日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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急襲

 

――翌朝。

 

結論から言えば、僕――ピーター・パーカーは普通に学校へ向かっていた。

 

昨日、深海理沙という人物がニューヨークに潜伏している可能性が高く、しかも超能力を持つ子供たちが何人も姿を消していると聞かされた。そして、僕と一緒に暮らしているジーンも、狙われる可能性が高い。

 

そんな話を聞いた翌日なのだから、普通なら学校を休んでジーンの護衛をする、とか、しばらく家から出ないようにする、とか、そういう対応を考えるのかもしれない。

 

でも、僕は普通に学校へ向かっている。

 

別に危機感がないわけじゃない。むしろ、昨日の会議が終わってからは深海理沙についてネッドと一緒に調べられる範囲で調べたし、スタークさんから送られてきた資料にも目を通した。

 

ただ、よく考えてみれば、ジーン本人の護衛については僕が心配する必要がほとんどなかった。

 

何しろ、午前中のジーンがいる場所は日本。それも、光のエルたちが暮らしている村だ。

 

「……あそこからジーンを誘拐できる人って、いるのかな。」

 

僕は通学路を歩きながら、昨日考えたことをもう一度頭の中で整理する。

 

光のエルの村。

 

クロオさんたちから何度か話を聞いているし、僕自身も行ったことがあるけれど、あそこを普通の村だと思ってはいけない。

 

見た目だけなら自然豊かな静かな場所で、子供たちが普通に生活している。でも実際には、光のエル、真魚さん同様アギトに変身できる人たち、超能力者たちが守っていて、外部から簡単に手を出せるような場所ではない。

 

たぶん世界中を探しても、あそこより安全な場所なんてそう多くない。

 

午前中、ジーンは基本的にそこで過ごしている。そして午後になると、カマー・タージへ移動する。そこで超能力を扱うための訓練を受けながら、必要に応じて魔術も学んでいる。カマー・タージには至高の魔術師であるエンシェント・ワンがいて、他にも大勢の魔術師や修行僧がいる。……うん。こっちも誘拐する場所としては最悪だ。

 

というか、深海理沙たちがどれだけ戦力を持っているのか知らないけれど、カマー・タージへ正面から突っ込んでジーンを誘拐できるくらい強いなら、もう僕たちが街中で警戒するとか、そういう段階の話じゃないと思う。

 

そして夕方。僕やメイ叔母さんが帰宅する時間になると、ジーンはゴウラム便でニューヨークへ帰ってくる。……ゴウラム便。最近、普通に使っているから何とも思わなくなってきたけれど、よく考えたらすごい言葉だ。日本からカマー・タージ。カマー・タージからニューヨークまで飛行機に乗るわけでもなく、空港へ行くわけでもなく、ゴウラムが次元に穴を開けて、そのまま僕たちが住んでいるタワーマンションの屋上まで送り届けてくれる。移動中を狙うことも、ほぼ不可能。

 

つまり、

 

午前中――光のエルの村。午後――カマー・タージ。夕方――ゴウラムで直接帰宅。

 

「……誘拐する隙、なくない?」

 

僕は小さく呟いた。昨日の会議でも、そこについては全員の意見が一致していた。少なくとも、ジーンが普段通りの生活を送っている限り、深海理沙たちが直接ジーン本人を狙って誘拐するのは、ほぼ不可能だ。じゃあ、もし相手が本当にジーンを狙っているとして、直接手を出せないと分かったら、次にどうする?そこで僕が思いついたのが――僕たちだった。正確には、ジーンと一緒に暮らしている人間。

 

メイ叔母さん。そして、僕。メイ叔母さんが狙われる可能性については、昨日の会議でもすぐに話題になった。ジーンと一緒に暮らしている保護者で、外から見れば何の特殊能力も持っていない一般人。だから、スタークさんたちはメイ叔母さんの警護をすぐに強化することを決めた。

 

問題は、僕。世間一般から見たピーター・パーカーという人間は、少し頭が良くて、スターク・インダストリーでインターンをしている高校生。それだけだ。昨日、ハッピーが学校まで迎えに来たせいで、僕とスターク・インダストリーの関係が思っていたより深いということは、学校のみんなには知られてしまった。スタークさん本人から目をかけてもらっていることも、たぶん今日にはかなり広まっていると思う。

 

でも、それだけだ。僕がスパイダーマンだということは公表されていない。だから深海理沙たちが僕の正体を知らないなら、向こうから見た僕はジーンと同居している普通の高校生ということになる。つまり、狙いやすい。

 

そこで昨日の僕は、会議中に一つの作戦を提案した。

 

――だったら、僕を囮にすればいいんじゃないですか?

 

自分では、結構いい作戦だと思った。メイ叔母さんの警備は固め、ジーン本人はそもそも手を出せない場所にいる。それなら、わざと僕の警備を薄く見せて、普段通り学校へ通い、普段通り街を歩く。相手がジーンとの繋がりを把握していて、なおかつ僕を一般人だと思っているなら、僕を捕まえてジーンを誘き出そうとする可能性がある。そこで僕を狙ってきた相手を逆に捕まえる。

 

僕なら、多少の人数に襲われてもまず問題ない。危なくなったらスパイダーマンとして戦えばいいし、発信機や通信機も仕込める。敵の拠点まで連れて行ってくれるなら、むしろ好都合だ。……完璧じゃない?

 

そう思って提案した。ところが、

 

『『『『『…………。』』』』』

 

何故か、会議室が静かになった。画面の向こうでは、フューリーさん、一条さん、スタークさん、コールソンさんの四人が、揃って何とも言えない顔をしていた。

 

怒っているわけではない。呆れているとも少し違う。ものすごく悩ましそうな顔。そして四人は、ほとんど同時にクロオさんを見た。

 

『……何ですか?』

 

クロオさんが嫌そうな顔をする。最初に口を開いたのはフューリーさんだった。

 

『どうする、トニー。』

 

『何がだ。』

 

『思考が完全に黒雄寄りだぞ?』

 

スタークさんが黙ってしまう。僕は画面の向こうにいる二人を交互に見る。何の話?

 

『矯正しようとはしているんだ。』

 

スタークさんが額を押さえながら言った。

 

『だが、ピーターは素でこの思考だし、クロオのことをしっかり尊敬しているから難しいんだ。』

 

「ちょっと待ってください。」

 

僕は思わず口を挟む。

 

「何を矯正するんですか?」

 

誰も答えてくれなかった。代わりに、一条さんが何かを思い出したような顔をしている。

 

『今の囮作戦ですが、似たようなものを未確認生命体事件の時に黒雄から提案されたことがあります。』

 

僕はクロオさんを見ると、クロオさんは一条さんから露骨に目を逸らしていた。

 

「……クロオさん?やったんですか?」

 

『昔の話だから。』

 

やったんだ。すると今度は、コールソンさんまで妙に懐かしそうな表情になった。

 

『会ったばかりの頃の黒雄を思い出しますね。』

 

『コールソンさんまで!?』

 

『自分が前に出れば、それが一番効率がいい。自分なら多少敵が強くても戦える。』

 

コールソンさんが指を折りながら挙げていく。

 

『今のピーターが提案する際の顔。当時の黒雄とそっくりでしたよ。』

 

『…………。』

 

クロオさんが黙った。

 

『しかも本人は、本気で合理的だと思っているところまで似ています。』

 

『………………………。』

 

クロオさんがさらに黙った。僕は何となく居心地が悪くなりながら、周囲を見回す。

 

「なんかすごい色々言われてる……。」

 

僕としては、かなり真面目に考えた作戦だったんだけど。だって、僕を狙ってくる可能性が高いなら、それを利用した方が早いじゃないか。僕は普通の高校生より遥かに頑丈だし、スパイダーセンスもある。仮に不意打ちされても簡単には捕まらないし、逆にわざと捕まれば敵の拠点までだって。

 

そこまで考えたところで、僕は黙っているクロオさんへ視線を向けると、クロオさんは両肘を机について、頭を抱えていた。

 

『……僕、こんな感じだったのか。』

 

ポツリ、と呟く。

 

『え?』

 

僕は首を傾げる。何でクロオさんまで落ち込んでるんだろう?

 

『いや、黒雄。』

 

一条さんが静かに言う。

 

『今も割とそうだぞ。』

 

クロオさんが完全に黙り、スタークさんが深く頷く。フューリーさんも頷く。コールソンさんまで頷く。……何だろう、この空気。

 

「うんうん。」

 

隣から声が聞こえて横を見ると、ネッドが何故か腕を組みながら、ものすごく納得したように頷いている。その向こうではハッピーまで、

 

「うん。」

 

と頷いていた。

 

「……何?」

 

僕が二人を見る。

 

「いや。」

 

ネッドが言う。

 

「ピーターって、クロオさんと同じで判断基準がバグってる時あるよな、って。」

 

「そう?」

 

「そうだよ。」

 

「どこが?」

 

「そこが分かってないところ。」

 

意味が分からない。助けを求めるようにジーンを見る。ジーンなら分かってくれるはずだ。するとジーンは椅子から立ち上がり、僕の前まで歩いてきた。

 

「ピーター。」

 

「うん。」

 

ジーンが僕の目の前で、人差し指を一本立てる。そして、まるで年下の子供に注意するみたいな顔をして、

 

「反省しなきゃダメだよ。」

 

と言ってきたので、僕は思わず瞬きしてしまう。

 

「何を?」

 

「え?そこから?」

 

ジーンが呆れた顔をした。画面の向こうではスタークさんが天井を仰ぎ、フューリーさんが眉間を押さえ、一条さんとコールソンさんが苦笑している。ネッドとハッピーは相変わらずウンウンと頷いている。クロオさんだけは、まだ頭を抱えていた。

 

……あれー?

 

僕、良い作戦だと思ったのに。

 

ーーーーー

 

僕の作戦は結局採用されず、スタークさんのアーマー数体が護衛として配置されることになった。ネッドにも同じ対応がされているらしい。

 

うん、ネッドは僕と違って戦闘能力皆無だから護衛が付くのは安心だ。ただ、本人は自衛の手段に何かないか?と悩んでいた。すると、サラから魔術を勉強してみる?と提案され、挙動不審になっていた。

 

後で聞いたら、ネッドにとってサラは好みど真ん中だそうだ。うーん、同居している手前、素直に応援しづらいのが残念だ。

 

色々考えながら、学校に着くと、

 

「……なんか、嫌な予感がする。」

 

校舎へ入った瞬間、僕は足を止めた。いや、別にスパイダーセンスが反応したわけじゃない。頭の奥がピリピリするとか、背筋がゾワッとするとか、そういう危険を知らせる感覚は一切ない。

 

ただ、視線を感じる。……ものすごく感じる。

 

廊下を歩いている生徒たちが、僕を見る。僕と目が合うと、慌てて逸らす人もいれば、そのまま友達と何かを話し始める人もいる。中には普通にこっちを指差している人までいた。

 

「……何?」

 

思わず自分の服を見る。変なところはない。いつもの服装だし、鞄も持っている。顔に何か付いているわけでもないと思う。そのまま歩き出そうとしたところで、

 

「ピーター!」

 

後ろから声が飛んできた。振り返ると、ネッドが人混みを避けながらこっちへ走ってくる。

 

「ネッド、おはよう。」

 

「おはよう。……じゃなくて。」

 

僕の隣まで来たネッドが周囲を見回し、少し声を落とした。

 

「ピーター。昨日のこと、完全に広まってる。」

 

「昨日?」

 

「ハッピーさん。」

 

「ああ。」

 

納得する。昨日、放課後に僕たちを迎えに来たハッピーは、アイアンマンの側近としてもそれなりに有名な人だ。ネットで検索したら普通に出てくる。そのハッピーが学校まで直接迎えに来て、僕とネッドを車に乗せた。

 

確かに、ちょっと目立っていた。

 

「でも、別にそんなに騒ぐこと?」

 

「騒ぐよ。」

 

「そう?」

 

「普通の高校生はトニー・スタークの側近が学校まで迎えに来ないんだよ。」

 

「インターンしてるんだから、そういうこともあるんじゃない?」

 

「ないよ。」

 

即答された。ないのか。

 

僕としては、最近ハッピーはもちろん、スタークさんやフューリー、クウガであるクロオさんと普通に話すこと自体が珍しくなくなってきたから、感覚が少し麻痺しているのかもしれない。

 

「昨日、ハッピーさん普通に先生と話してたじゃん。」

 

「うん。」

 

「ピーター・パーカーとネッド・リーズをスターク・インダストリーの仕事で連れていくって。」

 

「そうだね。」

 

「先生、『本当にスターク・インダストリーでインターンしてたんだ……』みたいな顔してたじゃん。」

 

「してたね。」

 

「それがガッツリ広まったんだよ。」

 

なるほどぉ。……まあ、仕方ない。僕がそう思っていると、同じ学年だけど、別のクラスの人から声が飛んできた。

 

「ピーター!昨日迎えに来た人、ハロルド・ホーガンだよな!?」

 

「え?うん。」

 

急な質問にそのまま答えてしまう。まあ、誤魔化すようなことでもないか。

 

「やっぱり!」

 

「本物!?」

 

「マジでスタークのところで働いてるの!?」

 

「トニー・スターク本人に会ったことある!?」

 

「アイアンマンのアーマー見た!?」

 

「スターク・タワー行ったことある!?」

 

一気に人が集まってきた。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

僕は思わず両手を上げる。何だこれ。昨日まで僕たちのインターンなんて、みんな半分くらい疑っていたじゃないか。

 

「ピーター、本当にトニー・スタークと知り合いなの?」

 

「知り合いっていうか……まあ、はい。」

 

「どれくらい!?直接話したりするの?」

 

「え?うん。普通に。」

 

周囲がざわめき始めた。……何で?

 

「電話とかする?」

 

「する……けど。」

 

最近は通信が多くなったけど、電話もたまにはする。なんて考えていたら、さらにざわめきが大きくなった。

 

「向こうからかかってくるのか!?」

 

「スタークさんから?うん。大体そう。」

 

今度は明らかに空気が変わった。

 

「待って待って待って!」

 

一人が僕の肩を掴みそうになり、直前でやめる。

 

「トニー・スタークから直接電話が来るの!?」

 

「来るけど……。」

 

「どれくらい!?」

 

どれくらいと言われても困る。仕事の話もあるし、訓練の話もあるし、ラボ関係の話もある。最近は僕の生活についてまで色々言ってくる。ただ、それを全部説明するわけにもいかない。

 

「必要な時に、かな?」

 

「ピーター、それ答えになってないよ。」

 

ネッドが横から突っ込んでくる。

 

「じゃあ昨日のホーガンさんも、スタークから頼まれて迎えに来たってこと?」

 

「うん。昨日はそうだったね。ちょっと特別な仕事があったから。」

 

嘘ではない。正確には、超能力者の子供たちが誘拐されていて、その犯人である可能性が高い人物についてアベンジャーズ基地で緊急会議をするためだったけれど、それを説明できるはずもない。

 

「特別って、どんな仕事?」

 

「それは言えないかな。」

 

「機密!?」

 

「まあ……機密かな。」

 

ざわっ、と周囲が騒がしくなる。あ、今の言い方だと、何か格好いい仕事をしているみたいになってしまった。

 

「ピーターは何やってるの!?」

 

「だから言えないって。」

 

「新しいアイアンマンのアーマー作り!?兵器開発とか!?」

 

「ちょっと違う。」

 

自分のスーツと自分の装備を、自分のラボで自分で作ってるだけです。

 

「宇宙人関係!?」

 

「違――」

 

一瞬止まる。宇宙人関係の仕事……ドルマムゥは宇宙人に入るのだろうか?

 

「何で今止まった!?」

 

「止まってない!」

 

危ない。本当に危ない。僕がスパイダーマンだとバレる方向ではないけれど、別方向で余計なことまで掘り返されそうだ。

 

「ピーター。」

 

ネッドが小声で話しかけてくる。

 

「余計なこと言わない方がいいよ。」

 

「分かってるよ。」

 

「今、宇宙人で止まったけど。」

 

だって、タイムリーな話題だったから。生徒たちがどんどん増える。

 

「パーカー!アベンジャーズに会ったことある!?」

 

これはどう答えればいい?ある。というか、何人も知っている。スタークさんはもちろん、ブラック・ウィドウとも話したことがあるし、ソーとも会ったことがある。クロオさんはクウガだし、アントマンとも訓練した。フューリーさんはアベンジャーズにカウントして良いのかな?

 

「あるの!?」

 

僕の沈黙を肯定と受け取ったらしい。

 

「いや、その……スタークさんはアベンジャーズだから。」

 

「それ以外!」

 

「……企業秘密。」

 

「企業秘密の使い方おかしくない!?」

 

ネッドが吹き出してしまう。

 

「じゃあアイアンマンのアーマー触ったことある!?」

 

「ある。」

 

しまった。反射的に答えてしまった。周囲が急に静かになる。僕は助けを求めるようにネッドを見る。ネッドが首を横に振った。もう遅い、という意味だと思う。

 

「触ったことあるの!?」

 

「どこで!?どうやって!?」

 

「中に入った!?装着したの!?」

 

「いやいやいや!待って!」

 

質問が一気に飛んでくる。

 

「触ったって言っても、ラボでちょっと見せてもらっただけだから!」

 

嘘ではない。アベンジャーズ基地にあるスタークさんの簡易ラボには普通にアーマーが置いてあった。スタークさんと一緒に整備を手伝ったこともある。

 

「ラボ!?」

 

しまった。また余計な単語を出した。

 

「ラボって何!?スターク・インダストリーの!?」

 

「違う違う!そういう意味じゃなくて!」

 

「ピーター。」

 

ネッドが僕の肩に手を置く。

 

「もう喋らない方がいいと思う。」

 

「……僕もそう思う。」

 

この後悔は、もはや手遅れな気もする。

 

「おい、ペニス・パーカー。」

 

聞き覚えのある声がしたので振り返ると、人混みの向こうからフラッシュが現れる。いつものように余裕のある顔で歩いてくるけれど、今日は僕ではなく、腕を組みながら、周囲に集まっている生徒たちを見ていた。

 

「朝から随分人気者じゃないか。」

 

「フラッシュ……。」

 

「それで?本当にスタークのところで働いてたのか?」

 

「だから前からそう言ってたでしょ。」

 

「ただのインターンだろ?それなのに、昨日はハロルド・ホーガンが迎えにきたのか?」

 

「そうだよ。」

 

フラッシュが黙る。……あれ?いつもなら、ここで何か言い返してくるのに。

 

「……じゃあ、トニー・スタークにも、本当に会ったことあるのか?」

 

「あるよ。」

 

「……何回?」

 

何回って……。数えたことない。僕が困ってネッドを見ると、ネッドも困った顔をしている。

 

「分からない。結構会ってるから。」

 

また周囲がざわつき、フラッシュまで黙る。

 

「…………マジかよ。じゃあスタークの携帯番号とか知ってるのか?」

 

「知って――」

 

「ピーター!」

 

ネッドが叫ぶ。

 

「言わなくていいから!」

 

あ、危ない。

 

「今、知ってるって言いかけたよな!?」

 

「言ってない。」

 

「絶対言った!」

 

「言ってない!」

 

こんなことでスタークさんに電話でもさせられたら、絶対怒られる。いや、怒るというより、

 

『高校生の見栄のために私を使うな。五百万ドル請求するぞ。』

 

とか言われそうだ。

 

「ピーター。」

 

今度は聞き慣れた女子の声がする。振り返るとリズが立っていた。

 

「おはよう。すごいことになってるね。」

 

リズが周囲を見回しながら苦笑する。

 

「おはよう。インターンをしてるのは皆知ってたはずなのにね。」

 

「本当にスターク・インダストリーの仕事してるんだね。」

 

「うん。あ、ネッドも一緒だからね。」

 

リズは感心したように頷いている。

 

「すごいね。インターンって言ってたけど、かなり本格的なんだね。」

 

「まあ……最近は結構色々やらせてもらってるかな。」

 

本当に色々やらせてもらっている。自分用とはいえスーツ開発、訓練、ラボでの研究、アベンジャーズ基地への出入り、現場での戦闘、異次元への突入。……後半が、高校生のインターンとして適切かどうかは知らない。

 

「だから学力コンテストへの誘いも断ってたの?」

 

「うん。でも、参加するからには真面目にやるよ。……急に呼ばれて、仕事に行かなきゃいけないことはあるかもだけど。」

 

「そっか。」

 

リズは納得したように頷いた。そこで僕は、周囲からまた視線を感じた。特に男子。何だろう、リズと話しているから?

 

確かに、前の僕だったら学校でも目立つリズと普通に話しているだけでかなり緊張していたと思う。でも最近は、そういう意味で緊張することが減った。

 

家に帰ればサラとジーンがいる。基地へ行けば真魚さんやナターシャさんたちもいる。……よく考えたら、僕の周囲ってメイ叔母さんも含めて、美人とか美少女とか、そういう人が多すぎる気がする。

 

だからリズも、学校のマドンナ的な存在の一人だとは思うけれど、普通に友達として話せる。

 

リズと話し終わると、ネッドが僕を見ていた。

 

「何?」

 

「いや。ピーター、最近本当に変わったよなって。」

 

「そう?」

 

「パーカー!」

 

別の生徒から、また声が飛んでくる。

 

「今度スターク連れてきてよ!」

 

「無理!」

 

「アイアンマンのアーマー見せて!」

 

「もっと無理!」

 

「アベンジャーズ基地ってどこ!?」

 

「知らない!」

 

これは嘘。

 

「キャプテン・アメリカに会ったことある!?」

 

「知らない!」

 

答えがおかしくなってきた。

 

「ピーター!」

 

「もう質問禁止!」

 

僕は両手で耳を塞ぎ、そのまま教室へ向かって歩き出す。その隣をネッドが笑いながらついてくる。

 

「人気者だな、ピーター。」

 

「嬉しくないよ。というか、なんで僕ばっかり。ネッドだってインターンやってるのに。」

 

「ハッピーさんの『ピーターのついで』扱いが良い方に転んだよ。それにしても昨日まで『スターク・インダストリーのインターン(笑)』みたいな扱いだったのにな。」

 

「別に信じてもらわなくてもよかったんだけど。」

 

むしろ今までの方が楽だった。僕が本当にスタークさんと深く関わっていると知られたことで、学校での僕を見る目が明らかに変わっている。

 

ただ、一つだけ救いなのは、誰も僕をスパイダーマンだとは思っていないことだ。スターク・インダストリーで働く、ちょっと変わった高校生。今のところ、それだけだ。

 

だから問題ない。……たぶん。そう思いながら教室へ入った瞬間、

 

「ピーター!」

 

クラスメイトたちが一斉に僕を見る。

 

「昨日のこと聞いたぞ!」

 

「ハッピー・ホーガンが迎えに来たって本当!?」

 

「スタークとどれくらい仲いいの!?」

 

「アイアンマンのアーマー触ったってマジ!?」

 

僕は入口で立ち止まった。

 

「…………ネッド。」

 

「何?」

 

「今日、学校休んでもいいかな。」

 

「もう来ちゃったから遅いよ。」

 

「だよね……。」

 

僕は朝から深いため息をついた。……深海理沙に狙われるかもしれないから警戒して登校したはずなのに。今のところ、一番大変なのはクラスメイトだった。

 

ーーーーー

 

放課後。学力コンテストの練習が終わり、私――ミシェルは少し離れたところからピーターとネッドの二人を眺めていた。

 

二人はいつものように何かを話しながら校舎を出ていき、校門の近くまで来たところで立ち止まる。

 

「じゃあ、今日は帰るわ。」

 

「今日は真っ直ぐ帰るの?」

 

「うん。昨日も遅かったし、今日は母さんにもそう言ってあるから。」

 

「そっか。じゃあ、また明日。」

 

「また明日。」

 

ネッドが手を振り、ピーターとは別の方向へ歩いていく。ピーターはその背中を少しだけ見送ると、鞄を肩に掛け直し、一人で歩き始めた。

 

すぐには声をかけない。少し距離を空けたまま、その後ろを歩いていく。別に尾行しているわけじゃない。

 

……いや、前にも似たようなことをした気がするけど、今回は違う。

 

今日はちゃんと話しかけるつもりだ。学校を出て少し歩き、周囲から同じ学校の生徒が減ってきたところで、私は少しだけ歩く速度を上げた。

 

「ねえ、パーカー。」

 

「ん?」

 

ピーターが足を止めて振り返る。私が後ろにいたことに驚いた様子はない。……もしかして、気付いてた?

 

「ミシェル?どうしたの?」

 

「別に。」

 

「別になの?」

 

ピーターが首を傾げる。私はその隣まで歩いていき、そのまま一緒に歩き始めた。ピーターも特に気にした様子はなく、普通に歩いている。

 

……本当に何なの、こいつ。

 

昨日までは、スターク・インダストリーでインターンをしていると言っているだけの、頭が良くて、ちょっと変わった男子だと思っていた。

 

それが昨日、ハロルド・ホーガン本人が学校まで迎えに来た。

 

そして今日になって話を聞いてみれば、トニー・スターク本人と何度も会っている。直接電話がかかってくる。アイアンマンのアーマーを触ったことまであるらしい。

 

学校では朝からピーターの話題で持ちきりだった。本人だけが、それを大したことではないような顔をしている。だから、ちょっと気になった。

 

……本当に、ちょっとだけ。

 

「ねえ。私も、アンタのマンション遊びに行っていい?」

 

「え、ダメだよ。」

 

即答された。しかも、慌ててもいないし、歩く速度すら変わらなかった。私は横目でピーターを見る。

 

「……即答なんだ。もうちょっと考えたりしない?」

 

「何を?」

 

普通、女子から家に遊びに行っていいかと聞かれたら、もう少し慌てない?別に私が自分をものすごく魅力的な女だと思っているわけじゃない。

 

でも、高校生の男子なんだから、女子から家に行きたいと言われれば、少しくらい動揺してもいいと思う。

 

それなのに、「ダメだよ。」で終わった。何なの、こいつ?

 

「なんで?ネッドだって行ってたじゃん。この前見たよ。」

 

「ああ。」

 

ピーターは何でもないように頷いた。

 

「うん、知ってる。後ろついてきてたよね。」

 

思わず足が止まりかけた。

 

「気付いてたの?」

 

「うん。」

 

「いつから?」

 

「学校出て少ししてから。」

 

私は黙る。前にピーターとネッドが二人で帰っているところを見かけて、何となく気になって後ろからついていったことがある。

 

二人が入っていったのは、普通の高校生が住むような場所には到底見えない高級タワーマンションだった。その時、私はそれなりに距離を取っていた。見つかったとは思っていなかった。

 

「じゃあ、なんで何も言わなかったの?」

 

「声かけてほしくなさそうだったから。」

 

「……そう。」

 

それはそれで腹が立つ。

 

「でも、ネッドは入れてたじゃん。」

 

「まあ、ネッドは親友だし、メイ叔母さんも知ってるし。」

 

ピーターは少し考えてから、続ける。

 

「それにダメだよ、女の子がいきなり男子の家に行こうとするとか。家の人を心配させちゃダメだよ。」

 

何、この正論。しかも、言っている本人の顔がものすごく真面目だ。本気で私の家族が心配することを気にしているらしい。

 

私は隣を歩くピーターをじっと見る。

 

昨日、世界的企業の警備部門のトップが学校まで直接迎えに来た男。トニー・スターク本人から電話がかかってくる男。何かは知らないけれど、スターク・インダストリーの機密に関わる仕事までしているらしい男。

 

そのくせ、女の子が男子の家へ突然遊びに行くと家族が心配する、と真顔で説教してくる。

 

……やっぱり変な奴。

 

もっとも、この場にピーター・パーカーの正体を知る人間が一人でもいたなら、

 

――お前が言うな!

 

と、間違いなくツッコミを入れていただろう。

 

夜になればニューヨークを飛び回り、武装犯罪者と戦い、アベンジャーズと一緒に行動し、少し前には異次元へ乗り込んでドルマムゥと戦った高校生が、家族を心配させるなと言っているのだから。

 

…………何か、変な電波を受信してた。私はそんなことを知らない。

 

だから、

 

「アンタって、変なところで真面目だよね。」

 

としか言えなかった。

 

「そう?」

 

「褒めてない。」

 

「そっか。」

 

ピーターは全く気にしていない。

 

「それに今日は、直接ラボに行くつもりだから。」

 

「ラボ?」

 

「うん。僕が住んでるマンションの上の階にあるんだ。」

 

私は再びピーターを見る。

 

「……アンタ、自宅マンションにラボ持ってるの?」

 

「あ。」

 

ピーターが止まった。

 

「今の、言っちゃダメなやつだ。いや……ラボがあること自体は、別に秘密じゃない、かな?」

 

何なの、その曖昧な情報管理。

 

「スタークが用意したの?」

 

「……まあ。」

 

「何するところ?」

 

「色々。」

 

「具体的には?」

 

「それは言えない。」

 

またガバガバな情報管理のくせに重要なことは喋らない。私は小さく息を吐いた。

 

「やっぱり怪しい。」

 

「そんなに怪しいかな?」

 

「普通の高校生は、自分が住んでるマンションに専用ラボなんて持ってない。」

 

「僕だって最初から持ってたわけじゃないよ。」

 

「そういう問題じゃない。」

 

本当に、知れば知るほどよく分からない。

 

学校では科学と数学が得意な、少し大人しい男子。ネッドとスター・ウォーズの話をしている時は、普通のオタク。でも、スターク・インダストリーで本当に働いていて、トニー・スターク本人とも親しい。しかも自宅マンションにはラボまである。

 

だからこそ、気になる。私は少しだけ歩調を速め、ピーターの横に並んだ。

 

「ねえ、パーカー。」

 

「何?」

 

「私、アンタに興味があるんだ。」

 

言った。少し直接的すぎたかもしれない。さすがにこれなら、何か反応するだろう。驚くとか。慌てるとか。意味を聞き返すとか。そう思った、その瞬間、ピーターの手が伸びた。

 

「っ!?」

 

手首を掴まれ、私は思わず目を見開いた。

 

「……ちょっと。」

 

さっきまで女子から家に行きたいと言われても全く動揺しなかったくせに。興味がある、と言った途端にこれ?

 

「切り替え早すぎない?」

 

「静かに。」

 

ーーーーー

 

僕――ピーター・パーカーの意識は、完全にミシェルから別のものへ向いていた。いや、正確には、少し前からだ。

 

頭の奥がピリッとして、スパイダーセンスが反応している。まだ弱いけれど、確実に何かを知らせている。

 

「ピーター?」

 

「静かに。」

 

もう一度、今度は少し強く言う。

 

僕はミシェルの手首を掴んだまま周囲を見回した。道路、建物、路地、車、人、………どこだ?

 

僕たちの周囲には、まだ下校途中の生徒が何人かいるし、一般人も歩いているだけ。見たところ不自然な人間はいない。

 

深海理沙か?昨日の話が頭をよぎる。本当に僕を狙ってきた?

 

ピリッ。

 

「っ!」

 

強くなった。僕は反射的に空を見上げる。

 

「え?」

 

ミシェルも僕につられて上を見ると、何かが落ちてくる。赤と金の人型。見覚えがあるどころじゃない。

 

「嘘――」

 

スタークさんのアーマー。僕の護衛として配置されていた無人アーマーの一体が、空から真っ逆さまに落ちてきていた。

 

「ミシェル!」

 

僕は掴んでいた手首を強く引く。

 

「え――きゃあっ!?」

 

そのままミシェルの身体を抱え、地面を蹴った直後、僕たちが立っていた場所へ、アーマーが激突する。

 

アスファルトが砕け、破片が周囲へ飛び散った。

 

「きゃあああああっ!?」

 

ミシェルの悲鳴が耳元で響く。僕はミシェルを抱えたまま、落下地点から一気に距離を取った。

 

「何!?何なの!?」

 

「大丈夫!?」

 

「大丈夫じゃない!今、何か落ちてきた!っていうか、アンタ今――」

 

「ちょっと待って。」

 

僕はミシェルを地面に下ろし、落下してきたものを確認する。間違いなくスタークさんのアーマーだ。ただし、まともな状態じゃない。

 

装甲のあちこちが破損し、胸部も大きく潰れている。そして何より、頭がない。

 

「……やられた?」

 

少なくとも、普通の犯罪者にどうこうできるアーマーじゃない。僕の護衛として配置されていた機体だから、スタークさんのところにも異常は伝わっているはずだろうけど、スパイダーセンスはまだ警戒を発している。

 

「ピーター……。」

 

後ろからミシェルの声がする。

 

「何なの、これ。」

 

「僕から離れないで。」

 

「は?」

 

僕は空を見上げると、上空に人型の機械が浮かんでいる。一瞬、別のアイアンマン・アーマーかと思ったけれど、色も違い、形も違った。

 

そして、その姿には見覚えがあった。

 

「……まさか。」

 

昨日、資料で見た。細部は変わり、装甲の形状も、資料に記録されていたものとは違う。改修されているのだろう。でも基本構造は同じだ。

 

そして、そいつの右手にはもう一体、僕の護衛についていたアイアンマン・アーマーが捕まっている。頭部を掴まれながら。

 

嫌な予感がした直後。バキッと、上空の機体が腕に力を込め、アイアンマン・アーマーの頭部が、その手の中で握り潰された。金属片が空中へ散っていく。

 

「……何、あれ。」

 

ミシェルの声が震えている。視線を上空の敵から外さない。資料で見たものとは違う。でも、間違えるはずがない。

 

――G4。

 

昨日、深海理沙についての資料と一緒に確認した機体が、僕たちの頭上に浮かんでいた。

 

ーーーーー

 

「……何で、ここに。」

 

思わず口から漏れた言葉に答えをくれる人はいない。

 

上空に浮かぶG4は、僕たちを見下ろしたまま動かない。その右手には、頭部を握り潰されたスタークさんの無人アーマーがぶら下がっている。

 

いや、動いていないように見えるだけで、確実にこっちを見ている。そして、その視線が僕を、いや、僕らを捉えた。

 

「……まずい。」

 

直後、G4が掴んでいたアーマーを放り捨てる。同時に、背部と脚部のブースターが一斉に火を噴いた。

 

スパイダーセンスが強烈に鳴る。考えるより先に身体が動く。僕一人なら避けられるし、戦える。だけど今はミシェルがいる。しかも、G4には僕たちが一緒にいるところを完全に見られてしまっている。

 

もしこいつが深海理沙の指示で動いていて、僕がジーンと暮らしている人間だと把握しているなら、僕だけじゃなくミシェルまで標的になる可能性がある。

 

人質に取られるのだけは絶対に駄目だ。

 

「ミシェル!」

 

「え?」

 

振り返ると同時に、僕はミシェルの身体を抱き上げた。そのまま地面を蹴る。

 

「ちょーー、きゃあっ!?」

 

驚いたミシェルの声が耳元で響いたけれど、説明している時間はない。僕はミシェルを抱えたまま一気に走り出した。

 

今の僕が全力で走れば、普通の高校生では絶対にあり得ない速度になってしまう。だから普段は、どれだけ急いでいても人前ではかなり抑えている。でも、今はそんなことを気にしていられなかった。

 

背後からG4が迫っている。

 

「ちょ、ちょっと、パーカー!?」

 

僕の腕の中で、ミシェルが目を見開いている。

 

「アンタ、何でこんな速――」

 

「舌噛むから喋らないで!」

 

「そういう問題じゃ――後ろ!」

 

ミシェルが僕の肩越しに背後を見て叫ぶ。振り返ることはしない。頭の奥を走る感覚が、G4の位置も、速度も、僕たちとの距離も、危険が迫っている方向も教えてくれている。

 

前方に細い路地が見えた。

 

「捕まって!」

 

「もう捕まってる!」

 

確かに。なんて考える余裕があったのは一瞬だけだった。僕は走る勢いを全く落とさないまま身体を傾け、そのまま路地へ飛び込む。

 

直後。G4が僕たちのすぐ後ろを通過した。その衝撃だけで道路脇の看板が吹き飛び、停められていた自転車が倒れていく。通行人の悲鳴が聞こえるけど、あの位置なら怪我人もいないはずだ。

 

「なんなの一体……。」

 

ミシェルが呆然と呟く。僕はそのまま路地の奥まで走り、建物に挟まれた場所へ入ると急停止した。

 

「ミシェル。」

 

「な、何?」

 

「ちょっと下ろすね。」

 

「ちょっと待って。今の何?それよりアンタ、何であんな速く走れ――」

 

ミシェルを地面へ下ろす。そして、すぐに鞄を放り出した。

 

時間がない。

 

G4は今の突撃で僕たちを見失ったわけじゃない。スパイダーセンスも消えていない。むしろ、さっきより強くなっている。あいつは戻ってくる。

 

だったら、もう隠している場合じゃない。僕は上着に手を掛ける。

 

「……え?」

 

ミシェルが固まったけど、構わず脱ぐ。

 

「ちょっと。」

 

シャツにも手を掛ける。

 

「ちょっと待って。」

 

ボタンを外している時間すら惜しい。僕は一気にシャツを脱いだ。

 

「何してんの!?」

 

ミシェルが思い切り声を上げた。

 

「今そういう状況じゃないでしょ!っていうか、さっきまで女子が男子の家に行くのはどうとか言ってたくせに、何で急に服脱ぎ始め――」

 

そこまで言ったところで、ミシェルの言葉が止まった。

 

「…………え?」

 

きっと、僕の服の下から現れたものを見たからだ。赤と青の身体に密着したスーツ。見間違えるはずはないと思う。ニューヨークで活動しているヒーローの姿として、何度もニュースやネットに映っているスーツなんだから。

 

「……嘘。」

 

ミシェルが呟く。僕は脱いだ服をまとめて鞄の近くへ放り、手首のウェブシューターを確認する。

 

「ちょっと待って。」

 

ミシェルの声がさっきまでとは明らかに違う。

 

「パーカー。」

 

僕はマスクを取り出す。

 

「それ……。」

 

被ると、視界にスーツのシステムが立ち上がり、周辺情報が表示される。

 

「…………スパイダーマン?」

 

「うん。」

 

もう誤魔化しようがないので、素直に頷いた。ミシェルが完全に固まった。たぶん色々聞きたいことがあると思う。でも、それは後だ。

 

スパイダーセンスが、再び強く反応する。僕は路地の入口を見ると、重い機械音が聞こえてくる。

 

「ミシェル。」

 

「……何?」

 

まだ呆然としているミシェルへ振り返る。

 

「これ、秘密にしといてね!」

 

「…………は?」

 

ミシェルの返事を聞く前に、ガシャン、と重い金属音を響かせながら、G4が路地へ降り立った。

 

狭い路地を塞ぐように立つその姿は、昨日資料で見たものよりも明らかに異様だった。改修された装甲。無人とはいえ、スタークさんのアーマーを二体も破壊した出力。

 

僕は一歩前へ出る。自然と、ミシェルを背中に隠す位置へ。G4の視線が僕へ向く。さっきまでは、ピーター・パーカーとして見られていた。でも今は違う。

 

「さて。」

 

マスクの奥で小さく息を吐く。

 

「スタークさんのアーマーを二体も壊したんだから、弁償じゃ済まないと思うよ。」

 

G4のブースターが低い唸り声を上げ始める。僕も腰を落とし、構えを取る。ピーター・パーカーではなく――スパイダーマンとしてG4と向かい合った。

 

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