日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
MCUスパイダーマン編ラストです。
結論から言えば、ピーター、並びに地下施設に囚われていた子供たちは、全員無事に救出された。
「いやぁ、助かったよ、ストレンジ!」
「……次からは、もう少し状況を説明してから呼べ。」
スコットさんから連絡を受けたストレンジさんが地下施設へ到着すると、子供たちが集められている区画と地上を直接ポータルで繋いだ。突然現れた火花の輪に驚く子供もいたが、
「大丈夫、大丈夫! これを通れば外だから! ほら、順番に!」
スコットさんが先導し、子供たちは次々とポータルを潜っていく。怪我をしている子もいたし、衰弱している子もいたらしい。それでも、命に関わるような状態の子はいなかった。
そして、それはG4に装着させられていた超能力者たちも同じだった。サラに僅か数秒で無力化された三人。一人は炎に焼かれ、一人は拘束術式によって床へ叩き伏せられ、もう一人に至っては頭から盛大に床へ突っ込んでいたが、幸いなことに全員命に別状はない。装着させられていたG4を解除され、そのまま医療班へと引き渡された。
施設内にいたヒドラ関係者についても、そのほとんどを確保。騒ぎに乗じて逃亡を企てた者もいたらしいが、
「相手が悪かったな。」
後からフューリーに聞いた話では、脱出経路には既にウィドウたちが配置されていたらしい。世界最高峰の諜報員たちが包囲する施設から逃げ切れるほどの実力も、運も、彼らは持ち合わせていなかったようだ。そして、
「終わりましたよ。」
ジェイソン・ストライカーが、そう告げ、彼がピーターへ伸ばしていたテレパシーが消える。
施された洗脳を維持していたジェイソン本人が、ピーターの精神から完全に手を引いたのだ。その瞬間、
「……う……。」
ピーターの指先が僅かに動いた。
「ピーター?」
僕が声をかけると、壁際に横たえられていたピーターが、ゆっくりと目を開く。焦点の定まらない瞳が天井を見つめ、何度か瞬きを繰り返す。
「……ここ……どこ……?」
「ピーター!」
思わず駆け寄ろうとした、その直後。
「いっっったぁぁぁ……!」
ピーターが腹を押さえて身体を丸めた。
「……え。」
「お腹……! 何これ……めちゃくちゃ痛い……!」
僕は無言で目を逸らす。原因には、非常に心当たりがある、というか、僕である。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ! 何されたの僕!?」
「いやぁ……。」
説明しづらい。洗脳されていた君が物凄く強かったので、ライジングアルティメットになって腹を殴りました、とは非常に言いづらい。
「あとで説明するよ。」
「なんで目を逸らすんですか!?」
ピーターの叫びが地下施設に響いた。
ーーーーー
その頃。ピーターの精神へ意識を伸ばし続けていたジーンも、その変化を感じ取り、それまで閉じていた瞼を開く。
「ジーン?」
すぐ近くにいたメイが声をかける。ハッピーとミシェルも、一斉にジーンを見る。
「……ピーター、起きた。」
「え?」
「ピーターが起きた!」
その言葉に、メイの表情が変わる。
「本当に!?」
「うん! 大丈夫! ちゃんと目を覚ました! 洗脳も……もう切れてる!」
その場に安堵が広がった。メイは胸元へ手を当て、ハッピーも大きく息を吐く。ミシェルも何も言わなかったが、明らかに肩から力が抜けていた。しかし、ジーンの顔が、徐々に赤くなっていく。
「ジーン?」
ミシェルが首を傾げた。
「……何でもない。」
「顔赤いけど。」
「何でもない!」
ジーンは勢いよく顔を逸らした。ピーターの心が壊れないように、悪夢に飲み込まれないように、精神体とはいえ、一晩以上、ずっとピーターを抱きしめていた。何度も名前を呼び、大丈夫だと声をかけ続けた。その時は必死だったから何も思わなかったが、ピーターが無事だと分かり、緊張の糸が切れた今になって、その事実が一気に押し寄せてきた。
ーー顔が熱い。ものすごく恥ずかしい。
「絶対、言わないで。」
「……何を?」
「……何でもない。」
ミシェルがますます怪訝そうな顔をする。だが、ジーンがそれ以上追及されることはなかった。
「……あ。」
「ジーン!?」
身体が傾いたジーンを、メイが慌てて抱き止める。
「……すぅ……。」
眠っていた。何時間も集中し続け、通常なら届かないはずの地下施設へ無理矢理テレパシーを送り続けた。ピーターの精神を守り続け、疲労が限界を迎えたのだ。
「……寝ちゃった。」
メイが呟くと、ハッピーがジーンの顔を覗き込む。
「大丈夫なのか?」
メイは眠るジーンの頭を優しく撫でた。
「たぶん、すごく疲れたのよ。」
ーーーーー
「痛い……。」
地下施設にて、未だに腹を押さえているピーター。
「絶対、肋骨とか折れてる……。」
「いや、それは大丈夫。折れない程度には加減したから。」
「加減?」
しまった。
「クロオさん。僕のお腹殴ったんですか?」
ピーターが僕を見てくる。僕は諦めてピーターをまっすぐ見つめ、
「……救出のためです。」
「殴ったんじゃないですかぁ!」
そんなやり取りをしていると、少し離れた場所に火花が散り始め、円を描くように広がり、ポータルが形成される。そこから真魚とサラが戻ってきた。
「あ、真魚。サラも――」
声をかけようとした、その時だった。部屋の扉が勢いよく開いた。
「ピーター!」
聞き慣れた声が響き、僕たちが振り返ると、
「スタークさん?」
ピーターが目を丸くした。トニーさんが、赤と金のアイアンマンスーツを纏ったまま、早足でこちらへ近づいてくる。
「スタークさん、どうして――」
ピーターが言い終えるより早く、スーツが展開され、トニーさんがアーマーから降りる。そのままピーターの前まで歩いていき、抱きしめた。
「…………え?」
ピーターが固まる。トニーさんは何も言わず、ただ、ピーターを強く抱きしめている。
「ちょ、スタークさん!? 痛い! お腹! お腹痛いです!」
「……悪かった。」
「え?」
ピーターの動きが止まった。
「本当に、悪かった。」
いつもの軽口も、冗談もない。
「僕がもっと警戒していればよかった。」
「スタークさん……?」
「君に怖い思いをさせた。」
ピーターが困惑した表情を浮かべる。ジェイソンによって悪夢の記憶そのものを消されているピーターには、捕まってからの記憶がほとんど残っていない。
「いや、僕……あんまり覚えてなくて……。」
「それでもだ。」
トニーさんはピーターを離さなかった。
「すまなかった。」
僕はその姿を見ながら、ふと、思い出す。
そうか。トニーさんも昔、テロリストに捕まったことがある。自分が捕らえられ、命を脅かされ、逃げることもできない状況に置かれた経験がある。だからこそ、ピーターが誘拐されたと知ってから、ずっと普段とは違っていたのかもしれない。
ピーターはしばらく困ったように両手を宙へ浮かせていたが、
「……僕、大丈夫ですよ。」
小さくそう言って、トニーさんの背中へ手を回した。
「ちゃんと生きてますから。」
「……ああ。」
「だから……その……。」
ピーターが僅かに顔を歪める。
「本当にお腹痛いんで、そろそろ離してもらえると……。」
トニーさんがゆっくりピーターから離れ、そして僕を見る。
嫌な予感がする。
「クロオ。ピーターの腹は?」
「…………救出活動に伴う不可抗力です。」
「殴ったのか?」
「……はい。」
ピーターが僕を指差す。
「すごい勢いで殴ったらしいです!」
「洗脳中のピーターが物凄く強かったんですよ!」
トニーさんが額を押さえ、その様子を見ていた真魚が、小さく笑う。そして、
「戻りましょうか。」
その一言に、僕たちは顔を上げた。
戦闘は終わり、子供たちは救出された。ピーターも無事だった。長かった一日が、ようやく終わろうとしていた。
ーーーーー
後始末についてはフューリーたちが引き受けてくれることになり、僕たちは一足先にピーターの家へ戻ることになった。
スコットさんは、救出した子供たちに妙に懐かれてしまったらしく、そのまま病院まで付き添うことになった。そして、なぜかストレンジさんまで一緒である。
後で聞いた話では、
「どうして私まで……。」
と呟きながら子供たちに囲まれていたストレンジさんの顔は、心底げんなりしていたらしい。まあ、空中に火花を散らしてポータルを開く人なんて、子供からすれば気になって仕方がないだろう。
ついでに、ピーターの腹はアガモットの目や魔術増し増しの治療により一応完治済みである。本人は、まだ違和感が、とか言っているが。
ピーターの家へ戻ると、真っ先にメイさんが駆け寄ってきた。
「ピーター!」
「メイ叔母さん――」
言い終えるより早く、メイさんがピーターを抱きしめる。
「……よかった。本当に……よかった……。」
「メイ叔母さん……。」
ピーターは少し困ったようにしながら、それでもメイさんの背中へ腕を回した。
「心配かけてごめん。」
「本当よ……!」
目元には涙が浮かんでいる。少し離れたところでは、ハッピーさんがトニーさんと何かを話していた。サラは真っ先にジーンの様子を確認しに向かい、ネッドもピーターの無事を確認すると、安心したように笑った。
そんな中、ピーターが部屋の端に立っているミシェルに気づく。
「あ、ミシェル! ミシェルが皆に知らせてくれたんだよね?」
ピーターが笑顔を向ける。
「ありがとう!」
「……どういたしまして。」
ミシェルはいつものように淡々と返した後、部屋の中を見回した。
アイアンマンがいて、魔術師がいる。超能力者もいる。正直見ていただけではあるが、誘拐事件の救出作戦にまで巻き込まれた。
「おかげですっごい貴重な体験をさせてもらったよ。」
「……なんかごめん。」
そんなやり取りを最後に、長かった一日は終わっていった。夜になる頃には、ミシェルとネッドもそれぞれ帰宅、ジーンは結局一度も起きなかった。
ピーターも相当疲れていたのだろう。簡単な検査、アイアンマンスーツによるスキャンを受け、問題がないと分かると、ベッドへ入ってすぐに眠ってしまった。
サラと真魚も、今日は早めに休むらしい。そして僕は、
「本当に行くのか?」
トニーさんの問いに頷いて返し、ゴウラムに乗り、僕とトニーさん、そして火のエルはアベンジャーズ基地へ向かった。
ーーーーー
基地に到着すると、待っていたフューリーは僕の姿を見るなり露骨に眉間へ皺を寄せた。
「トニー。なぜ連れてきた。」
「本人が来ると言って聞かなかった。」
フューリーの視線が僕へ向く。
「黒雄、お前も今日は相当戦っている。ピーターも無事だったんだ。今夜くらい休め。」
「分かってます。」
僕はそう答えながらも、その場を動かなかった。
「でも、今回の事件がどう終わったのか。その結末を、僕は知るべきだと思って来ました。」
数秒、沈黙が続く。フューリーは僕を見つめた後、大きく息を吐いた。
「……頑固なところまで、大人のヒーローらしくなってきたな。」
そう言って端末を操作する。大型モニターに、今回の事件に関係した人物たちの情報が表示された。
「まず、エイドリアン・トゥームス、クエンティン・ベック。両名とも確保した。」
二人の顔写真に『拘束済』の文字が表示される。
「逃亡の可能性を考慮し、現在は厳重な監視下に置いている。ヒドラとの関係、今回の誘拐事件への関与についてもこれから徹底的に調べる。」
続いて画面が切り替わり、救出された子供たちの情報が映る。
「地下施設に囚われていた子供たちは全員救出。衰弱や軽度の負傷が見られる者はいるが、現時点で命に関わる状態の者はいない。」
僕は小さく息を吐いた。分かっていたことではあるが、それでも、改めて全員無事だと聞けば安心する。
「G4を着用させられていた連中も同様だ。」
フューリーが別の資料を表示する。
「三人とも負傷はしているが、命に別状はない。」
「……サラ、結構派手にやったんですね。」
「一人は焼かれ、一人は床に叩きつけられ、一人は頭から床に突っ込んだそうだが、医療班の報告では全員問題ないらしい。新型G4の防御性能は優秀なようだ。それに、超能力中心で戦ったのが幸いし、G4操作による後遺症なども今のところは確認されていない。」
心配していた部分は大丈夫、と説明され、僕は安堵の息を吐く。そして、次に表示されたのはジェイソン・ストライカー。
「ジェイソンについては?」
「今のところは拘束させてもらっている。」
「……大丈夫なんですか?」
フューリーは悩み顔で、
「今回、奴は最終的にこちらへ協力した。ピーターの洗脳も自ら解除している。だからといって全面的に信用するつもりはない。必要なら、お前の封印エネルギーを使う手もある。」
「ジェイソンのテレパシーを封じるためにですか?」
「ああ。奴のテレパシーが危険だと判断した場合、能力そのものを封じられるなら選択肢になる。」
僕は少し考える。できるかどうかで言えば、おそらくできる。
「……本人とも話してからですね。」
「それでいい。」
フューリーもそれ以上は言わなかった。そして、モニターの表示が変わり、僕は、そこに映し出された人物を見て表情を固くした。
深海理沙。今回の事件を引き起こした中心人物。その顔写真の横には、一つの表示が出ていた。
『死亡確認』
「……死亡は確実、なんですよね。」
「ああ。」
フューリーの声が僅かに低くなり、トニーさんも黙ったままモニターを見つめている。
「モニタールームにて、他のヒドラ研究員によって射殺されていた。犯人は確保済み、動機はヒドラを裏切る発言をした離反者への粛清、ということらしい。」
フューリーが映像を切り替える。
「深海はこの騒動後にはヒドラを離反、次はダメージ・コントロール局に自分を売り込んでいたそうだ。」
次々と監視映像が表示されていく。
「ヒドラの情報、G4や超能力者たちについての研究成果。今のダメージ・コントロール局なら自分を高く評価する、と理解していたんだろう。」
僕は黙って聞く。
「だが、最終的に深海は、ヒドラ離反者として射殺された。」
部屋が静かになる。今回の事件で、何人もの子供たちを誘拐し、超能力者を兵器として扱い、ピーターを利用しようとした人物。
敵だった。間違いなく敵だった。
「……そうですか。」
口から出たのは、それだけだった。勝った、とは思わないし、嬉しいとも思わない。ただ一つの事件が、ようやく終わったのに、締まりの悪い感覚だけが残っていた。
フューリーがモニターを消す。
「これが、現時点での最終報告だ。」
僕は暗くなった画面を見つめる。
ーーーーー
モニターを消しても、黒雄はその場を動かなかった。暗くなった画面を、ただ黙って見つめている。
深海理沙。今回の事件を引き起こした中心人物の一人。子供を攫い、超能力者を兵器として利用し、ピーター・パーカーを誘拐した。その女が死んだ。
黒雄が殺したわけでも、救えなかったわけでもない。深海自身がヒドラを裏切ろうとし、その結果として粛清された。それだけの話だ。だが、
「……そうですか。」
黒雄の声を聞けば、納得していないことくらい分かる。いや、納得していないというより、どう受け止めればいいのか分からないのだろう。無理もない。どれだけ強かろうが、こいつはまだ若い。
いや、……若かった、と言うべきかもしれん。数年前なら、俺は間違いなく黒雄を子供として扱っていた。
実際、最初に会った頃は高校生だ。
それが今では、アベンジャーズの一員として世界規模の事件に関わり、神だの宇宙人だの魔術師だのを相手にし、今日に至っては誘拐された仲間を救うため、自ら敵地へ乗り込んでいる。
そして事件が終わった後、自分からここへ来た。今回の事件がどう終わったのか、その結末を知るために。
……ならば、俺もいつまでも子供に言い聞かせるような話をするべきではない。
「黒雄。今すぐ完全に割り切れ、とは言わん。世の中の事件なんてのは、何が目的だったのか分からない犯人や、終わり方に気持ち悪さが残るものがほとんどだ。今回みたいに主犯の死亡で事件が幕を閉じるケースなんか特にな。ただ、敵が死んだ。それを喜べないなら、それでいい。何も感じなくなる必要もない。」
むしろ、何も感じなくなる方が問題だ。死者を数字としてしか見なくなれば、いずれ守るべき人間まで数字として扱い始める。
「ただし、今日ここに来て、これからも地球を守る存在でいるつもりなら、一つ覚えておけ。」
黒雄の表情が僅かに引き締まる。
「全員を救えるとは思うな。」
黒雄が驚いた顔をするが、構わず続ける。
「お前がどれだけ強くなろうと関係ない。アルティメットだろうが、それ以上だろうがな。」
世界は広く、事件は同時に起きる。誰かを助けている間に、別の場所で誰かが死ぬこともある。正しいと思った判断が、最悪の結果に繋がることもある。俺は、それを嫌というほど見てきた。
「間に合わないこともある。判断を間違えることもある。お前の知らない場所で誰かが死ぬこともある。そのたびに全部を自分の責任にしていたら、お前はいつか潰れる。」
黒雄が僅かに視線を落とす。
「だが、忘れるな。今日、お前たちはピーター・パーカーを救った。地下にいた子供たちも全員救出した。G4に入れられていた三人も生きている。ヒドラの施設は潰し、トゥームスもベックも確保した。」
今回の作戦で救えた命は、一つや二つではない。
「救えなかった人間だけを見て、救った人間を忘れるな。」
黒雄は黙って俺の話を聞いている。
「そして逆に、救えなかった人間も忘れるな。」
その二つは矛盾しないのだ。成功だけを覚えていれば傲慢になる。失敗だけを覚えていれば潰れる。どちらかしか出来ない人間は、世界を守る人間には向いていないのだ。
「背負うことと、潰れることは違う。」
俺は黒雄を真っ直ぐ見る。
「背負ったまま次へ進め。それが、守る側に立ち続ける人間の仕事だ。」
しばらく沈黙が続いた。やがて黒雄が、小さく頷く。
「……はい。」
理解したかどうかは知らん。今すぐ理解する必要もない。こういうものは、経験していく中で嫌でも分かるようになる。できれば、分からないままでいてほしかったが、そういうわけにもいかんらしい。
「さて。」
俺は端末を操作する。感傷に浸る時間はここまでだ。
「俺からのアドバイスは終わりだ。報告がまだ残っている。」
「まだあるんですか?」
黒雄が露骨に嫌そうな顔をした。
「安心しろ。これからこういった会議に出るなら、こんなのばかりだ。」
「安心できる要素がない!?」
「ジェイソン・ストライカーからだ。」
黒雄の叫びを無視し、画面に供述記録を表示する。
「奴がピーターの精神へ干渉していた最中、異常を感じたらしい。」
「異常?」
「ああ。ピーターの脳波が急激に跳ね上がった瞬間、何か大きな力が一瞬だけピーターに干渉したそうだ。」
横ではトニーの表情が変わった。
「ジェイソン以外のテレパスがピーターに干渉したのか?」
「不明だ。」
「ジーンじゃないんですか?」
「それも断定できん。しかし、ストライカー本人の感覚では、これまでピーターに干渉していたジーンとは別物だった可能性が高いらしい。」
黒雄が腕を組んで考え出した。
「……敵ですか?」
「それも分からん。ただし、ストライカーは悪意のあるものには感じなかったと言っている。」
「ピーターを助けた?」
「いや、感覚としては覗き見られている感じだったらしい。」
俺としては、正体不明の力がピーターの精神に接触した、という時点で十分すぎるほど警戒対象だ。敵意がないことと、安全であることは同義ではない。
「調査は続ける。ピーター本人には今のところ自覚はないようだがな。」
「分かりました。」
そこで、それまで黙っていた火のエルが口を開いた。
「なら、俺からも報告があるぜ。」
……嫌な予感がした。最近、こいつや闇の力からの『報告』はヤバい案件しかないのだ。
「ジーン・グレイについてだ。」
「ジーン?……まさか。」
黒雄が心当たりがありそうな顔をしているが、火のエルが続ける。
「あの子の内側に、ある力が存在していることが確認できた。」
俺は火のエルを見る。
「超能力とは別の、ということか?」
「ああ。力の名前はフェニックス・フォースというんだが、」
知らんな。トニーを見ると、同様に知らんらしい。
「宇宙規模の力だ。」
「……説明になっていないぞ。」
トニーの返しに、火のエルは少し考えた後、黒雄へ視線を向けた。
「じゃあ、分かりやすく説明してやるよ。」
なぜだろう。さらに嫌な予感がした。
「黒雄がアルティメットで一対一の戦いを挑んだとして、フルパワーのフェニックス・フォースが相手の場合、……普通に負ける可能性がある。」
俺とトニーは黙ってしまう。黒雄だけが、
「まあ、フェニックス・フォースが相手だとアッチに分があるんじゃないかな? 相性は悪くないと思うんですけど。」
と、妙に軽い反応をしている。待て、今、何と言った? こいつはアルティメット状態で暴走したら、国家どころか文明単位で、現状は地球とアスガルドの全戦力で対応しなければならん存在だぞ?
その黒雄と正面から戦って、普通に勝ち得る? 十二歳の少女の中に、そんなものが入っている?
「僕、詳しくはないですけど、そんなに強いんですか?」
「強い、って言葉だけで表現するには不十分だからなぁ。」
火のエルの答えに、俺はトニーを見て、トニーも俺を見る。そして、ほぼ同時に天井を仰いだ。
勘弁してくれ。
宇宙人、アスガルドの神、エルロード、地球の神的存在、魔術師、超能力者、インフィニティ・ストーン、そこに今度は、フェニックス・フォースとやらまで追加された。
「……大丈夫ですか?」
黒雄の声が聞こえ、大丈夫に見えるのか? そう言い返そうとした時、
「心配するな。」
火のエルが先に答えた。
「あれがあいつらの、今一番大事な仕事だ。」
「天を仰ぐことが?」
「ああ。」
「「違う!!」」
俺とトニーの声が、綺麗に重なった。
ーーーーー
……やあ! 再び僕、ピーター・パーカーの時間だよ。今回の事件で、僕がしたことは何だったのか、改めて考えてみると、驚くほど少ない。
G4と戦った。以上。……いや、本当にそれだけなのだ。
G4と戦って、捕まって、そこから先はほとんど記憶がない。次に気がついた時には地下施設の壁際で寝かされていて、目の前にはクロオさんたちがいて、事件はほとんど終わっていた。あと、お腹がメチャクチャ痛かった。
後から聞いた話では、僕が気を失っている間、とんでもない人数が動いてくれていたらしい。クロオさん、スタークさん、フューリーさん、真魚さん、サラ、スコットさん。それにナターシャさんをはじめとしたウィドウの人たちや、フューリーさんが集めた部隊の人たち。ストレンジさんや火のエルさんもか。
僕一人を助けるため、というわけではなく、地下施設には大勢の子供たちが囚われていたのだから、救出作戦そのものは絶対に必要だった。それでも、みんなが僕を助けるために必死になってくれていたことは分かる。
「……敵の人たち、怖いものなしにもほどがない気がする。」
思わずそんなことを呟いてしまったが、よく考えてほしい。
クウガ、アギト、アイアンマン、アントマン、魔術師、超能力者、凄腕諜報員、特殊部隊にエルロード。……そんな人たちをまとめて敵に回してまで、僕を誘拐したのである。
今さらながら、とんでもないことをしたな、あの人たち。そして、僕を助けるために動いてくれたのはヒーローだけではない。
ミシェルは僕が捕まったことを知らせるために走り回ってくれた。そしてネッドに至っては、
「僕、ポータル開いたんだよ!」
最初に聞いた時、本気で意味が分からなかった。なんでも、僕が捕まっていた地下施設まで直接ポータルを繋いだらしい。ぶっつけ本番で。
ネッドが魔術かぁ。いや、ネッドの能力を疑っているわけじゃないし、自衛の手段として習う選択肢もあったみたいだけど。
ただ、その話を聞いた時、隣にいたサラがネッドを見る目が少し怖かった。あれは深く聞かない方がいいやつだ。そして、
「……ジーン。」
今回、僕を助けてくれた中で、一番無茶をしたのは、ジーンらしい。
僕は覚えておらず、敵に捕まっていた時の記憶は、かなり曖昧になっているけど、聞いた話では、ジーンはずっと僕の精神を守ってくれていたそうだ。
ジェイソン・ストライカーという強力なテレパスによって、僕は悪夢の中へ閉じ込められていた。その中で心が壊れないように、僕が僕でいられるように、何時間も、ずっと。
だから、朝になってジーンが起きてきた時、僕はちゃんとお礼を言おうと思った。
「ジーン。」
「……なに?」
「本当にありがとう。僕のこと、ずっと守ってくれてたんでしょ?」
突然、ジーンの顔が真っ赤になった。
「え?」
「な、何でもない!」
「いや、でも――」
「何でもないから!」
ものすごい勢いで顔を逸らされた。……僕、何かした? 怒らせるようなことを言っただろうか?
それでも別に避けられているわけではなく、その後は普通に一緒に朝食を食べた。ただ、いつもより口数は少なかった気がする。朝食を終えると、ジーンはかなり早めに支度を済ませ、
「お姉ちゃん、行こう。」
「もう?」
「行くの。」
「まだ時間あるけど。」
「行くの!」
何故か強引だった。サラはため息を吐きながらもスリング・リングを構え、ポータルを開く。向こう側に見えるのは光のエルたちが暮らす村だ。
昨日、限界まで能力を使ったジーンの身体に異常がないか、今日は向こうで詳しく調べてもらうらしい。
「じゃあピーター、メイ。行ってくるね。」
「あ、うん。気をつけて。」
「いってらっしゃい、ジーン。」
「うん!」
ジーンは僕の顔を一瞬見た後、また少し頬を赤くして、逃げるようにポータルへ飛び込んでいった。本当に何なんだろう。
僕が首を傾げていると、隣にいたサラがポータルの向こうへ消えた妹を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……ピーターに義姉って呼ばれる日が来るのかな。」
「え?」
僕はサラを見る。そして、少し考えてから、
「いつも姉貴面してるじゃない。」
サラが盛大なため息を吐き、ものすごく呆れた顔をされた。
「……行ってきます。」
「え? 何?」
サラは答えず、そのままポータルを通っていく。直後、火花の輪が閉じた。何なんだ? 僕、何か変なこと言った? 困惑しながら振り返ると、
サラと全く同じ顔をしていたメイ叔母さんがいた。
「……はぁ。」
ため息までつかれた。
「え? 僕が悪いの?」
答えは返ってこなかった。
ーーーーー
それから僕は、スタークさんに連れられてアベンジャーズ基地へ向かった。午前中は検査で、問題がなければ、午後から学校へ行っていいらしい。誘拐された翌日に学校へ行くのもどうかと思うけど、
『家で一人で悩んでるより、日常に戻った方がいい』
というのがメイ叔母さんとスタークさんの共通意見だった。そして、検査を始めてすぐ、僕の身体に、とんでもない変化が起きていることが判明した。
「ピーター、感覚を広げてみろ。」
「感覚を広げる?」
「意識して、自分の中に抑え込んでいるものを外す感じだ。」
「……よく分からないですけど、やってみますね。」
目を閉じ、集中する。すると、世界が変わった。
「うわっ!?」
思わず耳を塞いだ。音が大きい。いや、大きいなんてものじゃない。基地の中を歩く人の足音、機械の駆動音、遠くで交わされている会話。換気設備から流れる空気。それらが一斉に耳へ飛び込んでくる。
「スタークさん! うるさ――」
右手を動かした瞬間だった。
シュッ!
「うわぁ!?」
手首から白い糸が飛び出した。スタークさんと二人で、壁に張りついた糸を見る。
「……今、僕、何も着けてませんよね?」
「ああ。」
恐る恐る自分の手首を見ると、ウェブシューターはない。
「……僕から出ました?」
「ああ。」
「糸が? 僕の身体から?」
「そうだ。」
ちょっと待って。それはもう、蜘蛛男という比喩じゃなくなってない? 詳しく調べた結果、僕の身体は、捕まっている間に異常な変化を起こしていたらしい。
筋力、反射神経、感覚器官、回復力、そしてスパイダーセンス。ほぼ全ての能力が、それまでとは比較にならないほど強化されている。生物学は僕の専門じゃないけれど、
「……これ、普通じゃないですよね?」
「気づいたか。偉いぞ。」
「馬鹿にしてます?」
どうやら、単なる成長や能力の発達という範囲ではないらしい。ただ、面白いことに、今の僕は常に強化された状態になっているわけではなかった。
「君自身のスパイダーセンスが、急激に強化された感覚を危険と判断しているらしい。」
スタークさんが検査結果を見ながら説明する。
「情報量が多すぎる。聴覚一つ取っても、常時あの状態なら日常生活なんてできない。」
「……確かに。」
「だから無意識にリミッターをかけている。必要な時だけ解除できるようにな。」
つまり。意識しなければ、今まで通り。意識すれば、新しい力を使える。
「……何か、クロオさんのライジング化みたいですね。」
ちょっと格好いい。もちろん口には出さなかったけど。
「それで、僕ってどのくらい強くなったんです?」
「まだ分からんが、完全に制御できるようになれば、」
少し間を置いて、僕を見る。
「黒雄に匹敵する戦力になる可能性はある。」
思わず声が裏返った。
「僕が!?」
「あくまで可能性だ。」
「アルティメット級ですか!?」
スタークさんが真顔になる。
「いや、あれは別物だ。」
ですよね。でも、なんか悲しい。
「ちなみに聞きたいんですけど、僕、洗脳されてた時にクロオさんと戦ったんですよね?」
「ああ。」
「どうなりました?」
「アメイジングに善戦して、ライジングアルティメットに一発殴られて終わったらしい。」
僕は自分のお腹を見る。昨日はずっと痛かった場所。
「……だからお腹痛かったのか。」
妙に納得してしまった。
ーーーーー
検査は意外なほどあっさり終わった。新しく強化された能力については、これから詳しく調べていく必要がある。
ただ、現時点では暴走する危険もなく、僕が意識しなければ以前とほぼ同じ状態で生活できるらしい。スタークさんからは、
「しばらく勝手に全開にするなよ。」
と念を押され、僕はハッピーの車で学校へ送ってもらった。教室に入ると、すぐにネッドを見つけた。
「ネッド。」
「ピーター!」
ものすごい勢いで寄ってくる。
「大丈夫!?」
「うん。検査も問題なし。」
「よかったぁ……。」
心底安心した様子のネッドに、僕は改めて頭を下げた。
「改めてだけど。昨日、本当にありがとう。魔術まで使ってくれたんでしょ?」
ネッドの顔が一気に明るくなる。
「そうなんだよ! 僕、魔術使えたんだ!」
そこから五分くらい、ネッドの魔術自慢が始まったけど、周りの目がイタイヤツを見る目になってるから声抑えようか。……どうやら今度、少しだけ正式に魔術を教えてもらえるらしい。
「じゃあ、ネッドも魔術師になるの?」
「いや、それは分からないけど……でも魔術は習ってみたい!」
「じゃあ、もう椅子の人卒業?」
「それは別! 僕は魔術を覚えてもピーターの椅子の人を辞めるつもりはないよ!」
「そこ誇るところなの?」
「当然!」
……ネッドらしい。
「サラに習うの?」
質問すると、何故か急に挙動不審になった。
「いや、まあ、その、誰に教えてもらうかは、まだ、うん……。」
サラが好みど真ん中発言してたけど、やっぱり何かあったのかな? ……まあいいか。次にミシェルにも改めてお礼を伝えた。
「ミシェル。今回は本当にありがとう。」
「……別に。」
「僕が捕まったこと、みんなに知らせてくれたんでしょ?」
「逃がしてもらったんだから、知らせるぐらいしなきゃ、って思ったから。」
そう言いながら、ミシェルは僕から視線を逸らした。
「でも、本当に助かった。」
「……なら、今度何か奢って。高いやつ。」
「任せて。インターンだけど、給料もらってるから。」
「……いや、冗談だからね。」
そうなのか。
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そして放課後。僕は普通に学力コンテストの練習へ参加した。誘拐された翌日だろうが何だろうが、コンテストの日程は待ってくれない。
いつも通り問題を解き、ネッドと意見を出し合い、ミシェルに突っ込まれ、リズが全体をまとめる。昨日までの出来事が嘘みたいだった。練習が終わり、ネッドと一緒に帰っていると、
「ねえ、ピーター。」
ミシェルが声をかけてきて、少しだけ笑いながら言った。
「今度はちゃんと友達として、あんたの家に遊びに行っていい?」
「え?」
「昨日は事件だったから。ノーカウント。」
「ああ、うん。もちろん。」
「ジーンやサラ、メイさんとも仲良くなりたいし、真魚さんとももっと話してみたい。」
「うん。皆、喜ぶと思うよ。」
「じゃあ決まり。」
そのやり取りを見ていたネッドが、突然、
「何か二人、いい雰囲気だね。」
「え!?」
思わず声が出て慌てるが、
「いや、違――」
「ネッド。」
ミシェルが僕より先に口を開く。
「ピーターには守ってくれるお姫様がいるんだから、そういうこと言わないの。」
僕はミシェルを見る。
「何それ?」
「そのままの意味。」
ミシェルが楽しそうに笑う。
「あと数年もすれば無視できない存在になるから、楽しみにしておきな。」
「どういうこと?」
「自分で考えて。」
「いや、全然分からないんだけど。」
「じゃ、今日は帰るね。」
「え、ちょっと!」
ミシェルは片手を上げ、そのまま足早に去っていった。残された僕はネッドを見る。
「……どういうこと?」
「僕に聞かれても。」
「お姫様って誰?」
「分からない。」
僕とネッドは同時に首を傾げた。結局、答えは出なかった。……赤毛の少女がチラついたのは秘密だ。
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地球から遥か遠く離れた宇宙の彼方。人類が未だ辿り着いたことすらない、星々の狭間。そこに、二つの存在があった。
一つは、燃え盛る炎にも似た、巨大な赤いエネルギー。
恒星など比較にならないほど強力なエネルギーでありながら、それは生命のように脈動し、宇宙空間を静かに漂っている。その名は、フェニックス・フォース。
創造と破壊、死と再生。宇宙に存在する生命そのものと深く結びついた、超宇宙的な力。
そして、その正面には、もう一つの光が存在していた。白く、眩しく、しかし、不思議なほど穏やかな光。
赤いエネルギーが揺らめく。それに応じるように、白い光もまた揺れ動いた。
声はなく、言葉もない。だが、もしこの光景を見ることのできる存在がいたならば、こう思ったかもしれない。
まるで、二つの宇宙的存在が、何かを相談しているようだ、と。
フェニックス・フォースと向かい合う白き光にも、名があった。
宇宙に危機が迫った時、必要とされた者へ力を与え、キャプテン・ユニバースという存在を生み出す、神秘の力。
その名は、エニグマ・フォース。二つの光が、再び揺らめく。その遥か彼方には、青い星、地球がある。
フェニックス・フォースの光が、一瞬だけ強く輝き、続いて、エニグマ・フォースもまた輝きを増した。そして二つの宇宙的存在は、まるで何かを見定めるかのように、静かに、地球へと意識を向けていた。
後書きに書いていたものを活動報告に移しました。