日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
短いです。
カマー・タージ
ピーター救出作戦をきっかけに、ネッドは本格的に魔術を学び始めていた。当初の予定通りサラが教師役を担当して始まったのだが、
「まず大切なのは、魔術を難しく考えすぎないこと。最初から完璧な魔法陣を作ろうとしなくていいからね。」
「はい、先生!」
「先生はやめて。」
最初は、そんなマンツーマンの講座だったのだ。
ネッドがポータルを開けた時に何を感じたのかを一つ一つ確認し、上手く言葉にできない部分はサラが補足する。できなければ原因を一緒に考え、少しでも成功すればきちんと褒める。
サラの場合、簡単な指導にもエンシェント・ワンから直接教えを受けた、または継承した知識が加わる。
元々の面倒見の良さからくる初心者に寄り添った丁寧な説明と、エンシェント・ワン由来の高度な魔術知識が合わさった結果、
「今日は空間魔術の基礎から始めます。初めての人は前の方へどうぞ。」
「「「よろしくお願いします!」」」
いつの間にか、完全な講義になっていた。最初はネッド一人だったが、次に二人増え、さらに五人増え、気が付けば、初心者の修行僧たちがサラの周囲に集まり、ちょっとした教室が出来上がっていたのである。
「……僕だけの先生だったのに。」
部屋の隅でネッドが寂しそうに呟き、
「まあまあ。」
隣に座っていたジーンが慰める。
「お姉ちゃん、昔から面倒見が良くて、困ってる人を見ると放っておけないの。」
「分かってるけどさぁ……。」
「それにネッドは一番弟子でしょ?」
「……一番弟子。」
少し機嫌が直ったらしい。そんな二人を横目に、エンシェント・ワンは楽しそうにサラの講義を眺めていた。やがて、その視線が隣に立つストレンジへ向く。
「見事ですね。」
「そうだな。」
「初心者にも分かりやすく、相手の理解度に合わせて説明する。質問にも丁寧に答え、決して置いていかない。」
「……何が言いたい?」
エンシェント・ワンは微笑んだ。
「貴方にあれは無理ですね。」
ストレンジの眉が動いた。
「そんなことはない。」
「そうですか。」
「できる。」
妙なところで負けず嫌いを発揮したストレンジは、後日、本当に講座を開いた。内容は、高度空間魔術における多重術式の並列展開と次元間干渉について。
開始十分で初心者が脱落した。二十分で中級者も脱落した。三十分後には、
「ここまでは当然理解しているものとして、次に進む。」
残っていたのは、サラ、ウォン、モルド、カエシリウスの以上、四名だった。しかも全員が普通に話についてきているため、ストレンジはますます説明を省略する。結果、
「……これは講義ではなく研究会だな。」
ウォンの一言によって、ストレンジの初心者向け魔術講座は初回をもって廃講となった。その様子を遠くから眺めていたエンシェント・ワンは、静かにお茶を飲む。
「だから言ったでしょう。」
「聞こえているぞ。」
ちなみにその翌日。サラの講義には、さらに三人の受講希望者が増え、ネッドは少しだけ複雑そうな顔をした。
ーーーーー
光のエルの村
「はい。それじゃあ、次の問題ね。」
黒板の前に立った真魚が、チョークを走らせる。そこに書かれたのは、ごく普通の算数の問題だった。
「リンゴが十二個あります。それを三人で同じ数ずつ分けたら、一人何個になるでしょう?」
「はい!」
「はい!」
「分かった!」
一斉に手が挙がる。
「じゃあ……そこの君!」
「四個!」
「正解!」
真魚が笑顔で丸を描く。
「じゃあ次。十二個のリンゴを三人で分けます。ただ、一人だけ六個もらうことになりました。残りの二人が同じ数ずつもらうとしたら、一人何個になるでしょう?」
「えー!」
「難しい!」
「さっきと違う!」
「そう。だから考えるの。あまりも出るからね。」
子供たちから不満の声が上がるが、真魚は楽しそうに笑っている。そして、すぐに答えを教えることはしない。
「分からない人は、まず絵にしてみよっか。リンゴを十二個描いて、」
そう言って黒板に丸を十二個描き始める。
「こういう問題はね、頭の中だけで考えなくてもいいんだよ。分からなかったら絵にしてもいいし、指を使ってもいい。答えにたどり着く方法は一つじゃないからね。」
子供たちが一斉にノートへ丸を描き始める。しばらくすると、子供の一人が声を上げた。
「あ! 分かった!」
「本当? じゃあ説明してみて。」
そんな光景を、教室代わりとして使われている建物の入口から、僕、十文字黒雄と火のエルは並んで眺めていた。
しばらく無言で授業を見ていたが、真魚が子供の質問に答え、別の子供が分からないと言えば、その子の机まで行って一緒に問題を考える。間違えても怒らず、正解すれば褒める。騒ぎ始めた子供には、
「こら、今はお勉強の時間だよ」
と注意する。すると、その子供も素直に席へ戻った。僕は腕を組んだ。
「……普通だ。」
隣で火のエルも頷く。
「普通だな。」
「なんかもっと暴れまくる先生を想像してました。」
「奇遇だな。俺もだ。」
何しろ真魚である。戦闘になれば大量の光の魔術を同時展開し、敵へ叩き込み、ダーク・ディメンションの支配者であったドルマムゥとの戦いでは、カマー・タージの魔術師たちが目を疑うような魔術による飽和攻撃を披露していた。それを知っている身としては、
『はい、ここテストに出るよ!』
などと言いながら、空中に百個くらい魔法陣を展開する授業をどこかで想像していた。だが、現実は違った。算数もものすごく普通に、かつ丁寧に教えていた。しかも、たぶん教え方がとても上手な気がする。
「……意外ですよね。」
「ああ。もっとこう……力技で教えるのかと思ってたよ。」
「ですよね。」
「何を言っているのだ、お前らは。」
背後から声が聞こえ、振り返ると、水のエルが人間体の女性の姿で立っていた。そして、教室の中へ視線を向け、
「最初はそれほど人口が多くなかったこの村だが、随分と大きくなってきたからな。教える役は多ければ多い方がいい。」
確かに。僕が最初にここを訪れた頃と比べると、村の人口は明らかに増えている。元々ここで暮らしているのは能力に目覚め、普通の社会で生活することが難しくなった人たちだ。
そして今回、ピーターの救出作戦で保護された子供たちやG4を装着させられていた少年少女も生活を始めた。子供の数が増えれば、当然必要になるものも増える。
住居、食事、衣服、そして教育だ。
「真魚は大学もあり、魔術の勉強も続けている。毎日というわけにはいかんが、時間がある時には子供たちへ勉強を教えてもらっている。」
「大学と魔術の勉強をしながらですか?」
「本人がやりたいと言ったのだ。」
「真魚らしいですね。」
僕が笑うと、水のエルは頷き、
「それに、あいつにはサイコメトリーがあるのでな。教科書に触れれば、そこに込められた情報だけではなく、その内容や本質まで読み取れる。知識という点だけなら問題ない。」
「相変わらず便利だな、サイコメトリー。」
火のエルが呟き、僕も同意する。ただし、と水のエルは続ける。
「もっとも、知識があることと、教えるのが上手いことは別だ。」
再び教室を見ると、真魚が一人の子供のノートを覗き込み、
「ここまでは合ってるよ。間違えたのはここだけ。だから、ここからもう一回やってみよっか。」
凄い丁寧だ。
「授業に関しては本人の素質だよ。」
水のエルの声が少し柔らかくなった。
「子供たちからも、分かりやすい、楽しいと評判だ。かなり人気があるぞ。」
恋人の意外な一面を見て、僕は素直に感心した。僕自身、村の子供たちの相手は何度もしてきたし、一緒に遊んだことも何度もある。
能力の使い方を学ぶ際に、危険な力を持つ子供には僕の封印エネルギーが役立つことは多い。だけど、まさか真魚が先生として算数や国語を、しかも授業形式で教え始めていたとは思わなかった。
教室の中では、算数が終わったらしい。真魚が黒板を消している。
「じゃあ次、国語の時間だからね。」
「えー!」
「算数より国語の方が長い!」
「文句言わないの!」
普通だ。やっぱり普通の先生だ。
「……なんか新鮮だな。」
思わず呟いてしまう。
火のエルが水のエルを見る。
「そういや、お前も授業してるのか?」
「私は主に中学生以上の子供を担当している。」
まさかの返答に火のエルが目を見開く。
「何を驚いている?」
「いや、だってお前……いや、なんでもない。」
火のエルが目を逸らした。賢明な判断だと思う。
「私はちゃんと大学にも通っている。今年度中には教員免許も取得できそうだ。」
「マジかよ。」
火のエルが完全に素の声を出しているが、僕も驚いた。
「大学通ってたんですか?」
「通っているが?」
知らなかった。
「地の奴も同様だぞ」
「マジか!?」
今度はさらに大きな声だった。教室の中から何人かの子供がこちらを見る。真魚も僕たちに気付いたらしく、
「黒雄たちうるさい。静かにして!」
「すみません!」
僕と火のエルが同時に頭を下げた。水のエルだけは平然としていて、少し場所を移動してから、水のエルは話を続けた。
「光の奴とも相談しているのだが、そろそろ本格的に『学校』という形にする方向で考えている。」
「学校ですか……。」
改めて周囲を見るが、言われてみれば、不思議なことではない。ここにはすでに相当な数の子供たちが暮らしている。今後、さらに増える可能性だってある。
「子供だけではない。大人たちにも、それぞれ役割を持ってもらっている。」
水のエルが指を折る。
「教師役を希望する者もいれば、村の護衛をしている者もいる。食事を作る者、建物を造る者、家具や道具を作る者。畑仕事をする者もいる。基本的には本人が得意なこと、好きなことをやってもらっている。」
なるほど。もはや単なる避難場所ではない。一つの共同体として成立し始めているんだな。
「もちろん、ここに住み続けることを強制しているわけではない。外の世界へ戻りたい者には、その許可も出している。」
「戻る人もいるんですか?」
「いるぞ。家族のもとへ戻る者もいるし、外で仕事を始めた者もいる。」
そこで水のエルは少し間を置いた。
「だが、結局ここに落ち着く者が多いな。」
その理由は、僕にも分かった。
「力を隠さなくていいから……ですか?」
「そうだな。超能力者にアギト、ギルス。そして、それ以外にも普通の社会では異質とされる力を持つ者たちは外の世界で暮らせないわけではない。だが、力を隠す必要があるし、周囲から恐れられる可能性もある。ここなら、それがない。」
水のエルが窓から改めて村を確認する。
「子供たちは能力を隠すことなく走り回り、大人たちもそれを普通の光景として受け入れている。学校が完成すれば、本当に一つの小さな町のようになるだろう。」
僕は火のエルを見ると、火のエルも僕を見ていた。おそらく、同じことを考えているのだろう。
――どんどん恵まれし子らの学園みたいになってない?
もちろん口には出さない。ところが、
「ああ、そういえば。」
水のエルが何かを思い出したように言った。
「どうしました?」
「あの方が最近お前のように妙なことを言っていてな。」
水のエルが火のエルを見ながら困った顔をしている。
「あの方って闇の力?」
「うむ。学校を作るという話をしたら、『ならば私は坊主にして車椅子にでも座るか』などと言っていたのだ。」
沈黙。
「何か心当たりがあるか?」
数秒前に考えていたことが、現実になりかけていた。
「止めるぞ」
「止めましょう」
僕たちは走った。
「おい、どこへ行く?」
「全力で止めてきます!」
「誰をだ?」
「闇の力を!」
「だから何故だ!?」
水のエルの声を背後に、僕と火のエルは全速力で村の奥へ向かった。最近、闇の力はふとした拍子に前世の記憶が蘇ることが増えているらしい。
その影響なのか、それとも単なる悪ふざけなのか。真相は分からない。
だが、少なくとも、坊主頭に車椅子の闇の力が、超能力者の子供たちを集めて学校を運営し始める未来だけは阻止しなければならない気がする。
なんというか縁起が悪い。
施設が吹き飛んだり、襲撃されたりする未来しか見えない。
ーーーーー
ついでに、
闇の力自身も、すでに子供たちへ授業を行っているらしい。担当は主に高校生くらいの年齢の子供たちで、水のエル曰く、
「基本的に何でも教えられるぞ。」
とのことだった。
元々、人間とは比較にならないほど長い時を生きている存在である上に、前世由来の知識まで混ざり始めているのだから、知識量だけなら反則に近い。
そして後日、
「……すみません。」
僕は一冊の大学の教科書を持って、闇の力のところを訪れていた。
「ここ、大学の講義で説明されたんですけど、いまいち分からなくて。」
「見せてみろ。」
数分後。
「――つまり、この部分を難しく考えすぎている。前提となる考え方はここだ。」
「ああ! そういうことか!」
めちゃくちゃ分かりやすかった。
以来、大学の講義でどうしても理解できないところがあると、僕が闇の力へ相談するようになったのは、また別の話である。