日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
以前にも「会議」はやっていますが、面子が違うのと、会議2よりは再利用の方が良いと思い、タイトルは「会議」です。
会議
アベンジャーズ基地。
僕と真魚、それと闇の力は一緒にアベンジャーズ基地へ呼ばれ、会議室にいた。
僕の隣に真魚が座り、そのさらに隣には闇の力がいる。ただし、闇の力だけは今から重要な会議が始まるという雰囲気をまるで気にしておらず、いつの間に用意したのか、湯気の立つカプチーノを片手に静かに飲んでいた。
会議室にはトニーさん、スティーブさん、ナターシャさん、バナーさん、ソーさん。そして少し離れた場所には、腕を組んだフューリーが立っている。
地球を守る主要戦力であるアベンジャーズが全員揃っている状況だ。
「それじゃあ始めるぞ。」
全員が席についたことを確認すると、フューリーがいつもの低い声で口を開いた。
「地球を守るため、俺は各自に、それぞれのやり方で戦力の増強を依頼した。今日はそれらの現状報告と、今後に向けた情報共有が目的だ。まだどれも途中段階ではあるが、一度ここで状況を整理しておいた方がいい。」
フューリーはそこで一度、僕たち全員を見回す。
「これから先、何が起こるか分からん。だからこそ、互いに何ができて、どこまで準備が進んでいるのかを把握しておく必要がある。よろしく頼む。」
「…………。」
僕はその言葉を聞きながら、何となく首を傾げた。
何かがおかしい。
いや、おかしいというほどではない。でも、以前のフューリーを知っている僕からすると、ものすごく不思議なことを聞いているような気がする。
「……不思議ですね。」
「何がだ。」
すぐにフューリーの視線がこちらへ向き、僕は少し考えてから、素直に口にする。
「フューリーが『情報共有をする』って言ってることに、最近、違和感を持たなくなってきました。」
会議室が静かになり、スティーブさんが自然に頷いた。
「確かに。」
ナターシャさんも同意するように頷きながら、フューリーを見る。
「以前なら、『必要な情報は必要な時に話す』とか言って、自分だけ全部知っていることが多かったものね。」
「そうだね。」
バナーさんまで苦笑しながら続ける。
「それで後から新しい情報が出てきて、トニーが怒るところまでが一連の流れだった気がする。」
「懐かしいな。」
トニーさんが大袈裟に頷いた。
「成長したじゃないか、ニック。」
「お前ら。」
フューリーのこめかみが僅かに引きつった。
「俺は昔から必要な情報は共有している。」
「その『必要』を君一人で決めてたから問題だったんだろ。」
トニーさんが即座に返すと、ナターシャさんとバナーさんまで小さく頷いた。フューリーは数秒ほど無言になった後、何故か僕を見る。
「黒雄、黙っていろ。」
「何で僕だけなんですか。」
「お前が始めたからだ。」
「それはそうですけど。」
僕が大人しく黙ると、隣の真魚が肩を震わせながら笑っていた。
「でもクロオ、フューリーさんに名前で呼ばれるようになったね。」
言われてみればそうだった。
以前なら「十文字」だったはずなのに、例のトニーさんの家での酒盛り以降、いつの間にかフューリーまで僕のことを黒雄と呼ぶようになっている。
「……まあいい。」
フューリーは僕たちのやり取りを強引に打ち切るように、小さく息を吐いた。
「まずは俺からだ。」
少し緩んでいた空気が、そこで改めて引き締まり、
「黒雄から得た未来の情報を基に調査した結果、ワカンダには極めて強力な戦力と、現在の世界水準を遥かに上回る科学技術が存在することが確認できた。そのため、俺は正式な手順を踏んで現ワカンダ国王、ティ・チャカ王と交渉を行った。」
ティ・チャラやエリックさんのことを思い出しながら、話を聞く。
「こちらから求めたのは、ヴィブラニウムの無条件提供でも、技術の開示でもない。地球規模の脅威が発生した際、ワカンダにも世界を守る側として協力してほしいということだ。そして、その要請については了承を得ている。」
「それはかなり大きいな。」
スティーブさんが真剣な表情で頷く。
「ああ。ヴィブラニウムやワカンダの技術についても交渉自体は続けているが、正直なところ、俺自身、今の世界へ無闇に広めるべきではないと思っている。」
すると、トニーさんが少しだけ意外そうな顔をした。
「ニック・フューリーの口から、『貰えるものでも慎重に扱おう』なんて台詞が聞けるとはな。」
「扱いきれない技術を無理に広めれば、次に起きるのは進歩じゃない。兵器開発競争だ。」
フューリーは特に気にした様子もなく答える。
「世界中の国が一斉にヴィブラニウム兵器を作り始める未来なんて、俺は見たくない。」
「それについては同感だ。」
今度はトニーさんも真面目に頷いた。そして、フューリーは少しだけ妙な間を置いた。
「それと、もう一つ。」
「まだあるのか?」
トニーさんが聞く。
「ああ。水のエルから得た情報によって、海底にヴィブラニウムを利用した技術で発展している王国が存在することも判明した。」
「海底国家?」
真魚が興味深そうに聞き返す。
「タロカンというらしい。」
その名前を聞いて、僕は僅かに首を傾げた。
「タロカン……。」
僕が知っている未来の情報は、いわゆるエンドゲームの辺りまでがほとんどで、それ以降については断片的なことしか知らない。だからタロカンという国についても、どんな国なのか、誰がいるのかといった詳しいことはまるで分からなかった。
「そんな国があったんですね。」
僕がそう呟くと、フューリーがこちらを見る。
「お前も詳しくは知らんのか。」
「はい。僕が知ってる未来には、たぶんほとんど出てきてません。」
「そうか。」
フューリーは少しだけ考え込んだものの、すぐに話を戻した。
「そのタロカンだが、俺がワカンダに滞在している最中、向こうから接触してきた。」
「それで?」
スティーブさんが続きを促す。
「……色々あった。」
「その『色々』を話すのが報告会じゃないのか?」
トニーさんがすぐに突っ込んだ。
「全部説明すると長い。」
「なら要点だけ言え。」
「……タロカンの代表が、水のエルと衝突した。」
会議室の空気が止まった。僕は思わず「ああ」と声を漏らした。ナターシャさんも、何とも言えない顔をしながら頷く。
「それは……仕方ないわね。」
「何が仕方ない。」
フューリーが睨む。
「いえ。水のエルって風のエルと同格なんでしょう? それと戦ったのなら、仕方がないわ。」
ソーさんまで大きく頷いた。
「闇の力の眷属と争い、命があったのであれば、それで良しとするべきではないか?」
「お前らは水のエルを何だと思ってる。」
「実際、怒らせたらかなり怖い人ですよ。確かノアの大洪水の実行は――」
「ストップだ黒雄。それは聞きたくない。」
僕が言い切る前に、フューリーは何とも言えない顔で止めてきた。すると、トニーさんが話を戻す。
「結局どうなったんだ?」
「最終的には、タロカンも地球規模の有事が発生した際には協力することで話がついた。」
「じゃあ結果だけ見れば大成功じゃないか。」
「過程が酷かったと言ってる。」
フューリーが疲れたように吐き捨てる。そのまま視線がナターシャさんへ向く。
「次は私ね。」
ナターシャさんは軽く肩を竦めながら話し始めた。
「正直なところ、レッドルームがまだ生き残っていたのは私にとっても予想外だった。昔の組織は壊したつもりだったけれど、結局、根は残っていたみたい。」
その言葉に、少しだけ会議室の空気が重くなるが、
「でも、そのおかげと言うべきかは分からないけれど、今回解放したウィドウたちの中から、一部が今後こちらに協力してくれることになったわ。全員というわけではないし、普通の生活へ戻りたい子たちは当然そちらを優先させてる。でも、まだ戦える力を使いたい、今度は自分の意思で人を守るために戦いたいと言っている子たちもいるわ。」
ナターシャさんはそこで少し表情を和らげた。
「風のエルのおかげで死者もほとんど出なかったし、主犯についても確実に仕留めることができた。」
「……確実に。」
僕は、その表現に何となく嫌な予感を覚えて、深く聞かないことにした。
「特にエレーナとアレクセイの二人は、妙にやる気ね。」
「エレーナさんは分かるんですけど、」
僕は以前会った女性を思い出したけど、
「アレクセイさん、っていうのはどなたですか?」
「私の義父的な人なんだけど、『今度こそ本物のヒーローチームに参加する』って息巻いているのよ。」
「へー……。」
そんな人がいるんだ。ウルトロンとの戦いが終わってから、僕の知らない人や組織が増えてる。………うん、僕の主な役割は戦力としてかな!
「次はブルース。」
フューリーに促され、バナーさんが少し困ったように笑った。
「僕は二人みたいに仲間を増やした、とかはないね。別の惑星にハルクを解き放って、自由にさせただけだから。」
「言い方だけ聞くと、宇宙に危険生物を放流したみたいだな。」
トニーさんが言う。
「僕も言ってからそう思ったよ。」
バナーさんが苦笑する。
「でも、多分、今のハルクはかなり強くなっているはずだよ。」
「おお。」
僕は思わず前のめりになった。僕の反応を見たバナーさんは苦笑しながら続ける。
「技術を身につけた、という感じではないんだ。ただ、巨大生物たちと戦い続けているうちに身体の動かし方とか、相手との距離の取り方とか、攻撃を受けるべきか避けるべきか、みたいな判断がかなり洗練されてきた。」
「技術を超越した野生、みたいな?」
「そう。それが一番近いと思う。」
バナーさんが頷く。
「本人曰く、今なら雷を纏った方の、黒い姿の黒雄なら勝てるって言ってたよ。」
「おお!」
思わず大きな声を出してしまう。
「アメイジングに勝てる宣言! 凄い!」
「そこ喜ぶのか?」
トニーさんが呆れた顔をする。
「いや、凄いですよ! あの姿に勝てるって言えるくらい強くなってるんですよね? あの姿ってエルロードたちより強いんですよ?」
「少なくとも本人はそのつもりみたいだね。」
「今度会うのが楽しみだなぁ。」
「模擬戦はするなよ。ハルクとお前の模擬戦など、想像するだけで悪夢だ。1分で基地が更地になる。」
フューリーから釘を刺され、僕は仕方なく口を閉じた。…………あの惑星でならできるかな?
僕がアホなことを考えていると、続いて、スティーブさんが姿勢を正す。
「俺は新人たちの訓練が中心だった。ソコヴィアにいたワンダとピエトロ。それから、光のエルの村出身で、自分たちも世界のために戦いたいと言っている子たちが中心だな。」
僕はその顔ぶれを思い浮かべる。
「基本的な戦闘訓練だけじゃない。対テロ戦、救助活動、避難誘導、市街地で戦う時に民間人へ被害を出さないための動き方。そういった実戦的な訓練を中心に教えている。サムにも協力してもらっているし、元S.H.I.E.L.D.の人間で、信用できると判断された者たちにも参加してもらっている。」
「かなり本格的ですね。」
「ああ。」
スティーブさんは少し考えてから、フューリーを見る。
「宇宙からの脅威だけじゃなく、テロや大規模犯罪、紛争なんかへの対応も必要ならやっていきたいと思っている。そこはどう考えてる?」
「本音を言えば、そっちは公的機関の連中に任せるべきだと考えている。」
フューリーは即答した。
「警察、軍、各国政府。それぞれ役割がある。俺たちが何でもかんでも首を突っ込み始めれば、今度は政治的な問題で身動きが取れなくなる。」
「………そうか。」
「お前がキャプテン・アメリカとして、目の前で困っている人間を放っておけないのも分かっている。ただし、こっちが動きづらくなるようなことだけはするなよ。」
「……善処する。」
「その返事が一番信用できん。」
フューリーがスティーブさんの返しに不満そうな顔をしたところで、トニーさんが口を挟んだ。
「まあ、キャップの正義感を止めるのは難しいだろ。」
スティーブさんが少し意外そうにトニーさんを見る。
「だったら、政府なり国連なりから正式に協力要請が来た時には、キャップを中心に専門の部隊を動かせるようにしておけばいいんじゃないか?」
「トニー。」
「我慢させて勝手に飛び出されるくらいなら、最初から正式な仕事としてやらせた方がこっちも管理しやすい。」
スティーブさんの顔に、少しだけ感動したような色が浮かんだ。
「君が、そんなふうに考えてくれていたとは。」
「何だ、その顔は。」
「いや。理解してくれたのかと思って。」
「違う。」
トニーさんは即答した。
「どうせ止めたら、勝手に動くだろ。だったら多少管理した状態で動けるようにしておくべきだ、という意見だ。」
あ、スティーブさんの表情が目に見えて沈んでしまった。
「信用されていない……。」
「信用してるから言ってる。君の行動パターンをね。」
「それは信用とは言わない。」
トニーさんとスティーブさんのやり取りを見て僕と真魚が笑う横で、フューリーまで小さく肩を揺らしていた。
「次は僕だな。」
トニーさんが自分で話を切り替える。
「僕については、まあ、いつも通りだ。スーツの開発を続けている。」
「何か大きな進展はあるのか?」
フューリーが尋ねる。
「ワカンダのナノテクスーツはかなり参考になったよ。」
「待て。」
フューリーの眉が寄り、待ったをかける。
「ワカンダ側は、技術データの共有をしていないはずだが。」
「してないし、されてないな。」
「なら何故参考にできる。」
「この基地の中で、あれだけの模擬戦をやったんだぞ?」
トニーさんは悪びれる様子もなく答えた。
「装甲の展開速度、形状変化、エネルギー反応、耐衝撃性。スキャンするだけでも十分なデータは取れる。」
「お前、それはほとんど盗んでるだろ。」
「違う。観測だ。」
「言い方を変えてるだけじゃないか。」
「技術者にとって観測は基本だ。」
「後でワカンダに説明するのはお前だからな。」
「その時考えるさ。」
怒られそうだな。すると、トニーさんが今度は僕を一度見てから、
「ピーター・パーカー。スパイダーマンについては、キャップではなく僕が面倒を見る。若手の面倒を一手に見てくれているところで、彼だけ特別扱いしてすまないとは思うが、ここは譲らない。」
トニーさんは真剣な表情を作りつつ、大きなため息を吐いた。
「彼も彼で、どうせ止めても勝手に危険へ突っ込んでいくタイプだ。それなら、完全に止めるんじゃなくて、最低限こちらで把握できるようにした方がいい。」
僕はすぐに頷いた。
「それがいいと思います。」
「何かある時は必ず連絡を入れさせる。『待て』とは言うが、『行くな』『来るな』はなるべく言わないようにする。」
「かなり現実的ですね。」
「ついでに一昨日、詐欺グループを捕まえに行ったらヒドラの残党だった。」
予想外の情報に固まってしまった。
「なんで詐欺グループからヒドラに繋がるんですか?」
「僕が聞きたい。」
トニーさんが額を押さえた。
「ただの詐欺事件を追っていたら、武器が出てきて、地下施設が見つかって、最終的にヒドラだった。本人は『ちょっと大変でした』で済ませていたよ。」
「ピーターらしいですね。」
「黒雄、君はあれでまだ手間がかからない方だったんだと知ったよ。」
「それは失礼じゃないですか?」
「比較対象が酷いんだ。」
バナーさんが笑いながら言った。……まあ、15歳の僕は一条さんや未確認生命体対策班の皆さんに散々迷惑をかけていたけど。
そんな中、スティーブさんがトニーさんを見ながら、ふと口を開く。
「まるで後継者を育てているみたいだな。」
その言葉に、トニーさんの表情が少し変わり、
「まるで、じゃない。僕の後継者にするつもりで育てる。」
今度は本当に、会議室全体が静かになった。
「ピーター自身のスタンスは、ニューヨークの親愛なる隣人だ。それはそれでいいし、無理に変えるつもりもない。ただ、いずれはクロオと一緒に、世界を、地球を守る中心人物になってほしいと考えている。」
「…………。」
思った以上に大きなことを言われ、僕まで何と返せばいいか分からなくなる。
「僕もそろそろ歳だしな。」
トニーさんが肩を竦めた。
「いつまでも僕が最前線で飛び回るより、僕が後ろから情報と装備を出して、現場には信頼できる若者がいる。その形が一番いいだろ?」
その言葉に、今度は誰も茶化さなかった。スティーブさんも静かに頷く。
「………確かに、先のことを考えるのも必要だな。」
「僕たちが永遠に最前線に立てるわけじゃないからね。」
バナーさんも続ける。僕も黙ったまま、トニーさんの言葉を考えていた。
僕の知る未来と比べて、ピーターの置かれている環境は大きく変わり始めている。でも、たぶん良い変化だ。
少なくとも、一人で全部を抱え込む未来よりは。
「次。」
フューリーの視線がソーさんへ向く。
「ああ。」
ソーさんは少し申し訳なさそうに頷いた。
「すまんな。戦力増強という意味では、俺はあまり上手くいっていない。」
「意外ですね。」
僕が言うと、ソーさんが苦笑する。
「地球とアスガルドを行き来しながら、俺自身も修行を続けてはいる。父上に、いい加減、雷神としての力そのものを使いこなせと言われてな。」
トニーさんが納得したように頷く。
「確かにお前、ハンマー頼りなところがあるな。」
「それを言うな。」
「事実だろ。」
「俺も分かっている。」
ソーさんが少し嫌そうに眉を寄せる。
「色々試してはいるのだが、あまり順調とは言えん。」
「戦力そのものについては?」
フューリーが尋ねる。
「ロキが、地球に有事が起きた際、すぐ動ける即応部隊を設立したらしい。」
おお、流石ロキ。……あれ? 僕とソーさん以外の全員が、微妙な顔をしている。
「……あの元侵略者王子。」
ナターシャさんが呟き、
「味方になると、妙に有能じゃないですか?」
真魚が続ける。
「敵だった時より働いてないか?」
バナーさんまで苦笑する。フューリーも腕を組んだまま、
「俺も最近、それは思っている。」
と、珍しく素直に同意していた。僕とソーさんだけは、
「ロキですからね。」
「ロキだからな。」
何となく普通に受け入れていた。トニーさんがソーさんに、
「お前自身の修行って、具体的に何をしてるんだ?」
「色々だ。雷に打たれたり。」
「雷神が?」
「強い敵と戦ってみたりもした。ああ、一番手応えを感じたのは、黒雄との訓練だな。」
「…………。」
フューリーが、ものすごくゆっくり僕を見る。
「黒雄。」
「はい。」
「俺は、お前に休めと言ったはずだが。」
「いや、僕もちょうど雷の扱い方を訓練したかったんで、良かったんですよ。」
「休養中にすることか?」
「そんなに激しくはやってません。」
「ソー相手に?」
少し考え、
「僕としては。」
「黒雄、後で話がある。」
「嫌です。」
「拒否権はない。」
「そんな。」
僕が肩を落とすと、真魚が隣で呆れたようにため息を吐いていた。
僕はふと、以前ソーさんに頼んでいたことを思い出した。
「そういえばソーさん。」
「うむ。」
「例の、鍛冶関係の種族。」
僕の声が少しだけ低くなった。ソーさんもすぐに意味を理解したようで、表情を引き締める。
「確認、どうでしたか?」
未来の記憶でインフィニティ・ガントレットを手に入れたサノス。そして、それを作らされた鍛冶師たち。僕が知っている限りでは、彼らはサノスによって酷い目に遭わされていた。
この時期だと、すでに何かが起きているのではないか。そんな不安があったけれど、
「ああ。確認してもらった。」
ソーさんははっきりと答えた。
「ドワーフたちは、いたって平和だったそうだぞ。」
「そう、ですか。……良かった。」
「その件も含めてだ。」
フューリーは僕だけでなく、全員を見る。
「宇宙の脅威。特にサノスについては、未来とは違う動きを見せ始めている可能性が高い。」
空気が改めて引き締まる。スティーブさんがゆっくりと言う。
「つまり、黒雄の未来の知識が、もう機能しない可能性がある、ということだな。」
「ああ。」
フューリーが頷いた。
「すでにかなり機能しなくなり始めていると考えた方がいい。」
僕はその言葉を否定しない。実際、そうなのだと思う。
「だが、俺たちは備えている。」
フューリーが会議室にいる全員を見る。
「そして、これからも備え続ける。今回の報告だって、あくまで途中経過の確認に過ぎん。」
僕は小さく頷く。以前なら、未来が変わることが怖かった。何が起きるか分からなくなることが、不安だった。でも今は、未来が変わったからこそ救われた人もいる。生き残った人も、仲間になった人もいる。
だから、未来が分からなくなっていくことが、必ずしも悪いことだとは思わなくなっていた。
「それと。……今回は、闇の力からも話があるらしい。」
全員の視線が、一斉に僕の隣へ向いた。
「…………。」
そこでは、今日ここへ来てから一言も喋らず、一人だけ静かにカプチーノを飲み続けていた闇の力が、ちょうどカップを口元から離したところだった。
ーーーーー
「やはり。」
カップの中を見ながら、ぽつりと呟く。
「いつもの店のものが好みだな。」
「そこですか?」
僕は思わず突っ込んだ。
「闇の力。話があるなら、早くしてください。皆待ってます。」
「そうなのか?」
「見れば分かるでしょう。」
全員から視線を向けられているのに、本人はまったく気にしていない。ようやく闇の力がカップをテーブルへ置いた。
「では話そう。」
僕がため息を吐く中、闇の力はいつもと何一つ変わらない表情で口を開く。
「インフィニティ・ストーン関係だ。」
「……いきなりヤバい案件だよ、絶対。」
フューリーも腕を組み直す。
「何か新しい情報か?」
「うむ。この世界、いや、この宇宙には、インフィニティ・ストーンが二セット存在している。」
会議室の中に、異様な沈黙が落ちた。
「……は?」
最初に反応したのは、トニーさんだった。それをきっかけに、
「二セット?」
「六つではないのか?」
「どういう意味?」
次々に声が上がる。僕も当然、混乱していた。
「いや、待ってください。」
闇の力を見る。
「二セットって……インフィニティ・ストーンが十二個あるってことですか?」
「正確には違う。」
「違うんですか?」
闇の力は淡々と続けた。
「一つのセットは、君たちの知る石だ。」
「えっと、以前確認したね。スペース、マインド、リアリティ、パワー、タイム、ソウル。」
バナーさんが思い出しながら口にする。
「では、もう一つのセットとは何だ?」
フューリーの問いに、闇の力は何でもないことのように答えた。
「我々だ。」
再び、会議室が完全に止まった。
「……どういうこと?」
今度はナターシャさんが聞き返す。
「未来の知識を持つ者たち。」
闇の力は変わらない調子で続ける。
「我々が、もう一組のインフィニティ・ストーンだ。」
誰も理解できていないし、僕も理解できていない。しかし、その中でもフューリーだけは僅かに早く立ち直り、流せない部分を追求する。
「待て。……今、我々と言ったか?」
「ああ。」
フューリーの片目が鋭く細められる。
「つまり、お前自身も含まれるのか?」
「当然だ。」
闇の力はそこで僕を見る。
「私や、クロオのような存在のことだ。」
全員の視線が、今度は僕へ向いた。
「え?」
僕が固まっている横で。
「ちょっと待って。」
真魚が先に反応した。
「闇の力も、クロオと同じように未来の知識を持ってるの?」
「持っていた。」
「持っていた?」
「ほとんど忘れてしまったからな。」
トニーさんは額を押さえた。
「ちょっと待て。情報量が多い。」
「そうか? だが、今はそこは重要ではない。」
「いや、かなり重要だと思うぞ。」
「後で話す。」
「絶対だぞ。」
「気が向けばな。」
トニーさんが眉を寄せる中、真魚はそれよりも別のところが気になったらしい。
「じゃあ。闇の力もインフィニティ・ストーンの力を持ってるんだ。どの石?」
僕も思わず闇の力を見る。確かに、それはかなり気になる。闇の力は、全員から視線を向けられても何一つ動じず、平然と答えた。
「ソウルストーンだ。」
「ああ。」
僕は思わず納得するように声を出してしまった。
「何だ、その反応は。」
フューリーが僕を見る。
「いや。何となく、それっぽいなって。」
「雑だな。」
トニーさんが呆れたように言う。その横で、真魚はさらに僕を見る。
「じゃあクロオは?」
「え?」
「クロオも同じなんでしょ?」
僕はゆっくり闇の力を見る。
「僕は何の石なんですか?」
闇の力は少しだけ間を置いた。
「インフィニティ・ストーンの中でも、最も異質な存在、」
……そんなのあったっけ?
「エゴストーン。」
……………本当に、そんなのあったっけ?
「……何ですか、それ。」
「エゴストーンだ。」
「いや、聞こえましたけど。」
頭の中で、僕が知っているインフィニティ・ストーンを思い浮かべる。
スペース。
マインド。
リアリティ。
パワー。
タイム。
ソウル。
やっぱり、ない……よね?
「そんなストーン、ありましたっけ?」
闇の力が淡々と答えた。
「おそらく、君の知る未来には出てこない。」
「…………ええぇー……。」
情けない声が、自分の口から漏れた。
「本当に、僕がそのエゴストーンなんですか?」
「そうだ。」
「なのに僕が知らない? 自分のことなのに?」
「君の未来知識に存在しないのだから仕方ない。」
「ええぇー……。」
もう一度、同じ声が出た。
「僕の未来知識、本当に最近役に立たなくなってません?」
「元々万能ではない。」
「そういう慰めはいらないです!」
僕が頭を抱える横で、トニーさんが小さく息を吐く。
「クロオ関連の問題がまだ増えるのか。」
スティーブさんも、何とも言えない顔をしている。
「今日は戦力増強の報告会だったはずなんだが。」
「気づいたら宇宙の謎に迫る話になってるわね。」
ナターシャさんも呆れたように言う。バナーさんだけは、
「エゴストーン……。」
すでに完全に研究者の顔になっていた。
ソーさんはソーさんで、
「知らぬ石か。それは興味深いな。」
妙に楽しそうである。そしてフューリーは深く、本当に深く、ため息を吐いた。
闇の力は何事もなかったように、再びカプチーノを一口飲んだ。
ーーーーー
「……どこまで話した?」
闇の力が、カプチーノのカップを手にしたまま、何事もなかったように言った。
「インフィニティ・ストーンが二セットあるって話を聞いて、僕が知らないエゴストーンの話をされて、僕の未来知識がまた役に立たないことが判明したところです。」
「最後は必要か?」
フューリーが呆れたように聞いてきた。
「僕にとっては重要です。」
そんな僕たちのやり取りを気にする様子もなく、闇の力は一度だけ小さく頷いた。
「では、続きから話そう。」
再び、全員の視線が闇の力へ集まる。
「問題は、それが何を意味するのかだ。……二組のインフィニティ・ストーンが同一の宇宙に存在している影響で、この世界は、他の宇宙と比べても非常に強固な世界になっている。」
「強固?」
スティーブさんが聞き返す。
「物理的に壊れにくい、という意味ではない。世界そのものが独立している、と言えば近いか。」
「……独立。」
ナターシャさんが小さく呟いた。
「本来、世界というものは完全に孤立しているわけではない。同じような宇宙、違う歴史を歩んだ宇宙、全く異なる法則を持つ世界。それらは互いに存在している。そして、条件さえ整えば、別の世界からこちらへ干渉することもできる。」
「マルチバース、か。」
バナーさんが真剣な表情で言った。その単語が出た瞬間、僕は思わず闇の力を見る。
ああ。そういう話か。
「クロオ。今の話、分かる?」
隣に座る真魚が僕にコソッと聞いてくる。
「たぶん。別の世界から人が来たり、逆にこっちから別の世界へ行ったりするような話。」
「そんなことができるの?」
「僕が知ってる範囲だと、できる……はず……なんだけど。」
「何故急に自信がなくなる。」
フューリーが聞いてきた。
「最近、未来知識の信頼性がどんどん下がってるので。」
「それは確かにそうだな。」
あっさり認められると地味に傷つく。僕が肩を落としている横で、闇の力が話を続けた。
「普通の宇宙であれば、そういった別の宇宙からの干渉が起こる可能性はある。だが、この世界については事情が異なる。」
「インフィニティ・ストーンが二組あるから?」
真魚が尋ね、闇の力は頷いた。
「二組の石が同時に存在していることで、この宇宙そのものの存在強度が異常なほど高くなり、独立した状態となった。結果、外部の世界から干渉することが極めて難しい。」
僕はしばらく考えた。
「……あれ? それって、何か困ります?」
全員の視線がこちらへ向いた。僕は少し慌てて続ける。
「他のマルチバースから干渉されないなら、むしろ安全じゃないですか? 別の世界から敵が来るとか、そういうことが起こりにくいってことですよね。」
「基本的には、その認識で間違っていない。」
闇の力が答えた。
「じゃあ、メリットでは?」
「そうだ。」
今度は僕の方が分からなくなる。
「なら何で今、その話を?」
闇の力はカップをテーブルに置いた。
「その前提が、崩れる可能性が出てきたからだ。」
会議室の空気が変わった。トニーさんが僅かに身を乗り出す。
「詳しく話せ。」
「先日、この世界で起きた事件に私自らが関わった。スコット・ラングの件だ。」
その名前を聞いて、僕はすぐに顔を上げた。
「アントマンですか?」
闇の力が頷く。そして全員が思い出す。
ああ。アベンジャーズ基地に侵入しようとし、闇の力に発見され、事件解決に協力してもらえた不運なのか豪運なのか、判断に迷う奴がいたな、と。
「ハンク・ピム博士の研究がその前提を崩す鍵だ。」
バナーさんの表情が変わる。
「もしかしてピム粒子か?」
闇の力は静かに続ける。
「ピム粒子による縮小。その先に存在する、量子領域。」
「量子世界……。」
ものすごく小さくなって、原子よりも小さくなって。その先にある、普通の物理法則が通用しない世界。確か、スコットはそこへ落ちて、それでも戻ってきた……ような、気がする。
「黒雄。」
フューリーがこちらを見る。
「知っているのか?」
「微妙に、……すみません、あまり覚えていなくて。」
僕は頭の中の記憶を探りながら答える。
「ただ、僕の知ってる未来だと、量子世界はかなり重要な要素だったはずです。でも……詳しい仕組みまでは分からなくて。」
時間泥棒作戦とか。
「問題は、その量子領域が、他の宇宙への通路になり得る可能性があることだ。」
トニーさん、バナーさんが一気に研究者の顔へ変わった。
「つまり、通常の空間を通じては干渉できない別宇宙でも、量子領域を経由すれば接続できる可能性がある、ということか?」
「まだ確定したわけではない。だが、少なくとも可能性はある。」
「それは……。」
バナーさんは顎に手を当て、完全に考え込み始めた。
「もし本当なら、かなり大きな発見だ。」
「大きいで済ませていいのか?」
フューリーが低い声で聞く。
「良くはないね。」
バナーさんは苦笑する。
「別宇宙との移動経路になり得るってことは、」
「最悪の場合、侵入経路にもなり得る、ってことだ。」
トニーさんが続ける。
「その通りだ。」
闇の力は淡々と認めた。
「だから頼みがある。」
その視線が、トニーさんとバナーさんへ向く。
「可能であれば、ハンク・ピムに協力し、量子領域について調べてほしい。」
トニーさんが眉を上げる。
「僕とブルースが?」
「君たちが、この場では最も適任だ。」
「まあ、それは否定しないけどな。」
トニーさんは少し考えた後、バナーさんを見る。
「どうする?」
「僕は興味あるよ。むしろ、そんな話を聞いて調べない方が無理だと思う。」
「だよな。」
トニーさんも小さく笑った。
「分かった。協力しよう。」
「助かる。」
闇の力が頷く。しかし、
「ただし、ハンク・ピムはかなり偏屈だ。」
トニーさんの表情が止まった。
「……ああ。父とも因縁があるらしいな。」
「なら尚更気をつけろ。」
「何をだ。」
「喧嘩せず、協力し合ってくれ。」
トニーさんが不満そうな顔をする。
「何故僕だけに言うんだ。」
バナーさんが横で静かに視線を逸らした。
「ブルース?」
「僕は何も言ってないよ。」
「顔が言ってる。」
僕も何となく想像できた。ハンク・ピム博士とトニーさん。うん、絶対に揉める。
「スタークさん。最初から謝る準備だけしておいた方がいいんじゃないですか?」
「君まで何を言ってる。」
「経験則です。」
「誰との経験則だ。」
「主にスタークさんとの。」
「あとで話し合おう。」
「嫌です。」
トニーさんが呆れたように僕を見る。
なお、後日聞いた話だと、色々と揉めに揉めたけれど、最終的にはピム博士とトニーさんは意外と気が合ったらしい。
ーーーーー
「さらに。」
「まだあるのか。」
話を続ける闇の力に、フューリーの声に明らかな疲労が混ざった。
「今日は途中経過を確認する報告会だぞ?」
「だから報告している。」
「内容が重すぎると言ってるんだ。」
闇の力は気にせず続ける。
「この世界には、科学とは異なる手段で世界の外側へ干渉する力も存在する。」
あ、導入の段階でトニーさんが額を押さえる。
「魔術だ。」
今度は、妙な沈黙になった。ソーさんだけは特に驚いていない。
「魔術ならば、アスガルドにもあるぞ。」
闇の力は頷く。
「だが、今話しているのは地球の魔術だ。」
「地球にも魔術師がいるの?」
真魚が驚いたように聞く。
「いる。地球には、古くから世界を異なる次元の脅威から守ってきた魔術師たちが存在する。」
「異なる次元?」
スティーブさんが聞く。
「ああ。マルチバースとはまた異なる要素だが、」
闇の力の表情が僅かに真剣なものへ変わった。
「その一つが、ダーク・ディメンション。通常の宇宙とは異なる法則を持つ世界。時間という概念すら、こちらとは同じではない。そこを支配している存在がいる。」
「どんな奴だ?」
フューリーが尋ねる。
「ドルマムゥ。」
魔術関係だから、ドクター・ストレンジ関係なんだろうけど、闇の力が口にした瞬間、その名前だけで何となく嫌な感じがした。
「強いんですか?」
僕が尋ねる。
「強いという表現では足りんな。」
「ですよね。」
「何故納得する。」
「闇の力がそういう言い方する相手って、相当ヤバいんだろうな、と思って。」
「正しい認識だ。」
「やっぱり。」
嫌な確信を得てしまった。闇の力は続ける。
「ドルマムゥは、自らの世界へ他の世界を取り込み続けている存在だ。地球についても例外ではない。」
「侵略者、ということか。」
スティーブさんの表情が険しくなる。
「大きく見れば、そうだ。」
「今まで何故、地球が無事だった?」
フューリーが聞く。
「魔術師たちが防いでいる。特にその頂点がな。」
「魔術師たちのトップが?」
ナターシャさんが尋ねる。
「ああ。」
闇の力は僅かに頷いた。
「名をエンシェント・ワン。」
その名前を聞いた瞬間、僕の頭の奥で、何かが引っかかった。
「……エンシェント・ワン。」
知っている。名前だけは。いや、顔もたぶん分かる。エンドゲームにも出ていた。
「黒雄。」
トニーさんが僕を見る。
「知ってる顔だな。」
僕は少し考えながら答える。
「確か……ものすごく強い魔術師、だったと思います。」
「それだけか?」
「あ、ニューヨーク決戦の時に、ニューヨークにいたらしいです。」
「………本当に役に立たなくなってきたな。」
「スタークさんまで!」
皆酷い! と嘆く僕を、隣で真魚が苦笑しながら見ている。
「それで。」
フューリーが話を戻した。
「そのエンシェント・ワンがどうした。」
闇の力は一度、僕を、次に真魚を見る。
「会いたいそうだ。」
僕と真魚が同時に固まった。
「誰に?」
真魚が恐る恐る尋ねる。
「君とクロオに。」
「私も? 何で?」
「知らん。」
「知らないんですか?」
僕が思わず聞き返す。
「火のエル経由での依頼でな、詳しくは聞いていない。」
「火のエルからの?」
「火のエルには主に魔術関係を任せている。彼自身、タイムストーンを宿す者だ。エンシェント・ワンとは協力関係を築けているらしい。」
シレッと火のエルがタイムストーン枠であることを報告され、僕は思わず頭を抱えた。フューリーは真剣な表情で、
「その火のエルは何故来ない?」
「アレにも色々あるのだ。」
「火のエル、そして、そのエンシェント・ワンは信用できるのか?」
「少なくとも、両名の地球を守る意思については信用していい。」
闇の力は即答した。
「特にエンシェント・ワンは長い間、この世界を守ってきた者だ。火のエルのことも、私が保証しよう。」
「なら、会う価値はあるか。」
スティーブさんが言う。
「そうですね。」
僕も頷きかけたところで、ふと気づく。
「……ちょっと待って。」
「何だ?」
真魚が僕を見る。
「僕と真魚、ですよね?」
「ああ。」
闇の力が答える。
「何で僕だけじゃなくて、真魚も?」
「それは本人に聞け。」
「それが一番気になるところなんですけど。」
真魚も困ったように眉を寄せる。
「それに私、魔術とか全然関係ないよね?」
「アギトだからじゃない?」
「クロオもクウガでしょ?」
「そうだけど……。」
僕たちは顔を見合わせる。闇の力は、そんな僕たちをしばらく眺めた後。
「まあ。」
再びカプチーノへ手を伸ばした。
「会えば分かるだろう。」
「「雑!」」
僕と真魚の声が、綺麗に重なった。その横で、フューリーが深く息を吐く。
「……今日の報告会で分かったことがある。」
「何ですか?」
僕が聞くと、
「戦力は増えている。」
「はい。」
「同時に、問題も増えている。」
否定できない。確かに味方は増えているし、備えも進んでいる。だけど、
「……なんか。」
僕は会議室にいる全員を見回しながら、小さく呟いた。
「地球を守る準備をすればするほど、知らなかった危険が増えてません?」
トニーさんが、疲れたように椅子へ背中を預け、
「気づいてしまったか。」
「気づきたくなかったです。」
「安心しろ。」
フューリーが言った。
「俺も同じ気分だ。」
「全然安心できないですよ。」
僕がそう返す横で、闇の力だけは何事もなかったように、静かにカプチーノを飲んでいた。
ーーーーー
――後日。ピム・テック旧研究施設。
「だから、スタークの人間を研究室に入れるつもりはないと言っている。」
「安心しろ。僕も君の研究室に入り浸る趣味はない。」
「なら帰れ。」
「話が終わる前に追い返すな。」
開始から、わずか三分。トニー・スタークとハンク・ピムは、既に揉めていた。
その光景を少し離れた場所から見ながら、ブルース・バナーは小さく息を吐いた。
予想通りと言えば、あまりにも予想通りだった。量子領域について共同研究を行う。目的だけ聞けば極めて真っ当な話だった。
ピム粒子の第一人者であるハンク・ピム。そして、世界最高峰の科学者の一人であるトニー・スターク。そこにブルースまで加わる。研究者として考えるなら、これ以上ないほど豪華な組み合わせと言っていい。問題は、
「そもそも私は君の父親を信用していなかった。」
「それは知ってる。父も君について、扱いづらい天才だと言っていた。」
「ハワードが?」
「ああ。」
「……あの男。」
「安心しろ。僕もよく言われていた。」
「君は自覚があるだけ少しマシだな。」
「褒められた気が全くしない。」
お互いの性格だった。
ハンクは明確にスターク家を嫌っている。特にハワード・スタークとは、S.H.I.E.L.D.時代からピム粒子を巡って対立していた。
そしてトニーもトニーで、相手が年上だからと遠慮する性格ではない。むしろ自分と同じ分野で突出した才能を持っている相手ほど、容赦なく口を挟む。
「……ブルース。」
トニーが振り返る。
「何だい?」
「君からも言ってやれ。僕は別にピム粒子を盗みに来たわけじゃない。」
「僕を巻き込まないでくれるかな。」
ブルースは即座に拒否し、ハンクが鼻を鳴らす。
「信用できるものか。スターク家の人間は昔からそうだ。人の技術を見ると、すぐに自分で再現しようとする。」
「正確には、理解できる技術を見ると仕組みを知りたくなる。」
「同じことだ。」
「全然違う。」
「どこが違う。」
「僕の場合、作れるかどうか確認して満足することもある。」
「もっと悪いだろう。」
ブルースは、もう一度ため息を吐いた。やはり駄目かもしれない。そう思い始めた、その時だった。
「ただ。」
トニーが急に声の調子を変えた。
「一つだけ先に確認しておきたい。」
ハンクが警戒するように眉を寄せる。
「何だ。」
「今回の研究成果を、どこまで外へ出すつもりだ?」
その問いに、ハンクの表情が僅かに変わった。
「……どういう意味だ。」
「そのままの意味だ。」
トニーは近くの机へ腰を預ける。
「量子領域が本当に別宇宙への経路になり得るなら、これはピム粒子単体より遥かに危険な技術になる。」
ハンクは黙って聞いている。
「人間一人を小さくする程度ならまだいい。」
「程度とは何だ。」
「今は話の腰を折るな。」
「君が言うな。」
「量子領域を安定して移動できるようになった場合、話は変わる。」
トニーは真面目な表情のまま続けた。
「軍が知れば、侵入経路として使おうとする。企業が知れば物流へ応用しようとする。政府が知れば監視や諜報に使いたがる。」
ブルースも表情を引き締める。
「それだけじゃない。もし別世界と接続できるなら、こっちから行けるということは、向こうからも来られる可能性がある。」
「当然だ。だから私は、ピム粒子を世界へ公開しなかった。」
「……なるほど。」
トニーが少しだけ目を細める。ハンクも逆に尋ねる。
「君は違うのか?」
「何がだ。」
「スターク・インダストリーズ。」
ハンクは腕を組む。
「かつては世界最大級の兵器企業だったはずだ。」
「ああ。」
「その会社を継いだ君が、技術を秘匿することに抵抗はないのか?」
トニーは一瞬だけ黙るが、
「僕はもう、武器を売ってない。兵器部門はとっくに閉じた。」
ハンクが僅かに眉を上げる。
「理由は?」
「自分が作ったものが、どう使われるかを知ったからだ。」
トニーの声から、いつもの軽さが少しだけ消える。
「作った人間が善意でも、使う人間まで善人とは限らない。だから今は、作れるから作る、売れるから売る、なんてことはしない。」
トニーはハンクを見る。
「特に、世界が扱いきれない技術についてはな。」
しばらく、二人は無言で見つめ合った。ブルースはその様子を見ながら、少しだけ驚いていた。最初に会った時より明らかに空気が違う。
「……君。」
ハンクが口を開く。
「思ったよりマシだな。」
「君も思ったより話が分かる。」
「褒めているのか?」
「かなり。」
「そうか。」
「ただし性格は悪い。」
「君にだけは言われたくない。」
ーーーーー
作業は異常な速度で進んだ。
「ここの演算、おかしくないか?」
「おかしくない。」
「いや、おかしい。量子揺らぎの補正が強すぎる。」
「それは通常空間の物理で考えているからだ。」
「なら係数を変えろ。」
「既に変えている。」
「……本当だ。」
「人の式を読むなら最後まで読め。」
「字が汚い。」
「手書きの数式に文句を言うな。」
口論は続いている。だが、手は一切止まっていなかった。ハンクがピム粒子と量子領域の理論を提示し、トニーがそれを即座に解析し、必要な部分を機械設計へ落とし込む。ブルースが二人の間に入り、計算の誤差や生体への影響を補正する。
「量子トンネルの安定化装置は、この形でいける。」
「電力効率が悪い。」
「一時的に開くだけだぞ。」
「それでも無駄だ。」
「君、妙に省エネにうるさいな。」
「設計が汚いのが嫌いなんだ。」
「そこは同意する。」
「……。」
「……。」
ハンクとトニーが同時に黙り、ブルースが二人を見る。
「今、意見が一致したね。」
「してない。」
「していない。」
声まで揃った。ブルースは笑うしかなかった。
数時間後、当初は数日かかると見積もられていた装置の基本設計が完成した。
翌日には試作機が動いた。
さらにその翌日、量子領域への安定した通信経路が確立された。
「……反応がある。」
ハンクの声が震えた。モニター上に微弱な信号が表示されている。何十年もハンクが心の奥で諦めきれずに探し続けていた存在。
「ジャネット……。」
ブルースが静かに画面を見る。トニーも、いつもの皮肉を口にせず、
「位置は特定中だが、」
トニーの指が高速で端末を操作する。
「量子座標を固定する。ピム、粒子の出力を二・七パーセント上げろ。」
「上げすぎだ。」
「補正込みだ。」
「根拠は?」
「僕。」
「却下だ。」
「ブルース。」
「計算上はトニーが正しい。」
「……二・七だな。」
「最初から信じろ。」
「君の態度が気に入らん。」
そんなやり取りをしながら、作業は進む。そして、
「座標固定。」
ブルース、トニーが最後の工程を終わらせる。
「トンネル安定。」
ハンクがゆっくりと息を吐く。目の前では、特殊な装置の中央に青白い光が集まり始めていた。
「……行くぞ。」
ハンク自身が特殊スーツを装着しようとした、その時。
「待て。」
トニーが止める。
「何だ。」
「君が行く必要はない。」
「私が行く。妻だぞ。」
「知ってる。」
「なら――」
「こっちから引っ張ればいい。」
「……何?」
トニーは当たり前のように言う。
「位置が特定できて、座標も固定できている。向こうまで迎えに行く必要はない。」
「そんなことが可能なのか?」
「普通は無理だ。だが、僕と君とブルースがいる。」
ブルースが苦笑する。
「僕まで入れるんだ。」
「事実だろ。」
トニーはモニターを見る。
「ピム粒子で対象の量子状態を固定して、こちら側の座標へ引き上げる。」
画面を見て、
「……理論上は、いける。」
ハンクの表情が変わった。
「やるぞ。」
「ああ。」
そこからは更に早かった。本当に、驚くほど早かった。
トニーが出力を調整し、ブルースが生命反応を監視し、ハンクが量子座標を固定する。
「三。」
「二。」
「一。」
装置が起動し、研究室全体を強烈な光が包む。
「……っ!」
ハンクが腕で目を庇う。光が収まると、装置の中央に一人の女性が倒れていた。
白髪混じりの髪。長い年月を量子領域で過ごした痕跡を残しながら。それでも、確かに生きている。
「……ジャネット。」
ハンクの声が震えた。女性がゆっくりと顔を上げる。
「……ハンク?」
次の瞬間、ハンクは彼女へ駆け寄っていた。
「ジャネット!」
抱き締める。ジャネットも、最初は混乱した様子だったが、震える腕で、ハンクの背中へ手を回した。
「……本当に、ハンクなのね。」
「ああ。」
ハンクの声は完全に掠れていた。
「ああ……そうだ。」
少し離れた場所で、トニーはその様子を見ながら、静かに腕を組んでいた。ブルースが隣に立つ。
「思ったより早かったね。」
「ああ。」
「当初の予定だと、もっと時間がかかると思ってた。」
「僕もだ。」
トニーは少しだけ笑う。
「ピムの理論が完成されすぎてたからな。よく実質一人であそこまで。」
「ハンクも似たようなことを言ってたよ。」
「何て?」
「スタークの設計能力は腹が立つくらい優秀だ、って。よくあの若さで、って。」
「褒めてるな。……もうあまり若くはないが。」
「それはお互い様だね。」
しばらくして、ジャネットが落ち着いた頃、ハンクがこちらへ歩いてくる。
「スターク、そしてバナー。礼を言う。本当にありがとう。」
トニーが目を丸くした。
「今、何て?」
「一度しか言わん。」
「録音しておけば良かった。」
「やはり言うんじゃなかった。」
「冗談だ。」
トニーは小さく笑う。
「どういたしまして。」
ハンクも僅かに口元を緩める。
「君は、父親よりは、話が分かる。」
「それ、最大級の褒め言葉か?」
「私にとってはな。」
「なら受け取っておこう。」
ブルースは二人を見る。
「何だかんだ、気が合ってるよね。」
「合ってない。」
「合っていない。」
また声が揃った。少し離れた場所では、ジャネットがその様子を見て笑っていた。
ーーーーー
後日。
僕がその話を聞いた時。
「……え?」
思わず聞き返した。
「ピム博士とスタークさん、意外と気が合ったんですか?」
「そうらしい。」
フューリーが答える。
「揉めに揉めたそうだが、研究そのものは異常な速度で進んだ。」
「へえ……。」
絶対に大喧嘩すると思っていた。
「それで、量子領域の研究はどこまで進んだんですか?」
フューリーが一瞬だけ黙った。
「……進むどころか、量子世界に囚われていたピム博士の妻の救出に成功したらしい。」
僕は固まってしまう。
「もう?」
「ああ。」
「早くないですか?」
「俺もそう思う。」
「数日ですよね?」
「数日だ。」
僕は思わず頭を抱え、
「天才三人集めると、そんなサクサク進むんですか?」
「今回については、そうだったらしい。」
僕はしばらく考えてから。
「僕、本当に必要ないんじゃないですか?」
「その結論に戻るな。」
フューリーの低い声が、即座に飛んできた。