日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
幕間編になります。
夢現
暗い。いや、暗いだけじゃなく、何もない。
「…………。」
気が付くと、僕は真っ暗な空間に浮かんでいた。
上も下も分からない。地面もなければ空もない。ただ、どこまでも続く暗闇の中を、身体だけがぷかぷかと漂っている。
「……何だこれ?」
とりあえず手足を動かしてみる。動く。痛みもない。というか、身体の感覚そのものが妙に薄い。
「…………。」
何があったんだっけ。確か、キャロルさんと戦って。ちょっとブチ切れちゃってアルティメットになって。それから一条さんが来てくれ――
「……どうなった?」
というより。
「ここ、どこ?」
返事は当たり前だけどない。死後の世界……とかじゃないよね? いやいや、やめよう。縁起でもない。僕は生きてる、たぶん。
「夢……だとは思うんだけど、」
ただ、夢にしては意識がハッキリしている気がする。なんだろ、この違和感。
「……それにしても真っ暗で、何にもないな。」
上も下も、右も左も。ただ、よくよく目を凝らしてみると――
遥か遠くに何かが見える。暗闇の中に、微かに光る何かが浮かんでいる。あと、一つじゃない。いくつかの小さな光が、闇の向こうでぼんやりと瞬いている。
「星……?」
いや、違うな。この空間、宇宙みたいだけど宇宙じゃない感じがするんだよな。僕が普通に呼吸している時点でおかしい。ただ、なんか落ち着くんだよなー。
「それにしても、何だろうあの光――」
――ピカッ。
「ん?」
すぐ近くで、青い光が瞬いた。続いて、
――ピカッ。
赤い光も。
「うわっ!?」
思わず仰け反る。すると、
――ピカッ!?
――ピカッ!?
「え?」
二つの光も、驚いたように強く瞬き、そのまま揃って、スーッと僕から離れていった。
「…………。」
「…………。」
いや。何でそっちも驚いてるの? 驚きたいのは僕なんだけど。何もない真っ暗な空間で、いきなり目の前に青と赤の謎の光が現れたんだから。
「……えーと、何? もしくは誰?」
問いかけてみるが返事はない。ただ、
――ピカ……。
青い光が、小さく瞬き、
――ピカ……。
赤い光も瞬く。
「…………。」
返事はないけど、反応はあったな。二つともこの距離以上は逃げないし。でも、近づいてもこない。少し離れた場所から、恐る恐る、といった様子でこちらを窺っている。
僕が少し身体を動かすと、
――スッ。
二つ揃って少し離れる。止まると、
――ススッ。
ほんの少しだけ近づいてくる。
「…………。」
何だろう、この雰囲気。最近どこかで見たような、というか、感じたことがあるような……?
「…………。」
二つの光が、こっちの様子を窺っている気がする。ん? 窺っている、は少し違うかな?
近づくのは怖い。だから少し離れた場所から、こちらの機嫌を窺うように様子を見ている。
「何だっけ……。」
最近、こんな感じの雰囲気を見たような。んん――?
「あ。」
思い出した。
「……太一くんだ。」
――ピカ?
――ピカ?
二つの光が、何故か同時に瞬いた。
ハロウィンで真魚を驚かして、思いっきり怒られた翌日。真魚が不機嫌かどうか恐る恐る確認しようとして、少し離れたところから、声をかけるべきか逃げるべきかで迷いながら、恐る恐る様子を窺っていた。
あの時の太一くんにそっくりなんだ。あー、スッキリした。…………いや、待て。何で僕は、正体不明の青と赤の光を見て、真魚の機嫌を窺ってる太一くんの雰囲気を思い出してるんだ。
――ピカ……。
――ピカ……。
やっぱり似てる………って、
「なんでやねん。」
思わず口から出てしまった。
ーーーーー
「――なんでやねん。」
「……何にツッコミ入れてるの?」
声が聞こえた。
「…………ん?」
目を開けると、真っ白な天井があった。暗闇じゃない。青い光も赤い光もない。というか、
「…………ベッド?」
どうやら僕は寝ていたらしい。
「おはよう、クロオ。」
聞き覚えのある声が聞こえる方にゆっくり顔を向けると、椅子に座った真魚が、何とも言えない顔で僕を見ていた。
「起きて最初の言葉が『なんでやねん』って……何にツッコミ入れてたの?」
「…………夢?」
「夢?」
「多分……。」
ぼんやりした頭で答えながら、もう一度天井を見る。夢、だったのかな? 何だったんだ、あの青と赤の光。
「…………あれ?」
ようやく頭が少しずつ回り始める。
「……ここ、アスガルドの医務室?」
ーーーーー
見覚えがある。
白を基調とした広い部屋。地球の病院とは違って、壁や柱には金色の装飾が施されていて、何に使うのか分からない器具が並んでいる。
真魚が頷いて、
「クロオ、ずっと寝てたんだよ。」
「ずっとって、どれくらい?」
「半日くらい。」
「半日も!?」
思わず起き上がろうとして、
「いっ……!」
身体中に鈍い痛みが走った。
「ほら、無理しないの!」
真魚に肩を押され、そのままベッドへ戻される。
「あの怖いクウガから戻った直後、急に倒れて。びっくりしたんだよ?」
「……すみません。」
「私に謝ってどうするの。」
「じゃあ誰に……」
そこまで言ったところで、
――ガチャ。
医務室の扉が開いた。
「起きたか。」
聞き慣れた低い声。
「一条さん。」
真っ先に入ってきたのは一条さんだった。その後ろから、黒いコート姿のフューリー。そしてロキ。さらに、
「目を覚ましたようだな。」
オーディン王。
「良かったわ。」
フリッガさんまで入ってくる。何このメンバー? アスガルドの王と王妃に、第二王子。S.H.I.E.L.D.長官と日本の刑事。高校生一人の病室に集まる面子じゃないでしょ。
「えーっと……。」
嫌な予感しかしない。フューリーの顔が怖い。いつも怖いけど、今日は特に怖い。
「……何でしょう。」
「話は聞いた。」
「何の?」
「お前の知識の話だ。」
僕が真魚を見ると、真魚は気まずそうに目を逸らした。次に一条さんを見る。一条さんも微妙な顔をしている。
「……話しちゃったんですね。」
「ああ。」
一条さんが頷いた。
「お前が、これから起こる可能性のある事件について、曖昧ではあるが知識を持っていること。それを利用して、これまでも行動してきたことを話した。」
ついにバレたか。いや、今回なんて完全に未来知識ありきで動いてたし、しょうがないか。
「ヒュドラの件を理解してもらうには、話すしかなかった。」
「それに、インサイト計画。」
フューリーが口を開き、僕を見てくる。見てるだけだよね? 睨んでないよね?
「お前はあの計画、その内容まで知っていた。」
「……はい。まあ、ザックリとですが。」
「まだ正式に動き出してすらいない計画だ。S.H.I.E.L.D.内部でも知っている人間は限られている。」
あれ? 1年前でまだそんな感じなんだ。監視衛星もヘリキャリアも既存の技術だから、実施が決まってからは早い、とかかな?
「最初は、お前がどこから情報を手に入れたのか疑った。」
そりゃそうだ。僕がフューリーの立場でも疑うと思う。
「だが、これまでのお前の言動を改めて整理してみれば……むしろ納得ができる。」
「納得できるんですか?」
「できてしまうのが腹立たしいがな。」
フューリーが僕を睨む。
「ニューヨーク、スタークの生存率、そして今回のヒュドラ。お前は毎回、肝心な部分を曖昧にしか知らないくせに、妙なところだけ正確に知っている。」
「…………。」
映画の知識ですから、とは言えない。実際、細かいところは忘れちゃってるんですよ。こんなことならもっとちゃんと見直しておけば良かった、とは思うけど、まさか転生するなんて思わないじゃん。
「それで。」
フューリーが歩き出し、ベッドの脇まで来ると、僕を見下ろした。
「これから、どうする?」
「…………。」
どうする? ってつまり、S.H.I.E.L.D.の中にヒュドラがいる。しかも相当深くまで入り込んでいる。その問題を、これからどうするのか、ってことか。
僕は少し考えて、フューリーを見上げた。
「なんとかしてください。」
「…………。」
フューリーが固まった。
「…………。」
僕も見返す。
「…………。」
「…………。」
何だこの沈黙。
「……何?」
「いや、なんとかしてください。」
もう一度伝える。
「俺が?」
「はい。」
フューリーが珍しく、本当にポカンとした顔をする。
「待て。」
「はい。」
「お前は何か考えがあって、俺をアスガルドまで呼んだんじゃないのか?」
「いいえ。」
「作戦は?」
「ありません。」
「…………。」
「何も思い浮かばないから、呼んだんです。」
再びフューリーが固まった。だってそうでしょう? 僕に何を期待してるんだ。ヒュドラがS.H.I.E.L.D.内部に潜伏しています。誰がヒュドラか分かりません。どこまで侵食されているか分かりません。下手に動けば相手に気付かれます。そんなもの、
「僕にどうしろと。」
「お前……。」
その時だった。
「っ……!」
隣から変な音が聞こえた。今まで気付かなかったけど、少し離れたところにもう一つベッドがあった。そこに寝ていたのは、
「キャロルさん?」
「っ、あは……!」
キャロルさんが口元を押さえている。何してるんだろう? というか、この人も入院してたのか。
「何がおかしい。」
フューリーが睨む。それがトドメだったらしい。
「アッハハハハハハ!!」
盛大に吹き出した。
「ちょっ……キャロルさん!?」
「だ、だって……! あなた……あのニックの顔……!」
キャロルさんが腹を押さえながら笑っている。
「わざわざ宇宙まで連れてこられたからには、何か策があると思っていたら、答えが『なんとかしてください』って!」
フューリーの眉間に皺が寄る。
「笑い事じゃない。」
「私に直接関係ないから笑い事なのよ!」
酷い。いや、確かにキャロルさんにはあんまり関係ないけど。
「クロオっていったわね。」
「はい?」
キャロルさんが笑いを堪えながら僕を見る。
「自分でなんとかしようとは思わないの?」
「無理ですよ。」
即答した。
「僕、十八歳の高校生なんで。」
キャロルさんが止まった。
「世界有数の諜報機関に潜り込んだ秘密組織を暴き出せって言われても無理です。」
数秒の沈黙。
「……確かに。」
そして、
「アハハハハハハハハ!!」
さっき以上に笑い始めた。
「そうね! 高校生! あなた高校生だったわ!」
なんでそんな爆笑するんですか!?
「世界有数の諜報機関の秘密を暴けって、高校生に何やらせようとしてるって話よね!」
「だからフューリーに頼んでるんです。」
「正解! アハハハハ!」
何がそんなに面白いんだろう。すると隣にいた真魚が、
「でも、クロオにとっては世界を救う方が簡単だよね。」
「…………。」
「…………。」
キャロルさんが真魚を見る。
「どういう意味?」
「クロオ、考えるより殴った方が早いから。」
「真魚!?」
「アッハハハハハハハハ!!」
キャロルさんが完全にツボに入った。
「世界を救う方が簡単って何!? そんな高校生いるの!?」
「ここにいますよ。」
「真魚!?」
何で乗っかるの!? ……僕は爆笑しているキャロルさんを見る。何だろう、僕の記憶にあるキャプテン・マーベルって、もっとこう。クールで、堂々としていて、強くて、あんまり馬鹿笑いするような人じゃなかったような。
「……この人、こんなキャラだっけ?」
「聞こえてるよ。」
「すみません。」
聞こえてた。しばらく笑い続けていたキャロルさんだったけど、ようやく落ち着いたのか、目元を拭う。
「いやー……笑った。」
そしてフューリーを見る。
「ニック。」
「何だ。」
「あなたの負けよ。」
「何の勝負だ。」
「大人しく、S.H.I.E.L.D.の膿出し作業を頑張りなさい。」
フューリーが物凄く嫌そうな顔をした。そして、深いため息を吐き、
「……分かった。」
お。
「なんとかしてくれます?」
「なんとかする。」
良かった。やっぱり頼れる大人って素晴らしい。
「ただし、戦力として数えていいんだろうな?」
「フューリー長官。」
一条さんの声が低くなった。
「高校生に何をやらせようとしているんですか。」
「神も超人も殴り倒せる高校生に、テロリストを殴り倒す協力を依頼してるんだ。」
「そういう問題ではありません。」
「適材適所だ。」
「どこがですか。」
「ヒュドラがクウガ以上の戦力を持っているなら教えてくれ。」
「そういう話をしているんじゃありません!」
「…………。」
「…………。」
一条さんとフューリーが睨み合っていると、
「ふっ……。」
隣から聞こえ、キャロルさんが再び肩を震わせている。そして、
「ふふっ……。」
「真魚?」
今度は真魚まで笑っていた。
「何で笑うんだ、真魚さん。」
「だって一条さん、言ってることは正しいんですけど……。」
真魚が僕を見る。
「クロオが普通の高校生じゃないのも事実だし。」
「確かにそうだが。」
一条さんが困ったような顔をする。
「神も超人も殴り倒せる高校生。」
キャロルさんが繰り返した。
「便利な言葉ね、それ。」
「便利にしないでください。」
「事実だろ。」
フューリーまで乗っかってきた。
「何で僕が怒られてるみたいになってるんですか?」
さっきまで意識失っていたっていうのに。すると、
「ふふっ。」
フリッガさんの穏やかな笑い声まで聞こえた。ずっと僕たちのやり取りを見守っていた彼女が、口元に手を添えて微笑んでいる。
「賑やかなこと。」
「母上。」
ロキが呆れたように言う。
「これを賑やかで済ませますか。」
「良いではありませんか。少なくとも、この子が目を覚ましたのですから。」
「それはそうですが……。」
フリッガさんが僕を見てくるけど、その目が、少しだけ真剣なものに変わった。
「クロオ。」
「はい。」
「あなたが未来について、どこまで知っているのかは分かりません。」
「……はい。」
「そして、その知識が完全ではないことも理解しています。」
その通り。そもそも映画を一度か二度見た程度の記憶だ。知らない作品だってある。細かい時系列も曖昧だ。何より、既に僕が介入したことで、本来とは違う出来事も起き始めている。
「ですが。」
フリッガが微笑む。
「もうここまで知られてしまったのです。」
嫌な予感。
「どうせなら、共有できる未来の知識は共有してしまいなさい。その方が、皆で考えることができるでしょう?」
正論。圧倒的正論。そして逃げ道がない。僕は部屋を見回す。
一条さん、真魚、フューリー、ロキ、オーディン、フリッガ。ついでに隣のベッドでニヤニヤしているキャロルさん。
「…………。」
僕はゆっくり天井を見上げた。ああ、これ。絶対長くなるやつだ。
ーーーーー
「そういえば、十文字。」
「はい。なんでしょう?」
「私にアスガルドの件の報告がなかったのは何故だ?」
「え?」
報告? 相談は最初にして、何も得るものがなくて、
「『事が起こる前に連絡を入れろ』と言っただろう。」
「ぜ、『善処します』って返しただけでしたし。」
「何? 黒雄、俺はお前にロンドンに着いたら『S.H.I.E.L.D.にも連絡しろ』と言ってあったはずだぞ。」
「…………あっ。」
一条、フューリーのタッグによる説教が確定した。