日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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模擬

 

――数日後。

 

アベンジャーズ基地。

 

僕、ピーター・パーカーは、目の前に広がる光景を見ながら、完全に固まっていた。

 

「…………すご。」

 

思わず、そんな言葉が漏れてしまう。スタークさんに迎えに来てもらい、車に乗せられ、いくつかの説明を受けた後に辿り着いた場所は、想像していたものより遥かに大きかった。

 

格納庫らしき場所には見たこともない機体が並び、廊下を歩けば壁の向こうに研究施設らしき設備が見える。時折すれ違うスタッフたちも、全員が何かしら専門的な仕事をしているらしく、端末や資料を抱えながら忙しそうに歩いている。

 

「ここって……本当にアベンジャーズの基地なんですよね?」

 

「ここまで連れてきて、実はテーマパークでした、というオチを期待しているなら残念だったな。」

 

隣を歩いていたスタークさんの答えに、慌てて首を振った。

 

「いや、そうじゃなくて!キャプテン・アメリカとか、ソーとか、ブラック・ウィドウとか、ハルクとか、本当にここに来るんですか?」

 

「来るぞ。そのために用意した施設なんだから。」

 

「クウガも?」

 

どうしても気になる部分を聞いたら、スタークさんが足を止めた。

 

「ピーター。」

 

「はい。」

 

「君、私と会った時よりクウガの話をする時の方がテンション高くないか?」

 

「そんなことないですよ!」

 

「本当か?」

 

「アイアンマンも同じくらい好きです!」

 

「同じくらい。」

 

「はい!」

 

あれ?スタークさんが何とも言えない顔になっちゃった。

 

「まあいい、まず検査だ。君の能力を正確に把握する。」

 

「検査っていうと、身体能力とかを計測するんですか?」

 

「全部だ。筋力、瞬発力、反射速度、耐久力、回復力、感覚器官。それから、君が言っていた妙な勘についてもな。」

 

「僕も、あれはよく分からないんですよね。」

 

力を手に入れてから、危険が迫ると何か、ムズムズするんだよな。

 

「だから調べるんだ。」

 

スタークさんは研究区画の扉を開き、

 

「自分でも分かっていない力を使って街を飛び回っている高校生を、そのまま放置するほど僕は無責任じゃない。」

 

「……スタークさんって、思ってたより面倒見いいですよね。」

 

「帰すぞ。」

 

「すみませんでした、よろしくお願いします。」

 

ーーーーー

 

検査は、想像していた以上に本格的だった。

 

――ダンッ!!

 

一瞬で数メートル先まで移動し、指定された位置で停止する。

 

『計測完了。』

 

機械音声が響き、モニターへ数値が表示された。

 

スタークさんは、その数字を見ると、

 

「もう一度だ。」

 

「またですか?」

 

「今度は全力で。」

 

「えっと……。」

 

機器を確認する。………絶対高価だよね。

 

「壊れません?」

 

「壊れないから安心して全力を出してみろ。」

 

「本当ですか?」

 

「君が壊せたら、むしろ褒めてやる。」

 

「じゃあ。」

 

姿勢を低くして、

 

「全力でいきます。」

 

――ドンッ!!

 

「うおっ!?」

 

思わず、自分で驚いてしまう。先ほどとは比較にならない勢いで身体が飛び出し、慌てて足へ力を込める。

 

――ギギギギギギッ!!

 

「わっ、わっ、わっ!?」

 

指定された位置を遥かに通り過ぎ、

 

――ガンッ!!

 

「痛っ!」

 

壁へ激突してしまった。

 

「…………。」

 

スタークさんが無言になっちゃったよ。ゆっくり振り返って、まず計測器を確認する。

 

「……壊れませんでしたね。」

 

「そこじゃない。」

 

続いて筋力、耐久力、反射速度、跳躍力、動体視力、平衡感覚、その他ここの設備で測定できる限りの項目を調べていった………のだけれど、

 

「…………。」

 

検査が進むにつれて、スタークさんの口数がどんどん減ってしまった。何かやらかしたかな?

 

ーーーーー

 

高い。予想以上に高い。事前に映像から推測していた数値を、いくつもの項目で上回っている。もちろん、純粋な身体能力だけならピーターを上回る者はいる。

 

ソー。

 

ハルク。

 

そしてクウガ。

 

彼らと比較した場合、ピーターの力は大したことはない………現時点では。

 

「15歳か……。」

 

「はい?」

 

「いや、何でもない。」

 

問題は年齢だ。まだ成長途中だし、蜘蛛の生態を調べたが、能力がこれから急激に伸びる可能性もあるときた。

 

しかも、専門的な戦闘訓練を受けた経験はほぼ皆無。能力を得てから、自分なりに試行錯誤しながら使っているだけ。それで、この数値。さらに、

 

「次。」

 

ピーターの前方、数メートル先。複数の装置が展開する。

 

「これから不規則なタイミングで弾を撃つ。」

 

「弾!?」

 

「非殺傷だ。怖がることはない。」

 

「当たったら痛いですよね!?」

 

スタークは無視する。

 

「避けてみろ。」

 

「え?それだけですか?掴めとか、斬れとか、」

 

「出来るのか?」

 

「無理です。避けるだけなら、多分大丈夫です。」

 

少し自信ありげなピーターが構え、数秒後。

 

――シュッ!!

 

「っ!」

 

首を傾け、弾が頬の横を通過した。

 

――シュッ! シュッ!

 

「おっと!」

 

身体を捻ることで二発を同時に回避。さらに、

 

――シュシュシュシュッ!!

 

「わっ!」

 

四発同時でも、全て回避。なら、速度を上げ、発射位置も増やす。

 

正面、左右、背後、死角から不規則に。それでも、

 

――シュッ!!

 

「そこ!」

 

ピーターが身体を沈め、弾が頭上を通過した。

 

――シュッ!!

 

「っ!」

 

見てすらいない。背後から発射された弾。それを、発射されるより僅かに早くピーターが避けていた。

 

「………もう一度。」

 

「はい?」

 

「同じ条件だ。」

 

再開。

 

――シュッ!

 

避ける。

 

――シュッ!

 

避ける。

 

――シュシュッ!

 

避ける。

 

そして、発射直前。

 

「!」

 

ピーターは動いた。まだ弾は出ていない。それなのに、回避行動に移っていた。

 

「ピーター。今、見えていたか?」

 

「何がです?」

 

「最後の弾だ。」

 

「いや。」

 

ピーターが首を傾げる。

 

「なんとなく、こっちにいたら危ない気がして。」

 

モニターを確認する。発射装置が作動した時点より先に、ピーターの身体が回避を開始している。反射神経では説明できない。

 

「次。」

 

条件を変える。今度は、どの装置からも弾を撃たない。ただし、一台だけ、発射直前まで全く同じ動作をさせる。

 

「…………。」

 

ピーターは動かない。

 

「もう一度。」

 

別の位置から放つための準備だけしても動かない。次………動かない。そして、実際に発射する設定へ切り替えた瞬間。

 

「っ!」

 

まだ発射されていないのに、ピーターが僅かに身体を傾けた。直後、

 

――シュッ!

 

弾が通過する。

 

「これは……。」

 

身体能力以上に、こちらの方が異常だった。危険を察知している。それも、単純に五感が鋭いという話ではない。本人に危害が及ぶ可能性そのものを、事前に感じ取っているように見える。

 

予知、ではない。完全な未来予知ではないが、

 

「予知めいた直感……か。」

 

それは、現在のアベンジャーズの誰も持っていない種類の能力だった。

 

ーーーーー

 

研究区画の外。

 

「…………。」

 

僕は、扉の前に立っていた。何をしているのかと聞かれれば、待っている。ただ、それだけだ。

 

「…………まだかな。」

 

端末を見ても、検査中、の文字だけ。

 

「…………。」

 

もう一度見る。当然、まだ検査中。

 

「…………長い。」

 

思わず呟いてしまった。いや、分かっている。検査なんだから時間がかかるのは当然だし、スタークさんからも、

 

『途中で入ってくるなよ。絶対だぞ。』

 

と念を押されている。だから入らない。入らないけど、

 

「…………。」

 

早く直接会ってみたい。スパイダーマンこと、ピーター・パーカー。元いた世界では、知らない人間を探す方が難しいくらい有名なヒーロー。その本人が、今、この扉の向こうにいる。

 

落ち着け。僕の方が年上なんだ。ここは先輩らしく、落ち着いて挨拶を――

 

「そこで何をしている。」

 

「うわっ!?」

 

突然背後から声を掛けられ、思わず振り返った。

 

「フューリー?」

 

ニック・フューリーが立っていた。ただし、一人ではなく、その隣には二人の男性がいた。

 

一人は、ティ・チャラ、ブラックパンサーだ。そしてもう一人はエリック・スティーヴンス、通称はキルモンガーらしい。

 

報告書を読ませてもらい、ワカンダで起きたことは知っている。知ってはいるが、………ブラックパンサーは覚えているけど、キルモンガーってインフィニティウォーとかに出てたかな?ブラックパンサー単体の映画の人かな?

 

「…………。」

 

そんなことを考えていたら、つい見てしまい、エリックさんが眉を寄せた。

 

「何だ?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

危ない。変な反応をするところだった。すると、フューリーが質問してきた。

 

「それで? こんな所で何を待っている。」

 

「スタークさんです。」

 

正確にはピーター君なのだが、そこまで言おうとした時、

 

「クロオ。」

 

別方向から聞き慣れた声がした。

 

「あ、ナターシャさん。」

 

ナターシャさんがこちらへ歩いてくる。その隣には、金髪の女性。この人も報告書で見た人だ。エレーナ・ベロワ、ナターシャさんの妹さんらしい。………なんで、そんなキャラが出ていない、インフィニティウォー。

 

「何、この集まり。」

 

エレーナさんが周囲を見る。

 

「俺も今来たところだ。」

 

フューリーが答えた、その時、

 

――プシュッ。

 

研究区画の扉が開く。

 

「終わったぞ。」

 

スタークさんが姿を見せた。そして、その後ろから、

 

「ふぅ……。」

 

ピーター・パーカーが出てきた。

 

来た、本物だ。思わず姿勢を正す。よし、今度こそちゃんと挨拶を――

 

ーーーーー

 

「…………。」

 

僕は、研究区画を出たところで固まってしまった。何これ?いや、本当に何これ?目の前にいる人たちを順番に見る。

 

まず、眼帯を付けた男性。知ってる、というか有名すぎる。ニック・フューリーだ。

 

その隣には、明らかに普通じゃない雰囲気の男が二人。

 

さらに、なんとブラック・ウィドウがいる。………本物だ!アベンジャーズ、遭遇二人目!その隣には見たことのない金髪の女性がいるけど、この人も強い人だ。そして、もう一人。

 

自分より少し年上に見える東洋人の青年。……誰だろう?この人だけ一般人に見える。でも、普通にニック・フューリーやブラック・ウィドウの隣に立っている。

 

ということは、絶対普通の人じゃないな。

 

「スタークさん。」

 

思わず小声になる。

 

「何だ?」

 

「あの人、ブラック・ウィドウですよね?」

 

「ああ。」

 

「本物?」

 

「本人に聞け。」

 

「無理ですよ!」

 

ブラック・ウィドウが少しだけ笑った気がした。恥ずかしい。すると、

 

「その少年は?」

 

フューリーの声が飛んできた。

 

「ピーター・パーカー。」

 

スタークさんが答える。

 

「それは名前だ。」

 

フューリーの視線が僕へ向く。普通に怖い。

 

「何故ここにいる。」

 

「検査だ。」

 

「何の検査だ?」

 

「能力の。」

 

フューリーの視線に凄みが増した気がした。

 

「年齢は。」

 

「十五。」

 

「スターク。」

 

声が一気に低くなった。何か怒ってる。というか、僕のせい?

 

「待て。その顔をするな。」

 

スタークさんが面倒そうに言う。

 

「また未成年か?」

 

また?思わず周囲を見てしまうと、さっきの知らない東洋人の青年が、そっと視線を逸らした。

 

「既に本人が勝手に活動している。だから能力を調べていた。」

 

「活動?」

 

金髪の女性が僕を見る。

 

「この子が?」

 

「えっと……。」

 

何だろう。すごく居心地が悪い。

 

「近所で、人を助けたり。」

 

「具体的には?」

 

フューリーが聞く。

 

「強盗とか……。」

 

「他は。」

 

「麻薬組織とか。」

 

「他。」

 

「…………人身売買組織。」

 

沈黙。言わない方が良かったかな?フューリーの近くにいる男性二人もこっちを見てくる。二人のうち、怖そうな方は、少しだけ眉を上げた。

 

「こいつが?冗談だろ?」

 

「二十人近くを一人で制圧してる。」

 

スタークさんが答えた。答えちゃったよ。

 

「へえ。」

 

怖そうな男性が、僕を上から下まで見る。完全に値踏みされてる。

 

「そうは見えねえな。」

 

ちょっと傷つく。すると金髪の女性も、

 

「普通の学生に見えるわね。」

 

「普通の学生だよ。能力を持っているという点以外はな。」

 

「戦闘訓練は?」

 

怖そうな男が聞いてくる。

 

「…………ほとんどないです。」

 

正直に答えると、

 

「だろうな。」

 

鼻で笑われた。もうちょっと言い方ないのかな?

 

「だが。」

 

スタークさんが端末を持ち上げた。

 

「能力は本物だ。」

 

「力が強いとか?」

 

金髪の女性が聞く。

 

「それだけじゃない。」

 

スタークさんが短く答える。

 

「危険を事前に察知する。」

 

あ、もう一人の男性の表情が僅かに変わった。

 

「事前に?」

 

「ああ。死角から攻撃しても、撃つ前に避ける。」

 

「音か視覚で感知しているのでは?」

 

「違う……本人も分かっていない。だが、危険そのものを感じ取っている可能性が高い。」

 

「それでも素人だろ。」

 

スタークさんの言葉に被せるように、怖そうな男性が言った。

 

「能力が高くても、実戦で使えなきゃ意味がない。」

 

「実戦なら経験してる。」

 

スタークさんの声が少し低くなる。

 

「街の犯罪者相手に、だろ?」

 

「だから何だ。」

 

空気が悪い。ものすごく悪い。少し、帰りたくなってきた。いや、帰らないけど。せっかくアベンジャーズ基地に来たのに検査だけで、絶対に帰ったりしないけど。

 

ただちょっとだけ、この場から離れたい。

 

ふと、視線を感じた。

 

「…………。」

 

さっきの東洋人の青年が、僕を見ていた。

 

何だろう。怒ってる?いや、僕にじゃない。怖そうな男性と、金髪の女性に、少し不満そうな顔をしている。

 

「…………。」

 

この人、誰だろう。スタークさんの知り合い?アベンジャーズ関係者?研究員には見えない。それにフューリーやブラック・ウィドウとも普通に話していた。

 

色々考えていると、

 

「姉さん。」

 

金髪の女性がブラック・ウィドウに話しかけた。今、姉さんって言った?

 

「本当にこの子をここで訓練するの?」

 

「私は何も聞いてないわ。」

 

ブラック・ウィドウがスタークさんを見る。

 

「トニー?」

 

「アベンジャーズとして、はまだ未定だが、訓練はさせるつもりだ。」

 

「ならよ、」

 

怖そうな男性が口を挟んだ。

 

「強いって言うなら、見せればいい。」

 

「何をだ。」

 

スタークさんが聞く。

 

「実力を、だよ。」

 

黙ってしまったスタークさんの様子に嫌な予感が、ものすごく嫌な予感がした。

 

「なるほど。」

 

スタークさんの口元が少し上がる。その顔、絶対よくない。

 

「なら模擬戦だ。」

 

「え?」

 

思わず声が出た。

 

「待ってください。」

 

「実際に見れば早い。」

 

「いや、何がですか?」

 

スタークさんは怖そうな男性と金髪の女性を見る。

 

「この少年が、少なくとも君たちが思っているほど甘い素材じゃないと分かる。」

 

「僕、そんな話聞いてないんですけど!?」

 

「今決まった。」

 

「今!?」

 

おかしい。絶対おかしい。すると、

 

「いいと思いますよ。」

 

知らない青年が、急に乗ってきた。

 

「…………。」

 

この人、誰なの?しかも妙に嬉しそうなんだけど。

 

「実際に動いた方が分かりやすいですよ。」

 

「お前は黙ってろ。」

 

フューリーが即座に止めた。

 

「何でですか。」

 

「顔が楽しそうだからだ。」

 

「そんなことありません。」

 

ある。絶対ある。僕から見ても分かる。

 

「…………。」

 

でも、この人。何で僕のことでそんなに嬉しそうなんだろう。気になる。

 

「あの……。」

 

声を掛けると、青年がこっちを見る。

 

「はい?」

 

よし、聞こう。

 

「あなたは――」

 

「で、誰が相手をする?」

 

怖そうな男性が割り込んでくる。

 

「あ。」

 

青年の口が閉じてしまう。何か言おうとしてたみたいだったのに。

 

「私でもいいよ。」

 

金髪の女性が軽く手を上げた。

 

「いやいやいやいや。」

 

絶対嫌だ。

 

「あなた、絶対強い人ですよね?」

 

「まあ、それなりに。」

 

「それなりの人はそんな立ち方しないですよ!」

 

ブラック・ウィドウが、今度こそはっきり笑ったけど、完全に観察されている。

 

「スターク。安全管理は?」

 

「当然する。」

 

「本気ではやらせるなよ。」

 

「分かってる。」

 

そしてフューリーが、知らない青年を見る。

 

「クロオ。」

 

「はい。」

 

クロオって名前らしい。

 

「煽るな。」

 

「まだ何もしてませんよ。」

 

「これからする顔をしている。」

 

クロオさん。名前だけは分かった。僕はもう一度そちらを見ると、目が合った。

 

「あの。クロオさんって――」

 

「ピーター。」

 

スタークさんが僕の肩を叩いた。

 

「模擬戦場へ移動するぞ。」

 

「え!? もう!? っていうか、本当にやるんですか!?」

 

ーーーーー

 

模擬戦場へ移動した後。

 

「ピーター。」

 

「はい?」

 

スタークさんに呼び止められ、振り返る。すると、スタークさんはいつの間に用意していたのか、手に持っていたケースを僕の前へ差し出した。

 

「これを着ろ。」

 

「何ですか、これ?」

 

「開ければ分かる。」

 

言われるままケースを開き、僕は、その中に入っているものを見て固まってしまう。

 

赤と青。配色だけなら、僕が自分で作ったスーツと同じだった。でも、それ以外は全く違う。素材からして何なのか分からないし、薄く柔らかそうなのに、触ってみると不思議な強度がある。胸元には蜘蛛を意匠化したマークがあり、マスクには白いレンズまで付いていた。何より、

 

「…………格好いい。」

 

思わず本音が漏れてしまった。

 

「僕が作ったのだから当然だ。」

 

スタークさんは何でもないことのように答える。

 

「実質アイアンマンスーツの兄弟枠!これ、僕のですか!?」

 

「精々親戚止まりだ。……今のところは貸与だ。」

 

「貸与。」

 

「君の働き次第だな。」

 

「…………。」

 

絶対返したくない。そんなことを考えながら更衣スペースへ移動し、数分後。

 

「…………すご。」

 

鏡の前で、僕は何度も自分の姿を確認していた。身体に吸い付くようにフィットしているのに、動きを邪魔しない。腕を回しても、しゃがんでも、その場で軽く跳んでも、引っ掛かるような感覚が全くない。

 

さらに、

 

「うわっ!」

 

目元のレンズが動いた。

 

「スタークさん! 目が動きます!」

 

「知ってる。」

 

「これ、どうなってるんですか!?」

 

「現状はスーツ越しでも表情の変化を見せられる程度だ。」

 

興奮しながらマスクを外すと、スタークさんが呆れたようにこちらを見た。

 

「本来なら、そのスーツには色々機能がある。」

 

「色々?」

 

「今日は使わせない。」

 

「え?」

 

「初めて着た人間に、説明もなしで全機能を解放する馬鹿がどこにいる。」

 

スタークさんはスーツの胸元を軽く指で叩いた。

 

「今日は、防弾、防刃性能に優れたスーツくらいに思っておけ。君のウェブシューターも問題なく使える。」

 

「他には?」

 

「教えない。」

 

「一個だけ。」

 

「駄目だ。」

 

「ちょっとだけ。」

 

「返したまえ。」

 

「すみませんでした。」

 

スーツを取ろうとしたスタークさんから反射的に離れる。

 

危ない。本当に取り上げられるところだった。それでも、改めて自分の姿を見れば、どうしても口元が緩んでしまう。

 

やっぱり格好いい。

 

僕はマスクを被り直し、そのままスタークさんに案内されて模擬戦場へ入った。そして、

 

「…………。」

 

一瞬で笑顔が消えた。広い訓練区画の反対側。そこには二人の人間が待っていた。

 

一人は、さっきから僕のことを完全に侮っていたエリック・スティーヴンスさん。ただし今は、先ほどまでの服装ではなく、全身を金色で覆うような戦闘用スーツを身につけている。どう見ても普通の防具ではない。

 

そして、その隣にはエレーナ・ベロワさん。こっちはもっと分かりやすかった。完全装備だ。身体の各所に装備品を取り付け、腰にはナイフ。手には拳銃まで握られている。

 

もちろん模擬戦だから、本物の弾じゃないとは思う。思うけど。

 

「…………。」

 

二人を見て、自分を見る。もう一度、二人を見る。

 

「え?」

 

思わず声が漏れた。

 

「何、この状況?」

 

エリックさんが肩を回しながら答えた。

 

「悪いな、坊主。」

 

「何がです?」

 

「フューリーから言われてな、」

 

エリックさんは拳を軽く握りながら僕を見る。

 

「少し怖い目に遭わせて、家に帰せってよ。」

 

「えぇ……。」

 

思わず観戦区画を見る。そこにはフューリーさんが、腕を組んだままこちらを見ていた。目を逸らさないし、否定もしない。

 

「本当に言ったんだ……。」

 

「安心して。」

 

今度はエレーナさんが口を開く。拳銃の弾倉を確認し、それを戻しながら、

 

「この後、フューリーに実力を見せるために、この金ピカと模擬戦する予定なの。」

 

「金ピカ?」

 

「俺か?」

 

「他に誰がいるの?」

 

エリックさんの顔が露骨に引きつった。でも、エレーナさんは気にせず僕を見る。

 

「だから、あなたはその前のウォーミングアップ。」

 

ウォーミングアップ。僕が?

 

流石に腹が立たなかった、と言えば嘘になる。僕だって、遊びで街を飛び回っているわけじゃない。強盗とも戦った。銃を持った犯罪者とも戦った。危ない目にも何度も遭った。それをウォーミングアップ扱いされるのは、普通に悔しい。ただ、

 

「…………。」

 

二人を見る。金色のスーツと完全武装。どちらも戦い慣れている立ち方、振る舞い方。怒りより先に、冷静な部分が訴えていた。これ、流石に厳しくない?

 

僕は戦闘訓練なんて受けたことがない。基本的には身体能力と、例の危険を感じる妙な感覚に任せて戦っているだけだ。対して向こうは、どう考えてもプロ。しかも二人。

 

「まあ、そのスーツは可愛いけど。」

 

「え?」

 

エレーナさんが僕を見る。

 

「派手ね。ヒーローショーみたい。」

 

今、かなり失礼なことを言われた気がする。

 

「確かにな。」

 

エリックさんまで僕を見る。

 

「格好から入るタイプか?」

 

僕の拳が僅かに握られた。それとほぼ同時に、

 

「ピーター。」

 

後ろからスタークさんに呼ばれる。振り返ると、スタークさんは笑っていた。ものすごく綺麗な笑顔だった。でも、何故だろう。怖い。

 

「二人に勝て。」

 

「え?」

 

「勝ったら、クウガに会わせてやる。」

 

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 

「…………本当ですか?」

 

スタークさんは笑顔のまま頷く。

 

「ああ。約束する。」

 

「…………。」

 

僕はゆっくり正面へ向き直り、エリックさん、エレーナさんの二人を見据え、腰を落とす。

 

「お二人とも。」

 

「あ?」

 

「何?」

 

手首のウェブシューターを確認する。

 

「全力でいくので、覚悟してください。」

 

すっごい、やる気出た。

 

「急にやる気になったわね。」

 

「クウガに会いたいので。」

 

「理由それかよ。」

 

エリックさんが呆れたように呟いた。直後、

 

『模擬戦、開始。』

 

機械音声が響くと同時に、

 

――パンッ!!

 

僕は反射的に首を傾け、模擬弾が頬の横を通り抜ける。

 

「いきなり!?」

 

「実戦なら待ってくれないわよ。」

 

エレーナさんはそう言いながら、既に次の射撃へ移っていた。二発、三発と続けて放たれる弾を避け、横へ跳ぶ。銃弾だけなら避けるのは簡単だけど、今回はその着地点にエリックさんが回り込んでいた。

 

「うわっ!」

 

振り抜かれた拳を空中で身体を捻ってかわし、そのまま壁へ張り付く。休む暇もなく今度はエレーナさんの銃口がこちらを向く。

 

「会話する暇くらいくださいよ!」

 

「嫌よ。」

 

――パンッ!!

 

壁を蹴って逃げる。エレーナさんが銃撃で僕の逃げ道を削り、その先へエリックさんが回り込む。エリックさんの拳や蹴りを避ければ、今度はエレーナさんがナイフを持って待っている。二人は、僕を挟むように位置を変えながら、互いの攻撃が邪魔にならないように追い込んでくる。

 

「ちょっ、二人とも連携良すぎませんか!?」

 

返事の代わりに弾が飛んできた。身体を沈めて回避する。その頭上をエリックさんの拳が通り過ぎた。

 

流石プロ、必要なら誰とだって協力するし、無駄口を叩いたりもしない。

 

嵐のように迫る攻撃を間一髪で避けていく。本当に間一髪だ。だけど、

 

当たらない。目で見えていない攻撃もある。背後から撃たれた弾もある。それでも、危険が迫った瞬間には身体が勝手に動く。むしろ、攻撃が激しくなればなるほど、例の感覚ははっきりしてきた。

 

結構ヤバいタイミングの銃撃を躱すと、一度距離を取ったエレーナさんが目を細める。

 

「今の。私の方、見てすらいなかったわよね?」

 

「え?」

 

「最後の射撃だ。」

 

エリックさんも僕を見る。

 

「完全に死角だった。」

 

「えっと……。」

 

どう説明すればいいんだろう。

 

「なんとなく、危ないと思ったので。」

 

二人が黙った後、空気が変わった。それまでどこか余裕のあったエレーナさんの表情が消え、エリックさんも深く腰を落とす。二人が本気になったのが分かる。

 

「なるほど。」

 

エリックさんが小さく笑った。

 

「少しは面白そうだ。」

 

――ドンッ!!

 

「速っ!?」

 

さっきまでとは明らかに違った。エリックさんが一気に距離を詰め、拳と蹴りを途切れなく繰り出してくる。その合間を縫うように、エレーナさんの模擬弾が飛んでくる。

 

避ける。逃げる。跳ぶ。壁も使う。二人の攻撃は止まらないし、密度も一気に上がった。

 

でも、…………不思議だった。最初より怖くない。少しずつ、分かってきた。エレーナさんが銃を撃つ前の動き、ナイフへ切り替える瞬間、エリックさんが僕を追い込む時に見る方向。

 

二人とも、僕なんかより遥かに戦い慣れている。でも、攻撃が来る前に危険が分かるなら。避けるだけじゃなく、今度は僕の方から、

 

ーーーーー

 

観戦区画でフューリーが言った。

 

「もういい。止めさせろ。」

 

「え?」

 

僕――十文字黒雄は、思わず隣を見る。

 

「十分だ。能力は分かった。」

 

僕はガラス越しに戦場を見る。

 

「でも、まだお互い、一発も当たってませんよ?」

 

フューリーが黙ってしまう。ナターシャさんも、スタークさんも模擬戦を見たままだ。

 

「二人とも最初は加減、いや手を抜いていた。」

 

スタークさんが呟く。

 

「今は?」

 

僕が聞くと、

 

「ほとんどしてないわね。」

 

ナターシャさんが答えた。実際、エレーナさんもエリックさんも、もう完全に様子見ではない。それなのに、ピーター君には、まだ一発も当たっていない。

 

動きは決して綺麗じゃないし、戦闘技術も未熟。でも、攻撃される前に危険を察知し、それに身体能力がついてくる。その組み合わせが、想像以上に厄介だった。そして、

 

「あ。」

 

僕は少し身を乗り出す。

 

「スタークさん。」

 

「何だ。」

 

「ピーター君、変わりましたよ。」

 

「何がだ。」

 

「攻めに転じるみたいです。」

 

ーーーーー

 

さっきまでは逃げに徹していたけど、

 

――パンッ!!

 

弾を避けながらエリックさんの横を抜ける。当然、その先を狙ってエレーナさんが銃を向けてくるけど、僕は背後の壁へウェブを放つ。

 

――シュッ!!

 

糸が張り付いた瞬間、一気に引く。自分の身体を急激に後方に下げたことで、エレーナさんの撃った弾だけが目の前を通過する。

 

「っ!?」

 

予想外な回避だったのか、エレーナさんの動きに一瞬の迷いが生まれた気がした。そこへ、壁を蹴り、一気に距離を詰める。

 

「すみません!」

 

振れば腕が届く距離。エレーナさんのナイフを避け、裏拳で銃口を逸らし、そのまま右手を向ける。

 

――シュッ!!

 

ウェブがエレーナさんの腕へ絡みつく。

 

「なっ――」

 

続けてもう一発。足も縛る。

 

「ちょっと!」

 

一気に引き、

 

――ベチャッ!!

 

エレーナさんの身体を壁に貼り付ける。

 

「一人!」

 

そう思った瞬間、全身が強く反応した。振り返ると、

 

「よくやった。」

 

エリックさんが、もう目の前にいた。拳も引かれている。

 

「だが、俺を忘れるな。」

 

避けるには近すぎる。…………気合を入れろ!

 

――ガシッ!!

 

振り下ろされた拳を、右腕一本で受け止める!

 

「ぐっ!」

 

腕に重い衝撃が走った。ものすごく強い!強いけど、止められないことはない!

 

「…………は?」

 

エリックさんの表情が固まった。自分でも少し驚いた。純粋な腕力なら僕の方が上らしい。

 

「嘘だろ……。」

 

「僕も、ちょっと驚いてます。」

 

エリックさんが拳を引く前に、空いている左手を向ける。

 

「僕も、クウガに会いたいので。」

 

――シュッ!!

 

「なっ!?」

 

胸、腕、足、エリックさんの腕力相手だと不安があるので、追加で壁にも向かって、連続してウェブを放ってから、トドメのキック!

 

――ベチャッ!!

 

蹴られた勢いで壁に激突したエリックさんは、念入りに張っておいたウェブに拘束された。

 

「…………。」

 

エレーナさん、エリックさん。二人とも、いつもの敵同様に拘束できた。…………できちゃった。

 

『模擬戦終了。』

 

機械音声が響く。終わった?僕は恐る恐る観戦区画を見ると、全員黙ってこっちを見てる。

 

いや、クロオさんだけ拍手してくれてる。

 

「えっと。…………スタークさん。終わりました。」

 

「見れば分かる。」

 

「僕、何かまずいことしちゃいましたか?」

 

ーーーーー

 

「…………。」

 

スタークさんは答えなかった。いや。正確には、すぐには答えられなかったんだと思う。

 

ピーター君が善戦、もしくは辛勝するぐらいの予想が、圧勝してしまったのだから流石にビックリしたのだろう。

 

事前の検査で確認した身体能力と、攻撃そのものを事前に察知しているとしか思えない、予知めいた危険察知能力。能力だけでみれば、エレーナさんとエリックさんを相手にしても簡単には倒されない。

 

フューリーたちに、この少年にはアベンジャーズとして育てるだけの才能があると見せるために模擬戦を実施した訳だけど、

 

「…………。」

 

結果は、スタークさん自身の予想を遥かに超えていた。

 

現アベンジャーズであるナターシャさんに匹敵する実力を持つエレーナさんと、超人級の強さを持つエリックさん。その二人を相手に、自分は無傷で、相手にも怪我をさせることもなく拘束してみせた。

 

エレーナさんの正確な射撃を全弾回避し、エリックさんの拳を片手で受け止めた。多分あの拳、スティーブさんばりに重かっただろうから、大したものだと素直に思う。

 

ピーター君本人も凄く驚いていたけど。

 

「十五歳……だよな。」

 

スタークさんが思わず、といった様子で確認してくる。

 

「はい。末恐ろしいですね。」

 

「君が言うな。本当に君が言うな。」

 

「何でですか?」

 

スタークさんに無視された。ナターシャさんも黙っている。ティ・チャラさんも、先ほどとは違う目でピーター君を見ていた。フューリーに至っては、完全に腕を組んだままムスッとした顔になっている。

 

うん。模擬戦の目的は達成した。いや、達成しすぎてしまったかな?

 

改めてガラス越しにピーター君を見る。

 

まだ十五歳の、戦闘訓練はほぼゼロで、自分の力についてすら正確には理解していない現段階でこれだ。きっとこの少年はこれからもっと凄くなる。

 

「…………。」

 

ちょっと、先輩らしい所を見せようかな。

 

ーーーーー

 

「えっと。」

 

僕はまず、壁へ貼り付けてしまったエレーナさんのところへ向かった。

 

「今、外しますね。」

 

「ええ。お願い。」

 

ウェブを慎重に剥がしていく。思っていたより強く貼り付けてしまったらしく、少し手間取ったものの、何とか両腕と足を解放する。

 

「痛くないですか?」

 

「大丈夫。」

 

エレーナさんは自由になった手首を何度か回し、それから僕を見る。

 

「それより。悪かったわね。」

 

「え?」

 

「完全に侮って、失礼な言動を重ねてた。」

 

予想していなかった言葉だった。エレーナさんは少しだけ苦笑して、

 

「ウォーミングアップなんてとんでもない。強いわよ、あなた。」

 

「あ……ありがとうございます。」

 

素直に嬉しい。すると、

 

「俺もだ。」

 

今度はエリックさん。

 

「悪かった。」

 

「いえ!」

 

慌てて首を振る。

 

「全然気にしてないです。」

 

少しは気にしていたけど。でも、ちゃんと謝ってくれたなら、それでいい。僕はエリックさんのウェブも外し始めた。

 

「それにしても。」

 

エレーナさんが僕を見る。

 

「その危険を感じる能力、もはや反則じゃない?」

 

「僕も、まだよく分かってないんですよ。」

 

「だったら、ちゃんと訓練した方がいいな。」

 

エリックさんが指摘してくる。

 

「戦った感じ、今は能力任せだろ? だが、戦闘技術と組み合わせたら、もっと厄介になる。」

 

さっきまでと評価が全然違う。何だか照れてしまう。

 

――プシュッ。

 

模擬戦場の扉が開いて、クロオさんが入ってきた。

 

「え?」

 

何で?僕は首を傾げる。クロオさんは、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 

ただ、何だろう。

 

さっきまでと雰囲気が違う。今までは、僕を見るたびに妙に嬉しそうにしていた、あの雰囲気がない。怒っているわけではないし、ただ静かにこちらへ歩いてくるだけ。なのに、何となく、身体が勝手に緊張した。

 

クロオさんは僕たちから少し離れた場所で止まると、観戦区画にいるスタークさんとフューリーさんへ顔を向けた。

 

「スタークさん。フューリー。」

 

あれ? 二人が揃って嫌そうな顔をした。

 

「僕も、良いですか?」

 

スタークさんが額を押さえる。

 

「そう来るか。」

 

フューリーさんも深く息を吐いた。

 

「お前は何をするつもりだ。」

 

「模擬戦です。」

 

「それは分かっている。」

 

クロオさんは少し考え、

 

「ピーター君に、一度ちゃんとした力を経験してもらうのも良いと思って。」

 

スタークさんとフューリーさんが顔を見合わせる。

 

「まあ。」

 

スタークさんが肩をすくめた。

 

「自分がどこまで通用するのか知るのも訓練か。」

 

「加減しろよ。」

 

フューリーさんが念を押している。

 

「もちろんです。」

 

クロオさんが頷いた。そこで、

 

「そういえば。」

 

今まで静かに見ていたティ・チャラさんが口を開いた。

 

「彼について聞いていなかったな。」

 

僕も聞きたかった。ティ・チャラさんはクロオさんを見てから、ブラック・ウィドウ、ナターシャさんに尋ねる。

 

「彼は何者なんだい?」

 

「ただの大学生よ。」

 

ナターシャさんの答えに、ティ・チャラさんは先ず頷き、

 

「なるほど、大学生か。」

 

と呟いた直後に動きが止まり、バッ!!っと突然フューリーさんに向き直った。

 

「まさか。……彼が?」

 

フューリーさんは何も答えなかった。

 

何?何の話?僕がクロオさんを見るけど、やっぱり普通の大学生にしか見えない。すると、

 

「三人でやれ。」

 

フューリーさんが言った。

 

「え?」

 

思わず声が出た。

 

「三人?」

 

エレーナさんも眉を寄せる。

 

「お前たち三人でクロオと戦え。」

 

「ちょっと待って。」

 

エレーナさんがクロオさんを見る。

 

「相手、一人よ?」

 

「エレーナ。」

 

クロオさんから目を離していなかったエリックさんが低い声で言った。

 

「何よ?」

 

「構えろ。」

 

さっきまでとは声が違った。エリックさんは既に完全な戦闘態勢になっている。

 

「こいつ……。」

 

そして、何となく僕にも分かった。

 

――ゾワッ。

 

身体が反応している。さっきまでの模擬戦と違う。実際に攻撃されている訳ではない。クロオさんは普通に立っているだけ。それなのに、僕の中にある、危険を知らせる感覚が、今までとは比較にならないほど強く反応している。

 

「…………何、これ。」

 

思わず呟くと、クロオさんと目が合う。

 

「ピーター君。さっきの戦い、凄かったです。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「なので、僕ともお願いします。」

 

笑っている。普通に笑っているだけ。なのに何故だろう、すごく怖い。

 

「せっかくなので。」

 

クロオさんが腰を落とす。

 

「いきなり超変身。」

 

「え?」

 

次の瞬間、クロオさんの腰にベルトが現れた。中央には、赤い石。僕は目を見開いてしまう。知っている。あれを、僕は知っている。

 

ニュース映像で、ネット上の映像で、ニューヨーク決戦の記録で、何度も見た。何度も調べた。

 

「え……。」

 

光が、クロオさんの身体を包み込み、人間だった姿が赤い装甲を纏った姿へと変わる。頭部から伸びる金色の角。さらに、

 

――バヂィィィィィィィン!!

 

金色の雷が弾け、赤の装甲に雷が奔る。見間違えるはずがない。忘れるはずもない。僕がずっと会いたかった。今日、この基地へ来る時から、会えるかもしれないと楽しみにしていた。あのヒーロー。

 

「…………。」

 

ずっと誰なんだろうと思っていた、謎の大学生クロオさんの正体は、

 

「…………クウガ?」

 

思わず、小さな声が漏れた。金の装飾がついた赤いクウガとなったクロオさんが、こちらを見る。

 

ようやく頭が現実へ追いついた。

 

「ええええええええええええええええええええええっ!?」

 

僕の叫び声が、模擬戦場いっぱいに響き渡った。

 

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