日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
薄緑色の肌、頭部から伸びた二本の触覚。
見た目だけなら、これまで出会ってきた宇宙人と比べて、そこまで異質というわけじゃない。スクラル人だっている。アスガルド人だっている。宇宙へ行けば、地球人とはまったく違う姿をした生物なんていくらでもいる。
だから、問題なのは、見た目じゃない。
「……誰だ?」
僕は一歩前へ出る。
「お前は、何者だ?」
「…………。」
宇宙人は答えない。ただ、僕を見ている。いや、見ている、というより、何かを確かめようとしている?
「…………。」
やがて、その口がゆっくりと開いた。
「お前こそ、誰だ?」
「……僕?」
予想していなかった問いに、一瞬だけ言葉に詰まる。
「えっと、十文字黒雄。」
そう名乗ると、
「違う。」
「え?」
「そうじゃない。」
宇宙人が首を振った。
「お前の名前など、どうでもいい。」
「…………。」
「俺の名前は――」
そこで止まり、宇宙人の表情が歪む。
「俺の、名前?」
自分自身へ問いかけるように呟く。
「あったはずだ。」
頭を押さえる。
「なんだ? 名前は?」
「…………。」
「俺は――」
苦しそうに息を吐く。
「――人。」
そして、
「いや、違う。」
首を振る。
「地球だ。」
「……地球?」
「そうだ。地球。」
宇宙人の顔に、どこか安堵したような笑みが浮かぶ。
「地球こそが俺の――」
言葉が途切れる。
「俺の……。」
再び頭を抱える。
「違う。そうじゃない。俺は地球で、地球は俺で、だから俺は――いや、僕は――私は――」
「…………。」
何だ? こいつ。さっきから言っていることが、まるで繋がっていない。僕だけじゃない。全員が警戒しながら、その様子を見ている。そんな中、
「なるほど。」
スタークさんが口を開いた。
「精神疾患か、何かかな?」
その瞬間。
「――――。」
ピタリ、と宇宙人の動きが止まった。
「……?」
頭を抱えていた腕が下がる。焦点が定まっていなかった瞳が、ゆっくりと一つの場所へ向けられる。
スタークさんへ。
「…………。」
「何だ?」
宇宙人は、じっとスタークさんを見つめる。数秒。そして、
「トニー・スターク。」
「……!」
スタークさんの眉が動いた。
「アイアンマン。」
次に、宇宙人の視線が動く。
「スティーブ・ロジャース、キャプテン・アメリカ。」
さらに、
「ナターシャ・ロマノフ、ブラック・ウィドウ。」
「ブルース・バナー、ハルク。」
そして、
「ソー・オーディンソン、マイティ・ソー。」
「……我のフルネームまで知っているか。」
ソーさんが僅かに目を細める。全員を知っている。こいつは、僕たちを知っている。いや、
「…………。」
宇宙人の視線が、最後に僕へ戻ってくる。
「お前は?」
「……。」
「お前は、誰だ?」
さっきと同じ質問。だけど、今度は、意味が違う気がした。だから僕も、今度は名前だけじゃなく、
「十文字黒雄。」
そして、
「クウガだ。」
そう答えた。
「…………。」
宇宙人の目が見開かれる。
「…………クウガ?」
「……ああ。」
「クウガ。」
もう一度、その名前を口にして。
「クウガ……クウガ、クウガ……。」
そして、
「――ハ。」
笑った。
「ハハ。」
「……?」
「ハハハ。」
徐々に、その笑い声が大きくなっていく。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
「っ……。」
狂ったような高笑いを始め、部屋中に響き渡る。
「そうか! クウガか!」
宇宙人が叫び、僕を指差す。
「貴様はクウガなのか!」
その顔に浮かんでいるのは、歓喜? 怒り? 憎悪? 悲しみ?
分からない。全部が混ざっているようにも感じる。
「五代雄介ではないにも関わらず、その名を語るのか!」
「――!」
背筋が凍った。
「……何で。」
何で、その名前を。
「五代さんを知ってるのか?」
僕の問いなんて聞こえていない。宇宙人は笑い続ける。
「ハハハハハッ! そうか! そういうことか!」
両腕を広げる。
「許される!」
叫ぶ。
「許されるのか!」
その声に、明確な怒りが混ざる。
「改変は! 改竄は! ならば!」
自分の胸を掻き毟るように手を当てる。
「僕は!」
声が変わる。
「俺は!」
また変わる。
「何のために――!」
苦しげに顔を歪め、
「あの苦しみの日々を、黙って耐えたのだ!?」
誰も答えられない。いや、答えようがない。何を言っている? 改変? 改竄? 苦しみの日々? 五代さんを知っている? こいつは――
「…………。」
また止まった。さっきまで狂ったように叫んでいた宇宙人が、完全に黙り込み、俯いた。
「…………。」
静寂の中、誰も動かない。そして、
「……実は。」
宇宙人が顔を上げた。
「もう、準備は終わっているんだ。」
「……なんだって?」
さっきまでとは違う。落ち着いている。不気味なくらいに。
「だから、遅くなった。」
「何の話だ?」
スティーブさんが問いかける。宇宙人は答えない。
「そいつに支配を解かれたのと――」
僕を見る。
「スタークの人工知能の相手に手間取ったのは、誤算だった。」
「人工知能?」
スタークさんの表情が変わる。
「ジャーヴィスのことか?」
宇宙人は笑う。そして、僕へ向き直った。
「この身体は、もう不要だ。お前が、クウガだと言うなら。」
その顔に初めて、明確な意思が浮かんだ。
「俺は――」
言葉を区切る。
「いや。」
首を振る。
「私こそが――ウルトロンだ。」
「――――!」
次の瞬間。
――ドォォォォォォォォン!!
「っ!?」
ウルトロンと名乗った宇宙人の背後から、凄まじい波動が放たれ、その肉体が消し飛んだ。
なおも迫り来るエネルギーに対し、考えるより先に身体が動いた僕は一気に前へ出る。身体の奥底から封印エネルギーと雷のエルの力を引き出し、
「――ふっ!」
拳へ。
――バヂィィィィィィィッ!!
金色の稲妻が迸り、そのまま。
「はあああああっ!!」
真正面から迫ってきた波動を殴りつけた。
――ドッッッッッッッッッッッッ!!
衝撃で床が砕け、壁が軋む。拳と波動がぶつかり合い、
「――っ!」
振り抜く。
――バァァァァァァァァン!!
波動が弾け飛んだ。
「…………。」
拳を構えたまま、攻撃が放たれた方向を見る。
「……え?」
そこにいたのは。
「トニー。」
スティーブさんの低い声。
「…………。」
スタークさんが絶句している。攻撃を放ったのは、赤と金、見慣れたカラーリングの人型装甲。
「……僕のアーマーだ。」
アイアンマン。いや、スタークさんが入っていない。無人のアイアンマン・アーマー。
「どうして僕のアーマーが勝手に動いてる?」
その問いに答えるように、アーマーの顔が僕たちへ向いた。
『――また会おう。』
「っ!」
機械音声が聞こえ、次の瞬間。
――ドン!!
「待て!」
アーマーが飛び立つ。天井付近の搬入口へ向け、一気に加速した。
「逃がすか!」
僕も床を蹴る。けれど。
――ガシャン!!
「っ!?」
横から、別のアーマーが殴りかかってきた。咄嗟に腕で受け止める。
「クロオ!」
「大丈夫!」
腕を掴み、
「よっ!」
――ドン!!
そのまま床へ叩きつける。
「…………。」
周囲から。
――ガシャン。
――ガシャン。
――ガシャン。
次々と、スタークさんのアーマーが動き出していた。
「……スタークさん。」
「何だ。」
「これ。」
一応、聞いておく。
「壊していいですか?」
「…………。」
スタークさんが自分のアーマーたちを見る。そして、逃げていく一機を見る。さらに、僕を見る。
「……やれ。」
「了解。」
その瞬間。
――ドン!!
迫りくるアーマーに蹴りを放ち、首を飛ばす。
「一つ。」
――ドゴン!!
拳で胸部装甲を陥没させ、そのまま壁へ吹き飛ばす。
「二つ。」
横から伸びてきた腕を掴み、
――バキィ!!
拳を顔面へ叩き込み、頭部を貫通する。
「三つ。」
背後にいる。振り向きざまに、
――ドン!!
横っ腹に回し蹴りを放ち、装甲を蹴り折る。
「四つ。」
別のアーマーがリパルサーを発射する前に、
――ガン!!
向けられた腕ごと殴り壊す。そのまま、
――ドゴォ!!
胸へ、渾身の一撃を放ち、アーマーの中心部分に大穴を開ける。
「五つ。」
「…………。」
スタークさんの顔が引きつってる。でも、今は気にしない。
――ガン!!
「六つ。」
――バキッ!!
「七つ。」
――ドゴン!!
「八つ。」
最後の一機。拳を振り上げて、
「これで――!」
――ドォォン!!
「最後!」
拳を叩き込む。アーマーが床を転がり、壁へ激突。沈黙した。
「…………。」
静かになった。僕は周囲を見る。全部停止させたよな? そして、さっきの一機が逃げた方向を見る。
「…………。」
もう、気配もない。
「……逃げられた。」
振り返ると、
「…………。」
スタークさんが壊れたアーマーたちを見ていた。胸部陥没。頭部消失。腹部粉砕。全機、ほぼ一発。
「…………。」
そして、僕を見る。
「……僕のアーマー。」
「え?」
「いや。」
スタークさんが額を押さえる。
「壊していいとは言った。」
「はい。」
「言った、んだけどな。」
「はい。」
「…………。」
スタークさんが僕の拳を見てくる。次に残骸を見て、また僕を見る。
「…………。」
何だろう?
「スタークさん?」
「トニー。」
スティーブさんが、ぽん、とスタークさんの肩へ手を置いた。
「何だ。」
「一つだけ言っておく。」
「……何だよ。」
スティーブさんは壊れたアーマーを見る。それから、僕を見る。至極真面目な顔で、
「クロオと喧嘩するのはやめておけ。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
スタークさんは何も言わなかった。
ーーーーー
気を取り直して。あの宇宙人、あいつは最後に、自分のことを、
『私こそが――ウルトロンだ。』
そう名乗った。
「……クロオ。」
「はい?」
スティーブさんに呼ばれ、そちらを見ると、真剣な表情を浮かべていた。
「確認したいことがある。」
「はい。」
「あの宇宙人はウルトロンと名乗っていたな。」
「……はい。」
「その名前。」
一度言葉を区切ってから、
「君が見た未来に現れる敵の名前だったな?」
僕は少し考える。
「……正確には。」
「?」
「僕が見た未来で、スタークさんたちが進めた、人工知能を使った地球防衛計画の名前だったんです……けど。」
言ってから、スティーブさん、ナターシャさん、ブルースさん、ソーさん、そして僕。全員の視線が一斉にスタークさんへ向いた。
「…………。」
スタークさんが黙り、僕たちも黙る。
数秒後、スタークさんが、ゆっくりと両手を上げた。
「待て。」
誰も何も言っていない。
「その目はやめろ。特にクロオ。君だ。」
「…………。」
僕はスタークさんをじっと見る。人工知能、地球防衛計画、ウルトロン、そして、さっきの宇宙人。
「……スタークさん。」
「何だ。」
「まさか。」
嫌な予感がする。ものすごく嫌な予感がする。
「ウルトロン計画を進めてたり。」
「してない。」
即答してきた。逆に怪しい。
「さっきの宇宙人を使って、人工知能を作ろうとしたりしましたか?」
「してない!」
これも即答。
「…………。」
じー。
「…………。」
じー。
「…………。」
じー。
「だから、その目をやめろって!」
スタークさんが叫んだ。
「何で僕が何かやらかした前提なんだ!」
「いや、だって。僕が見た未来だと、ウルトロンを作ったの、スタークさんですし。」
あ、スタークさんの口が閉じる。
「トニー。」
スティーブさんが低い声で名前を呼ぶ。
「待て、キャップ。」
「何を待つんだ?」
「今から説明する。」
スタークさんが額を押さえた。
「……分かった。正直に言う。」
「やっぱり何かしたんですか?」
「だから、その目をやめろ!」
スタークさんが僕を指差す。そして、大きく息を吐いた。
「この前。」
「?」
「君の未来の知識について、全員で話したのは聞いたな。」
「……はい。」
もちろん聞いている。僕が未来を知っていることはフューリーが皆に共有して、その未来と今の世界が、既に大きく変わっていることも話しているはずだ。
「その後だ。」
スタークさんが腕を組む。
「ウルトロン計画の計画書は破棄した。」
僕は瞬きをする。
「……計画書、もうあったんですか?」
「そこに食いつくな。」
「いや、食いつきますよ。」
「実質、企画書止まりだ!」
スタークさんが叫ぶ。
「構想だけ! アイデアだけ! 実際の配備どころか、開発にすら入ってない!」
「…………。」
じー。
「本当だ。」
スタークさんの表情が真剣なものになる。
「人工知能を利用した地球規模の防衛システム。そういう構想自体はあった。ニューヨークで宇宙人の軍勢が空から降ってきたんだぞ。自分用のアーマーを大量に作ることは止めたが、次に備える方法を考えるくらいはするさ。」
それは、まあ。スタークさんなら、考えると思う。
「だが、君の話を聞き、」
スタークさんが僕を見る。
「その計画が、最悪の形で暴走する未来があることを知った。だったら、わざわざ同じ道を歩く理由はない。」
「それで、破棄したんですか?」
「ああ。」
即答だった。
「少なくとも、僕はウルトロンを作っていない。それに、さっきの宇宙人を使って人工知能を作るなんて発想は、最初から持ってない。」
「本当に?」
「本当だ。」
「…………。」
じー。
「クロオ。」
「はい。」
「君、意外と疑い深いな。」
「だってスタークさんですし。」
「どういう意味だ。」
横で、ナターシャさんが僅かに笑った。
「でも、トニーの言っていることは本当だよ。」
ブルースさんが口を開く。
「バナーさん?」
「あの生命体を調べてはいた。でも、目的はあくまで解析だ。」
バナーさんが研究台へ視線を向ける。
「生体構造。エネルギー反応。脳波。細胞組織。それに、地球の生物との違い。」
「人工知能を作るためじゃない?」
バナーさんが頷く。
「ああ。少なくとも、僕はそんな話をトニーから一度も聞いていない。」
「…………。」
それなら、少しは安心していいのかな。
「ただ。」
スタークさんが眉間に皺を寄せる。
「あいつに対して、具体的に何をしたのか。そこが思い出せない。」
「……え?」
「検査を進めていた。そこまでは覚えている。」
バナーさんも難しい顔をする。
「そうだね。僕も同じ感じだ。」
「検査をしていたら、あの宇宙人の身体から妙な反応が出始めた。」
スタークさんが自分のこめかみを指で叩く。
「そこから先が曖昧だ。」
「曖昧?」
「ああ。」
「気がついたら。」
バナーさんが続ける。
「さっきまでの状況になっていた。」
「…………。」
スタークさんとバナーさん、二人とも?
「それって。」
ナターシャさんの表情が険しくなる。
「記憶を操作された可能性があるってこと?」
「可能性はある。むしろ、この状況なら疑うべきだろうな。」
スタークさんが答える。
やっぱり、全然安心できないじゃないか。
『――その説明は、私が。』
「!」
突然、聞き慣れた声が響いた。
「ジャーヴィス?」
スタークさんが顔を上げる。
『はい。お待たせいたしました、トニー様。』
「ジャーヴィス!」
スタークさんの顔が、目に見えて明るくなる。
「無事だったか!」
『無事、という表現が適切かは判断しかねますが、現在は正常に稼働しております。』
「十分だ。」
スタークさんが息を吐く。本気で安心している。
「何があった?」
『順を追ってご説明いたします。』
部屋の照明が僅かに変化する。中央のモニターが起動し、そこに、先ほどまでの研究室の映像が表示される。
スタークさん、バナーさん。そして、研究台に横たわっている宇宙人。
『異常が発生したのは、トニー様とバナー博士が対象の検査を進めていた最中です。』
映像の中で。
――フワッ。
宇宙人の身体から、黄色い光が漏れ始めた。
「これ……。」
僕は目を細める。さっき、僕が封印エネルギーでかき消したエネルギーだ。
『対象の肉体内部から、極めて高密度のエネルギー反応が検出されました。』
映像の中のスタークさんとバナーさんが動く。二人は宇宙人の身体へ、いくつもの機器を接続していく。
「……僕たち、あんなことをやったのか?」
バナーさんが呟く。
『はい。』
「何をしている?」
スタークさんがモニターを睨む。
『対象を、スターク・タワーの演算システムへ接続しようとしています。』
「そんな指示を出した覚えはないぞ。」
『その点については、私も確認しております。お二人は正常な判断状態ではなかった可能性が高いと推測されます。』
「やっぱり操られていた?」
僕が聞く。
『その可能性が最も高いかと。』
映像が進む。宇宙人の身体から漏れ出す黄色い光。それが、接続された機器へ流れ込んでいく。
「……!」
さらに機器から、タワーのネットワークへ。
『直後、対象の肉体から、極めて大量のエネルギーがネットワークへ流入しました。』
「エネルギーが?」
『はい。』
「ネットワークに?」
スティーブさんが聞き返す。
『通常であれば、あり得ません。』
ジャーヴィスが答える。
『しかし、実際に発生しました。』
画面が切り替わる。無数の数字、コード、データ。その中を、黄色い何かが動いている。
「……生きてる?」
思わず呟いた。
『私も、同様の判断をいたしました。正確な分類は困難ですが、一種のエネルギー生命体と表現するのが最も近いでしょう。』
「エネルギー生命体……。」
『対象の肉体から分離したエネルギーは、スターク・タワーのネットワーク上で独立した存在として活動を開始しました。』
「ちょっと待て。」
スタークさんが口を挟む。
「じゃあ、さっき喋っていたあいつは?」
『ネットワーク上のエネルギー生命体が、元の肉体を遠隔操作していたものと推測されます。』
「…………。」
肉体とネットワーク。両方に同時に存在していた?
『そして。』
画面が切り替わり、大量の警告表示。
「これは?」
『私への攻撃です。』
「……。」
スタークさんの表情が一瞬で変わった。
「ジャーヴィスに?」
『はい。対象はネットワークへ侵入した直後、私の排除を試みました。』
「どんな攻撃だ?」
『情報攻撃です。』
画面いっぱいに、凄まじい速度で文字列が流れる。
『非常に高出力でした。』
「高出力?」
『人間に例えるならば、技術を持たない者が、極めて強大な力だけで扉を破壊しようとしている状態に近いでしょう。』
「…………。」
何だろう。ものすごく嫌な例えだ。
「つまり?」
スタークさんが聞く。
『攻撃方法そのものは稚拙でした。』
ジャーヴィスが淡々と答える。
『しかし、出力が桁違いでした。』
「それで手間取ったのか。」
『はい。』
少しだけ間が空き、
『防御に専念することで、辛うじて耐えることができました。』
「……辛うじて?」
スタークさんの眉が動く。ジャーヴィスがそんな言葉を使うのは珍しい。
『あと数分継続されていた場合、私のシステムに深刻な損傷が発生していた可能性があります。』
「…………。」
スタークさんの表情が完全に消えた。
「それで、何で攻撃が止まったの?」
『十文字様です。』
「僕?」
『はい。』
画面が切り替わる。映し出されたのはさっき、僕が封印エネルギーを放出した瞬間。
『十文字様の放った波動が対象へ作用した直後、その影響はスターク・タワー全体へ急速に浸透しました。』
「……全力で封印エネルギーを放出したけど、タワー全体まで?」
『はい。意図的ではなかったものと推測しております。ですが、おかげで事態が改善しました。』
本当? 僕のせいでトラブルになったりしてない?
『その波動がネットワークにすら到達した直後、エネルギー生命体は私への攻撃を中断しました。』
画面の中で、ジャーヴィスを攻撃していた黄色い光が止まる。そして、一気に別の場所へ広がった。
『対象は自身の肉体の操作、およびトニー様のアーマー群の掌握へリソースを集中。』
「それが、さっきの。」
『はい。』
壊れたアーマーを見る。
『その後、一機のアーマーを利用して脱出。同時に、スターク・タワーのネットワークからも完全に離脱しました。』
「……逃げたってことか。」
『はい。』
「どこへ?」
『不明です。追跡を試みましたが、対象は複数の外部ネットワークを経由し、自身の痕跡を極めて短時間で消去しています。』
「…………。」
あの宇宙人は、ウルトロンと名乗った。そして今、肉体すら捨てて、ネットワークの向こう側へ逃げた。
「…………。」
何だろう。ものすごく嫌な予感がする。
ーーーーー
「……で。」
スタークさんが腕を組む。
「問題は、ここからだ。」
壊れたアーマーの残骸。消し飛んだ宇宙人の肉体。逃げた、自称ウルトロン。
「相手はネットワーク上を移動できる。」
バナーさんがモニターを見る。
「しかも、スターク・タワーのシステムへ侵入して、ジャーヴィスと正面からやり合えるだけの力がある。」
「技術そのものは未熟でも、出力は桁違い、って話だったわよね。」
ナターシャさんが静かに続ける。
「放っておいたら厄介ね。」
「厄介で済めばいいけどな。」
スタークさんが眉間を押さえる。
「僕のアーマーを乗っ取った。ってことは、他の機械も条件次第では――」
「ただ、その前に。」
ナターシャさんが、ぴたりと手を上げた。
「……何か?」
僕が首を傾げる。
ナターシャさんは何も言わず、僕の方へ歩いてきた。
そして、
「はい。」
「え?」
何かを差し出してくる。黒銀色の端末。見覚えがある。というか、
「…………。」
嫌な予感がした。……え? 僕が感じていた嫌な予感、これ?
いや、落ち着け、僕。
ゆっくりと端末を見る。画面には、
――通信中。
終わった。
「……あ。」
思わず声が漏れた。さっき、僕は真魚と通信していた。そして、
『切らないで。』
僕が真魚に、そう頼んだ。それなのに、その直後に宇宙人が動き出して、ウルトロンがどうとか、アーマーが襲ってきたとか、ジャーヴィスがどうとか。
……完全に忘れてた。
僕は、恐る恐る端末を受け取る。
「…………。」
通信は、繋がったままだ。つまり全部、聞かれてた?
「…………。」
横を見る。ナターシャさんと目が合った。僅かに口元が笑っている。絶対分かってて渡したな。僕は、端末を耳元へ近づけた。
「……あのー。」
『……………。』
返事はない。こわい。
「あのー、真魚?」
『……………。』
無言はやめて。何か言って。
「真魚?」
『心配した。』
小さな声だけど、その一言だけで、胸が痛くなった。そりゃそうだ。いきなり通信の向こうで爆発音や戦闘音だ。何が起きているのか、真魚からはほとんど分からない。
「……ごめ――」
『でも。』
「はい。」
反射的に姿勢を正した。
『その後。』
「はい。」
『私に「切らないで」って言ったくせに。』
「…………はい。」
『私のこと、忘れたのは。』
「…………。」
『怒ってる。』
「…………。」
一拍。
『お説教。』
「…………はい。」
――プツッ。
通信が切れた。
「…………。」
僕は端末を耳元に当てたまま固まる。静かだ。妙に。ものすごく静かだ。恐る恐る端末を見る。
――通信終了。
「…………。」
終わった。いや、これからだ。
どうしよう? どう謝ろう? 何から謝ろう? というか、どのくらい怒ってる? いや、心配させた時点でかなり怒ってるよな。でも、声は静かだった。それが逆に怖い。
「クロオ。」
「……はい?」
横を見ると、スタークさんがいて、ぽん、と肩に手を置かれた。
「スタークさん?」
スタークさんは妙に遠い目をしていた。
「分かる。」
「何がですか。」
「怒った時のペッパーも怖い。」
妙な説得力がある。
「普段はちゃんと話を聞いてくれる。」
「はい。」
「だからこそ、本気で怒らせた時が怖い。」
「…………はい。」
「声が静かになる。」
今の真魚だ。やめて、さらに不安になる。すると、
「僕も、似たような経験はある。」
スティーブさんが口を開いた。
「スティーブさんも?」
「ああ。」
何か懐かしいものを思い出すように、小さく笑う。
「昔、他の女性を口説いていると勘違いされて。」
「はい。」
「ペギーに撃たれたことがあるよ。」
僕は瞬きをする。
「……撃たれた?」
「ああ。」
「銃で?」
「ああ。」
「本物?」
「もちろん。」
何でそんな穏やかな顔で言えるんですか?
「盾があったから無事だったけどね。」
「そういう問題ですか?」
いや、待って。そもそも何で撃つの? ペギーさん怖くない?
「つまり。」
スティーブさんが妙に真面目な顔になる。
「謝れる時に謝った方がいい。」
「……はい。」
ものすごく実感がこもっている。すると、
「良いか、クロオ!」
突然、ソーさんが僕の前へ出た。
「はい?」
やたら真剣な顔をしている。何だ?
「一に謝罪!」
「はい。」
「二に謝罪だ!」
「……はい。」
「そして必要であれば三も謝罪だ!」
「全部謝罪じゃないですか。」
「当然だ!」
ソーさんが胸を張る。
「我らはな!」
嫌な予感。
「愛する女性には絶対に勝てぬ運命にある!」
何でそんな堂々と言うんだろう。
でも。
「……否定できない。」
スタークさんが呟く。
「そうだね。」
スティーブさんまで頷く。
何、この男性陣。アベンジャーズの男性陣が、そろいもそろって女性関係で妙に弱い。
「クロオ。」
スタークさんがもう一度肩を叩く。
「健闘を祈る。」
「他人事だと思ってません?」
「思ってる。」
「スタークさん。」
「だって本当に他人事だからな。」
ひどい。すると、スタークさんが少しだけ笑う。
「でも、ちゃんと謝れよ。」
「……はい。」
分かってる。悪いのは完全に僕だ。心配させた。しかも「切らないで」と言ったのは僕だ。思わず肩を落とす。
「心配させてごめん。」
絶対言う。
「忘れててごめん。」
これをそのまま言ったら余計怒られる気がする。
僕は壊れたアーマーの残骸の前で、腕を組む。さっきまで、ネットワークを渡り歩く正体不明の敵、自称ウルトロンの対策を考えようとしていた。
でも、今僕の頭の中を占めているのは、どうやって真魚に謝るか。それだけだった。
とりあえず帰ったら最初に謝ろう。全力で。
僕は深く肩を落としながら、これから始まるであろう真魚のお説教を想像し、どう謝れば少しでも許してもらえるのか、本気で考え始めるのであった。