるようになったの?」
僕は自分の手を見る。
「そうですね。感覚も強くなってた。多分、雷のエルになってからかな。」
「雷のエル?」
ソーが聞いてくる。
「色々ありまして。」
「色々で済ませるな。」
ロキが睨みながら僕を指差してくる。
「とにかく!逃げない!」
「はい。」
「逃げないから!絶対に私に、もう二度とその謎のエネルギーを流すな!」
「あなた次第です。」
「脅迫ではないか!」
「抑止力です。」
「言い換えただけだ!」
そんな僕たちを横目に、ソーは腕を組み、黙り込んでいた。
「ソーさん?」
真魚が声をかけると、
「…………分かった。王位を譲ろう。」
今度はロキが固まった。
「何?」
「この戦いで協力し、ジェーンを救い、マレキスを倒す。その後は、」
一度言葉を切る。
「私は王位を求めない。」
「兄上。」
「お前が望むなら、王位はお前に譲る。」
ロキは何も言わなかった。いつもの皮肉も、笑みも、出てこない。ただ、兄を見つめていた。
「じゃあ。」
真魚が明るく手を叩いた。
「次は連絡。」
「連絡?」
「というか。」
にこっと笑う。
「相談だね。」
「誰に?」
「フリッガさん。」
全員が黙った。確かに、そこを通さないわけにはいかない。
―――――
「なるほど。」
フリッガさんは全部聞いた後、静かにそう言った。部屋には僕、真魚、ソー、ロキ。そしてベッドに横たわるジェーンさんがいる。
僕たちはジェーンさんを助けるために、マレキスの元へ向かうこと、ロキを連れていくこと、そして、ソーさんが王位を継がず、ロキへ譲るつもりであることを説明した。
ロキは居心地悪そうに立っていると、フリッガさんがロキを呼ぶ。
「ロキ、こちらへ。」
ロキがゆっくり近づくと、フリッガさんはその頬へ手を添えた。
「母上。」
「あなたは賢い子です。ですが、」
フリッガさんの目が真剣になる。
「賢さだけでは、王にはなれません。」
ロキが目を伏せる。
「当然ながら、力だけでも王にはなれません。」
今度はソーも黙ってしまう。フリッガさんはロキを見つめながら、
「この戦いで、王としてのあり方の一つを学びなさい。」
そう、ロキに伝えた。
「王として……。」
「何を守るのか、何のために戦うのか、誰のために決断するのか。」
ロキはフリッガの、母の話を聞いている。
「それを考えなさい。」
長い沈黙の後。
「……はい、母上。」
ロキの答えを聞き、フリッガさんが微笑む。
「行きなさい。」
「いいんですか?オーディンさんには?」
「私から話しておきます。」
「怒られません?」
「大丈夫です。」
笑顔だった。怖い、絶対大丈夫だ。主にオーディンさん以外は。
「それから。」
フリッガさんが僕と真魚を見る。
「クロオ、真魚。ありがとう、私の命を救ってくれて。」
ソーとロキの表情が変わった。
「母上?」
「どういう意味です。」
フリッガさんが静かに語る。本来起こるはずだった未来。ダークエルフの襲撃。ジェーンを守りマレキスと戦い。そして、自分が命を落とすはずだったこと。その未来を知った僕が、わざわざ地球からアスガルドまで来たこと。地下牢で敵を食い止め、真魚は自分とジェーンを守るために戦ったこと。
話を聞き終えたソーは僕たちの前で膝をついた。
「ソーさん!?」
「クロオ。お前は、」
少し言葉に詰まる。
「そのためにアスガルドへ来たのか。」
僕は頬を掻く。
「まあ、一番の目的はそれでした。」
「母上を救うためにか。」
ロキの声が小さくなる。
「はい。」
「何故。」
「何故って。」
僕は首を傾げた。
「死ぬって知ってて、助けられるなら、助けたいじゃないですか。」
当たり前のことを言ったつもりだった。でも、ソーもロキも、しばらく何も言わなかった。真魚が僕の横で、
「私は途中参加ですけどね。でも、」
フリッガさんを見る。
「助けられてよかったです。」
「ええ。本当にありがとう。」
フリッガさんが笑うと、ソーが僕の手を取った。
「クロオ、この恩は忘れない。」
「そんな大袈裟な。」
「大袈裟ではない。」
今度は真魚を見る。
「真魚も、母上を守ってくれた。」
「ソーさん吹っ飛ばしちゃいましたけどね。」
「それは忘れよう。」
「あ、はい。」
そして、ロキが僕に歩み寄ってきた。
「……借り一つだな。」
「いえ、」
僕は指を二本立てる。
「二つですね。」
「何?」
「フリッガさん助けた分と、牢屋から出してあげた分。二つです。」
「細かいな、お前は!」
「借りはちゃんと数えないと。」
「先ほど私を爆発させると脅した分は相殺されないのか!?」
「されません。」
「理不尽だ!」
真魚が笑い、フリッガさんも小さく笑った。ソーまで笑い始める。
「何故笑う!」
ロキだけが怒っていた。
―――――
そして、僕たちはアスガルドの王宮を抜け出した。ジェーンさんをソーさんが抱え、ロキが先頭。僕と真魚がその後ろを進む。
「本当にこちらで合っているんです?」
「信用できないなら戻れ。」
「信用してますよ。」
「今の質問のどこに信用がある。」
「場所については。」
「私自身は!?」
「今後に期待。」
その隣で真魚が笑っている。アスガルドの地下、普段は使われない古い通路を進んでいると、急にロキが足を止めた。
「ここだ。」
目の前に、空間が歪むような不思議な裂け目があった。
「これが?」
ロキが振り返る。
「世界と世界の間に生じた抜け道だ。」
ジェーンさんが苦しそうに息を吐く。時間はあまりなさそうだ。
「行きましょう。」
僕が言うと、ロキは一度だけ僕たち全員を見渡し。
「では。」
裂け目へ向き直った。
「ダークエルフどもの元へ案内しよう。」
そのまま、最初の一歩を踏み出しーー
「あ、先に作戦会議しましょう。」
「今か!?」
「はい。じぁあロキさん、いつもの小賢しい作戦を一つお願いします。」
「はっ倒すぞ、貴様!」