日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
「左から失礼。」
朝のワシントンD.C.。
早朝にランニングを行っていたサム・ウィルソンの横を、一人の男が軽々と追い抜いていった。金髪に青いシャツの男が明らかに普通じゃない速度で駆けていく。
「……マジかよ。」
サムは思わず振り返る。少しして、
「左から失礼。」
「またかよ!」
同じ男が二周目、さらにしばらくして、
「左から――」
「分かってる!」
三度目。サムが叫ぶと、男――スティーブ・ロジャースは少しだけ笑い、そのまま走り去っていった。結局、変に対抗心を持ってしまったサムは、しばらく走ってから芝生に寝転び、荒い息を吐いていた。
「どれだけ抜かれたのか、思い出すのもいやだ。」
「悪かったよ。でも、良いガッツだった。」
「全然悪いと思ってないだろ。」
スティーブが笑い、話しかける。
「君、軍人だったのか?」
「空軍。今は退役軍人の相談に乗ってる。」
「そうか。」
短いやり取りだけれど、不思議と話しやすいと感じるスティーブ。
「で? キャプテン・アメリカは休日の朝から走ること以外に趣味ないのか?」
「今探してる。」
「まずデートから始めたらどうだ?」
「それ、最近よく言われるな。」
「誰に?」
スティーブが答えようとした、その時、一台の車が止まる。窓が開き、ナターシャ・ロマノフが顔を出す。
「スティーブ。仕事よ。」
「だと思った。」
スティーブが立ち上がり、サムへと軽く手を上げた。
「またな、サム。」
「次は抜く時一回だけにしてくれ。」
「努力する。」
「信用できねえな。」
そう言って別れた数時間後、スティーブは海の上にいた。
ーーーーー
「海賊?」
輸送機の中で作戦資料を読み、ナターシャが詳細を説明してくる。
「ジョルジュ・バトロック率いる武装集団。S.H.I.E.L.D.の船、レムリア・スターを占拠。乗員を人質に取っている。」
「要求は?」
「十五億ドルの身代金。」
「随分高いな。」
「S.H.I.E.L.D.の職員にはそれくらい価値があるってことじゃない?」
「君が言うと冗談に聞こえない。」
隣でブロック・ラムロウ率いるS.T.R.I.K.E.隊員たちが装備を確認しているが、いち早く立ち上がる。
「人質を優先する、一足先に行くぞ。」
「了解。」
後部ハッチが開いたので、眼下の夜の海を確認する。ラムロウがこちらを見て、質問してくる。
「パラシュートは?」
「いらない。」
そのまま飛び降りた方が早い。
ーーーーー
作戦自体は順調に進んだ。スティーブが甲板から侵入。S.T.R.I.K.E.が別方向から制圧。ナターシャが船内へ潜入。敵も強くはあったが、キャプテン・アメリカを止められるほどではない。バトロックとの接近戦も終わり、人質は確保した。
――問題は、その後だった。
「ナターシャ!」
船内のコンピュータールームでナターシャは端末を操作しているのをスティーブが見つける。USBへ大量のデータが転送されており、スティーブが険しい顔で近づいていく。
「……何をしてる。人質救出が任務だろ。」
「あなたの任務はね。私の任務はこっち。」
スティーブの表情が固まり、動きもどこか鈍い。
「フューリーから別命令を受けていたのか?………聞いて、いないぞ。」
「私も彼も言ってないもの。」
直後、バトロックが仕掛けた爆弾が爆発。スティーブがナターシャを庇うことで脱出しには成功したが、怒りは収まっていなかった。
ーーーーー
「なぜ別任務を同時に走らせた?」
帰還後。スティーブはフューリーを正面から睨んでいた。
「俺たちは人質を救うために行った。なのに、ナターシャが何をしてるか知らなかった。作戦中にだ。」
「必要な情報だった。」
「必要なら僕にも言ってくっ………言え。」
「………今回は必要がないから言わなかった。」
スティーブが一歩近づく。
「そういうやり方が問題なんだ。」
フューリーはため息を吐き、横ではナターシャが腕を組んでいる。
「ここでは取り繕う必要はない。」
「それに、演技が堅かったわよ。」
「……本当?」
「怒ってる演技なんか特にね。」
スティーブの顔が止まる。
「ちょっと本気混ざってるからでしょ?」
フューリーが額を押さえた。
「『正直』の弊害だな。」
「悪かった。」
スティーブが即座に謝ったため、ナターシャが目を丸くする。
「素直ね。」
「本当に少し腹が立ってた。」
「そこまで正直に言わなくていい。」
フューリーがため息を吐いた。今回の作戦、表向きはレムリア・スターの奪還。裏では、あえてナターシャにデータを回収させることで、ヒドラがどう反応するのかを見るためだ。
そして反応はあった。ナターシャが回収したデータに、フューリー自身の権限であるにも関わらず、身に覚えのないロックがされている。
「動き始めたな。」
フューリーが呟き、スティーブが視線を向ける。
「とうとうか?」
「ああ。インサイト計画、そして裏ではヒドラが本格的に蠢き出した。そして、その計画が動き始めたということは、」
フューリーは椅子へと深く座りこみ、
「このまま進めば、奴も、ウィンター・ソルジャーも出てくる。」
スティーブの表情が変わる。
「……バッキーが。」
スティーブの拳が僅かに握られるが、何かに疑問を持ったようで、
「なぜ分かる?」
「ん?」
「インサイトが動けば、バッキーが出てくる。どうしてそこまで分かるんだ。」
フューリーは数秒黙り、ニヤリと笑う。
「勘だ。」
スティーブが眉を寄せる。
「何だそれは?」
ナターシャが首を傾けてから、すぐに気付き、口元を緩める。
「高校生の真似じゃない?」
「なんだと?」
「十文字の。」
「……彼、高校はもう卒業しただろ。」
「そうだったかしら。なら、大学生だったわね。」
スティーブがフューリーを見ると、フューリーは黙っていた。
「ニック。影響受けているのか?」
「受けていない。」
「いや、今のは完全に――」
「黙れ。」
ーーーーー
その日の夜。スティーブは一人、自宅の椅子に座っていた。手にはペギー・カーターの古い写真。少し前に、彼女を訪ねたが、病室で横になっていたペギーは年老い、自分だけが、あの頃のままだった。
笑って昔のことを話して、一瞬だけ、昔のペギーに戻ったように見えた。しかし、次の瞬間。
『スティーブ?生きてたの?』
胸が締め付けられた。自分が眠っていた七十年もペギーは生きて、人生を送り、家庭を持ち、年老い、今は記憶や意識もあやふやだ。
自分だけが取り残された感覚に陥る。でも一人だけ、七十年前の自分を知っている男が生きている。けれど、その彼はヒドラに奪われている。
「……待ってろ。」
誰に聞かせるでもなく呟く。
「必ず見つける。」
ーーーーー
そこから数日後、アレクサンダー・ピアースの執務室に行き、プロジェクト・インサイトの延期を要求した。表向きの理由はいくらでも用意できた。レムリア・スター事件にシステム上の不具合、安全性の再確認など色々だ。ピアースは納得したように見せていたが、
――当然、信じてなどいない。
人気のない通路を通り、地下駐車場に止めた車に向かう。その最中、足を止める。
「頼むぞ。」
すると、暗闇の奥から人影が浮かぶ。
「私を信用するのか?」
どこか愉快そうに聞こえる声に、鼻を鳴らしてしまう。
「お前ではない。」
一拍。
「お前を信用する十文字を信用しているだけだ。」
暗闇の男が小さく笑った。
「それはお互い様だな。私も貴様を信用しているわけではない。」
ゆっくり後ろへ下がり、男の身体が視界から消えていく。
「十文字が貴様を信用している。だから協力するだけだ。」
「面倒な奴だ。」
「貴様に言われたくはない。」
そして、男の姿は完全に消えた。
ーーーーー
翌日。
銃声が響いた。
ーーーーー
『ニック・フューリーが撃たれた。』
スティーブは電話越しの言葉に動きを止めた。
「容体は?」
返事を聞き、表情が消える。
『死亡が確認された。』
ーーーーー
ほぼ同時刻。ナターシャも同じ知らせを受け取っていた。
「……そう。」
それだけ答え、通話を切る。しばらく画面を見つめ、
「本当に死んでたら殺すわよ、ニック。」
小さく呟いた。
ーーーーー
「頼みがある。」
サム・ウィルソンは、自宅の玄関に立つ男を見た。
「……朝のランニングにしては物騒な顔だな。」
スティーブは笑わなかった。
「危険になる。」
「どれくらい?」
「かなり。」
「政府?軍?」
「その両方を敵に回す可能性もある。」
「世界の危機?」
「それもあり得る。」
サムが数秒黙る。
「朝飯食うか?」
スティーブが少しだけ笑った。
ーーーーー
ナターシャがレムリア・スターから持ち出したデータ。本来なら、そのデータを解析し、発信元を追跡する。そしてニュージャージー、キャンプ・リーハイへ向かう、
――のだが。
USBが示す場所を確認した時点で、ナターシャは端末を閉じた。
「ここね。」
「行かないのか?」
サムが聞く。
「行ったら相手の思うつぼ。」
スティーブが答える。
「予定変更だ。」
三人は足取りを変える。人目を避け、監視カメラを避け。何度も移動手段を変え、最後に辿り着いたのは、ワシントン郊外にある古い倉庫だった。
スティーブが中に入ると、
「遅い。」
暗闇から死亡したと連絡が入ったニック・フューリーが歩いてくる。
ナターシャがフューリーへ近づき、
「本当に死んでたら殺すところだったわよ?」
「死んでいたら殺せん。」
サムは後ろで呆然としている。
「え? 死んだって聞いたんだけど。」
「死んだことにした。」
「そういうこと簡単に言う?」
スティーブが息を吐く。
「説明してもらうぞ。」
「ああ。」
フューリーがそう答えた、その瞬間、スティーブの視線が奥へ向いた。
他に誰かいる。ナターシャも同時に気付き、二人は即座に構えを取る。そして、影の中、ゆっくりと一人の男が姿を現す。
黒髪で細身。そして、見覚えのありすぎる顔だった。
「……お前は!?」
スティーブの声が低くなり、ナターシャは即座に銃を抜き、現れた男の名を呼んだ。
「ロキ。」
ロキが両手を僅かに上げる。
「久しぶりだな。」
「落ち着け。」
フューリーが間へ入った。
「今は味方だ。」
スティーブがフューリーを見る。
「本気か!?」
「本気だ。」
「そいつがニューヨークで何をしたか忘れたのか!」
「忘れていない。」
「なら――」
「ロジャース。」
フューリーが強く名前を呼び、スティーブは追求を一瞬止める。その横で、ロキが一歩前へ出る。そして、
頭を下げた。
「……え?」
ナターシャの銃口が僅かに下が、スティーブも固まる。ロキは頭を下げたまま、
「過去の行いについて、言い訳をするつもりはない。今すぐ信じろとも言わない。」
そして、ゆっくり顔を上げ、二人を真っ直ぐ見る。
「だが今は、信じてほしい。」
スティーブもナターシャも同じような顔をしている。『こいつ、本当に本物か?』という表情。その顔を見て、ロキが眉を寄せる。
「……なぜ私が頭を下げると、皆そんな顔をするのだ。毎回だぞ。」
フューリーを見る。
「過去の行いだ。」
即答。
「貴様が『正直』になるのと同じだろう。」
今度フューリーが不満そうな顔になり、
「全くだ。」
フューリーの反応を見て、ロキが鼻で笑う。そのやり取りを見て、スティーブは完全に困惑した。
「待て。本当に仲間なのか?」
「今ではアスガルド王代理様だ。」
フューリーがロキを指し、ロキはわざとらしく胸に手を当てる。
「その王代理様が、なぜか地球で諜報員の真似事をしている。」
「誰のせいだ。」
「知らんな。」
「貴様自身だ。」
「証拠は?」
「今のお前の態度が証拠だ。」
ナターシャが珍しく言葉を失っている。スティーブも同じだった。ニューヨークで地球を侵略した男とニック・フューリーが普通に言い争っている。少なくとも敵同士には見えない。むしろ、
「仲良いの?」
ナターシャが思わず聞く。
「「良くない。」」
二人同時に反応した。すると、それまで完全に話についていけていなかったサムが、恐る恐る手を上げた。
「悪い。」
全員が振り向くとサムはロキを指差していた。
「結局、誰?」
ロキの顔が引きつった。
「…………私を知らないのか?」
「ごめん。」
「この場にいて、ニューヨークの件を知らんのか!?」
「いや事件は知ってるけど、顔までは。」
ロキがゆっくりフューリーを見る。フューリーは笑いを堪えながら顔を背けた。
「笑うな。」
「笑っていない。」
「肩が震えているぞ!」
倉庫の中に、ロキの声が響いた。ヒドラとの戦いを始めるには、どうにも緊張感の足りない集合だった。