日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
せっかくなので、惑星調査話とちょっとネタバレを。
読みづらかったすみません。
結論から言うと、三つの惑星を巡る僕たちの調査旅行は、
「思ってたのと違う!!」
かなり、騒がしかった。いや、惑星調査ですよ?
未知の星へ降り立ち、大気を調べ、地質を確認し、生態系を調査する。スクラル人たちが安心して暮らせる新天地を探すための、大事な任務。もっとこう、未知へのロマンとか。宇宙の神秘とか。
そういう感じになると思ってたんだけど。
ーーーーー
――一つ目の惑星。
青と緑に覆われた、自然豊かな星。宇宙空間から見た時点では、それはもう綺麗だった。大部分を青い海が覆い、そこに大小の大陸と島々が浮かんでいる。陸地は濃い緑に包まれ、極地には白い氷まで見える。
「地球みたい……。」
ゴウラムの上から星を見下ろし、真魚が呟く。
「うん。」
僕も思わず頷いた。
「これ、いきなり当たりじゃない?」
「まだ分からん。」
隣を飛ぶ闇の力が淡々と答える。
「夢がないなぁ。」
「慎重なのは悪いことではない。」
そう言ったのはロキだった。結局、出発直前にアスガルドから戻ってきて、そのまま同行することになった。理由を聞いたら、
「母上から君を手伝えと言われた。」
とのこと。
「それだけ?」
「友の手伝いなら喜んで、と答えた手前、断るわけにもいかないだろう?」
「そこまで言ったの?」
「何か問題でも?」
「いや。」
ちょっと嬉しい。まあ、本人には言わないけど。そして惑星へ降下。最初に水のエルが大気を確認した。
「酸素濃度、問題ありません。有害な成分も確認できません。」
地のエルが地面へ手を触れる。
「地盤も安定している。土壌にも大きな問題はない。」
光のエルも周囲を確認する。
「生命にも満ちている。」
「おお……。」
僕と真魚が顔を見合わせる。
「本当に当たり?」
「かもしれないね。」
森、川、草原、気温も穏やか、水もある、植物も豊富。そして今のところ、知的生命体らしきものは確認できない。
「これはかなり良いのでは?」
ロキも感心したように辺りを見回している。
「そうだな。」
珍しく闇の力まで肯定した。
「じゃあ――」
――ズシン。
「ん?」
地面が揺れた。
――ズシン。
「……地震?」
真魚が首を傾げるが、地のエルが即座に否定した。
「違う。」
――ズシン。
――ズシン。
森の奥から、木々が次々と倒れていく。僕たちは全員、そちらを見る。
「何か来てない?」
「来ているな。」
光のエルが冷静に答える。
「かなり大きなものが。」
――バキバキバキバキッ!!
森を突き破り、巨大な頭が現れた。六本の角に岩みたいな皮膚。そして、僕たちより遥か高い位置にある目。
恐竜みたいな巨大生物が僕たちを見てくる。僕たちも見る。あ、目が合った。デッカいなー。
「……草食かな?」
真魚が小さく呟く。
「そうだといいなぁ。」
――グォォォォォォォォォォォォォォッ!!
「絶対違う!!」
突進してきた。
「逃げろぉぉぉぉぉぉっ!!」
僕たちは全力で散った。
――ドォォォォォン!!
さっきまで僕たちがいた場所が吹き飛ぶ。
「何ですかあれ!?」
「この星の大型生物だ。」
「大型にも限度があるでしょ!」
「私が以前見た時より大きくなっているな。」
「成長してる!?」
「生態系が変化したのだろう。」
「冷静に分析してる場合か!?」
そして一匹だけなら、まだ良かった。
――グォォォォ!!
――ギャァァァァ!!
――ドドドドドドドドド!!
「増えたぁぁぁぁぁっ!?」
森の向こうから、別の巨大生物。空から翼を広げた生物。川から長い首を持つ何か。真魚が僕の横を走りながら叫ぶ。
「ねぇクロオ、私今変身してるよね!全力で走ってるのに追いつかれそうなんだけど!?」
「嘘だろって本当に速っ!?」
ロキが魔法で迫りくる巨大生物たちの視界を惑わせ、
「右だ!」
「右!?」
「そちらに開けた場所がある!」
「了解!」
数分後。僕たちはゴウラムへ飛び乗り、全速力で空へ逃げた。眼下では巨大生物たちが空を見上げている。真魚が疲れた顔で呟く。
「綺麗な星だったし、自然も豊かだったね。」
「うん。」
「移住先には?」
「……保留で。」
「妥当だろう。」
こうして、一つ目。
――自然環境、極めて良好。
――生態系、極めて危険。
――スクラル人の移住先としては、要検討。
となった。
そして二つ目。
巨大な大陸と海を持つ星。こちらは一つ目とは対照的だった。生物はいるけど少ない。大陸沿岸には草原や森林が広がっているものの、内陸へ進めば進むほど乾燥し、巨大な砂漠や岩山が続いている。
「こっちは静かだね。」
「静かな方が良いよ。」
一つ目の経験から、僕は学んだ。平和最高。水のエルが海水を調べ、地のエルが土壌を確認する。
「沿岸地域ならば十分に生活できる。」
「地下水も豊富です。」
「おお。」
「大型生物は?」
真魚が慎重に尋ねる。光のエルが周囲を確認し、
「少なくとも、先ほどの惑星ほどのものはいません。」
「よし!」
今度こそ!しかも、この惑星は知的生命体が存在した痕跡もない。広い大陸。豊富な鉱物資源。海と河川。沿岸部なら気候も穏やか。スクラル人が都市を作るには、むしろ一つ目より向いているかもしれない。
「ここじゃない?」
僕が言う。
「私もここ良いと思う。」
真魚も頷く。
ロキも、
「悪くない。」
と評価。
「ならば内陸も確認する。」
闇の力が言った。
「「「ですよねー。」」」
「惑星全体の環境を把握する必要がある。」
まあ、それはそうか。そして僕たちは内陸へ移動した。
一時間後。
「暑い!!」
「暑いね……。」
「何だこの気温は。」
ロキまで額に汗を浮かべている。沿岸部は快適だったのに内陸部は地獄だった。水のエルが淡々と告げる。
「現在、地表温度は六十二度です。」
「帰ろう!」
「まだだ。」
「何で!?」
「もう少し先に大規模な地下水脈がある。」
「地下水より僕らが干からびる!」
そこからさらに進む。今度は砂嵐。
「前見えない!」
「クロオ!」
「真魚、離れないで!」
「君たちは何故いつもこうなるんだ!?」
「僕に聞かないでよ!」
ロキの魔法で防壁を作り、地のエルが砂を抑え、水のエルが水分を確保する。何というか。惑星調査というより、超能力者集団によるサバイバルになっていた。
そして極めつけ。砂嵐が収まった後。
「…………。」
僕たちの目の前に、巨大な穴が空いていた。
「何これ?」
地のエルが中を確認する。
「地下空洞だ。」
「どれくらい?」
「かなり広い。」
降りてみるとそこには、
「おお……。」
巨大な地下湖が広がっていた。天井では鉱物が淡く光り、透明な水がどこまでも続いている。
「綺麗……。」
真魚が目を輝かせる。
「これなら、地下都市なんかも作れるんじゃ?」
「可能だろう。」
ロキが頷く。しかも地下なら、内陸部の高温や砂嵐の影響も少ない。
「あれ?」
意外と良い。
「二つ目、本命じゃない?」
「現時点ではな。」
闇の力も否定しなかった。
こうして二つ目。
――沿岸部、極めて良好。
――内陸部、かなり過酷。
――地下資源、水資源ともに豊富。
――移住先候補として有力。
となった。
そして。
三つ目。
薄い雲に覆われた、地球によく似た惑星。
宇宙から見た時点で、僕たちはしばらく黙っていた。
「……地球じゃないよね?」
「違う。」
闇の力が答える。
でも、似ている。青い海、緑の大陸、白い雲、極地の氷。大陸の配置こそ違うけど、それ以外は本当に地球そっくりだ。
「大気組成も、ほぼ地球と同じです。」
水のエルが言う。
「重力もほぼ同一。」
地のエルが続ける。
「生命も豊富だ。」
光のエルまで。
僕と真魚が顔を見合わせる。
「ここじゃない?」
「私もそう思う。」
ロキまで、
「これ以上を望むのは贅沢ではないか?」
と言い始めたが、闇の力だけは黙っている。
「何か気になります?」
「……いや。」
少し間を置き、
「私の記憶と大きな差がない。」
「良いことでは?」
「数億年以上経過しているのに、だ。」
それは。
「確かに変?」
「通常なら多少は変化する。」
大陸移動、生態系、気候、恒星活動。長い時間が経てば、何かしら変わっているはず。でも、この星は闇の力の記憶とほとんど同じらしい。
「じゃあ、調べましょう。」
僕たちは降りた。そして。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
何も起きない。
「平和だ……。」
思わず呟く。鳥みたいな生き物が空を飛んでいる。小動物が草原を走っている。川には魚のような生物。植物も普通。大型生物もいるけど、一つ目みたいな怪獣サイズではない。
「平和すぎて怖い。」
「クロオ。」
「はい。」
「一つ目の星に毒されてるよ。」
「だって。」
森を抜けたけど、特に問題なし。川を調べるが、問題なし。土壌、微生物、問題なし。有害物質、なし。
そして知的生命体、確認できず。
「完璧じゃん。」
僕はついに言った。
「ここで良くない?」
「そうだね。」
真魚も同意。その時、ロキが立ち止まった。
「待て。」
「どうしたの?」
ロキが森を見る。
「……静かすぎる。」
「え?」
さっきまで聞こえていた鳥の声、虫の音、風の音。それら全部が消えている。
「闇の力?」
「分かっている。」
全員が警戒する。そして、森の奥から、
――カサ。
何かが出てきた。
「…………。」
小さな生き物だった。犬くらいで丸い身体、短い脚、ふわふわした毛。大きな目。
「かわいい。」
真魚が即答した。
「待って。」
僕は止める。一つ目で学んだ。未知の生き物には慎重に。その生き物が僕たちを見る。
「キュ?」
「…………。」
「かわいい。」
「真魚。」
「だって。」
「危ないかもしれないから。」
「キュウ。」
一歩近付く。僕は身構える。
「来るぞ。」
ロキまで構える。闇の力も、光のエルたちも警戒。
「キュ。」
生き物が、
――コテン。
真魚の足元で寝転がった。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「かわいい。」
真魚がしゃがむ。
「待って待って待って。」
「大丈夫だよ。」
「何で分かるの?」
「何となく。」
「一番危ない理由!」
でも、何も起きなかった。撫でても大丈夫。噛まない。毒もない。光のエルが確認しても普通の生物。
「……本当に平和?」
僕が警戒を解き始めた、その時。
――カサカサ。
「ん?」
もう一匹。
――カサ。
もう一匹。
――カサカサカサ。
「…………。」
森の中から。
十匹。
二十匹。
五十匹。
「増えてない?」
「増えてるね。」
百匹。
「…………。」
ロキが僕を見る。
「君、何かしたか?」
「何で僕!?」
「真魚だな。」
「え?」
全員が真魚を見ると、真魚の周りに生き物たちが集まっている。
「キュ。」
「キュウ。」
「キュー。」
真魚が困った顔で笑う。
「懐かれた。」
「懐かれすぎ!」
そして五分後。
「真魚が埋まったぁぁぁぁぁっ!!」
「クロオー!」
小動物の山から真魚の手だけが出ていた。
「今助ける!」
「キュウ!」
「どいて!」
「キュ!」
「噛むな! 痛くないけど!」
ロキが頭を抱える。
「何をしているんだ君たちは……。」
「危険性はないな。」
「なら見てないで手伝って!」
最終的には闇の力が念動力みたいなもので全部まとめて浮かせた。
「キュキュキュキュ!?」
「雑!」
その日の夜。調査用の簡易キャンプ。
僕の周囲にも小動物。真魚の周囲にはもっと小動物。ロキの膝には一匹。
「ロキ。」
「何だ。」
「懐かれてる。」
「黙れ。」
「撫でてるじゃん。」
「黙れ。」
そして闇の力の頭の上に、一匹。
「闇の力。」
「何だ。」
「頭。」
「問題ない。」
真魚が吹き出した。
「ふふっ。」
僕も耐えられない。
「はははっ!」
「何がおかしい。」
頭に謎の生物を乗せた宇宙規模の創造神に言われても。
その夜は、久しぶりに何も考えず笑った。
未来、そんなものを考える暇もなく。知らない星で、真魚と、ロキと、闇の力と、エルたちと、訳の分からない生き物に囲まれながら。ただ笑った。
そして三日間の詳細調査の結果、三つ目の惑星には、重大な問題は発見されなかった。
唯一の不可解な点は、闇の力が記憶していた遥か昔の環境と比べて、惑星全体の変化が異常なほど少ないこと。原因は不明。現時点では危険性も確認できない。そのため、
――環境、極めて良好。
――生態系、安定。
――知的生命体、確認されず。
――危険生物、今のところなし。
――謎の小動物、非常に人懐っこい。
「最後のいる?」
「重要だよ。」
真魚が即答した。
「重要かなぁ。」
「重要。」
こうして。
一つ目。
自然豊かな怪獣惑星。
二つ目。
沿岸と地下が有望な超大陸惑星。
三つ目。
地球そっくりで、何故か長い年月ほとんど姿を変えていない惑星。
三つの候補地の調査が終了し、そして僕たちは地球へ帰ることになった。
「何というか。」
ゴウラムの上で、遠ざかる三つ目の星を見ながら呟く。
「疲れたけど、楽しかったね。」
「うん。」
真魚が笑う。
「また来たいね。」
「旅行ならね。」
次は任務じゃなくて。ただ遊びに来るだけ。そんな機会があっても良いかもしれない。
「クロオ。」
「ん?」
真魚が僕を見る。
「ちゃんと休めた?」
言われて初めて気付く。この数日、未来のことをほとんど考えていなかった。
「……うん。」
僕は笑った。
「たぶん。」
少し離れたところで、闇の力がそれを聞いていた。けれど何も言わない。ただ、安心したような表情が印象に残った。
ーーーーー
黒雄たちが地球へ帰還してから、しばらく後。三つ目の惑星。地球によく似た青い星。その地表へ、一つの影が静かに降り立った。
闇の力が、たった一人で、再びこの惑星へと戻ってきていた。降り立った場所は、数日前に調査を行った草原だった。穏やかな風が吹き抜ける。草木が揺れ、遠くでは鳥に似た生物が空を飛んでいた。そして、
「キュ?」
足元から、小さな声が聞こえた。
「…………。」
闇の力が視線を落とす。そこにいたのは、あの小動物だった。クロオたちが『毛玉』と呼んでいた、この惑星の小さな生命。
「キュウ。」
毛玉は闇の力を見上げると、警戒する様子もなく近付いてきた。そして、その足元へ身体を擦り付ける。
「…………。」
闇の力は黙ったまま、それを見下ろし、ゆっくりと手を伸ばす。
「キュ。」
手のひらが、小さな頭へ触れた。だが。闇の力が触れたのは、その肉体ではなかった。さらに深く、肉体の奥、生命の核。その小さな存在が持つ――魂へ。
「…………。」
一瞬、闇の力の瞳が揺れた。生命には流れがある。生まれ。生き。死に。そして、その命が次の命へと繋がっていく。個としての魂がそのまま転生するという意味ではない。生命という大きな流れ。星の上で繰り返される、誕生と死。
変化、適応、淘汰、そして――進化。それこそが、本来の生命の在り方。しかし、
「…………そうか。」
闇の力の手が止まる。毛玉は何も知らず、気持ち良さそうに目を細めていた。
「お前たちは……。」
この小さな生命に、何か異常があるわけではない。異常なのは、この生命ではない。この生命を抱いている――星そのもの。
闇の力は立ち上がった。そして周囲を見渡す。何億年という時間を経たにもかかわらず、自らの記憶とほとんど変わっていない世界。
生命は生まれ、死んでいる。世代交代もしている。環境への小規模な適応もある。なのに、決定的な変化だけが起きていない。生命の流転はある。だが――進化がない。
「…………。」
闇の力は、ゆっくりと空を見上げた。薄い雲が流れていくその向こう、昼の空に輝いているものがあった。
一つ。そして、その少し離れた場所に――もう一つ。
二つの太陽。
「…………ああ。」
その瞬間、闇の力の中で、遥か遠い記憶が繋がった。
「そういうことか。」
何故、この惑星を知っているのか。
何故、数億年以上前の環境を覚えているのか。
何故、その記憶と現在の姿がほとんど変わっていないのか。
そして、何故、自分はこの惑星について、はっきりと思い出せなかったのか。
「私は……。」
闇の力が呟く。
「かつて、ここに来たことがあるのか。」
闇の力は全てを理解した。
「そうか。」
その声には、怒りもなく、悲しみもなかった。ただ、遠い過去に犯した過ちを、ようやく思い出した者の声だった。
「これもまた――」
闇の力は目を閉じる。
「私の絶望による罪か。」
ーーーーー
――かつて。
一つの存在がいた。
その存在には、生まれた瞬間から一つだけ、心から辿り着きたい場所があった。
青い海。
緑の大地。
白い雲。
数え切れないほどの生命。
そして。
空に輝く――一つの太陽。
そこへ行きたい。
そこへ辿り着かなければならない。
それだけを胸に、その存在は旅を始めた。
長い旅だった。
星から星へ。
銀河から銀河へ。
数え切れない世界を巡った。
しかし、どれだけ進んでも。
どれだけ探しても。
その場所は見つからなかった。
それでも、その存在は旅を続けた。
そして、長い、長い旅の果て。
ついに、一つの星へ辿り着いた。
青い海があった。
緑の大地があった。
白い雲があった。
無数の生命が生きていた。
その存在が、心の奥底で求め続けてきた世界。
瓜二つだった。
ようやく、ようやく見つけた。
自分が辿り着きたかった場所。
その存在は歓喜した。
長い旅が終わったのだと。
自分は、ついに辿り着いたのだと。
そう思った、次の瞬間。
その存在は、空を見上げた。
天には、二つの太陽が輝いていた。
違う、求めていた場所ではない。
よく似ている、どこまでも似ている。
けれど違う。
たった一つ、太陽が一つ多い。
ただ、それだけ。
それだけの違いが、その存在にとっては決定的だった。
長い旅の果て。
ようやく辿り着いたと思った。
終われると思った。
しかし、終われなかった。
その存在は絶望した。
そして、再び旅立つことを決めた。
今度こそ、本当に求める場所を見つけるために。
いつか必ず。
一つの太陽が照らす、あの世界へ辿り着くために。
だが、旅立つ直前。
その存在の心に、一つの感情が生まれた。
恐怖。
もし、見つからなかったら?
この先、どれほど旅を続けても。
何億年、何十億年。
あるいは、それ以上の時間を費やしても。
本当に求めている場所へ辿り着けなかったら?
その時、戻ってくればいい。
少なくとも、この星は似ている。
ほとんど同じなのだ。
太陽が二つあることを除けば。
ならば、もしもの時のために。
この世界を残しておけばいい。
いつか自分が絶望し、旅を諦め、求めていた場所へ永遠に辿り着けないのだと理解した時。
この星を、代わりにすればいい。
だから、その存在は罪を犯した。
星へ触れた。
その惑星という存在そのもの。
星の魂へ。
そして、縛った。
この世界が変わらないように。
自分が帰ってきた時。
あの日と同じ姿であるように。
生命を滅ぼしたわけではない。
時を止めたわけでもない。
生命は生まれる。
生命は死ぬ。
植物は芽吹き。
動物は子を残し。
命は流転し続ける。
だが、その流れが、大きな変化へ至ることだけを許さなかった。
進化を、変革を。
星そのものが別の姿へ歩んでいく可能性を。
封じた。
自分のために。
いつか使うかもしれない。
ただそれだけの理由で。
一つの世界の未来を奪った。
そして、その存在は再び旅立った。
長い旅を続け。
やがて。
本当に辿り着いた。
一つの太陽。
青い海。
緑の大地。
白い雲。
多くの生命。
自らが求め続けた星。
地球へ。
だから、必要なくなった。
必要なくなったからこそ。
忘れた。
あまりにも長い時間の中で。
自分がかつて。
一つの星を。
自らの絶望に備えた『代用品』として縛り付けたことを。
ーーーーー
そして今。
「…………。」
闇の力は、静かに目を開いた。二つの太陽が輝いている。足元では、毛玉がこちらを見上げていた。
「キュ?」
「…………。」
闇の力はしゃがみ、その小さな頭へ再び触れる。
「すまなかった。」
誰に対する謝罪なのか。この小さな生命か。この星に生きる全ての生命か。それとも、星そのものか。
「私は、お前たちから未来を奪った。」
「キュ?」
もちろん、毛玉には意味など分からない。それでも、闇の力の指へ頭を擦り付ける。
「…………。」
その様子を見て、闇の力は、ほんの僅かに目を細めた。そして、大地に、星に触れた。
――世界が震えた。
地震ではない。大気が震えたわけでもない。もっと深い。この惑星そのものが、何かに気付いたかのように震えた。森の鳥たちが一斉に飛び立つ。動物たちが空を見上げる。海の生物が動きを止める。そして、惑星全体へ。闇の力の力が広がっていく。
かつて、この星を縛った力。数億年以上にわたり、世界をあの日の姿へ留め続けた力。
「もう必要な――」
一度言葉を止める。それではまるで、必要がなくなったから解放するようではないか。そうではない。
「必要であるかどうかを決める権利など――」
その声が、星へ響く。
「初めから、私にはなかった。」
力が解放され、見えない鎖が、何億年もの間、星の魂へ食い込んでいた、創造神の鎖が砕けた。
その瞬間、世界は。何も変わらなかった。ただ、未来が戻った。
明日。
明後日。
百年後。
一万年後。
百万年後。
一億年後。
この星がどのような姿になるのか、誰にも分からなくなった。それだけだった。そしてそれこそが、本来あるべき姿だった。
「キュウ。」
足元で毛玉が鳴く。
「…………。」
闇の力は空を見上げた。二つの太陽。かつて、自分へ絶望を与えた光景。だが今は。
「……美しいものだな。」
初めて、そう思えた。二つあるからこそ、ここは地球ではない。地球の代用品でもない。何かの偽物でもない。この星は、この星だった。
「キュ?」
「そうだな。」
闇の力は、もう一度だけ毛玉を撫でた。
「お前たちの世界だ。」
二つの太陽の下、何億年もの間、未来を奪われていた星の時間が。
ようやく、再び――動き始めた。
ーーーーー
「しかし、お前たち。その生態で今後も生き残れるのか?」
「キュ?」
すると、草原にどう見ても肉食な生物が現れ、襲いかかってくる。
咄嗟に闇の力が小動物を守ろうとするが、
――ピカッ!
閃光が煌めき、小動物が掻き消える。そして、襲いかかった生物は、まるでギャグ漫画のように弾き飛ばされていった。
「は?」
その後、追撃なのか口から、
――ビッ!
と光線を放ち、襲いかかった生物は、さらに遠くへ飛んでいった。なお、闇の力の感知範囲に落ちたその生物は、地面に激突後、活動を再開している。
すると、心配してなのか、小動物の仲間が集まってくる。
「………今の戦闘力を持ちながら、群れで生きている。最初に会った時、君らの周りに他の生き物がいなかったのは、………君たちがこの星の頂点なのか。」
「キュ!」
「光を使う………真魚は同類だと思われていたのか?」
後日、スクラル人たちは二つ目の候補惑星に移住する計画を進めることとなった。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーまで絡めることも考えましたが、これ以上事件が増えると、作者と主人公がぶっ倒れたり、暴走したりする可能性があるので、やめました。