日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
ライダーが出ます。シレッとタグを増やしました。
「ヘイムダル!」
グングニルを握りしめ、私はその名を呼んだ。空を見上げれば、黄金の都を覆い隠さんばかりの艦隊が広がっている。
あり得ぬ。
ヘイムダルの眼がありながら、これほどの艦隊がアスガルドの目前まで気付かれずに接近するなど。
『ここに。』
「なぜ気付かなかった!?」
思わず声を荒らげる。ヘイムダルを責めたいわけではない。あの男が己の役目を疎かにするはずがないことなど、誰よりも知っている。だからこそ、恐ろしい。ヘイムダルにすら察知できぬ手段で、この軍勢はアスガルドへ侵入したのだ。
『申し訳ありません。ですが、陛下。あの艦隊から複数のインフィニティ・ストーンの反応を確認しました。』
「……なんだと?」
『ストーンの力によって生み出されたワームホールによる直接転移。それに加え、極めて強力な妨害作用が働いています。私の眼すら欺くほどの。』
その言葉だけで、事態の深刻さを理解するには十分だった。宇宙の根源に関わる力、インフィニティ・ストーン。一つだけでも、使い方次第では世界を揺るがしかねぬ代物だが、それを相手は複数所持している。
『そして陛下。あれはサノスの軍勢です。』
「サノス……。」
その名には覚えがある。いや、嫌というほど聞かされている。
「アレがクロオの言っていた奴らか!」
隣でソーが艦隊を睨みつける。
「そういうことらしいな。」
十文字黒雄。あの若者からサノスについて聞いた時、いずれ備える必要があるとは考えていた。だが、よりにもよって今か。ヘラの封印が弱まり、アスガルドの民を避難させている、この時に。偶然ならば、あまりにも運が悪すぎる。
「ロキ!」
「はい、父上。」
「宝物庫へ向かえ。テッセラクトとエーテルを確保しろ。」
ロキの顔から、普段の余裕が消えている。
「両方とも、ですか。」
「敵が複数のインフィニティ・ストーンを持っているのならば、狙いは明白だ。」
奴らはストーンを集めている。ならば、アスガルドが保有する二つを見逃すはずがない。
「テッセラクトの中にあるスペース・ストーンを使え。あれならば、一度に多くの民を避難させられる。」
ビフレストを確認するが、まだ民は残っている。老人も、子供もいる。戦えぬ者たちが大勢いる。一人でも多く、この場所から遠ざけねばならぬ。
「エーテルも奴らに渡すな。」
「承知しました。」
「ソー。お前は私と共に敵を食い止めるぞ。」
そう告げると、ソーは笑った。恐怖を誤魔化している笑みでも、戦いを楽しむための笑みでもない。
王命を全うしようとする戦士の笑みだ。
ムジョルニアとストームブレイカーを握る我が息子を見て、ほんの僅かに昔を思い出す。かつてのソーならば、何も考えず真っ先に敵陣へ突撃していただろう。
今回も結局、突撃するのだろうが、少なくとも、その前に周囲を見るようにはなった。
私の指示を聞き、走り出そうとしているロキを、
「ロキ!」
ソーが呼び止めた。
「なんです、兄上?」
「民を頼むぞ。」
ロキが一瞬だけ黙った。
「……兄上もお気をつけて。」
そして私たちへ振り返る。
「父上、母上。行って参ります。」
「ああ。」
走り去っていくロキの背中を見送る。いつからだろうな、あの子の背中を、これほど安心して見送れるようになったのは。昔ならばテッセラクトを持たせるなど、別の意味で心配になったものだ。
今は違う。任せられるのだ。ならば、私も私の役目を果たそう。
「フリッガ。民の避難指揮はそなたが取れ。」
「分かりました。」
迷いのない返事。長きにわたり私を支えてきた妻だ。これ以上の適任など存在せぬ。そして、その隣、
「ブリュンヒルデよ。」
「はい。」
かつて私が率いたヴァルキリー。多くの仲間をヘラとの戦いで失い、アスガルドを離れた戦士。その者が、再びここに立っている。
「妻を守ってくれ。」
私は頭を下げた。王としてではなく、一人の夫として。そんな私を見て、ブリュンヒルデが僅かに目を見開く。
「ヴァルキリーに復帰して早々、王妃を守る任とは……責任重大ですね。」
そして、剣を抜く。
「ですが、必ず全うしてみせます。」
「頼んだ。」
これでよい。あとは、戦うだけだ。グングニルを地面へ突き立てる。
「起きよ。」
神力を流し込み、黄金の光が床を走り、王宮の奥へと広がっていく。直後、重々しい音が響いた。巨大な扉が開き、暗闇の中で、一つ、また一つ、黄金の巨人たちの眼に光が灯る。対ヘラ用に用意された、量産型デストロイヤーが起動する。
「敵を迎撃せよ。」
アスガルド側が動き始めると、上空から、無数の光が降ってきた。攻撃か、と思ったが違う。光が地面へ到達すると、そこから異形の兵士たちが姿を現した。数え切れない敵が、王都の各地へ次々と転送されてくる。
「軍勢を直接送り込んできたか。」
敵ながら合理的だ。こちらは避難の最中で守るべき民が残っている。王都に兵を直接送り込めば、否応なく戦力を分散させられる。
「父上。」
ソーが一歩前へ出ると、全身から雷が溢れ出す。
「前線は私が。父上は全体の指揮をお願いします。」
私は息子を見る。昔ならば、自分が目立ちたいから、といった理由だったかもしれない。しかし、今はそれが最善だと信じ、私に進言してきている。
ロキ共々、アスガルドの未来を背負うに足る男になったな。
「……行け。」
「はい!」
雷鳴が轟き、ソーが飛び出す。空中でストームブレイカーを振りかぶり、
「アスガルドの民に――」
雷を集め、
「手を出すなッ!!」
凄まじい雷を敵軍へ落とした。数十の敵兵がまとめて吹き飛ばされる。その中心へソーが着地する。ムジョルニアが飛び、ストームブレイカーが振るわれ、雷が戦場を駆け抜ける。
「……強くなったな。」
思わず呟いてしまったが、感傷に浸っている暇はない。
「ヘイムダル。地球への通信は?」
『依然として妨害されています。十文字黒雄への連絡も試みていますが、届きません。』
やはりか。
「ビフレストは。」
『避難先の星への経路は確保できています。しかし、地球への移動だけが封じられています。』
「地球だけ……。」
そこまで聞いて、確信した。奴らは知っている。アスガルドと地球の友好関係を。地球に、アスガルドの援軍に来られると面倒な戦力がいることを。アスガルドに攻め込みながら、こちらの増援を封じた。
「厄介な……。」
偶然ではない。これは、周到に準備された襲撃だ。上空を見上げる。無数の艦船、そして、その中心にある巨大な船。
見えぬが、分かる。いるな、私ですら無視できぬほどの力を持つ者が。
「サノスか……。」
グングニルを握る手に力を込める。ヘラを迎え撃つために民を逃がしていたところへ、別の怪物が現れるとはな。つくづく運が悪い。だが、
「ここはアスガルドだ。」
我が国、我が民、我が家族がいる。ならば、王のすることなど決まっている。グングニルを掲げる。
「全軍、ソーに続け!」
『おおおおおおおおッ!!』
兵士たちの雄叫びが黄金の都を震わせる。デストロイヤーが進軍を開始し、アスガルドの戦士たちがその後へ続く。正面では、雷を纏ったソーが敵軍へ突撃していた。
サノス軍もまた、一斉に前進を開始する。そして、二つの軍勢が、激突した。
ーーーーー
雷鳴と共に敵陣へ降り立った瞬間、俺はストームブレイカーを横薙ぎに振るった。
「はああああッ!!」
刃から放たれた雷が地面を走り、押し寄せていた敵兵をまとめて吹き飛ばす。だが、敵は次から次へと押し寄せてくる。
アスガルドの兵ならば手こずるような敵ではないが、一体倒せば二体、二体倒せば十体。上空の戦艦からは絶え間なく兵士が転送され、黄金の都を埋め尽くそうとしていた。
「数だけは大したものだ!」
ムジョルニアを投げ、敵兵を数体まとめて薙ぎ倒した槌が弧を描いて戻ってくる。それを左手で掴むと同時に、右手のストームブレイカーを振り下ろした。直撃を受けた敵兵が地面へ叩きつけられる。
ならば、敵を薙ぎ払える俺が最前線に立ち、民が避難する時間を稼ぐ。……いや、なんなら戦艦を狙うべきか?
「ソー!」
思考を巡らせていると、聞き慣れた声が響いた。
「む?」
振り返るより先に、俺へ飛びかかろうとしていた敵兵の胸を一本の剣が貫く。
「遅くなったな!」
「ファンドラル!」
剣を引き抜き、いつものように笑っているファンドラル。その横では、巨大な斧を構えたヴォルスタッグが敵兵をまとめて薙ぎ払っていた。
「まったく、とんでもない数だな!」
「数なら多い方が楽しいだろう!」
「お前はそう言うと思ったぞ!」
さらに、飛来した矢が敵兵の額を正確に射抜く。ホーガンだ。
「ソー。話は後だ。」
「ああ!」
長きにわたり、俺と共に戦ってきた友たちであるウォリアーズ・スリー。三人が加わったことで、戦線が一気に押し返される。
「ファンドラル、右だ!」
「分かっている!」
俺が雷で敵兵を吹き飛ばし、空いた場所へファンドラルが飛び込む。ホーガンの矢が遠距離から敵の動きを止め、そこへヴォルスタッグの斧が叩き込まれる。
「はははは! 久しぶりだな、この感じは!」
「笑っている場合か、ヴォルスタッグ!」
「戦場で暗い顔をしてどうする!」
「それはそうだ!」
俺も思わず笑った。敵は強く、数も多い。それでも、ここはアスガルド、俺たちの故郷だ。そして何より、俺たちは一人ではない。
「押し返すぞ!」
「おお!」
再びストームブレイカーを掲げる。空から雷が落ち、数十の敵兵をまとめて飲み込んだ。勢いはこちらに傾いた、と思ったが、
「……ソー。」
ホーガンの低い声で呼びかけてくる。ああ、俺も気付いている。
空気が変わった。上空に浮かぶ巨大戦艦、その一隻から、複数の影がゆっくりと降下してくる。敵兵たちの動きも変わった。
先ほどまで狂ったように攻め込んできていた者たちが道を空け、まるで何者かを迎えるかのように左右へ分かれていく。
「どうやら……、」
ファンドラルが剣を構え直す。
「雑兵だけではないらしいな。」
「そのようだ。」
俺はムジョルニアとストームブレイカーを握り直す。地面へ降り立った者たちは、それまでの兵士とは明らかに違う。
巨躯を誇る者。武器を手にした戦士。
そして、その先頭へ出てきたのは、細身の男だった。男が俺を見る目は、奇妙なほどに穏やかだった。戦場のど真ん中だというのに、まるで神殿で説法でも始めるかのように両手を広げ、
「アスガルドの王子、ソーだな。」
「俺を知っているのか。」
男は一歩前へ出る。
「無論。……我らが偉大なる父、サノス様の御業を妨げようとする者について、我々が知らぬはずがない。」
なるほど。こいつらがクロオや火のエルが言っていた、
「ブラック・オーダーとかいうサノス軍の幹部か。」
男が僅かに笑った。
「我が名はエボニー・マウ。」
サノスが従える精鋭たち。奴が話していた未来とは既に随分変わっているようだが、この者たちの存在そのものは変わっていないらしい。エボニー・マウは俺を見据えたまま、静かに告げる。
「跪くがよい。そして許しを乞え。」
両腕を広げる。
「我ら、サノスの子らにな。」
しばし沈黙し、俺は周囲を見た。燃える王都、傷ついたアスガルドの兵、今も避難を続けている民。そして、勝手に我が国へ攻め込んできた軍勢。
その中心で、この男は俺に跪けと言っている。
「……急に攻めてきておいて、随分と偉そうだな。」
ファンドラルが小声で言う。
「兄弟よ。そこか?」
「重要だろう。」
「まあ、重要ではあるな。」
エボニー・マウの眉が僅かに動いた。
「己が置かれている立場を理解していないようだな。」
「いや。」
俺はストームブレイカーを肩へ担ぐ。
「理解しているとも。」
そして、改めてブラック・オーダーを見る。巨漢と、エボニー・マウ。四人いる精鋭のうちの二人か。……だが、俺は視線を、その後ろに立っている女一人に向ける。
何も言わずに、こちらを見ている女だが、視線が合った瞬間、肌が粟立った。
強い。
理屈ではなく、戦士としての本能が告げている。ブラック・オーダーよりも、あの女こそが危険だ。
「……なあ。一つ聞いていいか?」
「何だ。」
俺はストームブレイカーを肩に担いだまま、エボニー・マウの後ろを指差した。
「貴様ではなく、後ろの女が将ということで良いのか?」
エボニー・マウの笑みが消えた。ファンドラルたちも俺の視線を追い、その女を見る。女は、何も言わないが、僅かに口元を吊り上げた。
全身に雷が走る。比喩ではなく、俺自身が無意識に雷を纏っていた。
「……なるほど。」
ムジョルニアを握る手に力を込める。どうやら、ここからが本番らしい。
ーーーーー
私の人生は、あの方に拾われるまでは、まあ、だいたい地獄だった。
そもそも、気が付けば別の星で赤ん坊になっていたのだ。最初は状況を理解するだけでも精一杯だった。しかも、どういうわけか私は、生まれた時から妙な力を持っていた。
後になって、それがリアリティ・ストーンの力だと知った。私は特に、何もない場所から物を作り出すことを得意としていた。
食べ物でも、金属でも、宝石でも。頭の中で形を思い描き、力を使えば、それが現実になる。私は、それがどれほど異常な力なのか分かっていなかった。この星の人間に備わっている力なんだろうな、程度の認識で、その力を隠すという発想もなかった。
そして、私は実の親によって、生まれた星の権力者に売られた。そこからは、本当に面白くない人生だった。
あれを作れ、これを作れ、もっと作れ。金を作れ、宝石を作れ、希少な物質を作れ。
幼かった私に、逃げる術なんてなかった。今なら、あんな連中くらい一人で皆殺しにできるけど、当時の私は自分の力の使い方すらろくに知らなかった。だから言われるがまま、ひたすら作った。
毎日、毎日。
そのうち、何かを考えることすら面倒になった。食事をして、眠って、起きて、物を作る。
それだけの生活の中で、唯一考えていたのが魂の故郷である地球だった。ものすごく未練があったわけじゃない。それでも、夜空を見上げながら、地球はこの世界にもあるのだろうか、なんて考えていた。
そんなことを考えながら、何年も過ごしていたら、
あの方が現れた。私の人生は、そこで変わった。詳しいことは、今はどうでもいい。一つだけ確かなことがある。私は、あの方に救われたのだ。だから、この命はあの方のために使う。だから、サノス様に忠誠を誓う。
そんな昔のことを考えながら、私は目の前の男を見る。
金髪の大柄。筋骨隆々で右手には大きな斧、左手にはハンマー。そして全身から雷。
「こいつがソーね。」
確か、そんな名前だった。
……私、MCUにそこまで興味なかったのよね。こっちに転生してからも、それらしい連中には何人か会ったらしいけど、どうも敵役ばっかりだったらしいし、主役級を正面から見るのは初めてだ。
こんな感じなんだ。……まあ、これから殺す相手だ。私がエボニー・マウの横を通り抜けると、
「ヴィスティナ様。」
呼び止められた。
「ここは我らが。」
マウが一歩前へ出てくる。
「あなた様に万が一のことがあれば、私はあの方に顔向けできません。」
「何言ってんのよ。」
マウが僅かに目を見開くが、私はソーを指差しながら、
「アンタもサノスの子を名乗るなら、実力くらい見抜きなさい。アレ、一人で戦況ひっくり返せる化け物よ。」
一撃で数十の兵を吹き飛ばし、広範囲へ雷を落とし、二つの武器を同時に操っている。単純な破壊力だけなら、この戦場でも頭一つどころか、二つ三つ抜けている。
「アンタたちじゃ絶対無理とは言わないけど、被害が出る。だから私がやるわ。」
マウはしばらく私を見つめ、やがて、ため息を吐いてから小さく頭を下げ、胸に手を当てる。
「……承知いたしました。ご武運を、ヴィスティナ様。」
私は一度足を止め、振り返る。
「戦場にいる時はフェイカーよ。」
マウがさらに頭を下げた。
「……失礼を。ご武運を、フェイカー様。」
さて。私は一人で前へ出ると、ソーは斧とハンマーを構え、周囲にいる三人も武器を構えた。聞いた話だと、この時期はまだハンマーだけだった気がするけど、向こうの知識持ちが何かしたかな?
「名を聞こう。」
ソーが問いかけてきた。律儀ね。私は軽く肩を回しながら答える。
「サノス様の配下、フェイカーよ。」
「フェイカーか。」
ソーが頷く。
「俺は――」
「ソーでしょ。知ってる。」
「……そうか。」
ちょっと残念そうな顔をされた。何よ、名乗りたかったの? 知らないわよ、戦場の作法とか。
私は右手を持ち上げ、リアリティ・ストーンの力を解放する。私の魂と共にある、現実を捻じ曲げる力が身体から溢れ出す。
「む……。」
赤いエネルギーを地面に走らせ、形を作る。まずは骨格、巨大な頭蓋、鋭く伸びる角、四本の脚。二頭の巨大な雄牛を出現させる。ただし、その身体に肉はなく、骸骨だ。空洞の眼窩には赤い光が宿り、全身の骨格を赤い雷が走っている。
さらに、その後方へ赤い粒子が集まり、車輪、車体、御者台と続き、巨大な戦車が完成する。
二頭の骸骨牛が前脚を上げ、
『ヴォオオオオオオオッ!!』
咆哮し、地面が揺れる。私は軽く跳び上がり、戦車へ乗り込み、手綱を握る。そんな私の姿を見て、ソーが笑う。
「……ほう。魔術師かと思えば、女戦士か。勇ましいではないか。」
「あら、ありがとう。でも、私は魔術師よ。」
「なに?」
私は片手を上げる。
「魔術師だって、必要とあれば戦車に乗るし――」
指先を軽く振り、赤い光が周囲に広がる。
そして、一つ、十、百と、無数の赤い亀裂が空間へ走り、その一つ一つから、鎧を纏った兵が姿を現す。
一人一人、歴戦の勇士の力を持った兵が、軍団規模で私の周囲に現れる。
「……おい、ソー。」
弓を持った男が静かに声をかける。
「分かっている!」
ソーの身体から雷が迸った。いい反応。私は口元を吊り上げる。
「――兵を召喚することもあるわ!」
私が腕を振り下ろすと同時に、兵たちは一斉にソー目掛け突撃する。
「はああああああッ!!」
ソーがムジョルニアを投げ飛ばし、凄まじい勢いで飛翔する槌が、迫り来る兵を次々と粉砕していく。
ストームブレイカーも振るわれ、雷が炸裂し、数十の兵がまとめて吹き飛んだ。うん、強い。知ってたけど。
「面白いじゃない。」
私は手綱を引き、二頭の骸骨牛が赤い雷を纏う。
さて、サノス様への忠誠のために、私を救ってくださった、あの方への恩に報いるために。
「行くわよ!」
手綱を振るい、二頭の骸骨牛が大地を蹴り宙へと浮かぶ。空飛ぶ戦車が赤い雷となって駆け出す。それを見たソーも、ストームブレイカーを構えた。
「来い、フェイカー!」
雷が爆発し、雷神がこちらへ突っ込んでくる。
「上等!」
二つの雷が、アスガルドの戦場を一直線に駆け、真正面から激突した。
ーーーーー
王宮の奥へ続く廊下を、私は全速力で駆けていた。遠くから雷鳴が響き、それに重なるように爆発音が響き、僅かに床が揺れる。
立ち止まる時間はない。
宝物庫へ到着すると、扉が完全に開ききるより早く中へ滑り込む。視線を走らせ、目的の物を見つける。
テッセラクトに迷わず手を伸ばし、掴む。青白い光が掌を照らし、内部からスペース・ストーンの膨大な力が伝わってくる。
父上から命じられたのは、テッセラクトとエーテルの確保。そして、これを利用した民の避難だ。ならば次。テッセラクトを確保したまま、エーテルの保管場所へ向かう。
内部で、赤い物質が静かに蠢いている封印容器に手を伸ばし、……止めた。
何かいる、と感じた瞬間に後方へ飛ぶ。直後、青い光が目の前を通過した。……あと一瞬遅ければ、右腕を持っていかれていたな。
着地と同時にテッセラクトを抱え直し、正面を見ると、青い光が集まり、その中心から、一人の男が姿を現した。
見た目だけならば人間。だが、全身を青い光が覆い、男の周囲だけ空間が僅かに歪んで見える。
「惜しい。」
男が笑った。
「もう少し手を伸ばしてくれれば、その腕とお別れさせてやれたのに。」
相手の言葉には返さず、観察する。先ほどの攻撃、出現するまで気配を感じなかった。
あの青い光、空間の歪み。そして、ヘイムダルが言っていた複数のインフィニティ・ストーン。コイツ、スペース・ストーンを宿す存在か。
「貴様らの目的は何だ?」
「話してもいいけど、その前にそっちのストーンを寄越してくれ。」
男の視線が、私の持つテッセラクト、そして容器に入ったままのエーテルへと向く。
「二つのストーンさえ手に入れば、軍を引くよ。」
「なるほど。」
話にならない。
「嘘だな。それが本当なら、最初から軍を出す必要がない。」
何より――
「私はサノスを知っている。」
忘れるはずがない。かつて私に軍を貸し与え、地球へ送り込んだ男。私も奴を利用しようとしたが、奴も私を利用していた。
「奴はそんなに甘くない。」
「――その通り。」
声が背後から聞こえた。
ーーーーー
僕はロキの真後ろに立ち、振り返る暇など与えないまま、そのまま右腕を突き出す。
肉を貫き、内臓を破壊する必要もない。触れた空間ごと、奴の腹を抉り抜く。そのために突き出した腕は、確かにロキの背中から入り、腹部を貫通した。青い光を纏った僕の手は、奴の腹から突き出ている。だが、
反応がなさすぎる。いや、これは空間を抵抗なく抜く技なので手応えがないのは当然なのだが、……腹を貫かれたはずのロキは顔色一つ変えずに立っている。
「それに――」
そして、まだ喋っている。
「サノスがストーンだけを求めているならば、ここまで徹底して地球との連絡を断つ必要もない……………。」
「……幻影か。」
ロキの身体が揺らいだ。いつからだ? 僕が背後へ移動する前か? それとも、最初から?
「リアリティ・ストーンも使わずに……。上手いものだな。」
思わず笑ってしまうが、ロキは返事を返さない。そして、緑色の光となって消えた。
……逃げられた。奴は最初から、僕と戦うつもりも、情報を得るつもりもなかった、というわけか。テッセラクトは奴が持っていったようだが、赤い液体、エーテルは容器ごと残っている。
「一つを捨てて、一つを確実に持っていったか。」
随分と思い切りがいい。……仕方がない。エーテル、リアリティ・ストーンへと手を伸ばし、次のチャンスを待つ。
ーーーーー
「急げ! 子供と老人を先に!」
私は避難列の最後尾に、テッセラクトを持って立つ。スペース・ストーンの空間転移。こっそり宝物庫に忍び込み、テッセラクトやエーテルの扱い方を修行しておいてよかった。……まあ、父上にはバレていたようだが。でなければ、いきなりテッセラクトで民を避難させろなど言うまい。
エーテルは置いてきてしまったが、仕方がない。あの男を相手に二つとも確保しようとすれば、両方を失う可能性があった。
それなら一つを確実に持ち出す。何より、テッセラクトはこちらに必要だ。ビフレストへ続く道には、まだ多くの民が残っているのだ。
「ロキ!」
聞き慣れた声に振り返る。
「母上。」
よし、母上は無事だ。その姿を確認し、僅かに息を吐く。隣には剣を抜いたブリュンヒルデもいる。
「テッセラクトは?」
私は右手を持ち上げる。
「ここに。」
「エーテルは?」
「敵に阻まれました。」
母上が私を見てくるが、何かを言われる前に続ける。
「相手に空間を操る者がいました。恐らく、父上が言っていたストーンを持つ者の一人かと。……エーテルは奪われているでしょう。申し訳ありません。」
母上の表情が僅かに曇る。
「ロキ。あなたが無事なら、それでいいのです。」
……昔から、この人はそうだ。どれだけ私が失敗しても、どれだけ取り返しのつかないことをしても。最後には、私自身を見てくれている。
「……民の避難を続けましょう。」
それだけ言って、母上は民へと視線を戻す。今は、それでいい。父上と兄上は前線にいて、母上はここにいる。ならば、私がするべきことも決まっている。
「残りは?」
近くの兵士へ尋ねる。
「この区画で最後です!」
まだ多い。ビフレストだけでは時間がかかる。上空を見れば、敵艦は未だ健在。いつここまで敵が来てもおかしくない。
右手にはテッセラクト。かつて、私はこれを使って地球に軍隊を呼び寄せ、支配しようとした。随分と昔のことのように思える。今は、
「母上。ビフレストはそのまま使用してください。」
テッセラクトを持ち上げる。
「こちらでも避難路を開きます。」
「あなたに使えるのですか?」
母上の眉が僅かに動いた。
「こっそり、修行しておりました。」
この国を守るために父上と兄上が戦っている。
そして、黒雄から学んだのだ。自分にできることを、真っ直ぐやる。散々見てきたのだ。危険だろうと、無茶だろうと、守れる者がいるなら前へ出る。
……まったく、悪影響を受けたものだ。
私はテッセラクトを握り直し、広めのゲートを可能な限り、多く開いていく。……この数は少しキツい上に、やはり地球へのゲートは開けんか。
「父上と兄上が稼いでいる時間を無駄にはできません。急ぎましょう」
必死にゲートを維持する私を、母上は少しだけ見つめたが、
「……分かりました。」
それ以上は何も言わず、避難指示に戻っていった。その時、避難列の最後尾にいる男が目に入った。
「そこの者。」
「は、はい!」
男が慌てて振り返る。懐から小型の端末を取り出し、差し出した。
「これを持っていけ。」
「これは……?」
「向こうに着いたら、起動しろ。そして――」
私の指示を聞いた男が端末を両手で受け取り、ゲートの向こうへ走って消えていく。遠くで再度、雷鳴が轟く。王宮の方角では黄金の光が走っている。
兄上も、父上も戦っている。母上も民のために奔走している。そして目の前には、まだ避難できていない民がいる。
かつて、私は王座を求めた。今となっては笑い話にもならない。民を見ない者に王が務まるはずなどなかった。
意識をテッセラクトへ集中させる。家族のために、アスガルドのため、民のために、そして、ここにいない友に、二度と恥じることのないように。
「開け。」
テッセラクトが眩い光を放ち、より多くのゲートを開いていく。私は兵士たちへ振り返った。
「民を通せ! いつまでもここが安全だと思うな!」
「はっ!」
兵士たちが一斉に動き、次々と民たちを青い光の向こうへ送り出していく。私はテッセラクトを握ったまま、その場を動かない。
この国の民が逃げ切るまで、ここを離れるつもりなどない。
ーーーーー
王城にも、敵が降りてくる。
上空から光が差し込み、巨大な影がゆっくりと降下してくるのを、私はグングニルを握ったまま見つめていた。
周囲の兵士たちが一斉に武器を構える。
「陛下!」
「手を出すな。」
「しかし――」
「よい。」
短く告げる。ここへ向かってくる者が何者なのか、分からぬほど耄碌したつもりはない。何より、奴はわざわざ王城へ向かってきているのだ。
民が避難している場所でもなければ、ソーが戦っている前線でもない。私を目指している。ならば、好都合。こちらから余計なことをして、奴の興味を民へ向けさせる必要はない。
「下がっておれ。」
兵士たちを下がらせる。やがて、その巨体が王城の広場へ降り立った。
紫色の肌、見上げるほどの巨躯、全身を覆う黄金の鎧。十文字黒雄から聞かされていた特徴と一致する。何より、その身から発せられる気配が違う。ただそこに立っているだけで、並の戦士とは比べることすら馬鹿馬鹿しくなるほどの圧力が伝わってくる。
「……貴様がサノスか。」
男は答える代わりに、僅かに口元を上げた。
「こちらの意図を察してくれて助かる。」
ゆっくりと周囲を見る。
「世界の執政者が皆、お前のような存在ならば、私も狂気に走る必要はないのだがな。」
「ふん。」
グングニルを地面へ突く。
「貴様らが艦砲を民に向けた瞬間、墜としてやったものを。」
「その時は、私たちも容赦なく標的を貴様の民へ向けさせてもらったがな。」
やはり、そういう男か。こちらが奴の艦隊を狙えば、奴は民を狙う。逆に言えば、こちらが動かぬ限り、奴も今すぐ民を焼き払うつもりはないらしい。少なくとも、現時点では。
「それで。」
私はグングニルを握り直す。
「何が望みだ?」
サノスを睨み据える。
「やはり、インフィニティ・ストーンか?」
「第一目標は当然、ストーンだ。だが、当初は急ぐつもりはなかった。」
「何?」
「貴様が寿命で死んだ後にいただく予定だったのだ。」
アスガルドも随分と舐められたものだ。いや。合理的、と言うべきか。わざわざ私が生きている間にアスガルドへ攻め込む必要などない。待っていれば、いずれ私は死ぬ。
この者ほどの者ならば、その程度の時間を待つことなど造作もあるまい。ならば、
「では、なぜ今来た。」
「嬉しい誤算があってな。」
「……誤算だと?」
サノスが笑った。
ーーーーー
「はあああああッ!!」
「くっ……!」
ストームブレイカーが振り下ろされる。
戦車を急旋回させ、間一髪で回避した直後、私がいた場所に凄まじい雷が落ち、地面が丸ごと吹き飛ぶ。手綱を引いて、体勢を整えながら、
「本当に……! 強いわね、アンタ!」
「褒め言葉として受け取っておこう!」
ソーが笑いながらストームブレイカーを振るうと、今度は巨大な雷撃が飛んでくる。咄嗟に兵を数十体生成し、ソーに向かって突撃させる。
「吹き飛べッ!」
「うわっ!?」
その兵たちも一瞬で消し飛ぶ。いや、兵だけではない。雷撃を防ぎ切ることが出来ず、一部が戦車へ直撃し、二頭の骸骨牛の片方が粉々に砕け散った。
「また!?」
これで何度目よ! リアリティ・ストーンの力を放ち、即座に骸骨牛を再構築する。戦車は三回。牛に至っては、もう何回作り直したか覚えていない。
奮闘はしている。でも、完全に押されている。
ストームブレイカーを持ち、雷神として完全に力を目覚めさせたソーは聞いていたより明らかに強い。というか、
「味方を援護する余裕まであるわけ!?」
「当然だ!」
ソーがムジョルニアを横へ投げる。その標的は私ではなく、少し離れた場所で戦っているエボニー・マウたちだ。
「ぬっ!?」
巨漢のカル・オブシディアンがムジョルニアを受け止めるが、勢いを殺し切れずに後方へ吹き飛ばされる。さらにソーが片手を上げ、雷がエボニー・マウに向かって落ちる。マウは周囲の瓦礫を操って上手く防いだ。
私と戦いながら、ブラック・オーダーの邪魔までしている。
「……腹立つわね。」
「何か言ったか!」
「何でもない!」
強い。本当に強い。どうする? このままでも時間稼ぎにはなるけど、私は時間を稼ぐためにここへ来たわけじゃない。
あの方のため、サノス様のために、こいつは倒しておきたい。
「ヴィスティナ。」
「え?」
突然、真横から声がした。振り返ると、
「はい。」
「いつからいたのよ、アンタ!?」
相方が立っていた。本当にいつ現れたのか分からないが、青い光を全身に纏いながら、いつもの軽い笑顔を浮かべている。そして、その手には、赤い液体が蠢いている容器があった。
「……取ってきたのね。」
「うん。」
相方が軽い調子で容器を放ってきたので、慌てて受け取る。
「これがあれば、ソーにも負けないでしょ。」
「サンキュー。」
容器を抱えながら、ふと思い出す。
「あと、戦場ではフェイカーって呼びなさい。」
「ああ、ごめん。」
「それで、テッセラクトの方は?」
私は相方を見るが、何か変わった様子はない。
「ロキに取られた。やるね、アイツ。」
「アンタね……。」
思わず額を押さえる。
「最悪、アンタ石になんのよ? 分かってんの?」
「仕方ないよ。まだチャンスはあるし。」
「軽い!」
なんでそんなに軽いのよ。相変わらずというか何というか。ため息を吐く。でも、今は説教している場合ではない。
「まあいいわ。」
切り替え、目の前の容器を開く。すると、凄まじい力が溢れ出し、エーテルが生き物のように宙を這い、私の右腕へ絡みつく。
怖くはない。むしろ心地良い。
「なるほど……。」
触れた瞬間に分かった。これは私と同じだ。なら、
「来なさい。」
自分の中にある力を流し込むと、世界が赤く染まり、身体の奥底から、力が爆発する。
倍? そんな程度ではない。十倍? それすら分からない。今まで自分が使っていた力が、どれほど小さなものだったのかと錯覚するほどの膨大な力。思わず笑ってしまう。
「これは、……凄いわね。」
力を流すと、骨だけだった二頭の牛は、その骨格を赤い光で覆い、筋肉が生まれ、皮膚が形成される。ただの雄牛ではない、全身を赤い雷が駆け巡る、巨大な神獣が姿を現した。
『ヴォオオオオオオオオオオッ!!』
咆哮だけで大地が揺れた。戦車そのものも巨大化し、装甲が幾重にも重なり、車輪から赤い雷が迸る。
さらに、私が召喚した兵たちも変化を果たす。それまで命令に従って動くだけだった兵士たちが、
『おおおおおおおおおおおおッ!!』
雄叫びを上げたのだ。
「……へえ。」
感情、意思、闘争心。今までなかったものが宿っている。兵士たちは武器を掲げ、自らの意思で敵を選び、陣形を組み、アスガルド軍へ突撃していく。
先ほどまでとは違い、アスガルドの戦士たちが、押され始めた。
「……何?」
ソーが初めて驚いた表情を見せた。その顔よ、見たかったのは。
手綱を握り直す。
「さて。もう一回やりましょうか。」
二頭の雄牛が空を駆ける。赤い雷を纏う戦車が一気に加速する。
「来るか!」
ソーがストームブレイカーを構える。
「はああああああッ!!」
振り下ろされた斧。先ほどまでは、直撃すれば骸骨牛の半身が吹き飛んでいた一撃だ。しかし、
『ヴォオオオオオオッ!!』
「何!?」
雄牛の角とストームブレイカーが激突。赤い雷と青白い雷が炸裂し、衝撃で大地が砕け、空気が震える。それでも、
「馬鹿な……!?」
雄牛は砕けない。それどころか、
「行けぇッ!」
雄牛が前へ出て、ソーが後退する。
「ははっ!」
さっきまでのお返しだ。私は手綱を強く握りしめ、叫んだ。
「さあ! 第二ラウンドよ!」
ーーーーー
「……何だ、あれは。」
巨大な力が衝突した。先ほどまでソーが戦っていた場所から、明らかに異質な力が噴き上がっている。
そして、ソーが押されている。
「今のソーを……。」
雷神として完全に覚醒し、ストームブレイカーという強力な武器を得た我が息子。今のソーを正面から力で押し返せる者など、九つの世界を探してもそうはいまい。
だが、現実にそれが起きている。
「……あれが誤算だ。」
サノスの発言に、私は視線を奴へ戻す。
「何?」
「あの娘は、インフィニティ・ストーンの力を宿した存在だ。この宇宙に存在するインフィニティ・ストーン。そして、インフィニティ・ストーンの力を宿した者たち。」
サノスはソーたちが戦っている方向を眺めながら続ける。
「最近、同種のインフィニティ・ストーンの力を掛け合わせることで、出力が跳ね上がることが分かった。しかも、単純な足し算ではない。」
奴が笑う。
「一と一を合わせて二になるのではない。互いが互いを増幅させ、桁違いの力を発揮する。そして――」
サノスが両腕を上げた。そこで初めて、私は奴の腕に装着された物を、まともに見る。
「……それは。」
黄金の籠手。いや、見覚えがある。かつて、アスガルドでも同種のものを作らせた。インフィニティ・ストーンの力を一つに束ねるための器。
「インフィニティ・ガントレットか……」
「そうだ。」
サノスが両腕を広げる。
「あそこで戦っている娘が作ったものだ。」
両腕。左右に一つずつ、二つのガントレット。そして、
「なっ……。」
思わず一つしかない目を見開いてしまった。両方に、紫色の石が存在したからだ。
「パワー・ストーン……?」
同じ石が、二つだと? しかも、右腕には紫色の石とは別に、黄色の、
「マインド・ストーンもだと!?」
何故だ。マインド・ストーンは十文字黒雄が地球で最も頼れる存在に預けた、と言っていた。それが何故、サノスの手にある。
「貴様……!」
サノスは答えず、ただ、笑った。
「……そういえば。」
ゆっくりと両腕を下ろす。
「私の目的を聞いていたな。……ストーンの確保。それは当然だ。」
一歩。サノスが前へ出ると、大気が震えた。
「だが、せっかくアスガルドまで来たのだ。」
さらに一歩。
「そして目の前には――」
両拳が握られ、左右のパワー・ストーンが、同時に紫色の光を放ち始める。
「九つの世界に名を轟かせた、最強の神がいる。」
紫色の光が強くなる。
「対抗できる力を手に入れたのならば、試したくなるのが戦士というものだろう?」
「……ふん。」
グングニルを構える。なるほど、狂人を自認するだけのことはある。だが、あれは戦士の目だ。私も若き頃、同じ目をしていたのだろう。
「力試しか。」
両拳を構えたサノスがさらに一歩踏み出しながら、口を開く。
「死んでもらうぞ。偉大なる老神よ。」
「やってみるがよい!」
先に動き、グングニルを振るう。黄金の神力が刃となって空間を切り裂き、サノスへ迫る。
同時にサノスが、左右の拳を打ち合わせた。
瞬間。世界が紫に染まった。
「――ッ!?」
轟音すら、遅れて聞こえた。二つのパワー・ストーンの力が激突し、増幅され、凄まじいエネルギーとなって解放される。
私が放った神力と正面から衝突し、王城が揺れる。いや、
「これは――!」
王城の一部が、消し飛んだ。黄金の壁も、巨大な柱も、何千年もの間、アスガルドの王たちを見守ってきた建造物が、衝撃だけで粉々に砕け、空へと舞い上がっていく。
その中心、紫色の光の向こう側で、サノスは立っていた。
「さあ。」
両腕のガントレットを構えながら、異質なタイタン人が笑う。
「始めようか、オーディン。」
私はグングニルを握り直す。
「……若造が。」
久しく忘れていた感覚だ。目の前の敵を、全力で殺さねばならぬという感覚。
「神々の王を、甘く見るなよ。」
黄金の神力を全力で解放し、サノスを迎え撃った。
ーーーーー
この日、最強の神オーディンと、二つのパワー・ストーンを身につけたサノス――二人の怪物が、神話すら霞む戦いを始めた。