ーーー36ーーー
「……何ですか」
引っ張り上げられたメティキュラスは少し不機嫌そうに返事をこぼした。
「何ですかって、私を呼んだじゃないですか」
何を当たり前のことを?といった表情をするジープベニザクラ。
「(……やっぱり!)」
今も飄々とした声で話しかけるジープベニザクラにカチンときたメティキュラス。
この際はっきり言ってやることにした。
どうしてそんなに簡単そうに勝てるんですか!?私は、こんなに苦労しているのに!
私が落ちこぼれで、あなたが天才だからなんですか!?
私が何をやってもあなたには追いつけないんですか!?と。
キッとジープベニザクラを睨みつけたメティキュラスは。
言おうとしていた言葉が何1つ出てこなかった。
なぜなら。
ジープベニザクラもまた、肩で激しく息をして、脚もガクガク震えていて。
顔は汗と砂埃でぐちゃぐちゃで。
とてつもなく苦しそうな表情をしていた。
おかしい。観客席で見せた顔は余裕そうな顔で微笑んでいた。
こんなに倒れそうな様子じゃなかった。
「……今、辛いんですか」
言いたかったはずの言葉を全て消去して、メティキュラスは小さくつぶやいた。
「当ったり前です……あなたを、突き放したんですよ……」
ジープベニザクラは息切れ状態の1分前のメティキュラスのように辛そうな返事をした。
つまり、先ほどまでの表情とお辞儀は、倒れそうなほどの苦しさを必死に抑え込んで。
作り笑いで余裕ぶりを装っていたということになる。
例えるなら、マラソンを走り終えた後に息を止めていたようなものだ。
言葉にできないほど、凄まじい気力がなければできない所業と言える。
「……なら、どうして。今、苦しそうにしてるんですか」
では、なぜメティキュラスに対しては、作り笑いを浮かべることをやめたのだろうか。
「メティさんに、する必要ないじゃないですか……」
なぜなら、同じ距離を走って、勝負したライバルだから。
このキツさ、辛さ、苦しさ、きっと分かってもらえるはずだから。
メティキュラスはようやく分かったのだ。
ジープベニザクラは、簡単そうに勝ったんじゃない。
限界を超えて、気合と根性で勝とうとしていたメティキュラスをはるかに凌駕する気合と根性で先にゴールしただけ。
その後、簡単そうに勝ったように"装っていただけ"だということを。
ジープベニザクラは天才なだけじゃなく。
自分以上の根気でこの勝利を手にしていたんだ。
「……今回は、私の完敗を認めます」
努力すらも自分より上だった。
そう悟ったメティキュラスはため息をついて軽く項垂れた。
「何を当たり前のことを」
メティキュラスの心境を知ってか知らずか、ジープベニザクラは呆れるように言い放った。