日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
――そして数分後。
店内には、傍から見れば意味の分からない光景が広がっていた。
僕は、全身を漆黒の装甲に包まれた究極の姿――アルティメットフォームになっている。その隣には、白銀の装甲を身に纏い、アギト・シャイニングフォームとなった真魚がいる。
真魚は僕の右手を両手でしっかりと握り、そして僕の左手は、
「……何というか。」
「何だ。」
「凄い絵面ですね、これ。」
闇の力と、がっちり握手している。
アルティメットクウガ、シャイニングアギト、そして、闇の力。三者が手を繋いで輪っかみたいになっている。いや、正確には輪っかじゃないけど。
何だこれ?
少し離れたところでは、フューリーとヴァーラさんがこちらを見守っている。フューリーなんて腕を組んで、ものすごく真剣な顔をしているけど、たぶん内心では僕と同じことを考えていると思う。
そして店主はというと、
「…………。」
普通にカウンターの中で、カップを磨いている。
この店の中で今から宇宙規模のサイコメトリーをやろうとしてるんですけど?
「クロオ。」
「ん?」
呼ばれて、真魚を見る。
「集中。」
「……はい。」
怒られた。
いや、真魚も緊張してるんだろう。シャイニングフォーム状態だから表情は見えないけど、僕の手を握る力がいつもより強い。
僕も握り返す。
「大丈夫?」
「うん。」
短い返事だけど、その声にはちゃんと力があった。
「クロオこそ、絶対、無茶しないでね。」
今から宇宙規模のサイコメトリーをやる人に言われるの?
「それ、僕の台詞じゃない?」
「私はクロオに守ってもらうから。」
「……そう言われると何も言えないな。」
「だから。」
真魚が僕の手を、もう一度強く握る。
「ちゃんと守ってね。」
「もちろん。」
それだけは、迷う必要がない。
僕は闇の力を見る。
「準備できました。」
「ああ。」
闇の力が頷き、そして、フューリーを見る。
「これから先、何が起きても我々には触れるな。」
「分かった。」
「特に黒雄と真魚だ。無理に接触すれば、意識の接続が乱れる可能性がある。」
フューリーの表情が僅かに険しくなる。
「危険は?」
「先ほど説明した通りだ。」
「そうじゃない。途中で異常が起きた場合だ。」
闇の力は少しだけ考え、
「私が強制的に接続を切る。」
「それで助かるのか?」
「可能な限りは。」
フューリーの眉間に皺が寄る。
「曖昧だな。」
「未知の試みだからな。」
「今さら止めないでくださいよ?」
「止めてはいない。」
絶対ちょっと止めたい顔してる。
ヴァーラさんも心配そうに僕たちを見ていた。
「本当に……ありがとう。」
「まだ早いですよ。ちゃんと見つけてからにしましょう。」
僕は軽く笑う。
「……ええ。」
そして。
「始めるぞ。」
闇の力の声で、空気が変わった。
「真魚。力を開け。」
真魚の身体から、眩い光が溢れ出す。
――キィィィィィン……!!
白銀の装甲が輝き、店内を光で満たしていく。
シャイニングフォーム。光のエルから受け継がれたアギトの力。その力が、真魚の持つサイコメトリーへ集中していくのが分かった。
「黒雄。増幅しろ。」
「――分かりました。」
僕は意識を集中する。
真魚の手から伝わってくる力を感じ取り、受け止め、そして――押し上げる。
真魚の身体が僅かに震えた。
普段から何度もやってきた、僕のアマダムを通して真魚の超能力を増幅する行為。けれど、今回はいつもとは違う。
今の僕はアルティメット。真魚もシャイニングフォーム。互いに最大まで力を引き上げた状態で、その力を一つの能力へ集中させる。
――サイコメトリー。
物や人に残された記憶、過去、情報。それらを読み取る、真魚の力。
その力が僕を通り――
「来るぞ。」
闇の力へ繋がった。
次の瞬間、世界が消えた。
「――――っ!?」
気が付けば、僕は何もない空間に立っていた。
いや、違う!
何もないんじゃない。
ありすぎる!?
「――なっ!?」
人、空、海、大地、星、光。
知らない生命、知らない文明、知らない世界、知らない星、知らない銀河。
一瞬で、全部が僕の中へ――
――ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
押し寄せてきた。
文明が生まれる。
生命が生まれる。
知らない種族。
知らない言葉。
知らない空。
知らない海。
知らない世界。
数えることなんてできない、情報の波。
いや。こんなの、波なんて生易しいものじゃない。
大津波だ。
宇宙そのものが、僕の中へ流れ込んでくる。
「ぐっ……!」
僕は両足を踏ん張る。
ここは精神世界か何かだろう。そこに立つ僕の姿も、現実と同じアルティメットフォームだ。究極の姿だ。
その全身へ、宇宙規模の情報が叩きつけられる。
「いや、初手これかよぉぉぉぉぉっ!?」
聞いてない!
いや、聞いた!
聞いたけど!
宇宙規模って言ってたけど!
「限度があるだろぉぉぉぉぉぉっ!!」
ただひたすら、記憶が流れてくる。
巨大な赤い恒星。二つの太陽。紫色の海。地球より遥かに大きな惑星。逆に、小さな岩石惑星。無数の衛星。星間を行き交う船。知らない文明。見たこともない巨大生物。
一瞬見えたと思えば、すぐ次の記憶に塗り潰される。
色々ツッコミたいとこはあったけど、まずは!
「闇の力ぁぁぁぁぁぁっ!!」
『何だ。』
普通に返事が来た。
「何だ、じゃないですよ!」
『問題でも?』
「問題しかない!」
僕は押し寄せる情報を両腕で受け止める。
受け止めるって何だ!?
情報だぞ!?
でも感覚的には、本当に大津波を正面から押し返しているようなものだった。
『まだ地球に世界を作るよりも前だ。最初は一気に遡った。』
「最初から飛ばしすぎでしょ!」
『ここからさらに遡る。』
「はぁ!?」
『どんどん行くから頑張れ。』
「軽いなぁぁぁぁぁぁっ!!」
次の瞬間。
――ドォォォォォォォォォォォォォォン!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
さっきまでより酷くなった。
本当に何これ!?
星どころか、銀河が流れていく。
いや、比喩じゃない。
闇の力が過去に見た宇宙。それが、記憶として僕の意識に向かってくる。
何億年。何十億年。
そんな単位の時間が、滝みたいに流れていく。
こんなの、人間が見ていいものじゃ――
「――クロオ。」
「っ!」
聞き間違えるはずがない。
僕は振り返る。
少し後ろに、真魚がいた。
シャイニングフォーム。だけど、
「真魚!」
その身体が、少しずつ薄くなっている。
周囲を流れる膨大な記憶。無数の星。無数の生命。無数の時間。
真魚の意識が、少しずつ、それらへ引っ張られている。
――彼女の意識が、君より先へ行かないように。
闇の力の言葉が蘇った。
――黒雄。君は真魚にとっての座標になる。
「ダァッッッッッッッッッッリャァッ!!」
押し寄せる情報の大津波を殴り消し、一瞬の時間を作る。
『ッ!?』
「真魚!」
僕は手を伸ばした。
「クロオ……。」
真魚も手を伸ばす。
けれど、宇宙が迫る。
星々が流れている。数え切れない生命、惑星の誕生。文明の興亡。
真魚の意識が、そちらへ引かれていく。
「――行かせるか!」
手を掴んだ。
絶対に離れないように。
「クロオ……!」
「捕まえた!!」
僕は真魚を引き寄せる。
「絶対、離さないからね。」
「……うん。」
真魚も僕の手を握り返した。
その瞬間、薄くなっていた真魚の姿が、再びはっきりする。
「よし。闇の力!」
『何だ。』
「こっちは大丈夫です!」
『そうか。』
「だからさっさと探してください!」
『努力しよう。』
「そこは絶対見つけるって言ってよ!」
返事はなかった。
代わりに、
――ズドォォォォォォォォォォォォン!!
「また来たぁぁぁぁぁぁっ!!」
さらに巨大な記憶の奔流が押し寄せてきた。
僕は真魚を背後へ庇う。
「クロオ!」
「大丈夫!」
真魚が握っている方とは別の手を前に突き出す。
アルティメットフォーム。
究極の闇。
かつてなら、人類を滅ぼしかねないと恐れた力だ。
今は、
「――来い!」
真魚を守るために使う。
押し寄せる宇宙規模の記憶を、僕は真正面から、片手で受け止めた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
星が流れる。
文明が流れる。
生命が流れる。
時間が流れる。
その全てが僕の意識を、自我を押し流そうとする。
でも、背後には真魚がいて、僕の手を握っている。
「絶対に――!」
耐える。
どれだけ時間が経ったのか分からない。
数秒だったのかもしれないし、数分だったのかもしれない。
何年にも感じた。
その間にも、闇の力はひたすら自分の記憶を遡り続けていた。
『違う。』
一つの星の光景が消える。
『ここも違う。』
別の星。
大気はある。水もある。だが、重力が強すぎる。
光景が消える。
次。
恒星からの放射線量が多すぎる。
消える。
次。
環境は良い。だが、既に知的生命が存在している。
消える。
次。
資源が乏しい。
次。
大気組成が合わない。
次。
巨大生物が生態系の頂点にいる。
次。
別の文明圏に近すぎる。
次。
次。
次。
次。
「まだですかぁぁぁぁぁぁっ!?」
『急かすな。』
「こっちは宇宙と相撲を取ってるんですよ!」
『もう少しだ。』
「その言葉信じますからね!」
さらに記憶が流れる。
自分が誰かなんて分からなくなりそうになったら、真魚の手を握る。
真魚も握り返してくる。
それだけで思い出す。
僕は十文字黒雄。
そして、クウガ。
高校を卒業したばかりで。
前世の記憶があって。
色々巻き込まれた。
一条さんと出会って、フューリーと知り合って、アベンジャーズとして戦って、真魚と…………
『――見つけた。』
「え?」
唐突に、情報の奔流が止まった。
さっきまで宇宙そのものが押し寄せていたのが嘘みたいに、全てが静かになる。
『一つ。いや。』
少し間が空く。
『二つ。』
さらに。
『……もう一つあるな。』
「三つ?」
『ああ。』
目の前に、三つの光が浮かぶ。
星。
いや、惑星。
一つ目。青と緑に覆われた星。
二つ目。巨大な大陸と海を持つ星。
三つ目。薄い雲に覆われた、地球によく似た星。
『いずれも、私の記憶にある限りでは条件を満たしている。』
「……本当に?」
真魚が呟く。
『ああ。』
「スクラル人が住める?」
『少なくとも、環境条件だけならば。』
僕は三つの星を見る。
本当に見つかった。
二十年以上、フューリーとキャロルさんが探して。それでも見つけられなかったものを。
スクラル人たちが安心して暮らせるかもしれない場所。
「やった……。」
思わず力が抜ける。
『まだだ。』
「え?」
『これは私の過去の記憶だ。現在も同じ環境とは限らない。』
「あ。」
そうだった。
闇の力が見たのは、遥か昔。
下手したら何億年、何十億年前の記憶。
『文明が生まれている可能性もある。環境そのものが変化している可能性もある。恒星活動、惑星軌道、生態系。確認すべきことは多い。』
「……なるほど。」
『だが。』
闇の力の声が、ほんの少し柔らかくなる。
『候補としては十分だろう。』
まだまだ考えなきゃいけないことは沢山あるのだろうけど。
「……帰りますか。」
「うん。」
『接続を切る。』
世界が白く染まり、現実へ戻った。
フューリー、ヴァーラさん、店主がいる。
「はぁっ……!」
力が抜け、アルティメットフォームが解除される。
「うわっ……。」
膝から崩れ落ち、そのまま床へ座り込んだ。
ほぼ同時に、
「クロオ……。」
「真魚!」
真魚のシャイニングフォームも解除される。
倒れそうになった身体を慌てて支え、そのまま二人揃って床に座り込んだ。
「大丈夫?」
「……うん。」
真魚が僕の肩へ寄りかかる。
「クロオは?」
「僕も……。」
身体は別に痛くないし、怪我もない。
でも、
「……めちゃくちゃ疲れた。」
「私も。」
徹夜を何日も続けたとか、そういう次元じゃない。
頭の中へ宇宙を無理やり詰め込まれたような感覚が残っている。
というか、
「闇の力……。」
僕は床に座ったまま、恨めしげに顔を上げる。
「何だ。」
「『どんどん行くから頑張れ』じゃないですよ……。」
「頑張れただろう?」
「結果論!」
隣で真魚が小さく笑った。
その笑い声を聞いて、ようやく、本当に終わったんだと実感する。
僕は大きく息を吐いた。
そして闇の力は、何事もなかったかのように椅子へ座り直した。
「店主。」
「はい。」
「カプチーノを。」
「まだ飲むんかい!?」
僕の叫びが、静かな店内に響いた。