日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
一部オリジナルキャラを除きクウガ、アギト、MCU既出キャラで作品を作ってきましたが、今回MCU未登場の輸入キャラが出ます。
ご指摘があり、ジーンのセリフを変更しました。
「……メイ、叔母さん?」
私は、目の前にいる女性を唖然としたまま見つめる。
ピーターの叔母、メイ・パーカー。昨日ハロルド・ホーガンの車で見かけ、ピーターが誘拐された、と言っていた人。その本人が今、何事もなかったみたいな顔をして、ハッピー・ホーガンの隣に立っている。
思わず、もう一度声が漏れる。
「メイ叔母さん……?」
メイ叔母さんは私の顔を見ると、不思議そうに首を傾げた。
「あら?ピーターの友達?」
「え……あ、はい。いや、それより……。」
何がどうなってるの?
私もチラッとではあるが見た。あの変なパワードスーツが持っていた画面に、椅子に拘束されたメイ叔母さんとネッドが映っていた。だからピーターは抵抗をやめ、自分から捕まったはずだ。なのに、どうしてメイ叔母さんがここにいるの?混乱していると、
「ねえ。」
腕を掴まれた。見ると、さっき警備員を見えない力で押し退けた赤みがかった髪の少女――ジーンが、私の腕を掴んでいる。
「ピーターが捕まったってどういうこと?」
さっきよりもずっと真剣な顔をしていた。
「何があったの?」
「それは――」
「ちょっと待て。」
今度はハロルド・ホーガン、ハロルドさんが口を挟んできた。
「ピーターが捕まった?何を馬鹿な。」
ハロルドさんは眉をひそめ、明らかに信じていない顔で私を見る。
「俺はさっき、街中で元気に飛び回ってるピーターを遠目に見かけたぞ。いつもの赤と青のスーツでな。あいつが捕まったって、何の話だ?」
ピーターが、街中を?何を言っているの?ついさっき、私の目の前で――
「本当なんだね?」
ジーンが声をかけてくる。顔を向けると、ものすごく真剣な表情で私の目を覗き込んでいた。
「ピーターが捕まったっていうの、本当なんだね?」
何、この子。年下のはずなのに、目力が強すぎる。
「……本当よ。」
若干押されながらも、私ははっきりと答える。
「私の目の前で捕まった。ピーターは私を逃がして、自分からあいつらについていった。」
「……分かった。」
ジーンが私の腕から手を離し、目を閉じる。
「……?」
何をしているのかと思った次の瞬間、
「――繋がらない!」
ジーンが目を開いた。その表情が一気に険しくなる。
「ピーターに繋がらない!」
「繋がらないって……?」
「テレパシー。」
そう答えたのは、隣にいた金髪の少女。その少女の顔からも、さっきまでの余裕が消えていた。
「ジーンのテレパシーは、距離なんてほとんど関係ありません。国が違っても、相手に届く。それが繋がらないってことは……。」
そこで言葉を切ると、サラはすぐにハロルドさんに顔を向け、
「ハッピーさん、すぐにスタークさんに連絡を!私もカマー・タージに応援を頼みます!」
「……分かった。」
さっきまで半信半疑だったハッピーの顔が変わった。
「本当にピーターと連絡が取れないなら一大事だ。」
すぐに携帯端末を取り出し、どこかへ連絡を始める。
「トニー、俺だ。緊急事態だ。ピーターが――」
「私もクロオ君に連絡するわ。」
メイ叔母さんも携帯を取り出した。
「お願い、出て……。」
サラも少し離れたところで何かを始めている。携帯電話じゃない。指先で何かを描くように動かしているけど……今はもう、何を見ても驚かないことにする。いや、後で驚くけど、今はピーターだ。
「ねぇ。」
「……何?」
ジーンが、改めて私の前に立った。
「お願いがあるの。」
さっきまでの強い口調とは違った。そして、頭を下げた。
「え?」
「今から、超能力であなたの記憶を覗かせて。」
「私の……記憶を?」
顔を上げたジーンが、真剣な目で私を見る。
「今日、ピーターが襲われた時の記憶を確かめさせてほしいの。何か手掛かりになるものが映っているかもしれない。」
なるほど。私が説明するより、この子が直接見た方が早いってことか。
「お願い。」
もう一度、ジーンが頭を下げる。
「ピーターを助けるために必要なの。」
「……アナタじゃなくて、ミシェルよ。」
「え?」
「私の名前。ミシェル。」
ジーンが少し驚いたように顔を上げた。
「私の記憶で、敵の情報を確認するってことよね?」
「……うん。」
「良いわ。やって。」
「……え?」
今度は、はっきり驚いた顔をされた。
「良いの?」
「何が?」
「記憶を覗かれるんだよ?」
「分かってる。」
「でも、記憶って……その人にとってすごく大事なものだし、私が見るつもりがなくても、前後の記憶が少し見えちゃうかもしれない。それに――」
「良いって言ってるでしょ。」
言葉を遮ると、ジーンが黙った。
「正直、私のせいでピーターに迷惑をかけた自覚はあるわ。」
今日、ピーターの後をついていき、ピーターの家に行きたいなんて言った。その結果、戦いに巻き込まれて、ピーターはずっと私を守りながら戦うことになった。
もちろん、私がいなかったからってピーターが捕まらなかったとは限らない。でも、足手まといになったことは事実だ。
「だから、やって。」
ジーンの目を見る。
「私の記憶がピーターを助ける役に立つなら、好きなだけ見ればいい。」
ジーンは数秒、私を見つめてから、静かに頷いた。
「分かった。じゃあ、少しだけ力を抜いて。」
ジーンが私の額へ手を伸ばし、その指先が触れた瞬間、頭の奥に、不思議な感覚が広がった。
ーーーーー
ミシェル。そう名乗った、ピーターの友達。私は彼女の記憶へ意識を伸ばしていく。勝手に必要のないところまで見るつもりはない。今日、ピーターが襲われた時間。その周辺だけに意識を集中させる。
すぐに映像が見えた。学校。ピーターとネッドがいる。ネッドと別れ、一人になったピーターを、
『ピーター。』
ミシェルが追いかけていた。ピーターに話しかけ、ピーターのマンションへ行きたいと言っている。
……何となく、ムッとした。
いや。今はそれどころじゃない。さらに記憶を進める。学校を出て、しばらく歩いて、二人で話している。
そして、空気が変わった。
ピーターの表情も、危険を察知した時の顔になる。現れたのは黒いアーマー。昨日、ピーターのラボで見せてもらったデータにあった、
「G4……。」
アイアンマンのアーマーと、クウガの姿を足して二で割ったような、黒い強化装甲。それがピーターとミシェルに襲いかかってきた。
私はミシェルの記憶を通して、その戦いを追っていく。ピーターはミシェルを逃がしながら戦っている。ウェブを撃ち、壁を走り、G4の攻撃を避ける。
最初はG4の速度に驚いていたけれど、すぐに動きへ対応していた。背中のブースターを狙ってウェブを撃ち込み、動きを封じる。
戦えてる。一対一ならピーターの方が優位だ。G4をウェブで拘束し、そのまま制圧しかけていた。
「……え?」
突然、G4の周囲が歪み、見えない力によって、ウェブが一斉に吹き飛ばされる。
「サイコキネシス……。」
G4が超能力を使った。二体目のG4まで現れて、何もない空間から炎を生み出し、ピーターへ向かって放っている。
「パイロキネシス……。」
さらに三体目。一瞬で消えて、一瞬で現れる。
「テレポート。」
昨日見たG4のデータには、超能力を発生させる機能なんて記録されていなかった。ということは、中にいる人が使っている?超能力者をG4に乗せている?考えながら、さらに記憶を辿る。
三つの能力を相手に、ピーターはミシェルを守りながら必死に戦っている。そして、ピーターが突然ミシェルを突き飛ばした。
「……!」
そこで、記憶が切れた。映像がない。意識そのものが途切れている。でも、気絶とは違う。これは――
「……テレパス。」
私も同じことができるから分かる。この時、ミシェルは精神干渉を受けたんだ。恐らく四体目の、テレパシーを使うG4がいる。
つまり、サイコキネシス、パイロキネシス、テレポート、テレパシー。少なくとも4体の、それぞれ違う超能力を持ったG4が敵。かなり厄介。もっと情報が必要だ。しばらく空白が続いた後、突然、視界が戻った。
『……ピーター?』
ミシェルの意識が戻ると、目の前にピーターがいた。
その顔を見た瞬間、胸がざわついた。ものすごく深刻そうな顔で、ミシェルに何かを説明している。
メイとネッドが捕まった。だから、自分が敵についていく。
……本当にピーターは人質を取られて、自分から捕まったんだ。
そして、ミシェルへ逃げろと言っているピーターの顔は、何かを言いたそうにしていた。口には出していないけど、
――助けを呼んで……。
たぶん、そう言いたかったんだ。スタークでも、クロオでも、誰でもいい。ここから逃げて、助けを呼んでほしい。だからミシェルを先に逃がした。きっとミシェルも、それを理解したんだ。
ピーターを気にしながら、何度も振り返りながら、それでも屋上から離れようとしている。
「……。」
ミシェルの視界に、一体のG4が映った。たぶん、さっきミシェルを操ったテレパスのG4はこいつだ。その手に、小さなタブレットのようなものを持っている。
画面には、椅子に拘束されたメイ、その隣には、同じように拘束されたネッドがいた。二人とも動けない状態で、確かに捕まっているように見える。
私は、そこで記憶を辿るのをやめ、意識を自分の身体へ戻す。
「……ふぅ。」
目を開くと、目の前にはミシェルがいる。改めて彼女を見る。髪は乱れ、服も汗で濡れている。息もまだ完全には整っていない。ピーターが連れていかれてから、ここまで全力で走ってきたんだ。
私は、ミシェルを真っ直ぐ見る。
「ありがとう、ミシェル。」
「……何?」
「ピーターのために、頑張って走ってくれて。」
ーーーーー
――それから、一時間もしないうちに。ピーターの住むマンションには、ニック・フューリー、トニー・スターク、十文字黒雄……だれ?あ、クウガね、ジーンが呼んだという魔術師のウォン、メイさん、ハッピーさん、サラ。そして私――ミシェルが集まった。
ピーター・パーカーという一人の高校生のために集まっている。普通なら、これだけで安心していいはずだった。アイアンマンがいる。クウガがいる。世界規模の諜報組織を動かしていた男がいる。魔術師までいる。なのに、
誰一人として、安心した顔をしていなかった。
「僕のスーツが二体やられていた。」
スタークさんが、空中にいくつもの画面を展開しながら口を開いた。
「ピーターの周辺警戒に回していた機体だ。最初は単純な通信障害だと思ったが、違った。ジャミングを受けただけじゃない。偽の位置情報と正常稼働を示すデータまで送り返されていた。」
指を動かすと、二つの画面が拡大される。
「つまり、こちらはスーツを破壊された後も、二体が正常に飛び続けていると思わされていた。ハッピーから連絡がなければ、今でも異常に気付いていなかった可能性がある。」
スタークさんの声は静かだった。でも、その静けさが逆に怖い。フューリーさんが腕を組んだまま続ける。
「街中で目撃されていたスパイダーマンについても調べた。」
ハッピーさんが顔を上げる。
「俺が見た奴か?」
「そうだ。」
フューリーさんが画面の一つを指差した。
「ニューヨーク市内の監視カメラ、民間施設の映像、交通監視システム。使えるものは片っ端から確認させた。見た目も動きもスパイダーマンそのものだが、本人じゃない。」
「どういうことなの?」
メイ叔母さんが尋ねる。
「映像をフレーム単位で解析したところ、ほんの一瞬だけ輪郭が不自然にブレている映像が複数見つかった。」
スタークさんがその映像を拡大した。赤と青のスーツ姿がビルの間を飛んでいる。一見すれば、ピーターそのものだけれど、映像が極端にゆっくり再生された瞬間、その身体の輪郭がほんのわずかに崩れた。
「高性能のホログラムか、それに類する技術だろう。」
フューリーさんが低い声で言った。
「連中はピーターを誘拐しただけじゃない。ピーターがニューヨークで普通に活動しているように見せかけた。俺たちの初動を遅らせるためにだ。」
部屋の空気がさらに重くなる。そして、ずっと目を閉じていた十文字さんが、ゆっくりと目を開いた。
「……駄目でした。」
その一言で、スタークさんとフューリーさんが十文字さんを見る。
「ここに来る前に、アメイジング・ペガサスの力を使って、ニューヨーク全域を可能な限り探りました。音、振動、匂い、空気の流れ……拾える情報は全部拾ったつもりです。」
十文字さんが拳を握る。
「でも、ピーターは見つかりませんでした。」
それきり、三人が黙ってしまう。世界最高峰の科学技術、世界規模の情報網、そして人間の常識を完全に超えた力。その全部を使っても、ピーターを見つけられない。
「……ねえ。」
気付けば、私は口を開いていた。三人がこちらを見てくる。いや、スタークさんだけは画面を見たままだった。
「何に悩んでるのか、私には分からないけど。」
少し苛立っていた。この人たちに、というより、何もできない状況そのものに。
「スーパー科学でも、スーパーパワーでも、魔法でも何でもいいから、早くピーターを助けに行かないと駄目なんじゃないの?」
スタークさんが、こちらを振り向かないまま口を開いた。
「そのスーパー科学を使って、今まさにピーターを探している。」
静かな声だった。
「だが、見つからない。」
私は何も言えなくなる。
「位置情報、通信履歴、監視カメラ、顔認証、衛星、ドローン、私のスーツ、ピーターのスーツに組み込まれたシステム。考えられる手段は全部使っている。だが、相手はそれをかなり正確に潰してきている。」
そこで初めて、スタークさんがこちらを見た。
「連中はこちら側の技術を把握している。それも、かなり詳しくな。」
「こちらも同じだ。」
フューリーさんも続ける。
「今すぐ動かせる人員は最大限投入している。警察には知らせていない。下手に大規模な捜査網を敷けば、相手を刺激する可能性があるからだ。表向きは別件として処理しながら、こちらで捜索を進めている。」
その時だった。
「……やっぱり、アルティメットを使うしか……」
十文字さんが顔を上げた。スタークさんとフューリーさんの表情が同時に変わった。
「駄目だ。」
「却下だ。」
「やめておけ。」
ウォンさんまで、ほとんど同時に声を上げた。十文字さんが三人を見る。
「でも――」
「アメイジング・ペガサスの超感覚で見つけられなかったんだ。」
フューリーさんが遮る。
「アルティメットになったところで、何をするつもりだ?」
「モーフィングパワーでニューヨーク全域を調べます。物質を変換できるなら、その力を応用して――」
「ニューヨーク中にあの力を広げるつもりか?」
フューリーさんの言葉に、十文字さんが黙る。
「あの力を街一つに広げて、一般市民にも建物にも一切影響を与えず、探知だけに使う。そんな精密な制御ができる自信はあるのか?」
「……ありません。」
即答だった。
「なら駄目だ。」
「僕も反対だ。」
スタークさんが言う。
「ピーターを助けるためにニューヨークを実験場にする気はない。君自身に何が起きるかも分からない。」
ウォンさんも頷く。
「強大な力ほど、目的以外に及ぼす影響を無視してはならない。焦っている時なら、なおさらだ。」
また、沈黙。
「……何よ、それ。」
気付けば、私はまた言っていた。
「これだけすごい人たちが揃ってるのに、ピーター一人、助けに行けないの?」
その瞬間、サラが肩に手を置いてきた。
「ミシェル。ピーターを心配してくれるのは嬉しい。でもね。できれば、この人たちに意地悪なことは言わないであげて。……たぶん、この人たちはあなたが思っている以上に、ピーターのことを心配してるから。」
私は改めて三人を見る。フューリーさんは何度も端末を操作しながら、新しい報告を確認している。
スタークさんは空中に表示した大量の情報を、食い入るように見続けている。いつものニュースで見る、自信満々で軽口を叩いているトニー・スタークとはまるで別人だった。
そして十文字さん。握り締めた拳から、血が流れていた。爪が食い込むほど、強く握っていて、それでも本人は気付いていないみたいだった。
「……ごめんなさい。」
自然に言葉が出た。
「勝手なこと言って、すみませんでした。」
スタークさんが振り返った。
「いや。君は悪くない。」
「でも――」
「友達が攫われたんだ。怒って当然だ。」
スタークさんが息を吐く。
「悪いのは、大人である私たちが不甲斐ないことだ。」
その時、
「……あれ?」
メイ叔母さんが周囲を見回した。
「ジーンは?」
私も部屋を見回すけれど、いない。さっきまでいたはずの赤い髪の少女が、いつの間にか消えている。
「ジーン?」
サラの顔色が変わり、目を閉じる。数秒後。
『屋上にいるよ。』
返事があったのだろう。
「もう……!」
サラが腕を回すと火花が散り、空中に円形の光が広がった。その向こうに見えたのは、マンションの屋上。そして、
「ジーン!」
サラが駆け込む。私たちも後を追った。屋上の中央には、巨大な甲虫のような存在、ゴウラムというらしい、がいた。その身体に、ジーンが両手で触れ、赤い髪が風に激しく揺れていた。
「ジーン!何をしてるの!?」
サラが駆け寄るが、ジーンは振り返らない。顔には汗が浮かび、肩で息をしている。
「ピーターに届かないの!普通にやっても、何かに邪魔されてる!」
「だからって――」
「ゴウラムには次元を越えられる力がある!」
ジーンが叫んだ。
「ゴウラムの次元を突破する力と、私のテレパシーを合わせれば……もしかしたら、ピーターまで届くかもしれない!」
「ジーン。」
「ピーターは私たちを受け入れてくれた!」
ジーンはゴウラムから手を離さなかった。
「居場所になってくれて、新しい家族になってくれた!」
ゴウラムの身体が低く震え、空気そのものが歪んでいるように見える。
「お願い……。届いて……。」
たった十二歳の女の子が、必死になってピーターを探している。
「……くそ。」
スタークさんが小さく呟き、十文字さんも自分の拳を見て、ゆっくり開いた。
「僕も、もう一度探してきます。」
「クロオ。」
「アルティメットは使いません。」
十文字さんははっきり言った。
「でも、アメイジング・ペガサスで拾える情報は、まだあるかもしれない。さっきより範囲を細かく区切って、一つずつ調べ直します。」
スタークさんを見る。
「何か見つけたら、すぐ連絡します。」
「ああ。」
十文字さんは屋上の縁へ向かい、
「変身。」
全身に青色の装甲を纏って、ニューヨークの街へ飛び出していった。スタークさんも端末を操作すると、赤と金のアーマーが飛来し、その身体を包んだ。
「私も戻る。まずは、会社の人間を洗う。」
マスクが閉じる直前、スタークさんの表情が見えた。
「こちらのシステムをここまで理解しているなら、外部から調べただけとは考えにくい。スターク・インダストリーズの内部に情報を流した奴がいる可能性がある。」
そのまま飛び立とうとして――。
「ミシェル。」
スタークさんがこちらを見た。
「……何ですか?」
「今回は、本当にありがとう。」
思っていなかった言葉だった。
「君がここまで走ってきて知らせてくれなければ、我々が異常に気付くのはもっと遅れていたかもしれない。」
「……。」
「ピーターは、私たちにとって――」
一瞬だけ、言葉を選ぶように止まった。
「私にとっても、かけがえのない存在だ。」
スタークさんのマスクが閉じる。
「必ず助け出す。」
次の瞬間、アイアンマンは夜空へ飛び出していった。フューリーさんもすぐに端末を耳へ当て、次々と指示を出し始める。ウォンさんはカマー・タージへ戻り、魔術による探索を試すと言ってポータルの向こうへ消えた。
サラはジーンの隣に座った。
止めるのではなく、無茶をさせないよう見守りながら、自分もテレパシーを重ねる。
そして、メイさん。
「……ピーター。」
小さく名前を呼んだ。さっきまで気丈に振る舞っていたのに、今は力が抜けたように俯いている。その肩を、ハッピーさんがそっと抱いた。
スタークさんは、自分の会社の内部まで徹底的に洗い、フューリーさんは、動かせる限りの人員と情報網を使ってニューヨーク中を捜索、十文字さんは、街を飛び回った。ウォンさんたち魔術師も、通常とは異なる方法でピーターの痕跡を追った。
ジーンは何度も何度も、ピーターへ呼びかけ続けたらしい。
これだけの人間が、みんながピーターを探した。科学も、諜報も、超能力も、魔術も、使えるものは全部使った。
そして夜、……ジーンに異変が起きた。
ーーーーー
時は少し巻き戻り、薄暗い部屋の中に、機械音やキーボードを叩く音が響いている。
私、深海理沙は腕を組み、壁一面に並べられたモニターを眺めていた。映し出されているのは、いくつもの個室。その一つ一つに、私たちが集めた子供たちがいる。ある部屋では、少年がベッドの上で穏やかな寝息を立てている。別の部屋の少女も小さく笑みを浮かべながら眠っていて、その隣の画面では、十代半ばの少年が安心しきった表情で身体を横たえていた。
誰一人として暴れておらず、助けを求めてもいない。彼らが今見ているのは、それぞれが心の底から望んでいる光景だ。失った家族との時間。帰りたかった家。友人たちとの何気ない日常。自分の能力を恐れる必要もなく、周囲から拒絶されることもない世界。
現実よりも、ずっと幸せな夢の中で眠り続けている。
「安定しているわね。」
「はい。」
横にいた研究員が答える。
「精神状態、脳波ともに安定しています。現在収容している被験者については、目立った抵抗反応もありません。」
わざわざ苦しめる必要なんてない。恐怖を与えれば、人間は逃げようとしてしまう。怒りを与えれば、戦おうと、反抗しようとする。なら、戦う理由そのものを消してしまえばいい。
幸せな夢の中にいれば、逃げる必要も、目覚める理由もない。しかし、……彼だけは別だ。
私は次のモニターへ視線を移した。
「……ピーター・パーカー。」
ベッドの上に横たわっている少年の名前を口にする。スパイダーマンとして、ニューヨークで活動している、十五歳の少年。その表情は、他の子供たちとは正反対だった。眉間には深く皺が寄り、額には大量の汗が浮かんでいる。呼吸も浅く、時折何かから逃げるように指先が動いていた。
他の子供たちが幸せな夢を見ている中で、ピーターだけは悪夢を見せられている。もちろん、意味もなく苦しめているわけではない。
ピーター・パーカーは超能力者ではないが、可能性に満ち溢れた存在だ。特殊な蜘蛛に由来する常人を遥かに上回る身体能力を有し、壁面への吸着能力、異常なまでの反射神経、そして未来予知に近い危険察知能力まで持っている。
蜘蛛由来というのが重要であり、悪夢を見せ続けることで過剰なストレスを与え、彼の進化を促すことが可能かもしれない。
「脳波、依然として高い数値を維持しています。」
横から声が飛んでくる。
「精神干渉も継続中。抵抗反応がありますが、現時点では問題ありません。」
「そう。」
私は短く答え、他の画面を確認する。ピーターだけでなく、現在ここにいる超能力者たちの状態が、次々と表示されていく。サイコキネシス、パイロキネシス、テレポート。
まだ実戦に耐えられる完成度ではないが、電撃、肉体変化、その他様々な特殊な能力を持つ子供たち。これまで世界の裏側で、偶然、突然変異、あるいは説明不能な現象として片付けられてきた力だ。けれど、彼らは実在する。そして、その力には規則性があり、解析できる。利用もできる。再現できる可能性すらある。
だから私は、彼らを集めているのだ。
「……しかし、何度見ても気味が悪いですね。」
背後から聞こえた声に、私は視線だけを動かした。まだ二十代半ばの、ヒドラに入って数年程度の研究員だろう。
「こんなの、人間なんですかね。」
男はモニターに映る子供たちを見ながら、わずかに顔をしかめ、鼻で笑う。
「何も触らずに物を動かす。火を出す。突然消える。頭の中まで覗いてくる。……化け物じゃないですか。」
私は男の前まで歩いていき、平手を叩き込んだ。
パァンッ!と、乾いた音が、モニタールームに響く。男の身体が横へ吹き飛び、床に倒れる。周囲にいた研究員たちが一斉に黙った。
「……っ!?」
頬を押さえながら、男が私を見上げている。
「ふ、深海主任……?」
「今の発言を訂正しなさい。」
声を荒らげる必要はない。私は床に倒れている男を見下ろす。
「彼らのどこが化け物なの?理解できないものを化け物と呼ぶの?それは凡夫の思考よ。」
私は幸せそうに眠り続ける子供たちの姿が映っているモニターへ視線を戻した。
「彼らは奇跡のような存在よ。」
誰も口を挟まない。
「人間は長い時間をかけて科学を発展させてきた。空を飛び、海を越え、宇宙へ進出し、今ではアイアンマンのような存在まで生み出した。」
けれど、それでも足りない。この世界は、すでに証明している。人類が、自分たちだけを見ていればよかった時代は終わったのだと。
「地球の科学力だけでは対抗できない脅威はいるわ。」
モニターの光を眺めながら、私は続ける。
「宇宙人、怪物とかね。」
ニューヨークを襲った異星人。神話の中だけに存在すると思われていた神々。そして、日本に出現した、人間の常識では到底説明できない存在たち。
世界は広いし、宇宙は、もっと広い。次に何が地球へやってくるのかなんて、誰にも分からない。
「そんな脅威にも、彼らがいれば対抗できるかもしれない。」
私は一つ一つのモニターを見る。
「何も触れずに戦車を持ち上げられる人間がいる。炎を自在に操れる人間がいる。空間そのものを越えられる人間がいる。人の精神に直接干渉できる人間だっている。」
そして、ピーター・パーカー。まだ十五歳でありながら、G4を相手にあれだけ戦った少年。
「正しく研究し、正しく能力を理解し、正しく運用することができれば、彼らは人類を守る力になる。」
私は床に倒れた研究員を、笑顔を浮かべながら見る。
「それを化け物?もう一度、彼らをそんなふうに呼んでみなさい。……次は平手じゃ済まさないわよ。」
「……申し訳ありません。」
男が頭を下げる。
「分かればいいの。」
私は再びモニターへ向き直った。もっとも、彼らの能力がどれほど強力でも、制御できなければ意味がない。どれほど優れた力でも、本人の意思によってこちらへ向けられるなら、それは戦力ではなく脅威になる。だからこそ、必要なのだ。彼らの力を、正しい方向へ導く存在が。
私はゆっくりと後ろを振り返った。
モニタールームの奥、他の研究員たちから少し離れた場所に、一人の青年が立っている。痩せた身体に生気の薄い顔、周囲の人間たちがモニターを操作し、会話を続けている中で、彼だけは最初からほとんど動いていなかった。
私は微笑みながら、青年へ向かって歩いていく。
「その中でも――アナタは最高よ、ジェイソン。」
私の呼びかけに、青年――ジェイソン・ストライカーは何も答えなかったが、怪しく笑った。