日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです   作:ken4005

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格差

 

深海の背後には、四体のG4が並んでいた。そのうち、まともな意識を保っている装着者はジェイソンだけ。残る三人は、立っているにもかかわらず、その意識は深い夢の中に沈んでいる。

 

それでもG4は動く。命令に従い、走り、飛び、戦う。実際、少し前にはピーターを相手に互角に近い戦闘すら繰り広げていた。装着者本人の意識がなくとも、ジェイソンが精神へ干渉し、自動操作に近い形で肉体を操っている。それも、三人同時かつ、G4という複雑な強化装甲を装着した状態で。

 

その事実だけで、ジェイソン・ストライカーというテレパスが、どれほど異常な領域にいるのかが分かる。深海は正面のモニターを見つめたまま、口を開いた。

 

「ジェイソン。おそらくこちらに来るであろう侵入者の相手は、任せていいかしら?」

 

モニターから視線を逸らさない深海。その背後で、ジェイソンは淡々と答えた。他のヒドラ職員がいないのであれば気弱な性格を装い、油断させる理由もない。

 

「構いません。」

 

「そう。……トゥームスとベックは?」

 

「二人とも意気揚々と出て行きましたよ。何があっても僕の洗脳のせいにできるので、最後に大暴れするそうです。」

 

「そう」

 

深海は僅かに目を細める。

 

「ベックはまだしも、家族のいるトゥームスには悪いことしたかしら?」

 

「彼の家族には、警察には差し押さえられない口座に金を入金済みですから、彼も不満はないでしょう。それに、」

 

ジェイソンは小さく肩をすくめた。

 

「兵器の残骸欲しさに、こちらへ襲撃を仕掛けてきた過去があります。トントンでしょう。」

 

「それもそうね。」

 

深海はあっさり納得した。

 

「ベックは……性根が腐っている割に、目的が分かりやすいのよね。トニー・スタークに認められたい。なのに自分ではなく、トニー・スタークに認められているピーター・パーカーが気に入らない。だったら最後くらい、好きにさせてあげるべきよね。」

 

「行動原理も行動そのものも、深海さんとベックは似てますからね。」

 

「ジェイソン、」

 

深海の声が一段低くなった。

 

「黙りなさい。」

 

「失礼しました。」

 

……まったく反省していない声に、深海は小さく息を吐く。そして、僅かな沈黙の後。

 

「……ジェイソン、本当に最後まで協力してくれるのかしら?」

 

初めて、深海の視線がモニターから外れた。

 

「正直、あなたがいなければ、この計画は夢のまた夢だった。ここまで来られたのは、間違いなくあなたのおかげよ。」

 

ジェイソンは少しだけ目を伏せる。

 

「あなたに会わなければ、いずれ僕は父か母を壊していたと思います。僕の力も、存在も認めてくれませんでしたが、親でした。……目的はどうあれ、僕はあなたに恩義を感じています。」

 

「……そう。」

 

それだけ聞くと、深海は再びモニターへ視線を戻した。

 

「なら、最後まで付き合ってもらうわ。……行きなさい。」

 

ジェイソンが振り返ると同時に、背後に並んでいた三体のG4も動き出した。

 

ーーーーー

 

地上。ダメージ・コントロール局。

 

「おおっと!」

 

高速で飛来した巨大な鉤爪を、アイアンマンが紙一重で回避する。直後、背後の壁が粉砕された。

 

『トニー様。出力や装備ではコチラが大幅に上回っています。苦戦しているのは貴方のメンタルが原因だと思われます。』

 

「分かっている!人間なんだ、調子が悪い時もある!」

 

『その通りですね。』

 

ジャービスとやり取りをしながら、トニーは空中で反転。両手からリパルサーを連射する。対するヴァルチャー――エイドリアン・トゥームスは翼を大きく広げ、一気に加速した。

 

改良型のG4から流用された技術によって強化された飛行ユニットが唸りを上げ、新型アイアンマンスーツを纏ったトニーの速度に、なんとか食らいついている。

 

「やるじゃないか、ハゲワシくん!」

 

トニーはリパルサーを撃ちながら叫ぶ。

 

「だが、今日の僕は盛大に機嫌が悪くてね!」

 

急停止し、追い縋ってきたヴァルチャーへ身体を向ける。

 

「あえて言わせてもらうが、」

 

右腕を大きく引き、全力の拳がヴァルチャーの装甲へ叩き込まれた。

 

「失せろ!」

 

トゥームスの身体が吹き飛び、建物の壁を突き破る。

 

スコットから発信機の反応が届いた瞬間、トニーは真っ先に地下へ突入しようとした。それを、トゥームスは既に十分以上も食い止めている。

 

だが、それも限界が近い。

 

G4の技術で強化されているとはいえ、相手は本気のアイアンマン。それでもトゥームスは瓦礫を吹き飛ばし、再び飛び出し、巨大な鉤爪をトニーに振り下ろす。

 

「テメーが蒔いた種の結果だろうが!」

 

「だから機嫌が悪いんだ!」

 

鉤爪とアイアンマンの腕が激突し、火花が散った。

 

一方、その遥か下では、

 

「右! 三時方向!」

 

フューリーの声と同時に、ウィドウたちが散開する。次の瞬間、先ほどまで彼女たちがいた場所をエネルギー弾が薙ぎ払った。しかし、撃ってきた敵の姿はない。

 

いや。正確には敵の姿はある。

 

兵士、G4、戦闘車両、巨大な壁、崩落した通路。存在するはずのない光景が次々と出現し、現実と虚構の境界を塗り潰していく。

 

「面倒ね!」

 

ナターシャが銃を連射し、一人の兵士を撃ち抜く。だが、弾丸はその身体を素通りし、直後、別方向から実弾が飛来する。

 

「伏せろ!」

 

ウィドウの一人がナターシャを引き倒し、その頭上を弾丸が通過した。

 

ミステリオこと、クエンティン・ベックはヒドラ式AIと大量のドローン、その演算能力と投影装置を利用し、ダメージ・コントロール局そのものを巨大な幻影空間へ変貌させていた。

 

「トニー!」

 

声が響く。ベックの視線の先には、ヴァルチャーと激突するアイアンマン。

 

「どうだ、私の技術は!?」

 

ベックは両腕を広げる。

 

「アベンジャーズの一員であるブラック・ウィドウも! ニック・フューリーも! 誰一人として突破できない!」

 

高笑いが響く。

 

「この技術は兵器に使えるんだ! 私の技術には、それだけの価値が、」

 

乾いた銃声。ベックの額を銃弾が……通過した。ホログラムが僅かに揺らぎ、ベックの表情が歪んだ。

 

「私がトニーに話しかけている時に邪魔をするなぁ!」

 

「知るか。」

 

フューリーが吐き捨てるが、ホログラムの向こう側から、一斉に銃撃とエネルギー弾が放たれた。

 

ーーーーー

 

地下に作られた広大な空間。

 

全身を白銀で包んだ、アギト・シャイニングフォームの姿で真魚は静かに前へ出る。その隣では、サラが魔術を発動。両手の間に光が集まり、扇のような形状に変化した。

 

二人の正面には四体のG4が、無言で並んでいる。サラは敵から目を離さないまま、

 

「真魚さん。ミラー・ディメンション関係は無しにしますね。下手に異空間へ連れ込んで、ピーターとアイツの接続が切れたら困ります。」

 

「……了解。」

 

真魚は短く答え、いつもの杖を取り出した。軽く床を突くと、真魚の周囲に、一つ、二つ、三つ、次々と光球が出現する。十を超え、二十を超え、それぞれが異なる軌道を描きながら、真魚の周囲を旋回し始めた。

 

それを横目で確認したサラは、若干及び腰になりながら、

 

「真魚さん。……施設、壊さないでくださいね」

 

「善処するわ。」

 

「その返事、一番信用できないんですけど。」

 

G4たちが動いた。

 

ーーーーー

 

各所で戦闘が続き、始まる中、

 

「こっち! みんな、こっち来て!」

 

スコット・ラングは、一人で施設内を走り回っていた。

 

戦闘ではなく、救助である。拘束されていた子供たちを次々と解放し、安全な区画へ集めていく。そして、

 

「よし!」

 

最後の一人を連れてきたスコットは、周囲を見渡した。

 

「全員いるか?」

 

不安そうな子供たちが頷く。

 

「オーケー。よく頑張った。もう大丈夫だ」

 

笑顔を浮かべるスコットだが、数秒後、真顔になった。もう一度、周囲を見る。大量の子供に対して、自分一人。

 

「……この後、どうすんの?」

 

誰も答えない。

 

「いや待って。配置ミスだわ、これ。」

 

救出まではいい。問題は、どうやって全員を一度に避難させるかだ。

 

「こういう時に限って、ゴウラムを使える黒雄はピーターのところだし……。いや、今ゴウラムは使えないんだっけか。」

 

通信機を操作する。

 

「真魚とサラは戦闘中。スタークたちは地上……」

 

数秒考え、そして、スコットは何かを思いついたように通信先を選択した。

 

「……闇の力は?」

 

通信するも、応答なし。

 

「……出ないか。」

 

スコットは残念そうに通信を切った。超能力者の子供たちを大量に連れた状態で、最初に連絡を取ろうとする相手が神様的な存在。

 

この男。やはり、妙なところで大物である。

 

「仕方ない。次、誰なら大量輸送できる……?」

 

スコットは通信先の一覧を眺めながら、再び頭を抱えるのだった。

 

ーーーーー

 

僕――十文字黒雄は、咄嗟に両腕を交差させた。

 

「ぐっ!?」

 

直後、雷光を纏ったピーターの前蹴りが、真正面から叩き込まれる。

 

凄まじい衝撃が全身を駆け抜け、僕の身体が大きく後方へ吹き飛んだ。空中で体勢を立て直し、どうにか両足から着地する。床を数メートル滑りながら、僕は思わず目を見開いた。

 

「……マジか。」

 

ピーターの四肢には、青白い電光が走っている。さっきの回し蹴りは、驚きすぎて、モロにもらってしまったが、今のはガードの上からだった。それでも、身体の芯に響く威力だ。

 

ピーター自身の身体能力が大幅に強化されているだけでも厄介なのに、なんだあの装備は?と思考を回していると、室内のスピーカーから深海の声が響いた。

 

『高衝撃波を放つ機構を、ピーター・パーカーの四肢に合わせて調整したのよ。彼自身の身体能力に加えて、打撃の瞬間に高衝撃波を重ねれば、アナタの雷光にもパワー負けしないわ。』

 

僕は数秒、黙り、

 

「……それショッカーじゃん。」

 

思わず文句が漏れる。ついでに捕まえた人間を改造するライダーの敵の方でなく、スパイダーマンの敵の方ね。

 

『何を言っているのか分からないけれど、褒め言葉として受け取っておくわ。』

 

「褒めてない!」

 

叫びながら、僕は再び全身に雷光を纏わせる。床を蹴り、一瞬でピーターとの距離を詰める。機動力は、まだ僕の方が上だ。だが、

 

振り抜いた拳を、ピーターは危なげなく躱す。続けて蹴りを放つが、身体を沈めてきれいに回避された。……反応速度では負けている。僕がどれだけ速く動こうと、ピーターはスパイダーセンスで攻撃そのものを事前に察知している。

 

さて、どうするか。……なんて考えていると、ピーターが真っ直ぐ突っ込んできた。

 

「真正面!? なら!」

 

僕は全力で地面を踏み締め、全身を巡っていた雷光を一気に床へ流し込んだ。

 

バヂィッ!!と、凄まじい雷撃が床を駆け抜け、ピーターへ襲いかかるが、ピーターは攻撃が放たれるよりも早く跳躍、スパイダーセンスは当然、これにも反応する。でも、

 

「そこだ!」

 

空中では、地上ほど自由には動けない。僕は雷光を爆発させるように加速。一瞬でピーターの懐へ潜り込み、その腹部目掛けて全力で拳を振るう。

 

「ぐっ!」

 

拳が止まった。いや、止められた。

 

ピーターが膝蹴りを繰り出し、僕の拳を真正面から受け止めている。

 

「なら!」

 

間髪入れず身体を回転させ、今度は側頭部目掛けて蹴りを放つ。しかし、いつのまにか、ピーターの手首からウェブが射出されていて、壁に張り付いた糸を一気に引っ張ることで蹴りを回避される。

 

「ちっ!」

 

僕の蹴りが空を切ったが、そのまま逃がすつもりはない。雷光を纏い、ピーターを追う。ピーターは壁へ着地、四肢を壁につけ、一瞬だけ身体を沈めた。……あれ、溜めだな。

 

ドンッ!!

 

壁が砕けるほどの勢いで、ピーターが跳んできた。その右拳には、眩いほどの電光が集中している。

 

「上等!」

 

僕も右拳を握り、全身の雷光を右腕へ集中。互いに一切引かず、互いの拳を再度、真正面から叩きつけた。

 

爆発したような衝撃波が室内を駆け抜け、

 

「――っ!?」

 

完全に押し負けた。僕の身体が後方へ弾き飛ばされ、床を転がり、片手をついて強引に停止する。

 

「……痛ったぁ。」

 

右腕が痺れている。骨が折れたわけではないけれど、単純な力比べで負けた。僕はゆっくり立ち上がりながら、ピーターを見る。

 

「封印エネルギーなしだと、競り負けるなぁ。」

 

アルティメットの力を使えば話は変わるが、封印エネルギーを叩き込むことはできない。それにしても、

 

「今のピーター……エルロードにも勝てるんじゃないか?」

 

冗談抜きで、それくらい強い。ピーター本人の身体能力、スパイダーセンスの向上。さらに深海が追加した高衝撃波発生機構。戦闘能力が比較にならないほど跳ね上がっている。

 

「……とはいえ。」

 

ピーターを救出するだけなら、時間をかけて隙を探してもいい。けれど、ここは敵の施設だ。真魚とサラも戦っているし、スコットさんも子供たちを救出している。地上ではトニーさんたちが戦闘中。

 

「あまり時間をかけるのも好ましくないよな。」

 

僕は小さく息を吐く。

 

「となると……。」

 

一度、自分の両手を見る。……正直、

 

「お蔵入りになるかと思ったけど……。」

 

両足を開き、腰を落とす。そして、変身の構えを取った。何かを察したのか、ピーターがこちらへ向かって走り出す。

 

「究極変身!」

 

アークルが輝き、次の瞬間、僕の身体が漆黒へ染まった。金色の装飾、巨大化した角。全身を覆う、圧倒的な力。アルティメットフォーム。

 

そこで終わらず、黒と金の身体を、凄まじい雷光が駆け巡る。アークルから溢れ出した力が全身へ広がり、アルティメットに雷のエルの力を被せる。

 

ゴルドアークルとは異なり、力を混ぜ合わせるのではなく、被せる。有り余るアルティメットの力に雷のエルの力を被せることで制御するこのフォームは、封印エネルギーの出力が著しく下がる代わりに、アルティメットの力を制御しつつ、パワーを上げるフォームだ。

 

空気が震え、床に亀裂が走る。ただ立っているだけで、周囲に雷光が迸っている。僕はゆっくり右手を握った。

 

迫ってきていたピーターは足を止め、コチラを警戒している。

 

「さて、やるか。」

 

全身の雷光が、一際強く煌めいた。

 

「ライジングアルティメット、出陣だ。」

 

ーーーーー

 

『その姿は使わないと!』

 

スピーカーから、焦った深海の声が響いた。僕は思わず天井のスピーカーへ視線を向ける。

 

「あ、これ、ライジングアルティメットといって、アルティメットとは別物です。」

 

『……っ!? ……!?』

 

スピーカーの向こうから、声にならない声が聞こえてきた。たぶん、何か言いたいんだろう。物凄く言いたいことがあるんだろう。でも、言葉になっていない。

 

「まあ、説明すると長いんで――」

 

スパイダーセンスで危険を察知したのか、ピーターが一気に距離を詰めてきた。電光を纏った右拳が振りかぶられる。先ほど僕を真正面から吹き飛ばした一撃だ。

 

ピーター自身の怪力に加え、深海が仕込んだ高衝撃波発生機構まで上乗せされた拳が、僕の顔面目掛けて放たれた。

 

それに対して、僕は左腕を前へ突き出した。

 

ドンッ!!と、ピーターの拳が、僕の掌に叩き込まれ、直撃した瞬間、高衝撃波が炸裂した。空気が爆発したような轟音と共に衝撃が室内を駆け抜ける。

 

だが、僕の左腕は、ほんの僅かに後ろにズレただけ。ピーターの拳は、それ以上進まない。

 

『…………。』

 

再びスピーカーの向こうが静かになった。僕は受け止めたピーターの拳を軽く握りながら、確認するように一度頷く。

 

「これなら大丈夫そうだ。」

 

ピーターが左拳を振りかぶろうとする。その前に、

 

「ピーター。」

 

僕は右拳を握った。

 

「腹に力入れなよ。」

 

踏み込み、拳をピーターの腹部へ叩き込んだ。

 

「――ッ!?」

 

ピーターの身体がくの字に折れ曲がり、雷光と共に凄まじい衝撃がピーターの身体を貫いた。ピーターの身体が砲弾のように吹き飛び、床すれすれを一直線に飛び、数十メートル先の壁へ激突、壁面が大きく陥没し、蜘蛛の巣状の亀裂が周囲へ広がった。

 

「…………。」

 

僕は拳を突き出した姿勢のまま固まってしまう。……少し、強かったかもしれない。

 

「……ピーター?」

 

返事はない。ただ、壁の窪みにめり込んだピーターが、僅かに身体を動かしている。うん、生きている。今のピーターなら加減すれば大丈夫だと思った。

 

『…………。』

 

スピーカーの向こうでは、深海が完全に言葉を失っていた。

 

ーーーーー

 

その頃。地上、ダメージ・コントロール局では、続いていた戦闘が決着を迎えようとしていた。

 

「ぐっ……!」

 

翼から火花を散らしながら、ヴァルチャーことトゥームスが地面へ墜落する。翼の一部が完全にへし折れ、飛行ユニットには複数の穴が開いている。全て、トニーが撃ち抜いたものだった。

 

「クソッ……!」

 

トゥームスが身体を起こそうとするが、その目の前に赤と金の装甲を纏ったアイアンマン、トニー・スタークが降り立った。

 

「終わりだ。」

 

右手を持ち上げ、掌のリパルサーが、トゥームスの顔面へ向けられた。

 

「……ふざけんな。」

 

トゥームスが吐き捨てる。

 

「何がダメージ・コントロール局だ。何がアベンジャーズだ。俺たちは働いてたんだ。ニューヨークが滅茶苦茶になった後、危険な残骸を片付けてた。そこに政府とお前の会社が割り込んできて、仕事を全部持っていきやがった。それで俺たちが食えなくなって、残骸を利用したら犯罪者扱いか?お前だって同じだろうが、スターク!」

 

ここまで何も言わなかったトニーの表情が僅かに変わった。

 

「お前は武器を作った! 世界中に売った! それで大勢が死んだ! その金でスターク・インダストリーズを大きくしておいて、今さら正義のヒーロー気取りか!?」

 

トニーはリパルサーを向けたまま、数秒間何も答えなかったが、やがて、

 

「否定しない。」

 

その答えに、トゥームスが眉を寄せる。

 

「僕は武器を作った。売った。そして、その結果がどうなったのかも知っている。」

 

リパルサーの光が強くなる。

 

「だからこそ、今の僕らの役目は世界を守ることだ。」

 

「……ハッ。」

 

「そして君たちは――」

 

トニーはトゥームスを真っ直ぐ見据えた。

 

「邪魔だ。」

 

「テメ――」

 

低出力のリパルサーが炸裂、

 

「ぐっ!」

 

トゥームスの身体が地面を転がり、そのまま動かなくなる。

 

『生体反応正常。気絶しています。』

 

「分かってる。」

 

ジャービスの報告を聞きながら、トニーはすぐさま振り返った。

 

まだ終わっていない。相手を殺さない努力をした結果、手間がかかった。周囲では、今なお現実と幻影が入り乱れている。

 

だが、ヴァルチャーが倒れたことで、トニーという戦力が完全に自由になり、そこからは早かった。

 

『周辺の映像情報を解析。ホログラム投影装置を特定しました。』

 

「全部潰せ。」

 

『承知しました。』

 

アイアンマンのセンサーが一斉に起動する。それまでフューリーやナターシャたちを翻弄していた幻影が、トニーの視界では次々と解析されていく。ドローンや投影装置、通信中継器やヒドラ製AIによって制御された火器。それら全ての位置が表示される。

 

「……ああ、なるほど。」

 

トニーが小さく呟く。

 

「確かによくできている。」

 

次の瞬間、両肩から小型ミサイルが射出され、複数のドローンが同時に爆発する。リパルサーが投影装置を撃ち抜き、次々と幻影が消滅していく。

 

「なっ……!?」

 

ベックの表情が凍りついた。

 

「待て! そんな簡単に……!」

 

さらに一機。そして、最後の投影装置が破壊され、幻影に覆われていたダメージ・コントロール局が、本来の姿を取り戻す。

 

ウィドウたちやフューリー傘下の兵がダメージ・コントロール局に突入する中、

 

ゆっくり後退りするクエンティン・ベックの目の前に、アイアンマンが降り立った。

 

「ト、トニー……。」

 

「クエンティン。」

 

「待ってくれ。見ただろう!?」

 

ベックが両手を上げる。恐怖に引きつった表情が、徐々に興奮へ変わっていく。

 

「私の技術は、ニック・フューリーを足止めした! ブラック・ウィドウたちもだ! あれだけの人間を、私一人のシステムで!」

 

ベックは両手を広げる。

 

「兵器にできる!」

 

トニーの眉が僅かに動く。

 

「戦争を変えられる! 敵に存在しない軍隊を見せることもできる! 戦場そのものを偽装することだってできる!」

 

「確かにな。」

 

トニーの答えを聞き、ベックの表情が明るくなる。

 

「そうだろう!?」

 

「君の開発は、兵器として利用できる。」

 

「そうだ!」

 

ベックが一歩前へ出る。

 

「私はずっとそれを――」

 

「それでも。」

 

ベックが止まり、トニーは静かに彼を見る。

 

「君の技術は、人のために使われるべきだった。」

 

「…………何?」

 

「映像技術、投影技術、AIによるリアルタイム演算。医療、教育、災害救助、訓練……使い道はいくらでもあった。」

 

ベックの顔から、笑みが消えていく。

 

「君の技術には価値がある。」

 

「……そうだ。」

 

「だからこそ――」

 

トニーは右腕を上げた。

 

「この結果は残念でならない。」

 

「待て、トニー。私は――」

 

バシュッ!

 

「ぐっ!?」

 

低出力のリパルサーを受け、ベックの身体が吹き飛ぶ。床へ倒れ、そのまま意識を失った。トニーは数秒、倒れたベックを見つめる。

 

『生体反応正常。気絶しています。』

 

「だから、分かってるよ。」

 

小さく息を吐き、ダメージ・コントロール局へと視線を向け、移動を始めるトニー。

 

そのトニーが纏う、アイアンマンスーツに、汚れや多少の擦り傷はあれど、ダメージらしいダメージは一切見当たらなかった。

 

ーーーーー

 

最初に仕掛けたのは、炎を操るG4と、念動力を操るG4。

 

一体が両腕を前へ突き出し、猛烈な炎を噴き出す。同時に、もう一体がサイコキネシスによって炎そのものを圧縮し、捻り上げる。二つの超能力が重なり合い、巨大な炎の渦となって真魚とサラへ襲いかかった。

 

その攻撃を避けたところを、テレポート能力を持つG4が狙う。

 

そして、最後方。ジェイソン・ストライカーは、三体のG4を操りながら戦場全体を見渡していた。

 

三人の視覚、聴覚、感覚。それら全てをテレパシーによって共有。さらに相手に僅かでも隙が生まれれば、精神へ直接干渉する。……そのつもりだった。だが、

 

ーー……ああ。

 

迫り来る炎の渦を前に、サラが真魚を追い抜き、

 

ーー無理だ。

 

サラは魔力によって形成された扇を縦に振るう。ただ、それだけで、巨大な炎の渦が真っ二つに割れた。

 

サラが切り裂いたのは炎だけではない。炎を束ねていたサイコキネシスによる力場ごと、魔術によって強引に断ち切っている。

 

ならば、と、二体のG4が、それぞれ個別に攻撃へ移ろうとする。

 

それよりも早く、サラは両手を合わせ、その指が、目にも留まらぬ速度で複雑な印を組む。最後に、両手を前へ突き出した瞬間、幾つもの魔法陣が出現した。

 

三枚一組、それが二組。一方はパイロキネシスを操るG4へ。もう一方はサイコキネシスを操るG4へ向かって飛翔する。

 

炎を操るG4は迎撃を選択した。両腕を突き出し、猛烈な火炎を放つ。対して、念動力を操るG4は回避を選択。背部ブースターを全開にし、一気に上空へ飛び上がった。

 

そして、サラの背後の空間が僅かに歪み、テレポート能力を持つG4が出現した。

 

真魚が周囲を旋回していた光球を動かそうか悩むが、

 

サラは振り返ることすらせず、左手にはめられたスリング・リングを僅かに動かし、四つのポータルが、同時に開いた。

 

「へー。」

 

真魚の口から、感心の声が漏れた。

 

一つ目の入り口はパイロキネシスによって放たれた炎の真正面。そして、その出口は、サラの真後ろ。つまり、たった今テレポートしてきたG4の真正面だ。

 

「――ッ!?」

 

自分の仲間が放った炎が、ポータルを通り抜け、テレポート能力を持つG4は猛烈な炎に包まれ、吹き飛んだ。その瞬間にサラはポータルを閉じる。結果、炎を操るG4は、迎撃手段を失い、三枚の魔法陣が直撃する。

 

G4の全身へ三重の拘束術式が絡みつき、その巨体が強制的に床へ叩き伏せられた。

 

そして、残る二つのポータル。入り口は、サラ自身が放ったもう一組の魔法陣の真正面。出口は上空へ逃れたサイコキネシス使いのG4の、進行方向に展開された。

 

ジェイソンには、もう結果が見えた。

 

回避するために全速力で飛び上がったG4の真上に突然ポータルが出現する。……避けられるはずがない。三重の魔法陣へ、自分から突っ込み、空中で全身を拘束される。しかも、ブースターは全開のまま。

 

哀れ、盛大な音を立てながら、頭から床へ盛大なヘッドスライディングをすることになった。

 

床には、炎に焼かれて動けなくなったG4。三重の拘束術式によって地面へ伏せさせられたG4。そして、拘束されたまま盛大なヘッドダイブを決めたG4。

 

戦闘開始から、僅か数秒。三体全てが無力化されていた。

 

ジェイソンは、残された自分の両手を見る。一応、自分もG4を装着している。そして、自分にはテレパシーがある。相手の精神へ直接干渉できる。

 

目の前の二人を見る。

 

一人は強力なテレパスであり、超能力だけなら同格だが、相手には魔術がある。

 

そしてもう一人は、

 

ーー……格が違う。

 

理屈ではなく、同系統の能力を持っているからこそ分かる。精神へ手を伸ばしたところで、子供の手を叩くが如く弾かれるのが関の山。そんな確信があった。

 

ジェイソンは静かに両手を上げた。

 

「降参します。」

 

真魚が目を瞬く。

 

「……降参?」

 

「はい。」

 

ジェイソンは両手を上げたまま、ため息をついた。

 

「無理です。」

 

あまりにも潔いため、真魚は少し警戒しながら近づいていく。

 

「……貴方がテレパス使いね。」

 

「そうです。」

 

「だったら、ピーターの悪夢を取り除くのに協力してもらうわよ。」

 

「ああ、それなら――」

 

ジェイソンは何でもないことのように答えた。

 

「実は、昨日のうちに取り除いてあります。」

 

「…………え?」

 

真魚が固まり、サラも目を丸くする。

 

「どういうこと?」

 

「テレパスが届かないはずのこの施設に、無理矢理テレパスを届けてきた子が、そちらにいるでしょう?」

 

ジェイソンがサラを見る。

 

「……ジーン。」

 

「ええ。その子の力が強すぎたんですよ。」

 

ジェイソンは疲れたように肩を落とす。

 

「いつピーター・パーカーにかけた洗脳が破られるか予想できなかった。下手に悪夢を残しておいて、目覚められれば、冗談抜きで皆さんに殺されてしまう可能性がありました。なので、先に取り除いておきました。」

 

疑いの眼差しを向ける真魚たちに対し、

 

「ああ、安心してください。悪夢そのものの記憶も消してあります。何かの拍子にフラッシュバックして、精神的な後遺症が残るようなこともありませんよ。」

 

真魚とサラが顔を見合わせる。敵の本拠地へ乗り込み、激戦を覚悟していた。実際、敵は四体のG4。しかも全員が超能力者。一人は極めて強力なテレパス。どう考えても、難敵のはずだった。なのに、

 

「……終わり?」

 

サラが呟く。

 

「終わりです。」

 

ジェイソンが即答した。

 

「いや、本来はもっと粘る気満々でしたよ。」

 

誰に言い訳しているのか分からない。

 

「深海さんだって、本気で十文字黒雄に勝つつもりでした。僕だって、貴女たち二人を最低でも十分、できれば二十分くらいは足止めするつもりだったんです。」

 

そこで、ジェイソンは床に転がる三体のG4を見る。

 

「ただ――」

 

もう一度、真魚とサラを見る。

 

「強すぎますね、皆さん。」

 

ーーーーー

 

モニタールーム。

 

「…………」

 

深海理沙は、一人、呆然とモニターを見つめていた。計画は順調だった。

 

いや。順調どころか、完璧に近かった。アベンジャーズに気付かれることなく計画を進めた。ピーター・パーカーという、現時点で用意できる最高の素材を確保した。蜘蛛の力を研究し、その進化を人為的に促すことにも成功した。

 

そして、十文字黒雄をここへ呼び寄せた。

 

直接対決まで持ち込んだのだ。邪魔が入らないように、地上にはトゥームスとベックを配置。地下にはジェイソンと、超能力者を装着させたG4を配置。

 

実際、邪魔は入らなかった。誰一人として、十文字黒雄とピーター・パーカーの戦闘には割り込んでいない。なのに、

 

「…………何よ、これ。」

 

全ての戦場で、決着がついた。ヴァルチャーはアイアンマンに敗北。ミステリオも、その技術を解析された瞬間に制圧された。

 

四体のG4は――三体が僅か数秒で無力化され、ジェイソンは自ら降伏した。

 

そしてピーター・パーカー。高衝撃波発生機構を装備し、人為的な進化によって身体能力を飛躍的に向上させた。

 

実際、成果はあった。雷光を纏ったクウガと互角以上に戦っていた。間違いなく成功だった。

 

全て上手くいっていた。

 

しかし、モニターにはライジングアルティメットというらしい姿に変わった十文字黒雄が、ピーターの全力の拳を、片腕で止めた直後、ただの一撃で、ピーター・パーカーを数十メートル吹き飛ばした。

 

深海の手が震える。理解してしまったのだ。勝てない。これまであった狂った執着が掠れていくのを感じてしまった。

 

「どうすれば……。」

 

ライジングアルティメット。そして、そのさらに奥に存在する、本来のアルティメットフォーム。

 

「どうすれば、クウガに勝てる……?」

 

人質。そうだ、人質なら?だが、それで勝ったことになるのか?

 

ならば毒? すぐに首を振る。資料にあったが、クウガは極めて高い毒物耐性を持つ。ましてや現在の十文字黒雄に、通常の毒物が通用するとは考えにくい。それに、

 

「……違う。」

 

深海は頭を抱えた。

 

「違う……違う……!」

 

欲しいのは、そんな勝利ではない。真正面から、あの存在を超える。十文字黒雄。地球最強といわれるクウガを、

 

「ヒドラの兵器……いや。」

 

深海はモニターを睨みつけたまま吐き捨てる。

 

「ヒドラなんて、もうどうでもいい。あいつらの技術を全部使ったところで、クウガには――」

 

背後で、僅かな音がし、深海の表情が固まる。ゆっくり振り返ると、そこには、数人のヒドラ職員が立っていた。深海の指示を仰ぐため、モニタールームへ入ってきた研究員たち。そして、彼らは聞いていた。

 

深海とヒドラ職員たちの視線が交差する。

 

「あ。」

 

深海が小さく声を漏らす。その拍子に、手が操作盤へ触れた。

 

プツン、と音を立て、スピーカーの電源が落ちる。

 

直後。

 

銃声が響いた。

 

ーーーーー

 

十文字黒雄という、地球最強の存在への挑戦に取り憑かれた女、深海理沙。

 

かつてG4を運用し、超能力者を利用し、ヒドラへ渡り、その技術と組織力すら己の目的のために利用した。

 

ニック・フューリーの目を掻い潜り、トニー・スタークの監視網を欺いた。そして、ピーター・パーカーを誘拐した。

 

戦闘能力ではない。情報、策略、人質、洗脳、罠。人間だからこそ生み出せる悪意と知恵。それらを駆使することで、彼女は確かに、世界最強クラスのヒーローたちを翻弄した。

 

十文字黒雄たちがどれほど強くなろうとも。人間として生きる限り、守るべき者がいる限り、搦手によって、彼らを苦しめることはできる。

 

だが、真正面から戦えば、話は別だった。

 

ヴァルチャーは、本気になったアイアンマンを止められなかった。

 

ミステリオは、幻影を解析された瞬間に敗北した。

 

四体のG4は、サラ一人に僅か数秒で三体を無力化された。

 

ジェイソン・ストライカーは、真魚に反抗する気力すら見せることなく降伏した。

 

そして、強化されたピーター・パーカーですら、ライジングアルティメットとなった十文字黒雄には、届かなかった。

 

人類が生み出した技術、超能力、兵器、悪意。

 

それらを組み合わせれば、まだ彼らを苦しめることはできる。傷つけることもできる。罠にはめることもできる。だが、真正面から、力と力をぶつけ合う。その領域において、地球で生まれた悪党たちは、いつの間にかヒーローたちの背中すら見えない場所まで置き去りにされていた。

 

そして、その事実を誰よりも理解してしまった女、深海理沙の人生は、名もなきヒドラ職員たちが放った銃弾によって。

 

あまりにも呆気なく、その幕を閉じた。

 

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