ーーー99ーーー
「……11番はアールライズ。私は未だこのウマ娘が2番人気に堕ちたなどと、信じられません」
10番までの明るい紹介とは打って変わって、実況は恐れを含んだ紹介を始めた。
「戦績は40戦32勝。どのG1を獲得してきたかなんて、読むだけで息が切れそうです……」
「しかし、今日のウマ娘たちをご覧なさい」
恐れを含んだ実況とは打って変わって、解説はゲート前に集まっているウマ娘を指さした。
チャンピオンズカップまでのウマ娘たちは、アールライズのことを名状しがたき怪物を目の前にしたかのようにおびえ切っていた。
だが、今日の東京大賞典に出走するウマ娘は皆が闘志がこもった目で、アールライズを睨みつけている。
いや、闘志どころか、怨念や嫉妬、下手すれば殺意じみた感情すら持っているかもしれない。
それも全部ジープベニザクラがアールライズも倒してしまったから。
倒すことができる、と証明してしまったからだ。
ならば自分たちもと意気込んでいるのだろう。
当のジープベニザクラ本人は初対面から今に至るまで、友達感覚でヘラヘラと接しているが。
「ふぅん?」
その様子に、退屈そうにしていたメジロラモーヌの視線がレース場に向いた。
ちなみに、メジロラモーヌの現時点での成績は12戦9勝。
芝のウマ娘とダートのウマ娘を出走数と勝利数だけで比べるのはナンセンスではあるが。
それほど勝利を重ねられるほど強く、そのせいで周囲からドス黒い感情を向けられ。
それでいてなお動じない、いやどうでもよさそうにパドックを歩いているアールライズの姿に、メジロラモーヌは少しだけ興味がわいたようだ。
その様子に隣のメジロアルダンは複雑そうな顔をした。
本来はジープベニザクラに興味を持ってもらうためにこの場に来てもらったというのに。
ただし、口で言ったところでメジロラモーヌの心に響かせることはできない。
アールライズが登場したことで出走ウマ娘たちの空気が変わった。
おしゃべりをしていたウマ娘の口が止まり、ストレッチをしていたウマ娘の手が止まる。
それでも解説が言った通り。
勝負前からおびえたり萎縮するウマ娘はいなくなった。
11人のウマ娘たちははアールライズに勝つつもりで、あるいは勝てないと分かっていながらも立ち向かうつもりだ。
11人は、アールライズに"道を開けなくなった"。
そのせいで、アールライズのほうが道を譲らなくてはならなくなったが。
当のアールライズは涼しい顔で自分をよけようとしないウマ娘たちをかわしていく。
「……ベニザクラさん」
ジープベニザクラの後ろからメティキュラスがこそっと話しかけた。
「私は2人が怖いです。2人とも怖いです」
「怖いだなんて。もっと言ってください」
ジープベニザクラは不敵に笑った。
観客の反応はまだ全然違うが、メティキュラスはジープベニザクラのことをアールライズと同じように扱っているらしい。
災厄と同じ扱いだなんて光栄だ。
「何度でも言いたいです。でも、ここまで来たら"後には引けない"。私も腹をくくります」
そう言ってメティキュラスはゲートに向かった。
その数秒後に今度はアルマダクロックがジープベニザクラの横にやってくる。
「ボクは伏兵って呼ばれてるみたいだ。気をつけてね」
「あら、何に気を付ければよろしいのでしょう?」
アルマダクロックはジープベニザクラの首をトントンと叩いて返事の代わりとした。
寝首をかきにいく、そういう宣言だ。
2人に宣戦布告され、ジープベニザクラもゲートに入ろうとした瞬間。
「--あなたさえいなければね」
後ろから威圧感のある声がして。
すぐアールライズが横を通り過ぎた。
もちろん、これがジープベニザクラにとって言われたら嬉しい言葉なのを承知で、アールライズは吐き捨てている。
「もう、皆さんそんなに褒めてくださっても何も出ませんよ?」