日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
――韓国。
ヘレン・チョ博士の研究所。
『…………。』
目の前に立つ女性を見つめる。
ヘレン・チョ。
世界でも有数の遺伝学者であり、人工細胞研究の第一人者。そして、自分が求めている新たな肉体を完成させるために、必要不可欠な存在。
「……あなたが、ウルトロン?」
『自称だ。』
「自称?」
『少し事情があってな。気にするな。』
「気にするなと言われても……。」
チョ博士が僅かに眉を寄せるが無視し、チョ博士に近づく。
『安心しろ。危害を加えるつもりはない。少し、協力してもらいたいだけだ。』
右手を上げ、その掌に、
――キィィィィィィン……。
黄色い光が集まると、チョ博士が目を見開く。
「それは――」
『悪いな。』
黄色いエネルギーを放ち、チョ博士の身体へ、光が触れようとした、その瞬間。
――ガシャン!!
『っ!?』
天井、床、壁、研究室の各所から、金属製の装置が一斉に飛び出してきた。
『何――』
――バチィィィィィィン!!
青白い光が走る。身体を囲むように、複数の装置から特殊なフィールドが展開される。
『……ネットワークが。』
外部との通信が、完全に遮断され、ネットワークへの接続ができなくなる。近隣の機器へ意識を移すこともできない。周囲を見渡し、
『なるほどな。そういうことか。』
目の前のチョ博士を見る。
「…………。」
チョ博士が無言で眼鏡を外し、髪へ手を伸ばす。そのまま、
――ベリッ。
『…………。』
顔が剥がれた。いや、正確には、精巧に作られた変装用のマスクが外された。その下から現れたのは、
「久しぶりね。」
やはり、ナターシャ・ロマノフか。
『…………。』
「残念だったわね。」
『……ああ、ブラック・ウィドウだな。しかし、私自身はお前とまともに会話した記憶はないのでな。あまり久しぶり、という感覚がないんだ。』
なんなら、ナターシャ・ロマノフが現れたことよりも、スパイ映画の定番、マスクをベリベリ剥がすシーンの方がインパクトが大きかった。
「細かい男ね。」
『会話をしたことがある、というのは大事だろう?』
そんな会話をしていると、
――プシュッ。
研究室の扉が開き、
「大丈夫かナターシャ?」
「問題ないわ。」
スティーブ・ロジャースが入ってくる。
その後ろから、十文字黒雄も入ってきたので、視線を彼に向ける。
『お前もいるのか。』
「いますよ。」
さらに、部屋のスピーカーから聞き覚えのある声が響いた。
『聞こえているか?』
………ふむ、誰も返事はしないようだな。では代わりに、
『聞こえているぞ。』
俺が返事を返すと、研究室内のスピーカーから、再度、トニー・スタークの声が流れた。
『悪いが、そこからネットワークへ逃げることはできない。研究所周辺の通信網も、こっちで完全に監視してる。』
『ふむ。それは困ったな。』
「スタークさん。なんか全然困った感を出していないんですけど。」
『………いや、遮断できている。そこから逃げられないはずだが。』
――ゴロゴロゴロ……。
建物の外から雷鳴が響き、空中にはムジョルニアを構えたソーが浮かんでいる。前回や、ソコヴィアもそうだったが、ブルース・バナー、ハルクがいないな。
『いや、待て。』
呆れたように首を傾げてしまう。
『これでも最速で飛んできたんだぞ?』
「知ってます。」
十文字黒雄が返してくる。
『元S.H.I.E.L.D.の人間が博士を護衛している可能性は考えた。先ほどの船に来なかったブラック・ウィドウが、既にここへ向かっている可能性もな。』
ナターシャ・ロマノフに視線を向ける。
『だから、こいつが――』
「こいつ?」
『失礼。彼女がいること自体は、まだ分かる。だが、』
十文字黒雄、スティーブ・ロジャース、ナターシャ・ロマノフ、トニー・スターク、そしてソー・オーディンソンを順番に見ていく。
『なぜ、ほぼ全員がいる?おかしいだろう。私がヴィブラニウムを奪ってから、そこまで時間は経っていない。そこから私の目的を推測し、チョ博士へ辿り着き、罠を準備し、全員で先回りしたのか?』
「まあ。はい。」
『…………ビフレストでも使ったか?』
冗談めかして言ってやるが、
「あ、それに近いです。」
予想外の答えが返ってきた。
『…………何?』
「うちのゴウラム、ビフレストと同じような機能があるんですよ。」
『…………。』
「次元移動もできます。」
『…………。』
「宇宙も普通に行けます。」
『…………。』
ちょっと誇らしげに、ゴウラム凄いでしょ、と胸を張っている十文字黒雄。
「最近、惑星間移動にも使いました。」
『…………マジか。』
素が出てしまった。だが、完全に呆れたような視線を十文字黒雄に向けてしまう。
『お前、本当に何なんだ?』
「僕じゃなくてゴウラムが凄いんです。」
『そのゴウラムとやらがお前の言うことを聞いている時点で、大して変わらん。』
額に手を当て、
『計算が狂った。まさか、移動時間そのものを無視してくるとは思わなかったぞ。』
「便利ですよ、ゴウラム。」
『そうだろうな。』
心底そう思う。だが、
『…………。』
視線を、変える。
ーーーーー
『キャプテン・アメリカ。』
「何だ。」
『それで?』
自称ウルトロンがスティーブさんへ顔を向けた。
『お前たちは、いつまでこの長すぎる手を持つ青年に、おんぶにだっこされているつもりだ?』
「……何?」
スティーブさんの表情が変わった。
「どういう意味だ。」
『そのままの意味だ。』
自称ウルトロンが僕を見る。
『十文字黒雄。』
「はい。」
『いいか。』
さっきまでの軽い口調が消える。
『力がある。知識がある。そして、手が届いてしまう。』
「…………。」
『だからといって、全てに手を届かせなければならないわけではないんだぞ?』
「…………。」
『地球で何かが起こればお前が行く。宇宙で問題が起きればお前が行く。未来に危険があると知れば、お前が対策する。移動手段が必要なら、今度は次元すら越えて飛んでいく。』
「…………。」
『手が届くから助ける。知っているから止める。力があるから戦う。』
自称ウルトロンが僅かに首を傾げた。
『そんなことを続けていれば、そのうち「できる」ことと「やらなければならない」ことの区別がつかなくなるぞ。』
「…………。」
『お前は、何でもできるわけではない。』
自称ウルトロンは僕を真っ直ぐ見る。
『そして、何でもやらなければならないわけでもない。』
……この人。本当に、こういうところは。
「僕のことを心配してくれるなら。」
『ん?』
「ここらで大人しく捕まってくださいよ。」
『それは無理だ。』
即答された。
「なんでですか!」
『心配しているのは本音だ。』
自称ウルトロンが肩を竦める。
『だが、時間稼ぎでもある。』
「…………え?」
空気が変わった。スティーブさんが即座に反応する。
「何?」
ナターシャさんの手が腰の武器へ伸び、僕も自称ウルトロンを見る。
『…………。』
自称ウルトロンは逃げようとしない。フィールドの中央。完全に閉じ込められているはずなのに、
『さっき。』
落ち着いた声で言った。
『私は、ここまで最速で飛んできたと言ったな。』
「ああ。」
スティーブさんが答える。
『だが、考えてみろ。』
自称ウルトロンが自分自身の胸を指差す。
『私が、本当に飛んでくる必要があったとでも?』
「…………。」
『この国にも、ヒドラの施設は残っている。』
「……何?」
スティーブさんの顔色が変わった。
『適当な身体を一つ用意する。』
自称ウルトロンが頭を指差す。
『そこへ意識を移せばいい。』
「…………。」
『それだけだ。』
確かに。ネットワークを移動できるこいつなら、自分の身体をわざわざここまで運ぶ必要なんてない。なのに、
「じゃあ……。」
僕が呟く。
「何で、わざわざ?」
『答えは簡単だ。』
自称ウルトロンが僕を見る。
『マヌケどもの意識を、こちらへ向けるためだ。』
「…………。」
『お前たちが私を追うことは分かっていた。ヴィブラニウムを奪えば、その次に必要なものが人工細胞だと、お前なら気づく。』
僕を指差す。
『なら、私は堂々とここへ来ればいい。』
「…………。」
『そうすれば、お前たちは私を追ってくる。』
スティーブさん、ナターシャさん、僕。そして外にいるスタークさんとソーさん。
『実際、全員来た。』
「…………。」
『いや。』
自称ウルトロンが少しだけ首を傾げる。
『全員来たのは、正直予想外だったが。』
「…………。」
『ゴウラムだったか? 本当に余計なことをしてくれた。』
何かゴウラムが怒られた。
『まあ、結果としては好都合だ。』
「……何が目的だ。」
スティーブさんの声が低くなる。自称ウルトロンは答えず、
『ところで。』
話を変えた。
『ヒドラが隠れ潜んでいたのが、S.H.I.E.L.D.だけだと思ったか?』
「…………!」
スティーブさんが目を見開き、僕も息を呑んだ。ヒドラ。S.H.I.E.L.D.の内部へ何十年も潜伏していた組織。けれど、それだけじゃない?
『S.H.I.E.L.D.に潜伏できる組織だぞ?』
自称ウルトロンが言う。
『政府機関。軍。企業。研究機関。世界中に協力者や構成員がいたとして、何がおかしい?』
「チョ博士は!?」
スティーブさんがナターシャさんを見る。
「今、どこにいる!?」
「避難させたわ。」
ナターシャさんが答える。
「私たちがここへ来た直後、他の職員と一緒に研究所から避難させてる。今頃は――」
『残念。』
自称ウルトロンが遮った。
「…………。」
『博士は、そこにはいない。』
ナターシャさんの表情が固まった。
「……何ですって?」
『お前たちが避難させたつもりになっていた集団。その移送経路。車両。警備担当。』
自称ウルトロンが指を一本立てる。
『少し細工させてもらった。』
「まさか……。」
『ヘレン・チョ博士は今頃、私が用意した特殊車両の中だ。』
「特殊車両……?」
『移動式研究設備。』
「…………!」
『さすがに本来の設備には劣るが、必要な機材は揃えてある。』
自称ウルトロンが自分の身体を指差す。
『そして今。』
僅かに笑った。
『移動しながら、私の新しい身体を製作してもらっている。』
「…………。」
誰も言葉を発さなかった。
『ヴィブラニウム。人工細胞。そして、チョ博士の技術。』
自称ウルトロンが両腕を広げる。
『必要なものは、もう揃っている。』
「……お前。」
スティーブさんが拳を握る。
『だから言っただろう?』
自称ウルトロンは、僕たちを見回した。
『時間稼ぎだ、と。』