日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
内容的にはホームカミングですが、シビルウォー編です。
ニューヨーク、クイーンズ。
ピーター・パーカーは、学校から帰る途中だった。
片手にはバックパック。もう片方の手には、帰り道で買った安い飲み物。見た目だけなら、どこにでもいる高校生だ。もっとも。少し前まで、この高校生は赤と青のスーツを着て、高層ビルの間を飛び回っていたのだが。
「今日は……まあ、平和な方だったかな。」
朝は普通に学校へ行き、授業を受けた。放課後、少しだけ寄り道をした。路地裏で自転車を盗もうとしていた男を見つけたので止めた。迷子の犬を探すのを手伝った。事故で道路へ散らばった荷物を片付けるのを手伝った。最後にスーパーで万引きをしようとしていた男を店員へ引き渡した。
…………うん、平和だ。ピーターの中では、間違いなく平和に分類される一日だった。
「宿題、今日なんだったっけ……。」
そんなことを考えながら、自宅のある建物へ向かう。その時、
「ピーター・パーカー?」
「はい?」
反射的に振り返ると、少し離れた場所に高級そうな車が止まっていた。その横に、一人の男が立っていた。
サングラス、整えられた髭、どう考えても、この辺りには似つかわしくない服装。そして何より、その顔に見覚えがあった。
ピーターの口が開く。
「…………え? トニー・スターク?」
「正解。」
スタークは軽く片手を上げた。ピーターの手から、危うく飲み物が落ちかける。
「え、ちょ、え? 本物?」
「今のところ偽物だと言われたことは滅多にないな。」
「いやいやいやいやいや。」
ピーターが慌てて周囲を見る。
「なんで!? なんでここに!? っていうか、どうして僕の名前――」
そこまで言って、
「…………。」
ここにトニー・スタークが来る理由に見当がつく。妙に意味ありげな顔で見てくる、アイアンマンがここにいる理由。
「…………。」
ピーターの表情が引きつる。
「もしかして………あー、学校関係だったりします?」
「違うね。」
「奨学金?」
「それは少し惜しい。」
「絶対に全然惜しくないですよね?」
「君、赤と青の服を持ってるだろ。」
「…………。」
ピーターの顔から血の気が引く。
「なんのことでしょう。」
「壁を這えて、手首から糸を出せて、高層ビルの間を飛び回れる服だ。」
「…………。」
「あと、よく喋る。かなりよく喋る。」
「……人違いじゃないですかね。」
「そうか。」
スタークが懐から端末を取り出す。画面には、
『――ちょっと! それアナタの自転車じゃないんですよね!』
赤と青のスーツ姿の人物が映っていた。
「声紋まで照合済みだ。」
ピーターが、ものすごくゆっくり顔を覆った。
「終わった……。」
「始まったんだよ。」
スタークはそう言うと、車の後部座席を指差す。
「少し話をしたい。」
ピーターはスタークを見る。それから車を見る。再びスタークを見る。
「……アベンジャーズ?」
「話が早いな。」
ピーターの顔が一瞬で明るくなった。
「え、待ってください。アベンジャーズですか!? 僕、もしかしてスカウトされるんですか!?」
「そこまで話は進んでいない。」
「でも可能性はある!?」
「まず話を聞け。」
「はい!」
やたら良い返事だった。スタークはそんなピーターを見ながら、少しだけ口元を緩めた。分かりやすい。非常に分かりやすい反応だ。自分に対する憧れが、顔に全部出ている。
「アイアンマンのこと、好きなのか?」
「好きっていうか、尊敬してます! もちろんキャプテン・アメリカも凄いですけど、スタークさんは自分で全部作ったじゃないですか! スーツもリアクターも! それにニューヨークの時も――」
「そうかそうか。」
スタークの口元が、さらに僅かに上がる。悪い気はしない。いや、かなり良い。
「分かってるじゃないか。」
「はい!」
ピーターが目を輝かせる。そして、
「あ、そうだ!」
「何だ?」
「クウガも来てたりしますか!?」
「…………。」
スタークの笑みが止まった。
「クウガですよ! ニューヨークの時に迫りくる宇宙人の軍団を一人で――」
「ああ。」
「僕、クウガもめちゃくちゃ好きなんです!」
「…………。」
「生で会えたりします!?」
スタークは、しばらくピーターを見た。そして、
「……このパターンか。」
「え?」
小さく呟いてから、溜息を吐く。アイアンマンに食いついたと思えば、次の瞬間に別のヒーローの話になる若者。しかも妙に熱量が高い。
「まあいい。」
スタークは肩をすくめる。
「君たち、仲良くなれそうだよ。」
「本当ですか!?」
ピーターの目が、アイアンマンに直接会えたこと以上に輝いた。
「会えるんですか!?」
「だから、まず話を聞け。」
「はい!」
再び、やたら良い返事だった。
ーーーーー
当然。そのまま高校生を車へ連れ込むわけにはいかなかった。なので、
「初めまして。」
スタークは、ピーターの自宅で頭を下げていた。
「トニー・スタークです。」
メイ・パーカーは、目の前の男を見て、
数秒間、唖然とした表情で完全に固まった。
「え?」
「突然の訪問、申し訳ありません。」
「え?」
「ピーター君について、少しお話がありまして。」
「え?」
横でピーターが口を開く。
「メイ叔母さん、大丈夫。本物だから。」
「それは分かってるわ!」
珍しく強い声が返ってきた。
「どうしてトニー・スタークがうちにいるの!?」
「少し事情がありまして。」
スタークは笑顔を崩さず、丁寧だった。ものすごく丁寧だった。一条から十五歳の黒雄と初めて関わった時の話を聞き、その時スタークは一つ学んだ。未成年者に関わるなら、まず、保護者に挨拶をする。………挨拶できる状況ならば。
結果。後からこの場面について聞いた黒雄は、
「……本物のスタークさんだったんですか?」
と、本気で本人確認をしたという。それくらい丁寧だった。
「アイアンマンである私が来たので不安はあるでしょう。ですが、危険なことを強制するつもりもありません。」
「は、はい。」
「必ず、本人の意思を最優先します。」
「はい。」
「こちらからお願いすることがある場合も、必ず事前に説明します。」
「はい。」
「ただ、彼には才能があります。人よりも大きな。その才能を今後どう扱っていくべきなのか、それについて彼と話し合いをしたいと思い、今日は訪問させていただきました。」
ピーターが横で、じっとスタークを見ている。
「…………。」
誰? 本当に誰? そんな顔をしていた。スタークは気づいていたが無視した。一条を見習っている。とても真面目に。そして、なんとかメイへの説明を終える。もちろん、スパイダーマンの正体まで明かしたわけではない。あくまでスターク・インダストリーズの支援プログラムという形で話を通した。
「では、一時間ほど。」
「はい。」
「遅くならないように戻します。」
「お願いします。」
スタークは再び丁寧に頭を下げた。そして玄関を出た瞬間、ピーターが口を開く。
「……スタークさん。」
「何だ?」
「さっきの、誰ですか?」
「僕だ。」
「嘘ですよね?」
「失礼な奴だな。」
ーーーーー
車がクイーンズの街を走る。運転席にはハッピー、後部座席にはスタークとピーター。
「じゃあ。」
スタークが端末を開く。
「いくつか質問していくぞ。」
「はい。」
「能力は?」
ピーターは少し考え、
「えっと、力が強くなりました。あと、反射神経とか、身体能力全般。それと壁に張り付けます。」
「糸は?」
「あ、ウェブシューターは自作です。」
スタークの指が止まる。
「自作?」
「はい。」
「身体から出てるわけじゃない?」
「違います。」
スタークがピーターを見る。
「……装置を見せてもらっても?」
ピーターがウェブシューターを外して渡す。スタークは受け取り、数秒確認した。
「これを、君が?」
「はい。自作しました。」
「設計も?」
「はい。」
「材料は?」
ピーターが説明し、スタークは黙って聞く。
「…………。」
ハッピーがバックミラー越しにスタークを見ると、スタークの顔が明らかに変わっていた。
「面白い。」
「本当ですか!?」
「ああ。」
ピーターの顔が嬉しそうに緩む。スタークも少しだけ笑みを浮かべ、
『彼、未来だと実質スタークさんの後継者級のヒーローになりますよ?』
スタークは黒雄から言われた言葉を思い出していた。
質問は続き、
いつから活動しているのか。どれくらいの頻度で街へ出ているのか。どんな事件に関わったのか。怪我をしたことはあるか。学校生活への影響は。家族には話しているのか。警察との関係は。どこまで自分の限界を理解しているのか。そして、
「一番大きな事件は?」
ピーターが考える。
「うーん。大きな事件っていうか……。迷子を探してたら、人身売買してる人たちを見つけたことがあります。」
スタークの動きが止まった。
「今、何て言った?」
「迷子を探してて。」
「そこじゃない。」
「人身売買?」
「ああ。」
「そんなことがありました。」
スタークは額を押さえた。
「詳しく。」
「女の子が泣いてたんです。それで弟がいなくなったっていうから、一緒に探してたら倉庫街まで行って。」
「そこから?」
「怪しい車を見つけて、なんとなく追いかけたら、人を閉じ込めてる場所に着いて。」
「…………。」
「それで警察に連絡したんですけど、警察が到着する前に逃げちゃいそうだったんで、捕まえました。」
「敵は何人ぐらいいた?」
「20人くらい?」
「そいつらをどうした?」
「一応全員捕まえて、その倉庫の天井に吊るしておきました。」
スタークが目を閉じる。
「他に、大きな事件と言えるものは?」
「落とし物を届けに行ったら、麻薬の取引現場に出たことがあります。銃弾って頑張ると結構避けられるんですね。」
スタークは深く息を吐いた。聞けば聞くほど分からなくなる。ピーター・パーカーという少年は承認欲求はある。かなりある方である。アベンジャーズに憧れ、アイアンマンに憧れ、クウガにも憧れている。世間に認められたい。大きな事件を解決したい。自分も一流のヒーローになりたい。そういう、年相応の願望を確かに持っている。
なのに。
「老人の荷物を持った?」
「横断歩道を渡るのが大変そうだったので。」
「迷子の犬を探した?」
「はい。あ、ちゃんと見つかりましたよ?」
「道路に倒れた自転車を起こした?」
「20台ぐらい一斉に倒れたので一緒に。」
「不良に絡まれていた中学生を助けた?」
「なんか見逃せなくて。あ、ちゃんと後日、様子も見に行きました。」
「交通事故の救助。」
「事故でレスキュー隊も来られなかったので、身軽な僕が。」
「強盗。」
「捕まえはしたんですけど、明らかに怖い外見の人の方が麻薬組織より怖かった、って変ですよね?」
「……武装強盗。」
「銀行強盗だったんですけど、こっちは目出し帽だったんで怖くなかったです。」
「……………麻薬組織。」
「あ、さっき言ったヤツですよね。自分でも銃弾の雨を躱せるとは思っていませんでした。」
「…………………人身売買組織。」
「子供を攫うとか許せなくて頑張りました。」
「君も年齢的には子供だ。いや、おかしいだろ。君の中で事件の規模に差はないのか?」
ピーターが少し考える。
「ありますよ? 前に迷子を案内していた時に事故が起きてしまったので、事故解決を優先しました。その後、迷子の所に戻りましたけど。」
「戻ったのか。いや、違う。事件の大小の感覚があるなら何故全部首を突っ込む。」
キョトン、としたピーターは、当たり前のように言った。
「だって、目の前にいたら、助けるじゃないですか。」
スタークは黙ってしまう。今、この少年に自分がよく知る青年の顔がダブったからだ。
ピーター自身は気づいていない。自分がどれほど矛盾した人間なのか。有名になりたい、活躍したい、アベンジャーズに入りたい。そのくせ、誰にも見られていない路地裏でも、人を助ける。事件の大小も関係ない。ニュースになるかどうかも関係ない。自分が手を伸ばせる距離にいる、それだけで手を伸ばす。しかも、
「学校には?」
「ちゃんと行ってます。」
「宿題は?」
「……だいたいはやってます。」
「成績は?」
「悪くない、と思います。」
「睡眠時間は?」
「…………。」
「ピーター。」
「六時間くらい?」
「嘘だな。」
「五時間。」
「まだ嘘だ。」
「…………四時間半。」
スタークが天井を見る。自分の生活を完全に壊す一歩手前。ギリギリ、本当にギリギリのラインで、普通の高校生とヒーローを両立している。親愛なる隣人、まさにその言葉が似合う。
だからこそ悩ましい。このままにしておいてやりたい。クイーンズの街を飛び回り、老人を助け、迷子を探し、強盗を捕まえる。そんな地元ヒーローのままでいてもらいたい。
しかし、ここはニューヨークだ。数年前、宇宙人が攻めてきた街であり、アベンジャーズが戦った街だ。世界規模の事件が何度も発生している街。
そして、ピーターが既に関わった事件の中には人身売買、麻薬組織、武装強盗。それこそ、キャプテン・アメリカあるいはブラック・ウィドウ辺りが出張ってきてもおかしくない規模の事件すら混ざっている。しかも本人には、危険な事件を嗅ぎ分けるつもりなどない。
迷子を探していたら人身売買組織、落とし物を届けたら麻薬取引。
最悪だ。才能の使い方ではなく、事件との遭遇率が。
『どうすれば、その少年が生きて帰れるのか。そこから考えるべきなのではないでしょうか。』
スタークは、一条の言葉を思い出していると、
「スタークさん?」
ピーターが不思議そうに見てくるのを一旦無視し、スタークは腕を組む。
止めるのはおそらく無理だ。活動を禁止しても隠れてやるだろう。監視しても抜け道を探し出すだろう。なら、
スタークは、少年を真っ直ぐ見た。
「ピーター、私個人の意見だが、君に、ヒーロー活動をやめろとは言わない。」
「本当ですか?」
「ああ。」
一拍。
「ただし、今のまま続けさせる気もない。」
ピーターの顔が少し強張ったが、スタークは続ける。
「君が何をしたいのかは分かった。アベンジャーズに憧れている。有名になりたい。活躍したい。それも別に悪いとは言わない。だが、その一方で、君は目の前で困っている人間を放っておけない。」
ピーターが黙る。
「事件の大小も、自分が評価されるかどうかも関係ない。手が届くなら手を伸ばす。」
スタークは僅かに笑った。
「立派だよ。」
ピーターが目を見開いた。
「え?」
「そこは胸を張っていい。」
ピーターの耳が少し赤くなっている。スタークの表情が真剣になり、
「だからこそ、君が事件に遭遇しても、生きて帰ってこられる力を付けさせたい。力だけじゃない。」
スタークは指を一本立てる。
「知識。」
二本目。
「技術。」
三本目。
「判断力。」
そして手を下ろす。
「どういう敵とは戦うべきか。どこから先は一人でやるべきじゃないのか。人質がいる場合はどうする。銃を持った相手への対処。爆発物。毒物。テロ。救助。」
「…………。」
「君は強い。」
スタークははっきり言う。
「だが、強いだけじゃ生き残れない。」
ピーターの表情から、先ほどまでの浮ついたものが消えていく。スタークは背もたれへ身体を預けた。
「だから。次の休み、迎えに来る。」
「…………え?」
「準備しておけ。」
ピーターの目が徐々に大きくなる。
「それって、」
「訓練だ。」
「アベンジャーズの!?」
「まだアベンジャーズじゃない。」
「でもアベンジャーズの施設で!?」
「そこは秘密だ。」
「クウガもいます!?」
「君は本当にそこを気にするな。」
車がピーターの家の近くで停まり、スタークが顎で外を示した。
「今日はここまでだ。」
「はい!」
ピーターがドアを開ける。
「ピーター。」
「はい?」
「今は日常を優先しろ。」
「はい!」
「宿題もやれ。」
「はい!」
「今日の夜、スーツ着て出歩くなよ。」
「…………。」
「ピーター。」
「はい。」
「その間は何だ。」
「いや、ちょっとだけなら。」
「駄目だ。」
「はい。」
渋々頷いたピーターは車を降りる。ドアが閉まり、車がゆっくり動き始める。ピーターは、その場でしばらく車を見送っていた。そして、車が角を曲がった瞬間、両拳を握り、
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
小さく跳ねた。
「トニー・スタークだぞ!? 訓練!? しかもクウガにも会えるかもしれない!?」
まだ会えるとは言われていない。だが、ピーターの頭の中では、既にかなり会えることになっていた。
「これ、ネッドに――」
そこまで考え、
「いや駄目だ!」
両手で口を押さえる。言えない、絶対に言えない。自分がスパイダーマンであることすら言っていないんだ。言える訳がない。
「でも言いたい……!」
言いたい、と言えないの間で悶えていた時だった。
――ゾワッ。
「――っ?」
突然。後頭部から背中へ、皮膚の内側を何かが走る。ピーターの表情が変わり、反射的に振り返る。
「…………。」
何もいない。通行人、道路、建物、路地、普通の街並み。だが、
「…………。」
何かいる。攻撃される感覚ではないけれど、視線を感じた。誰かに見られている。ピーターはゆっくり周囲を見渡す。
誰だ? ビルの屋上? 違う。窓、違う。感覚はある。確かに、どこかから見られている。なのに、見つからない。
「何だ……?」
ピーターが眉を寄せる。次の瞬間、
――フッ。
「……あ。」
感覚が消えた。ピーターはしばらく、その方向を見つめていたが、何もない。
「気のせい……?」
それでも、何となく釈然としないまま、家へ向かって歩き出した。
ーーーーー
ピーターが去ってから、しばらく後。ピーターが視線を向けたビルよりも更に距離があるビルの屋上に、
「…………。」
怪しい人影があった。その人物は、先ほどのピーターと似た行動をとっていた。すなわち、
「よっしゃぁぁぁぁ!! スパイダーマンのアベンジャーズ早期加入の可能性が高まった!」
わざわざペガサスフォームに変身し、スタークからもらった補助機まで使ったどこぞのクウガがテンションを上げていたとか、いなかったとか。
なお、すぐに発覚し、当の本人とアホなことに協力した相棒は保護者と恋人からお説教を受けたとか、受けなかったとか。