日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
――ソコヴィア。
山岳地帯に建てられた、ヒドラの秘密研究施設。
本来ならば、厳重な警備と天然の地形によって守られた要塞。その周囲には無数の兵士が配置され、装甲車、戦車、自動砲台。さらに、通常兵器とは明らかに異なる光学兵器まで並べられていた。
だが、今日は相手が悪かった。
「来るぞ!」
ヒドラ兵の叫びと同時に、銃声が山間へ響き渡る。
「撃て! 撃てぇ!」
無数の銃弾と光線が飛び交う。その中央を、
「――ふっ!」
スティーブが盾を構えたまま駆け抜ける。
――ガガガガガガッ!!
銃弾がヴィブラニウムの盾へ弾かれ、跳ね返った弾丸が地面へ次々と突き刺さる。
「行け!」
盾が投げられた。
――ガンッ!
一人。
――ガンッ!
二人。
――ガァンッ!
三人。
次々とヒドラ兵を薙ぎ倒し、跳ね返ってきた盾を受け取る。その横を、
「失礼。」
ナターシャが滑り込む。
敵兵の足を払い、倒れた勢いを利用して別の兵士へ蹴りを叩き込み、そのまま奪った銃の銃床を三人目の顎へ。
「ぐっ!」
「おやすみなさい。」
――ドンッ!
気絶。別方向では、
「よし。」
トニーが両腕を広げる。
「まとめていこう。」
両手のリパルサーが光った。
――ドォン!!
地面すれすれを薙ぐように放たれた衝撃で、十数人のヒドラ兵がまとめて吹き飛ぶ。
『右後方より敵増援。』
「分かってる。」
ジャーヴィスの報告より僅かに早く振り向き、
――バシュッ!
肩部から小型ミサイルが発射され、装甲車の前輪だけを正確に破壊する。
――ガガンッ!!
車体が傾き、進路を失った装甲車が雪の中へ突っ込んだ。そのさらに奥では、
「はああああっ!」
ソーがムジョルニアを振り回している。
「止めろ!」
「撃て!」
「怯むな!」
――ズドォン!!
雷。
「「「ぎゃああああっ!?」」」
兵士たちがまとめて吹き飛んだ。
「……あまり無茶をするなよ。」
トニーが飛びながら注意を飛ばす。
「加減している!」
「君の加減は信用できない!」
そして。そんな彼らの中でも、今日、明らかに一人だけ張り切り方がおかしい男がいた。
「いくよ、ゴウラム!」
――キィィィン!!
黄金の装飾を纏った赤い戦士。クウガが、その身体を飛翔するゴウラムに預け、
「うおおおおおおっ!」
真正面から突っ込んでいた。
「撃てぇぇぇっ!」
――ドドドドドドッ!!
機関銃や光学兵器も迫る中を、
「そのまま!」
――ガガガガガガガガッ!!
妨害をものともせず突破する。
「なっ!?」
ヒドラ兵たちの表情が引きつる。
「止めろ!」
戦車の砲塔が回る。
――ドンッ!!
主砲が火を噴いた。着弾し、爆炎が上がる。
「やったか!?」
「その台詞、駄目なやつです!」
炎の中から飛び出してきた。
「何ぃ!?」
「ゴウラム!」
――キィィィィン!!
「うわああああっ!?」
――ドゴォォォン!!
加速したゴウラムが戦車の側面へ激突。巨大な甲虫が、そのまま戦車を横転させた。
――ズズゥン!!
「よし!」
「何がよしだ!」
上空のトニーが叫ぶ。しかしクロオは聞いていない。
「次!」
――キィィィン!!
進路を変える。その先には、ヒドラ兵たち。
「来るぞ!」
「散開しろ!」
「遅い!」
――ドガガガガガッ!!
「「「うわああああああっ!!」」」
木端のように吹き飛んでいく。もちろん、全員生きている。
クウガの力、雷のエルの力、封印エネルギー、そしてゴウラムの力。その全てを、絶妙に加減している。
絶妙に。
「……。」
スティーブが戦いながら遠くを見る。
「クロオ、今日は随分張り切ってるな。」
「分かりやすいわね。」
ナターシャが敵兵を投げ飛ばしながら答える。
『長めに休まされた反動じゃないかい?』
通信越しにブルースの声。今日は後方支援だ。
「間違いなくそうだろ。」
トニーが呆れた声を出す。
「昨日まで真魚に散々尻に敷かれながら、『休みなさい』『ゆっくりしなさい』『寝てなさい』って散々言われていたんだろう。」
「聞こえてますよ!」
遠くからクロオの声。
「なら少し落ち着け!」
「ちゃんと加減してます!」
「そういう問題じゃない!」
その瞬間。
――バシュッ!!
研究施設側から、これまでとは違う、赤い光線が放たれた。
「クロオ!」
ナターシャが叫ぶ。
「え?」
――ドォン!!
直撃。
「……。」
「……。」
数秒後。
――キィィィン。
普通に出てきた。
「今の何ですか?」
「知らん!」
トニーが即答する。
「というか何で無傷なんだ!」
「クウガなので!」
「答えになってない!」
そのままクロオは光線を放った砲台へ向かう。
「ゴウラム!」
――キィィィン!!
「待て! それ研究施設の一部だ!」
「大丈夫です!」
「何が!?」
――ドゴォン!!
砲台だけが綺麗に吹き飛んだが、施設本体は無傷。
「……。」
トニーが一瞬黙り、
「器用だな、腹立つくらい。」
「褒め言葉として受け取ります!」
「褒めてない!」
その時だった。
「――っ!?」
スティーブが突然振り向いた。何かが、視界の端を横切った。銀色の何かが見えた。そう認識した次の瞬間。
――ドンッ!!
「ぐっ!?」
身体が浮いた。
「スティーブ!」
ナターシャが振り返る。スティーブは吹き飛び、雪の上を転がる。すぐに体勢を立て直し、盾を構えた。
「……何だ?」
周囲を見るが、誰もいない。いや、いる。何かがいる。
(なんだ? 今の感触は……殴られた?)
腹部に残る鈍い衝撃。
(いつ!?)
――ヒュンッ!
風が動く。
「!」
スティーブが反射的に盾を向ける。
――ガンッ!!
何かが盾を蹴った。今度は見えた。銀色の髪の若い男。だが、次の瞬間には消えている。
「皆、気をつけろ! おそらく、高速移動の能力者だ!」
スティーブが叫ぶ。
「速いな。」
トニーのセンサーが動く。
『対象速度、計測困難。』
「ジャーヴィスでも?」
『軌道予測を開始します。』
――ヒュンッ!
「遅い!」
銀色の影がトニーの真横を通り抜ける。
「おっと!」
体勢を崩される。
『対象、再接近。』
「分かってる!」
だがその時。
「――そこ!」
別方向から声がし、銀色の影は狙い撃たれた。
クロオはライジングペガサスに超変身し、その手には、黄金の装飾が施されたペガサスボウガンを構えていた。
「なっ――(移動中の俺を――)」
ピエトロが振り向いた瞬間、
――バヂィッ!!
「ガッ!?」
胸部へ命中。殺傷力を限界まで落としたライジング弾だが、衝撃までは消えない。
――ドサッ!!
ピエトロが派手に転がった。
「兄さん!」
叫び声。
「!」
クロオが振り向くと赤い光が見えた。兵士たちの後方に一人の少女がいた。長い茶髪、赤いジャケット、両手には赤い光。
「……。」
その姿を見た瞬間、クロオの思考が、一瞬停止した。ワンダ・マキシモフ。思い出した。エンドゲームで、サノスをほぼ一方的に追い詰めた、あの光景を。
「ヤバい! 超変身!」
「クロオ?」
スティーブが聞き返すが、
「ゴウラム!!」
――キィィィィィン!!
「な!? 急にどうした!?」
スティーブが驚くが、答える前にクロオの身体が変化する。青と金を纏ったライジングドラゴン。近くに落ちていた長い木の枝を拾い、
――バシュン!!
封印エネルギーが走り、ライジングドラゴンロッドへ。
――キィィィン!!
ゴウラムがクロオの意図を理解する。黄金の雷が走り、ゴウラムの装甲が変化、ライジングゴウラムへと姿を変える。
「何する気だ!?」
トニーが叫ぶが、クロオは答えない。ワンダを見る。ワンダもこちらを見る。兄を撃たれたから怒っている。両手の赤い光が一気に強まった。
「兄さんに何をした!」
「眠ってもらっただけです!」
「信じられると思う!?」
ですよね! でも、だからと言って止まらない。
「行くよ!」
「クロオ!?」
スティーブが嫌な予感を覚える。
――キィィィィィン!!
「来ないで!」
ワンダが両手を突き出し、赤い力が壁となる。
「止められた瞬間に!」
クロオがドラゴンロッドを構える。
「一気に封印エネルギーと雷のエルの力を流して気絶させる!」
――ガァン!!
ライジングゴウラムと赤い障壁が激突した。
「くっ……!」
ワンダが踏ん張ろうとし、ゴウラムはそのまま前進した。
「え?」
クロオの声。障壁があっさり砕けた。
「……あ。」
止める暇もなく。
――ドンッ。
「わきゃあっ!?」
ワンダの身体が、ライジングゴウラムに轢かれた。
「え?」
クロオが固まる。あ、かっ飛ぶワンダと目が合った。
――ズササササササッ!!
「うわああああああああ!?」
クロオが叫ぶ。
――キィィィィィン!?
ゴウラムも慌てる。
アベンジャーズも、ヒドラ兵も、全員が止まっていた。
仰向けで雪の上に転がっているワンダ。その少し先に、ライジングドラゴンの姿で固まっているクロオ。
そして、
――キィ……。
申し訳なさそうに小さく鳴くゴウラム。
「…………。」
クロオはワンダを見る。
ゴウラムを見る。
またワンダを見る。
「……あれ?」
首を傾げた。
「なんか……。」
もう一度、状況を見る。
「完全に人身事故みたいになってない?」
「お前が轢いたんだよ!」
トニーの叫びが戦場へ響いた。
ーーーーー
それから、ピエトロ、ワンダの二人が戦闘不能となったことで、ヒドラ側の抵抗は急速に弱まった。能力者という切り札。さらに、研究施設外部に配置されていた兵器群。それらを次々と失い。
「降伏しろ!」
スティーブの声が響く。
「これ以上戦う必要はない!」
一人、また一人。ヒドラ兵たちが武器を捨てていく。最後まで抵抗した者たちも、ナターシャとソーによって無力化された。そして、研究施設内部。
「さて。」
トニーが扉の前に立つ。
「本丸だ。」
厚い鋼鉄製の隔壁。掌を当て、
「ジャーヴィス。」
『ロック解除を試みます。』
数秒。
『解除不能。独立系統です。』
「なら。」
リパルサーが光る。
「古典的にいこう。」
――ドォン!!
扉が吹き飛んだ。
「……古典的?」
遅れて到着したスティーブが呆れる。
「鉄の扉を吹き飛ばす。歴史ある侵入方法だ。」
「そんな歴史は知らない。」
「今できた。」
「スターク。」
ナターシャも追いつく。
「中は?」
「今から確認する。」
トニーが先頭に立ち、施設内部へ入ると、照明はほとんど消えている。非常灯だけが赤く廊下を照らしていた。壁にはヒドラの紋章。破棄途中の研究資料。壊された端末。
「随分慌てて逃げたみたいね。」
ナターシャが床へ落ちた書類を拾う。
「証拠隠滅も途中。」
「能力者の研究室は?」
スティーブが尋ねる。
『施設内部を走査中。』
ジャーヴィスが答える。
『複数の生命反応を検出。大半は拘束済みのヒドラ構成員と思われます。ただし――』
一拍。
『地下三階に、一つ。』
トニーが足を止める。
「一つ?」
『生命反応があります。』
「ヒドラじゃないのか?」
『判別不能です。』
「……行こう。」
スティーブが先に歩き出す。
ーーーーー
地下三階には見るからに重い扉が設置されていた。先ほどまでとは明らかに違う、厳重なロック、複数の認証装置。何より、
「……これ。」
ナターシャが眉を寄せる。
「外から開けるための鍵しかない。」
「中から出さない前提ってことだな。」
トニーが言う。
「嫌な予感がする。」
強制開放。
――ガコン。
扉が開き、トニーが、一歩踏み込んだ。そして、止まった。
「……何だ、これは。」
遅れてスティーブ、ナターシャ。二人も部屋へ入り、言葉を失った。そこは研究室だった。いや、実験室と言う方が正しい。
中央に巨大な装置、無数のコード、点滴、生命維持装置。そして、その中央、一つの台の上に、誰かが寝かされていた。
人間、ではない。少なくとも、地球人ではない。細身の身体に薄緑色の肌。頭部から伸びる、二本の触覚のような器官。顔立ちは人間に近い。だが、明らかに違う。
「宇宙人……?」
ナターシャが小さく呟いた。
「そう見えるな。」
トニーが近付く。
「ジャーヴィス。」
『生命活動を確認。』
「生きてるのか?」
『はい。ただし極めて微弱です。心拍、呼吸、脳活動、いずれも最低水準。生命維持装置によって辛うじて維持されている状態と推測します。』
スティーブの顔が険しくなる。
「ヒドラがやったのか。」
ナターシャは既に周囲の資料を調べ始めている。
「……多分ね。」
端末に紙資料、実験記録。幾つかは破棄されていたが、全部ではない。
「スターク。」
「何かあった?」
「これ。」
トニーが受け取り、目を通す。
「……被験体?」
眉が寄る。
「識別番号だけだ。」
「名前は?」
「記録されてない。」
スティーブも覗き込む。ナターシャが別のファイルを開く。
「捕獲記録。」
日付は数年前。場所は東欧の山岳地帯。ナターシャが読み上げる。
「発光現象の直後、山中に出現。付近を移動していたヒドラの部隊が発見。」
「墜落した宇宙船は?」
「なかったらしいわ。」
「転送?」
トニーが呟く。
「飛び立った何かの目撃情報がある。置いて行かれた、または、自ら残った可能性があるわね。」
さらに資料を送る。
「外見及び生体組織は既知の地球生命と一致せず。」
「まあ、だろうね。」
「血液組成も違う。臓器配置も一部異なる。」
スティーブの表情がさらに硬くなる。
「それで研究材料にした。」
「ヒドラなら驚かないわね。」
ナターシャの声は冷たい。トニーが別の端末へアクセスする。
『暗号化解除。』
ジャーヴィスの声。
「読める?」
『はい。』
画面に大量の記録が表示される。数年間、解剖こそ行われていないが、生存状態を保ったままの採血、組織採取、薬物投与、脳波測定、未知のエネルギーの抽出実験。
「……酷いな。」
スティーブが低く言う。
「待て、エネルギーの抽出だって? 反応実験の間違いだろ。」
トニーの指摘をナターシャは否定する。
「いいえ。資料によると、この宇宙人からは底なしのエネルギーが抽出できたらしいわ。……この施設の電力、そして光学兵器、全てを賄うだけの、ね。そのエネルギーで異能力者を生み出す実験もしたそうよ。」
「出鱈目すぎるぞ、コイツ。」
トニーがぼやくが、
「まだあるわね。」
ナターシャが新たに一つの記録を開く。
「初期尋問記録。」
その言葉にトニーが振り返る。
「話せたのか?」
「少なくとも最初は。」
映像記録は破損。音声も残っておらず文章だけ。ナターシャが読み進める。
「被験体は地球言語を初めから理解。短期間で会話が可能な言語レベルを習得。」
「リスニングは出来たから、スピーキングを習得したわけか。」
「その認識で良さそ――」
さらに読む。そして、ナターシャの動きが止まった。
「……どうした?」
トニーが尋ねる。
「変な記録がある。」
「どんな?」
ナターシャが画面を見る。一字一句、確認するように。
「被験体は捕獲後、意思疎通が可能になると、自身の価値を主張。」
「価値?」
スティーブが聞く。
「ええ。」
ナターシャが読み上げる。
「『殺すな』。」
「…………。」
「『私は役に立つ』。」
一拍。
「『私は未来を知っている』。」
「…………。」
部屋が静まり返り、トニーの顔から、完全に表情が消える。スティーブも。ナターシャも。
「……もう一度。」
スティーブが言うと、ナターシャが画面を見る。
「『私は未来を知っている。役に立つ。だから殺すな』。」
「未来を。」
トニーが呟く。
「知っている?」
――ガコン。
後方の扉が開いた。
「すみません、遅れました!」
クロオだった。
戦闘は終わっているため、既に変身は解除している。
「ワンダさんとピエトロさんの状態確認してたんですけど、二人とも大丈夫そうです。ワンダさんも大怪我では――」
途中で止まった。
「…………。」
中央の台。そこに横たわる者を見る。
「……え?」
クロオの表情が変わる。一歩近付く。薄緑色の肌。二本の触覚。人間ではない身体。
「…………。」
見たことがない。いや、本当にないか? 引っかかる部分はある。しかし少なくとも、自分の知っているエイジ・オブ・ウルトロンには、こんなものは存在していなかった。
「なんだ、これ。」
トニーがクロオを見る。
「知らないのか?」
「知りません。」
即答。さらに近付く。
「こんなの、いなかった。」
「お前の知っている未来には?」
「はい。」
クロオは目を逸らせない。研究台に横たわる宇宙人。生命維持装置。無数の管。
「ヒドラが宇宙人を捕まえてたなんて……。」
「数年前に現れたらしい。」
スティーブが説明する。
「突然、山中に出現したそうだ。」
嫌な感じがした。そして、ナターシャが続ける。
「それだけじゃない。」
クロオを見る。
「まだ意識があった頃、この宇宙人はヒドラに言ったそうよ。」
「何を?」
「殺すな、と。」
一拍。
「自分は役に立つ。」
クロオの眉が寄る。そして、
「自分は未来を知っている、って。」
「…………。」
思考が止まった。
「……え?」
聞き間違いかと思った。
「未来を。」
ナターシャがもう一度言う。
「知っているそうよ。」
クロオは研究台の人物を見る。
「…………。」
薄緑色の肌に触覚。知らない宇宙人、知らない存在。本来の未来にはいなかった。
存在しない。なのに、未来を知っている。それは、自分と同じではないか?
「…………。」
クロオが一歩近付く。眠っている。いや、生かされている。最低限の生命活動だけを残して。何年も、ヒドラに研究され続けた。
「……誰なんだ。」
誰に聞くでもなく。小さく呟く。
「コイツは……?」
返事をする者は、誰もいなかった。