ーーー27ーーー
「うおっっ!?」
石原トレーナーは自分のトレーナー室の扉を開けた瞬間、驚愕の表情で後ずさった。
無理もない、誰もいないと思っていたトレーナー室に。
なんと、寝間着のジープベニザクラが床で倒れていたのを発見したのなら驚愕の表情で後ずさりもするだろう。
「だ、大丈夫かベニザク……ラ……?」
緊急事態かと焦り、思わず駆け寄った石原トレーナーだったが。
近づいてみれば、ジープベニザクラは床に転がった状態で寝息を立てているだけだった。
どうやら、倒れたのではなく、寝ているだけらしい。
「だ、大事ではなかったか……いやそれにしてもなんでこんなところで……?」
とりあえず一安心した石原トレーナーだったが、トレーナー室の床でジープベニザクラが転がっている疑問は何一つ解決していない。
トレーナー室にはソファも椅子もあるというのに。
そもそもジープベニザクラが過ごす栗東寮は午後10時消灯だ。
午後9時に寮にいないのならまもなく行方不明扱いになって大騒ぎになりかねない。
「お、おいベニザクラ……?大丈夫か……?」
疑問は尽きないが、とりあえず放っておくわけにはいかない。
石原トレーナーはスヤスヤ安眠中のジープベニザクラを揺すって起こす。
揺すられたジープベニザクラは寝ぼけまなこな目をうっすら開けると。
「……あー、トレーナーさん……おはようございます?」
寝ぼけた声で石原トレーナーに返事した。
「まだ夜だが。いやそんなことよりなぜ俺のトレーナー室の床で寝ている!?」
状況が飲み込めていなさそうなジープベニザクラだが、石原トレーナーのほうがよっぽど状況が呑み込めない。
ジープベニザクラは目をこすってどうにか起き上がると。
「自分のベッドで寝るのも飽きてきましたので、気分転換にと思いまして。ルームメイトさんに書き置きしてお邪魔させていただいてますー」
「ああ、そういうことか……いや待て」
外泊届を出せば消灯時間を過ぎても戻る必要はない。
気分転換でここのソファにでも寝に来たのだろう、と聞いて納得しかけた石原トレーナーだったが。
「2つあるし寝るならせめてソファで寝てくれ。最初死んでいたのかと思ったぞ……」
呆れたツッコミをしながら、石原トレーナーは部屋のソファを指さした。
「床のほうがひんやりしてて気持ちいいのでこっちがいいです。おやすみなさい」
「あ、おいちょっと……」
相変わらず状況が呑み込めない石原トレーナーを横目に、ジープベニザクラはネコよろしくまた床に横になった。
どうすればいいか数秒固まる石原トレーナー。
いくらなんでも年頃の女の子を地べたに寝かせて放置はいろんな意味でまずい気がする。
ソファに運んであげようかと思ったが、床がいいとさっき言われたばかり。
親切心で運ぼうとしたら逆に機嫌を悪くするに違いない。
「(……わがままな変わり者とはよく言ったものだ)」
スカウト時に言われた言葉を思い出し、石原トレーナーは頭をかいた。
そのまま放置してもよさそうだが、石原トレーナーはせめて薄い毛布だけを上からかけてあげた後。
自分のスマホから栗東寮の寮長ことフジキセキの番号をえらんで電話をかける。
「石原だ。すまん、ちょっといいか」
「おや、キミは。今はベニちゃんのトレーナーさんだったかな?何だい?」
「そのベニちゃんが今俺の部屋にいる。ここで寝たいと言って聞かんのだが構わないか?」
「あはは、困ったポニーちゃんだなぁ。いいでしょう。キミほどのトレーナーさんなら信頼できるしね」