日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

75 / 75
安住

 

――翌日。クイーンズ。

 

「……狭いわね。」

 

メイ叔母さんが、腕を組みながら部屋の中を見回している。僕――ピーター・パーカーも、同じように部屋を見る。

 

正確には、今まで狭いと思ったことなんてなかった。僕とメイ叔母さんの二人で暮らす分には十分だったし、むしろこのくらいが落ち着くとすら思っていた。ただ、

 

サラとジーンが、並んで立っている。昨日の夜から色々話し合った結果、二人はしばらくうちで暮らすことになった。いや、最初は本当に一晩だけの予定だった。

 

でも、今日の朝。これからどうするかという話になって、サラが遠慮しながら、

 

『何日かだけ、ここにいさせてもらえたら。』

 

と言ったところから話が始まった。当然、メイ叔母さんは、

 

『何日かじゃなくて、落ち着くまでいればいいじゃない。』

 

と答えた。サラはものすごく遠慮した。ジーンも、サラと一緒ならどこでもいいとは言っていたけど、明らかにここを気に入っている。

 

そして、なんだかんだ一時間くらい話し合った結果。

 

「じゃあ、しばらくここで一緒に暮らす、で決まりね。」

 

という結論になった。まあ、サラとジーンがメイ叔母さんを説得できるとは思ってなかったし、僕としても異論はない。むしろ安心した。

 

サラもジーンも、昨日の段階では行く場所すらなかったのだ。どこか知らない施設に入るより、ここにいてくれる方が僕も安心できる。問題は、

 

「部屋、どうしようか。」

 

今の家は、四人で暮らすことを想定していない。僕の部屋、メイ叔母さんの部屋、リビング。ベン叔父さんが亡くなった時に引っ越しているから、部屋は最低限だ。

 

「私とジーン、同じ部屋でいいです。今までもずっとそうだったし。」

 

とサラが言うが、メイ叔母さんが少し考えながら、

 

「でも、二人とも女の子だし、そのうちそれぞれの部屋が欲しくなるでしょう?」

 

「私はサラと一緒でいい。」

 

ジーンが即答する。

 

「ジーンはそう言うと思った。」

 

サラが苦笑する。

 

「でも、ずっとってわけにもいかないしね。」

 

「それなら僕の部屋を――」

 

「駄目よ。」

 

メイ叔母さんに即答された。

 

「……まだ何も言ってないよ。」

 

「あなたがリビングで寝るって言おうとしたのは分かってるわ。」

 

何で分かるんだろう。サラが僕を見る。

 

「ピーター。私たちのためにそこまでしなくていいから。」

 

「でも。」

 

「本当に。」

 

「……分かった。」

 

うーん。となると、どうするか。引っ越し、が一番現実的ではある。ただ、クイーンズで今より広いところとなると当然家賃も上がる。メイ叔母さん一人に負担させるわけにもいかないから僕もアルバイトを、

 

そんなことを考えていた時にスマートフォンが鳴った。僕は画面を見ると、

 

「……スタークさんだ。」

 

「スタークさんから?」

 

メイ叔母さんが少しだけ眉を上げる。僕をスターク・インダストリーズが支援したいという話をしに、スタークさんはメイ叔母さんに会っている。

 

実際にはアイアンマンによるスパイダーマンのスカウトだったけれど。

 

「出なくていいの?」

 

サラが聞いてきて、僕は慌てて通話ボタンを押した。

 

「あ、うん。……もしもし。」

 

『ピーター。』

 

聞き慣れた声。

 

「はい、スタークさん。」

 

『今、大丈夫か?』

 

「大丈夫です。」

 

『そうか。昨日の件について、クロオから一通り報告を受けた。』

 

昨日の件。つまり、サラとジーンのこと。エンシェント・ワンや真魚さんたちが魔術を学ぶ話。それから、火のエルさんが持ち出した、これからの戦いのこと。多分、全部だよな。

 

『サラ・グレイ、ジーン・グレイ。二人についても聞いている。今は君の家にいるそうだな。』

 

「はい。」

 

そこまで答えてから、僕は少し迷う。

 

「あの、スタークさん。」

 

『何だ?』

 

「実は、その……メイ叔母さんにもバレたというか、伝えたというか。」

 

『……何をだ?』

 

「僕がスパイダーマンだってことを、です。」

 

『……なるほど。』

 

怒られるかと思ったけど、意外にもスタークさんの声は落ち着いている。

 

『なら、ちょうどいい。メイさんに代わってくれ。』

 

「え?」

 

『いや、少女たちにも関係する話だ。スピーカーにしてくれ。』

 

「分かりました。」

 

僕はスマートフォンをテーブルの中央に置き、スピーカーへ切り替える。

 

「スタークさん、聞こえます?」

 

『聞こえている。』

 

メイ叔母さんが少し姿勢を正した。

 

「お久しぶりです、スタークさん。」

 

『お久しぶりです、メイさん。』

 

声の調子が違う。僕と話していた時より明らかに丁寧だ。以前会った時もそうだったけど、スタークさんはメイ叔母さんと話す時、妙にちゃんとしている。

 

『突然電話で申し訳ありません。前にお会いした時とは少し違う話をしなければならなくなりましたので。』

 

「ピーターのことですね。」

 

『ええ、その通りです。』

 

続いて、

 

『サラ、ジーン。二人もそこに?』

 

「はい。」

 

サラが答える。

 

「サラ・グレイです。」

 

「ジーンです。」

 

『初めまして。トニー・スタークだ。クロオから二人の事情については聞いている。昨日は大変だったな。』

 

「……はい。」

 

『二人について、今すぐ能力について詳しく聞いたり、何かを調べたりすることは絶対にしないし、させない。そこは安心してほしい。』

 

「ありがとうございます。」

 

サラの表情が少し柔らかくなる。

 

『では、メイさん。……まず、以前お会いした時のことについて、訂正と謝罪をさせてください。』

 

「訂正と謝罪、ですか?」

 

『はい。以前、私はピーターを非常に優秀な人材として評価し、スターク・インダストリーズ側から声をかけた、という話をさせてもらいました。』

 

「そうでしたね。」

 

『あれ自体が嘘だったわけではありません。ピーターが非常に優秀なのは事実です。ですが、全てを説明していたわけでもない。』

 

メイ叔母さんが僕を見てくるけど、何となく視線を逸らしてしまう。

 

『私は、彼がスパイダーマンだと知った上で接触しました。』

 

「……。」

 

『街で人を助け、犯罪者と戦う彼の活動を調べ、素性までも調べ上げました。そして、その能力、判断力、人柄を見た上で、次期アベンジャーズの候補として彼をスカウトしました。』

 

メイ叔母さんの視線が、さらに僕へ向く。

 

「ピーター。」

 

「後でちゃんと説明します。」

 

『この件については、私に責任があります。』

 

スタークさんがすぐに続けた。

 

『ピーター本人が、まだあなたに自分がスパイダーマンだと話していないと分かっていました。だから私から勝手に正体を明かすことはしなかった。』

 

「……はい。」

 

『ですが、その結果として、あなたには単に優秀な少年として声をかけたように説明し、実際にはヒーローとして彼を勧誘していたことを黙っていた。』

 

少し間が空く。

 

『「危険なことを強制するつもりはない」と言っていたにもかかわらず、彼を危険な世界に誘いました。改めて謝罪させてほしい。申し訳ありませんでした。』

 

「いえ。」

 

メイ叔母さんは少し驚いたようだった。僕も同じだ。スタークさんがここまで真正面から謝るとは思っていなかった。

 

『その上で、改めてお願いがあります。』

 

「何でしょう。」

 

『私は、ピーターには非常に大きな可能性があると思っています。』

 

僕は思わず顔を上げた。

 

『能力のことだけではありません。頭もいい。判断も速い。人を助けることに迷わない。それでいて、自分が強いから偉いなんて考えもしない。』

 

「……。」

 

『もちろん、未熟なところは山ほどあります。』

 

「ちょっと、スタークさん。」

 

『事実だ。……まだ十六歳ですからね。むしろ未熟で当然です。』

 

少しだけ声が柔らかくなる。

 

『ですが私は、いずれ彼が、私の後を継ぐことのできる人材になると思っています。』

 

思わず声が出た。

 

「スタークさん?」

 

『今は黙っていろ。』

 

怒られた。

 

『もちろん、今すぐ何かを継がせるとか、そういう話ではありません。ですが、彼が望むのであれば、ヒーローとしても、技術者としても、私が持っているものをできる限り教えたい。』

 

メイ叔母さんは黙って聞いている。

 

『ですから、メイさん。どうか私に、彼を育て、導く手伝いをさせてください。』

 

静かな声だった。

 

『電話越しでこんな相談をすることになってしまい、重ねて申し訳ありません。』

 

しばらく、誰も喋らなかった。僕がメイ叔母さんを見ると、怒ってはいないのは分かった。ただ、考えている。

 

「……分かりました。ピーターがそれを望んでいて、それにスタークさんが、この子をただ危険な場所へ連れていくだけじゃなく、ちゃんと教えて、守ってくれるなら。」

 

『もちろんです。』

 

「どうかこの子を、よろしくお願いします。」

 

『ありがとうございます。』

 

「でも、」

 

メイ叔母さんが少し笑いながら、

 

「そんなに堅苦しくなくて大丈夫ですよ。前にも会ってるんですから。」

 

『……。』

 

一瞬、電話の向こうで間が空いた。

 

『では。』

 

声がいつものスタークさんの調子に戻った。

 

『もう一つ提案がある。四人で生活できて、安全性が高く、ピーターが高校にも通いやすい家を用意した。』

 

「「「……え?」」」

 

「?」

 

僕、メイ叔母さん、サラの声が重なり、ジーンが首を傾げた。

 

『そこに引っ越してはどうだろう。』

 

「ちょ、ちょっと待ってください。」

 

メイ叔母さんがすぐに言う。

 

「そこまでしていただくわけには。」

 

『遠慮する必要はありません。それに、サラとジーンの安全もある。』

 

その言葉に、メイ叔母さんが止まる。

 

『昨日の話を聞く限り、二人がいた施設の人間が完全に諦めた保証はない。それに、今後二人の能力を狙う人間が現れる可能性もある。ピーター自身もスパイダーマンとして活動している。』

 

「……。」

 

『今の家が悪いと言っているわけではありません。ただ、安全面を考えるなら、より適した環境がある。』

 

メイ叔母さんがサラとジーンを見る。二人とも黙っているが、サラは少し不安そうだった。きっと、また自分たちのせいで迷惑をかけていると思っている。

 

メイ叔母さんが答える。

 

「……分かりました。お言葉に甘えます。」

 

『そうしてくれると助かる。』

 

「ありがとうございます。」

 

「スタークさん、ありがとう!」

 

僕も声を上げた。

 

『ああ。それはそうと、ピーター。』

 

あれ?声の感じが変わった?嫌な予感がする。

 

『昨日の件で、クロオと君に聞きたいことがある。クロオにはゴウラムで君を迎えに行くよう伝えてある。準備ができたら連絡しろ。すぐにアベンジャーズ基地へ来い。』

 

「あ、はい。分かりました。」

 

『元気がいいな。結構。』

 

何だろう。良くないことが起こる気がする。

 

ーーーーー

 

アベンジャーズ基地で、僕とクロオさんは並んで座っていた。

 

目の前にはスタークさん、その隣にはフューリー。どうしよう、ものすごく居心地が悪い。

 

フューリーが低い声で言う。

 

「さて。まず確認するぞ。昨日、行く場所のない超能力者の少女二人と出会った。」

 

クロオさんが答える。

 

「はい。」

 

「その二人を保護した。」

 

「はい。」

 

「そこまではいい。」

 

クロオさんが少しだけ顔を上げるけれど、フューリーは話を続ける。

 

「次、エンシェント・ワンと接触した結果、真魚とサラ、それにジーンの三人が魔術を学ぶことになった。」

 

「そうです。」

 

「……カエシリウスという魔術師と、その背後にいるドルマムゥという異次元の存在との戦いに、お前とピーターも関わることになった。」

 

「……はい。」

 

「そして、……サラとジーンの今後について、自分たちで何とかしようとした。」

 

「……はい、すみませんでした。」

 

フューリーはしばらく僕たちを見てくる。

 

「お前たちは抱え込みすぎだ。」

 

僕とクロオさんの肩が揃って下がった。

 

「クロオ。お前はいったい、何人の人生を背負うつもりだった。」

 

「いや、その……。」

 

「真魚の魔術修行、サラとジーンの保護、三人の魔術修行の今後。」

 

「はい。」

 

「他にも、カエシリウス、ドルマムゥとの戦い。……そこに自分とピーターの戦闘参加まで追加している。」

 

「……はい。」

 

フューリーが額を押さえる。

 

「多い、多すぎる。」

 

クロオさんが言い返せないらしい。まあ、僕も同じだ。

 

「ピーター。お前も他人事みたいな顔をするな。」

 

「してません!」

 

「していた。」

 

スタークさんが腕を組みながら僕を見る。

 

「君も昨日、クロオに頼まれたからとはいえ、サラとジーンをそのまま家に受け入れる流れに乗っただろう。」

 

「でも、メイ叔母さんが良いって。」

 

「そこを責めているんじゃない。二人を助けたことも、メイさんに相談したことも正しい。」

 

スタークさんはそこで一度言葉を切った。

 

「問題は、その先だ。」

 

「その先?」

 

「君たちは、困っている人間を見つけると、助けるだけじゃなく、その後の責任まで全部自分で背負おうとする時がある。」

 

スタークさんが指を立てていく。

 

「住む場所。」

 

一本指を立てる。

 

「安全。」

 

二本。

 

「魔術の修行。」

 

三本。

 

「これから起きる魔術師との戦争。」

 

四本。

 

「さらには異次元の支配者まで。」

 

五本。

 

「いくら何でも手を広げすぎだ。」

 

「……はい。」

 

思った以上に多かった。するとフューリーが、

 

「俺たちがいる。アベンジャーズもいるし、俺もいる。スタークもいる。必要ならコールソンも動かせる。魔術師の問題ならエンシェント・ワン自身に頼んだって良い。」

 

「はい。」

 

「それなのに何故、お前たちは毎回、自分たちだけで何とかしようとする。」

 

クロオさんが困ったように頭を掻く。

 

「何とかできそうだったから……。」

 

「そこだ。」

 

フューリーが即答した。

 

「できるかどうかじゃない。できるからといって、全部抱える必要はない。」

 

「……はい。」

 

「特にクロオ。お前はできてしまうことが多いから余計に性質が悪い。」

 

「酷くないですか?」

 

「事実だ。」

 

クロオさん、否定できないんだ。

 

「助けるなとは言わない。」

 

フューリーの声が少しだけ穏やかになる。

 

「むしろ、二人を見捨てなかったことは正しい。」

 

サラとジーンのことだ。

 

「真魚たちが魔術を学ぶことも、本人たちが望んだ上で必要なら止める理由はない。」

 

「はい。」

 

「カエシリウスやドルマムゥと戦う必要があるなら、それもやる。」

 

僕たちは顔を上げる。

 

「だが。」

 

また声が低くなる。

 

「全部を、お前たち二人の肩に乗せる必要はない。」

 

「……。」

 

「まず相談しろ。そして、何かあったら連絡しろ。」

 

スタークさんが言う。

 

「自分たちだけで決めるな。特に世界規模の問題は。」

 

「はい。」

 

「異次元の支配者と戦う話を、事後報告にするな。」

 

「……すみません。」

 

それは確かに。僕もクロオさんも、かなり小さくなる。

 

「クロオ。」

 

「はい。」

 

「ピーター。」

 

「はい。」

 

フューリーは僕たちを順番に見る。

 

「お前たちは便利屋じゃない。」

 

「……はい。」

 

「ヒーローだからといって、世界中の問題を全部自分で抱える必要はない。」

 

少し間を置いて、

 

「仲間を頼れ。」

 

「……はい。」

 

クロオさんが頷き、僕も続いた。

 

「分かりました。」

 

「ならいい。」

 

フューリーはそこで大きく息を吐いた。スタークさんも少しだけ表情を緩める。

 

「今回は結果として、悪い方向には行っていない。」

 

「ありがとうございます。」

 

クロオさんが言う。

 

「褒めてはいない。」

 

「はい。」

 

やっぱり怒られた。結局、その後も細かい報告の確認を含めて、しばらく注意を受けることになった。

 

ーーーーー

 

午後になって帰ってこられた。

 

「ただいまー。」

 

「おかえり。」

 

メイ叔母さんが迎えてくれた。

 

「おかえりなさい。怒られた?」

 

サラが聞いてくるので素直に頷く。

 

「うん。」

 

「誰に?」

 

「スタークさんとフューリー。」

 

ジーンもやってきて、

 

「ピーター、おかえり。……怖かった?」

 

「うん、怖かった。」

 

「クロオも?」

 

「一緒に怒られたよ。」

 

「じゃあ大丈夫だね。」

 

何が?とりあえず気を取り直して、僕はスマートフォンを見る。

 

「じゃあ、新しい家を見に行こう。」

 

ーーーーー

 

四人で向かった先で、僕たちは揃って上を見上げていた。

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

高い。ものすごく高い。首が痛くなるくらい高い。

 

「え?ここ?」

 

サラが聞いてくるので、僕はもう一度スマートフォンを見る。

 

「住所はここ。間違っていないはず。」

 

「マンション……?」

 

ジーンが聞いてくるので答えるけど、自信がない。

 

「こんな大っきいのも、マンションっていうの?」

 

ごめんジーン。僕にも分からない。高級タワーマンションは、マンションの括りなのかな?少なくとも、僕が想像していたマンションとは違う。

 

入口に近付くと、自動ドアが開き、中も広い。いや、広すぎる。まるでホテルみたいだ。すると受付にいた男性がこちらへ近付いてきた。

 

「パーカー様ですね。」

 

「あ、はい。」

 

「お待ちしておりました。ご案内いたします。」

 

「お、お願いします。」

 

僕たちはそのままエレベーターへ案内され、上に上がっていく。階数表示を見ると、どんどん上がる。……まだ上がる。……さらに上がる。

 

サラも数字を見ているが、

 

「ねえ。これ、どこまで行くの?」

 

「分からない。」

 

そして止まったのは、最上階の一つ下。

 

「こちらです。」

 

スタッフの人に案内され、扉が開き、僕たちは、また固まった。

 

とにかく広い。リビングだけで、今までの家のほとんど全部が入りそうだ。大きな窓からは街を見渡せる景色が広がっている。広いキッチンに、複数の寝室、それぞれに収納。あ、浴室も二つある。

 

「こちらが主寝室です。」

 

スタッフの人が説明を続ける。

 

「こちらに個室が三部屋。ゲストルームが二部屋ございます。」

 

「五部屋?なんで?」

 

僕は思わず聞き返すと、スタッフの人が困った顔をする。そりゃそうだ、この人に聞いても分からない。

 

「スタークさんに電話する。」

 

僕はすぐにスマートフォンを取り出して、スタークさんに電話をかける。

 

『どうした?』

 

「スタークさん!」

 

『何だ。うるさいな。』

 

「何なんですか、この家!?今来てるんですけど!」

 

『家?ああ。』

 

ああ、じゃないですよ。

 

『すまなかった。急ぎで用意した物件だったからな。狭かったか?』

 

「狭い!?」

 

僕は思わず叫ぶ。

 

「十分です! 十分広すぎるのでここで大丈夫です!」

 

『そうか?』

 

「そうです!」

 

『ならいい。』

 

何なんだ、この人。メイ叔母さんが、少し離れたところで頭を抱えちゃってるよ。

 

「ピーター。家賃……どうしましょう。」

 

そうだよ。こんなところ、絶対高い。ものすごく高い。

 

『ああ、それなら気にしなくていい。』

 

スタークさんがよく分からないことを口走る。

 

『購入した。』

 

メイ叔母さんが固まってしまった。

 

「買った?この部屋を?」

 

『そうだ。』

 

「スタークさん。それは流石に、」

 

どうしよう、メイ叔母さんの声が少し怖い。

 

『電気、水道、ネット環境も購入時の契約で処理してある。今後の支払いは不要です。契約書は後でデータで送ります。』

 

「ですから、待ってください。」

 

『生活費に関しても問題ないと思います。』

 

「話聞いてます?」

 

『これまでのピーターの活動分の報酬。加えて、今後アベンジャーズ候補として活動する上での給金も出す。』

 

「給料あるんですか!?」

 

『当たり前だ。……ああ。まだ正式に説明してなかったな。』

 

知らない、ではなく知らされてなかった、だった。

 

『ただし。ピーター、金の管理はしっかりメイさんにしてもらえ。』

 

「何で僕が無駄遣いする前提なんですか。」

 

『……最近、ペッパーに無駄遣いすると怒られるんだ。』

 

「知らないですよ。」

 

『君も同じ思いをしたまえ。』

 

「いや、しませんから、無駄遣い。」

 

『そうか?』

 

「そうです。僕、節約するタイプですから。」

 

『本当に?』

 

「本当です!」

 

電話の向こうで、少し笑った気配がした。その間にも、

 

「あ、こっちにも部屋ある。」

 

ジーンが走り回り、

 

「ジーン、走らない。」

 

サラが追いかけている。

 

「サラ、見て。窓すごい。」

 

「わ。ほんとだ。」

 

完全に探検が始まっていた。メイ叔母さんも、

 

「もう。」

 

と呟きながら、諦めたようにキッチンを見始めている。

 

「……収納すごいわね。」

 

何だかんだ気に入ってるよ。

 

『それと。』

 

「まだあるんですか?」

 

『ピーターは最上階に行ってみろ。』

 

「最上階、ですか?」

 

『ラボにしてある。』

 

「……ラボ?」

 

僕は首を傾げた。

 

『色々好きに使え。』

 

「ラボって。」

 

『見れば分かる。』

 

ーーーーー

 

最上階の扉が開くと、理系、特に科学分野好きにとって夢の国が広がっていた。

 

実験室。それも、ただの実験室じゃない。広く、機材が揃っている。工作設備、解析端末、電子機器、化学実験用の設備、金属加工設備、3Dプリンター。……よく分からない機械まである。

 

中央には広い作業台、壁際には大型モニターまである。

 

「……これ。」

 

僕はゆっくり中へ入る。

 

「使っていいんですか?」

 

『そのために作った。全部好きに使え。』

 

「壊したら?」

 

『自分で直せ。』

 

それもそうか。

 

『僕もガキの頃から色んな実験をして、色んなものを作った。』

 

スタークさんの声が少しだけ柔らかくなる。

 

『君も思うままにやればいい。』

 

僕はラボを見回す。

 

『ヒーロー活動だけに夢中になるな。学校に行き、家族との時間も取れ。その合間で、ここを使って色々作ればいい。』

 

「はい!」

 

思わず大きな声が出た。

 

『返事だけはいいな。』

 

「ちゃんとやります!」

 

『期待してる。』

 

嬉しい。ものすごく嬉しい。今すぐ何か作りたい。ウェブ・シューターを改良できるし、新しいカートリッジも、スーツだって、

 

『ああ。』

 

スタークさんが思い出したように言う。

 

『ちなみに、下の階にはクロオと真魚が使える部屋も準備してあるからよろしくな。』

 

僕は止まる。

 

「スタークさん。」

 

『何だ?』

 

「それはちょっと、先走りすぎじゃないですか?」

 

『……うん。』

 

あれ?珍しく素直だ。

 

『やっぱりそうか?』

 

「そうだと思います。」

 

『さっきペッパーに話したら怒られたよ。「勝手に人の住む場所を決めない」って。』

 

「正論ですね。」

 

『やはり正論なのか。あった方が便利だろうと思ったんだが。』

 

「そういう問題じゃないと思います。」

 

『そうなのか。』

 

「そうです。」

 

何とも言えない空気になった。下の階に降りると、ジーンの声が響く。

 

「ピーター! 私の部屋決めた!」

 

「え、もう?」

 

「一番窓が大きいところにした!」

 

「ジーン!勝手に決めないの!」

 

「サラは隣の部屋!」

 

メイ叔母さんの声も聞こえる。

 

「ちょっとジーン、走らないの!サラも!」

 

……賑やかだ。昨日まで二人で暮らしていた家族が、今日から四人になる。家も変わり、生活も変わる。

 

僕がスパイダーマンだということもメイ叔母さんに知られた。

 

スタークさんからは、アベンジャーズの候補だと正式に説明された。

 

何だか、色々変わりすぎた気がする。

 

「スタークさん。」

 

『何だ?』

 

「本当に、ありがとうございます。」

 

少し間が空いてから、

 

『……ああ。』

 

「大事に使います。」

 

『そうしろ。』

 

そして、

 

『ピーター。』

 

「はい?」

 

『家族を大事にな。』

 

僕は少しだけ目を瞬かせ、それから笑う。

 

「はい。」

 

通話を切ると、サラ、ジーン、メイ叔母さんの声が聞こえてくる。

 

「……よし。」

 

家族が二人増えた。大変なことも、多分これからたくさんあるだろうけど、かなり楽しみだった。

 

「ピーター!」

 

ジーンに呼ばれてしまった。

 

「今行くよ!」

 

――なお。クロオさんと真魚さん用に準備されたという二部屋については、その日の夜、スタークさんがペッパーさんに改めて説教されたらしい。僕がその話を聞いたのは、もう少し後のことだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!(作者:紅乃 晴@小説アカ)(原作:スパイダーマン)

目が覚めたらサム・ライミ版のスパイダーマンこと、ピーター・パーカーになってました。


総合評価:20497/評価:8.92/完結:31話/更新日時:2026年08月21日(金) 07:58 小説情報

エセ・スパイダーマンがノー・ウェイ・ホームに参戦する話(作者:マッキーガイア)(原作:スパイダーマン)

やぁみんな!僕はノリと勢いでスパイダーマンになった男だよ!▼スパイダーマンがいない世界で著作権フリーとばかりにスパイダーマンのコスプレしちゃったら大いなる責任が伴っちゃった感じの人です。なんかノーウェイホームに参戦するらしい。終わったね!神作が


総合評価:5831/評価:8.17/連載:7話/更新日時:2026年09月04日(金) 18:54 小説情報

大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか?(作者:御船上郎)(原作:スパイダーマン)

ピーター・パーカーに転生した男が四苦八苦しながら頑張る話▼尚、彼の知識と何かしらズレた世界の模様


総合評価:6859/評価:8.47/連載:10話/更新日時:2026年09月05日(土) 18:00 小説情報

アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話(作者:紅乃 晴@小説アカ)(原作:スターウォーズ)

アナキンの親友になって。▼アナキンの代わりに暗黒面に落ちて。▼そしてエンドアの戦いで帰還した主人公。▼彼は師であるパルパティーンと共に宇宙に出て▼フォースの根源を探究する旅を続けていた。▼だが、彼らの旅路は大きな渦に巻き込まれていくのだった。▼※過去作、アナキンの親友になったら暗黒面に落ちた件の続編です。▼https://syosetu.org/novel/…


総合評価:5368/評価:8.79/連載:37話/更新日時:2026年07月15日(水) 18:58 小説情報

ケロロ軍曹 転生して早々記憶喪失!? であります!(作者:リボーン2期待ってます)(原作:ケロロ軍曹)

転生してからの14年分の記憶がスッポリ消えた転生者の話。あらすじは後で考えます。


総合評価:4608/評価:8.75/連載:17話/更新日時:2026年09月08日(火) 09:32 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>