日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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シークレット・インベンション編完結


報告

 

――それから、少しして。

 

「……惑星調査?」

 

美杉家のリビングに、美杉教授の声が響いた。

 

「はい。」

 

僕は頷く。

 

「宇宙の別の惑星へ? 調査に?」

 

「はい。」

 

「君と真魚が?」

 

「はい。」

 

美杉教授が眼鏡を外した。

 

そして、ゆっくりと眉間を揉む。

 

「一条君。」

 

「はい。」

 

「最近の大学生は宇宙へ行くものなのかな?」

 

「少なくとも、私は聞いたことがありません。」

 

隣に座っていた一条さんが真顔で答える。

 

「だよねえ。」

 

「というか、僕も普通じゃないのは分かってますからね?」

 

「分かっているなら安心したよ。」

 

すっごい呆れられた。向かい側では、真魚が苦笑している。

 

「宇宙!?」

 

太一君が目を輝かせていた。

 

「姉ちゃんたち、宇宙行くの!?」

 

「行くみたい。」

 

「すげえ!」

 

「太一。遊びじゃないからね?」

 

「分かってるって! でも宇宙だぞ!? 惑星調査だぞ!?」

 

分かってない気がする。いや、僕だって前世の記憶がなかったら、同じ反応をしていたかもしれない。……いや、今でもちょっとワクワクしてるけど。

 

「それで。」

 

一条さんが僕を見る。

 

「詳しく説明してくれ。」

 

「はい。」

 

僕は姿勢を正し、フューリーから相談を受け、スクラル人たちの難民問題について説明し、闇の力が見つけた惑星に調査に行くことになった、と伝えた。移動手段に、僕とゴウラムの力が必要なこと。そして、

 

「私も、困ってる人たちのためになるなら、手伝いたい。それに、闇の力からも私の力が役に立つかもしれないって言われたから。」

 

美杉教授はしばらく真魚を見つめていた。

 

やがて、小さく息を吐く。

 

「分かった。」

 

「叔父さん。」

 

「その呼び方は変えてくれたんじゃないのかい?」

 

「うん。……お父さん。」

 

「止めても行くんだろう?」

 

「……たぶん。」

 

「そこは否定してほしかったなあ。」

 

苦笑していると、一条さんも僕を見る。

 

「期間は?」

 

「まだ詳しくは決まってませんけど、長期間にはならないと思います。ウルトロンの件もありますから、それまでには戻る予定です。」

 

「定期的な連絡は?」

 

「します。」

 

「必ずだ。」

 

「はい。」

 

「真魚さんも。黒雄が無茶をしそうになったら止めてくれ。」

 

「分かりました。」

 

「僕への信頼は?」

 

「ある。」

 

即答された。

 

「なら何で!?」

 

「信頼と心配は別だ。」

 

何も言い返せない。そんなこんなで。僕と真魚の惑星調査への参加は、無事――無事なのかな?――了承された。

 

「よし。」

 

そこで、ふと、思い出した。そうだ、言わなきゃいけないことがある。宇宙へ行く前に、ちゃんと言っておかなきゃいけないことがある。

 

「……美杉教授。」

 

「ん?」

 

「一条さん。」

 

「何だ?」

 

僕の声の変化に気付いたのか、二人がこちらを見る。

 

「少し、お話があります。」

 

「…………。」

 

一条さんの表情が変わった。美杉教授も眼鏡の位置を直す。

 

「黒雄君?」

 

僕は立ち上がってリビングの床へ移動し、正座した。

 

「クロオ?」

 

真魚が目を丸くし、一条さんの眉が寄り、美杉教授の表情から笑みが消える。

 

「え?」

 

太一君だけがキョトンとしている。僕は膝の上に両手を置き、背筋を伸ばした。

 

「大事な話です。」

 

一条さんと美杉教授が顔を見合わせる。空気が変わった。何というか、惑星調査の話をしていた時より緊張している気がする。

 

「黒雄君。」

 

美杉教授が慎重に口を開く。

 

「もしかして……真魚に関係することかな?」

 

「はい。」

 

――ピクッ。

 

美杉教授の眉が動き、一条さんの背筋も僅かに伸びる。真魚は僕が何を言おうとしているのか気付いたらしい。顔が、一気に赤くなった。

 

「く、クロオ。今言うの?」

 

「宇宙に行く前にちゃんと言っておいた方がいいかなって。」

 

「いや、そうだけど……!」

 

美杉教授の声が低くなる。

 

「真魚に関する大事な話を?」

 

「はい。」

 

美杉教授の顔が怖い。一条さんも何かを察したのか、真剣な表情になっている。太一君は、

 

「何? 何?」

 

一人だけ楽しそうだ。僕は二人へ向き直り、

 

「改めて、ご報告があります。」

 

「……聞こう。」

 

一条さんが頷く。美杉教授も無言で待つ。真魚は顔を赤くして俯いている。僕は一度、息を吸った。そして、

 

「真魚――」

 

一瞬止まり、

 

「……いや。真魚さんと。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

全員の視線が僕へ集まる。

 

「お付き合いを始めました。」

 

沈黙。

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

静かだ。物凄く静かだ。あれ?

 

「……美杉教授?」

 

反応がない。

 

「一条さん?」

 

反応がない。

 

「太一君?」

 

口を開けている。

 

僕は不安になって真魚を見るけど、真魚は顔を真っ赤にしたまま、両手で顔を覆っていた。

 

「えっと……。」

 

何、この空気。やっぱり、こういう報告って何かもっと別の言い方があった? 僕が困っていると、

 

「……待て。」

 

一条さんが口を開いた。

 

「はい。」

 

「確認していいか?」

 

一条さんは僕と真魚を交互に見る。それから、心の底から理解できない、という顔で、

 

「あれで、まだ付き合ってなかったのか?」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

今度は僕と真魚が黙った。

 

「え?」

 

「いや。」

 

一条さんが額を押さえる。

 

「俺はてっきり、もっと前から付き合っているものだと思っていた。」

 

「ええ!?」

 

「ちょ、一条さん!?」

 

僕と真魚の声が重なる。

 

「違ったのか?」

 

「違いますよ!」

 

太一君の口元が震え始めた。

 

「ぷっ……。」

 

「太一。」

 

「だ、だって……!」

 

「笑うところじゃないから!」

 

「いや、だって!」

 

太一君が腹を抱えた。

 

「今まで付き合ってなかったの!? 姉ちゃんたち!」

 

「太一!」

 

「アハハハハハハ!!」

 

爆笑された。酷い。

 

「そんなに笑う!?」

 

「だって! だってさ!」

 

太一君が目元を拭う。

 

「学校でもずっと一緒だったじゃん! 家にも普通に来るし! 姉ちゃん、黒雄兄ちゃんのことばっかり気にしてるし!」

 

「そ、それは!」

 

「黒雄兄ちゃんも姉ちゃんのことになるとすぐ必死になるし!」

 

否定できない。

 

「それで付き合ってなかったの!?」

 

「……最近まで。」

 

「アハハハハハ!」

 

再び爆笑。

 

「太一!」

 

真魚の顔がさらに赤くなる。そんな僕たちを見ながら、美杉教授はしばらく黙っていた。そして、

 

「……なるほど。」

 

眼鏡を押し上げる。

 

「そういうことか。」

 

「はい。」

 

僕は改めて姿勢を正す。

 

「なので、その……今後も真魚さんと――」

 

「いや、待ってくれ。」

 

「はい?」

 

「僕はてっきり。」

 

美杉教授が、ものすごく真面目な顔で言った。

 

「今回の惑星調査は、それにかこつけた婚前旅行なのかと思っていたよ。」

 

僕の思考が止まり、真魚も止まってるっぽい。一条さんは目を閉じている。太一君は、

 

「ぶっ――!」

 

吹き出した。

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

「太一! 笑いすぎ!」

 

「だって! 婚前旅行! 宇宙へ婚前旅行!」

 

「違うから!!」

 

真魚が叫ぶ。僕も慌てて、

 

「違いますからね!? 惑星調査ですから! スクラル人のための真面目な調査ですから!」

 

「分かっているよ。」

 

美杉教授は笑っている。絶対分かってない。

 

「一条さんも何か言ってください!」

 

「…………。」

 

「一条さん?」

 

一条さんは腕を組んだまま、僕と真魚を見ていた。

 

そして、小さく息を吐く。

 

「まあ。」

 

「はい。」

 

「今さらだな。」

 

「何がですか!?」

 

「色々とだ。」

 

「説明してくださいよ!」

 

結局、惑星調査へ行く許可をもらうよりも、真魚と付き合い始めたと報告する方が、遥かに疲れた。そして太一君は、その後もしばらく笑い続けていた。

 

ーーーーー

 

――その頃。

 

ニック・フューリーは、地球に残っているスクラル人たちの一部を集めていた。

 

場所は、かつてS.H.I.E.L.D.が保有していた施設の一つ。正式にはもう、S.H.I.E.L.D.の施設ではない。組織そのものが崩壊した以上、名目上は放棄された施設だ。だが、完全に使えなくなったわけではない。

 

照明は最低限。通信設備も一部だけ。壁に掲げられていたS.H.I.E.L.D.のエンブレムは外され、その跡だけが残っている。

 

そこに、十数人のスクラル人が集まっていた。人間の姿を取っている者もいれば、緑色の肌を隠していない者もいる。そして、その中にはヴァーラもいた。フューリーは彼らの前に立ち、しばらく黙っていた。

 

「……まず。」

 

全員の視線が集まる。

 

「移住先について話がある。」

 

空気が変わった。

 

「当てができた。」

 

誰かが息を呑んだ。

 

「本当か?」

 

スクラル人の一人が身を乗り出す。

 

「ああ。」

 

「キャロルが見つけたのか?」

 

「いや。」

 

フューリーは首を振る。

 

「別口だ。」

 

「別口?」

 

「詳しい話はまだできない。」

 

実際、説明しようとすれば面倒だ。地球の少年が宇宙人を救うために、神のような存在と共に別の惑星へ調査に向かっている。そんな話をしたところで、まず間違いなく説明が長くなる。

 

「ただし、候補になりそうな惑星が見つかった。」

 

ざわめきが広がる。

 

「大気、水、地質、生態系。」

 

フューリーは一つずつ挙げる。

 

「今、本当に生活できる環境なのか調査している。」

 

「……もう調査に向かっているのか?」

 

「ああ。」

 

「誰が?」

 

「信用できる連中だ。……少なくとも、俺が知っている中じゃ、これ以上ないくらいにな。」

 

ヴァーラが僅かに笑った。それを見た何人かのスクラル人が、少しだけ肩の力を抜く。

 

「ただ。まだ決まったわけじゃない。」

 

フューリーの言葉にざわめきが止まる。

 

「空気が吸えるから住める、なんて単純な話じゃない。病原体があるかもしれない。食料になる生物が存在しないかもしれない。逆に、生態系を壊してしまう可能性だってある。」

 

「…………。」

 

「だから今、確認している。」

 

フューリーは一人一人を見る。

 

「移住できると判断できれば、次の段階へ進む。」

 

「……本当に。」

 

別のスクラル人が呟く。

 

「本当に、俺たちの場所が見つかるかもしれないのか。」

 

「可能性はある。」

 

フューリーは即答した。

 

「今までよりは、ずっと高い。」

 

その言葉に、誰かが俯き、誰かが隣の者と顔を見合わせた。そして、静かに泣き始める者もいた。

 

途方もない難民生活。故郷を失い、追われ、隠れた。地球に来てからもそれは大きく変わりはしなかった。自分たちの星ではない場所で生き続けてきたのだ。

 

フューリーは、その光景を黙って見ていた。

 

「ニック。」

 

ヴァーラが小さく呼ぶ。

 

「ああ。」

 

分かっている。本当なら、今日は、この話だけをするべきなのかもしれない。希望を伝えて、それで終わるべきなのかもしれない。だが、フューリーは続けた。

 

「もう一つ話がある。」

 

何人かが顔を上げる。

 

「……いや、頼みだな。頼みがある。」

 

「頼み?」

 

「ああ。」

 

フューリーは一度息を吐いた。

 

「S.H.I.E.L.D.を再建する。」

 

ざわめきが走った。

 

「S.H.I.E.L.D.を?」

 

「正気か?」

 

「ヒドラに侵食されていた組織だぞ。」

 

全部分かっている。それでも、

 

「元に戻すつもりはない。今までと同じものを作り直すつもりもない。」

 

「なら、何を作る?」

 

「必要なものを、だ。」

 

「……それじゃ分からない。」

 

「俺にもまだ全部は分からん。」

 

「おい。」

 

「嘘をつくよりマシだろ。」

 

フューリーらしい返答に、一部から苦笑が漏れる。だが、すぐにその顔は真剣なものへ戻った。

 

「今、世界は変わっている。」

 

異星人、神、超能力者、ヒドラ、宇宙からの侵略、未知の兵器。そして、これから起きるかもしれない、さらに大きな脅威。

 

「アベンジャーズだけでは足りないのだ。」

 

誰かが眉を寄せる。

 

「地球には、情報を集める者が必要だ。脅威を見つける者が必要だ。戦う前に止める者が必要だ。そして、」

 

フューリーは僅かに視線を伏せる。

 

「……一人の少年に、未来を背負わせないための組織が必要なのだ。」

 

ヴァーラだけが、その意味を理解していた。他のスクラル人たちは、詳しい事情までは知らない。それでも、フューリーが冗談を言っていないことだけは分かった。

 

「だから。」

 

フューリーは彼らを見る。

 

「もう一度、力を貸してほしい。」

 

沈黙。

 

「前と同じように?」

 

「違う。」

 

「何が違う?」

 

「俺が違う。」

 

何人かが僅かに目を見開いた。

 

「以前の俺は、お前たちの力を借りることを当然のように思っていた。人間の姿になれる、潜入できる、情報を集められる。……便利だった。」

 

その言葉に、場の空気が少しだけ硬くなる。ヴァーラがフューリーを見るが、

 

「それに甘えた。」

 

フューリーは認めた。

 

「お前たちが故郷を探していることを知っていたし、約束もした。それでも、俺はそれを果たせなかった。」

 

誰も口を挟まない。

 

「二十年以上だ。」

 

フューリーの声が僅かに低くなる。

 

「長すぎた。」

 

そしてニック・フューリーは、頭を下げた。

 

「……ニック?」

 

ヴァーラですら驚いた。フューリーを知る者ほど、その光景の異常さが分かる。

 

「頼む。」

 

フューリーは頭を下げたまま言う。

 

「もう一度、力を貸してくれ。今度は、一方的に使うつもりはない。移住先が見つかれば、お前たちをそこへ送り届ける。それで終わりでもいい。地球に残りたい者は残ればいいし、新しい星へ行きたい者は行けばいい。……俺のために残る必要はない。」

 

フューリーは顔を上げた。

 

「それでも、それまでの間だけでいい。そしてもし、その後も地球に関わってくれる者がいるなら。」

 

一人一人を見る。

 

「俺たちと一緒に、この世界を守ってほしい。」

 

長い沈黙が続いたが、やがて一人のスクラル人が立ち上がった。

 

「……条件がある。」

 

「言え。」

 

「今度は、俺たちを部下扱いするな。」

 

「善処する。」

 

「そこは即答しろ。」

 

小さな笑いが起きる。

 

「分かった。」

 

フューリーも僅かに口元を緩めた。

 

「仲間として扱う。」

 

「なら。」

 

そのスクラル人は手を差し出した。

 

「手伝う。」

 

フューリーがその手を見て、そして握った。

 

「助かる。」

 

続いて。

 

「俺もだ。」

 

「私も。」

 

「移住先が見つかるまでなら。」

 

「見つかった後も、たぶん残るけどな。」

 

次々と声が上がる。全員ではない、迷っている者もいる。当然のことだ。それでいい。

 

「無理に決める必要はない。」

 

フューリーは言う。

 

「考えてくれ。そしてこれは命令じゃない。」

 

その言葉に一人のスクラル人が笑った。

 

「S.H.I.E.L.D.長官が、ずいぶん丸くなったな。」

 

「もう長官じゃない。」

 

「じゃあ何だ?」

 

フューリーは少し考えた。

 

「……無職だ。」

 

一瞬の沈黙。そして、笑いが起きた。

 

「アハハハハ!」

 

「そうだった!」

 

「組織なくなったもんな!」

 

「笑うな。」

 

「いや、これは笑うだろ。」

 

ヴァーラも口元を押さえている。

 

「お前まで笑うのか?」

 

「少しだけ。」

 

フューリーは不満そうに鼻を鳴らした。だが、空気は、確実に変わっていた。ここにいた者たちは、故郷を失った難民だった。行き先もないし、未来も見えない。ただ地球に隠れて暮らしていた。

 

けれど今、一つの可能性が生まれた。そして同時に、もう一つのものも。

 

「よし。」

 

フューリーは端末を取り出す。

 

「まず人を集める。」

 

ヴァーラが尋ねる。

 

「誰から?」

 

「信頼できる奴からだ。」

 

「それが一番難しいんじゃない?」

 

「だから面倒なんだ。」

 

端末を操作する。消去したはずの連絡先。暗号化された通信網。S.H.I.E.L.D.崩壊後も残していた、個人的なルート。

 

まだ生きている。まだ戦える。まだ世界を守る気がある者たちがいる。

 

「施設は?」

 

「当てはいくつかある。」

 

「資金は?」

 

「……何人か頼りになる奴らがいる。」

 

「人員は?」

 

「集める。」

 

「装備は?」

 

「取り返す。」

 

「情報網は?」

 

「作り直す。」

 

ヴァーラが苦笑する。

 

「全部これからじゃない。」

 

「だから。」

 

フューリーは立ち上がる。

 

「始めるんだ。」

 

そして壁を見る。S.H.I.E.L.D.のエンブレムが外された跡には何もない。

 

「前と同じものは作らない。」

 

フューリーは呟く。

 

「もっとマシなものを作る。」

 

通信を繋ぐ。一件目。

 

「こちらフューリー。」

 

応答を待つ。そして、

 

「仕事だ。」

 

再び、世界を守るための者たちが動き始めた。

 

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