日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
紐育でニューヨークと読むらしいです。
――数日後。
ニューヨーク。
僕と真魚は、火のエルとの待ち合わせ場所へ向かっていた。目的は、以前アベンジャーズ基地で聞かされたエンシェント・ワンとの面会。
地球に存在する魔術師たちを束ねる人物であり、何故か僕だけではなく、真魚にも会いたいと言っているらしい。
詳しい理由を闇の力に聞いても、
『会えば分かるだろう。』
で終わった。雑である。そんなわけで、魔術関係について交流のある火のエルが案内してくれることになっているのだが、
「ちょっと早かったね。」
「まあ、遅れるよりいいでしょ。」
いつものゴウラム便を使っているため、予定よりかなり早く着いてしまった。待ち合わせまで、僕たちは近くを適当に歩くことにした。
ニューヨークには何度か来ているが、よく考えれば観光らしい観光をした記憶はほとんどない。来る時は大抵、宇宙人が攻めてきたとか、ヒドラがどうとか、アベンジャーズ関連の用事とか、そんなものばかりだ。
「普通に歩くと、ちゃんと観光地なんだね。」
「その感想、ニューヨークに失礼じゃない?」
そんな話をしながら歩いていると、不意に真魚の足が止まった。
「……真魚?」
返事はなく、真魚は少し離れた場所を見つめていた。
公園に並んだベンチの一つに、一人の少女が座っている。赤毛の少女で、年齢は十二歳くらいだろうか。一人で俯きながら、静かに座っている。
「……あの子。」
真魚が呟いた。
「私と似た力がある。それに………泣いてる。」
僕は少女を見るが、涙は流していない。顔を伏せているだけだ。
「泣いてないけど。」
真魚が首を横に振る。
「違う。心の中で泣いてる。」
そう言うと、真魚は迷わず少女の方へ歩き出した。
「ちょ、真魚。」
僕も慌てて後を追う。真魚は少女の前まで行くと、少し腰を屈めた。
「ねえ。」
少女が顔を上げる。綺麗な赤毛と、どこか警戒するような瞳。真魚はそんな少女を見て、
「泣いてたの、あなた?」
と聞いた。少女が目を見開いた。
「……私?」
「うん。」
「泣いてないけど。」
「そうだね。」
真魚は頷く。
「でも、心の中では泣いてた。」
その瞬間、少女の表情が明らかに変わった。驚きと警戒、そして、僅かな恐怖。
「あなたも、力があるんだね。」
真魚が静かに言うと、少女の肩が僅かに揺れた。
「……何のこと?」
「無理に話さなくてもいいよ。」
真魚はそれ以上踏み込まなかった。
「私、風谷真魚。」
続いて僕を指す。
「こっちはクロオ。」
「十文字黒雄です。」
僕も軽く手を上げる。
「あなたは?」
少女は少し迷った後、
「……ジーン。」
………ん?
「ジーン・グレイ。」
「そっか。」
真魚が笑うけれど、僕はそれどころじゃなかった。
「よろしく、ジーン。」
少女は内心で泣いていたらしいけど、僕は絶賛パニックだ。その時、
「妹に何してる!」
今度は鋭い声が飛んできた。振り返ると、金髪の少女がこちらへ走ってきていた。ジーンと名乗った少女より数歳上。十五、六歳くらいだろうか? かなり怒っている。
「サラ!」
ジーンが立ち上がる。姉かな? 妹って言っていたし。サラはジーンを庇うように前へ立つと、僕たちを睨みつけた。
「……誰?」
「いや、怪しい者じゃ――」
僕が説明しようとした、その瞬間。サラの目が僕を真っ直ぐ捉え、妙な感覚が走った。
「っ!?」
頭の中へ、何かが入り込んできた。思考ではなく、もっと直接的なもの、意識そのものへ触れられているような感覚。
しまった! 姉も能力者か!?
僕が慌てていると、
次の瞬間、サラの表情が凍りついた。目を大きく見開き、
「いやああああああっ!!」
突然、悲鳴を上げた。
「え!?」
「サラ!?」
ジーンが叫ぶ。サラは頭を押さえ、そのまま身体から力が抜けるように倒れた。僕は慌てて受け止める。
「ちょっと!?」
完全に意識を失っている。
「サラ!」
ジーンが駆け寄る。真魚も驚いた顔で僕を見る。
「クロオ、何したの!?」
「何もしてないよ!」
本当に何もしていない。攻撃はしていないし、変身すらしていない。
「……まさか。」
真魚が僕を見つめる。
「クロオの中を見ようとして、それで気絶したの?」
「僕に聞かれても分からないって!」
でも、僕の中を見たのなら、前世の記憶、今世の記憶、アマダム、エゴストーン、そのどれかに関わる何かを見たのか。………どれを引いても悲鳴を上げそう。
「何があったんですか!?」
慌てていると、上から声がした。
「……え?」
顔を上げると、白い糸が建物へ伸び、赤と青の人影がこちらへ勢いよく飛んでくる。そのまま一回転して着地。
「大丈夫ですか!?」
どうしよう。生のスパイダーマン着地が見られたのに全然嬉しくない。スパイダーマン――ピーターは周囲を見る。
倒れているサラ。その横にいるジーンとしゃがみ込んでいる真魚。そして僕。
白いアイレンズが僕を向いた。
「……クロオさん?」
「ピーター。」
「何してるんですか?」
「その聞き方やめて。」
「だって女の子倒れてますけど!?」
「僕じゃない!」
「じゃあ何があったんですか!?」
「それが分からないんだよ! この子が僕の頭の中を覗いたら、急に悲鳴を上げて倒れた!」
ピーターが止まる。
「……クロオさんの頭の中を?」
「そう。」
「…………。」
「何その間。」
「いや、何を見たのかなって。」
「僕もそれが知りたいよ!」
真魚が怒鳴る。
「二人とも! 今それどうでもいいから!」
「「はい! すみません!!」」
僕とピーターが同時に謝る。ジーンは姉に寄り添いながら、混乱した顔で僕たちを見ている。
そのタイミングでやってきた火のエルは、
倒れている金髪の少女とその横にいる赤毛の少女。真魚と僕、そしてスパイダーマンを順番に見回した。
少し考えてから。
「何これ?」
ーーーーー
火のエルが、心底理解できないという顔で呟いているが、僕も聞きたい。
待ち合わせ場所に少し早く着いたから、真魚と二人で時間を潰していただけなのだ。そこから、たまたま公園で一人の少女を見つけて、真魚が声をかけて、その少女がジーン・グレイと名乗って。
その姉らしきサラという少女がやってきて、僕の頭の中を覗いたら悲鳴を上げて気絶して、さらに、その騒ぎを聞きつけたピーターまで飛んできた。
そして今、待ち合わせ相手だった火のエルまで到着した。
………うん。僕にも何が何だか分からない。
「とりあえず。」
火のエルは数秒ほど状況を眺めた後、僕の腕の中で気を失っているサラへ視線を向けた。
「ここで寝かせとくわけにもいかねえだろ。俺んとこ運ぶぞ。」
「大丈夫なんですか?」
「少なくとも道端よりはマシだ。」
それはそうだ。ただし、問題が一つあり、ピーターもその件で遠慮がちに手を上げる。
「あのー。もう人、集まってきてますけど。」
サラの悲鳴がかなり大きかったせいもあるのだろう。少し離れた場所には既に何人もの野次馬が集まっており、こちらを遠巻きに見ている。しかも、その中にはスマートフォンを向けている人までいた。
さらに遠くから聞こえてくるのは――。
「警察ですね。」
「だな。」
火のエルがあっさり頷いた。
どうしよう。
いくらニューヨークとはいえ、公園で少女が突然悲鳴を上げて倒れ、その場に僕たちとスパイダーマンがいる。事情を説明しないまま連れていけば、それこそ誘拐か何かに見えかねない。だからといって、
『この少女はテレパシー能力者らしく、僕の頭の中を覗いたら何故か悲鳴を上げて気絶しました。』
なんて説明したところで、警察官が納得してくれるとも思えない。僕たちが顔を見合わせていると、火のエルが面倒そうに頭を掻いた。
「……こういう時の専門家、呼ぶか。」
「専門家?」
「説明とか、後始末とか、そういうのが得意な奴。」
誰だろう。そう思っていた僕は、しばらく後。
「ああ。」
久しぶりに見たその人の顔に、妙に納得してしまった。
「コールソンさん。」
「久しぶりですね、クロオ。」
フィル・コールソン。
かつてS.H.I.E.L.D.のエージェントとして働き、僕とも何度か関わったことのある人物である。相変わらず穏やかな表情で現れたコールソンさんだったが、僕たちから一通り事情を聞いた後、その表情がほんの少しだけ固まった。
「つまり。」
コールソンさんが確認するように言う。
「公園で偶然出会った少女が超能力者で、その姉も超能力者だった。そして、その姉が君の精神を読もうとして、何らかの理由で意識を失った。」
「はい。」
「そこへスパイダーマンが現れた。」
「はい。」
「さらに、今日はこれから魔術師との面会がある。」
「はい。」
「…………。」
コールソンさんが困り顔になり、
「久しぶりに会った人間へ頼む仕事としては、少し重くありませんか?」
「すみません。」
本当に申し訳ない。
「まあ、いいでしょう。」
小さく息を吐いたコールソンさんは、すぐに仕事の顔へ戻った。
「警察と救急にはこちらから説明します。周囲の目撃者についても、無理に隠蔽するほどの事件ではありません。幸い、現時点では少女が倒れたという以上のことは起きていませんから。」
「助かります。」
「ただし。」
コールソンさんの視線が僕へ向く。
「クロオ。次に会う時は、もう少し普通の用件でお願いします。」
「努力します。」
「そこは約束してください。」
「……善処します。」
「悪化しましたね。」
そんなやり取りを最後に、僕たちはコールソンさんへ現場の対応を任せることになった。久々に会ったのに、警察や救急への事情説明と後始末だけ押しつけてしまった。
今度会ったら、何か奢ろう。そう心に決めた。
ーーーーー
火のエルのアジト。
「で。」
ソファに腰掛けた火のエルが、僕たちを見回した。
「どうする?」
部屋の奥では、意識を失ったままのサラがベッドに寝かされている。
そのすぐ横にはジーンが座っていた。
ここへ移動してから一度もサラの傍を離れていない。真魚もそんなジーンを心配しているのか、隣の椅子に座っている。
ピーターについては、この状況で正体を隠し続ける意味も薄いと判断したらしく、既にマスクを外していた。もっとも、ジーンは姉のことが心配で、スパイダーマンの正体が自分と大して年齢の変わらない少年だったことにも、ほとんど反応していない。
火のエルはそんな二人を見ながら、
「二人とも超能力者で、今は施設暮らしなんだろ?」
「ジーンちゃんから聞いた限りでは、そうみたい。」
真魚が答える。
火のエルは腕を組んだ。
「だったら、フューリー辺りに協力してもらって、光の奴の村に移住でもさせんのか? あそこなら超能力持ちのガキもいるし、普通の施設よりは安全だろ。」
確かに選択肢としては悪くない。
光のエルたちの村には、既に様々な事情を抱えた子供たちが暮らしている。超能力が原因で普通の社会生活に問題を抱えているなら、少なくとも力そのものを恐れられることはない。
ただ、
「とりあえず、サラが起きてからかな。」
真魚がそう答えた。
そして、隣に座っているジーンを見る。
「ごめんね、ジーンちゃん。変なことになっちゃって。」
ジーンは何も言わず、ただ小さく首を横に振る。真魚が悪いわけではない、と言いたいのだろう。それから、またサラを見る。
僕たちとは今日会ったばかりで、その直後に姉が倒れたのだから不安なのは当然だ。それでも逃げ出さずにここにいるのは、真魚に何か感じるものがあるのかもしれない。
――私と似た力がある。
ジーン・グレイ。
赤毛。
超能力者。
いや。もう答え出てるよね、これ。
僕は少し離れた場所にいる火のエルを見る。
「火のエル。」
「あ?」
「ちょっと。」
僕は手招きした。
「なんだよ。」
「いいから。」
火のエルを連れ、真魚たちから少し離れる。できるだけジーンに聞こえない位置まで移動したところで、僕は声を潜めた。
「X-MENの内容って知ってます?」
「は?」
火のエルが怪訝そうな顔をする。
「映画です。X-MEN。」
「ああ。」
すると、火のエルは何故か少し得意げな顔になった。
「もちろん! アポカリプスまで見て――」
そこで止まった。
「…………る……ぜ。」
火のエルの表情から、得意げな雰囲気が消えていく。ゆっくりと。本当にゆっくりと、首だけがジーンの方へ向いた。
「…………。」
「…………。」
もう一度、僕を見る。
「ちょっと待て。」
「はい。」
「あの子の名前、なんて言った?」
「ジーン・グレイって名乗ってました。」
火のエルがジーンと名乗る、赤毛の超能力を持った少女をもう一度見る。
「赤毛の、ジーン・グレイ?」
「はい。」
「え、マジで?」
「たぶん。」
火のエルの顔が引きつった。………これ、思った以上に大問題では? 僕は声をさらに小さくして、
「MCUの世界って、プロフェッサーXとか、マグニートーとかもいるんですかね?」
「俺に聞くなよ。」
「でもX-MEN見てるんですよね?」
「見てるけど、いるかどうかは知らねえよ! 今までそんな話、一度も聞いてねえぞ!」
「僕もです!」
もし本当にいるなら、話が大きく変わってくる。ミュータントたち。プロフェッサーXとマグニートーなんて敵対しただけでヤバい。
けれど、もし僕たちの知っているジーン・グレイなら。
「この年齢だとフェニックスは……。」
思わず呟く。
「ありゃタイミングがまちまちだ。今の感じ、まだだと信じておこう。」
「でも。」
「今のは考えんな。考えたら頭が痛くなる。」
「既に痛いんですけど。」
「奇遇だな。俺もだ。」
僕たちが小声でそんな会話をしていると、
「――無事に揃ったようですね。」
「っ!?」
僕と火のエルが同時に振り返った。いつからいたのだろう。部屋の入口付近に、一人の女性が立っていた。黄色を基調とした衣服を纏った、剃髪の女性。穏やかな表情に静かな佇まい。それなのに、そこに立っているだけで周囲の空気が変わったように感じる。
僕は直接会うのは初めてだ。けれど、その姿には見覚えがあった。
「……エンシェント・ワン。」
僕が呟く。同時に、ピーターが素早く立ち上がった。
「誰ですか?」
マスクを被り直し、その身体はすぐに動けるよう僅かに重心を落としている。真魚も立ち上がり、自然な動きでジーンと眠っているサラを庇う位置へ移動した。
それを見ても、エンシェント・ワンは表情を変えなかった。ただ、穏やかに僕たちを見ている。火のエルだけは警戒する様子もなく、むしろ呆れたような顔をしていた。
「……なあ。」
「何でしょう。」
「この嬢ちゃんたちとスパイダーマンがいるのも、アンタには織り込み済みなのね。」
エンシェント・ワンは答えない。ただ、僅かに微笑んだ。火のエルの眉間に皺が寄る。
「その顔、腹立つな。」
「お知り合いなんですか?」
ピーターが尋ねる。
「ああ。一応な。」
エンシェント・ワンはそんな僕たちのやり取りを静かに眺めていたが、やがて、
「場所を変えましょう。」
そう言って、片手を持ち上げ、指先が円を描く。直後、火花が散った。
「うわっ!?」
ピーターが驚いて一歩下がる。空中に橙色の光が円を描き、瞬く間に巨大な輪となる。そして、その向こう側に別の空間が現れた。
魔術師たちが使う――スリング・リングによるポータル。
その向こうには、古びていながらもどこか荘厳な雰囲気を持つ建物の内部が見えていた。エンシェント・ワンは何の説明もせず、そのままポータルの向こうへ歩いていき、火のエルも当然のように後を追った。途中で振り返り、
「ほら、付いてこい。」
と言う。
「え、ちょっと待って。」
真魚が困ったようにベッドを見る。
「サラはどうするの?」
その言葉に、既にポータルを潜っていたエンシェント・ワンが振り返り、そして軽く腕を振る。
「え?」
ふわりと、眠っていたサラの身体が浮いた。
「サラ!」
ジーンが驚いて立ち上がる。
「大丈夫です。」
エンシェント・ワンの穏やかな声が届く。
「彼女を傷つけるつもりはありません。」
サラの身体は見えない何かに支えられているかのように宙を浮き、そのままゆっくりとポータルへ向かって移動していく。
「……魔法だ。」
ピーターが呟いた。
「本物の魔法ですか!?」
「そうだね。」
「クロオさん、知ってたんですか?」
「知識としては。」
「何で教えてくれなかったんですか!?」
「ピーター。」
僕は真顔で言った。
「僕も今日が初対面なんだよ。」
それに、今は魔法に驚いている場合じゃない。僕はポータルを見る。
その向こうにはエンシェント・ワン。こちらには僕、火のエル、真魚、ピーター、意識を失ったサラ・グレイ、そして、その妹――ジーン・グレイ。
改めて並べると、とんでもない面子だ。
「……何の集まりなんだろう、これ。」
思わず呟くと、真魚が僕を見る。
「クロオ、行くよ。」
「あ、うん。」
真魚がジーンの手を取る。ジーンは一瞬だけ戸惑ったものの、その手を振り払うことはなかった。
真魚とジーン。その後ろを、宙に浮いたままのサラが進んでいく。ピーターも少し警戒しながら続いた。
最後に僕もポータルを潜る。
境界を越えた瞬間、周囲の空気が変わった。外から聞こえていたニューヨークの喧騒が遠ざかり、代わりに古い建物特有の静けさが僕たちを包む。
木製の階段。歴史を感じさせる調度品。壁に飾られた、明らかに普通ではない品々。そして、先ほどまでいた火のエルのアジトとは比べものにならないほど、空間そのものに何かが満ちているような感覚。
ニューヨーク・サンクタム。
魔術師たちが守護する、三つのサンクタムの一つ。
エンシェント・ワンは僕たち全員が入ったことを確認すると、静かに腕を下ろした。背後でポータルが閉じる。
「さて。」
エンシェント・ワンが僕たちを見る。
その視線は僕だけではなく、真魚、火のエル、ピーター、サラ、そして最後に、ジーンへと向けられた。
最初から、今日この場に誰が集まるのかを知っていたかのように。
「それでは。」
エンシェント・ワンは穏やかに微笑んだ。
「お話を始めましょう。」