そんな子が今後3日くらい喋れなくなりそうなほどの怒号を飛ばしてまで1位を取ろうとした。
コノハナレッドの最終章は、そんな物語です。
ーーー103ーーー
確定ランプが点灯した。
掲示板に表示されていた順位は。
Ⅰ:11 Ⅱ:6 Ⅲ:3 Ⅳ:4。
ジープベニザクラの番号とアールライズの番号は覚えているだろうか。
Ⅰに表示された11番のウマ娘は……。
アールライズだ。
着差は1 1/2。
この光景を見た大井レース場は喜ぶでもなく、かつてのように悲観するでもなく、ただ静まり返っていた。
この結果をどう受け止めればいいか、どう反応すればいいか、誰もが困っていたのだ。
この東京大賞典に勝利したのはアールライズで。
ジープベニザクラは2着で負けて。
チャンピオンズカップでリベンジを果たした相手に、東京大賞典でリベンジ返しを受けた。
そう皆が理解するのに、随分と長い時間がかかったことだろう。
ジープベニザクラはゴール板を突き抜けてからずっと変な感覚に見舞われていた。
視界はぼやけて薄暗く、クラクラと眩暈がする。
ゴールしたからきっとゆっくりスピードを落としているのだろうが、脚の感覚が曖昧だからよくわからない。
はっきりと分かるのは、鼓動が嫌なほど大きく速く鳴り続いていること。
どれだけ激しく呼吸を繰り返しても、拷問のような苦しみが全く和らがないこと。
とうとうジープベニザクラは視界がガクッと崩れ、膝をつく。
どうにか両手をついたが、もはや今のジープベニザクラには両膝と両手を使ってなお自分の身体を支えきれずに。
四つん這いになってすぐ大井レース場のダートにうつぶせで倒れ伏した。
大井レース場は未だ静まり返っている。
「(……何も……聞こえません……)」
1と1/2バ身差はあと1手何かが違っていれば、運さえ向けば、という差ではない。
結局、これだけ走ってもアールライズとの差は縮まることなく、しっかりとした敗北を突きつけられてしまった。
おめでとうございますアールさん、悔しいです。
と、言いたいのだが、今のジープベニザクラは身体も動かなければ、瞼も重い。
起き上がりたいが、そんな体力も気力もレース中に使い果たした。
レースも終わって気が緩んだのか、周囲が静かなせいか。
ジープベニザクラの意志とは関係なく目が閉じられていく。
「(ああ、皆さんいじわるです……せめてブーイングで起こしてくれたならよかったのに……)」
そう思いながら、ジープベニザクラは意識を手放した。
10秒後。
「う゛っ!?」
突然何者かがジープベニザクラの背中を勢いよく蹴り転がした。
ジープベニザクラは強制的に仰向けにさせられ、現実世界に引き戻される。
蹴り転がした犯人はアールライズ。
顔を見ると、今までの視線だけで何人か失神させられそうな絶対零度の視線と無表情を貫いていたはずのアールライズが。
勝ち誇ったニヤけ面でジープベニザクラを見下ろしていた。
「--これで2勝1敗!私の勝ち越し!」
「おととい来やがれってのよバーーーーーカ!!」
アールライズはジープベニザクラに向けてサムズダウンのジェスチャーを向けた。
おかしい。アールライズと言えば抑揚のない冷たく低い声だったはずなのに。
こんなノリノリで人を見下す性格だっただろうか?どうやら人格が変わってしまったようだ。
いや、人格が変わったというよりも。
「……ったく。それがあなたの"ガラ"ですか?」
あまりにも長く、簡単に勝ち続けて、嬉しいとすら思わなくなってから久しかったアールライズ。
だが、アールライズとてウマ娘だ。
久しぶりのアツい勝負ができて、強敵に勝てたら嬉しいという感情、いや本性を取り戻したのだろうか。
そう思われたと気づいたのだろうか、アールライズは小さく咳をすると。
「あなたみたいに猫を被ってたつもりはないわ。忘れてちょうだい」
冷たい声に戻ってジープベニザクラを鼻で笑い飛ばした。