日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
ストックが無くなりました。
「…………。」
火のエルは、完全に言葉を失っていた。
エゴストーン。
ネメシスという、インフィニティ・ストーンの根源とも呼べる存在が、自らの意思、自我を封じるために生み出した第七のインフィニティ・ストーン。そして、十文字黒雄の中に存在しているのが、そのエゴストーン。
「…………。」
しばらくの間、火のエルは何も言わなかった。いや、言えなかった。ここまで聞かされた情報を、一つずつ頭の中で整理しているのだろう。そんな火のエルを見つめながら、
「まあ。」
闇の力が口を開いた。
「クロオの場合、ややこしさがさらに異常なことになっているがな。」
「…………。」
火のエルの眉が、ピクリと動いた。
「……聞きたくねー。」
心の底から嫌そうな声だった。
「そうか。」
「いや、待て。」
闇の力が話を終わらせようとした瞬間、火のエルが片手を上げる。
「…………。」
数秒、悩む。本当に聞きたくない。ここまででも十分すぎるほど話がややこしいのだ。自分がタイム・ストーンの力を持つ転生者で、自称ウルトロンがマインド・ストーンの力を持つ転生者。そして、目の前にいる宇宙開闢から存在する超越者も、実はソウル・ストーンの力を持つ転生者。しかも、通常の六つとは別に第七のインフィニティ・ストーン、エゴストーンなるものまで存在していて、それが黒雄の中に存在している。
これ以上、何をどうすればややこしくなるというのか。だが、
「…………はぁ。」
火のエルは深々と息を吐いた。
「でも、知っとくかー……。」
「そうか。」
「どうせ後から知って、あの時聞いときゃよかったってなる奴だろ、これ。」
「おそらくな。」
「じゃあ聞く。」
火のエルは諦めたように背もたれへ身体を預ける。
「で?」
「そもそも。」
闇の力は静かに話し始めた。
「私がエゴストーンの存在に気づいたのは、この星に来てからかなりの年月が経った後のことだ。」
「…………。」
「私と光のエルの争いが終わった後も、人は歴史を積み重ねた。」
闇の力の視線が、どこか遠くへ向けられる。
「国が生まれ、滅び、また新たな国が生まれた。文明は少しずつ発展し、人はこの星の各地へ広がっていった。そして、その長い歴史の中で――」
一度、言葉を区切る。
「ある集団が、一つの石を見つけた。」
「石?」
「ああ。」
闇の力は頷いた。
「彼らは、それを魔石と呼んだ。その石を体内へ取り込み、その力を利用することで、自らの姿を異形の怪物へと変貌させるようになった。」
そこまで聞いた瞬間、
「ああ。」
火のエルが納得したように頷く。
「グロンギたちか。」
「その通りだ。」
闇の力はあっさり肯定する。
「グロンギたちは魔石の力を利用し、人間とは異なる姿へ変化する能力を得た。そして、その力を使い、独自の文化と社会を形成していった。」
「ゲゲル、だったか。」
「ああ。」
火のエルは顔をしかめる。人間を殺すことを競技として扱い、その成果によって自らの地位を高めていく。文化と呼ぶには、あまりにも血生臭い集団。
「そして、そのグロンギたちの頂点とも呼べる存在。」
闇の力が続ける。
「ン・ダグバ・ゼバ。」
火のエルの表情が僅かに険しくなる。黒雄がアルティメットクウガとなり、死闘を繰り広げた相手。自分も話でしか知らない存在ではあるが、その強さが異常だったことくらいは理解している。
「ダグバのベルトにも、当然、魔石が使われていた。」
「ゲブロン、だったか?」
「ああ。グロンギの腹部に存在する魔石、ゲブロン。だがな。」
「…………。」
「ダグバのベルトには、ゲブロン以外にも別の石が使われていた。」
「おい。」
嫌な予感がした。
「待て、やめろ。」
火のエルが片手を前へ出す。
「そろそろ整理しきれなく――」
「それがエゴストーンだ。」
「はいきたー!!」
火のエルが叫んだ。
「ややこしくなった!!」
勢いよく頭を抱える。
「だから聞きたくなかったんだよ! 絶対こうなると思ったんだよ!」
「…………。」
「いや、待て待て。」
火のエルは頭を抱えたまま、何とか話を整理しようとする。
「えっと……つまり?」
指を一本立てる。
「ダグバのベルトには、エゴストーンがあった?」
「ああ。」
「………ん?」
火のエルが首を傾げた。そして、
「……ダグバがエゴストーンを持ってたのか?」
「ああ。」
「ん?」
もう一度、首を傾げる。
「持ってた?」
「持っていた。」
火のエルの眉間に、これ以上ないほど深い皺が刻まれた。
「でも、さっき黒雄がエゴストーンだって言ったよな?」
「言った。」
「どういうことだよ。」
「ダグバが持っていたのは、石としてのエゴストーンだ。」
「そっちのエゴストーンもあるのかよ!?」
火のエルの絶叫が店内へ響き渡った。
「ちょっと待て! お前さっき、この世界にはインフィニティ・ストーンが二組あるって言ったよな!?」
「ああ。」
「俺たち転生者側と、元々この宇宙に存在してる石側!」
「ああ。」
「エゴストーンにも両方あるのか!?」
「ある。」
「先に言えよ!!」
火のエルがテーブルを叩く。だが、闇の力はまったく動じない。
「そして。」
「まだあんの!?」
「グロンギたちと戦い、彼らを封印し尽くした者。」
火のエルの動きが止まる。
「先代のクウガ。彼もまた、その時代におけるエゴストーンの力を持つ転生者だった。」
火のエルは口を開いた。閉じた。もう一度開いて、
「…………。」
また閉じた。そして、
「ややこしすぎるわ!!」
本日何度目か分からない絶叫が、喫茶店の中へ響き渡った。
「何だそれ!? じゃあ昔の時代にはエゴストーンが二つ揃ってたってことか!?」
「ああ。」
「片方が先代クウガ! もう片方がダグバのベルト!」
「正確には、ダグバのベルトに組み込まれていた石だな。」
「同じだよ!」
火のエルは頭を抱えた。
「何でよりにもよって、そいつらが戦ってんだよ!」
「それについては、私にも分からない。」
「分からないのかよ!」
「ただ。」
闇の力は、ほんの僅かに目を細めた。
「現代において復活したグロンギたちとクロオが戦い、最後には再び、二つのエゴストーンの力を持つ者たちが争った。」
「…………。」
「先代のクウガとダグバ。そして、クロオと復活したダグバ。」
闇の力は静かに言う。
「何か、運命めいたものを感じるよ。」
火のエルは何も言わなかった。確かに、長い時間を隔てて、同じことが繰り返されている。エゴストーンの力を宿したクウガ。エゴストーンそのものを身に宿したダグバ。かつて戦った二人と、現代で再び戦った二人。
偶然。そう片づけるには、少しばかり出来すぎている。だが、
「………いや。」
火のエルは首を振った。
「今はそこじゃない。」
これ以上話を広げれば、本当に収拾がつかなくなる。
「ちょっと整理するぞ。」
火のエルは指を立てた。
「まず、転生者としてのエゴストーン。昔は先代クウガ。先代クウガが死んで、巡り巡って現代では黒雄に転生した。」
「概ね、その認識でいい。」
「で、もう一個。」
二本目の指を立てる。
「石として存在してる方のエゴストーン。それが、ダグバのベルトに入っていた。」
「そうだ。」
ようやく少し整理できた。火のエルは一度大きく息を吐き、
「じゃあ。」
ふと疑問を抱く。
「今、その石の方のエゴストーンはどこにあるんだ?」
「…………。」
「ダグバは黒雄が倒したんだろ?」
「ああ。」
「だったら、回収したのか? あんたが管理してるとか?」
闇の力が黙った。
「おい?」
「そこなのだ。」
火のエルの目が細くなる。闇の力の表情が、ほんの僅かに変わっていた。困ったような顔。普段ほとんど感情らしい感情を表に出さない闇の力が、明確に困っている。
「…………どこだよ?」
「…………。」
「いや、待て。」
火のエルの顔が引きつった。
「待て待て待て。」
嫌な予感どころではない。ここまで何を聞かされても平然としていた闇の力が、困っている。それだけで、絶対に碌でもない話だと分かる。
「アンタが困り顔する案件とか、俺は聞きたくな――」
「石の方のエゴストーンは、クロオの中に取り込まれ、融合してしまったのだ。」
「…………。」
火のエルが固まった。
「…………は?」
「クロオがダグバを倒した際、ダグバの体内に存在していたエゴストーンはクロオへ取り込まれた。」
「…………。」
「そして、元々クロオの中に存在していた転生者としてのエゴストーンと融合している。」
「…………。」
火のエルは何も言わない。いや、何も言えない。
「ちょっと待て。」
ようやく、それだけを絞り出した。
「つまり。」
火のエルは震える指で一本目を立てる。
「黒雄自身が、転生者としてのエゴストーン。」
「ああ。」
二本目。
「ダグバが持ってた、石としてのエゴストーン。」
「ああ。」
二本の指を、そのまま重ねる。
「それが今、両方とも黒雄の中にある?」
「そうだ。」
「…………。」
「…………。」
「何してんだ、あいつ。」
「本人にそのつもりはなかった。」
「知ってるよ!」
火のエルは再び頭を抱えた。
「何であいつ、知らない間にインフィニティ・ストーン二個分抱え込んでんだよ!」
「しかも。」
「まだあるのかよ!?」
「霊石アマダムと魔石ゲブロンは、エゴストーンとの相性が良すぎてな。」
火のエルの動きがまた止まる。
「…………もう嫌だ。」
だが、闇の力は続ける。
「本来、エゴストーンそのものには、他のインフィニティ・ストーンほど明確な特殊能力が存在するわけではない。」
「……そうなのか?」
「ああ。」
「ネメシスの自我が入ってるんだろ?」
「だからこそだ。」
闇の力は淡々と説明する。
「エゴストーンの本来の役割は、ネメシスの自我を収めること。そして、他のインフィニティ・ストーンと繋がり、それらを統合するための器となることだ。」
「器……。」
「ああ。故に、単体で時間を操るタイム・ストーンや、精神へ干渉するマインド・ストーンのような、明確な能力は本来ほとんど持っていない。」
「じゃあ、黒雄のあの力は?」
「そこに、アマダムとゲブロンが関わってくる。霊石アマダム。そして魔石ゲブロン。この二つには、極めて特徴的な性質が存在する。」
闇の力が静かに告げる。
「使用者の思いに反応する。使用者が何を望むか。何を求めるか。何を成そうとするか。それに応じて姿を変え、能力を獲得し、成長していく。」
火のエルは黙って聞いている。
「本来ならば、そこにも限界は存在する。」
「そりゃそうだろ。」
「ああ。どれほど使用者の思いに応えようとも、石そのものが持つエネルギーや構造には限界がある。無から無限に力を生み出せるわけではない。実際、グロンギの強さは世に言う超人止まり。金の力などの後付けの力を手に入れても、エルロードに届くくらいだ。」
「……それでも破格だがな。」
火のエルの顔が、また嫌そうに歪む。もう、この先が何となく分かってしまった。
「まさか。」
「ああ。」
闇の力は頷いた。
「エゴストーンが、その上限を取り払った。本来ならば、他のストーンとネメシスの自我を収める器でしかなく、特に特殊な力を持たないエゴストーン。」
闇の力は自分の指先へ視線を落とす。
「だが、器であるが故に、受け入れることに関しては他のストーンを遥かに凌駕する。そして、使用者の思いに応じて際限なく変化しようとするアマダムとゲブロン。」
「…………。」
「それらが融合した結果。」
闇の力は一度、言葉を区切った。
「アマダムとゲブロンは、エゴストーンから事実上無尽蔵のエネルギー供給を受けながら、クロオの意思に応じて際限なく変化し続けることが可能になった。」
「…………。」
火のエルは、何とも言えない顔で闇の力を見つめた。
「それって。」
「ああ。」
「……かなりヤバくない?」
「ヤバい。」
即答だった。
「しかも。」
闇の力が続ける。
「先ほども言ったが、今のクロオは、エゴストーン二つ分の力を秘めている。」
火のエルは目を閉じた。数秒後、ゆっくりと目を開き、
「……ヤバくない?」
もう一度、同じ質問をした。闇の力は、今度も一切迷わなかった。
「ヤバい。」
ーーーーー
闇の力は、それ以上何も言わず、テーブルの上に置かれたカプチーノへ手を伸ばした。火のエルもまた、何とも言えない顔のまま自分のカップを見る。いつの間にか中身はほとんど空になっていた。
「……おかわり。」
店員へ声をかける。しばらくして新しいコーヒーが運ばれてくると、火のエルはそれを受け取り、何も言わず口をつけた。
「…………。」
闇の力もカプチーノを飲む。
「…………。」
火のエルもコーヒーを飲む。
「…………。」
また、闇の力が飲む。
「…………。」
火のエルも飲む。
しばらくの間、二人の間に会話はなかった。今日だけで、あまりにも多くの情報を詰め込まれすぎた。
転生者。インフィニティ・ストーン。第七のストーン。ネメシス。先代クウガ。ダグバ。そして、二つのエゴストーンを内包している十文字黒雄。
一つ一つ整理するだけでも頭が痛くなりそうな話ばかりだ。
だからこそ、火のエルはしばらく何も考えず、ただコーヒーを飲んでいた。だが、
「……なあ。」
やがて、火のエルが口を開いた。闇の力が視線だけを向ける。
「知ってればでいいんだけどよ。」
「何だ。」
「さっきの話。」
火のエルはカップをテーブルへ置いた。
「なんで俺たち転生者はインフィニティ・ストーンの力を持ってて、しかも地球を目指すんだ?」
「…………。」
「さっき、地球が特別な理由については後で説明する、みたいに言ってただろ。」
「ああ。」
「その理由。結局、何なんだ?」
「…………。」
闇の力はすぐには答えなかった。僅かな沈黙の後、
「……はぁ。」
珍しく、明確な溜め息を吐いた。
「何だよ、その反応。」
「説明するのが少々面倒でな。」
「ここまで散々面倒な話してきただろ。」
「そうだな。」
闇の力はカプチーノを一口飲むと、静かにカップを置いた。
「まず確認する。」
「何を?」
「マーベルという世界が、マルチバースと呼ばれる構造を持っていることは理解しているな?」
「ああ。」
火のエルは頷く。
「無数の並行世界があるって話だろ? 世界ごとに歴史も違う。人物も違う。似たような世界もあれば、全然違う世界もある。」
「そうだ。」
「で?」
闇の力は少し間を置いて、
「私の生みの親とも言うべきネメシスは。」
「うん。」
「現実世界の地球を覗き見たらしい。」
「…………。」
火のエルが瞬きをした。
「現実世界?」
「ああ。」
「俺たちの前世がいた方?」
「そうだ。」
「地球の?」
「日本だ。」
数秒の沈黙。
「ほう。」
火のエルは意外にも、それほど驚かなかった。
「まあ、マーベル作品ならそれくらいあるか。」
「そうなのか?」
「第四の壁を超える奴とか、作者に文句言いに行く奴とか、そういうの普通にいる世界だろ。」
「そうなのか。」
「むしろ今更感ある。」
「なら話が早い。」
闇の力は淡々と続ける。
「ネメシスは、その日本を覗き見ることを気に入ったらしい。」
「へえ。」
「文化、娯楽、物語、食事、音楽。そういったものを見ることを楽しんでいた。」
「……随分人間臭いな、宇宙創生レベルの存在のくせに。」
「だが。」
闇の力が少しだけ目を細める。
「一つ問題があった。」
「問題?」
「一人だった。地球を覗き見ること自体は楽しい。だが、面白い作品を見ても、それについて話す相手がいない。感想を共有できない。共感する者もいない。」
「…………。」
火のエルの顔が徐々に微妙なものになっていく。
「……なるほど。」
「ああ。」
「雲行きが怪しくなってきたな。」
「そこでネメシスは考えた。」
闇の力は、何の感情もなく続ける。
「並行世界の自分にも、同じ話題を提供すればいいと。所謂………。」
闇の力が、ほんの僅かに首を傾げる。
「………オタ友?」
「急にブッ込むのやめない?」
火のエルが即座に突っ込んだ。
「何? 宇宙創生存在にオタ友って何?」
「概念としては、それが最も近い。」
「近くても言い方ってもんがあるだろ!」
「では趣味を共有する同胞。」
「急に仰々しくするな。」
「難しいな。」
「そこ悩むところじゃねえよ。」
火のエルは額へ手を当てる。
「で、その並行世界のネメシスとやらに話題提供した結果?」
「二柱は意気投合した。」
「もう二柱って言い方の時点で嫌な予感しかしねえな。」
「そして。」
闇の力は続ける。
「やがて、地球の文化を覗き見るだけでは物足りなくなった。」
「……あー。」
火のエルが片目を閉じる。
「直接触れたくなった?」
「その通りだ。」
「まあ、見るだけより実際に体験したくなるのは分からんでもない。」
「そこで二柱は考えた。」
「うん。」
「地球を作ろう、と。」
「…………。」
「…………。」
火のエルは数秒、黙った。
「待て。」
「何だ。」
「今、地球を作ろうって言った?」
「ああ。」
「自分たちが直接、日本とか地球文化に触れたいから?」
「そうだ。」
「…………。」
火のエルは嫌な予感を抱きながらも、
「で?」
と先を促す。闇の力は何でもないことのように答えた。
「まず宇宙を作った。」
「ねえ。」
火のエルが即座に口を挟んだ。
「何だ。」
「美味い米とか野菜食べたいから、まず畑を自前で作った、みたいなノリやめない?」
「違うのか?」
「規模が違いすぎんだよ!」
火のエルがテーブルを叩く。
「地球一個作りたいから宇宙作りました、って何だよ! 順序が壮大すぎるだろ!」
「地球だけを単独で成立させるのは難しい。」
「そういう真面目な補足求めてねえよ!」
闇の力は特に気にした様子もなく話を続ける。
「そうして宇宙が誕生した。そして、その宇宙の創生と同時に、インフィニティ・ストーンも生まれた。」
「石の方な。」
「ああ。それと、」
闇の力が続けようとした言葉を、火のエルが嫌そうな顔のまま先に拾う。
「俺たち転生者側も?」
「そうだ。」
闇の力は頷く。
「インフィニティ・ストーンと、それと同様の力を宿す転生者たちが生まれた。」
「つまり。」
火のエルは話を整理する。
「地球へ行くために宇宙を作った結果、その過程でインフィニティ・ストーンが生まれて、さらに俺たちみたいな転生者も生まれた?」
「概ねそういうことだ。」
「雑!」
「宇宙創生の説明としては簡略化している。」
「簡略化しすぎだろ!」
火のエルは頭を掻きむしる。
「で。」
そこで、ふと表情を戻した。
「だから俺たち転生者は地球へ行こうとするのか?」
「おそらくな。地球への帰巣本能を植え付けるために、ネメシスが覗き見た人間の記憶を転写したのか、魂をシステムに組み込んだのか。」
「おそらく?」
「ああ。」
闇の力は静かに頷く。
「私にも全てが分かっているわけではない。」
「アンタでもか。」
「ただ。」
闇の力は自分のカプチーノへ視線を落としながら、
「転生者たちには、明確に地球へ向かおうとする性質がある。」
「帰巣本能みたいなヤツだよな。それがネメシス由来だと?」
「そう考えるのが自然だ。」
「なるほど。」
火のエルは腕を組む。
「元々、地球へ行くために作られたような宇宙なら、まあ納得できなくもない。」
「それと。」
闇の力が続ける。
「石として存在するインフィニティ・ストーンにも、最終的には持ち主を地球へ導く何らかの性質があるのだろう。」
火のエルが目を瞬く。
「言われてみりゃ。」
少し考える。
「やたらと地球に来るもんな、インフィニティ・ストーン。」
「そうだ。」
「スペース・ストーンも地球にあったし、マインド・ストーンもセプター経由で来た。タイム・ストーンも地球だし。」
「他のストーンも、最終的には地球と強く関わることになる。」
「偶然にしちゃ多すぎるな。」
「ああ。」
火のエルは少し考えた後、
「じゃあ。」
と口を開く。
「ネメシスたちの計画としては、上手くいったのか?」
「いや。誤算がいくつかあった。」
火のエルが頬杖をつく。
「まあ。」
嫌そうに笑う。
「ノリと勢いで宇宙作れば、そりゃ誤算もあるだろ。」
「ノリと勢いではない。」
「聞いてる限りほぼそうだろ。」
「少なくとも本人たちは真剣だった。」
「余計に怖えよ。」
闇の力は無視して続ける。
「第一の誤算。」
「はいはい。」
「この世界には、実質的に二組のインフィニティ・ストーンが存在することになった。」
「石側と転生者側。」
「ああ。」
「しかも、エゴストーンまで含めれば七つずつ。」
「そうだ。」
「十四個。」
「そうなる。」
火のエルは顔をしかめる。
「改めて聞くと頭おかしいな、この宇宙。」
「さらに。」
闇の力が続ける。
「ネメシス本体も二柱存在する。」
「並行世界の自分を引っ張ってきたからな。」
「ああ。」
「つまり?」
「宇宙創生に関わる存在が二柱。インフィニティ・ストーン級の存在が実質二組。その結果、」
闇の力は淡々と告げる。
「この世界は、マルチバースの中でも極めて特殊な世界となった。」
「特殊? どれくらい?」
「他の並行世界への干渉が、ほぼ不可能になる程度には。」
火のエルが固まる。
「………え?」
「この世界は、他のマルチバースから極端に独立した状態になった。」
「つまり。」
火のエルはゆっくりと言葉を選ぶ。
「他の世界を覗いたり。」
「ああ。」
「行き来したり。」
「難しい。」
「干渉したり。」
「ほぼ不可能だ。」
火のエルは、しばらく何も言わなかった。そして、
「………それって。」
嫌な予感を確信へ変えながら、
「ネメシスたちからすると?」
闇の力は答えた。
「オタ活ができなくなった。」
「だから言い方!」
火のエルの叫び声が、店内へ響き渡った。
ーーーーー
「はぁ……っ、はぁ……っ。」
火のエルは肩で息をしながら、片手でテーブルを支える。今日だけで何回声を張り上げたのか、もう数える気にもならない。
対する闇の力は、そんな火のエルをいつもと変わらない無表情で見つめていた。そして、
「趣味の共有ができなくなった二柱は。」
何事もなかったかのように話を再開する。
「おそらく、かなりのショックを受けた。」
火のエルはまだ息を整えながら、嫌そうな顔を向ける。
「それで?」
「そして、こちらも推測になるが。」
闇の力は僅かに考えるような間を置いた。
「不貞寝を――いや、休眠状態に入った。」
「今、不貞寝って言ったよな?」
「言い直した。」
「絶対、不貞寝の方が正しいだろ。」
火のエルは椅子へ座り直すと、両手で頭を抱えた。
「メンタル弱すぎだろ……。宇宙一個作っといて、趣味の共有ができなくなったから寝るって何だよ……。」
「仕方がない。メンタルというものは、基本的に他者との関わりによって成長するものだ。」
火のエルが顔を上げる。
「急にまともなこと言うな。」
「ネメシスは、本来ならば他者との関わりを必要とする存在ではない。自らで完結し、自らで存在し続けられる。宇宙が存在しようがしまいが、生命が生まれようが生まれまいが、本質的には何の影響も受けない。」
「まあ、宇宙創生に関わるような存在なら、そうなんだろうな。」
闇の力はカプチーノへ視線を落とした。
「他者と関わる機会そのものが、存在しなかった。他者との関わりがなければ、感情を制御する必要もない。失望への耐性も、孤独への耐性も、他者との距離の取り方も学ぶ機会がない。つまり、メンタルを鍛えようがない。」
「嫌な説得力あるな。」
火のエルは額を押さえた。
「宇宙創生存在のメンタル育成論とか聞きたくなかったんだけど。」
「私も話すつもりはなかった。」
「じゃあ何でこんなことになってんだよ。」
「君が聞いたからだ。」
「そうだった。」
火のエルは諦めたようにコーヒーを一口飲む。
「で、そのままずっと寝てたのか?」
「少なくとも、私が認識している限りではな。」
闇の力は頷いた。
「事実として、私がダグバの中に存在するエゴストーン、そして先代クウガがエゴストーンの力を持つ転生者であることに気づいた時点では、ネメシスの意思そのものを感知することはできなかった。」
「中身は寝たままだったと?」
「表現としては、それが近い。だが、」
闇の力の声が、僅かに低くなる。
「その意思を、明確に感知した瞬間があった。」
火のエルの表情が変わった。
「まさか。」
闇の力は答える。
「先代クウガとダグバが争った瞬間だ。」
火のエルが天井を仰いだ。
「やっぱそこなのかよ。」
「あの時、二つのエゴストーンは極めて近い距離で互いの力をぶつけ合った。」
「それで寝てたネメシスが起きた?」
闇の力は少しだけ間を置いた。
「双方に宿っていたネメシスの意思が、同時に覚醒した。そして、自分たちが地球にいることに気づいた。」
火のエルが少しだけ身を乗り出す。
「それって、目的達成じゃないのか?」
「本来ならばな。」
闇の力は淡々と告げる。
「そこで、第二の誤算が発生した。」
火のエルの顔が引きつる。
「サブカルチャーが、まだ発展していなかった。」
火のエルは何も言わない。ただ、無言のままコーヒーを持ち上げ、一口飲んだ。カップを置く。そして、そのまま視線を逸らした。
「もう突っ込みは入れない。これ以上真面目に付き合ったら負ける気がする。」
火のエルは遠い目をする。
「宇宙作って、地球に来て、やっと目覚めたらサブカルがまだ発展してなかったから落ち込むとか、もう知らん。」
ならば、と闇の力は続ける。
「その後、二柱は再び休眠状態に入った。」
火のエルの眉がピクリと動き、
「また不貞寝したのかよ!」
結局、無言は無理だった。火のエルが再びテーブルを叩く。
「自由すぎるだろ! 起きる! 落ち込む! 寝る! 何だその生活!」
「本人たちにとって、数千年程度は大した時間ではない。」
「そういう問題じゃねえ!」
火のエルは頭を抱える。
「もう嫌だ、この宇宙の創造主ども……。」
「そして、現代。」
闇の力は火のエルの言葉を無視する。
「第三の誤算が起きた。」
火のエルがゆっくり顔を上げる。
「第三。一つ目が、宇宙を作ったらマルチバースから隔離された。二つ目が、地球で目覚めたのに文化がまだ発展してなかった。で、三つ目。」
火のエルは少し考え、
「予想するに、今度は黒雄とダグバが争った時だな?」
「その通りだ。」
火のエルはもう驚かなかった。むしろ、ここまで来ると予想できる。かつて先代クウガとダグバが戦った際、二柱のネメシスが覚醒した。ならば現代で、再び同じ二つのエゴストーンがぶつかり合った時も、何かが起きたと考える方が自然だ。
火のエルは頬杖をつく。
「今度は何があった?」
「ネメシスたちにとって。」
闇の力は静かに告げる。
「最大の誤算が起きた。」
火のエルの表情が僅かに真剣になる。これまでの二つが二つだけに、最大と言われても嫌な予感しかしない。
「クロオとダグバの戦いを至近距離で見た。」
火のエルは数秒黙った。
「………それだけ?」
「それだけだ。」
火のエルが片手を振る。
「いやいや。先代クウガとダグバだって戦ったんだろ? なら、殴り合いくらい見てるだろ。」
「先代の戦いと、クロオたちの戦いは少々違う。」
「どう違う。」
「クロオとダグバは。」
闇の力は一度、言葉を区切った。
「かなり本気で殴り合っていた。互いに顔面を殴り、血を流し、骨を砕き、最後には、互いに変身が解除されても殴り合っていた。」
火のエルは黙り、少し考え、
「慣れてない奴が見たら、きついか。」
「ああ。」
闇の力は頷いた。
「ましてや。ネメシスたちは、それまで基本的に現実世界の地球を外側から眺めていただけだ。映像や物語として戦いを見ることはあっても、実際に肉が裂け、骨が砕け、血が飛び散る光景を至近距離で体験したことはなかった。しかも、」
闇の力は続ける。
「自分たち自身が宿っている存在同士が、それをやっていた。」
火のエルの顔が段々と微妙になっていく。
「まさか。怖くなった?」
「おそらく。」
闇の力は淡々と答えた。
「慣れない光景を至近距離で見せられ、強い精神的衝撃を受けたのだろう。そして、引きこもった。」
火のエルは目を瞬く。
「引きこもったのか? 宇宙創生存在が自分の石の中に?」
「ああ。」
火のエルは何とも言えない顔になった。
「今度は不貞寝じゃなくて?」
「今回は明確に、自らの意思を閉ざした。」
「進化してるじゃねえか。」
「悪い方向にな。」
火のエルは深々と息を吐いた。そこで、何かに気づく。
「待て。」
「何だ。」
「ネメシスが引きこもったってことは、クロオの中にある、転生者側のエゴストーン。そっちのネメシスが、自分の領域か何かに閉じこもった?」
「概ね、その認識でいい。」
火のエルが眉を寄せる。
「そして、ネメシスが自らの意思を奥へ閉ざしたことで、クロオの中に存在していたエゴストーンには空きができた。」
「空き?」
「正確には、エゴストーンが持つ、他の存在を受け入れるための器としての領域にだ。」
火のエルの表情が変わる。何となく、また嫌な予感がした。
「その結果。」
闇の力は淡々と告げる。
「ダグバのベルトに存在していた、もう一方のエゴストーンがクロオへ吸収された。」
火のエルは固まった。
「つまり、ネメシスが引きこもったことで生じた空白へ、もう一つのエゴストーンが入り込んだ。そして、二つは融合した。」
「………なあ。」
「何だ。」
「黒雄が今、エゴストーン二個分抱えてる原因って、元を辿ると。」
火のエルは片手で顔を覆った。
「宇宙創生存在が、殴り合い見て怖くなって引きこもったせい?」
闇の力は数秒だけ考え、
「かなり大雑把に言えばそうなる。」
「…………。」
火のエルは、そのまましばらく動かなかった。
ーーーーー
火のエルは、そのまましばらく動かなかった。
片手で顔を覆い、テーブルへ肘をつき、もう片方の手で冷めかけたコーヒーのカップを弄る。今日だけで聞かされた情報量を考えれば、無理もない。
宇宙創生。
ネメシス。
インフィニティ・ストーン。
転生者。
エゴストーン。
先代クウガ。
ダグバ。
そして、二つのエゴストーンを抱え込んだ十文字黒雄。
「…………。」
しばらくして、火のエルがようやく顔を上げた。
「もう、今日はこれ以上聞かねえぞ。」
「そうか。」
「また『そうか』って言って、こっちが気になって聞くの待ってんだろ。」
「そのつもりはない。」
「本当かよ。」
疑わしそうな視線を向ける火のエルだったが、闇の力はいつも通りの無表情を崩さない。やがて、今度は闇の力から口を開いた。
「では、こちらから一つ聞いてもいいか。」
火のエルが眉を上げる。
「……珍しいな。アンタから俺に質問?」
「ああ。」
闇の力は少しだけ視線を細める。
「そちらの活動は、大丈夫なのか?」
火のエルの動きが止まるが、すぐに何でもないような表情へ戻る。
「活動って?」
「君が裏で行っていることだ。」
火のエルは肩をすくめた。
「まあ、大丈夫だろ。俺が表立って何かしてるわけじゃないし。」
「そうか。」
「基本、裏で色々やってるだけだしな。目立つような真似はしてない。」
「なるほど。」
「だから、まあ。」
火のエルはコーヒーを一口飲み、
「今のところ問題ない。」
闇の力は静かに頷いた。そして、
「では、魔術関連は任せるぞ。」
火のエルの眉が僅かに動く。闇の力は、何の気負いもなく、その名を口にした。
「ドルマムゥ。」
「…………。」
火のエルが黙る。
「…………。」
闇の力は何も言わない。火のエルも、しばらく何も言わない。やがて、
「…………はっ。」
火のエルの口元が僅かに歪んだ。それは誤魔化すような笑いではない。どこか、諦めたような。それでいて、少しだけ楽しそうな笑みだった。
「なんだ。」
火のエルは背もたれへ身体を預ける。
「知ってたのか。」
闇の力は答えない。ただ、いつも通りの無表情で、カプチーノを一口飲んだ。火のエル――いや、ドルマムゥは、そんな闇の力を見て、小さく笑った。
ーーーーー
数日前。
「――何だ!?」
鈍い衝撃と共に、金属質の身体が地面へ叩きつけられた。
『ぐっ……!?』
ゾラウルトロンは咄嗟に両腕をつき、身体を起こす。つい先ほどまで自分は地球にいた。あの忌々しいクウガ、十文字黒雄、そしてアベンジャーズ。奴らとの戦闘によって身体は大きく損傷し、機能の多くを失い、それでも辛うじて動ける程度の状態だった。それが、
『ここは……。』
ゆっくりと顔を上げる。見たことのない空、見たことのない大地、周囲には建造物らしきものすらない。地球ではない。少なくとも、自分が認識している地球上のどこかではない。
『何が起きた……。』
その時だった。視界の先に、人影が二つ見える。一人は女。全身を包むように、赤い光が揺らめいている。そして、もう一人は男。こちらは青い光。二人とも、ゾラウルトロンに背を向けたまま立っていた。
『…………。』
ゾラウルトロンは僅かに身構える。あの光、赤い方。自分が十文字黒雄にやられそうになった瞬間に、割って入った光だ。
『お前たちが。』
ゾラウルトロンは警戒しながら声を上げた。
『私をここへ連れてきたのか?』
返事はない。二人は振り返りもしない。その反応に、ゾラウルトロンの顔が僅かに歪む。
『聞いているのか。』
それでも、反応はない。
『貴様ら――』
苛立ち、恐怖、そして、自分が無視されているという事実に対する不快感。それらが混ざり合い、
『無視をするな!』
ゾラウルトロンは右足を踏み出した。そして、赤い光を纏う女の肩へ、左手を伸ばす。その瞬間、
『――え?』
何かがおかしかった。左腕、肘から先が、ない。
『何だこれはァァァァァァッ!!』
ゾラウルトロンの絶叫が荒野へ響き渡った。斬られた? そんな感覚すらなかった。攻撃されたという認識すらない。ただ、気づいた時には腕が消えていた。
『何をした!? 何をした貴様ァ!!』
赤い光を纏う女は、ようやく僅かに顔だけを向けた。だが、何も言わない。表情すら変えない。
『く……っ。』
ゾラウルトロンは後ずさった。駄目だ。頭の中で警報が鳴る。今の自分では勝てない。ならば、
『退避――!』
その場から走り出す。数十メートル。いや、百メートル近く走った。はずだった。だが、
『…………。』
ゾラウルトロンの足が止まる。目の前には、先ほどと同じ男女がいる。
『な……。』
振り返る。周囲の風景も同じ。
『戻った……?』
理解できない。
『ならば――!』
――ゴォォォォォォッ!!
ゾラウルトロンの身体が一気に上空へ飛び上がる。今度こそ。そう思った瞬間。
『――ッ!?』
天地が反転した。違う、自分が落ちている。
『な――』
――ドゴォォォォォォン!!
地面へ、顔面から激突した。
『ぐぁっ……!?』
ひび割れた地面の中で、ゾラウルトロンが呻く。
『何だ……。』
分からない。何をされた。なぜ戻った。なぜ落とされた。
『何が起きている……!?』
怯えながら顔を上げ、そこで気づく。青い光を纏う男。その男が、片手をこちらへ向けていた。
『…………。』
ゾラウルトロンの身体が僅かに震える。
『貴様が……。』
その瞬間。二人の視線が同時に、ゾラウルトロンの後方へ向けられた。
『何だ――』
振り返る。すると、遠方から何かが飛来してくる。複数の金属部品が高速で飛び、ゾラウルトロンの周囲へ展開した。
『なっ!?』
――ガシャン!!
次々と金属製の拘束具が装着される。
『何だこれは!』
――ガシャン!!
最後に胸部へ大型の装置が取り付けられた。
『外せ!』
力を込める。だが、
『ぐっ……!』
身体が動かない。そもそも、地球でクウガと戦い、身体の出力は大きく低下している。片腕まで失った今、満足に抵抗する力など残されていなかった。
『外せ! これは何だ!』
その時。重い足音が聞こえた。
――ズン。
――ズン。
――ズン。
二人の男女のさらに奥。暗がりの中から、一人の巨漢が姿を現す。
紫色の肌。
圧倒的な体格。
そして、その存在だけで周囲の空気が変わるような、異様な威圧感。
『…………。』
ゾラウルトロンは言葉を失った。巨漢は、まず赤と青の光を纏う二人を見る。
「ご苦労だった。」
「…………。」
「…………。」
二人は僅かに頭を下げた。そして、巨漢の視線が、ゾラウルトロンへ向けられる。
『貴様は……。』
「それが。」
巨漢はゾラウルトロンの言葉を遮った。
「マインド・ストーンの力を宿す存在か。」
『……何だと?』
ゾラウルトロンの顔が強張る。巨漢は近づいてくる。
『何をするつもりだ。』
「簡単なことだ。」
巨漢はゾラウルトロンの胸元へ取り付けられた装置を見下ろした。
「その装置は、生物、あるいはそれに近い存在を、鉱物へと変換するための装置だ。」
『何?』
「ただし。」
巨漢は淡々と話す。
「欠点もある。」
『…………。』
「変換に必要なエネルギーが、あまりにも膨大なのだ。通常の生物一体を鉱物へ変えたところで、そのために消費する資源の方が遥かに大きい。」
巨漢は僅かに口元を歪める。
「割に合わん。」
『ならば――』
ゾラウルトロンの声が僅かに震える。
『なぜ私に使う。』
巨漢は即答した。
「簡単だ。変換された先が、価値ある鉱石ならば。」
『…………。』
「元は取れる。」
ゾラウルトロンの目が見開かれる。
『待て。』
「始めろ。」
『待て!』
装置が起動する。
――キィィィィィィィィン!!
『待てと言っている!』
全身へ異様な感覚が走る。金属の身体が、細胞でも機械でもない何かへ、作り替えられていく。
『やめろ!』
ゾラウルトロンは暴れるが、
『私は! 私はヒドラの――!』
――バチィィィィィン!!
黄色の光が全身から噴き出す。
『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
絶叫。身体が崩れていく。違う。圧縮され、縮んでいる。人型の身体が、一つの小さな何かへと集約されていく。
『やめろォォォォォォォォォォォォォォ!!』
黄色の光が爆発する。そして、
――キィン。
先ほどまでゾラウルトロンがいた場所。そこには、一つの石が浮かんでいた。黄色い光を放つ小さな鉱石。巨漢が手を伸ばすと、その石がゆっくりと掌へ収まった。
「なるほど。」
じっと見つめ、僅かに目を細めた。
「確かに、マインド・ストーンだ。」
赤と青の光を纏う二人は何も言わない。巨漢は石を見つめたまま、
「これで二つ。」
そう呟く。やがて、その視線が、二人へ向けられた。
「…………。」
「…………。」
「スペース・ストーン。」
青い光を纏う男を見る。
「そして。」
赤い光を纏う女へ視線を移す。
「リアリティ・ストーン。」
二人の表情は変わらない。
「もし。」
巨漢は淡々と続けた。
「本来の石を手に入れることができなかった場合。」
場の空気が重くなる。
「お前たちにも、同じ運命を辿ってもらわねばならん。」
二人は同時に片膝をついた。そして、頭を垂れる。
「サノス様のためなら。」
赤い光を纏う女が静かに口を開く。
「この命。」
続いて、青い光を纏う男。
「この身体。」
二人の声が重なる。
「「捧げることを厭いません。」」
「そうか。」
サノスは短く答えた。そして、黄色く輝く石を掌に乗せたまま、ゆっくりと両腕を持ち上げる。その両腕には異様なものが装着されていた。
右腕、そして左腕。それぞれに一つずつ、インフィニティ・ストーンを収めるための巨大な籠手。二つのインフィニティ・ガントレット。
そして、その双方には既に。
――ゴォォォォォォォォ……。
紫色の光が輝いていた。一つではなく二つ。右のガントレットに一つ。左のガントレットにも一つ。それぞれに、紫色のインフィニティ・ストーン、パワー・ストーンが嵌め込まれていた。
双石
話し合うソウルストーンとタイムストーンの力を持つ転生者。
十文字黒雄の中に存在する二つのエゴストーン。
現れるスペースストーンとリアリティストーンの転生者。
そしてサノスの両腕にそれぞれ輝く、二つのパワーストーン。