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時間というものは思いのほか早く過ぎるものでもう12月となった。
石原トレーナーは机に置いてあった全日本ジュニア優駿の出走表を眺める。
3枠5番、ジープベニザクラ。2戦2勝。
前走:プラタナス賞:1着 前々走:メイクデビュー:1着
そして、メティキュラスの名を探すと。
5枠10番:メティキュラス。4戦2勝。
前走:もちの木賞:1着 前々走:未勝利戦:1着
どうやら、メイクデビューからストレートに2連勝したわけではないらしい。
それでも芝で失敗し、ダートで再出発したメティキュラスと新人トレーナーたる打出トレーナーのコンビからしたら、上々の戦績と言えるだろう。
「それに、メイクデビューの時にどうだったかじゃない。今の強さが問われるんだ」
そう独り言をつぶやいて、石原トレーナーは川崎レース場へと向かった。
全日本ジュニア優駿はどのダートウマ娘にとっても初のG1。
つまり、どのダートウマ娘にとってもG1のみで着ることのできる勝負服も初お披露目となる。
そして、控室で着替え終わったジープベニザクラの勝負服は。
一言で言えば、シンプルな気品があった。
ベースになっているのは膝と同じくらいの長さの黒いワンピース。袖口はフリルになっている。
腰にはベルトのように赤いリボンが結び付けられている。
首元には赤いアスコットタイが結ばれており、タイの部分に赤いブローチが取り付けられている。
また、手袋も同じく黒色で袖口が赤。
いかにもメインカラーはブラック、サブカラーはレッドな勝負服。
赤目、赤いアクセサリー、そして"ベニザクラ"の名前通り、アクセントの赤色とシックな黒色のカラーリングがよく似合っている。
「……ダートにしては、やたら品がいいな、とか思いませんでした?」
勝負服を石原トレーナーに見せたジープベニザクラは少し試すような質問を投げる。
とは言うが、別にダートウマ娘だから勝負服は美しくあってはならない、なんてルールがあるわけではない。
可愛い・美しい勝負服で走るダートウマ娘も珍しくはない。
だが、そういう勝負服で来たウマ娘はこういわれることも少なくない。
「テメェ、ダート舐めてんのか?」と。
過酷な場所にいる、どうせ砂で汚れるのだから、オシャレなど捨てろ。
機能性のみを追求してこそ、勝利が得られるのだ。
そんな規定はないが、そんな暗黙のステレオタイプというのはどうにも出来上がってくるものらしい。
「正直、俺も思った。だが、"わざと"だろう?」
石原トレーナーは思ったことを正直に述べた。
もちろん、単に自分が着たい服装がこれだった、というのが1番の理由だろうが。
G1に出るようなウマ娘は何かしら勝負服に強い思い入れや伝えたい事をデザインとして取り入れる。
多くのG1ウマ娘を見てきた石原トレーナーだ。
この勝負服にはどんな想いや願いを込めたのかはだいたい察しが付く。
ジープベニザクラはあえてダート舐めてんのか、と言われたくてこういう服装にした、と石原トレーナーは踏んだ。
「ええ。察しが良くて助かります」