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トレーナー2人が見守る中、ジープベニザクラはスタンディングスタートの姿勢を取る。
そして今から走りだそうとしたその瞬間。
「あ、あのっ!ジープベニザクラさん!」
後ろから気弱そうな子な声でジープベニザクラに話しかけてきた。
「はい?」
ジープベニザクラが振り向くと、そこにいたのはメティキュラスだった。
もちろん、ジープベニザクラも心の中で「(すごいピンク色の人ですね……)」と思ったことは言うまでもない。
「あの、メティキュラスです!メティって呼んでください!それで、えっと……」
なんとか勇気を振り絞るように、メティキュラスは自己紹介をすると。
「い、一緒に走っても……構いませんか……?」
メティキュラスはジープベニザクラの隣を指さした。
ジープベニザクラはそれに対し、最初はきょとんとした顔をする。
別に自分は怒っているわけでもないのに、メティキュラスはかなり申し訳なさそうに話してくる。
しかし、すぐにメティキュラスが指さした自分の隣を、ジープベニザクラは自分の手でも指した。
「ええ、喜んで。それとベニザクラでいいですよ」
特に断る理由はない、むしろ一緒に競い合えるウマ娘が来てくれるなら大歓迎だ。
併走を快く承諾してくれたジープベニザクラに、メティキュラスは深々と頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!後ろをついていきますので!」
「特に希望はありませんよ。自由に走りますからついてくるなり追い抜くなりメティさんもご自由に」
そうして、ジープベニザクラが走り出したダート1600mを、メティキュラスが後ろから追いかけるように走りだした。
「メティキュラスの脚質は差し、いや追込でもやれそうだな」
「ベニザクラさんが先行1本なのに対し、脚質を選べるのはメティの大きな武器になると思います」
「そうとも限らんぞ。ベニザクラの走りはワンパターンが故にやればやるほど洗練されるものだ」
ジープベニザクラとメティキュラスの併走を見ながら、打出トレーナーと石原トレーナーは意見を交わしていく。
数年後、打出トレーナーはガルディアコダンというダート界で名をはせる逃げウマ娘を担当することで"逃げの打出"の異名を賜ることになるのだが。
実は新人トレーナー時代に担当していたメティキュラスは差し・追込ウマ娘であったことを後世で知る者は少ない。
「--ベニザクラさんの次走はどこをお考えで?」
「10月のプラタナス賞を考えている。早いうちから実績を積んで頭角を現させるつもりだ。メティは?」
「思い切りましたね。メティは11月のもちの木賞を挟みます。そこで好走ができれば全日本ジュニア優駿、という計算です」
全日本ジュニア優駿はG1。
それも阪神JF、朝日杯FS、ホープフルSと3種類に分かれる芝と違い、ジュニア級のダートG1はこれ1つしかない。
つまり、今ジュニア級に在籍し、デビューを終えたダートウマ娘の100%がこの場所を狙う。
ただし、出走できる人数は年度にもよるが9~14人とされている。もちろん、登録ウマ娘はその人数を下回ることはない。
そのため、上から総合戦績を比べられ、はみ出てしまえばであれば除外として出走すらできずに蹴り落される厳しい世界だ。
そして、確実に除外されないための1つの指標として挙げられるのが"2勝"だ。
メイクデビューで1勝、そして6つしか存在しないPre-OPで1勝を挙げれば総合戦績は最低でも6位になることが確定するからだ。
「よし、なら全日本ジュニア優駿の出走表を見るのを楽しみにしておこう、メティの名を」
「僕もベニザクラさんの名前と2勝を探しま……いえ、そこまできたなら探す必要はありませんね」
「そうだな。何よりもデカく書かれるからな」