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全日本ジュニア優駿は1000m地点を通過し、残りは600mとなった。
順位はジープベニザクラが変わらず3位。メティキュラスは1つ上げて8位となった。
「1000mを通過しました、タイム59.9。先頭変わりません」
「先行勢が前を狙っている、ジープベニザクラどう仕掛けるか」
ジープベニザクラの前には2人の逃げウマ娘がいるが、かなりのハイペースを作っただけ会って息を切らしているのが分かる。
タイミングさえ間違わなければ出し抜けるだろう。
メティキュラスがレース前にジープベニザクラに、慣れない怒号でケンカを吹っ掛けたのは、ジープベニザクラに対する威嚇でもあったのだが。
残念ながら、ジープベニザクラは散歩気分でG1に来るような超絶図太いウマ娘。
怒号程度で委縮するわけがない。
その様子を後ろ4バ身体ほど離れて眺めていたのがメティキュラス。
後ろから見ていてもジープベニザクラがどういう作戦を立てているかはなんとなくメティキュラスにもわかる。
そして。
「ベニザクラさんなら、しくじったりしない……」
メティキュラスはボソッと独り言をつぶやいた。
ジープベニザクラなら慌てて狙いを外すことはあり得ないし、万が一狙いを外しても強引に狙い通りになるようにするだろう。
また、ジープベニザクラは自分のことをあんまり才能がない、と言ったが。
メティキュラス自身はそのジープベニザクラ以下である自覚があった。
真っ向勝負をしたいが勝ち目はない。
この場で妙案を思いつくような頭もメティキュラスにはない。
「だったら……!ヒントはちょうど目の前にあります……!」
「ベニザクラさんのように、"強引に出し抜いてやるんです!!"」
メティキュラスは、脚に思いっきり力を込め、急加速した。
わずか2,3秒の間にに2人のウマ娘を追い抜いて6位へと浮上する。
まさにジープベニザクラがやっている"強引な"レースそのものだった。
「ここで仕掛けたのはメティキュラス!前を狙うか!」
この地点で、メティキュラスは一気にスパートをかけた。
その急加速ぶりに石原トレーナーは1つ気づいたことがある。
「む、ロングスパート……いや違う!」
通常のレースであれば残り400mくらいから加速するのがセオリーだ。
ただし残り600mで速度を上げ始める場合、"ゆっくりと"速度を上げ続けるロングスパートという特殊戦法が差し・追込ウマ娘にはある。
だが、今のメティキュラスのスパートは"急加速"。
残り600m地点でやる仕掛け方としては明らかなミスだ。
「あの走り方では途中でスタミナを切らすぞ!なぜあんなやり方を」
「"わざと"でしょうね。石原さん、あなたなら分かっていただけると思いますが?」
打出トレーナーはなぜメティキュラスが失策かのような戦法を取ったかが分かった。
ジープベニザクラに正攻法では通用しない。小手先も通用しない。
ならば。
"奇策"しかあるまい。
メティキュラスの急加速は、普通の差しウマ娘はやらない。
だからこそ、普通じゃない走り方で、一発逆転を狙いに行ったのだ。
「それで勝てるかって言われりゃノーです。勝算は……20%、いや30%くらいでしょうか?」
打出トレーナーは指で2を作り、3を作り。
そして、その3を石原トレーナーに突きつけた。
「ま、何%でもいいです。0%の正攻法よりマシでしょう」
「ベニザクラさんは強い。だからこそ、みっともない手を使って、メティは勝ちに行ったんです」
石原トレーナーは打出トレーナーに3を突きつけられたまま、縮まるジープベニザクラとメティキュラスの差を険しい目で見ていた。