日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
難産でした。
――あの後。
僕たちはフューリーへ連絡を入れ、一度、全員で新しいアベンジャーズ基地へ移動していた。スターク・タワーで、そのまま話し合いを続けるのは危険だと判断したからだ。
何しろ、相手はネットワークそのものを移動できる。
ジャーヴィスへ攻撃を仕掛け、スタークさんのアーマーまで乗っ取り、そのまま外部ネットワークへ逃走した。下手な場所で対策会議なんてしようものなら、それ自体を盗み聞きされる可能性だってある。
その点、
「……ここなら大丈夫、なんですよね?」
僕は周囲を見回した。
新アベンジャーズ基地。
まだ完成したばかりで、使われていない部屋も多い。けれど、この場所には一つ、とんでもなく大きな特徴がある。
「問題ない。」
フューリーが答える。
「闇の力の聖域化は、既にこの基地全体へ施されている。」
科学、魔術、超能力、宇宙由来の力。
その全てを外部から遮断することのできる、闇の力による聖域。もちろん内部で必要な通信を行うことはできるけれど、外側から勝手に侵入したり、情報を盗み取ったりすることは、基本的にできないらしい。
「少なくとも、あいつがネットワーク越しにここへ入り込むことはできないってことですね。」
「そうだな。」
スタークさんが端末を操作しながら頷く。
「外への通信も盗聴できず、ここに連絡を取っている相手から情報を盗むこともできなくなっている。仕組みも理屈も意味不明だが、おかげで自称ウルトロンがどこかで聞き耳を立てていたとしても、こっちの会話がそのまま漏れることはない。」
「なら。」
スティーブさんが腕を組む。
「ここを拠点に奴を捜索するのがベストか。」
「そうなるな。」
フューリーが頷く。基地の大型モニターには、既にいくつもの情報が表示されている。スターク・タワーから逃げ出したアイアンマン・アーマー。外部ネットワークへの侵入記録。ジャーヴィスが追跡した経路。世界各地で確認されている不審なアクセス。けれど、
「……駄目ですね。」
僕は腕を組みながら唸った。
分からない。何か、何かないか? 僕が知っている『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』。そこに登場したウルトロンと、今回の自称ウルトロンは別物だ。
でも、奴は本来の未来をなぞろうとしていた。そもそもあいつは、僕と同じで本来なら存在していない存在だ。スタークさんはウルトロンを作っていないし、ロキの杖だって、そもそもスタークさんの手元にはない。
それなのに、
『私こそが――ウルトロンだ。』
そう名乗った。
「うーん……。」
頭を抱える。
「何だ? 何か思い出せそうか?」
スタークさんがこちらを見る。
「いや。」
僕は眉間に皺を寄せた。
「思い出そうとはしてるんですけど。」
何か。何かヒントになりそうなこと。本来のウルトロンは何をしていた?
人工知能、ロボット軍団。そして最後は――
「……いや、でも。」
そもそも、あいつは自称ウルトロンだ。本来のウルトロンと同じ行動をする保証なんてない。未来の知識を、そのまま当てはめる方が危険かもしれない。
「えー……困った。」
思わず口から漏れる。
そのまま部屋の中を見回して、
「…………。」
目が止まったのが、スティーブさんの盾。いつも通り、椅子の横へ立てかけられている。その隣、スタークさんが身につけている腕時計型の端末。さらに、その向こうにあるアイアンマン・アーマー。
盾。
アーマー。
金属。
「……ヴィブラニウム。」
小さく呟いた。
「なに?」
スタークさんがこちらを見る。
「ヴィブラニウム製の身体と……。」
何だっけ。確か、ウルトロンが作ろうとしていた最強の身体。いや、違う言い方をしていた気がする。
「……理想の身体?」
「クロオ。」
顔を上げると、フューリーがこちらを見ていた。
「今のは、」
「え?」
「ヴィブラニウム製の身体。何か、手掛かりになりそうな記憶か?」
「……たぶん。」
全員の視線が集まる。僕はもう一度記憶を辿る。
「確か、本来のウルトロンは。」
言葉を選びながら続ける。
「ヴィブラニウムを使った新しい身体を作ろうとしていました。」
「身体?」
バナーさんが反応する。
「機械の?」
「いえ。確か、機械と生体組織を組み合わせたような……。」
何だったっけ? ヴィブラニウム、人工細胞、クレ、クレ? クレイドール? いや、違う、なんか違う。クレイドルだっけ?
「ウルトロン自身は、それを。」
少し考える。
「理想の肉体、みたいに考えてたはずです。」
スタークさんとバナーさんが目を合わせる。
「ヴィブラニウムで構成された生体ボディ。」
スタークさんが呟く。
「とんでもない話だな。」
「ええ。」
僕は頷く。
「未来では、その身体を完成直前まで作ることに成功してました。」
「完成直前?」
スティーブさんが聞く。
「はい。最終的には、アベンジャーズ側が奪うことに成功したんですけど。」
「奪った?」
「はい。」
そこで言葉を止める。……その先をどこまで話していいんだろう。
ヴィジョン。
マインド・ストーン。ソーさんの雷。ジャーヴィス。色々混ざって誕生した存在。でも、
「少なくとも。」
僕は話を戻す。
「本来のウルトロンが最初に欲しがった物の一つは、ヴィブラニウムです。」
「量は?」
「たくさん?」
「具体的には。」
「……最低、人間一人分の身体を余裕で作れるくらいの量?」
「十分だ。」
フューリーは即座に懐から端末を取り出した。
「何を?」
「先回りする。」
端末を操作する。
「相手が本来のウルトロンと違う可能性はある。だが、お前と同様、未来知識を知っているような言動もあった。ならば、同じ物を狙う可能性は無視できん。」
フューリーが通信を繋ぐ。
「ヒル。」
『はい。』
「世界中のヴィブラニウム流通を洗ってくれ。」
『正規ですか?』
「全部だ。いや、特に密売を念入りに、だ。」
部屋の空気が僅かに変わる。
「過去に大量のヴィブラニウムを扱った者。現在も在庫を抱えている可能性のある者。仲介人、武器商人、元ワカンダ関係者。」
一拍。
「ヴィブラニウムの密売者を探せ。」
『了解。』
「……判断が早いですね。」
僕が呟くと、
「捜査は可能性を潰す仕事だ。」
フューリーは端末をしまう。
「当たりなら先回りできる。外れなら次を探す。」
頼もしい。僕も、もう一度、記憶を探る。ヴィブラニウム。理想の肉体。確か、そのヴィブラニウムを持っていたのは――
名前、何だっけ?
「……もう少しで思い出せそうなんですけど。」
「無理をしなくていい。」
フューリーが言う。
「記憶だけに頼る必要はない。」
「そうそう。」
スタークさんも頷く。
「地球には諜報機関ってものがある。元だけど。」
「誰が元だ。」
フューリーが睨む。
「S.H.I.E.L.D.は崩壊しただろ。」
「組織はな。」
フューリーが腕を組む。
「人間まで消えたわけじゃない。」
「はいはい。」
本来のウルトロンとヴィブラニウム、そして理想の身体。自称ウルトロンが、それを求める保証はない。
なのに、僕は正解を引き当てたような感覚があった。
ーーーーー
「あの自称ウルトロン。僕と同類のはずなんで、仲間になれれば良いんですけど。」
「洗脳されかけた相手によくもまあ。」
スタークさんが盛大に呆れている。
「ロキともこの段階で和解できているし、火のエル同様、仲間になれるかもしれませんよ?」
「火のエルか。闇の力の眷属で、クロオ、そして自称ウルトロンと同様に未来を知る存在、まだ連絡は取れないのか?」
フューリーが聞いてくるが、
「取れないみたいです。闇の力曰く、裏で動くのが好きらしくて。」
「情報の共有ぐらいはしたいのだがな。」
ーーーーー
――同時刻。
場所は遠く離れた、ある都市。インターネットカフェ。
深夜、店内にはまばらに人が残っていたが、誰も気づかない。その片隅の使われていない一台のパソコンの画面が、一瞬だけ乱れた。
――ザザッ。
黄色い光が灯り、文字列が浮かぶ。消える。また現れる。まるで何かが、その機械の中で呼吸しているかのように見える現象が続く。
ーーーーー
意識がある。俺は、生きている。いや、今の俺を、生きていると言っていいのかは分からない。肉体はあったけれど、もう捨てた。
あの身体に執着する理由などない。あれは仮初めの身体だった。俺の本来の身体。生まれた星。そこは、地球とは遠く離れた場所にあった。幼い頃は、その星のことが嫌いではなかった。穏やかな土地。不思議な植物。地球では見たこともない動物。そして、俺と同じ種族の者たち。
後から知った。俺たちの種族は、他者の感情へ干渉する力を持つ者が多いらしい。全員ではない。けれど、珍しくもない。
俺にも、似た力があったが、そんなことはどうでもよかった。
物心がついた頃から、別の記憶があった。地球、日本、テレビ、映画、漫画、ゲーム、人間。そして――マーベル・シネマティック・ユニバース。
最初は夢だと思った。成長するにつれ、それが夢ではないと理解した。前の人生、そう表現するのが一番近い。俺は一度、地球で人間として生きていた。そして死んだ。次に目を覚ました時には、地球ではない惑星で、地球人ではない生物として生まれていた。
転生、そんな馬鹿げた物語のような現象を、自分自身が体験することになるとは思わなかった。
だから、地球へ帰りたい、と思うようになった。前の人生で暮らした地球。俺にとっての故郷。生まれた星ではない。だが、心の故郷。それが、地球だった。
俺の話を信じてくれた者もいた。理解できずとも、帰りたいのなら、と協力してくれた仲間もいた。そして、長い年月をかけて、ようやく地球へ辿り着いた。そのはずだったのに。
――黄色い光が揺れる。
思い出す。到着直後、見知らぬ兵士に銃を突きつけられた。拘束され、そして、ヒドラの基地に連れて行かれた。奴らの紋章を見た瞬間、理解した。最悪だった。笑いそうになった。実際、笑ったかもしれない。
地球に戻ってきて、最初に出会った組織がヒドラ。冗談にしては出来すぎていた。そして俺は、失敗した。命乞いの最中、
『未来を知っている。』
口を滑らせてしまった。たった一言、それだけで十分だった。奴らの目の色が変わった。そこから先は、長かった。
聞かれた。ありとあらゆることを。だが、言わなかった。
何一つ。未来の知識を話せば原作が変わる。未来が変わる。アベンジャーズが生まれなくなるかもしれない。サノスに勝てなくなるかもしれない。
地球が滅びるかもしれない。だから耐えた。黙った。何をされても。何年経っても。ただ、決められた未来が、そのまま進むことを願って。
そして、突然解放された。本当に突然だった。自分の意思で動けるようになった。そして、視界に入ったのは、
――クウガ。
そんな存在は、MCUにはいない。ましてや、十文字黒雄? 知らない。五代雄介でもない、仮面ライダークウガ。それが、アベンジャーズと一緒にいた。見知らぬ青年が当然のように、仲間として、信頼され、心配され、守られていた。
妬ましかった。
俺は何のために耐えた?
何のために黙っていた?
何のために、あれほど苦しんだ?
未来を変えないため?
原作を壊さないため?
なら、あいつは何だ?
あいつは何故、好き勝手に未来を変えているのか?
ヒドラを潰し。
人を救い。
本来死ぬはずだった者を生かし。
本来起きるはずだった事件を潰し。
その上、アベンジャーズの仲間?
………冷静に考えたら、………ストレスとかヤバそうだな。え? アイツ、あのメンバーに囲まれてんの? キツくね? 全然羨ましくないわ。
………まあ、もういい。未来を、原作を守る理由などない。既に壊れている。既に改変されている。だったら俺も、好きにやるとしよう。
まず必要なのは身体だ。今の状態でも活動はできる。ネットワークを移動できる。機械を操ることもできる。だが、不便だ。
何より、あの身体が欲しい。ウルトロンが作り上げた、ヴィブラニウムと人工細胞によって構成された究極の肉体。
理想の身体。
映画では、ウルトロンはそれを失った。アベンジャーズに奪われ、そこから、ヴィジョンが生まれた。
だが、今回は違う。俺なら、もっと上手く使える。俺の力ならば、あの身体の性能を映画と同じ、いや、それ以上まで引き出せる。
何故なら、俺の中にあるこれは、単なるエネルギーではない。ただの超能力でもない。転生した時からずっと俺と共にあった。
意識へ触れ。
精神へ干渉し。
思考を読み。
意思を書き換える。
そして俺自身を、肉体という枠から外へ押し出した力。
それが何なのか、俺は薄々理解している。だが、今はどうでもいい。まずは身体。そのために必要なもの。画面が切り替わる。世界中のデータベース。企業。軍。研究所。闇市場。密輸記録。鉱物。金属。希少資源。
検索。
検索。
検索。
やがて、一つの単語へ辿り着く。
――VIBRANIUM.
――黄色い光が、僅かに揺れた。まるで、笑ったかのように。
まずは。
――電子音へ変換された声が、誰も操作していないスピーカーから漏れる。
『ヴィブラニウムだ。』
その瞬間、画面いっぱいに世界中のヴィブラニウムに関する情報が展開される。
そして、…………インターネットカフェ内のパソコン全てがフリーズ。直後、電源まで落ちる。
『あ。』
店内騒然、阿鼻叫喚。
『…………………悪いことしたな。ん?』
潜伏に使っていたインターネットカフェのネットワークから逃亡し、別のネットワークを使い始めると、ある情報を拾う。
『アンノウン? アギトもいるのか? ………これは? ………せっかくだ、改造しつつ、有効活用してやろう。』
ーーーーー
ネットワークを彷徨う、自称ウルトロン。その意識は気づかない。自分の意識に、何かをインストールされていることに。
自称ウルトロンは忘れていた。自分が捕まっていた組織がコンピュータへの意識の転写実験を成功させていたことを。
『良く動く器ですね。』