日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
幕間編完結です。「高校生なので」が出なくなります。
――そして時間は、というか季節が過ぎた。
ヒドラ、インサイト計画、ウルトロン、そしてサノス。未来に待ち構えている問題は、山ほどある。けれど、僕たちの日常まで、止まってくれるわけじゃない。
そして今日、僕と真魚は高校を卒業した。
「――というわけで!」
「真魚、卒業おめでとー!」
「おめでとー!」
校門の前で卒業証書の筒を手にした真魚が、友達数人に囲まれていた。制服姿も今日で最後か。周囲では写真を撮る声や、泣きながら抱き合う生徒たちの姿があちこちに見える。
僕は少し離れたところで、それを眺めながら待っていた。別に急いでいるわけでもない。
というか。
「十文字!」
「あ、はい。」
「最後に写真撮ろうぜ!」
「いいよ。」
男子数人に呼ばれて写真を撮り、
「十文字君!」
「はい?」
「こっちもお願い!」
「はーい。」
女子にも呼ばれて写真を撮る。そんなことを何度か繰り返して、ようやく解放された頃。
「で?」
何だか妙に楽しそうな声が聞こえてきた。
「旦那とは今後どうするの?」
「…………。」
旦那だと? 誰の話? 僕がそっちを見ると、真魚と一瞬だけ目が合った。
「あー。」
納得したような顔で笑ってるよ。
「別に。今まで通りだよ。」
友達たちが黙った。
「…………えー?」
「だから、今まで通り。」
ガシッ、と友人の一人が真魚の両肩を掴んだ。
「真魚。その今まで通りがヤバいんだって。」
本気で分かってなさそうな様子だ。僕もよく分かってないけど。すると別の子が指を折り始めた。
「毎朝一緒に登校。」
「うん。クロオの家から学校までの道のりに私の家があるから。」
「帰りも大体一緒に下校。」
「登校の時と一緒の理由。」
「休日も普通に会ってる。」
「買い物を手伝ってもらったりとかはするかな。」
ほぼ荷物運びだけどね。
「家族公認。十文字くんの保護者との仲も良好。」
「一条さんともよく関わる機会があったし。」
「真魚の保護者からも完全に身内扱いされてる。」
「クロオだし。」
「意味分かんない。」
確かにその理由は意味が分からない。ただ、美杉教授や太一くんとは初遭遇の時から仲良くさせてもらってはいるかな。
「あと。」
一人が僕を見てきたので目が合った。何故か逸らされた。
「十文字君に告白しようとしてた子、何人かいたけど。」
なんと!
………思わず反応してしまったけど、そんな話初耳なんだけど。真魚も首を傾げている。
「そうなの?」
「そうなのじゃない!」
友達の一人が真魚を指差した。
「真魚が全部潰してたんでしょ!」
「私!?」
「無意識で!」
「何それ!?」
真魚が本気で驚いている。いや、僕も驚いてるよ。
「何かあったっけ?」
「例えば去年、十文字君を映画に誘おうとしてた子いたんだ。」
「……知らない。」
「その直前に真魚が来て、『クロオ、日曜日空いてる? 一緒に買い物行こ』って。」
「あー。」
「その子、泣きながら帰ったからね?」
「いや、普通に買い物したかっただけだよ!」
「その普通が問題なの!」
何だこの話?
「あと十文字君もだからね?」
ビシッと指を差された。
「僕も?」
「真魚に告白しようとしてた男子。」
そんな勇者みたいな男子、
「いたんですか?」
「いたのよ! 体育祭の後に呼び出そうとしてた子が!」
「…………。」
えーと? 体育祭の日は一緒に夕食を食べる約束してたから、
「その日はいつも通り真魚と一緒に帰った記憶がありますけど。」
「それ!」
「いや、だからいつも通り……。」
「だからそのいつも通りがヤバいんだって!」
僕と真魚は顔を見合わせる。真魚が小声で、
「私たち、何かした?」
「してないと思う。」
僕らの「今まで通り、いつも通り」は周りからすると、どうやら普通ではなかったらしい。僕に言い寄ってくる人は、いたらしいし、真魚にもいたらしい。
でも。僕の方に誰かが近づけば真魚が自然に横にいて。真魚の方に誰かが近づけば僕が普通に迎えに来る。
あと、僕は未確認生命体事件だのアベンジャーズだのを経たせいなのか、うまく言葉にできない雰囲気があるらしい。それと、昔より身体も鍛えられたし、姿勢も良くなった。『十文字って、何か熱血主人公っぽいよな。』とクラスメイトに言われたこともある。
………僕、転生者なんだけど、主人公補正とかあるのかな?
一方、真魚もアギトの力が目覚めてから、何となく雰囲気が変わった。元々可愛い方だったと思う。でも最近は、
「あれ?」
と僕でも思うくらい、綺麗になった。身体の内側から何かが整っていくような………アギトって美容効果あるの?
まあ、僕たち自身のことは置いておいて。周囲から見ると妙に目立つ男女がいつも一緒にいる。しかも、別の異性が近づくと自然にもう片方が現れる。
結果、
「無敵カップル。」
「何ですかそれ?」
「アンタらの学校での呼び名。」
「初耳なんですけど!?」
「本人たちに言うわけないでしょ! 知らない方が面白いんだから! 無自覚無敵カップルに撃沈される自意識過剰な男や女を見るのもね!」
楽しみ方が酷すぎる。
「ほら、旦那来たよ。」
「旦那じゃないって。」
「はいはい。」
流石にあの話の後なので遠慮がちにはなったけど、いつも通りに………
「……終わった?」
「うん。」
「じゃあ帰ろうか。」
普通に並んで歩き始める。すると背後から。
「ほら!」
「何が!?」
真魚が振り返る。
「そういうとこ!」
「分かんないって!」
笑い声が上がって、僕もつられて笑う。真魚も笑って。最後にみんなへ大きく手を振った。
「じゃあね!」
「また連絡する!」
「旦那さんにもよろしくー!」
「だから違う!」
そんなこんなで――高校生活が終わった。
ーーーーー
「ちょっと残念。」
「だよね。高校生活楽し――」
「神も超人も殴り倒せる高校生ってフレーズ、気に入ってたのに。」
「そこなの!?」
ーーーーー
「一条さん、本当に東京にいるんですね。」
「何だ、その言い方は。」
卒業式を終えた僕たちは、一条さんと合流して美杉家へ向かっている。
「いえ。何だかんだ長野に戻ると思ってたので。」
「俺もそのつもりだった。」
「ですよね。」
元々、一条さんは長野県警の人だ。未確認生命体事件からずっと、保護者として僕の面倒を見続けてくれている。アンノウン対策で東京には来たけれど、アベンジャーズ関連まで巻き込まれ、気付けば、
「警視庁に正式転籍ですか。」
「ああ。」
「もう長野県警の人じゃなくなるんですね。」
「そうなるな。」
「理由を聞いても良いですか?」
どうしても気になって聞いてしまうと、一条さんは前を向いたまま答えてくれた。
「今後を考えれば、東京にいた方が動きやすいこともあるだろう。」
真魚は勿論、僕も東京に残る。
だから、これから先、また日本で事件が起きた時、一条さんが東京にいてくれた方が、確かに心強い。でも、
「……僕のせいです?」
「違う。」
即答された。
「黒雄。お前だけが原因なら、ここまではしない。」
その言い方は逆に傷つく、というか寂しいんですけど。あ、真魚が笑ってる。
「クロオだけじゃないって。」
「分かってるよ。」
「君も含めてだ、真魚さん。」
「私も?」
「当然だ。」
真魚も僕も黙ってしまう。一条さんは本当に面倒見が良すぎると思う。
「一条さん。ありがとうございます。」
「急にどうした。」
「何となくです。」
「そうか。」
一条さんがほんの少し、笑ってくれた気がした。
ーーーーー
美杉家では僕らの卒業パーティが開かれていた。
「卒業おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、叔父さん。」
美杉教授が用意した料理――手作りではないやつ――が、テーブルいっぱいに並ぶ。美杉教授、太一君、一条さん、真魚、そして僕で食卓を囲む。
すっかりこのメンバーも馴染んだな。美杉教授の奥さんはまた海外出張中だけど。
「しかし二人とも卒業かあ。」
美杉教授が感慨深そうに言う。
「早いものだねえ。」
太一君が唐揚げを食べながら、
「クロオ兄ちゃんはこれからも家に来るんでしょ?」
「え? まあ、普通に来ると思うけど。」
「じゃあ何も変わらないじゃん。」
ふと、真魚と目が合う。
「今まで通り。」
真魚が笑い、
「だね。」
僕も笑う。すると、一条さんが何とも言えない顔をした。あ、美杉教授も。あれ? 太一君まで。
義彦さんがワインのグラスを置きながら、
「君たちはそれでいいよ。」
なんて言ってくる。何なんですか、みんなして。
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卒業式の写真を見せて。太一君が昔の真魚の写真を持ち出そうとして怒られて。気付けば随分と時間が経っていた。
少し夜風に当たるつもりでベランダに出たけど、少し冷たい。僕は手すりに寄りかかり、スマートフォンを見る。
着信はない。メッセージは………ないか。
「またフューリーさんからの連絡がないか確認してるの?」
後ろから声がして、振り返る。真魚もベランダに出てくる。
「うん。でも、まだ連絡はないね。」
アスガルドから帰ってきてから、ほぼ連絡はない。たまに、
『動いている。』
『余計なことはするな。』
『ちゃんと学校へ行け。』
それくらい。
「……大丈夫かな。」
僕が呟く。フューリーはヒドラを追っている。自分の組織の中にいる敵を、誰が味方か分からない状態で。動いてしまっている分、下手をすれば僕の知っている未来より危険かもしれないのに。
「クロオ。フューリーさんが心配?」
「うん。まあ、一応ね。」
「珍しいね。」
「酷くない?」
「だって、いつも文句言ってるから。」
確かに文句は言う。けれど、それと心配しないのは別だ。真魚が夜空を見上げる。
「でも。フューリーさんなら大丈夫なんじゃない? だって、」
少し笑って。
「クロオより、ずっとずる賢そうだし。」
「それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。」
………うん。フューリーなら僕なんかより遥かに上手く動いてくれているはずだ。分かってる。分かってはいるけど、
「僕の知ってる通りじゃなくなってるからなー。」
「それが目的だったんでしょ?」
「……そうなんだけど。」
未来を変えたかった。実際、変えることにも成功している。でも、知っていた道から外れるほど、僕の未来知識は役に立たなくなる。
「分からないことが怖い?」
真魚が聞く。
「少し。いや、ごめん、嘘ついた。すっごく怖い。」
素直に答えると、真魚は何も言わなかった。ただ、僕との距離を詰め、肩が触れる距離まで寄った。
………近い。いや普段から距離感は近い方だけど、何か違うような。静かだからか、夜だからか、卒業したからか。
………僕が横を見ると、真魚もこっちを見ていた。どうしよう。少し、顔が熱い気がする。真魚も目を逸らしていない。
「真魚。」
「うん。」
「今日――」
――ブブッ。
スマートフォンが震え、僕は反射的に画面を見る。フューリー!? 画面には、
『太一:プリン残り一個だけど食べる?』
真魚も画面を覗き込む。
「太一……。」
「太一君……。」
物凄くどうでもいい! いやプリンは大事だけど! 今じゃない!
「ふふっ。」
「笑わないでよ。」
「だって。」
「何か今、良い感じだった気がするのに。」
口に出して、止まってしまう。……………やばい。僕、今なんて言った。
「……良い感じだったんだ?」
真魚が悪戯っぽく笑っている。
「いや、そんなことは、」
「クロオが言ったんだけど。」
「……言いました。」
逃げられない。
「じゃあ。続きは今度ね。」
真魚は少しだけ頬を赤く染めながら、そう言った。
「プリンなくなっちゃうから戻ろっか。」
そう言って先に部屋へ戻っていった真魚を見送り、僕はしばらく動けなかった。
「高校卒業した途端にこれはキツイ。」
僕は顔を押さえて、一人愚痴った。
世の中のヒーローが恋やら愛やらに苦労する理由が、少し分かってしまった。
ーーーーー