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「ああ、それとこの2人とも会っておくといい」
石原トレーナーは後ろにいるであろう人物にどうぞ、と促す。
地下バ道は薄暗く、ジープベニザクラの位置では石原トレーナーの奥に誰がいるのかまではよくわからない。
ジープベニザクラが目を凝らして石原トレーナーの奥にいる人物を確認しようとする。
分かったとたん、ジープベニザクラは「うわ」と言葉を漏らし、怪訝な表情で1歩後ずさりした。
「お父さんにお母さん!?なんでこんなところにいるんですか!?」
その反応は授業参観に来てくれた両親に照れ隠しで突き放す子供そのものだった。
「優勝おめでとうベニ!すごい!本当にすごいぞ!」
「立派な走りだったわベニちゃん……!」
ジープベニザクラの両親は嬉し泣きをしながらジープベニザクラに飛びつき、ジープベニザクラは困惑した目線をトレーナーに送る。
「ベニちゃんが全国に出るって言うから、一緒に居ても立っても居られなくてお父さんと一緒に来たのよ」
「メイクデビューですよ?しかも実家からここまで一体何kmあると思ってるんですか……?」
「愛しい娘のためなら外国にだって行ってやるさ!しかもこんな立派な姿を見られるなんて、来た甲斐があったというものだ……!」
「ははは、随分両親に愛されてるじゃないか、ベニザクラ」
石原トレーナーは2人の両親に抱きつかれてどうすればいいか悩んでいるジープベニザクラをほほえましく見つめた。
「いえ来てくれるのは嬉しいんですが今後毎回こんなことされるかと思うと……」
「それもそうだな。ご両親。ベニザクラは見事に勝利しましたが、まだここはメイクデビューです」
石原トレーナーはジープベニザクラの両親に向けて階段のジェスチャーを作る。
メイクデビューから始まり、Pre-OP,OP,G3,G2と階段を駆け上がるジェスチャーをして。
5個目の段差でジェスチャーを止めた。
「今後はG1に向けて調整を行います。日本で数えられるほどしか手にできない称号をベニザクラが手にするまで、涙は取っておいてください」
「おお……!本当に、うちのベニがそんなところまで……!」
ジープベニザクラの両親は嬉しさと信じられなさに震えながらも、石原トレーナーへお願い致します、と深々としたお辞儀ををした。
後日。
トレーナー室で、石原トレーナーは録画されたメイクデビューを見返しながら、今後の予定を立てていた。
「既にベニザクラの走り方は完成に近い……」
石原トレーナーは満足げに画面越しのジープベニザクラに見入りながらつぶやく。
メイクデビューでジープベニザクラが危なげなく勝利した要因は何も根性が100%ではない。
人間のプロスポーツ選手もそうであるように、ウマ娘も能力が一気に成長し、大活躍できる時期が存在する。
ウマ娘スポーツ学では本格化、などと呼ばれることもあり、その時期がいつ来るかはウマ娘によって異なる。
人間と違うのは、ウマ娘のそういった開花の時期はとても短いこと。
その短い時期を適切に見極め、どこまで成長させられるかどうかはトレーナーの手腕が問われるところだろう。
石原トレーナーがジープベニザクラのメイクデビューを繰り返し再生していたのはその本格化がいつ頃になりそうかを見極めるため。
さて、石原トレーナーがレースを見て出した結論は。
「限界を100だとしたら既に70、80は出来上がっているとみて良い。かなりの早熟タイプだな」
晩成型のウマ娘ならばこの時点だと限界値の半分も出せてないことが多い。
早い段階から自分のレーススタイルをほぼ完成させていたことが、ジープベニザクラのメイクデビューでの勝因の1つだろう。
石原トレーナーは、ジープベニザクラの本格化はまもなく、あるいは既に来ているのではないかと踏んだ。
その答えを元に今後のレースプランを考える。
早熟タイプであることは何もメリットばかりではない。
本格化によって能力が開花した時期を過ぎれば、晩成型が輝きだし始める一方、早熟型は衰えていく他ない。
メイクデビューに勝ったからと言って一休みはしていられない。
今だからこそどんどんとレースに出て経験を積み重ねていかなければならない。
石原トレーナーは、ジュニア級に開催されるレースの一覧から、2つに丸をつけた。
10月に開催されるPre-OPのプラタナス賞。
そして、12月に開催される。
G1、全日本ジュニア優駿。