でも噛ませ犬でもない。
強くないなら強くないなりに、どうやって勝つかを考えています。
ーーー34ーーー
メティキュラスとジープベニザクラの差は4バ身、10mほど空いていた。
そこにメティキュラスが思いもよらぬところで急加速を始めたことで、その差は一気に縮まる。
10m、9m、8m、7m、6m......!
「残り400、4コーナー間もなく終わって最終直線!」
そこまで来たところで実況が全日本ジュニア優駿の最後の見どころを宣言した。
残り5.6m、バ身差にして2と1/4。
そこで、差が縮まる速度が鈍化した。
ジープベニザクラ含めすべてのウマ娘がラストスパートの姿勢を取ったからだ。
「ハァッ……!ッハァ……!」
しかも、その時点のメティキュラスはかなり息を上げて消耗していた。
当たり前だ。
本来今からラストスパートを始めるところを前借りでしていたのだから。
差しウマ娘は今からが本番のはずだが、今のメティキュラスは息の苦しさでいっぱいいっぱいで、思うように足の回転を上げられない。
こんなやり方は周りから見れば奇策というより"明らかなミス"なのだ。
そんなの、メティキュラスだって分かっていた。
「ッ、それでも……!」
メティキュラスはまだ残り2バ身以上先にいるジープベニザクラを睨みつける。
相変わらず、全てが思い通りに進んでいるかのような余裕を見せ、ジープベニザクラは平然と前を狙っている。
「あなたに勝つには、こんな方法しかないんです……!」
メティキュラスは歯を食いしばった。
ただセオリーからわざと外れたことをやった。それだけならただ明らかなミスで自爆して終わっただけの、ただのバカだ。
このわざと外れたことを、"策"にするためには。
「限界超えて、特攻(ブッコ)むしか!!」
メティキュラスは自分の気持ちに鞭を入れて脚をさらに踏み込んだ。
その殺意すら感じられる鬼気迫る表情だけを見た者は誰もが「メティキュラスは気弱だ」などと誰も思わないだろう。
「順位を上げて4位に浮上したメティキュラス、ゴールまで前をとらえられるか!」
ジープベニザクラとの差は再び縮まり始める。
5.0m、4.2m、3.8m、3.4m、3.2m……!
残り3.1m。
バ身差にして1と1/4!
残りは最終直線を残して300m。
ジープベニザクラは先行に対してメティキュラスは1ランク上の差し。
このペースなら追い抜ける!
「行け!気合だメティー!!」
打出トレーナーからの応援を受け、メティキュラスは失速することなく、加速を続けてゴールへと向かった。
「--限界を超えようとしているのは」
「あなただけだと思いましたか?」