日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
*今回、黒雄と真魚の行動が無責任に感じる部分があるかもしれませんが、二人がまだ大学生だということ、二人としてはサラとジーンのことを最大限考えた結果だということをご理解ください。
時間は少し遡って、ニューヨーク。
エンシェント・ワンとの話を終え、カマー・タージを後にすることになったところで、一つ問題が残っていた。サラとジーンである。
「……それで。」
僕は目の前にいる姉妹を見る。サラは少し困ったような顔をしていて、ジーンはそんな姉のすぐ隣に立ちながら、こちらの話を黙って聞いていた。
「二人、これからどうする?」
僕が聞くと、サラはすぐには答えず、少しだけ視線を泳がせてから、
「……正直、まだ何も。」
と答えた。詳しく聞くと、孤児院から逃げ出したばかりらしい。新しい生活を始めるために計画的に出てきたわけではなく、ただ、そこから逃げる必要があったから逃げた。二人が超能力を持っていると気づいた職員たちに、犯罪の手伝いをさせられそうになったそうだ。
その結果、今こうして自由にはなったものの、住む場所も頼れる大人もいない、お金もない。そんな状態だ。何より、サラは十二歳のジーンを連れている。このまま二人だけでどこかへ行かせるなんて、流石に無理だ。
「クロオ。」
真魚が僕の袖を引いた。
「村は?」
「……考えたけど。」
光のエルたちの村。あそこなら安全だし、食事も寝る場所もある。子供たちも暮らしているし、僕や真魚が連れていけば、おそらく光のエルたちも受け入れてくれるだろう。ただ、
「今日はいきなりすぎるよね。」
真魚も僕と同じことを考えていたらしく、少し困ったようにサラたちを見る。
「うん。」
二人は今日、逃げ出してきて、初対面の僕たちと出会い、そのまま魔術師と接触し、自分たちにも魔術を学ぶ話が出た。そんな一日の最後に、今度は日本のどこにあるかも分からない村、それも人間ですらない存在が暮らしている場所へ行けと言われる。
流石にこれは酷い。
僕と真魚が一緒だったとしても、サラはジーンほど僕らに気を許していないかもしれない。そんな状態で僕らが異国に連れていくのは考え物だ。
加えて、今日は美杉家に戻らなければならない。真魚が魔術を学ぶことになった以上、美杉教授や太一くんに事情を説明する必要があるし、僕も一緒に説明するつもりだった。
だから今夜、僕たちが二人を村まで連れていき、そのままずっと付き添うことすらできない。「じゃあ二人で村に行ってね」なんて言えるわけもない。知らない国で、知らない場所で、知らない人たちに囲まれて、しかも人ではない存在までいる。逃げ出してきたばかりの姉妹を、そんな場所へ二人きりで送り込むなんて、どう考えても駄目だ。
「ホテルとか……。」
サラが遠慮がちに言う。
「「それも駄目。」」
僕と真魚の声が重なった。
「十二歳のジーン連れてるんだよ?」
真魚がそう言って、少し眉を寄せる。
「それに、二人とも孤児院を抜け出したばかりなんでしょ? 探してたり、追ってくる人が絶対にいないとも限らないし。」
普通のホテルに泊まるにしても、手続きの問題があるし、何より二人だけにするのが心配だ。身分証明や金銭面のこともあるだろうし、今夜くらいは安心できる大人のいる場所で休ませたい。
さて、どうする。僕は腕を組みながら考える。
コールソンさんに相談すれば、おそらく何らかの保護施設やフューリーの管理下へ移すことはできるだろう。でも、施設から逃げてきたばかりの二人を、その日のうちにまた別の組織へ預けるというのは、少し違う気がする。
もっと普通の場所、もっと普通の家。そして、子供が困っていたら放っておけないような大人がいるところ。……あー、一人の人物が頭に浮かんだ。
「ピーター。」
「はい?」
少し離れた場所にいたピーターが振り向く。
「本当に申し訳ないんだけど、」
僕はピーターを見ながら、ある人物の姿を思い出していた。
メイ・パーカー。
あの人が僕の知っているとおりの人なら、困っている子供を簡単に見捨てられる人じゃない。まして、行く場所のない姉妹が二人いると知れば、おそらく助けてくれる。無茶なお願いをしようとしている自覚はあるけど、
「今日だけ、二人を家に泊めてもらえないかな。」
「……僕の家に?」
ピーターが目を丸くする。
「うん。もちろん、メイさんが駄目だって言ったら別の方法を考える。ただ、」
僕はサラとジーンを見る。
「僕と真魚は今日、日本に戻らないといけない。」
真魚も申し訳なさそうな表情で二人を見る。
「私が魔術を習うことになったこと、美杉家のみんなにちゃんと説明しないといけないから。」
「例の村に二人だけで行ってもらうのも、流石に不安だと思う。だから、一晩だけ。メイさんにお願いできないかな。」
ピーターは少し考えたあと、すぐにスマートフォンを取り出した。
「聞いてみます。」
「ありがとう。」
「まだOKもらってませんよ。」
「それでもだよ。」
本当に助かる。ピーターは少し離れたところへ行き、メイさんへ電話をかけた。最初は普通に説明していたけれど、途中から何度も、
「……うん。二人とも女の子。……そう、行くところないみたい。……うん。……。」
そして、しばらくすると、
「……分かった。ありがとう、メイ叔母さん。」
と言って電話を切った。
「どうだった?」
僕が聞くと、ピーターは少し笑って、
「連れてきなさい、って。」
「…………。」
頼んでおいてなんだけど、メイさんマジで聖母か。
「本当に?」
サラが聞く。
「うん。詳しい話は家で聞くって。」
「……迷惑じゃない?」
「メイ叔母さん、そういうの気にしないから。」
「でも。」
「大丈夫。」
ピーターは笑う。
「困ってる子を放っておける人じゃないから。」
僕はその言葉に、少しだけ安心した。やっぱり、頼んで良かった。
「サラ。今日はピーターのところに泊まって。明日以降のことは、僕たちも一緒に考えるから。」
真魚も頷く。
「村に来てもらうなら、今度は私たちも一緒に行く。それまでは放り出したりしないから。」
僕がそう言うと、サラはしばらく僕たちを見ていたが、やがて少しだけ表情を柔らかくした。
「……ありがとう。」
「うん。」
「助かる。」
ジーンも姉の隣で小さく頷く。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
僕は少し笑い、それからピーターを見る。
「ピーター。」
「はい?」
「頼んだ。」
「任せてください。」
「何かあったらすぐ連絡して。」
「分かりました。」
大丈夫。ピーターとメイさんなら大丈夫だ。そう思いながら、僕と真魚は二人をピーターに託した。
ーーーーー
クイーンズ。
「ただいまー。」
僕――ピーター・パーカーが玄関のドアを開ける。
「おかえり。」
リビングからメイ叔母さんが出てきて、そのまま僕の後ろに立っている二人、サラとジーンに視線を向ける。
電話で説明していたから、二人を見て驚いた様子はない。ただ、実際に姉妹の姿を見た瞬間、メイ叔母さんの表情が少しだけ変わった。
「あなたたちね。」
優しい声だった。
「サラです。急にすみません。」
サラが頭を下げる。
「ジーンです。よろしくお願いします。」
ジーンも続いて頭を下げる。
「そんなに畏まらなくていいのよ。」
メイ叔母さんは二人に近付く。
「メイ・パーカー。ピーターの叔母よ。今夜はここを自分の家だと思って。」
そう言われ、サラが少し驚いたように目を瞬く。
「でも。」
「ピーターから聞いたわ。行くところがないんでしょう?」
「……はい。」
「だったら遠慮しない。まずは安心して休むこと。」
迷いがない。メイ叔母さんらしい。
「ありがとうございます。」
サラがもう一度頭を下げると、ジーンも、
「ありがとう、メイ。」
と言った。
「もうメイ呼び?」
僕は思わず指摘してしまうが、
「駄目?」
「いや。そんなことないよ。」
慣れるの早いな、とは思ったけど、ジーンが少し安心したように見えたので、むしろ良い傾向な気がする。
「ところで。」
メイ叔母さんが二人を見る。
「着替えとか、持ってる?」
「……ないです。」
「歯ブラシや寝巻きは?」
「ないです。」
「でしょうね。」
メイ叔母さんは頷く。電話の時点で、ある程度予想していたらしい。
「じゃあ必要なもの買いに行きましょう。」
サラが戸惑う。
「そこまでしてもらうのは。」
「必要なものよ。気にしないで。」
メイ叔母さんは笑う。
「女三人で行きましょう。」
「僕は?」
「当然荷物持ちよ。」
「だよね、知ってた。」
まあ、そうなると思った。その時だった。
「あ。ピーター。」
「何?」
「それ、出てるよ。」
「え?」
ジーンが指差した先を見ると、僕のリュックのファスナーの隙間から、赤い布が少しだけ飛び出している。まずいと思い、慌てて押し込もうとする。しかし、
「何それ?」
メイ叔母さんが気付いた。
「いや、これは。」
「スパイダーマンの服。」
唐突なジーンによる暴露。
「ジーンさん!?」
「……ジーン。それ、言ったら駄目なやつじゃない?」
「……そうだった。」
思わず固まってしまう僕は、ゆっくりとメイ叔母さんに視線を向ける。メイ叔母さんも僕を見ている。
「ピーター。スパイダーマンの服って?」
逃げられない。もう無理だ。サラもジーンも知ってるし、ここで嘘をついたところで絶対ややこしくなる。
「……僕がスパイダーマンです。」
言ってしまった。メイ叔母さんはしばらく唖然と僕を見たあと、ゆっくりと口を開く。
「いつから?」
「……しばらく前から。」
「街を飛び回って、犯罪者捕まえてる?」
「はい。」
「怪我は?」
「少し。」
「ピーター、少しって何?」
「撃たれたりとかは――」
「撃たれたの!?」
「防げたから大丈夫!」
「大丈夫じゃないでしょう!」
怒られた。でも、メイ叔母さんはそのまま怒鳴り続けることはせず、しばらく僕の顔を見つめてから、ゆっくり近付いてくる。その表情は怒っているというより、……心配しているように見えた。ものすごく、心配しているように見えた。
メイ叔母さんは僕の頬へ手を添え、
「どうして黙ってたの?」
「……心配させたくなくて。」
「黙ってた方が、心配させる時だってあるのよ。」
「ごめん。」
小さく息を吐き、そのまま僕を抱き締めた。
「本当に。無事でいて。」
「うん。」
「……止めたい。本当は今すぐ、もうやめなさいって言いたい。でも……多分、止めてもやるんでしょうね。」
「……うん。」
「だから、絶対に自分の命を軽く扱わないで。何があっても、無事に帰ってきて。」
少しだけ腕に力が入る。
「分かった。」
僕もメイ叔母さんの背中へ腕を回す。
「ちゃんと帰ってくる。」
「約束よ?」
「約束。」
ーーーーー
あの後、メイさんは素早く意識を切り替え、当初の予定どおり、私たちの買い物に一緒に行ってくれた。
買い物を終え、夕食を食べ、シャワーも借りて、ようやく落ち着いた頃。私は――サラ・グレイは、ソファに座りながら目の前の光景を眺めていた。
「熱くない?」
「大丈夫。」
メイさんが、ジーンの髪を乾かしている。
「ジーンの髪は綺麗ね。」
「本当?」
「うん。」
「サラも綺麗だよ。」
メイさんと話すジーンが笑い、私もつられて少し笑ってしまう。こんなふうに普通の家で、普通に髪を乾かしてもらい、普通に話して、普通に笑う。そんな何でもないことが、妙に久しぶりな気がした。
施設にいた頃は、いつ誰が来るか、何をされるか、次は何を調べられるのか、ジーンに何かされないかと、そんなことばかり考えていた。逃げてからだって同じで、追ってくるかもしれない、見つかるかもしれない、誰かに騙されるかもしれないと、ずっと周りを警戒していた。今だって、完全に警戒を解いたわけじゃない。でも、
……私は少しだけ意識を広げる。
勝手に人の心を読むべきじゃないのは分かっている。今日、それで酷い目に遭ったばかりだ。クロオさんの中を覗いてしまい、怖いものを見てしまった。今後、できるだけやらないようにしようと思っているけれど、どうしても気になって、警戒してしまう。
メイさんから感じるものは、……心配と気遣いと優しさ。
――この子たち、ちゃんと食べてたのかしら。
――眠れていたのかしら。
――怖かったでしょうね。
そんな感情ばかりで、私たちを利用しようとか、能力について知りたいとか、何かを聞き出そうとか、そんなものは何一つ感じない。
ただ、行くところのない子供が二人いる。なら家に入れて、ご飯を食べさせて、必要なものを買って、安心して眠らせる。それだけ。
良い意味で、変な人だ。
私は少し視線を動かし、今度は少し離れたところでテーブルに座り、何か機械を弄っているピーターを見る。多分、スパイダーマンの装備だろう。そして、こっちのことをかなり気にしている。
――ジーン、笑ってる。良かった。
――サラも少し落ち着いたかな。
――変に気を遣ってないといいけど。
――メイ叔母さん、無理してないかな。
そんな感情が伝わってくる。それから、
――ちゃんと二人が落ち着けているなら、良かった。
……本当に、この二人から感じるものは、心配と気遣いと優しさ。それくらいしかない。すると、ピーターがこちらを見てくる。
「サラ。今、読んだ?」
「……ごめんなさい。少し。」
「やっぱり。」
ピーターは少し困った顔をした。一瞬だけ警戒したような感情も伝わってきたけれど、それもすぐに薄れていく。『まあ、いいか』――そんな感じ。
「ごめんなさい。勝手に読むのは良くないよね。」
私はもう一度、素直に謝ると、ピーターは少し考えてから肩を竦めた。
「まあ、悪意があるわけじゃないなら。」
「怒らないの?」
「全部丸裸にされるのは流石に嫌だよ。」
「そんなことしない。」
「ならいいよ。」
ニューヨークを守るスパイダーマンは随分と軽かった。
「アンタ、お人好しね。」
「何で? あ、また読んだでしょ。」
「少しだけね。」
「サラ。」
思わず笑ってしまう。すると、ジーンがこちらを見てくる。
「何? ピーターが何かした?」
「僕は何もしてないよ!」
「でもピーターだし。」
メイさんまで言う。
「メイ叔母さん!?」
いつの間にこんな関係になったんだろう。ジーンが笑いながらピーターのところへ行き、そのまま隣に座る。
「ピーター、何作ってるの?」
「ウェブ・シューター。」
「見ていい?」
「いいよ。ただ、こっちは触らないで。」
「危ない?」
「うん。」
「分かった。」
楽しそうだ。本当に。ジーンは、そんな簡単に人へ懐く子じゃない。施設にいた頃は、誰かが近付けばすぐ私の後ろへ隠れ、警戒して、黙って相手を見ていた。そのジーンが、今日会ったばかりのピーターの隣に座って笑ってる。私はまた、少しだけ意識を向ける。
ピーターからジーンへ向いている感情は、妹みたいで可愛い、危ない目には遭わせたくない、それくらい。私は立ち上がり、ピーターのところまで歩いていく。そして、
ぽん、とピーターの頭の上に手を置いた。
ピーターが固まった。
「え? 何?」
そのまま、軽く撫でる。
「ちょっと。何で僕、頭撫でられてるの?」
「何となく。」
「僕、サラとそんなに年齢変わらないよね?」
「そうね。でも、弟っぽいから。」
「どこが!?」
「全体的に。」
「全体的って何!?」
ジーンが笑い、メイさんも笑っている。私はもう一度、ぽんぽんと撫でる。嫌がってはいるけど、本気じゃない。むしろ、少し嬉しがっている。
「…………。」
「また読んだ?」
ピーターがこっちを見る。
「少し。」
「もう。」
「嫌?」
あ、少し迷った。
「別に。」
そう言って目を逸らす。やっぱり、悪い気はしていないようだ。
「じゃあ決まり。ピーターは今日から私の弟分ね。」
「勝手に決めないで!」
「ピーター、お姉ちゃんできたね。」
ジーンが笑い、
「別にいらないとは言ってないけど!」
「ならいいじゃない。」
メイさんも笑う。
「メイ叔母さんまで!」
私はその様子を見て、もう一度笑った。この家に来てから感じるものは、ずっと同じだ。心配と、気遣いと、優しさ、それだけだ。だから多分、ここでは少しくらい気を抜いてもいい。
「ピーター。ジーンのことや今日のこと、ありがとね。」
「僕、何かした?」
「したよ。色々と。」
「分かんないんだけど。」
「分からなくていいよ。」
私はもう一度、頭を撫でる。
「これからもよろしく。」
ピーターは少し困ったように笑った。
「うん。こちらこそ。」
私はその言葉を聞いて、少しだけ安心した。今夜だけかもしれないし、明日からどうなるかも分からない。それでも少なくとも今は、私とジーンには安心して眠れる場所があり、私たちのことを心配してくれる人たちがいる。
それだけで、今は十分だった。