日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
――ニック・フューリーは、目の前で繰り広げられている光景を無言で見つめていた。
想定外。その一言に尽きる。キャロル・ダンヴァースはフューリーにとって文字通りの奥の手だった。地球上の戦力では対処不能であり、アベンジャーズですら手に負えない、そんな事態に陥った時、初めて頼る存在。
地球以外にも彼女を必要としている場所はいくらでもあるというのもあるが、何より――彼女を呼ばなければならない状況そのものが、既に最悪に近いからだ。
そのキャロルと。
「はぁっ!」
――バヂィィィィィィィッ!!
十文字黒雄が、戦っている。
先ほどまでとは戦い方を変えたのか、金色の雷が縦横無尽に走り回っていた。単純な速度ならキャロルの方が遥かに上だ。それは間違いない。だが、
――バヂィィィッ!!
キャロルが初めて十文字を見失った。その真上から、
「そこぉっ!!」
踵落としをキャロルが目掛け蹴り下ろしていた。
――ドッガァァァァン!!
両腕でガードし、ダメージはないだろうが、キャロルの足元の地面が陥没どころかクレーターになっている。
「……冗談だろ。」
思わず本音が口から漏れてしまう。キャロルの方が強いのは間違いない。十文字の攻撃はほとんど通っていない。しかし、近距離での身軽さ、いや、あれはもはや機動力か。それに限っては、
「十文字に分がある、か。」
自分で口にしてから、眉間を押さえたくなった。キャロルを相手に敵に分がある。そんな言葉を使う日が来るとは思わなかった。もっとも、
「……敵、か。」
正直なところ、十文字が敵になったとは思っていない。これまで見てきた限り、あの少年は馬鹿が付くほど真っ直ぐだ。そんな人間が突然ロキと手を組み、S.H.I.E.L.D.を敵視するか?普通なら考えにくい。
だが、相手がロキなら話は別だ。ニューヨークで、奴は人間の心を操っていた。ならば、十文字が操られていない保証は?真魚という少女が操られていない保証は?ロキが何らかの方法で認識そのものを歪めている可能性は?確証を得るまで、一切油断するつもりはない。
それがニック・フューリーだった。
ーーーーー
「――ということです!」
真魚が一気に説明を終えた。
ロキはしばらく黙っていた。S.H.I.E.L.D.とヒュドラ、そしてフューリー。真魚から聞かされた話を頭の中で整理していく。
「なるほど。」
「分かってくれました?」
「半分ほどはな。」
「半分!?」
「お前の説明は途中からクロオがどうした?クロオは大丈夫か?クロオが危ない!ばかりだったぞ。」
「そ、そんなことないです!」
「そうだった。」
「とにかく!」
真魚がアスガルド郊外に目を向けると、遠くで黄金の雷と眩い光が何度も激突しているのが見える。
「それじゃあ、私も行きます!」
「待て。」
ロキが腕を掴んだ。
「何するんですか!」
「死にたいのか?」
「クロオが戦ってるんですよ!?」
「だからだ。」
ロキの表情から、いつもの軽薄さが消えていた。
「奴から感じるエネルギーは尋常ではない。」
「……キャロルって人?」
「ああ。」
ロキが戦場を見る。
「私も様々な存在を見てきた。アスガルド人、ヨトゥン、チタウリ、ダークエルフ、それ以外の種族もな。だが、あの女は……妙だ。」
「妙?」
「身体の内側に、途方もないエネルギーを抱えている。少なくとも、お前だけで不用意に近づいていい相手ではない。」
「でも!」
「私も行く。兄上ーーはいないか。父上にも――」
そこでロキの言葉が止まり、真魚も同時に顔を上げる。
「クロオ……?」
それまで感じていた、クロオが戦っている時の気配。荒々しいけれど、どこか温かい気配が、…………変わった。
「何だ……これは。」
ロキも気配の変化に驚く。あの馬鹿がつくほど真っ直ぐな男からは考えられない冷たく、重い、まるで世界の底に穴が開いたようなドス黒い気配。
「これが父上が言っていた、クロオの底が見えない力か?」
真魚の顔から血の気が引いた。
「クロオ……!」
次の瞬間。
――ギュォォォォォォン!!
「っ!?」
二人の真横を、何かが猛烈な勢いで駆け抜けた。装甲を纏った巨大な甲虫のような姿。
「ゴウラム!?」
真魚が叫ぶ。
「誰か乗っている?」
ロキが目を凝らすと、ゴウラムの上には――誰かがいた。
二人が確認するより早く、ゴウラムは戦場へ向かって消えていった。
ーーーーー
「ちょっと待ってください!」
クレーターを作った直後、僕が両手を上げると、キャロルも動きを止めてくれる。
「何?」
「今です!今なら話せますよね!?」
「戦ってる途中なんだけど。」
息を整える。もう、殴り合いながら説明する余裕なんてない。
「フューリーさん!」
「聞こえている。」
「S.H.I.E.L.D.の中にヒュドラがいます!しかも一人二人じゃない!かなり深く入り込んでる!S.H.I.E.L.D.そのものを乗っ取りかけてるんです!」
フューリーの表情は変わらない。
「その情報源は?」
「それは……言えません!」
前世の映画です、なんて説明できるわけがない。
「なら信憑性がない。」
「でも!」
「証拠もない。情報源も明かせない。そんな話だけで組織全体を疑えと言うのか?」
「だから、調べてほしいんです!」
僕を見るフューリーが細まり、
「その話は他に誰が知っている?」
「え?」
「お前以外に誰が知っているかと聞いている。」
「えっと、真魚と……、一条さんです。」
その瞬間、フューリーの目が鋭くなった。
「早まったな。」
「……え?」
「その一条という男がヒュドラでない保証はどこにある?」
――何かが僕の奥で、キレかかった。
「……一条さんは大丈夫です。」
声が少し低くなった。
「根拠は?」
「僕が知っています。」
「それは根拠にならん。十文字。お前はまだ若い。」
「……何が言いたいんですか。」
「人を見る目がないと言っているわけじゃない。だが、ヒュドラが何十年も潜伏しているという話が本当なら、信用される人間を演じる程度のことはする。」
「一条さんは、そんな人じゃありません。」
「分からんぞ。」
フューリーは淡々と言った。
「お前のその力を利用しようとしている可能性だって――」
――ブツン。
何かが切れた。
ーーーーー
『君は利用されている。』
その言葉を、僕は以前にも聞いたことがある。未確認生命体事件の終盤。
僕がゴオマを――殺した直後だった。
祖父母を殺したゴオマ。ずっと追い続けていた相手は本来ならダグバに殺されるはずだった。僕は奴を先に見つけ、そして、殺した。
復讐を果たした、何も楽にはならなかった。嬉しくもなかった。ただ、胸の中に大きな穴が開いた気がした。十五歳だった僕には、それをどう処理すればいいのか分からなかった。
そんな時、警察の人間が僕の所にやってきた。未確認生命体対策課とは別系統の人たちで、
『君を保護する。』
最初にそう言われた。君が戦い続ける必要はない。警察が守るからこれ以上、第4号として戦わなくていい、と。
一見すれば、僕を心配しているように聞こえた。でも、
『一条薫警部とは距離を置いた方がいい。』
その言葉にとても動揺したのを覚えている。
『彼は君に取り入っている。』
「……え?」
『君の力を利用するためだ。』
「何、言って……。」
『考えてみろ。十五歳の少年を未確認生命体と戦わせ続けているんだぞ? 本当に君のことを思っている人間が、そんなことをすると思うか?』
違う。一条さんは何度も止めた。戦うな、と言ってた。危険だ、と怒られた。僕が無茶をすれば、本気で叱ってくれた。それでも僕が戦うと言ったから最後には、一緒に戦ってくれた。
『彼から離れた方がいい。』
「違う。」
『君は今、正常な判断ができる状態ではない。』
「違います。」
『未確認への復讐を果たした直後だ。精神的にも不安定だろう。だからこそ、我々が――』
「一条さんはそんな人じゃない!」
叫んだけど、聞いてもらえなかった。僕は車に乗せられ、別の警察の施設へ移されると言われた。一条さんには会わせられない。未確認生命体対策課とも当面接触禁止。僕のアークルについても詳しく調査する。そんな話をされた。
ゴオマを殺したばかりだった自分が何をしたのか。これからどうすればいいのか。何も分からなかった。
そんな状態で、一番信頼していた人から引き離された。頭が真っ白になっていた時、
『車を止めろ!!』
聞き慣れた声がした。
「……え?」
車が急停止する前方で、道路を塞ぐように、何台もの警察車両が並んでいた。その先頭に一条さんが立っていた。
『黒雄を返してもらうぞ!』
その後ろには未確認生命体対策課のみんながいた。誰一人として笑ってなく、皆が本気で怒っていた。僕が不安定な状態なのを知りながら、一条さんから引き離したことに。
『これは上層部の決定だ!』
『聞いていない。』
『君に説明する必要はない!』
『なら、こちらにも従う理由はない!』
一条さんは一歩も退かなかった。その後、僕は連れ戻された。そして翌日、勝手に話を進めた警察上層部の何人かは――
『まあ、良いじゃないか。』
という、いつもの調子で現れた警視総監によって、綺麗に完全に御用されたらしい。詳しいことは聞いていないし、一条さんも教えてくれなかった。
ただその日、僕は知ったんだ。誰が何を言おうと。一条薫という人だけは僕を利用するために隣にいる人じゃない。
ーーーーー
「――お前のその力を利用しようとしている可能性だって――」
「黙れ。」
フューリーの言葉が止まり、キャロルが僕を見る目が変わった。
「……何だと?」
「それ以上。」
自分でも分かるほど、声が震えている。これは、怒りだ。
「一条さんを悪く言うな。」
「十文字。」
「一条さんは……!」
握る拳から力が溢れる。
「僕がクウガだから一緒にいるんじゃない!」
――ドクン。
アークルが脈打った。
「僕が戦えるから、一緒にいるんじゃない!」
――ドクン。
アメイジングマイティの黒い装甲の奥、さらに深い場所から、何かが溢れてくる。
「僕が利用できるから、守ってくれてるんじゃない!」
「クロオ?」
遠くで、真魚の声が聞こえた気がした。でも止まらない。
「僕が勝手にグロンギと戦っていた時から!」
――ドクン!!
「何回も!」
纏っていた雷が弾けていく。フューリーやキャロルには、まるで拘束が外れているように見えた。
「何回も止めて!」
装甲が、これまでの黒とは異なる、より深く禍々しい黒に染まっていく。
「それでも僕が戦うって言うから!」
大地が、世界が震えている様子に、キャロルは本気の警戒を始める。
「……ニック、もっと退がって。」
「分かっている。」
空気が重い。いや、空気じゃない。僕自身から溢れている何かが世界を軋ませている。知ったことか。
「最後まで一緒に、戦ってくれた人なんだ!!」
――バヂンッ!!
金色の雷が消え、漆黒の闇だけが残った。
「っ!?」
フューリーが大きく退き、キャロルの全身から光が溢れた。しかし、その光すら飲み込む闇が広がっていく。
2本だった角は4本となり、これまで赤かった複眼は、装甲と同様に、全てを飲み込むような黒へと変貌した。
「……何よ、それ。」
キャロルの問いに、僕は答えなかった。いや、答えられなかった、が正しい。怒りで頭が真っ白だ。漆黒に染まった複眼で、フューリーを睨む。
「一条さんを……。」
声が、自分のものじゃないみたいに低かった。
「一条さんを、悪人みたいに言うな。」
足元から力が漏れ出し、世界を侵食していく。
雷のエルの力ではない。もっと深く、もっと危険な、僕自身の中、アマダムに眠っていた力。クウガ、アルティメットフォーム・ダークアイ。
究極の闇が、アスガルドの大地に立った。