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「ベニザクラさん……やはり、あなたの生き様は、醜く、不気味でした……」
レース後、結局追い抜けなかったのにもかかわらず、メジロアルダンは震える声で独り言を述べた。
メジロアルダンは声を張り上げて話すことなどめったにない。
普通のレース直後であれば、大歓声でかき消えてしまうような声だったが。
今日はあいにく、未だ歓声が上がらず、大井レース場は静まり返っている。
「それなのに……なんて美しい……」
メジロアルダンの独り言はかなり遠くの観客にもよく聞こえたことだろう。
「ッ!そうだ、姉様!」
独り言を終えるとメジロアルダンは我に返ってメジロラモーヌの腕を掴んだ。
メジロアルダンは既にジープベニザクラの全てを捧げる走りに既に心を奪われた。
あとは、自らの姉にも。
今を煌めく時のウマ娘に、ジープベニザクラを認めてもらわなければならない。
「姉様、いかがでしたか……。ベニザクラさんの走りは……」
「ベニザクラさんが魅せた、"情熱"は……!」
メジロアルダンの問いに、メジロラモーヌは。
「さっき貴女が言ったじゃない。"醜くて不気味"」
軽くため息をついて首を横に振った。
どうやら、メジロラモーヌの心には響かなかったらしい。
「魂を込めても、砂遊びは砂遊びよ。幼稚な落書きに変わりはないわ」
「それにその程度の落書きの癖に、最後の詰めすらも甘い」
メジロラモーヌは今のジープベニザクラの走りを価値なし、と切り捨てた。
そんなはずはありません!と言いたいところだが、メジロラモーヌは人から強く言われたところで意見を変えるようなウマ娘ではない。
これほどの走りを見せつけても、メジロラモーヌを動かすことはできないのか。
あるいは、そもそもターフにしか興味がないメジロラモーヌをこんな場所に連れてくること自体が間違いだったのかもしれない。
どちらにせよ、メジロラモーヌにジープベニザクラの生きた証を刻み付けるという計画は失敗した。
と思われたが。
伊達にメジロアルダンはメジロラモーヌの妹をやっているわけではない。
メジロアルダンは、メジロラモーヌの右腕を両手でしっかりつかむと。
思いっきり、出口の方向に引っ張った。
……メジロラモーヌは、抵抗した。
視線はダートコースに向けたまま。引っ張られても動こうとしなかった。
なぜだろうか?
さっきの言葉が本心なら、さっさと大井レース場を後にするだろうに。
帰るどころか、引っ張られてもその場を動かない。
先ほどのメジロラモーヌの言葉は決して"価値なし"と言いたいわけではないことを。
メジロアルダンは分かっていたからだ。
「……だったら」
「だったらどうして、そんなに釘付けになっているのですか!?」
メジロアルダンは"声を張り上げて"メジロラモーヌに言い寄った。
詰め寄られたメジロラモーヌは、1度深呼吸をして、右手を固く握った。
「さっき貴女が言ったじゃない……!」
先ほどと一言一句違わぬ言葉だったが、その声は明らかに震えていた。
そう、醜くて不気味。
"それなのに、なんて美しい。"
そこにはターフもなければ完璧さもなかったのに。
その熱だけで、その狂気だけで。
ジープベニザクラの"レースへの愛"が、砂遊び・落書きを描いたその絵(レース)が。メジロラモーヌの心を響かせたのだ。
きっと、メジロラモーヌにとって忘れられない1日となったことだろう。
知名度としてはすぐに忘れ去られたとしても、メジロの至宝の記憶に、ジープベニザクラは永遠に刻み付けられる。
「ねえ、アルダン。彼女……ベニザクラ、と言ったかしら?」
「はい」
「なら、木花(コノハナ)かしら。……この絵のタイトル」
コノハナ、とは日本神話などに登場する古語だ。
コノハナサクヤヒメ、コノハナチルヒメなど女神の名前に付けられている。
コノハナの現代語訳は"桜の花"だ。
また、現代でもコノハナとカタカナで書かれたら"この花"だと思う人も多いのではないだろうか。
すぐに忘れ去られるが、ここに確かに在った桜の花。
まさにベニ"ザクラ"を表現した名前だと言えるが。
メジロラモーヌが提案したタイトルの提案をメジロアルダンは首を横に振って否定した。
「ただそれだけではありません。彼女は"ベニ"ザクラさんですから……こう名付けましょう」
「コノハナ"レッド"(赤い桜/この花、レッド)」