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数分間の沈黙の後。
大井レース場の静寂は、まばらな拍手で破られた。
やがて、拍手は大きくなり、大井レース場全体を包んでいく。
アールライズの勝利を称えるべきか、恐れるべきか。
ジープベニザクラの健闘を称えるべきか、悔しがるべきか。
きっと、観客たちはどのような声をかけるべきか、人によっても様々だっただろう。
それらをすべてひっくるめて、観客たちはウマ娘たちに拍手を送った。
蹴り転がされて、大の字でダートに寝っ転がたまま、拍手を受けるジープベニザクラ。
そんなジープベニザクラの視界に、赤い大きな布がズイッと割り込んできた。
白い文字で東京大賞典と書かれている。
アールライズが東京大賞典の優勝レイを受け取り、わざわざジープベニザクラに見せつけに来たのだ。
「この柄は、もう持ってる」
だから別にいらない。
そう言って、フェブラリーステークスもかしわ記念も帝王賞も南部杯もJBCクラシックも。
受け取る権利があるはずの優勝レイは全部投げ捨ててきた。
東京大賞典の優勝レイもまた、アールライズが初めてもらうものではない。
「でも、貰ってあげる」
アールライズは優勝レイを肩にかけると、大井レース場を後にした。
それくらい、アールライズにとって、今日のレースは特別なものになっただったのだろう。
「いつまで寝てるの。起きてベニザクラ」
その後に3位だったアルマダクロックがジープベニザクラの手を取り、引っ張り起こす。
引き起こされてなお自分の脚でうまく立つことができず、ジープベニザクラはよろよろとしながらアルマダクロックに寄りかかった。
「うっ……」
「うわちょっと。メティ!牽引手伝って!」
「は、はいっ!」
慌てて4位だったメティキュラスがジープベニザクラに肩を貸して、ようやく姿勢は安定した。
「ありがとう……ございます……」
「もう、本当に無茶しましたね」
「この後ライブするんだけど本当にできるの?」
2人のライバルに抱えられながら、ジープベニザクラもまた大井レース場から去っていく。
「……ねえ、ベニザクラ」
「ボクは、"中央で戦ったアルマダクロック"になれたと思う?」
「3位にまでなれたウマ娘が何を言ってるんですかアルマダさん!もっと自信を持ってください!」
アルマダクロックの問いにジープベニザクラよりも先にメティキュラスが反射で応えてしまった。
ジープベニザクラは返事する気力がまだないので、代わりに手首だけを少し動かして、アルマダクロックの頭を叩いた。
メティさんと一緒です。3位になれた人が何を言ってるんですか。
あなたは十分、中央で走った強豪です。という意味を込めて。
「……ベニザクラさん。私は、今更どうでしたか、なんて質問はやめます」
「あなたがいなければ、今でも私はただの落ちこぼれでした。ここまで私を引き上げてくださって、感謝しかありません」
メティキュラスはジープベニザクラに肩を貸しながら、頭だけを下げた。
ジープベニザクラはこう言いたいところではあった。
あなたを引き上げてあげたつもりなんてないんですけどね。
実力だけで私に食らいつけたウマ娘がメティキュラスです。
でも、返事する気力はまだなかったので、察してもらうことにした。