死んでも勝てやァ!!
ーーー102ーーー
「そのまま踏ん張れ!追い抜かれるなー!」
「勝てベニザクラ!勝ち越せ―!!」
最終直線が近づき、観客席からの応援が強くなる。
しかし、残りはまだ300m以上もある。
大井レース場の声は、ジープベニザクラを応援するものばかりではない。
「いや、あそこでアールに追いつかれたら……!」
「アールが、リベンジ返しを果たすのか……!?」
囲まれていたはずの集団をぶち破り。
調子よくジープベニザクラが取ったはずのリードを、数秒で消し飛ばして追い詰められた。
そこから300m以上首位をキープし続けられるのなら、そもそも数秒で追い詰められたりはしない。
状況を冷静に見ることのできた観客はこう思ったことだろう。
ジープベニザクラは、もはやこれまで、と。
いや、冷静な観客だけでなく、ジープベニザクラを必死に応援する者も多くが。
心の奥底ではそう思っていたに違いない。
だが、それでも冷静でいられなかった者たちは、同時にこう思っている。
ジープベニザクラは追い詰められてこそ真価を発揮する。
ここから300m、気合と根性で逃げ切ってくれると。
そんな声は、ジープベニザクラの耳には届いていなかった。
今の彼女がただ考えていたのは。
ただアールライズに前を譲るものかとがむしゃらに自分を前に進めることだけ。
「(とうとう並ばれましたか……!)」
けれど、前にだけは行かせない。
行かせない行かせない行かせない行かせない行かせない行かせない行かせない行かせない行かせない行かせない……!!!
チャンピオンズカップの時と同じく、根性と気合と、狂気を動力源にしてジープベニザクラは身体を前に進める。
そうでもしなければ、アールライズには勝てないのだから。
しかし、どれだけ脚を回して前に進んでも状況は好転しない。
ジープベニザクラの視界は、右半分が強大なオーラで歪みだしてきた。
黄色と青が混ざったようなオーラだ。
いや、そんなカッコイイオーラじゃない。
例えるなら素人が適当な配分で黄色の絵の具と青色の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような。
黒ずんだようなオーラが意志を持って横からジープベニザクラを食らいつくように襲ってきた。
ここにきて、アールライズは領域が覚醒したのか。
あるいは、領域などなくてもそれくらいアールライズは圧倒的なのか。
ただ1つ確かなことは。
アールライズがジープベニザクラより前に出てきたことだ。
「アールライズ、抜けた!!」
無慈悲にも、実況も順位が逆転したことを宣言する。
ハロン棒はもう見えない。200mを切った。
ここから差し返すなんてジープベニザクラにはできない。
強いですねアールさん。ここまでやってもダメなら私の負けです……。
なんて、ジープベニザクラは言わない。
まだレースは続いている!
残り1mまで勝つことを諦めるな。
とにかく前に進むことだけを考えろ。
何が何でも先頭を取れ。
越えてはならない一線すら、飛び越してしまえ。
それが、くれない色の桜だ。
それが、自分の返り血で染めた、不気味で美しい桜だ!
それが。
ジープベニザクラだ!!
「--ッぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーっっっ!!!」
喉が裂けそうな、言葉にもなっていない絶叫で。
ジープベニザクラはゴールの位置に手を伸ばした。