日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
皆さん、仕事中に小説を書いてはいけません。
脅威
地球へ帰還して、最初に待っていたもの。それは、家族との感動的な再会でもなければ、平穏な日常でもなかった。
「――それで?」
「はい。」
「お前はロンドンへ行き、ソーに会ったんだな?」
「はい。真魚のおかげで無事にソーさんとジェーンさんに会えました。」
「そこから、北欧神話の神々が住む別世界へ行ったわけか。」
「はい。アスガルド、凄い場所でした。」
「………もとからその予定だったとはいえ、真魚くん連れて宇宙人の襲撃に巻き込まれた。」
「はい。ダークエルフって奴らでした。あ、真魚は凄く強かったです。」
「ソーの母親が殺される未来は変えることができた、と。」
「はい。フリッガさんは無事です。」
「………それだけで満足せず。世界と世界の狭間を通って、ダークエルフの本拠地へ乗り込み、そこでエーテルという凄まじい力を持った何かを巡って戦った。」
「スヴァルトアールヴヘイムっ言うらしいです。エーテルを使った敵の親玉も強かったですが、やっぱ印象に残ってるのはアルグリムかな。」
「名称もお前の感想も今はいらん。それで、最後はゴウラムに乗って帰ってきた。」
「凄いですよね。今のゴウラムは別の世界まで行けるんですよ。」
「……。」
「……。」
一条さんが頭を抱えている。そして、僕は正座している。解せぬ。
「一条さん。」
「なんだ。」
「僕、世界救ってきたんですけど。」
「だから事情聴取している。」
「普通、もう少しこう……お疲れ様、とか。」
「無断で世界を救いに行くんじゃない。」
「ちょっと何言ってるか分かりません。」
「俺も自分が何を言っているかよく分からん。」
隣では真魚が普通に座ってジュースを飲んでいた。
「真魚。なんで僕だけ怒られてるの?」
「一条さんは私の保護者ではないからじゃない?」
ご尤もです。
一条さんは僕から提出された――というか、口頭で延々と聞かされたアスガルド遠征の報告を、どうにか頭の中で整理しようとしているらしい。けれど、
「九つの世界とダークエルフ。」
「はい。」
「エーテル、オーディン、そしてニューヨークを襲ったロキが王代理。」
「そうなりました。」
また頭を抱えた。
「一条さん、大丈夫です?」
「大丈夫に見えるか?」
「見えません。」
「なら聞かないでくれ。」
かなり参ってる。まあ仕方ない、僕だって数日前まで、
『ダークエルフがアスガルドを襲うからフリッガさんを助けないと!』
とか思っていただけなのに、終わってみればロキが王代理になり、ジェーンさんの病気が早期発見され、ヘラの存在まで事前に共有されてしまった。原作からの逸脱がすごい。というか、もう原作って何だろう。
「ねえ、クロオ。」
「ん?」
真魚がストローから口を離した。
「次は?」
「次?」
「次に何が起こるの?」
一条さんも頭を上げて、こちらを見てくる。
「真魚。なんで今それ聞くの?」
「だって、まだ何かあるんでしょ?」
「ありますけど。」
「なら早めに知っておいた方がいいじゃん。」
正しい、ものすごく正しい。
「黒雄。アスガルドの話は一旦横へ置こう。」
「横に置けるんです?」
「置かないと話が進まん。」
一条さんが目を閉じて深呼吸してる。真剣な顔に戻してから、
「次に起こる事件について、知っていることを話してくれ。」
僕は天井を見る。次。次か。時系列的に考えるなら。
「……キャプテン・アメリカの事件ですね。」
「スティーブ・ロジャースか。」
アベンジャーズの時に一条さんも名前くらいは把握している。問題は、
「内容、どの程度覚えてるの?」
真魚が聞いてくる。
「…………そこなんだよね。」
「微妙なの?」
「だいぶ。」
僕の前世の記憶は、映画を一言一句暗記しているような便利なものじゃない。印象的な場面や大きな流れ。誰が敵で、何が起こるのか。そこまでは覚えている、はず。でも、細かい順番や日付、人間関係なんかはかなり曖昧だ。
「確か……ウィンター・ソルジャーっていうのが戦う敵で、」
「冬の兵士?」
「どんな奴だ。」
「キャプテンの昔の親友です。」
「親友が敵になるの?」
真魚が首を傾げる。
「死んだと思われてた人が敵に洗脳されてるんです。」
「また重い話ね。」
本当にね。でも、一番重要なのはそこじゃない。
「問題はS.H.I.E.L.D.なんです。」
一条さんの眉が動く。
「S.H.I.E.L.Dが.?」
「はい。」
僕は少し考える。どう説明したものか。
「確か……インサイト計画っていうのが動いていて、」
「インサイト計画。」
「S.H.I.E.L.D.が進めてる計画です。人工衛星を使って……」
そこで記憶を掘り返す。
「……敵になりそうな人を見つけて、ヘリキャリアから先制攻撃して殺す計画です。」
「待て。」
一条さんが手を上げた。
「おかしい。なんだそれは?『なりそうな』だと?犯罪を起こす前の人間を殺すのか?」
「結果的には。」
「警察どころか法治国家そのものを否定しているぞ。」
そうなんです。
「なぜS.H.I.E.L.D.がそんな計画を?」
「そこが一番ややこしくてですね。S.H.I.E.L.D.って、ほぼヒュドラに乗っ取られてるんですよ。」
今度は完全に、一条さんが固まった。
「……ヒュドラ?なんか頭がたくさんある蛇みたいなヤツ?」
真魚が聞いてくる。うん、普通の人はそっちを思い浮かべるよね。
「第二次世界大戦中にいた、ナチス系の秘密組織だそうです。」
「噂話程度で聞いたことはある。滅びたのではないのか?」
一条さんの声が低くなる。
「滅びてません。戦後、S.H.I.E.L.D.の中に潜り込んで、何十年もかけて内部から増えたそうです。」
「どの程度だ。」
「かなり。」
「具体的に。」
僕は少し考え。
「多分、S.H.I.E.L.D.って看板の下にヒュドラが書かれてて、混ざりすぎて、外から見ても分からないくらい。」
変な例えになってしまった。あ、一条さんがまたフリーズした。
「一条さん?」
「…………。」
「一条さーん。」
「少し待ってくれ。」
一条さんが額を押さえる。
「世界最大規模の諜報機関に、第二次世界大戦時のテロ組織が数十年かけて潜伏し、現在では組織そのものを内部から乗っ取る寸前。」
「多分そんな感じです。」
「そして、その組織が衛星と空中兵器を使って、犯罪を起こす可能性がある人間を一方的に殺害する計画を進めている。」
「はい。」
「その中心にキャプテン・アメリカが巻き込まれる。」
「はい。」
あ、一条さんが顔を手で覆った。
「アスガルドの方がまだ分かりやすかった。」
「ええ!?」
「敵がダークエルフだと明確だった。」
「あー……。」
確かに。今度は敵味方が分からない。むしろ厄介さだけなら、こっちの方が上だな。
「それ、いつ起こるの?」
真魚が聞いてくる。
「確か……来年かな。」
「来年?」
「冬くらいだったと思う。」
「冬。」
「多分。」
一条さんが睨んでくる。
「多分だと?」
「細かい時期は本当に覚えてないんですって!」
映画の公開日と劇中時間がごっちゃになってるんです!でも、少なくとも今すぐではなかったはず。
「来年の冬頃か。」
一条さんが呟く。
「まだ時間はあるな。」
「ありますね。」
「しかし、下手には動けない。」
「ですよね。」
僕たちは三人揃って考え込む。S.H.I.E.L.D.がヒュドラに侵食されている。どうしたものか。
「フューリーって人に相談すれば?」
真魚の言葉を聞き、僕と一条さんが同時に彼女を見る。
「クロオが前から話してる人でしょ?S.H.I.E.L.D.の偉い人。」
「長官。」
「じゃあ、その人に教えればいいじゃん。」
一条さんが僕を見てくる。
「フューリーは?」
「最低限は信用できます。」
あの人自身がヒュドラではないことは知っている。むしろ本編ではヒュドラに殺されかける側だ。
「なら――」
「いや。」
一条さんが首を横に振った。
「問題は内容ではない。伝達経路だ。」
「伝達経路?」
「S.H.I.E.L.D.内部が既にそこまで侵食されているなら、フューリー自身が監視されている可能性がある。」
「あ。」
「電話。通信。施設。部下。どこから漏れるか分からん。」
確かに。僕が普通に、
『フューリーさん、S.H.I.E.L.D.の中、ヒュドラだらけですよ!』
なんて電話したら、その瞬間に全部終わる可能性がある。
「直接会うにしても同じだ。」
一条さんが続ける。
「どこで誰が見ているか分からない。S.H.I.E.L.D.長官が日本の警察官と、お前に秘密裏に接触した。その事実だけでも相手に警戒される。」
「……詰んでません?」
「簡単ではないな。」
「じゃあ。」
真魚が言葉を続ける。
「堂々と会ってから、絶対に地球の誰にも聞かれない場所で話せば?」
「…………。」
「…………。」
僕と一条さんが再び止まり、真魚は首を傾げる。
「何?」
「真魚。君は天才かもしれない。」
「今さら?」
いや、確かにそうだ。地球上で安全な場所を探すから難しい。だったら、
「地球から出ればいい。」
僕が呟く。
「盗聴も監視も尾行も、全部まとめて無視できる場所。」
一条さんがものすごく嫌そうな顔をした。
「まさか。」
「アスガルドで話し合いましょう。」
「やめろ。」
「でも一条さん。」
「分かっている。」
一条さんが頭を抱える。
「非現実的なのに、恐ろしく現実的な案だ。」
「ですよね!」
「嬉しそうにしないでくれ!」
こうして僕たちは、S.H.I.E.L.D.内部に巣食う秘密組織について話し合うため、S.H.I.E.L.D.長官を宇宙へ誘拐することになった。
「言い方!」
真魚が笑いながらツッコミを入れた。
―――――
善は急げでその日の夜、僕はスマートフォンを手にしていた。
「かけますよ。真魚、準備いい?」
「うん。」
真魚が僕の隣に座り、一条さんは少し離れたところで腕を組んでいる。
今回の作戦。まず、僕がフューリーに電話する。その通話を媒介にしつつ、僕の力で真魚のサイコメトリーを一時的に強化。電話の向こう側にいるフューリーの位置を探る。
「クロオが補助してくれるなら、たぶんいける。」
とのこと。便利すぎない?その後はゴウラムでゴリ押しだ。僕は番号を押し、数回の呼び出し音が鳴り、
『――何だ。』
「こんばんは、フューリーさん。」
『今何時だと思っている。』
「そっちの時間までは分かりません。」
『なら調べてからかけろ。』
元気そうだ。
「ちょっと大事な話がありまして。」
『なんだ。』
「電話じゃ無理です。」
一条さんの目が細くなる。僕は続けて、
「誰にも聞かれたくない内容です。」
電話の向こうが、一瞬だけ静かになった。
『場所を指定しろ。』
「それも無理です。」
『十文字。』
「すみません。でも、本当に重要です。」
『……。』
「なので。」
僕は真魚を見ると、頷きが帰ってくる。
「ちょっと迎えに行っても良いですか?」
『何?』
「真魚。」
「うん。」
僕が真魚の手を握り、アークルが淡く光る。光が微かに走り、僕の力が真魚へと流れ込む。真魚は目を閉じ、見えない繋がりを辿る。
『十文字、何をしている。』
「ちょっと待ってください。」
『待てとは何だ。』
「……見えた。」
真魚が目を開けた。
「分かる?」
「うん。」
「どこ?」
真魚が感じたイメージを、今度は僕の頭の中に送ってくれる。
「よし。」
『何がよしだ。』
「今からそっちに行きますね。」
『待て。』
通話を切る。
「ゴウラム!」
窓の外。夜空から、黒い影が飛来した。
『ーーーーーッ!!』
一条さんが強張った顔をしている。
「本当にやるのか。」
「ここまで来て止めます?」
「止めたい。だが、必要だということも分かっている。」
「ですよね。」
僕と真魚がゴウラムに乗る。
「一条さんは?」
「俺まで行く必要があるのか?」
「じゃあ、アスガルドで待ち合わせで。」
「何故そうなる。」
「報告を聞くより、現地の話し合いの場にいた方が良くないですか?」
「……。」
「ヘイムダルさんに迎えに来てもらいますね。」
一条さんがものすごく嫌そうな顔になった。
「もう好きにしてくれ。」
「はーい。」
ゴウラムが空間を歪ませ、世界と世界の境界が開く。
「行こう!」
『ーーーーーッ!!』
そして僕たちは、S.H.I.E.L.D.長官を誘拐しに行った。
―――――
ニック・フューリーは、自分が拉致される側に回るとは思っていなかった。
「……何だ、これは。」
眼前の空間が裂けた。比喩ではない、本当に空間そのものに穴が開いた。警戒する間もなく、そこから黒い生物のような何かが飛び出してくる。そして、
「こんばんは!」
「失礼します!」
十文字黒雄と、見知らぬ少女。いや、風谷真魚か。
「お前ら――」
そのまま両腕を掴まれた。
「なっ!?」
「ゴウラム!」
黒い生物が急旋回。
「待て!」
身体が浮き上がり、足が地面から離れた。
「何をしている!」
「詳しい話は向こうで!」
「向こうとはどこだ!」
「アスガルドです!」
「何故だ!!」
次の瞬間、空間の裂け目へ突っ込んだ。
「――――ッ!!」
視界が歪む。上下左右が消える。星、光、闇。理解不能な景色が一瞬で流れていく。そして、
――ドンッ!
「到着!」
「フューリーさん、大丈夫ですか?」
「……。」
無言で周囲を確認する。目の前には黄金の都市と見たこともない巨大な建造物。明らかに地球ではない。
「……十文字、説明しろ。」
「します。ここなら絶対に盗聴されませんから。」
こめかみに青筋が浮いたのが分かった。
「だからといって、長官を惑星外へ拉致する奴があるか!」
「惑星じゃなくて世界です!」
「訂正するな!」
―――――
「クロオ。」
声がした。
「あ。」
振り返ると、そこにはロキがいた。
「昨日の今日だぞ。もう来たのか。」
「はい。」
「平和な時に来いと言ったはずだが?」
「今日は戦いじゃないです!」
「私は書類との戦いが終わらんよ。」
ロキがこちらへ歩いてくる。
「それで、その男は――」
「――ロキ。」
低い声がした。急いで振り返るとフューリーの表情が変わっていた。一瞬前までの苛立ちが消え、完全な戦闘態勢。
「フューリーさん?」
「十文字、下がれ。」
「え?」
フューリーの右手が、懐から何か小型の端末を取り出した。
「待ってください。」
嫌な予感がした。
「フューリーさん。ロキは今は――」
「下がれ。」
フューリーが端末を操作する。
「長官権限、緊急要請。」
「え?」
ロキが眉をひそめる。
「何を――」
フューリーが短く、誰かを呼んだ。
「ーーーー。」