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「おっと、石原さん。その点に関して僕からも1つ言わせていただきましょう」
石原トレーナーが距離適性について言及したとたん、横から打出トレーナーが割り込み、人差し指を立てた。
「あなたはマヌケ野郎であると!」
「何!?」
なんと、新人トレーナーのはずの打出トレーナーからもマヌケ野郎に認定されてしまった。
つまり、先ほどの石原トレーナーの分析は新人でも間違っていると明らかに分かるということ。
これではベテラントレーナーの名折れだ。
「……どこが間違っているか教えてくれ」
恥を忍んで石原トレーナーは打出トレーナーに唇を噛みつつ尋ねる。
「"ダートに長距離はありません。"ステイヤーであるかどうかなんてどうでもいいんです、この世界では」
「長距離がない……!?」
石原トレーナーからすれば信じられない言葉だった。
クラシック路線を歩むウマ娘にとってステイヤーとしての才能があるかどうかはとても重要だ。
ステイヤーとしての適性に恵まれていないことを悟り、泣く泣く菊花賞や天皇賞、有馬記念を諦める子も少なくないというのに。
今まで伝統と格式ある世界で実績を残したはずの石原トレーナーが、ここではその常識が全く通用せず。
エリートどころか、新人にすら劣っていることを思い知らされる羽目になってしまった。
「--いや面白いな、ダートというのは。俺の知らんことだらけだ」
だが、そんな扱いをされたことで石原トレーナーは逆にやる気が湧いてきた。
10年以上ウマ娘を指導し、G1トレーナーになってもまだまだ学びがあることを石原トレーナーは思い知った。
それと同時に、石原トレーナーはこの見知らぬダートという世界を学びたいという好奇心が沸いてきた。
そして、ゆくゆくはダートの世界で結果を残したいという感情も。
目標のなかった石原トレーナーに、新たな目標ができた瞬間だった。
ここまで王道から逸れた世界で1つ2つ実績を残すのも悪くない。
「ではマヌケ野郎として1から学ばせていただこうじゃないか」
「ええ。歓迎します。ベニザクラさんと石原さんのペアの始まりでしょうか?」
「ああ。これからスカウトに行こう。構わんな?」
石原トレーナーはダートの世界に入ること、ジープベニザクラのトレーナーとなる決心をつけた。
打出トレーナーはそれに首を縦に振って承諾し。
小原トレーナーは、顎でジープベニザクラを指して承諾の返事をした。
「エリートG1トレーナーからマヌケ野郎までお前のランクを落としたんだ。這い上がってこい。ダートじゃそれが美徳だぜ」