日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
「どこから話そうか。」
火のエルはそう呟きながら、元通りになったコーヒーを一口飲んだ。
闇の力は答えない。ただ、いつもと変わらない無表情のまま、向かい側に座る火のエルを見つめている。
「まあ、順番にいくか。」
火のエルはカップをテーブルへ戻すと、そのまま背もたれへ身体を預けた。
「まず、この前現れた転生者。あの、自称ウルトロンとか呼ばれていた奴。」
闇の力の表情は変わらない。
「話を聞いた限りじゃ、あいつは元々、地球じゃない別の星で生まれたらしいな。けど、そのくせ地球人だった頃の記憶を持っていた。」
「…………。」
「生まれた星も違う。種族も違う。それでも、前の世界の記憶を持って生まれた。」
火のエルが一本、指を立てる。続けて、
「そして、俺。」
二本目。
「前は普通の人間だった。少なくとも、俺自身の記憶じゃそうだ。それが死んで、気がついたらこの世界にいた。」
火のエルは自分の胸元へ手を当てた。
「しかも、人間じゃない。エルロード。」
自嘲するように笑う。
「人間から、人ではない存在に転生した。しかも、ただ人間じゃないって程度じゃない。人間から見れば、神だの天使だの怪物だの、そんな呼び方をされてもおかしくない超越的な存在だ。」
火のエルは二本の指を立てたまま、
「で。」
三本目の指を立てる。
「十文字黒雄。」
「…………。」
その名前が出た瞬間、闇の力の視線がほんの僅かに動いた。
「地球人。」
火のエルは続ける。
「少なくとも、今のあいつは正真正銘の地球人だ。人間の両親から生まれて、人間として育ってる。」
「…………。」
「けど、前の世界の記憶を持っている。」
三本の指。別の星で生まれた者。人ならざる存在として生まれた者。そして、人間として生まれた者。
「バラバラなんだよ。」
火のエルが呟いた。
「生まれた場所も、種族も、身体も、何もかも。」
「…………。」
「だから最初は、本当にただの転生だと思ってた。」
火のエルは三本の指を下ろす。
「死んだ人間が、何かの偶然でこの世界に生まれ直した。それだけなら、まあ……そういうこともあるのかもしれないって思えた。」
「…………。」
「この世界、ただでさえ何でもありだからな。」
宇宙人。
魔術。
神。
異次元。
時間移動。
平行世界。
人間の常識から外れたものなど、いくらでも存在している。だから、死んだ人間が別の世界へ転生する。それだけなら、まだ納得できた。
「でも。」
火のエルの表情から、完全に笑みが消えた。
「問題は、そこじゃない。」
「…………。」
火のエルは自分の右手を見る。ゆっくりと手のひらを上へ向けると、
――フワッ。
淡い、緑色の光が灯った。
「…………。」
先ほど、コーヒーを元の状態へ戻した力。緑色に輝く、不可思議な力。火のエルはその光をしばらく眺め、
「これだ。」
「…………。」
「この力。」
指先で、緑色の光を弄ぶ。
「俺が持っている、この緑色に光る力。」
その光が、ゆっくりと消える。
「そして。」
火のエルが顔を上げる。
「自称ウルトロンとかいう奴が持っていた、黄色に光る力。」
闇の力は何も言わないが、火のエルは淡々と続ける。
「人間の精神に干渉する力。洗脳する力。身体を強化する力。それだけじゃない。比喩でも何でもなく、ほとんど無限みたいにエネルギーが湧き続けてたらしいな。」
「…………。」
「俺の力とは性質が違う。」
火のエルは、先ほど元に戻したコーヒーへ視線を落とす。
「俺のは、今みたいに物を元の状態へ戻したり、時間そのものに干渉するような真似ができる。無限に感じるエネルギーは同じだが、」
「…………。」
「黄色い方は精神への干渉。どっちも、普通じゃない。」
火のエルはそこで言葉を止めた。静かな店内に、僅かな食器の音だけが響く。火のエルはコーヒーへ口をつけた。今度は一口だけ飲み、
――コトッ。
静かにカップを置く。
「それで。」
闇の力を見る。
「少し調べた。」
「…………。」
「俺なりにな。」
いつもの軽薄な笑みは、もうなかった。
「そうしたら、どうしても引っかかるものがあった。」
火のエルは自分の指先を見る。
「緑、時を操る。そして黄色、精神を操る。それぞれ性質の違う、異常な力だが、色も力も同様のものがあるよな。」
火のエルの視線が、ゆっくりと闇の力へ戻る。
「そして、その力を持っていたのが――転生者。」
「…………。」
「偶然にしちゃ、出来すぎてる。」
闇の力は否定しない。肯定もしない。ただ、
「…………。」
火のエルを見ている。その反応を見た火のエルが、小さく息を吐いた。
「で。」
テーブルへ肘をつく。
「ここからが答え合わせだ。」
「…………。」
「俺は宇宙ができた時なんて知らない。」
当然だ、とでも言うように肩をすくめる。
「この世界に生まれ直してから長いこと生きてるが、それでも宇宙そのものよりは遥かに年下だ。かなりの年数、………光のアホの腹の中だったのもあるが。」
「…………。」
火のエルの目が細くなる。
「けど、あんたは違う。知ってるんだろ?」
闇の力の手元。そのカプチーノへ一瞬だけ視線を向け、
「宇宙が生まれた時から存在している。少なくとも、俺なんかじゃ比べ物にならないくらい、この世界の始まりに近いところから全部を見てきた。」
火のエルはそこで身体を前へ傾けた。二人の距離が、僅かに縮まる。
「だったら、知ってるはずだ。」
静かな声だった。けれど、そこには先ほどまでとは比べ物にならないほどの重みがあった。
「なあ。」
闇の力を真正面から見つめる。
「宇宙開闢から存在する、闇の力さんよ。」
そして、火のエルは尋ねた。
「俺たち転生者の正体は――」
一瞬、火のエルの指先から、
――フワッ。
再び、緑色の光が漏れる。
「インフィニティ・ストーンなのか?」
ーーーーー
火のエルの質問に、
「その通りだ。」
あまりにも。あまりにも、あっさりと答えは返ってきた。
火のエルは、指先に浮かんでいた緑色の光を見つめる。その光は僅かに揺らめいた後、ゆっくりと消えていった。そして、
「……やっぱりか。」
小さく息を吐いた。驚きがないわけではない。自分が、この宇宙でも最上位に位置する力の一つ――インフィニティ・ストーン。それと同じ存在だと言われたのだから、本来ならもっと驚いてもいい。だが、
「まあ、そうなるよな。」
ここまで材料が揃っていれば、むしろ違うと言われた方が驚いていた。緑色、時間への干渉。ほぼ無限に湧き出すエネルギー。
そして、黄色、精神への干渉。こちらも同じく、底が見えないほどのエネルギー。
何より、その二つの力を持っている存在が、どちらも前の世界の記憶を持つ転生者。
「偶然じゃなかったってことか。」
闇の力は答えない。けれど、先ほど既に肯定されている。これ以上、確認する必要もなかった。
「なるほどなぁ……。」
火のエルは背もたれへ身体を預け、天井を見上げた。
「俺がインフィニティ・ストーン、ねぇ。」
自分で口にしてみても、いまいち実感が湧かない。そもそも、自分には自分が人間だった頃の記憶がある。死んで、この世界へ転生して、色々あってエルロードになっていた。
「…………。」
そこで、
「ん?」
火のエルが眉を寄せる。
「ちょっと待て。」
何かに気づいたように身体を起こし、
「だったら、おかしくないか?俺がタイム・ストーンなんだろ?」
「そうだ。」
「じゃあ、この世界にあるタイム・ストーンは何なんだ?ほら、あれだよ。アガモットの目。」
火のエルは指で輪を作るような仕草をする。
「それだけじゃない。黄色い方もそうだ。自称ウルトロンがマインド・ストーンなら、ロキが持ってきたセプター、あれはちゃんと機能してただろ?」
少なくとも、火のエルが知る限り、あれらも間違いなくインフィニティ・ストーンとして扱われている。なら、
「もしかして、あっちが偽物なのか?」
「違う。」
即答だった。
火のエルが目を瞬く。
「違うのか?」
「あれらも本物だ。アガモットの目に収められている石も、セプターに収められていた石も、真正のインフィニティ・ストーンだ。」
火のエルは数秒、黙り込んだ。
「……じゃあ、どういうことだ?」
自分もタイム・ストーン。アガモットの目もタイム・ストーン。
自称ウルトロンもマインド・ストーン。セプターの石もマインド・ストーン。
普通に考えれば、完全に矛盾している。だが、
「この世界には、インフィニティ・ストーンが二組存在している。」
沈黙。火のエルは闇の力を見つめ、それから、何とも言えない顔になった。
「……あー。」
片手で額を押さえる。
「ああ、やっぱそっちかー……。」
驚愕というより、納得。いや、納得したくなかったものが当たってしまった、という反応に近かった。
「可能性としては考えてたんだよ。」
火のエルが深々と息を吐く。
「俺たちが本物なら、元からある奴らが偽物なのか。それとも――」
指を二本立てる。
「単純に、二組あるのか。…………で、後者か。」
「そうだ。」
火のエルはしばらく二本の指を見つめ、
「この宇宙、大丈夫か?」
思わず、そんな言葉が漏れた。宇宙の根源とも呼べる六つの特異点。それが十二個。
「普通、一セットでも取り扱いに困る代物だろ……。二セットって何だよ。」
闇の力は答えない。
「まあ、いい。」
良くはないが、今考えても仕方がない。火のエルは一度頭を振り、話を戻した。
「ってことは。」
自分を指差す。
「俺がタイム・ストーン。」
「そうだ。」
「自称ウルトロンがマインド・ストーン。」
「そうだな。」
「やっぱり、あの黄色い力はそうだったか。」
あの異常なエネルギー量も、精神干渉能力も、それなら納得できる。そして、
「となると。」
火のエルの表情が少し真剣になる。
「残りは四つ。」
スペース。
リアリティ。
パワー。
そして、
「ソウル。」
「…………。」
火のエルは腕を組んだ。
「で、転生者って括りで考えるなら……。」
頭に浮かぶ人物は、一人しかいない。
「黒雄。」
十文字黒雄。地球人として生まれながら、別世界の記憶を持つ少年。自分や自称ウルトロン、そして、黒雄。現時点で確認できている転生者は三人。ならば、
「黒雄の奴は……。」
少し考え、
「ソウル・ストーン辺りか?」
何となく。本当に何となくだった。自分が時間。自称ウルトロンが精神。なら、人間として生まれ、人との繋がりを何より大切にし、何度死にかけても立ち上がる黒雄は、魂を司るソウル・ストーンなのではないか。そんな程度の推測。だが、
「違う。」
「ん?」
またしても、闇の力は即答した。
「違うのか?」
「ああ。」
「じゃあ、何だ?」
闇の力は答えない。
「スペース? いや、あいつ別に空間を操ったりしないよな。あれ?瞬間移動はしてたか?ゴウラムの次元移動はあいつ自身の能力じゃないが……。」
「…………。」
「リアリティ……も違うか? あいつ、物質改変なんてでき、……いや、モーフィングパワーは思いっきり物質改変か?」
「…………。」
「パワーか? まあ、馬鹿みたいな火力を出すことはあるし、アルティメットは相当ヤバ――」
「違う。」
「だから、何なんだよ。」
少し苛立ったように火のエルが言う。すると、
「ソウル・ストーンは、」
闇の力が口を開いた。
「ん?」
「私だ。」
「…………。」
火のエルの動きが止まった。
「…………。」
闇の力はいつもと変わらない無表情。声の調子も、何一つ変わっていない。だからこそ、火のエルは数秒ほど完全に固まった後、
「…………へ?」
間の抜けた声を漏らした。
「私がソウル・ストーンだ。」
「いや、聞こえてた。聞こえてたけど。」
火のエルは闇の力を指差す。
「あんたが?」
「ああ。」
「ソウル・ストーン?」
「ああ。」
指を差したまま、固まる。
「いやいやいやいや。」
ようやく再起動した。
「待て待て待て待て。おかしいだろ。」
「何がだ。」
「全部だよ。」
火のエルは思わずテーブルへ身を乗り出した。
「あんた、宇宙ができた時からいるんだろ!?」
「ああ。」
「俺たちより遥かに昔から存在してるんだろ!?」
「ああ。」
「そもそも、あんた自身がこの世界の創世に関わってるような存在だろ!?」
「ああ。」
「じゃあ何でソウル・ストーンなんだよ!?」
火のエルの声が店内に響く。
「というか、待て。」
そこで、火のエルの表情が変わった。何か、もっと根本的なところ。今までの話と、闇の力の発言を繋げたことで、とんでもない可能性に気づいてしまった。
「…………。」
ゆっくりと、本当にゆっくりと、火のエルが口を開く。
「まさか。…………いや。」
乾いた笑いが漏れた。
「流石に、それはないよな?だって、あんたは――」
「私も転生者だ。」
火のエルの口が閉じた。
静寂。先ほどまでとは比較にならないほどの静寂が、店内を包み込んだ。闇の力はカプチーノへ手を伸ばす。何事もなかったかのようにカップを持ち上げ、一口飲み、その手に橙色の光を灯した。
――コトッ。
カップをテーブルへ戻し、光を消した闇の力。対する火のエルは、完全に固まっていた。そして、
「…………は?」
今日二度目。いや、先ほどより遥かに間の抜けた声が、その口から漏れた。
「私も、お前たちと同じだ。前の世界の記憶を持ち、この世界へ生まれた。…………ソウル・ストーンとしての力を持ち、この宇宙の始まりから、私は存在している。」
火のエルは何も言えない。自分がタイム・ストーンだった。自称ウルトロンがマインド・ストーンだった。この世界にはインフィニティ・ストーンが二組存在していた。その時点で、今日一日どころか人生単位でも上位に入る衝撃だった。なのに、
「…………。」
その全てを、最後の一言が綺麗に吹き飛ばしていた。
「……ちょっと待て。」
火のエルが、両手で頭を抱える。
「それは聞いてない。」
「今、初めて言った。」
「そういう意味じゃねえよ!」
火のエルの叫び声が、再び店内へ響き渡った。
ーーーーー
「……まず、前提から話そう。」
闇の力はそう言うと、テーブルの上に置かれたコーヒーへ一度だけ視線を落とした。火のエルは何も言わず、その続きを待つ。
「インフィニティ・ストーンの転生者は、同じ時代に必ず七人存在する。」
火のエルが瞬きをした。
「……七人?必ず?」
「必ずだ。一人が欠ければ、新たな転生者が生まれる。多少の時間差は存在するが、基本的に同じ時代に七人が存在するようになっている。」
火のエルは腕を組み、少しだけ考えるように天井を見上げた。
「つまり、黒雄、あの自称ウルトロン、そして俺たち以外にも、まだいるってことか?」
「そういうことになる。」
「……しかも、全員がインフィニティ・ストーンの力を持った転生者。」
「ああ。」
火のエルの眉間に皺が寄った。
ただでさえ、一人一人がとんでもない力を持っている。自分のタイム・ストーンの力は言うまでもなく、先日現れた自称ウルトロンのマインド・ストーンの力もだ。洗脳を封じられても、文字通り無尽蔵と呼べるほどのエネルギーを生み出し、暴れていた。そんな存在が、
「……七人。」
「七人だ。」
「多くねぇか?」
「私に言われても困る。」
「いや、そうなんだけどよ。」
火のエルは頭を掻くと、小さく息を吐いた。
「で、その七人が宇宙のどっかに生まれるわけか。」
「ああ。転生する場所に規則性はない。地球で生まれることもあれば、遥か彼方の惑星で生まれることもある。文明を持つ種族とは限らないし、そもそも人型生命体である保証すらない。」
「…………。」
「だが、一つだけ共通する性質がある。」
闇の力が、そこで僅かに言葉を区切った。
「全員が、地球を目指す。」
火のエルが首を傾げる。
「地球を?」
「ああ。」
「何で?」
「帰巣本能、とでも表現すれば分かりやすいだろう。」
「帰巣本能……。」
「インフィニティ・ストーンにとって、地球は特別な場所だ。理由については後で説明するが、転生者たちは自覚の有無にかかわらず、地球へ向かおうとする。」
「……自称ウルトロンも?」
「おそらくな。」
その言葉に、火のエルは黙り込んだ。自称ウルトロン。地球とはまったく異なる星に生まれ、それでも地球人だった頃の記憶を持ち、最終的には地球へ辿り着いた存在。
あれほど地球へ執着していた理由。
「……地球へ帰りたい、か。」
「そうだ。」
火のエルは何とも言えない顔をした。
「随分と面倒な本能を仕込まれてるんだな。」
「面倒どころではない。」
闇の力は淡々と答える。
「当然だが、転生者たちは宇宙全土に散らばっている状態だ。」
「まあ、そうなるよな。」
「スペースオペラと呼ばれるほどの文明水準に到達した星ならば、まだ可能性はある。恒星間航行技術を持ち、星系を越え、銀河を移動できる文明ならば、時間さえかければ地球へ辿り着けるだろう。」
「…………。」
「だが、地球と同程度の文明しか持たない星に生まれた場合は?」
「あー……。」
火のエルが察したように声を漏らした。
「無理だな。」
「ああ。」
現在の地球ですら、有人宇宙飛行は極めて限られた範囲に留まっている。ましてや、何光年、何百光年、あるいは銀河そのものを跨ぐ距離を移動するなど、通常ならば不可能に近い。
「本人がどれほど地球へ帰ることを望んだところで、文明そのものに星を越える技術が存在しなければ、どうしようもない。」
「じゃあ、そういう奴はどうなる?」
「死ぬ。」
あまりにも端的な答えに、火のエルが黙った。
「寿命であれ、事故であれ、戦争であれ、理由は何でもいい。その肉体が滅びれば、宿っていたインフィニティ・ストーンも一度その肉体から解放される。」
「それで?」
「再び転生する。」
「……また?」
「ああ。」
闇の力は頷いた。
「そして、新たな肉体で、再び地球への帰還を目指す。それでも辿り着けなければ、また転生する。何度でもだ。」
「…………。」
火のエルは完全に黙り込んだ。
一度や二度、そんな程度ではない。宇宙という途方もない広さの中で、偶然、地球へ辿り着ける環境に生まれるまで。あるいは、自らの力で地球へ到達できる存在へ転生するまで。
死んで、生まれて、また死んで、再び生まれる。その繰り返し。
「……気の長い話だな。」
「彼らにとって時間は、我々が考えるほど重要なものではない。」
「まあ、宇宙開闢から存在してる石だもんな。」
「正確には、今は石ではないがな。」
「分かってるよ。」
火のエルはコーヒーを一口飲む。それから、
「はー……。」
大きく息を吐き、背もたれへ身体を預けた。
「そんなシステムになってんのか。」
「そういうことだ。」
「なるほどなぁ……。」
火のエルはしばらく天井を眺めていたが、やがて何かを思い出したように視線を戻した。
「……ああ、そうだ。話は戻るが。」
火のエルは闇の力を見る。
「結局、黒雄は何のストーンなんだ?」
「…………。」
「いや、さっきから考えてたんだけどよ。」
火のエルは指を折りながら、
「スペース、マインド、リアリティ、パワー、タイム、ソウル。」
一つずつ名前を挙げていく。
「黒雄の力って、正直どれでも説明できそうなんだよな。」
「俺がタイム、自称ウルトロンがマインド、あんたがソウルだとする。物質を変化させるならリアリティっぽいし、馬鹿みたいなエネルギー量だけ見りゃパワーでもおかしくない。」
「…………。」
「空間だって、ゴウラム経由とはいえ次元を越えてる。アルティメットになると自力で瞬間移動もできるんだろ?」
そこで火のエルは眉を寄せた。
「……どれでもいけそうなんだよな、あいつ。」
「…………。」
「で?」
闇の力は答えない。
「黒雄は、何のインフィニティ・ストーンなんだ?」
「…………。」
沈黙。それまでほとんど間を置かずに答えていた闇の力が、初めて明確に口を閉ざした。
「……おい?」
「その説明をするためには。」
ようやく闇の力が口を開く。
「一つの存在について説明しなければならない。」
「存在?」
「ああ。」
闇の力は火のエルを見つめ、
「君は、ネメシスという存在を知っているか?」
火のエルは数秒考えた。
「いや?」
そして首を横へ振る。
「MCUにいたか? そんな奴。」
「いや。少なくとも、クロオから聞いている限り、MCUには存在していなかったはずだ。」
「じゃあ何だよ。」
「マーベル原作には、おそらく存在していたのではないかと思う。」
「……原作?ああ、アメコミの方か……。」
火のエルが若干嫌そうな顔をする。
ただでさえ、この世界はMCUと異なる部分が多い。自分たちのような存在もそうだし、クウガやアギトもそうだ。そこへ今度は原作由来の存在まで混ざっていると言われれば、嫌な顔の一つもしたくなる。
「で、そのネメシスってのは何なんだ?」
「インフィニティ・ストーンの元となった存在だ。」
火のエルの動きが止まった。
「……何?」
「宇宙創生に関わる存在であり、インフィニティ・ストーン誕生の根源とも呼べる存在だ。関係だけを見れば――」
闇の力が少しだけ考え、
「私の生みの親に近い。」
「はぁ!?」
火のエルが椅子から立ち上がりかけた。
「ちょっと待て!? そんなのがいんのか!?」
「ああ。」
「いやいやいやいや!」
火のエルは珍しく明確に動揺しながら、テーブルへ両手をつく。
「インフィニティ・ストーンの元!? 宇宙創生!? お前の生みの親に近い!? それ、セレスティアルズよりヤバいじゃねぇか!?」
「本質的には、ただの寂しがり屋なのだがな。」
「情報の落差が酷ぇよ!!」
思わず叫んだ火のエルに対し、闇の力は相変わらず無表情だった。
「まあ、そんな存在がいた。」
「雑に戻すな!」
「そして、ネメシスはインフィニティ・ストーンの誕生に大きく関わった。さらに、」
闇の力が続ける。
「いずれ自分が復活できるように、自らの意思――自我、と呼ぶべきか。その一部を封じたストーンも作った。」
火のエルがまた固まった。
「…………は?」
「自らの意思を宿したストーンだ。」
「いや、待て。」
火のエルが片手を上げる。
「待て待て待て。」
嫌な予感がする。先ほど、闇の力は何と言った?インフィニティ・ストーンの転生者は、同じ時代に必ず、
「……七人。」
「ああ。」
「おい。」
火のエルの顔が引きつった。
「インフィニティ・ストーンって六つだろ?」
「一般的にはな。」
「一般的にはって何だよ。」
「正確には、もう一つ存在する。」
「…………。」
「エゴストーン。」
闇の力が、その名を告げた。
「ネメシス自身の意思、自我を封じた――第七のインフィニティ・ストーンだ。」
火のエルは何も言わない。言えない。頭の中で、今までの話が猛烈な勢いで繋がっていく。七人、必ず七人。六つのインフィニティ・ストーン。そして、第七のストーン。
「……おい。」
火のエルが、ゆっくりと顔を上げる。
「待て。」
闇の力は黙っている。
「まさか。」
その先を言わせたくないとでもいうように、火のエルが僅かに身を乗り出した。だが、闇の力は告げる。
「クロオの中に存在するインフィニティ・ストーンは――」
僅かな間。そして、
「エゴストーンだ。」
「…………。」
火のエルは、完全に言葉を失った。