日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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??????・?????ョ?編
相談


 

――ウィンター・ソルジャー事件から、しばらくして。

 

S.H.I.E.L.D.は崩壊した。

 

世界中へ機密情報がばら撒かれた。そして、その内部に潜んでいたヒドラの存在も明るみになり、ピアースを始めとするS.H.I.E.L.D.内部のヒドラ上層部もほぼ壊滅した。

 

そして、バッキーさん――ジェームズ・ブキャナン・バーンズも、この村で治療を受け始めている。

 

全部が全部、解決したわけじゃない。S.H.I.E.L.D.という巨大組織が消えたことで、世界はこれからしばらく混乱するだろうし、ヒドラだって完全に消滅してはいない。それでも、

 

「……とりあえず、ひと段落だー。」

 

僕は、例の村の広場に置かれたベンチへ座り、大きく息を吐いた。少し離れた場所では、子供たちが走り回っている。

 

「待てー!」

 

「こっちこっち!」

 

「ちょっと、それズルい!」

 

「ズルくないって!」

 

「危ないから、あんまり遠くまで行っちゃ駄目だよー!」

 

真魚が走り回る子供たちに声をかける。今日は二人で村へ来て、子供たちの勉強を見たり、一緒に遊んだりしている。

 

超能力に覚醒した子供。普通の人間とは違う力を持って生まれた子供たち。色々あったけど、この場所はいつも通り穏やかだ。………戦力的には全然穏やかじゃないけど。

 

午前中は勉強、午後からは遊び、そして今は、空を見上げながら休憩中。

 

………とりあえず。ウィンター・ソルジャー編は終わったはず。原作と比べれば、被害を減らせたと思う。インサイト計画による大量虐殺は未然に阻止できたし、ヘリキャリアも失われていない。バッキーさんもスティーブさんと殺し合うことなく保護できた。何より、フューリーが事前に動いてくれたおかげで、S.H.I.E.L.D.内部のヒドラをかなり効率よく潰せた。

 

問題は。

 

「……次なんだよなぁ。」

 

僕は額を押さえる。次は、とうとう。

 

「ウルトロンか……。」

 

ここまで来たなら分かる。未来知識があるからといって、なんでも上手く対処できるわけじゃない。僕が動けば動くほど、知っている未来から外れるわけだし。しかも今回は、既に大きく外れている。

 

ロキのセプター。

 

本来ならヒドラの手に渡っていたそれは、フューリーが早期に確保、今は闇の力が管理してくれている。

 

「……ソコヴィア。どうなってるんだろ?」

 

ヒドラの研究施設、そこにいるはずの双子は、強力な力を持っていた。

 

名前は確か、ピエトロとワンダ。映画で見た通りなら、二人とも人体実験を受けて能力を得ていたはずだ。ピエトロはクロックアップみたいな超高速移動ができて、ワンダは……。

 

「念力とか、精神攻撃とかだったっかな。」

 

赤い力を使って、アベンジャーズを、インフィニティ・ストーンなしならサノスすら苦戦させていた。ただ………彼女に関しての続編がある、みたいなことを聞いたことがあったような、ないような………。エンドゲーム以降の映画は、スパイダーマン関係以外はほとんど見ていないし、ドラマなんて完全に未履修だし。

 

………一旦問題は、今の状況だ。セプターはヒドラにない。なら、あの双子が原作通り能力を得る可能性は低い………はずなんだけど、

 

「ソコヴィア、調べられなかったんだよな。」

 

以前、フューリーに、『ソコヴィアにヒドラの施設がある可能性が高いので調べてほしい』って頼んだら、『無理だ。』と言われてしまった。

 

未来知識で知っている場所を片っ端から調査していけばいい。最初はそう思っていたけれど、フューリー曰く。

 

『ソコヴィアは政治的にも治安的にも複雑な地域だ。ましてやヒドラが本当に施設を持っているなら、中途半端な調査は逆効果。S.H.I.E.L.D.内部にヒドラが潜伏している状況では、こちらが探っていること自体を悟られる可能性が高い。お前の情報が正しいなら、奴らはそこに何かを隠している。こちらが動けば、隠している物ごと消えるぞ。』

 

だそうで、こうも専門家に論破されてしまえば、僕も引き下がるしかなかった。だから、ソコヴィアはまともに調べられていない。しかしS.H.I.E.L.D.は崩壊したけれど、ヒドラも大打撃を受けた今なら、

 

「調べてもいい頃だと思うんだけどな。」

 

「何を?」

 

「うわっ!?」

 

横から突然声がして、僕は飛び上がった。

 

「びっくりした……。」

 

「さっきから呼んでたんだけど。」

 

「ごめんなさい。」

 

声をかけてきた真魚が僕の隣に座る。

 

「また未来のこと考えてたんでしょ。次は何が起こるんだっけ?」

 

真魚が少しだけ呆れた顔になりながら、質問してきた。僕は走り回る子供たちの様子を見ながら答える。

 

「次がウルトロンのはず。」

 

「前に言ってた人工知能だっけ? 人類を滅ぼそうとするとかいう。」

 

「そう。」

 

「あと街が空を飛ぶんだっけ?」

 

「……そこまで言うと改めて頭おかしいよね。」

 

「今さらでしょ。」

 

それもそうだ、と思いながら僕はベンチの背もたれへ身体を預ける。

 

「ただ、今回は未来と既にかなり違うはずなんだよ。」

 

「ロキさんの杖が関わってくるんだっけ?」

 

「うん。でも今は闇の力が管理しているから、他の奴に渡る心配はほぼ無いはずなんだ。」

 

「だったら、事件そのものが起きない?」

 

「普通ならね。」

 

僕は空を見る。

 

「普通なら。」

 

「……何か嫌な言い方するね。」

 

「僕も嫌なんだよ。」

 

原作を変えれば危機が消える、なんて単純な話じゃない。形を変えて、時期を変えて、原因が変わる。そして『何か』は起こる。

 

「だからソコヴィアを調べたいんだけど。」

 

「前にフューリーさんに止められたんだっけ?」

 

「うん。ヒドラに気付かれず調べるのは無理だって。」

 

S.H.I.E.L.D.内部そのものにヒドラがいた以上、秘密裏の調査なんてほぼ不可能だった。けれど今は違う。S.H.I.E.L.D.は崩壊し、ヒドラも表舞台へ引きずり出された。だったら――

 

――ピピッ。

 

「ん?」

 

僕の腰に付けていた端末が鳴る。アスガルド製の通信端末の方だ。取り出して画面を見ると、

 

「……フューリー?」

 

「噂をすればってヤツだね。」

 

「嫌な予感がするなぁ。」

 

通信を繋ぐ。

 

「はい。」

 

『十文字。』

 

「どうしました?」

 

『今、話せるか。』

 

「話せますけど。」

 

僕は真魚を見る。真魚もそのまま座っている。

 

「真魚も一緒なんですけど。」

 

『構わん。』

 

おや、珍しい。フューリーさんなら、内容によっては僕一人になれと言いそうなのに。

 

「それで?」

 

少し間が空く。

 

『……一つ聞きたい。』

 

「はい。」

 

『アスガルドと、例の村以外で盗聴される恐れがない場所を知らないか?』

 

僕は端末を耳から離し、画面を見る。NICK FURY。うん、間違いない。真魚が首を傾げている。

 

「どうしたの?」

 

「いや……。」

 

もう一度耳へ戻す。

 

「本当にフューリーですか?」

 

『切るぞ。』

 

「待って待って!」

 

真魚が吹き出してる。でも仕方ない。あのニック・フューリーが、誰も信用しない男が、盗聴されない場所を僕に聞いてくる?

 

「自分で用意してないんですか?」

 

『用意していた場所の安全性を、今は信用できん。』

 

それは納得する。S.H.I.E.L.D.そのものがヒドラに食われていた。フューリーさんが安全だと思っていた施設やセーフハウスも、どこまで情報が漏れていたのか分からない。

 

「アスガルドじゃ駄目なんですか?」

 

『今回の話はある意味、地球内で済ませたい。』

 

ある意味?

 

「今、その例の村にいるんですが、ここも駄目なんですか?」

 

『人が多い。』

 

「まあ、確かに。」

 

今だって子供たちが走り回っている。秘密会議には向かない。

 

『相談したいことがある。』

 

「…………。」

 

思わず、また端末を離してしまう。

 

「今度は何?」

 

「……相談したいって。」

 

「フューリーさんが?」

 

「うん。」

 

「……珍しいね。」

 

「でしょ?」

 

僕たちは同時に首を傾げた。

 

『聞こえているぞ。』

 

「あ。」

 

「すみません。」

 

『それで。心当たりはあるか?』

 

うーん。絶対に盗聴されない場所。科学的な盗聴だけじゃなく、相手がフューリーさんなら魔術や超能力まで考えた方がいいかな?

 

そんな便利な場所、アスガルドとこの村以外だと、

 

「……あ。あそこなら。ちょっと確認するんで待ってください。」

 

『分かった。』

 

通信を保留にして、僕は目を閉じる。

 

――『闇の力。』

 

少し意識を集中させて、心の中で呼びかける。

 

『何だ。』

 

すぐ返ってきた。宇宙的存在と念じるだけで会話できるって、改めて考えると本当におかしい。

 

――『いつも使う喫茶店なんですけど。あそこって色々やばい話をしても大丈夫な特別な場所だったりします?』

 

『ああ。』

 

――『やっぱり。秘密の相談に使っても大丈夫ですか? 盗聴とかされると困るらしくて。』

 

『構わない。店主にも伝えておく。』

 

――『ありがとうございます。』

 

『気にするな。』

 

意識を戻すと、真魚が僕を見ていた。

 

「大丈夫?」

 

「うん。許可取れた。」

 

「闇の力? 相変わらず便利だね、その連絡方法。」

 

フューリーさんとの通信へ戻す。

 

「場所は大丈夫そうです。」

 

『そうか。』

 

「いつ頃来ます?」

 

『可能なら今すぐだ。』

 

「今すぐ?」

 

『それと……ゴウラムで迎えに来てくれないか?』

 

今日のフューリー、本当にどうした?

 

「自分で来ないんですか?」

 

『移動経路を残したくない。』

 

「そこまで?」

 

『そこまでだ。』

 

真魚も少し真剣な顔になっていた。そこまで慎重になる話。やっぱり普通じゃない。

 

『さらにもう一つ。』

 

「まだあるんですか?」

 

『私を送った後、別の場所へ向かってほしい。』

 

「別の場所?」

 

『もう一人、回収してほしい人物がいる。』

 

「誰を?」

 

『それは集まった時に説明する。』

 

「誰か分からない人を迎えにいくんですか?」

 

『すまんが頼む。』

 

どうしよう、『すまん』と『頼む』が同時に出た。

 

「………分かりました。迎えに行きます。」

 

僕は立ち上がると、

 

「私も行って良い?」

 

「真魚も?」

 

「秘密の相談なんだろうけど、どうせ後で聞くことになるなら最初からいた方が早いでしょ。」

 

「……確かに。」

 

『構わん。』

 

フューリーも了承する。

 

「じゃあ。おーい!」

 

僕は子供たちに呼びかける。

 

「何ー!?」

 

「ちょっと出掛けてくるね!」

 

「また事件!?」

 

「多分!」

 

「多分って何だよ!」

 

「後で戻るから!」

 

おみやげー! 頑張ってー! 怪我するなよー! などの言葉が飛んできて、僕も真魚も苦笑いしてしまった。

 

「光のエルたちには私から伝えておくね。」

 

「お願い。」

 

真魚が一旦離れている間に、相棒も呼んでおくか。

 

「ゴウラム!」

 

少し離れた場所から、金属質な鳴き声が響いた。

 

ーーーーー

 

――数分後。

 

指定された場所へ次元移動すると、既にフューリーは待っていた。

 

「早いな。」

 

「今のゴウラムに距離は関係ないですから。」

 

真魚も僕の後ろから顔を出す。

 

「こんにちは。」

 

「久しぶりだな。」

 

「何だか随分警戒してますね。」

 

真魚が周囲を見る。完全に人気のない場所だった。それに、護衛もおらずフューリーだけだ。

 

「必要だからな。」

 

「それで、何の相談なんです?」

 

「向こうで話す。」

 

「ですよね。乗ってください。」

 

フューリーさんがゴウラムを見る。

 

「何度乗っても慣れんな。」

 

「僕は慣れました。」

 

「お前は乗り過ぎだ。」

 

それも否定できない。ゴウラムの周囲が歪み、次の瞬間、景色が切り替わった。

 

ーーーーー

 

カラン。

 

「いらっしゃい。」

 

喫茶店に到着。僕自身、最初こそ闇の力に連れてこられたけど、今では自分で普通に来ることもある。

 

「ここなら大丈夫です。」

 

フューリーさんが店内を見回す。

 

「確かなのか?」

 

「少なくとも、闇の力が大丈夫だって言ってました。」

 

「それ以上の保証もそうないな。」

 

僕と真魚も頷く。

 

「じゃあ、僕はもう一人を迎えに行ってきますね。」

 

「ああ。」

 

「真魚は?」

 

「一緒に行く。」

 

「分かった。」

 

僕たちは再びゴウラムへ乗り、フューリーに教えられた座標へ向かう。

 

ーーーーー

 

着いたのは、人気のない郊外だった。

 

「ここ?」

 

「座標は合ってるけど。」

 

僕と真魚が周囲を見ると、一人の女性が立っていた。見覚えがない人だけど、年齢はフューリーと近いだろうか。突然現れたゴウラムを見ても、思ったほど驚いていない。

 

「……あの。」

 

僕が声を掛ける。

 

「えっと、フューリー……さんの知り合いですか?」

 

女性は静かに頷いた。

 

「ええ。」

 

「……。」

 

え、それだけ?

 

真魚が僕の横で小声になる。

 

「知り合いではあるみたいだね。」

 

「そうみたいだね。……こんにちは、十文字黒雄です。」

 

「知っているわ。」

 

「僕のこと?」

 

「ニックから聞いている。」

 

「ニック。」

 

思わず復唱してしまう。フューリーを普通にニック呼び。かなり親しい人なのかな?

 

「私は風谷真魚です。」

 

真魚も挨拶すると、女性は真魚にも穏やかに頷いた。

 

「あなたのことも聞いているわ。」

 

「私も?」

 

「ええ。」

 

僕と真魚は顔を見合わせる。聞きたい、色々聞きたい。でも、

 

「……とりあえず質問は後にしますね。」

 

「そうしてもらえると助かるわ。」

 

「ですよね。じゃあ、乗ってください。」

 

僕はゴウラムを示し、女性がゴウラムを見る。

 

「これに?」

 

「大丈夫です。見た目より乗り心地いいですから。」

 

言い方が気に入らなかったのか、ゴウラムが不満そうに鳴いてしまう。

 

「ごめんって。」

 

真魚が笑い、女性も僅かに口元を緩めた。

 

「では、お願いするわ。」

 

ーーーーー

 

カラン。

 

「フューリーさん、お連れしてきまし…………。」

 

フューリーさん、店主、そこまではいい。問題は、

 

「……何でいるんですか?」

 

カウンター席に闇の力がいた。しかも、普通にカプチーノを飲んでいる。

 

「いや、本当に何してるんです?」

 

「見て分からないか?」

 

「カプチーノ飲んでるのは分かりますけど。」

 

真魚が口元を押さえて笑いを堪えている。闇の力は平然とカップを置き、

 

「私がここにいることで、一時的にこの場所の聖域化を強化している。」

 

「聖域化?」

 

「そうだ。」

 

闇の力が店内を見回す。

 

「現在、この場所に外部から干渉することはできないようになっている。」

 

「へー。干渉できないってどのくらいなんですか?」

 

流石真魚、全く物怖じせず聞くよ。

 

「地球の科学的な盗聴、監視、追跡は勿論。」

 

指を一つ立てる。

 

「魔術。」

 

もう一つ。

 

「超能力。」

 

さらに。

 

「宇宙由来の科学、エネルギー。」

 

「……。」

 

「神と呼ばれる存在の力であっても、外部からこの場所の情報を盗み出すことはできん。」

 

「…………。」

 

僕は固まり、真魚も目を瞬かせる。フューリーさんだけは、少し感心したように店内を見ている。科学、魔術、超能力、宇宙関係、そして神クラスの力。それら全部が遮断。

 

「……何やってんだ、このラスボス。」

 

闇の力が僕を見てくる。

 

「何か問題があるか?」

 

「ないです。」

 

むしろ完璧です。でも、原作最終回で人類を滅ぼそうとした存在が、今では秘密会議用のセキュリティ担当やってることに違和感が凄いです。

 

「……ん? 今、『強化してる』って言いました?」

 

「ああ。」

 

「強化ってことは。」

 

僕は店内を見る。

 

「普段から?」

 

「そうだ。」

 

闇の力は何でもないことのように続ける。

 

「この店は普段から聖域化している。」

 

「初耳なんですけど。」

 

「聞かれなかったからな。」

 

「出たよ。」

 

さっきからずっと笑っている真魚が、

 

「じゃあ、闇の力がいなくても盗聴できないんですか?」

 

「完全ではないが、通常の科学技術、魔術、超能力程度であれば問題ない。」

 

「十分すぎません?」

 

「私が普段使いしている場所だからな。」

 

「え? 自分用なんですか?」

 

「静かに過ごしている時に、覗き見や盗み聞きをされるのは不快だろう? ここの常連たちはカフェ友だからな。彼らにもゆったり過ごしてほしい。」

 

アギトのラスボスが『カフェ友』って言ったよ。

 

「………今後も秘密の相談をする時はここを使うといい。」

 

「いいんですか?」

 

闇の力がカプチーノを飲む。

 

「店主も理解している。」

 

僕と真魚は同時にカウンターの向こうを見る。ナイスミドルな店主は、

 

「…………。」

 

黙って皿を磨いている。

 

「店主さん。」

 

「…………。」

 

磨いている。

 

「僕たち、結構物騒な話しますよ?」

 

「…………。」

 

皿を磨く。

 

「世界滅亡とか。」

 

「…………。」

 

磨く。

 

「宇宙人とか神様とか。」

 

「…………。」

 

磨く。

 

「秘密組織とか。」

 

「…………。」

 

みが――、真魚が僕の袖を引っ張る。

 

「クロオ。多分、大丈夫なんだと思う。」

 

「何で分かるの?」

 

「雰囲気。」

 

「雰囲気か。」

 

僕はもう一度店主を見る。

 

「…………。」

 

変わらず皿を磨いていた。

 

「……まあ、いいか。」

 

考えるのをやめよう。

 

「――ゴホン。」

 

わざとらしい咳払いが響き、全員の視線が向くと、フューリーがこちらを見ていた。

 

「十文字、真魚。そろそろ話を始めていいか?」

 

「すみません。」

 

「ごめんなさい。」

 

僕と真魚は席へ向かい、連れてきた女性もフューリーの隣へ座った。闇の力はカウンター席。店主は皿を磨いている。

 

フューリーと正体の分からない女性。盗聴を異常なまでに警戒し、ゴウラムの次元移動まで使い、フューリーが僕に『相談したい』とまで言ってきた。一体、何の話なのか。

 

「それで。」

 

僕は姿勢を正す。

 

「相談って、何ですか?」

 

フューリーはすぐには答えず、一度、隣に座る女性を見る。女性も静かに頷き返す。それを確認してから僕たちへ視線を戻した。

 

そして――

 

「まず。彼女を紹介する。」

 

ようやく本題が始まると、フューリーは隣に座る女性へ視線を向ける。

 

「彼女はヴァーラ。」

 

「ヴァーラさん。」

 

僕が名前を繰り返すと、女性――ヴァーラさんが静かに頷いた。

 

「よろしく、黒雄。」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

さっきも思ったけど、僕のことを知っている。それもフューリーから色々聞いているらしい。一体どういう関係なんだろう。S.H.I.E.L.D.の関係者? でも、それならフューリーさんがここまで慎重になる理由が分からない。というか、S.H.I.E.L.D.の人なら僕のことを知っていても不思議じゃないけど、『ニックから聞いている』なんて言い方はしない気がする。

 

昔からの友人? それにしては――

 

「そして、私の妻だ。」

 

「…………はい?」

 

今、何て言った?

 

「妻だ。」

 

聞き間違いじゃなかった。僕はフューリーを見て、次にヴァラさんを見る。もう一度フューリーを見て、

 

「――奥さん!?」

 

思わず立ち上がってしまった。

 

「フューリー結婚してたんですか!?」

 

「している。」

 

「いや、しているって!?」

 

初耳なんですけど!? いや待て。確かにフューリーの私生活なんてほとんど知らない。というか、この人、自分の情報を徹底的に隠すタイプだし、家族がいたっておかしくない。おかしくないけど!

 

「え、本当に!? 奥さん!?」

 

「そう言っている。」

 

「マジでか!?」

 

「コラ、クロオ。失礼だよ。」

 

隣から真魚に袖を引っ張られる。

 

「あ、ごめんなさい!」

 

僕は慌ててヴァーラさんへ頭を下げる。

 

「いえ。」

 

ヴァーラさんは気を悪くした様子もなく、むしろ少しだけ面白そうに僕を見ていた。

 

「ニックから聞いていた通りね。」

 

「僕のこと何て説明してるんですか!?」

 

「色々だ。」

 

「色々って何!?」

 

怖いんだけど! 僕が頭を抱えていると、ふと気付き、真魚を見る。

 

「何?」

 

「いや、何じゃなくて。」

 

真魚は普通に座っている。

 

「驚かないの?」

 

「何に?」

 

「フューリーが結婚してることに。」

 

「うん。何となく分かったし、二人が夫婦だって。」

 

「何で分かるの!?」

 

僕が聞くと、真魚は少し考えてから、フューリーとヴァラさんを交互に見る。

 

「雰囲気?」

 

「雰囲気!?」

 

「長く一緒にいる人たちっていうか。ヴァーラさんがフューリーさんのことを『ニック』って呼んでたのもそうだけど……それだけじゃなくて。さっき二人が目を合わせた時とか。」

 

フューリーは話を始める直前にヴァーラさんを見て、ヴァーラさんも何も言わずに頷いていた。あれは、ただの知り合いや仕事仲間同士の確認じゃなくて――。

 

「夫婦っぽかったでしょ?」

 

言われてみれば。

 

「普通は何となく分かると思う。」

 

「僕には全然分からなかったんだけど。」

 

「クロオ、そういうところ鈍いから。」

 

真魚が笑い、フューリーは呆れたようにこちらを見ていたけれど、ヴァーラさんは口元に僅かな笑みを浮かべている。

 

「……まあ、とにかく。」

 

衝撃ではあったけど、フューリーに奥さんがいた。うん、別におかしい話じゃない。秘密主義の塊みたいな人だから知らなかっただけで、結婚していたって何も不思議じゃない。

 

「それで、ヴァーラさんも今回の相談に関係してるんですか?」

 

「ああ。」

 

フューリーの表情が変わる。さっきまでの空気が、少しだけ引き締まった。

 

「むしろ、今回の話では彼女が重要になる。」

 

「奥さんが?」

 

「ああ。」

 

フューリーは一度、周囲を確認する。闇の力がいる以上、外部から盗聴される可能性はない。それでも確認してしまう辺り、もう癖になっているんだろう。そして、

 

「もう一つ、お前たちに伝えておくことがある。彼女は――人間ではない。」

 

僕と真魚が固まった。

 

「「……はい?」」

 

「正確には、地球人ではない。」

 

僕はゆっくりヴァーラさんを見る。普通の女性に見える。どう見ても人間、というか地球人だ。真魚もさっきまでの余裕はどこへやら、目を丸くしてヴァラさんを見ていた。

 

「…………真魚。分かってた?」

 

「これは流石に分からないよ。」

 

良かった! いや、良くない!

 

「え、ちょっと待ってください! 宇宙人!?」

 

「ええ。」

 

本人があっさり肯定してしまう。

 

「フューリーの奥さんが宇宙人!?」

 

「ああ。」

 

「何で!?」

 

「何でとは何だ。」

 

駄目だ。頭が追いつかない!

 

「クロオ、落ち着いて。」

 

「真魚だって驚いてるじゃん!」

 

「驚いてるよ!」

 

珍しく真魚も声が大きい。

 

「だって宇宙人だよ!?」

 

「そうだよ!」

 

「普通に人間にしか見えないんだけど!?」

 

「僕もそう思ってるよ!」

 

僕たち二人が揃ってヴァーラさんを見ると、そんな僕たちを見ながら、少し困ったように笑っていた。

 

「……随分、賑やかな子たちね。」

 

「だから言っただろう。だが、慣れれば気にならん。」

 

「ニック。」

 

ヴァーラさんが少し窘めるように名前を呼ぶ。

 

「何だ。」

 

「あなた、楽しんでいるでしょう。」

 

「気のせいだ。」

 

絶対嘘だ。いや落ち着け僕。真魚と二人で一度深呼吸を入れる。いや、今さら宇宙人そのものに驚く必要はない。ソーさんたちアスガルド人だって、地球基準で考えれば宇宙人みたいなものだし、ダークエルフとも戦った。サノスだって宇宙人だ。

 

「何ていう種族なんですか?」

 

僕が尋ねると、フューリーさんが答えた。

 

「スクラル人だ。」

 

「スクラル……。」

 

…………聞いたことがある……よな。えーと、あ、キャロルさんが戦ったっていう。

 

「私たちは姿を変えることができるの。」

 

すると、ヴァーラさんが静かに言った。

 

「姿を?」

 

「ええ。」

 

次の瞬間、ヴァーラさんの顔が変わった。

 

「――わっ!?」

 

「えっ!?」

 

僕と真魚が同時に身体を仰け反らせる。肌が緑色へ変わり、顔立ちも大きく変化する。人間とは明らかに異なる姿。それでもヴァーラさんだということは、不思議と分かった。

 

「これが、本来の私よ。」

 

僕と真魚は固まり、ゆっくりフューリーを見るが、本人は平然としている。もう一度ヴァラさんを見るけど、ヴァラさんも平然としている。僕と真魚は顔を見合わせ、

 

「……本当に宇宙人だ。」

 

「本当に宇宙人だね。」

 

「だからそう言っただろう。」

 

「いや、そうですけど!」

 

実物を見ると全然違う! ヴァーラさんの姿が再び変化し、先ほどまでの人間の女性へ戻っていく。

 

「スクラル人は、他者の姿を再現できる。」

 

フューリーが説明する。

 

「外見だけじゃない。声、指紋、網膜まで再現可能だ。」

 

なるほど。そして、ようやくフューリーが今回の話を異常なほど警戒している理由が分かった。誰も信用せず、自分の用意したセーフハウスすら使わず、移動経路さえ残さない。そして、その相談に姿を自由に変えられる宇宙人である奥さんを連れてきた。

 

僕の声から、自然と軽さが消えた。

 

「今回の相談はスクラル人が関係してるんですか?」

 

「――ああ。」

 

短い返事をして、フューリーは僕と真魚を真っ直ぐ見ながら告げた。

 

「少し長い話になる。」

 

フューリーの隣で、ヴァーラさん――地球人の姿をしたスクラル人の女性が、静かに目を伏せる。

 

「私とスクラル人が出会った、二十年以上前から話す必要がある。」

 

 

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