日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
マイティ・ソー / ダーク・ワールド編完結
「とりあえず、君ら二人は隠れていてくれ。まず、私が裏切る。」
「好きですね、裏切るの。」
「そこで兄上が私に怒り狂って――」
「怒り狂う必要ある?」
「ある!迫真の演技には必要だ!」
ロキが苛立ったように言い切る。僕たちは世界の狭間を抜ける直前、何故か地面にしゃがみ込んで作戦会議をしていた。ソーさんはジェーンさんを抱えたままで、真魚は真剣な顔で頷いている。
「つまり、ロキさんが敵に寝返ったように見せて、マレキスにジェーンさんを渡して、マレキスがエーテルを取り出した瞬間、ソーさんがムジョルニアでエーテルを破壊する。」
「そうだ。」
「で、失敗したら?」
「縁起でもないことを言うな。」
「いや、一応。」
ロキが僕を見る。
「その時は力ずくだ。」
「最初から最後まで結局力ずくじゃないですか。」
「黙れ。」
まあ、分かりやすい。
「じゃあ行きましょう。」
「お前が止めたんだろうが!」
そんなやり取りを終え、僕たちは裂け目へ飛び込んだ。
―――――
辿り着いた先は、黒い大地だった。空は暗く、岩だらけの地面には植物の一本も生えていない。吹き抜ける風さえ冷たく、生命の気配がほとんど感じられない。
「ここがスヴァルトアールヴヘイムか。」
ソーが前を見据える。視線の先には、巨大な黒い船。そして、マレキスが立っていた。周囲には無数のダークエルフ。その中には見覚えのある巨体もいた。
「来たか。」
マレキスの声が響く。ソーさんがジェーンさんを抱いたまま前へ出ようとした、その瞬間、
「待て、兄上。」
ロキが腕を伸ばした。
「ロキ?」
次の瞬間。
――ザシュッ!!
「ぐっ!?」
剣がソーさんの腹を貫いた。いや、作戦だと分かってても怖い!
「ロキ!」
ソーさんが膝をつく。
ロキは冷たい笑みを浮かべると、ジェーンさんの腕を掴んだ。
「これで満足か、マレキス。」
「……ほう。」
「私はアスガルドにも、この愚かな兄にも飽きた。」
「ロキ……!」
「黙れ。」
ロキがソーさんを蹴り飛ばす。
「ぐぁっ!」
続いてムジョルニアへ手を伸ばそうとしたソーさんの腕を、
――ザンッ!
切り落とした。
「ちょっとーー」
一緒に隠れている真魚が本気で焦る。
「大丈夫、幻術!」
僕が小声で教える。
「びっくりした!」
僕もびっくりしたよ。ロキ、演技に全力すぎない?
「この女を渡そう。」
ジェーンさんがマレキスの前へ突き出される。
「望みのものが中にある。」
マレキスはロキをしばらく見つめた後、ゆっくりジェーンさんへ近づいた。
「よかろう。」
赤い光がマレキスの手から伸び、ジェーンさんの身体が宙へ浮いた。
「うっ……!」
「ジェーン!」
ソーさんが叫ぶ。赤い粒子が、ジェーンさんの身体から溢れ始め、それまで体内に宿っていたエーテルが、まるで血液のように身体の外へ引きずり出されていく。
「くっ……!」
ジェーンさんが苦しそうに身体を反らす。そして、
――ドクン。
巨大な赤い塊が完全に身体から離れた。
「今だ!」
ロキが叫び、幻術が消える。切断されていたはずのソーさんの腕が戻り、その手にムジョルニアが飛び込む。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
雷が空を覆い、ソーさんが全力でムジョルニアを振り抜く。
――ドッゴォォォォォォン!!
凄まじい雷撃がエーテルへ直撃し、赤い粒子が爆発するように散らばる。
「やった!?」
真魚が声を上げる。僕も思わず拳を握った、けれど。確かに散ったはずのエーテルは――まったく消えていない。赤い粒子が、空中で停止し、一斉にマレキスへ向かった。
エーテルがマレキスの身体へ流れ込んでいく。赤い光が全身を包み、周囲の大地が軋んだ。
「ぬぅぅぅ……!」
マレキスの身体から、圧倒的な力が溢れ出す。エーテル、いや、インフィニティ・ストーンの一つ、リアリティ・ストーンの力が。
「まずい!」
ソーさんがジェーンさんへ駆け寄る。エーテルを失ったジェーンさんが落下し、それをソーさんが抱き止めた。
「ジェーン、大丈夫か!」
「……たぶん。」
「よかった。」
その隙に、マレキスは踵を返す。
「待て!」
ソーさんが叫ぶ。だがマレキスは止まらない。
「目的は果たした。」
その身体が赤い光に包まれる。
「貴様らに構う理由は――」
そこで、マレキスの視線が止まった。僕ではなく、ソーさんでもなく、真魚に。
「……何よ?」
真魚が嫌そうに杖を構える。マレキスの表情が僅かに歪んだ。王宮で散々杖で殴られ、最後には消し飛ばされかけた相手だ。忘れるわけがない。
「……そうだな。」
マレキスが身体ごと真魚へ向き直る。
「肩慣らしくらいはしておくか。」
「いらないです!」
真魚が即答したが、マレキスの手が上がり、赤い粒子が集まり始める。
「真魚行くよ!」
「うん!」
「「変身!!」」
僕らの姿がクウガとアギトへと変わる。
僕は地面を蹴り、前に出る。いや、出ようとした。しかし、横から巨大な影が飛び込んできた。
――ゴォン!!
「ぐっ!?」
両腕で受け止めるが、後方に押し込められる。
「お前……!」
地下牢で戦った男だ。
「邪魔しないでください!」
するとわ男が初めて、はっきりと僕へ口を開いた。
「アルグリム。」
「え?」
「我が名は、アルグリム。」
名乗った。しかも、めちゃくちゃ真正面から。
「貴様の名を聞こう。」
「十文字クロオ、今の名はクウガ。」
「クウガ。」
アルグリムが拳を構える。
「地下牢では決着がつかなかった。」
うん、こういう真正面から来る敵は嫌いじゃない。
「次こそ――」
「でも今どけ!!」
「何?」
「超変身!」
金色の雷光が弾け、ライジングマイティへと姿を変える。そして、変身と同時に地面を蹴り、
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
開幕から全力で跳び、右脚へ封印エネルギーを集中させる。空中で身体を捻り、
「オリャァァァァァァ!!」
ライジングマイティキックを叩き込む!
――ドッゴォォォォォォン!!!
蹴りがアルグリムの胸へ直撃し、雷光と封印エネルギーが爆発する。
「ぐぉぉぉぉっ!!」
巨大な身体が吹き飛び、そのまま岩山へ激突する。
――ドガァァァン!!
岩が崩れ、アルグリムの姿が埋もれる。僕は着地と同時に真魚の方へ走った。
「真魚!」
「クロオ!」
マレキスの赤い攻撃が真魚へ迫っていた。真魚は杖で弾くが、
――ドォン!!
「こんのっ!」
真魚も後方に弾かれる。外れた敵の攻撃は一発ごとに大地が抉れ、岩が消し飛している。
「よいっしょっ!」
真魚が踏み込み、杖を振るう。マレキスが片手で受け止め、顔を歪めた。
「ん?」
「ハァッ!!」
赤い衝撃波。
――ドォン!!
「真魚!」
吹き飛ばされた真魚へマレキスが追撃しようとする。させるか!僕は横から割り込み、
「こっちだ!!」
全身の封印エネルギーを右拳へ、ライジングマイティで出せる、今の僕の最大出力。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
マレキスがこちらを見るが、遅い!
――バヂィィィィィッ!!
拳を顔面に叩き込む!!
――ドッッゴォォォォォォン!!!
金の光が炸裂し、雷光が周囲を照らす。十分な封印エネルギーも込めた一撃を喰らったマレキスの顔面は大きく歪み、身体が地面を抉りながら吹き飛び、岩壁に激突した。
――ドガァァァァァン!!
「よし!」
良いのが入った!マレキスの顔には大きな傷が刻まれている。皮膚が裂け、黒い血が流れ――
「……はい?」
赤い粒子が傷口へ集まり、傷が塞がる。
「回復するかー。」
マレキスがゆっくり立ち上がる。
「……面白い。」
いや、こっちは全然面白くない。
「真魚!」
「うん!」
僕と真魚が並ぶ。ライジングマイティとシャイニングフォーム。
「二対一なら――」
ゾクッ。
全身に寒気が走った。真魚も反応したみたいだ。ソーさんも、ロキまで、全員が同じ方向を見る。さっきアルグリムを蹴り飛ばした岩山からだ。
――ガラ。
岩が落ちる。
――ガラガラガラ。
そして。
――ドォン!!
岩山が内側から吹き飛んだ。
「……マジか。」
アルグリムが立っていた。胸には僕のライジングマイティキックを受けた痕。間違いなくダメージはある。けど笑っているようにも見える。
「素晴らしいぞ、クウガ。」
なんで褒められてるんだろう?後、その手に握っている黒い石は何ですか?
「あの姿、奴は既にカース・ストーンを取り込んでいるはずだ。もう一つだと?」
「よせ!」
ロキの声に焦りがあった。
「それ以上取り込めば、貴様の身体が持たんぞ。」
アルグリムは止まらない。
「構わぬ。我が命は、既に長くない。」
黒い石を胸の前へ持っていく。
「マレキス様のためならば。」
一度だけマレキスを見る。そして、僕へ視線を戻し、
「そして、貴様を殺すためならば、この僅かな命を削ることに、躊躇いはない!」
石を取り込んだ。
――ドクン!!
大地が揺れ、黒い波動が爆発する。アルグリムの身体がさらに膨れ上った。筋肉が隆起し、黒い装甲のような皮膚がさらに分厚くなる。周囲の岩が、何も触れていないのに砕けていく。
「うわ……。」
さっきまでとは別物だ。戦わなくても分かる。ライジングマイティじゃ足りない。
「本気出すか。」
アークルへ意識を集中する。身体の奥から、これまで抑えていた雷のエルの力を解放する。
「超変身。」
金の力を限界まで引き出す。
――バヂィィィィィィィッ!!
全身の赤が黒へ。両腕、両脚に金の装飾。四肢へ走る雷。かつてガドルを倒し、光のエルを打倒した、黒と金の戦士アメイジングマイティへと姿を変える。
アルグリムが嬉しそうに拳を構えた。
「本当に素晴らしい。」
「やっぱり戦闘狂じゃないですか。」
「クロオ。私はあっち?」
杖の先でマレキスを示す。
「いや待って。」
マレキスはエーテル、インフィニティ・ストーンを取り込んだダークエルフの王。アルグリムは自分の命を燃やしてくる怪物。
「分担したら危なくない?」
「じゃあ二人で二人を相手にする?」
「それで。」
「了解。」
僕と真魚が並ぶ。アメイジングマイティとアギト・シャイニングフォーム。向かい側。リアリティストーンを取り込んだマレキスと二つ目のカース・ストーンを取り込んだアルグリム。
その背後では、ソーさんがジェーンさんをロキへ預けていた。
「ロキ、ジェーンを頼む!」
「私に?」
ジェーンさんがロキを見る。
「あなたはいいの?」
「何がだ。」
「戦わなくて。」
ロキが前を見る。マレキス、アルグリム、ソー、クウガ、そしてアギト。ついでに、周囲には大量のダークエルフ。
「……あの中に私が入ったら。」
ロキが真顔で答えた。
「すぐ死ぬぞ。」
「……確かに。」
「理解が早くて助かる。」
ソーさんがムジョルニアを構え、
「はぁぁぁぁっ!!」
雷を轟かせ、ダークエルフの兵士たちへ突っ込んでいく。
僕は拳を握り、黒い装甲へ金の雷が走らせ、真魚の杖からは眩い光が溢れる。
マレキスの周囲では赤い粒子が渦巻き、アルグリムの全身から黒い波動が噴き出す。
空気が震え、大地が軋む。
「行くよ、真魚!」
「うん!」
「来い、クウガ!」
「殺してやるぞ、小娘!」
アルグリムが吠え、マレキスが赤い光を広げる。
僕と真魚は同時に地面を蹴った。
――ドォン!!
最初にぶつかったのは、僕とアルグリムの拳だった。
黒と金の雷を纏った僕の拳と、二つのカース・ストーンを取り込んだアルグリムの拳が真正面から激突する。
「ぬぅぅぅぅっ!!」
「ぐっ……!」
重い!さっきまでとは、本当に別物だ!踏ん張った足元が砕け、僕の身体が僅かに押し込まれる。けれど、
――視界に赤い波動が映り込む。
僕の視界ではなく、真魚の視界を通じて、背後から赤い光が迫っていることを察知する。
『クロオ、こっち!』
さらに、声ではなく頭の中に直接届く、真魚の意思に従って回避する。僕はアルグリムの拳を受け流しながら身体を右へ捻る。
直後。
――ドォン!!
僕がいた場所を赤い光が通過した。マレキスの攻撃を避け、その攻撃を放ったことで生まれた隙へ、
『行ってくるよ!』
「任せた!」
真魚が飛び込む。
「ハァァッ!!」
シャイニングフォームの光を纏った杖がマレキスの脇腹へ叩き込まれた。
――バヂィィィッ!!
「ぐぅっ!?」
マレキスの身体が大きく揺れる。
「貴様ァ!」
怒りに任せ、マレキスが真魚へ腕を振るう。
『クロオ!』
真魚の視界も見えている僕は、アルグリムの攻撃を紙一重でかわしながら、一気にマレキスとの間へ割り込んだ。
「今度は僕だ!」
「邪魔をするな!」
マレキスの拳を受け止め、そのまま蹴り飛ばす。
「真魚!」
「うん!」
僕の背後から真魚が飛び出し、
「ハァッ!」
光を纏った杖を振り下ろす。マレキスが赤い粒子で防御すが、
――バヂィィィィッ!!
「ぐぅっ……!」
まただ。明らかに僕の攻撃よりも、真魚の攻撃を嫌がっている。そのまま僕と真魚は位置を入れ替える。真魚を狙ったマレキスへ僕が割り込み、僕を狙って突っ込んできたアルグリムの拳を真魚が杖で逸らす。
マレキスに一撃を入れてから、直ぐにアルグリムを蹴り飛ばす。
『後ろ!』
真魚の意思を信じ、振り向かずに僕はしゃがみ込む。頭上をマレキスの赤い光が通過、そのまま地面へ手をつき、後ろ蹴り。
――バゴォッ!!
「ぐっ!」
マレキスの腹を蹴り抜く。
「なんだ、これは……!」
マレキスが苛立った声を漏らす。
「何故、攻撃が当たらん!」
僕の近くにいる限り、真魚は僕に対してテレパシーもサイコメトリーも使い放題らしい。視界を共有し、意思を共有する。次にどう動くか。何を狙っているか。全部、言葉にするより早く伝わる。
もちろん、僕の全部が見えるわけじゃないらしく、
『クロオの心の奥までは見えないよ。なんか壁みたいなのがある。』
真魚はそう言っていた。たぶん僕の潜在的な力が強すぎるからだろう。でも、戦闘中の表層的な思考なら十分。だから、
「真魚、下!」
「分かってる!」
僕が言う前から真魚はしゃがんでいる。その頭上を僕の回し蹴りが通り、
――バゴォッ!!
背後から迫っていたダークエルフの兵士を蹴り飛ばす。
「何なのだ、貴様らは!」
「仲良しです!」
「それで済ませるんだ!?」
いや、説明するの面倒だし!
「――なるほどな。」
少し離れた場所でジェーンさんの護衛を勤めながら戦況を見ていたロキが、何かに気づいたように目を細めた。
「小娘の攻撃だ!」
「真魚?」
ロキがマレキスを指差す。
「エーテルは確かに破壊できん!インフィニティ・ストーンそのものを消滅させるなど、ムジョルニアですら不可能だった!」
「それが!?」
ロキの声が僕のところまで聞こえてきたので、アルグリムの拳を避けながら叫び返す。
「だが、器は別だ!」
ロキが声を張り上げる。
「マレキスはエーテルそのものではない!所詮はダークエルフの肉体だ!そして、あの小娘が纏う光!」
真魚が纏うシャイニングフォーム。その名の通り、全身から眩い光を放つアギト。
「奴らは闇に生きる種族だ!あの光は奴らの肉体に対し、極めて相性が悪い!」
なるほど、だから真魚は王宮でもダークエルフを相手に無双をーー
「ハァッ!!」
――バヂィィィン!!
「ぐぉっ!?」
アルグリムの拳を、真魚が杖で真横へ弾いた。二つ目のカース・ストーンまで取り込んだアルグリムの拳を真正面から。
「……いや。」
弱点だけじゃないわ。この子、普通に戦闘センスある。
「余所見をするな、クウガ!」
アルグリムの蹴りを両腕で受ける。
――ドォン!!
「ぐっ!」
吹き飛ばされながら着地。マレキスは真魚を狙う。アルグリムは僕を狙う。だから互いに互いを助ければ、こっちが有利。でも、このままじゃ決め手に欠ける。マレキスはエーテルで回復してくるし、アルグリムは時間制限があるらしいけど、異常なほど頑丈。なら、
「……引き離すか。」
それなら、アレだな。僕は空を見上げる。
「ゴウラム!!」
声が荒野に響き、一秒、二秒。
「何を――」
アルグリムが訝しげにした、その時。
――キィィィィィィン!!
遠くの空から、黒い影が飛んできた。
「来た!」
ゴウラム!僕の相棒が、物凄い勢いでこちらへ飛んでくる。
「悪い、ちょっと付き合って!」
飛んできたゴウラムへ跳び乗る。アークルから金色の雷が迸り、その力を一気にゴウラムへ流し込む。
「おぉぉぉぉっ!!」
――バヂィィィィィィィッ!!
黒い装甲へ、金色の紋様が走る。全身から雷を放ちながら、ゴウラムの姿が変化していく。アメイジングゴウラム。
「行けぇぇぇぇっ!!」
――ゴォォォォォッ!!
「ぬぅ!?」
アルグリムへ真正面から突撃。
――ドッゴォォォォン!!
「ぐぉぉぉっ!?」
巨体が吹き飛ぶ。けれどアルグリムは倒れず、アメイジングゴウラムの角を両腕で掴み、
「ぬぅぅぅぅぅ!!」
真正面から押し返し始めた。
「嘘でしょ!?」
怪力すぎる!でも、
「ゴウラム!少しだけ頼む!」
僕はその背中から飛び降り、一旦アルグリムをゴウラムに任せる。
「真魚!力を溜めて!」
真魚が僕を見てくる。
『時間稼せいでもらっても良い?』
「任せて!」
『じゃあ、限界まで溜める!』
真魚が杖を胸の前へ構え、光が集まり始める。
「させるものか!」
マレキスが真魚へ手を向ける。
「させないのはこっちだ!」
僕はその正面へ飛び込んだ。
――ドゴォッ!!
マレキスの顔を殴るが、赤い粒子が傷を修復する。もう一発。
「貴様ァ!」
マレキスの拳が僕の頬へ入る。
「ぐっ!」
痛い!でも止まらない!殴る。殴られる。蹴る。吹き飛ばされる。また突っ込む。その間にも、真魚の力は高まり続けている。
「……仕方ない。」
ロキが周囲を見る。大量にいたダークエルフたちは――
「はぁぁぁぁぁっ!!」
――ドガァァァン!!
雷神様一人に完全にかかりきりだ。雷とムジョルニアが荒野を暴れ回り、兵士たちが次々と吹き飛ばされている。
「あちらは兄上に任せれば問題ないな。」
ロキがジェーンさんを見る。
「ジェーン。」
「何?」
「今から君に幻術をかける。」
「え?」
ロキが指を鳴らすと、ジェーンさんの姿がその場から消えた。
「動くなよ。動かなければまず見つからん。」
「ちょっと待って、あなたは?」
「援護だ。」
「戦ったらすぐ死ぬんじゃなかったの?」
「前線に立たなければいい!」
そう言い残し、ロキが走り出した。一方、
「ぬぅぅぅぅっ!!」
「おぉぉぉぉっ!!」
僕とマレキスの力がぶつかり、マレキスの全身からエーテルが噴き出した。赤い波動が周囲の岩が次々と消し飛ぶ。
「消え失せろ!」
――ドォォォォォォォッ!!
「させるかぁぁぁぁっ!!」
僕も雷のエルの力と封印エネルギーを全開にし、アメイジングマイティの全身から金色の雷が爆発する。赤と金。二つの力が真正面からぶつかる。
――バヂィィィィィィィッ!!
「ぐぅぅぅっ!」
押される!やっぱり、とんでもないリアリティ・ストーン!でも!
「まだぁぁぁぁっ!!」
押し返すために全力で踏み込ーー
「クウガァァァァッ!!」
「っ!?」
アルグリム!?見ると、アメイジングゴウラムを振り切っていた。
「しまっ――」
――ドゴォォォッ!!
「がっ!?」
真横から突っ込まれ、身体が吹き飛ばされてしまう。
「クロオ!」
真魚が叫ぶ声が聞こえる。いやそれよりも、マレキスと真魚の間に道が開いてしまった。
マレキスが笑った。
「ようやく、貴様を殺せる。」
両腕を真魚へ向け、エーテルが集中する。
「真魚!!」
急いで起き上がり、間に合わせるために走ろうとして――
「……ん?」
違和感から足を止める。真魚から伝わってくる感覚に、焦りがない?むしろ、なんか呆れてる。
『クロオ。大丈夫。』
「え?」
「消え失せろォォォォッ!!」
マレキスが全力の波動を放ち、赤い奔流が視界に映る真魚を飲み込んだ。
――ドッゴォォォォォォン!!
「フハハハハハハハ!!」
マレキスが高笑いする。
「ようやくだ!忌々しい光の娘め!」
僕は黙って別方向を見る。
「ハハハハハハッ、ハッ、………何?」
マレキスも気づいた。スヴァルトアールヴヘイムの暗い空を照らすほどの光が、たった今波動を放った方向とは全く別の方向から煌めいていることに。
「な――」
マレキスが振り向くと、
「残念だったな。」
ロキと、杖を構えた真魚がいた。
「貴様!?」
「幻術だ。」
ロキが笑う。
「随分と派手に引っかかったな、マレキス。」
「ロキさん。」
真魚が杖を構えたまま尋ねる。
「なんで撃つ前に幻覚解いちゃったの?」
「君の力が強すぎるからだ!こんなものを隠しながら維持できるか!」
「あ、そう。」
真魚の周囲に集まった光は、もう直視できないほどだった。マレキスの顔に初めて明確な恐怖が浮かんだ。
「待て。」
「嫌。」
「待て!」
「王宮で。」
真魚の声が低くなる。
「ジェーンさんとフリッガさんを殺そうとした分。」
杖を向ける。
「まとめて返すから。」
「やめ――」
「ハァァァァァァァァァッ!!」
極光が輝き――――世界が、白く染まった。
「グァァァァァァァァァァァァッ!!!」
マレキスの絶叫が荒野に響く。シャイニングフォームの光が真正面からダークエルフの王を飲み込んでいく。赤いエーテルが抵抗するが器である肉体が持たない。身体が、光の中で崩れていく。
「マレキス様!!」
アルグリムが叫ぶが、
――バシュン!!
光が消え、マレキスもいない。残っているのは、空中を漂う、赤い粒子、エーテルだけ。
「……やった。」
真魚が呟き、僕も、ソーさんも、ロキも、本当に一瞬だけ油断した。その瞬間にアルグリムが動いた。
「まずい!」
気付いた時には、奴はエーテルの真正面に立っていた。
「アルグリム!」
ロキが叫ぶ。
「まさか、貴様!」
二つのカース・ストーン。そこにリアリティ・ストーンまで取り込んだら絶対にヤバい!けれどアルグリムはエーテルを一瞥し、その横を通り過ぎた。
「……え?」
真っ直ぐ、僕の前へ。僕の目の前で止まり、何も言わずにアルグリムが両拳を構える。
「…………はぁ。」
大きなため息を吐いて、僕も無言で拳を構える。
「クロオ!」
真魚が杖を向けようとする。
「待て。」
ロキがその腕を掴んだ。
「何で!?」
「あれは戦士の戦いだ。」
ロキが静かに言う。
「己の全てを賭け、最後に何を貫くか。それだけを決める戦いだ。やらせてやれ。」
真魚がロキを見る。
「それって、王様としての決断?」
「いや。」
ロキは真顔で答えた。
「男としてだ。」
僕とアルグリムが同時に地面を蹴る。特殊な力は使わない。雷も、封印エネルギーも、カース・ストーンの波動も。ただ、拳だけを振るう。
――ドゴッ!
アルグリムの拳が僕の腹へ入る。僕の拳が頬へ入る。
――バゴッ!
「ぬぅ!」
また殴られる。殴り返す。
「ハァッ!」
「ぬぅぅっ!」
防がない、避けない。真正面からただ殴る。アルグリムの身体は、もう崩れ始めていた。二つ目のカース・ストーンによって限界を越えた肉体。それでも、拳は止まらない。
「クウガ!」
「アルグリム!」
最後に二人同時に踏み込み、拳を振り抜いた。
――ドゴォッ!!
僕の拳がアルグリムの顔へ。アルグリムの拳が僕の顔へ。同時に突き刺さった。
「……。」
「……。」
僕の膝が折れ、片膝をつく。
そしてアルグリムは、ゆっくりと仰向けに倒れた。
――ズン。
「……良い、」
身体が崩れていき、黒い粒子となっていく。
「良い、戦いだった。」
「……僕もです。」
アルグリムの口元が僅かに上がる。
「クウガ。」
「はい。」
「強くあれ。」
その言葉を最後に、アルグリムの身体は完全に崩れ去った。
「……。」
僕がしばらく黙っていたら、そこへ真魚が歩いてくる。
「クロオ。」
「うん。」
「結局、あの人は何がしたかったの?」
僕が答えに困っていると。
「男にはな。」
いつの間にか隣に来ていたソーさんが腕を組む。
「命を懸けてでも、貫きたいものがある時があるのだ。」
「そういうもの?」
「ああ。」
ロキも頷く。
「理屈じゃないんだよ。」
真魚がソーさん、ロキ、そして僕を見る。
「つまり、男は馬鹿ってことね。」
「「「……。」」」
誰も否定できなかった。
―――――
その頃、地球のグリニッジでは。
「どうしてこうなった……。」
エリック・セルヴィグは頭を抱えていた。目の前では、九つの世界が重なるコンバージェンスによって、空間が滅茶苦茶になっている。車が空へ落ち。鳥が消え。別の場所から飛び出してくる。
「博士!また重力異常です!」
「分かってる!」
ダーシーの声に答えながら装置を操作する。本来の流れなら、この状況を利用し、ダークエルフとの最終決戦を行うはずだった。ところが、
「右だな。」
隣から声。
「右の空間だ。三秒後にムスペルヘイムへ繋がるぞ。」
「何故分かる!?」
「そりゃま、ちっとばかし上位の存在だからだよ。」
セルヴィグの隣に立っているのは、一人の男。人間にしか見えないが本人曰く、火のエルという人間ではない存在らしい。数時間前、何の前触れもなく突然現れ、
『世界が重なるから、少し手伝え。』
そう言われ、本当に手伝わされている。
「三、二、一。」
空間が開く。
「今だ!」
セルヴィグが装置を起動し、異常が一つ収束する。
「……。」
セルヴィグは火のエルを見る。
「君、何者なんだ?」
「火のエルだ。」
「それは聞いた!」
「じゃあ問題ないな。」
「問題しかない!」
ダーシーが遠くから叫ぶ。
「博士ー!次来ます!」
「休ませてくれ!」
「ほら、今度は左だ。」
「分かったよ!」
セルヴィグが走る。今日はもう、何が起きても驚かないことにした。
2日後、筋肉痛で寝込んだ。
―――――
アスガルドの玉座の間。
戦いを終えた僕たちは、再びオーディン王の前にいた。
「――以上です。」
ソーさんがスヴァルトアールヴヘイムでの戦いの報告を終える。
オーディン王はしばらく沈黙していて、その隣にはフリッガさんがいる。
そして僕たちの横にはロキ。
「父上。」
ソーさんが一歩前へ出る。
「もう一つ、お伝えしたいことがあります。」
「申せ。」
「私は、ジェーンと共に地球へ戻ります。」
ロキがソーさんを見る。
「兄上?」
「私は王位を望みません。」
ソーさんは静かに続ける。
「九つの世界を見ました。戦いも、人々も。そして地球で生きる者たちも。」
一度、僕を見る。
「私は王になるより、守る者でありたい。」
そして、ソーさんがロキを見る。
「次の王には、ロキが相応しい。」
「……何?…………いや。待て、兄上。」
「本気だ。」
「待てと言っている!」
ロキが珍しく本気で慌てている。
「私は――」
言葉を止めて、拳を握りしめている。
「私は、傲慢だった。」
静かな声。
「自分こそが王に相応しいと思い込んだ。兄上を妬み、父上を恨み、母上の愛に甘えた。」
フリッガさんが目を伏せる。
「地球を侵略し、多くの命を奪った。」
ロキは自嘲する。
「そんな男が王だと?兄上は私を買い被りすぎだ。」
ロキはオーディン王を見る。
「私は、その器ではありません。」
沈黙が広がる。そこで、
「でも。」
真魚が口を開いた。全員の視線が彼女に集まる。
「ロキは私を守ってくれました。」
「……小娘。」
「真魚。」
「……真魚。」
「マレキスが攻撃した時、幻術で助けてくれたました。私一人じゃ、あんな上手くいかなかったと思います。」
「それは戦術上――」
「勇気出してよ。」
「何?」
「自分でまだ駄目だって分かってるなら、これから頑張ればいいじゃん。」
真魚らしい。単純だけど、だからこそ届く言葉だ。
「僕からも。今回勝てたのはロキさんのおかげです。」
「君まで何を。」
「小賢しい作戦を考えたのも。最後に真魚を助けたのも。僕たちがマレキスを倒せた理由を見抜いたのもロキさんです。」
「……小賢しいは余計だろう。」
「少なくとも、僕は助かりました。」
オーディン王がロキを見る。長い沈黙が続き、
「ロキ。」
「……はい。」
「お前の罪は重い。」
「承知しています。」
「本来ならば、許されぬ。」
ロキは何も言わない。
「だが。」
オーディン王が立ち上がる。
「罪を悔い、己の未熟を認める者に、やり直す機会すら与えぬほど、私は愚かな王ではない。」
「父上……。」
「王にはせぬ。」
「…………。」
「まずは代理だ。」
「代理?」
「私の名の下で政務を執れ。九つの世界を知り、人々を知れ。お前が傷つけた者たちのために働け。」
オーディン王がグングニルを床へ突く。
――ゴン。
「そしていつの日か。」
ロキを見据える。
「民が。兄が。母が。そして私が。お前こそ王に相応しいと認めた時。その時こそ、真の王となれ。」
ロキは俯き、しばらくして、
「……はい。」
小さく、けれど、はっきり答えた。
「私も支えますよ。」
フリッガさんが微笑む。
「母上……。」
「今度こそ、間違えないように。」
「……努力します。」
「そこは『はい』でしょう?」
「……はい。」
ちょっと笑ってしまった。
―――――
地球へ戻る直前。何故か僕と真魚、それにソーさんは再び呼び出された。オーディン王に加えて、フリッガさん、ロキ、全員揃っている。ちなみにジェーンさんはいない。
「念のため、最後の診察を受けてもらっています。」
フリッガさんが教えてくれた。
「エーテルが長期間体内にありましたから。」
「大丈夫なんですか?」
「ええ。ただ……別の病巣が一つ見つかったそうです。」
「え?」
「まだ極めて小さいものです。今回の検査がなければ、数年は見つからなかったでしょう。」
僕は固まった。…………ジェーン・フォスターの病気?もしかしてエンドゲームの後に、マイティ・ソーの続編とかあったりするの?………火のエルに確認しておこう。
「治せるんですか?」
「もちろん。」
フリッガさんが当然のように答える。
「既に治療を始めています。」
「……よかったぁ。」
心底、安心した。未来が変わった、のかな?
「それで。」
フリッガさんが僕を見る。
「クロオ、あなたは未来の知識を持っているのでしょう?」
「全部じゃないですけど。」
「もし、まだアスガルドに関して懸念があるのでしたら、話しておいてください。」
「……あります。まず、」
僕は、厳重に保管されているエーテルを見る。
「それ、アスガルドで管理してもらって良いですか?」
「エーテルを?」
「はい。絶対に。」
確か、アスガルドにインフィニティ・ストーンを二つ置くのは危険だからって、コレクターとかいう奴に預けていたよな?その結果、サノスに取られた。
「できれば誰にも渡さないでください。」
オーディン王が頷く。
「よかろう。」
「それから。」
ずっと気になっていたこと。
「ソーさんたちのお姉さんの復活って、どうなりそうですか?」
部屋が静まり返った。
「姉?」
ソーさんが首を傾げる。
「兄上。私は初耳だぞ。」
「俺もだ。」
二人揃って両親を見る。オーディン王にフリッガさんも無言になってしまっている。
「父上?」
「母上?」
オーディン王が深く息を吐いた。
「ヘラ。」
「ヘラ?」
「お前たちの姉だ。」
ソーさんとロキが固まる。オーディン王は、かつて自分と共に九つの世界を征服した娘がいること、あまりにも強大で、あまりにも野心に満ち、やがて自分でも制御できなくなったため封印したことを話してくれた。
ソーさんが呆然としている。ロキも同じ。
「姉上がいた……。」
「しかも征服者……。」
「ロキ。お前より酷いぞ。」
「比較するな!」
僕はオーディン王を見る。
「その人が復活すると、」
「すると?」
「多分、アスガルドが滅びます。」
また静かになった。
「滅びる?」
ソーさんが聞き返す。
「はい。」
「アスガルドが?」
「はい。」
「姉上に?」
「色々重なってですけど。」
オーディン王の顔がものすごく険しくなる。
「だから。」
僕は念を押す。
「今のうちから対策しておいてください。」
「……承知した。」
「本当にお願いしますよ?」
「分かった。」
「絶対ですよ?」
「分かったと言っている!」
よし。これで少なくともラグナロクが始まってから、
『姉がいた!どうしよう!』
にはならないはずだ。たぶん。
―――――
そして、ジェーンさんの治療も無事に終わり、
「じゃあ、地球で。」
ソーさんが言う。
「はい。」
「先に戻っているぞ!」
ソーさんがジェーンさんを抱え、ビフレストが起動。虹色の光が二人を包み、消えた。
「……。」
僕と真魚は二人だけ残れた。
「……あれ?」
真魚が首を傾げる。
「私たちは?」
僕もヘイムダルを見る。
「ヘイムダルさん?」
「何だ。」
「ビフレストは?」
「必要ない。」
「はい?」
「お前たちには、別の道がある。」
ヘイムダルが僕の背後を見る。そこには、
「……ゴウラム?」
僕の相棒が浮かんでいた。戦いを終え、元の姿へ戻ったゴウラム。
「今回の戦いで、お前の力を大量に受け、さらに世界の狭間を何度も越えた。結果、」
ヘイムダルが淡々と言う。
「進化した。」
「……何に?」
「自力で世界間を移動できる存在にだ。」
僕と真魚がゴウラムを見る。ゴウラムも多分こっちを見ている。
「つまり。」
恐る恐る聞く。
「ゴウラムだけで、アスガルドから地球まで帰れる?」
「ああ。」
「ビフレストなしで?」
「ああ。」
「九つの世界を渡ることも?」
「ああ。」
僕はゴウラムへ駆け寄った。
「マジか!!」
ゴウラムが誇らしげに羽を広げる。
『ーーーーーッ!!』
「すごいじゃんゴウラム!!」
「クロオ!私も乗せて!」
「乗ろう!」
「落とさないでよ!」
「たぶん大丈夫!」
「たぶん!?」
「ゴウラムが!」
「クロオじゃないんだ!?」
僕たちがゴウラムへ飛び乗ると、背後からロキの声がした。
「おい!」
「はい?」
振り返ると、ロキが呆れた顔でこちらを見ていた。
「次に来る時は。」
少しだけ間を置いて。
「もう少し平和な時にしろ。」
僕は笑う。
「善処します!」
「絶対しない顔だな、それは!」
ゴウラムが羽を広げると空間が歪む。目の前に、世界と世界を繋ぐ裂け目が開いていく。
「じゃあ、帰ろうか。」
「うん!」
僕たちを乗せて、進化したゴウラムは、九つの世界を越えるために飛び立った。
皆さんが楽しんでいただけていることが幸いです。
ただ、リアルの仕事が忙しくなるので投稿ペースはここから落ちてしまうことをご報告します。
なんとか頑張って書いていきますので、よろしくお願いします。