日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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エイジ・オブ・ウルトロン本編ラストです。



世界

 

「…………。」

 

僕は、目の前の光景を見ていた。

 

G1。

 

G2。

 

G4。

 

さっきまで、あれだけ苦戦していた三体が、

 

「…………。」

 

全部、止まっている。

 

G1はハルクに粉砕され、G2はハルクバスターに文字通り叩き潰され、G4に至ってはスティーブさんとナターシャさんに念入りすぎるほどボコボコにされて沈黙している。さらに、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

――ブォォォォォォォォォン!!

 

『――ッ!?』

 

『排除――』

 

『敵性――』

 

――ドガァァァァァァァァァン!!

 

ソーさんが、まだ妙に高いテンションのまま量産型ウルトロンをまとめて吹き飛ばしていた。

 

「…………。」

 

『…………。』

 

僕とゾラウルトロンの間に、何とも言えない沈黙が流れる。というか、

 

「…………。」

 

ゾラウルトロン、さっきまでよりちょっと後ろに下がってない?気のせいじゃない。明らかに、さっきより及び腰になっている。

 

『…………。』

 

ゾラウルトロンの頭部が、ゆっくりと周囲へ向けられた。

 

ハルク、ハルクバスターアイアンマン、ソーさん、スティーブさん、ナターシャさん、そして僕。なんというか、表情は見えないはずなのに、

 

「もしかして……引いてます?」

 

『何を馬鹿な!!』

 

食い気味な返答だった。

 

「いや、でもちょっと下がりましたよね?」

 

『戦況を確認しただけだ!!』

 

「それを及び腰って言うんじゃ――」

 

『黙れ!!』

 

怒った。いや、でも分かる。僕だって敵側だったら、この光景を見たら帰りたくなる。

 

『…………。』

 

ゾラウルトロンが周囲を見回す。そして、

 

『来い!!』

 

右腕を大きく掲げた。

 

『何をしている!!全機、この場所へ集結しろ!!』

 

「……!」

 

量産型を呼ぶつもりか!今まで周辺に散らばっていた量産型ウルトロン。それどころか、他の場所に配置されている個体まで、この場所へ集中させるつもりなのかもしれない。

 

『全戦力を投入しろ!!この者たちを――』

 

――ガシャン。

 

一体。

 

――ガシャン。

 

二体。

 

――ガシャッ。

 

四体。

 

『…………。』

 

終わった。

 

「……少なくないです?」

 

『…………。』

 

明らかに少ない。さっきまでなら、数十体単位で湧いてきていたはずなのに。ゾラウルトロンが、もう一度腕を掲げる。

 

『全機、集結しろ!!』

 

――ガシャン。

 

あ、三体来た。

 

『…………。』

 

「…………。」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

――ドガァァァァァァァァァン!!

 

ソーさんに吹き飛ばされて、一体減った。

 

『…………。』

 

「…………。」

 

『何故だ……?』

 

ゾラウルトロンの声から、初めて明確な困惑が漏れた。

 

『何故、これしか来ない!?』

 

「え?」

 

『世界各地に生産施設は存在している!!既に稼働している個体も、製造途中の個体も、これだけでは――』

 

その時だった。

 

『スターク。』

 

「ん?」

 

スタークさんが動きを止めた。

 

『こちらフューリー。聞こえるか?』

 

「フューリー?」

 

通信だ。スタークさんのアーマーを介して、フューリーの声が周囲へ響く。

 

『聞こえてる。どうした?』

 

『報告だ。』

 

ほんの少し間が空いて、

 

『世界各地に存在していた、ウルトロン製造に使用されていた施設の奪還は――ほぼ完了した。』

 

「…………え?」

 

『――!?』

 

僕より先に、ゾラウルトロンが反応した。

 

『馬鹿な!!』

 

明らかな動揺。表情なんて見えなくても驚愕しているのが分かる。

 

『あり得ん!!』

 

ゾラウルトロンが一歩前へ出る。

 

『確かに私はネットワークから切り離された!!だが、施設は世界中に存在するのだぞ!?』

 

「世界中……。」

 

『北米、南米、欧州、アジア、アフリカ!!ヒドラが長年にわたり築き上げた拠点、それを利用して私が拡張した生産網だ!!』

 

ゾラウルトロンの声が、どんどん大きくなっていく。

 

『それを、この短時間で!?あり得ん!!』

 

確かに。ここで戦い始めてから、それほど時間は経っていない。仮にフューリーが僕たちと同時に作戦を開始していたとしても、

 

『移動だけでどれほどの時間が必要になると思っている!!』

 

その通りだ。世界各地にある施設を同時に制圧するなんて、普通なら――

 

『ああ。』

 

フューリーが、あっさり答えた。

 

『普通ならな。』

 

『……何?』

 

『今回はアスガルドが全面協力してくれている。』

 

あ、嫌な予感がした。

 

『ビフレスト使い放題だ。』

 

『…………。』

 

やっぱり。

 

『こちらで確認した拠点へ、アスガルドを経由して人員を送り込んでいる。更に、アスガルドの戦士たちも参戦している。戦力は足り、距離はほぼ問題にならん。』

 

『な……』

 

『それだけじゃない。』

 

フューリーが続ける。

 

『三機のヘリキャリアもフル稼働中だ。』

 

「三機とも!?」

 

『インサイト計画用だった機体を遊ばせておく理由もないからな。』

 

いや、まあ、そうだけど!

 

『アイアンパトリオットも動いている。』

 

「ローディさんまで!?」

 

『ファルコンもだ。』

 

「サムさんも!?」

 

『各国政府、軍、警察組織にも情報は回した。ウルトロンの生産施設と確認できた場所には、現在進行形で戦力が投入されている。』

 

『…………。』

 

ゾラウルトロンが、完全に黙った。

 

『……それと。』

 

フューリーの声が、僅かに低くなる。

 

『すまん、十文字。』

 

「え?」

 

突然、僕に謝ってきた。

 

「何がです?」

 

『止められなかった。』

 

「…………。」

 

何を?そう聞こうとした、その瞬間。

 

『たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

身体が固まった。

 

『――やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

聞き覚えがある。というか、聞き間違えるはずがない。

 

『ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

――ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 

通信の向こうから、盛大な爆発音が響いた。

 

「…………フューリー?」

 

『何だ。』

 

「今の声。」

 

『…………。』

 

「今の声。」

 

『…………。』

 

「真魚ですよね?」

 

『…………。』

 

「フューリー?」

 

『そうだ。』

 

「何してるんですか!?」

 

『だから謝っただろう。』

 

「謝ればいいって話じゃ――」

 

『やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

――ドガァァァァァァァァン!!

 

『よーし!次!!』

 

「真魚ァァァァァァァァァァァァ!?」

 

間違いない!!何してるの!?というか、その音!絶対戦ってるよね!?

 

『落ち着け。』

 

「落ち着けるわけないでしょう!?」

 

『安全は確保している。』

 

「どこがですか!?」

 

『闇の力が同行している。』

 

「…………あー。それなら、大丈夫……なのか?」

 

いや、待て。確かに闇の力が保護者として同行しているなら、地球上でこれ以上ないくらい安全だけど。

 

『たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

――ズガァァァァァァァァァン!!

 

『シャイニングゥゥゥゥキィィィィィィィック!!』

 

「必殺技撃ってる!?」

 

その直後。

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

『やったぁ!!』

 

「…………。」

 

『……突入前に白いレーザーで迫り来る量産型ウルトロン数十体を薙ぎ払ってもいたな。』

 

「本当に何やってんの!?」

 

何で!?何でそんな全力なの!?

 

『本人曰く、』

 

フューリーが少し間を置く。

 

『「クロオばっかり危ないことさせない」だそうだ。』

 

「心配ばかりかけてすみません!!」

 

でも絶対、帰ったら怒る!いや、その前に無事か確認する!闇の力が一緒なら大丈夫だろうけど!

 

『ちなみに。』

 

「まだあるんですか!?」

 

『水、風、地のエルも動いている。』

 

「…………え?」

 

『三体とも別方面へ向かった。』

 

待って。水のエル、風のエル、地のエル。超越生命体三体が動いている?

 

『各々、確認された生産施設を破壊している。』

 

「…………それ、施設側が可哀想になってきたんですけど。」

 

『奇遇だな。俺もそう思う。』

 

いや、敵だけど。敵の施設なんだけど。アスガルド軍、ヘリキャリア三機、アイアンパトリオットやファルコン、各国の軍や警察、闇の力とシャイニングフォームで暴れる真魚、さらに水、風、地のエル。

 

何この世界規模の総力戦。

 

『そして、日本だが。』

 

「あ、はい。」

 

『こちらから連絡する必要すらなかった。』

 

「…………え?」

 

『俺たちが日本国内の施設を特定した時点では、既に日本の警察が動いていた。』

 

「早っ!?」

 

『一条薫を中心とした対未確認生命体関連の人員が、独自に異常を察知したらしい。』

 

「一条さん……。」

 

流石というか。本当に、こういう時の一条さんは頼りになりすぎる。

 

『しかも、科警研が面白いものを作っていた。』

 

「面白いもの?」

 

『ウルトロン対策用の特殊弾頭だ。』

 

「…………。」

 

『命中すれば、内部へウイルスを送り込み、量産型ウルトロンの行動系を強制停止させるらしい。』

 

「…………いつ作ったんですか!?」

 

『完成は今日らしい。』

 

「神速すぎません!?」

 

何その開発速度!?一発撃てばウルトロンを止められる弾丸を、この短時間で!?

 

『一条がお前の話を聞き、事前に対人工知能の弾丸が作れないか相談していたらしい。さらに、スタークから共有されたウルトロン関連の情報、回収した量産型の解析結果。それらを全部ぶち込んで完成させたらしい。』

 

「一条さんと科警研怖っ!?」

 

日本の警察と技術者どうなってるの!?

 

『G3ユニットも投入されている。』

 

「氷川さんたちまで!?」

 

『ああ。』

 

通信の向こうで、別の音声が混じる。

 

『一条、良いぞ!』

 

――パンッ!!

 

『命中!対象停止!小沢、指示を頼む!』

 

『次!右方向、三体!氷川くん前に!』

 

『了解!G3ーX、行きます!』

 

『ヨシ!俺たちも行くぞ!』

 

――ガガガガガガガガガガガッ!!

 

『対象沈黙!次、行きます!』

 

なんか。世界中で皆、めちゃくちゃ頑張ってる。僕たちがここで戦っている間にも、アスガルドが、各国の軍隊が、警察が、一条さんたちが、スタークさんの仲間たちが。そして、

 

『やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

――ドゴォォォォォォォォォォン!!

 

「真魚も……。」

 

いや。真魚はちょっと元気すぎるけど。

 

『以上だ。』

 

フューリーの声が、再び落ち着いたものへ戻る。

 

『現在、確認できているウルトロン生産施設の九割以上を制圧、または機能停止させた。残存施設についても作戦を継続中だ。』

 

『…………。』

 

『量産型の増援は、もう期待しない方がいい。』

 

静かになった。ゾラウルトロンが、何も言わない。僕も、何も言えなかった。ただ、さっきまであれほど圧倒的だったゾラウルトロンが、ほんの僅かに、

 

――ズッ。

 

また、後ろへ下がった。やっぱり、

 

「引いてますよね?」

 

『引いていない!!』

 

「いや、今絶対引いたでしょう!?」

 

『戦略的な位置調整だ!!』

 

「それを及び腰って言うんですよ!!」

 

『黙れ!!』

 

――バヂィィィィィィィィン!!

 

ゾラウルトロンの全身から黄色のエネルギーが弾ける。けれど、さっきまでとは違う。力そのものは変わっていない。あの馬鹿みたいなエネルギー量も、僕の封印エネルギーを物量だけで押し切ってくる出力も、何一つ、弱くなっていない。それでも、

 

『…………。』

 

アベンジャーズだけじゃない。世界中で、今この瞬間も自分の戦力を潰し続けている者たち。

 

『…………。』

 

ゾラウルトロンが自分以外の存在を、明確な脅威として認識している。

 

『馬鹿な……。』

 

その口から漏れた声は、これまでの尊大なものとは違っていた。

 

『私は……世界を掌握するために……。ヒドラが築いた全てを利用した。世界中の拠点を、兵器を、人員を、情報を、』

 

ゾラウルトロンの拳が握られる。

 

『全てを私のものとした!!それを……!』

 

――バヂィィィィィィィィィン!!

 

黄色の雷光が爆発する。

 

『たったこれだけの時間で!!』

 

その怒声に、

 

『勘違いするな。』

 

フューリーの声が返った。

 

『…………何?』

 

『お前が相手にしているのは、十文字一人じゃない。アベンジャーズだけでもない。』

 

フューリーの声は淡々としている。けれど、その言葉には妙な重みがあった。

 

『お前が世界を敵に回したんだ。』

 

『…………。』

 

『だったら――』

 

ほんの僅かな間。

 

『世界が相手をするのは当然だろう。』

 

ゾラウルトロンが、完全に沈黙した。そして、その姿を見ながら、

 

僕はちょっとだけ、口元が緩むのを止められなかった。

 

ーーーーー

 

静寂が訪れる。

 

『…………。』

 

ゾラウルトロンは動かなかった。いや、動けなかった。理解ができなかった。何故だ。何故こうなった?全て、計画通りだったはずだ。

 

ヒドラが七十年以上もの時間をかけて世界中へ張り巡らせた拠点。その全てを利用し、兵器を、生産設備を、人員を、情報網を掌握した。

 

世界中に量産型を配置した。一つの拠点が潰されようと、別の拠点で新たな個体を生産できる。一つの国が抵抗しようと、別の国から戦力を送り込める。

 

ネットワークさえあれば、自分は世界中のどこにでも存在できる。

 

この理想の肉体さえあれば、誰にも負けない。

 

そのはずだった。それなのに。

 

ネットワークは、奪ったはずの肉体そのものによって封じられた。洗脳能力は、十文字黒雄によって封じられた。

 

世界各地の生産施設は、距離という最大の防壁を無意味なものにされ、三機のヘリキャリア、各国の軍隊、警察組織、他にもよく分からん戦力によって次々と制圧されているらしい。日本では、警察組織が独自に対策兵器まで完成させていた。

 

『…………。』

 

アベンジャーズ。目の前にいる者たちだけではない。世界中の人間が、自分を倒すために動いている。

 

何故だ?

 

何故、これほど早く動ける?

 

何故、これほど多くの者が連携できる?

 

何故、自分の計画をここまで潰せる?

 

ヒドラにはできなかった。七十年かけても、世界を完全に掌握することはできなかった。だからこそ、自分ならできると思った。人間のような躊躇も、感情も、限界もない自分ならば、ヒドラが成し遂げられなかった世界支配を完成させられる。

 

そう確信していた。なのに、

 

『何故だ……。』

 

ゾラウルトロンの口から、声が漏れる。

 

『何故……何故だ……!?』

 

理解できない。計算できない。自分は間違っていない。自分の計画は完璧だった。戦力も、情報も、技術も、全て自分の方が上だったはずだ。なのに――

 

『何故、こうなる!?』

 

ーーーーー

 

『――正直。』

 

『…………?』

 

ゾラウルトロンの身体が、僅かに震え、僕も眉をひそめる。

 

今の声。ゾラウルトロンの声だったけれど、

 

『俺も、こんな結果になるとは思わなかった。』

 

「…………え?」

 

明らかに、違う。さっきまでの尊大で、芝居がかったゾラの口調じゃない。この話し方、この声は、

 

「もしかして……。」

 

ゾラウルトロンの頭部が、僅かに傾いた。

 

『…………。』

 

そして、

 

『久しぶり……ってほどでもないか。』

 

「――っ!」

 

間違いない。

 

「自称……ウルトロン……?」

 

『その呼び方、最後まで変えないんだな。』

 

呆れたような声。間違いない。あいつだ。自称ウルトロンだ。

 

『な……。』

 

突然、声が変わった。今度はゾラだ。

 

『何故だ!?貴様の意識は消えたはずではないのか!?』

 

『さあ?』

 

また変わり、自称ウルトロンに。

 

『お前が弱まってるからじゃないか?』

 

『馬鹿な!!私はこの肉体を完全に掌握した!!貴様の意識など――』

 

『だから知らんって。俺に聞くなよ。』

 

『貴様ァ!!』

 

何だこれ?一つの身体の中で二人が口喧嘩してる。いや、そんな呑気なことを考えている場合じゃない。僕は一歩前へ出る。

 

「まだそこにいるんですね!?」

 

『まあ……一応な。』

 

その声は、思っていたよりずっと落ち着いていた。

 

『とは言っても、かなりギリギリだけどな。さっきまで本当に何も見えなかったし、何も聞こえなかった。今になって急に意識が浮かんできた。』

 

「だったら――!」

 

何とかできるかもしれない。まだ意識が残っているなら。完全に消えていないなら。

 

「待っててください!助ける手段を――」

 

『何を言ってる。』

 

「…………え?」

 

即座に遮られた。

 

『今、君たちが有利なのは何でだ?』

 

「何でって……。」

 

『あの黄色い力。洗脳能力を君の力で封じることに成功したからだろ。』

 

「…………。」

 

『それから、俺がこの身体を檻にして、ネットワークへの接続を遮断した。だからコイツは世界中へ逃げられないし、他の機械へ意識を移すこともできない。』

 

『黙れ!!』

 

ゾラの声が割り込む。

 

『貴様が余計なことをしなければ!!』

 

『うるさいな。今、大事な話してるんだよ。』

 

『貴様――!!』

 

『で。』

 

完全に無視してるよ。

 

『今は、その二つが機能してる。だから君たちは有利なんだ。』

 

「だったら……。」

 

『でも、それもじきに切れるぞ。』

 

僕の言葉が止まった。

 

『この身体は、コイツに少しずつ解析されてる。俺が仕込んだネットワーク遮断も、永遠に保つものじゃない。君が封じた力だって、あれだけ馬鹿みたいな量のエネルギーが湧き続けてるんだ。いつまでも保つ保証はないだろ?』

 

「それは……。」

 

否定できない。実際、さっき僕は押し切れなかった。封じること自体はできる。でも、あまりにもエネルギー量が多すぎる。

 

『だから。』

 

自称ウルトロンの声が、少しだけ低くなる。

 

『俺が、コイツが、この身体が存在している限り、地球の危機はなくならんぞ?』

 

「…………。」

 

『今ここで止めても、次がある。ネットワークへの接続を取り戻すかもしれない。洗脳能力が復活するかもしれない。別の身体へ逃げるかもしれない。』

 

「でも!」

 

思わず叫んでしまう。

 

「だからって、あなたごと壊せって言うんですか!?」

 

『そう言ってる。』

 

あっさりと。本当に、何でもないことみたいに答えた。

 

「ふざけるな!」

 

『ふざけてない。』

 

「まだ意識があるんですよね!だったら助ける方法だって――」

 

『ない。』

 

「探してもいないでしょ!!」

 

『探してる時間がない。』

 

「っ……!」

 

『それに、俺はもう十分だよ。』

 

その声は、妙に穏やかだった。

 

『既に狂った身だ。』

 

「…………。」

 

『地球に来るまでに色々あった。地球に来てからも、ヒドラに捕まって散々弄られた。頭の中もぐちゃぐちゃになって、自分が誰なのかも分からなくなって……挙げ句の果てには、ウルトロンなんて名乗って世界を支配しようとした。』

 

少しだけ、笑うような声が混じった。

 

『でもまあ。アベンジャーズをあれだけ翻弄したんだ。あの世か、来世での自慢話にでもなるさ。』

 

「ならないでしょ、そんなの……。」

 

『そうか?結構すごいと思うんだけどな。』

 

「そういう問題じゃない!」

 

何で。何で、そんなに簡単に言える。さっきまで生きていた。僕たちと戦って、話して、馬鹿なことを言って。確かに、とんでもないことをした。許されないことだって、たくさんした。でも、だからって。

 

『それか…………悪人じゃないと無理か?』

 

「何を――」

 

――キィィィィィィィィィィィン!!

 

「――っ!?」

 

突然、自称ウルトロンの額に黄色の光が集束し、

 

――ズギャァァァァァァァァァァァァン!!

 

「なっ!?」

 

黄色のレーザーが放たれた。僕たちではない。全く別の方向。その先にあったのは、

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 

高層ビルの中腹に光線が直撃し、爆発が起きた。窓ガラスが一斉に砕け散り、炎と黒煙が噴き出す。

 

「な……。」

 

頭が真っ白になった。

 

「あのビル……。」

 

人がいる。避難が完了しているかどうかなんて分からない。少なくとも、今の一撃で――

 

「何して……。」

 

『さあ!!』

 

自称ウルトロンが叫んだ。さっきまでの穏やかな声が嘘みたいな、挑発するような大声。

 

『もっと被害が必要なら、まだやるぞ!!』

 

「――っ!」

 

『俺は敵だ!!ウルトロンだ!!世界を支配しようとして、人を洗脳して、君たちを殺そうとした!!』

 

「やめてください……。」

 

『まだ足りないか!?』

 

「やめろ……」

 

――キィィィィィィィィィィィン!!

 

再び額に光が集まる。

 

『被害を出したくないなら――』

 

「やめろォ!!」

 

『俺を!!』

 

黄色の光が膨れ上がる。

 

『ウルトロンを倒してみせろ!!』

 

拳を握り締める。強く、強く!装甲越しでも分かるほど、指が掌へ食い込む。分かっている。こいつが何をしようとしているのか。

 

僕たちに、……僕に、自分を殺させる理由を作ろうとしている。

 

「クロオ!」

 

スティーブさんが動いた。

 

「待っ――」

 

言い終わるより早く、

 

『邪魔をするな!!』

 

――バヂィィィィィィィィィィィン!!

 

自称ウルトロンの全身から、凄まじい黄色のエネルギーが爆発し、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。

 

スティーブさんが吹き飛ばされ、ナターシャさんが地面を転がる。ソーさんもムジョルニアを構えながら後退し、スタークさんのハルクバスターや本物のハルクさえ巨体ごと押し戻された。

 

そして、自称ウルトロンが空へ浮かび上がった。

 

『さあ、どうした!!』

 

額に黄色の光が集まる。さっきよりも大きい。まずい、あれを撃たせたら――

 

「ゴウラム!!」

 

――キィィィィィィィィィィィン!!

 

金色の光を纏ったゴウラムが飛んでくる。

 

『――!』

 

僕は跳び上がり、その背中へ着地した。

 

「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

『――――!!』

 

――ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 

一気に加速。空気の壁を突き破り、自称ウルトロンへ真正面から突っ込む。

 

『来い!!』

 

自称ウルトロンが両腕を突き出す。そして、

 

――ドッッッッゴォォォォォォォォォォォン!!

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

『ぐっ……!!』

 

ゴウラムの角と、自称ウルトロンの両腕が激突。その瞬間、凄まじい衝撃波が空中から広がった。

 

――バヂィィィィィィィィィィィン!!

 

黄色と金色。二つのエネルギーが激しくぶつかり合う。周囲のビルの窓ガラスが衝撃だけで砕け散り、雲が円形に吹き飛んだ。

 

「ぐっ……!」

 

押し切れない!?アメイジングマイティの力とゴウラムの突進力。その両方を合わせているのに!

 

『どうした!!』

 

「っ!」

 

『アメイジングで、この力に勝てると思ってんのか!?』

 

「お前……!」

 

『分かってるだろ!!』

 

――バヂィィィィィィィィン!!

 

「ぐっ!?」

 

押し返され、ゴウラムの身体が大きく揺れる。

 

『びびってないで本気を出せ!!アルティメットがあるんだろ!?』

 

「うるさい……」

 

『この身体にいる間に俺を破壊しろ!!』

 

「うるさい!!」

 

叫び返す。けれど。それ以上の言葉が出なかった。アルティメット。使えば、勝てる。でも、もし暴走したら。今、この場には一条さんはいない。闇の力もいない。僕を確実に止められる人がいない。

 

それに、

 

『まだ迷うか。』

 

「…………。」

 

自称ウルトロンの声が、少しだけ柔らかくなった。僕は答えない。答えられない。代わりに、

 

「……本当に。」

 

『ん?』

 

「本当に、手段はないんですか?」

 

『…………。』

 

「あなたを助ける手段は、本当にないんですか?」

 

『…………。』

 

少しだけ、沈黙があった。それから、

 

『言っただろう。』

 

自称ウルトロンが答えた。

 

『俺のことは気にするな、と。それに、』

 

声が掠れた。

 

『そろそろ……キツい。』

 

「――っ。」

 

自称ウルトロンの頭部が不自然に揺れ、黄色の光が瞬いた。

 

『貴……様……!』

 

ゾラの声が漏れてくる。

 

『私の……身体から……出て……』

 

『悪いな。』

 

自称ウルトロンの声が割り込む。

 

『元々……俺の身体なんだよ。』

 

『黙……れ……!!』

 

――バヂィィィィィィィィン!!

 

黄色の光が激しく明滅する。自称ウルトロンの意識が、また沈み始めている。

 

「おい!」

 

『ああ……。』

 

声が弱い。

 

『後は……まあ。』

 

「…………。」

 

『こうなった原因の一つである――』

 

一瞬。声が途切れた。そして、

 

『ゾラのクソ野郎を。』

 

『貴様ァァァァァァァァ!!』

 

『全力で……ぶん殴っておいてくれ。』

 

「…………。」

 

それだけ。それだけだった。世界を支配しようとした。僕たちを洗脳しようとした。アベンジャーズを翻弄した。最後まで、自分の本当の名前すら分からなかった。

 

自称ウルトロン。

 

『…………。』

 

僕は、拳を握る。

 

そして。

 

「…………分かった。」

 

短く答えた。

 

「約束する。」

 

『…………。』

 

「全力で、ぶん殴るよ。自称ウルトロン。」

 

『……頼んだ。』

 

笑ったような声が聞こえた。その直後。

 

――バヂィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

『――ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

ゾラウルトロンの全身から、これまで以上の黄色のエネルギーが爆発した。

 

ーーーーー

 

凄まじい衝撃が空を震わせ、ゴウラムの身体が大きく揺れる。黄色の光は、もう一つの肉体から放たれているとは思えないほど膨れ上がり、まるで小さな太陽でも生まれたように周囲一帯を照らし上げていた。

 

『貴様……貴様ァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

ゾラの絶叫が響く。

 

『許さん!!十文字黒雄!!貴様だけはァァァァァァァァァ!!』

 

「…………。」

 

僕は、その叫びを聞きながら、ゴウラムの上で覚悟を決める。もう、迷わない。怖くないわけじゃない。

 

アルティメットになることが怖くないなんて、一度だって思ったことはない。あの力を使って、自分が自分でなくなることも、自分の手で誰かを傷つけることも、それどころか、この世界そのものを壊してしまうことだって、ずっと怖かった。それでも、

 

『……頼んだ。』

 

自称ウルトロンが、最後にそう言った。自分を助けろ、じゃなかった。殺してくれ、とも言わなかった。ただ、

 

『全力で……ぶん殴っておいてくれ。』

 

だったら、応えないと。僕は静かに両腕を動かした。ゴウラムの背の上で、足を開き、腰を落とす。

 

右腕を前へ。

 

左腕を引き。

 

何度も何度も繰り返してきた、変身の構え。だけど、この構えから、この言葉を口にするのは、いつだって特別だった。僕は一度、目を閉じる。そして、

 

「究極、変身。」

 

静かに告げた。

 

――ドクン。

 

心臓が、大きく鳴った。次の瞬間。全身を黒が覆った。

 

アメイジングマイティの黒とは違う。もっと深い。光さえ吸い込んでしまうような漆黒。その肉体の各所へ金色の装飾が走り、そして、

 

「…………。」

 

赤い瞳が、静かに開いた。

 

クウガ・アルティメットフォーム・レッドアイ。

 

『――っ!?』

 

ゾラウルトロンが動きを止めた。

 

『何だ……?』

 

怒りでも、憎しみでもない。純粋な、困惑が込められた声。

 

『何だ……その姿は……。』

 

「…………。」

 

『データにはある……!貴様が更なる形態を隠していることは確認している!!過去の戦闘記録にも存在する!!だが――』

 

――バヂィィィィィィィィン!!

 

ゾラウルトロンが、全身から黄色のエネルギーを爆発させた。

 

『その出力は何だ!?』

 

右腕に膨大な黄色の光を集めながら、一気に突っ込んでくる。

 

『あり得ん!!この肉体のエネルギーは無限だ!!無限に勝る力など!』

 

ゾラウルトロンが腕を振り抜き、黄色の奔流が放たれる。さっきまで、僕が両足で押さえ込んでも相殺しきれなかったエネルギー。それが巨大な光の壁となって、こちらへ迫ってくる。

 

僕は、……右腕を振った。

 

――ブォン。

 

黒い腕が、空を薙ぐ。その軌跡から、金色とも白ともつかない封印エネルギーが放たれ、

 

――バヂィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

黄色の奔流とぶつかった。そして。

 

――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。

 

消えた。

 

『…………。』

 

「…………。」

 

まるで、最初から存在していなかったみたいに。

 

『何を……した?』

 

僕は答えず、自分の右手を見て、力を込める。ほんの少し――いや。いつもより、少し多めに。

 

――バヂッ。

 

拳の周囲で、空間そのものが小さく歪んだ。

 

「行くよ、ゴウラム。」

 

『――――!!』

 

相棒が応える。その瞬間。

 

――バヂィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

ゴウラムの全身から、凄まじい光が溢れ出した。金色だった身体が、黒へ変わっていく。けれど、いつもの黒じゃない。ライジングでも、アメイジングでもない。今まで見たどの姿よりも深い黒。

 

その漆黒の外殻を走る金色の装飾は、単なる模様なんかじゃない。まるで内部で暴れ回る莫大なエネルギーそのものが、身体の表面へ浮かび上がっているかのように脈動している。

 

――ドクン。

 

――ドクン。

 

金色の光が、鼓動のように明滅する。アルティメットゴウラム。僕自身も、今初めて見る姿。でも、不思議と分かった。僕と同じことができる、と。

 

「行こうか。」

 

『――――!!』

 

次の瞬間、僕とゴウラムの姿が消えた。

 

『――!?』

 

ゾラウルトロンが目を見開く。

 

『消え――』

 

瞬間移動で、認識されるよりも早く、僕たちはゾラウルトロンの懐にいた。

 

『な――』

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

右拳を振り抜く。狙うのは、腹!

 

――ドッッッッゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

『――――ッ!?』

 

拳が、腹部へ突き刺さった。ゾラウルトロンの身体が、くの字に折れ曲がる。

 

『が――』

 

声を上げる暇すらなく、ゾラウルトロンの身体が、真上へ消えた。いや、消えたように見えただけか。

 

「…………。」

 

見上げると、数百メートル、数キロ。それどころじゃないかな?たった一発。ただ殴っただけで、ゾラウルトロンは遥か上空まで吹き飛ばされていた。

 

『――ぐっ!?』

 

ようやく、遠く離れた空で声が聞こえる。

 

『何だ……今のは……!?』

 

ゾラウルトロンが、必死に体勢を整えようとしている。けれど、

 

「ゴウラム。」

 

『――――!!』

 

僕たちも上昇する。大気を切り裂き、雲を突き抜ける。

 

『――来るか!!』

 

ゾラウルトロンが僕たちを捉えた。

 

『舐めるなァ!!』

 

再度、黄色のエネルギーを右腕へ集中させる。

 

『この肉体はヴィブラニウムだ!!貴様程度の突進で――!!』

 

迫るゴウラムへ、拳を叩き込んだ。

 

――バキャッ!!

 

『…………。』

 

奇妙な音がして、ゾラウルトロンの動きが止まる。

 

『…………は?』

 

右腕。肘から先が、不自然な方向へ曲がっていた。

 

理解が追いつかない。

 

『折れた……?』

 

ヴィブラニウムと人工細胞から作られた理想の身体。あらゆる攻撃へ耐えるために作られたはずが、

 

『私の腕が……折れた?』

 

その思考が終わる前に。

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

『がァァァァァァァァァァ!?』

 

アルティメットゴウラムが、真正面からゾラウルトロンへ激突し、まるで車に轢かれたように――なんて表現じゃ足りない。巨大な質量そのものに跳ね飛ばされたように、ゾラウルトロンの身体がさらに空高く吹き飛ばされた。そして、

 

「追加!!」

 

僕はゴウラムの背から跳び、

 

『――っ!?』

 

空中で身体を捻り、右脚を振り上げ、

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?』

 

蹴り抜いた。ゾラウルトロンが再び飛ぶ。成層圏を抜け、熱圏を抜け、青かった空が、黒へと変わる。

 

『――――ッ!?』

 

ゾラウルトロンは、宇宙空間へ放り出された。

 

『な……。』

 

音のない世界。眼下には、青い地球。遥か遠くには無数の星。その中で、

 

『宇宙……空間……?』

 

ゾラウルトロンの身体が漂っていた。折れた右腕。腹部には、僕が殴った、蹴った場所を中心に何本もの亀裂が走っている。

 

『馬鹿な……。いや……問題ない。』

 

ゾラウルトロンが自分へ言い聞かせるように呟く。

 

『この肉体に呼吸は必要ない……空気がなくとも生命活動は維持できる……。……移動は?推進力……。いや、エネルギーを放出すればいい!!』

 

残った左腕を動かそうとした、その時。

 

「やっぱり。」

 

『――!?貴様……!?』

 

ゾラウルトロンが振り返る。

 

僕は奴のすぐ後ろにいた。アルティメットゴウラムと共に。

 

「やっぱり、その身体はお前のものじゃないよ。」

 

『…………何?』

 

「だって。」

 

僕は、ゾラウルトロンを見つめる。

 

「お前、全然使いこなせてない。」

 

『貴様……!!』

 

ゾラウルトロンの黄色い光が激しく瞬く。

 

『この私を愚弄するか!!』

 

「それに。」

 

僕は右拳を握る。

 

「今回は、キックじゃなくてパンチだ。」

 

『…………。』

 

「ぶん殴るって、約束したから。」

 

――ドクン。

 

右腕に、力を込める。

 

――バヂッ。

 

黒。

 

金。

 

白。

 

様々な光が、僕の右腕へ集まっていく。

 

――バヂィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

宇宙空間なのに、音が聞こえるような錯覚がした。いや、音じゃない。力そのものが、空間を震わせている。

 

『な……。』

 

ゾラウルトロンが後退しようとする。でも、逃げられない。

 

『待て……。』

 

「…………。」

 

『待て!!』

 

黄色のエネルギーを放出して、逃げようとする。けれど、

 

「ゴウラム。」

 

『――――!!』

 

アルティメットゴウラムが回り込み、退路を塞いだ。

 

『なっ!?』

 

「…………。」

 

僕は拳を引く。頭の中で、イメージしろ。ゾラを封じる。黄色の力、洗脳能力を封じる。ネットワークへ接続する力を封じる。

 

世界を脅かすものを全部、全部、封じる。

 

でも、自称ウルトロン、あいつの意識だけは残す。残ってくれ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『来るな!!』

 

ゾラウルトロンが左腕を突き出す。

 

『来るなァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

黄色の光が放たれる。けれど、

 

――バヂン!!

 

僕の身体へ届く前に、消える。

 

『な――』

 

そして。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

――ドッッッッゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

僕の拳が、ゾラウルトロンの胸へ突き刺さった。

 

『――――ッ!!』

 

その瞬間。全力の封印エネルギーを叩き込んだ。

 

「――――!!」

 

視界が染まる。

 

黄色。

 

黒。

 

赤。

 

金。

 

白。

 

様々な光が、一瞬だけ全てを覆い尽くした。そして、

 

――バヂッ。

 

ゾラウルトロンの身体に、亀裂のような光が走った。見覚えがある。嫌というほど、何度も見た。

 

「……あ。」

 

グロンギが、僕が封印エネルギーを叩き込んだグロンギたちが、最後に爆発する時に必ず起きた現象。

 

「待っ――」

 

手を伸ばす。

 

『ガ……ッ!!』

 

ゾラウルトロンの身体が大きく痙攣した。

 

『な……何をした……!?』

 

「違う……!」

 

そうじゃない。僕がイメージしたのは。

 

『十文字……黒雄ォォォォォォォォォォ!!』

 

ゾラの声。苦痛、恐怖、怒り、全部が混ざった絶叫。

 

『貴様……貴様がァァァァァァァァァ!!私の計画を!!私の世界を!!ヒドラの悲願を!!』

 

身体の亀裂が増え、黄色い光が漏れる。

 

『全て!!全て貴様がァァァァァァァァァァァ!!呪ってやる!!十文字黒雄!!たとえこの肉体が滅びようとも!!たとえ私の意識が消えようとも!!貴様だけは――!!』

 

――バヂィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

身体全体が光へ包まれる。僕は、伸ばした手を止めた。

 

もう、間に合わない。

 

『貴様だけはァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

次の瞬間。

 

――――――――――。

 

ゾラウルトロンは、爆散した。宇宙空間へ、光が広がる。黄色、黒色、金色、白色。無数の光の粒が星のように散り、やがて消えていく。

 

「…………。」

 

僕は、何も言わなかった。ただ、見ていた。最後の一粒が消えるまで。

 

「…………。」

 

僕の拳は、まだ握られたままだった。

 

「さようなら、」

 

小さく、呟いた。

 

「自称ウルトロン。」

 

返事はなかった。

 

ーーーーー

 

空間が歪む。

 

『――――!!』

 

アルティメットゴウラムの角から光が伸び、裂け目が開いた。僕とゴウラムは、その中へ入る。そして、

 

地球。さっきまで戦っていた場所。アベンジャーズのみんながいる、その場所へ戻った。

 

「クロオ!!」

 

最初に声を上げたのはスティーブさんだった。

 

「無事か!?」

 

フェイスカバーを外していたスタークさんも。ソーさん、ナターシャさん、ブルースさんも、全員がこちらへ駆け寄ってくる。僕はゴウラムの背から、ゆっくり降りた。

 

『――――。』

 

ゴウラムが心配そうに鳴く。

 

「……大丈夫。」

 

軽く、その身体へ触れる。

 

「ありがとう、ゴウラム。」

 

『――――。』

 

黒かった身体が光に包まれ、元の姿へ戻っていく。僕も力を抜いた。漆黒の装甲が消えていく。赤い瞳も、金色の装飾も、アークルも、全てが消え、十文字黒雄に戻った。

 

「クロオ、大丈夫か?」

 

スティーブさんがすぐ近くまで来て心配してくれる。

 

「…………はい。」

 

声を出す。少し掠れていたけれど。

 

「大丈夫……です。」

 

「本当に?」

 

ナターシャさんが僕の顔を見る。

 

「顔色が良くないわ。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

笑おうとした。少しは笑えたと思う。

 

「それより……。」

 

みんなを見る。スティーブさん、ナターシャさん、スタークさん、ソーさん、ブルースさん。

 

「ありがとうございました。」

 

頭を下げる。

 

「皆さんが来てくれなかったら……多分、僕一人じゃどうにもならなかったです。」

 

「今さら何を言ってる。」

 

スタークさんが肩をすくめる。

 

「チームなんだぞ?」

 

「……はい。」

 

そうだ、チーム。アベンジャーズ。僕一人じゃない。それに、

 

「あと……。」

 

一つ。ずっと聞きたかったことがある。

 

「何で……皆さん……あんなにテンション……高かったんですか……?」

 

全員が黙った。

 

「いや……。」

 

僕は笑おうとする。

 

「ソーさんなんて……ずっと……はぁぁぁぁぁって……。スティーブさんとナターシャさんも……G4を……あそこまで……。」

 

あれ?

 

「クロオ?」

 

「スタークさんも……ハルクバスターで……G2を……。」

 

おかしい。声が出ない。いや。出ている?でも、喉が詰まる。

 

「クロオ?」

 

スタークさんの顔が変わった。

 

「どうした?」

 

答えようとした。大丈夫です。そう言おうとした。なのに、頬を、何かが流れた。

 

「……え?」

 

手で触れると、濡れていた。

 

「…………。」

 

涙。何で?

 

「クロオ……。」

 

ナターシャさんが小さく僕の名前を呼ぶ。

 

「違……。」

 

違う。泣くつもりなんて。

 

「僕……。」

 

もう終わった。勝った。ゾラウルトロンは倒した。世界中の施設も、皆が止めてくれた。何も、何も問題ない。なのに、

 

『……頼んだ。』

 

頭の中に、声が蘇る。

 

『全力で……ぶん殴っておいてくれ。』

 

「…………っ。」

 

涙が止まらない。一滴、二滴、次々に頬を伝って落ちていく。

 

「ごめ……。」

 

何に対して謝っているのか、自分でも分からなかった。

 

「ごめんなさい……。」

 

「クロオ。」

 

スタークさんが一歩前へ出る。

 

「おい、座れ。」

 

「大丈……。」

 

「大丈夫じゃない。」

 

「でも……。」

 

「クロオ。」

 

スティーブさんが僕の肩へ手を伸ばす。

 

その瞬間。

 

――グラッ。

 

「…………あ。」

 

世界が傾いた。

 

「クロオ!?」

 

足から力が抜ける。

 

「クロオ!!」

 

みんなの声が遠くなる。視界が霞む。最後に見えたのは、僕へ手を伸ばす、みんなの姿。そして、

 

「…………。」

 

意識が途切れた。

 

――ドサッ。

 

僕の世界は、真っ暗になった。

 

ーーーーー

 

――事件から、数日後。

 

世界は、まだ完全には落ち着きを取り戻していなかった。

 

各地で発見されたウルトロンの生産施設、その残骸の回収。ヒドラが残していた研究資料の解析。量産型ウルトロンの停止確認。各国政府と軍、警察、さらにアスガルドまで関わった大規模作戦の後始末。

 

ニュースをつければ、どこかしらで関連する報道が流れている。世界中が、まだ慌ただしい。けれど、

 

「…………。」

 

その喫茶店だけは、いつもと変わらなかった。静かな店内。柔らかな照明。カウンターの向こうから聞こえる、小さな食器の音。そして、その奥にあるいつもの席で、

 

「…………。」

 

闇の力は、カプチーノを飲んでいた。白いカップを手に取り、ゆっくりと口へ運ぶ。表情もいつも通り。そんな時だった。

 

――カラン。

 

店の扉が開く。

 

「お久しぶり。」

 

軽い声が店内へ響いた。闇の力は、カップを置く。視線だけを入口へ向けると、そこに立っていたのは、

 

火のエルだった。

 

以前と変わらない姿。以前と変わらない、どこか軽薄にも見える笑み。まるで数日前まで世界規模の騒動が起きていたことなど気にもしていないような顔で、片手を軽く上げている。

 

「…………ああ。」

 

闇の力は、それだけ返した。

 

驚きもしない。

 

警戒もしない。

 

火のエルがここへ来ることを、最初から知っていたかのような態度だった。

 

「相変わらず反応薄いなあ。」

 

火のエルは苦笑しながら店内へ入り、そのまま店員へ顔を向ける。

 

「コーヒー一つ。」

 

注文を済ませると、闇の力の向かい側に腰を下ろした。

 

「…………。」

 

「…………。」

 

二人が向かい合う。少しして、火のエルの前へコーヒーが置かれた。

 

「どうも。」

 

火のエルは軽く礼を言い、カップを持ち上げる。一口、二口。特に会話をするでもなく、ただ静かにコーヒーを飲んでいく。闇の力も何も言わない。自分のカプチーノを飲みながら、火のエルが口を開くのを待っている。やがて、

 

「そういや。」

 

火のエルが、何でもないことのように言った。

 

「あいつ、まだ起きないんだってな。」

 

闇の力の手が、ほんの僅かに止まった。

 

「ああ。」

 

カップを静かに置く。

 

「力を使いすぎたのか。」

 

少しだけ間を置き、

 

「精神的なショックか。」

 

さらに、

 

「あるいは、その両方だろう。」

 

「ふーん。」

 

火のエルは短く返し、またコーヒーへ口をつける。闇の力は、そんな火のエルをしばらく見つめていたが、

 

「しかし。」

 

「ん?」

 

「こちらに全く関わろうとしない割には、よく知っているな?」

 

「…………。」

 

火のエルの口元が僅かに上がった。

 

「俺も色々動いてんだよ。」

 

肩をすくめる。

 

「頑張ってるよ?」

 

「…………。」

 

「何、その目。」

 

「いや。」

 

闇の力は、何事もなかったようにカプチーノへ口をつける。

 

「別に。」

 

「絶対思ってるだろ。お前が?って。」

 

「言っていない。」

 

「顔に書いてあんだよ。」

 

「そうか。」

 

「そうだよ。」

 

火のエルは呆れたように笑い、そのまま残っていたコーヒーを飲み干した。空になったカップをテーブルへ置く。そして、

 

「まあ。」

 

さっきまで浮かべていた笑みが消えた。

 

「今日は、その話をしに来たわけじゃない。」

 

「…………。」

 

闇の力は何も言わず、火のエルを見る。火のエルも、その視線を真正面から受け止めた。先ほどまでのヘラヘラとした雰囲気は、もうない。

 

「今日はちょっと。」

 

静かな声。

 

「答え合わせをしに来てな。」

 

「答え合わせ?」

 

「ああ。」

 

火のエルが、空になったカップへ視線を落とす。そして、

 

「俺たち転生者の。」

 

「…………。」

 

その言葉が出た瞬間。闇の力の目が、僅かに細くなった。火のエルはそれを見逃さなかった。

 

「やっぱり。」

 

小さく笑う。けれど、その笑みは楽しそうなものではない。

 

「知ってんだろ?」

 

「…………。」

 

「あんたなら。」

 

火のエルは、闇の力を見つめる。

 

「俺たちが何なのか。」

 

返事はない。ただ、沈黙だけが流れる。

 

「…………。」

 

火のエルは急かさなかった。代わりに、

 

「まあ、急いで答えなくてもいいけど。」

 

そう言って、空になったコーヒーカップへ、人差し指を伸ばした。

 

その指先が、

 

――トン。

 

カップの縁へ触れる。次の瞬間、緑色の光が漏れた。

 

空だったはずのカップの底に、黒い液体が現れる。ほんの一滴。それが、

 

――スゥゥゥ……。

 

ゆっくりと増えていく。いや。増えているんじゃない。戻っている。火のエルが飲み干したはずのコーヒーが、まるで映像を逆再生しているかのように、少しずつカップの中へ戻っていく。

 

半分。

 

七分目。

 

そして、

 

最初に提供された時と、全く同じ量へ。

 

「…………。」

 

それだけではなかった。先ほどまで少し冷めていたはずのカップから、再び湯気が立ち上る。温度まで、香りまで、全てが提供されたその瞬間へ戻っていた。

 

「…………。」

 

火のエルは、そのカップから指を離した。そして、

 

「さて。」

 

もう一度、闇の力を見る。

 

「どこから話そうか。」

 

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