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呼ばれた石原トレーナーはジープベニザクラに顔を上げた。
「ああ。お疲れ様。なかなかの走りだった。この距離のレースも出られそうだな」
「そう言っている割には、頭にハテナマークが浮かんでいますが?」
今の私の走りにダメなところでも?と言いたげにジープベニザクラは軽いため息をつく。
「いいや、お前の走りは良いものだった。ベニザクラ、そのうえで1つ聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「お前は、自分のことを"天才"だと思っているか?」
3秒ほど静寂が流れる。
そして、首の角度を元に戻した石原トレーナーに対して。
今度はジープベニザクラが首をかしげてしまった。
「ええ、もちろんですと言いたいところだったのですが」
その後、ジープベニザクラは首を横に振る。
答えはNOのようだ。
そして、先ほどの前振りからするに、ジープベニザクラは謙遜のつもりで言っているわけではない。
どうやら、自分のスピード、スタミナ、パワー、賢さについては本当に大したことがないという自覚があるようだ。
「……厳しいことを言うようだが、その通りだ。悪くはないが、ベニザクラより上のウマ娘は探せばいくらでもいる」
石原トレーナーはそう言いながら、ストップウォッチに目を落とした。
G1制覇も夢ではないほどの好タイムが出ていた。
そして、石原トレーナーは最後の直線、明らかにそれまでとは一線を画すスパートが掛かっていたことを見逃さなかった。
間違いなく、"特筆すべき走り"だった。
「だが、このタイムとラストスパートを出せるウマ娘は探したってなかなかいない……!」
石原トレーナーは声を震わせながら、もう1度ジープベニザクラと目を合わせた。
基礎能力5つのうち、4つは特筆すべき点がなかったはずのジープベニザクラ。
見たこともないようなすごいスキルを使った様子もない。
これほどまでの好走ができた理由は、残りの1つ以外に考えられない。
「お前は"根性だけ"でこのタイムを叩き出したというのか?」
声を震わせていた石原トレーナーの心証は、わずかな畏れと、大きな歓喜だった。
ジープベニザクラはその言葉を待っていましたという風に自慢げな表情になる。
「私には才能なんてありません。スピード、スタミナ、パワーも私では限界がありますし、なかなか伸ばせません」
もちろん、頭脳派、データ派ウマ娘に頭脳戦を仕掛けて勝てる算段もジープベニザクラにはない。
「ですが。"根性"の限界を超える方法は簡単です。超えようと思うだけです」
まさかの速く走る秘訣が精神論オンリーとは。
黄色の髪を上品にまとめた清楚な顔立ちのウマ娘から出た言葉だとはとても考えられない。
と石原トレーナーの苦笑いから察したのか、ジープベニザクラは上品に微笑んだ。
おそらく、その心中はしてやったり、に違いない。
「こんなメチャクチャなレポート、1か月前の俺に出したら殴られるな」
「その理由が"こんなウマ娘がいてたまるか"でしたら、褒め言葉として受け取らせていただきますね」
石原トレーナーはその答えに失笑しつつ、手に持っていたバインダーのトレーニング用紙にこう記入した。
"根性:これまで見てきたウマ娘をはるかに凌駕する。この能力を生かしたレースを組み立てるべき"