日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
キャプテン・マーベル編完結………これをキャプテン・マーベル編と言って良いのか?
「――ニック、下がって。」
自分の声から余裕が消えているのが分かる。
「言われなくてもな。」
ニックが距離を取り、少年は動かない。
全身を覆う漆黒の装甲。その表面から、黒い霧のようなものが静かに溢れ続けている。
拳を握り、構えを取る。さっきまでとは、感じる圧力そのものが、別物だ。けれど、
――ドンッ!!
一気に距離を詰める。どれだけ力が増したのかは知らない。それでも、今感じるパワーなら、純粋な力なら私の方が上!
そう判断して放った右拳が、顔面に直撃した。
「え……?」
直撃したわよね? それも、さっきまでとは比べものにならないくらい力を込めた一撃が。なのに、
「…………。」
漆黒の戦士は一歩たりとも動かず、立っていた。そして、ゆっくりと、黒い複眼が私を見つめている。
「避けなかった……?」
驚いていると、拳が迫ってきた。これまでの攻防とは違う、技術も何もないただの殴打。反射的に左腕を上げ、防御の構えを取る。大丈夫、防げるはず。地球上の存在としては規格外と言っても、私なら耐えられる。
「………。」
「………ッ!?」
少年の纏う気配に当てられ、全身に悪寒が駆け抜け、本能が叫んだ。
――受けるな。
「くっ!」
防御を捨て、全力で後方へ飛ぶ。しかし、避けきれず、拳が左腕を僅かに掠めた。
――ズッ!!
「……っ!」
大きく距離を取り、自分の左腕を確認する。
「…………は?」
スーツが裂けている。それだけではなく、自身の腕が――抉れていた。深い傷ではないけれど、明らかに傷ついている。まるで、普通の人間が、鋭利な何かで肌を削られたように。
「……何だと!?」
離れた場所から見ていたニックも目を見開いている。
力を得てから私は随分と頑丈になったはず。宇宙船に突っ込まれたって、陽気なダンスを踊り続けることだって出来る…………別にやらないが。
その私が、ただ拳が掠っただけで、負傷した?
「…………。」
傷口を確認し、少年から溢れ続ける、世界を侵食するような禍々しい力を見る。
「……なるほど。」
するような、ではなく、しているのか。
「そういうこと。」
「何が分かった?」
ニックが聞いてくるので、左腕を押さえながら答える。
「この子が纏ってるエネルギーはただの防御用のフィールドなんかじゃない。周囲を侵食してるんだ。」
「侵食?」
「しかも、侵食しているのは物質だけじゃない。」
本来、私に傷を負わせるには、私が身体を覆う膨大なエネルギーをぶち抜くだけの攻撃が必要になる。でも、あの拳にそれだけの威力はなかった。
あの攻撃が掠った瞬間、私自身を守っていた力は――消えていたのだろう。
「最初は見間違いかと思ったけど、私のエネルギーが打ち消されてるってことかしら……?」
「……打ち消す?」
十文字黒雄、未確認生命体第4号。
未確認生命体を倒す際に使用する特殊なエネルギーは相手の身体へ打ち込むことで、その力を封じ込めることも可能。過剰注入することで、相手のエネルギーを暴走させ、爆破することも可能。
S.H.I.E.L.D.が十文字について調査した際にも、報告されていた内容。
「封印エネルギーか……。」
「正解みたいね。」
なるほど、その封印エネルギーがあるから私の攻撃はパワーが込められていない、ただのパンチになってしまったわけね。
そして、どれだけ防御エネルギーを纏っても、生身に近い状態で攻撃を受けてしまう、と。
「私のパワーまで打ち消すなんて……恐れ入ったわ。」
軽口を叩きながらも、ちゃんと理解している。これは、一発でもまともにもらえばただじゃ済まない。接近戦は無理ね。というよりも、
「ニック、帰るわよ。」
「賛成だ。」
即答が返ってくる。少年を殺すつもりがないのだから、一旦退避を選択しよう。話し合いとやらは、仕切り直しと――
「――っ!?」
ニックの眼前に漆黒の戦士が立っていた。
「いつのまに……!?」
いつ移動したの!? 気づいた時には、視界から消えていた? 漆黒の複眼がニックを見下ろしている。
「……………。」
少年の手のひらがニックに向けられる。
「ニック!?」
全力で飛び込み、ニックの身体を抱え、一気に上空へ飛び上がる。
「掴まってなさい!」
「もう掴まっている!」
「なら離さないで!」
アスガルドの空を猛烈な速度で飛び、戦場から離れる。後ろを見ると、
「……いない?」
「……………。」
そして気が付けば、先ほど同様に、漆黒の戦士が目の前に立っていた。
「なっ!?」
移動する瞬間が見えてない。飛んできたのではなく、そこに至る過程そのものが存在しない移動。
「瞬間移――」
言い切るより早く。
「ニック、ゴメン!!」
ニックを空中に放り投げる。
「おい!?」
なんか言ってる眼帯男は後で拾うとして、
――ゴォォォォォォォッ!!
全身から光を爆発させる! そして黄金の光を纏い、髪を逆立たせ、両目が眩い光に染まる。
バイナリ・パワー全開! 一切の出し惜しみなしで、
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
両腕を突き出し、膨大なエネルギーを一点へ集中させる。
――ズドォォォォォォォォン!!
極大のフォトンブラストが光の奔流となってアスガルドの空を埋め尽くす。まともに直撃すれば宇宙船すら消し飛ばす一撃、今の彼なら死なないでしょ!
「…………。」
腕は下ろさず、撃ち続ける。押し切り、吹き飛ばせれば、後は放り投げたニックを回収して地球に戻――
光の中を歩む影が見えた。
「……え?」
エネルギーの奔流の中を歩いている? いや、ここ空なんだけど。
「…………ちょっ。」
フォトンブラストを防いでいるんじゃない。当たった側から、封印エネルギーに呑まれ、私の攻撃そのものが掻き消されている。
「嘘でしょ……!?」
間合いに入ってしまい、少年の拳が振るわれる。両腕を交差するが、………不味いわね。
――ドッッッッッッッッッッ!!
「がっ――!?」
防御が抜かれ、身体がくの字に折れる。バイナリ・パワーが強制的に掻き消された。
アルティメットクウガの拳がキャプテン・マーベルを打ち砕いた。
――ズドォォォォォォォォォン!!
地上へ叩き落とされ、巨大なクレーターが生まれる。
「…………っ。」
クリー人の血を得たことで強化された肉体のおかげで、エネルギーによる防御を封じられてなお、その身体は人間を遥かに超える強度を持っている。
だから、致命傷ではないけれど、
「……っ、く……。」
身体が動かない。腕に力が入らない。起き上がろうとしても、身体が言うことを聞かない。
「……ニック……!?」
そうだ、私はさっき、ニックを放り投げた。
「ニック……!」
無理矢理身体を起こす。どこに落ちた? あの高さから落ちれば――
奇妙なものが視界に入る。巨大な甲虫に咥えられたニック・フューリーだ。思わず瞬きしてしまう。コートの襟辺りを器用に咥えられ、ぶら下がっている。
「…………何してるの、ニック。」
「俺に聞くな!」
怒鳴られた。心配してあげたのに。それと、巨大なクワガタの上には、一人の男が立っていた。少年と同じ日本人かしら?
そして、両手で構えられているものは拳銃。
男は器用に姿勢を保ちながら、クワガタから降りる。銃口が向かう先は少年、いや漆黒の戦士。
私でも一歩下がりたくなる存在を前に男は一切怯んでいない。目の前にいる存在がどれほど危険なのか、そんなことなど関係ないとでもいうように。真っ直ぐ、銃口を向けている。
そして、静かにだけれど、よく通る声で。男は少年の名を呼んだ。
「――黒雄。」
ーーーーー
「…………。」
拳銃を構えていると、黒いクウガがゆっくりと振り返る。普段の赤い複眼は黒く染まり、全身から溢れ出す力は、近づくだけで肌が粟立つほど禍々しい。
けれど、
「…………。」
真っ直ぐ歩みを進める俺から、黒いクウガ、いや黒雄は目を逸らさない。
やがて足を止め、銃口は真っ直ぐ、腰に巻かれたベルトに向ける。
あの日。雪の降る長野で、ダグバとの最後の戦いへ向かう前、黒雄が俺に言った言葉を。
『一条さん。』
『何だ。』
『もし、僕が……究極の闇になったら。』
『…………。』
『その時は、迷わず撃ってください。』
冗談めかして笑うこともなく、いつもの軽口を叩くこともなく、ただ真っ直ぐに。
『僕が僕じゃなくなって、人を傷つけるようになったら。』
黒雄はそう言った。
『一条さんが、止めてください。』
銃を握る手に、力を込める。
「黒雄。」
返事はないが、それでも構わない。聞こえていると信じる。
「もしお前が、本当に究極の闇になってしまったのなら――」
引き金に指を掛ける。
「俺は迷わず、約束を果たす。」
先ほどまで黒雄と戦っていた女性が目を見開いている。
「ちょっと……。」
止めようとした彼女を、フューリー長官が片手で制する。
「待て。」
「でも――」
何やら話をしているが、俺は黒雄から視線を逸らさない。
「だが!」
声を張り上げた。
「お前も、皆の元に必ず帰ってくると約束したはずだ!」
僅かに。本当に僅かに。黒い複眼が揺れた気がした。
「だから――」
銃口は下げんぞ。
「お前も約束を果たせ!! 黒雄!!」
「…………。」
黒雄の、黒のクウガの右腕が動いた。
「――!」
拳が握られている。
「待ちなさい!」
女性が立ちあがろうとし、フューリーも身構える。
だが、俺は信じているぞ。拳銃を構えたまま、黒雄を見続ける。逃げない。逸らさない。
黒いクウガの拳は、俺ではなく、自らの腰へと振り下ろされた。
――ゴゥッッッッッ!!
黒く染まったアークルへと。
ーーーーー
アルティメットクウガの凶行に、フューリーが目を見開いている。
「なっ……!?」
――ゴォォォォォォォォォッ!!
そして漆黒のエネルギーが弾けた。
「ぐっ……!」
アークルへと叩き込まれたのは、アルティメットクウガ自身が持つ封印エネルギー。それが直接、アークル、そしてアマダムに流れ込む。
漆黒に染まっていたアマダムが、一瞬だけ黒く明滅し――
――カッ!!
金色に輝いた。
アルティメットクウガは身体を大きく仰け反らせ、全身から溢れていた黒い力に、アークルから噴き出した金色の雷が奔る。
――バヂッ! バヂィィィィッ!!
雷光が、まるで暴れ回る鎖のようにアルティメットクウガの両腕、両脚、胸へと絡みつく。
「これは……。」
駆けつけ、離れた場所から様子を伺っていたオーディンが目を細めた。
「雷のエルの力……?」
真魚が呟く。
かつて闇の力から与えられ、黒雄の中に宿った雷のエルの力。そして、クウガ自身が持つ封印エネルギー。二つの力が、アルティメットクウガを封じていく。
「――――ッ!!」
声にならない叫びと共に、漆黒の装甲へ亀裂のような金色の光が走った。黒い装甲が剥がれ、禍々しい力が消えていく。最後に、白へと変わった。
「……蛹……?」
白い装甲に小さくなった角、グローイングフォーム。
白いクウガがよろめく。
「ッ!?」
一条が拳銃を放り出して駆け出す。白い装甲も光となって消え、地面へ倒れ込もうとした少年の身体を、寸前で抱き止めた。
「黒雄!」
その場に膝をつき、黒雄を仰向けにする。
「黒雄、聞こえるか!」
首筋へ指を当てる。脈はある、呼吸もしている。
「返事をしろ! 黒雄!」
「…………じょ……さん……。」
「黒雄!」
掠れた声だが、確かに返事があり、表情が僅かに緩む。
「大丈夫か?」
黒雄の目が、薄く開く。
「……一条さん……。」
「どうした、どこか痛むか?」
少しだけ視線を動かすと、ゴウラム。その近くに立っているフューリー、キャロル。少し離れた所に真魚、ロキ、オーディンもいる。
「……一条さんは……。」
「?」
息を吸うだけでも辛いが、黒雄は何度か浅く呼吸してから、本当にか細い声で、言った。
「……悪い人じゃ……ないですよ……。」
一条が眉を寄せる。
「何の話だ?」
返事がない。黒雄は安心したように目を閉じてしまっている。
「おい、黒雄?」
呼吸はしている。どうやら気を失っただけらしい。
「…………。」
一条は黒雄の顔をしばらく見つめる。何を言いたかったのかは分からない。しかし、
「ああ。」
小さく答え、腕の中の少年へ告げる。
「そしてお前も――究極の闇なんかじゃないさ。」
その光景を、キャロルとフューリーは、完全に言葉を失って見つめていた。
「……何だったんだ、今のは。」
ようやくフューリーが口を開く。
「私に聞かないで。」
キャロルも答えられない。宇宙を飛び回り、クリーともスクラルとも戦った。惑星を滅ぼしかねない兵器だって見てきた。それでも、今の光景をどう説明すればいいのか分からない。
「クロオ!」
遠くから声が響き、真魚が駆け寄ってくる。その後ろからロキ、そしてオーディンも歩いてくる。
「クロオ!」
真魚は一条さんの横へ駆け寄ると、倒れている黒雄を覗き込んだ。
「大丈夫なんですか!?」
「気を失っているだけのはずだ。」
「良かった……。」
真魚が胸を押さえ、安堵する。一方、ロキは黒雄を一度見てからフューリーへと視線を向けた。
「何だ。」
フューリーの声は冷たい。少し前まで敵対していた相手だ。ニューヨークを襲撃し、多くの人間を死なせた張本人。ロキ自身もそれは理解している。だから、
「フューリー。色々と思うところがあるだろう。」
「色々どころじゃないがな。」
「だろうな。」
ロキは苦笑する。
「だが――」
頭を下げた。
「……は?」
フューリーが固まり、キャロルも目を瞬く。
「クロオに免じて、話し合いに応じてくれ。」
「…………。」
「頼む。」
「キャロル。」
「何?」
「あれは本物か?」
「私に聞かないでよ。」
「偽物じゃないのか? アイツが素直に頭を下げるとは思えん。」
フューリーの挑発めいた言葉を聞いても、ロキは頭を下げたまま動かない。すると今度はオーディンが前へ出てくる。
「ニック・フューリー。」
「……オーディンか?」
「いかにも。我が息子の謝罪に、嘘偽りはない。」
隻眼同士の視線が交わる。
「このオーディンの名にかける。」
「…………。」
「そして。」
オーディンは頭を下げ続けるロキを見る。ほんの僅かに目を伏せ、再び、フューリーへと向き直った。
「我が息子が地球にした行い。それが容易に償えるものではないことは、重々承知している。」
ロキは何も言わず、その言葉を受け止める。
「多くの命を奪い、多くの者を傷つけた。王である以前に、父として――その責任を軽んじるつもりはない。」
「…………。」
「だが。」
オーディンは一条に抱えられている黒雄を見る。
「この少年は、アスガルドを救ってくれた。」
ダークエルフ、そしてマレキスから、アスガルドだけでなく自分が愛する者を救ってくれたのだ。
「クロオは我らを救い、戦った。その上でなお、彼が望むものは世界の平穏だけだった。」
「…………。」
「故に。」
オーディンが、アスガルドの王が、ゆっくりと頭を下げた。
「どうか、アスガルドを救ってくれたクロオに免じて――彼の希望を聞いてはくれぬか。」
「…………。」
フューリーが完全に黙った。ロキが頭を下げた時ですら驚いたが、今度は、九つの世界にその名を轟かせるアスガルド王まで自分に頭を下げている。
重い沈黙が流れ、
「あ、あの!」
真魚が慌てて近寄り、
「私からもお願いします!」
勢いよく頭を下げる。
「クロオは、本当に……ずっと、話し合いで何とかしようとしてたんです。」
「…………。」
「だから、お願いします!」
ロキ、オーディン、真魚、三人に頭を下げられ、フューリーは暫く黙っていた。やがて、深々と息を吐き、
「……分かった。」
ロキが顔を上げる。
「では――」
「話し合いに応じる。」
フューリーは釘を刺すようにロキを見る。
「だが、許したわけじゃない。」
「分かっている。」
「お前が地球でやったことを忘れたわけでもない。」
「ああ。」
フューリーは一条さんの腕の中で気絶している黒雄を見る。
「だが、ここまで話し合えと言われて、それでも突っぱねたら――目が覚めた後、こいつに何を言われるか分からん。」
ロキが僅かに笑う。
「同感だ。」
「では、話し合いは王宮で行おう。」
オーディンが先導を始める。
「互いに話すべきことは多いだろう。」
「多すぎるくらいだ。」
フューリーが答え、一条は黒雄を抱き上げ、歩き始める。
「医務室は?」
「すぐに案内させよう。」
「お願いします。」
真魚もその後を追う。全員が王宮へ向かって歩き出した時、
「…………あの。」
後ろから声がした。全員が振り返ると倒れ伏したキャロルが一人、取り残されていた。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
キャロルはゆっくり右手を上げる。
「私の治療もお願いできます?」
「…………。」
「久しぶりにマジで痛いの、これ。」
フューリーが無言で空を見上げた。
ーーーーー
王宮へ向かう道すがら、一条は気になっていたことを口にした。
「以前黒雄が黒いクウガになった時は目だけは赤いままだった。だが、今回は目まで黒くなっていた。にも関わらず、お前は大丈夫なのか?」
究極の闇へのストッパー機能が付いているゴウラムに心配する視線を送る一条だが、
『ーーーーーッ、ーーーーーーーーーッ、ーーーーーー!』
「うん。何を言っているか全く分からん。」
「ゴウラムがね、『次元を渡る力を得たから、自分の周りに次元の境目に似た膜を貼って、クロオからの闇の波動を遮ってた』みたいな事を言ってるよ。」
「通訳ありがとう、真魚さん。お前にも助けられた、ありがとう。ただ次からはもう少しゆっくり運んでくれ。」
ヘイムダルがまだ一条を連れてきていなかったため、黒雄、真魚、フューリーを降ろしてから、一条をダッシュで迎えに行ったファインプレーが究極の闇誕生の危機を救ったのである。